Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第47話 大きい お猿さんは好きですか?

 カルミはまるで(はえ)を追い払うかのように、その背丈にそぐわない大きさのメイスを軽々と振るい、一つ目の大猿(サイラアイモンキー)どもを動かぬ肉塊へと変えていく。

 

 人間の男であるアンコウに(にら)まれて、殺気をぶつけられたとき、表面的にはわからずとも、カルミは内心怯えていた。

 しかし、一つ目の大猿(サイラアイモンキー)に対しては、表も内も平静そのものであり、怯えなど微塵も感じていない。

 

 カルミにとってはいつものこと、毛むくじゃらの肉塊がむこうから転がってきた程度に過ぎない。

 

ドバァンッ!

 いちいち数えていないが、カルミが何匹目かの大猿の頭を砕いた時、

 

バササッ!!

「「ウギィィーッ!」」

 と、また数匹の大猿が森の木のうえから飛び出してきた。

「また、増えた」

 カルミが、かわいらしくつぶやく。

 

 カルミは上から降ってくる大猿をチラリと確認して、まず目の前にいる別の大猿の頭をすばやくカチ割る。

 

ドンッ! 断末魔を発することなく、またカルミを囲む大猿が1匹減った。

 

「「ウキィーッ!」」

 と、カルミの頭の上から聞こえてくる大猿の声が、間近に迫る。

 

 カルミは無言のまま、流れるような自然な動きで、そのサル声のほうに体を向けた。

 

「あっ!」

 次の獲物を見上げたカルミが、わずかに驚きの声を発した。

 

ザシュッ!!バザァンッ!! 

「「ギャアギイィィー!」」

 

 空中で派手に血を噴き出した2匹の一つ目の大猿(サイラアイモンキー)が、カルミに襲いかかることなく、悲鳴をあげながら、ドサン、ドサンと、そのまま地に落ちてきた。

 

 そして、その2匹の大猿とは別の2本の足が、音もなく地に()り立った。

 カルミの目が、その降りてきた2本の足の持ち主である男の顔を捉える。アンコウの顔だ。

 

 地面に降り立ったアンコウの手に持つ剣からは、足元に転がる2匹の大猿の血が伝い落ちていた。

 

 カルミが、そのアンコウを見て驚く。

(すごく強くなってる)

 

 アンコウは、カルミとにらみ合っていたときとは違い、すでに共鳴を発動している。

 カルミは自分が予測していたよりも、アンコウの力が強いことに驚いた。

 しかしカルミは、アンコウの力が増していること以上に、アンコウが自分に襲いかかろうとしていた大猿を斬り殺してくれたことに驚いていた。

 

「……助けてくれた?」

 カルミが、アンコウを見ながらつぶやく。

 

 その驚きは、カルミの心の中で、見ず知らずの人間の男であるアンコウに対する怯えを少し小さくさせていく。

 

 アンコウは、損と得との打算のそろばんをはじいた結果、いまさらながら、カルミに自分は敵じゃありませんよ アピールをすることにした。

 アンコウは、少し不思議そうな表情を見せるカルミをちらりと見て、わざとらしくニコリと笑う。

 

 もうすでにカルミを取り囲んでいる大猿の数も少ない。

 現在のカルミの状況は、別にピンチでもなんでもなく、それはアンコウもカルミ自身もわかっていることだ。

 しかしアンコウはわざわざ戦いに割って入り、カルミに襲いかかろうとしていた大猿を斬ってみせた。

 

 そう、文字どおりカルミに襲いかかる大猿を『自分が斬り殺すところ』を、カルミに『見せた』のだ。

 そしてアンコウは、

「大丈夫か!助けに来たぞ!」

 と、わざとらしく大きな声で、カルミにむかって(のたま)わった。

 

 アンコウとしては、いま自分がとったわざとらしい行動だけでは、この得体の知れない子供のような者に対して、さほどの好感度上昇効果があるとは思っていない。

 また、このチビアフロが自分に対して邪の者なら、元より意味はないと思っている。

 

 これはカルミの反応をうかがうための、とりあえずの様子見の意味も含む行動であり、アンコウはカルミの反応しだいでは、即逃げる心積もりもしていた。

 

 しかし、そのアンコウの言葉を聞いたカルミの目は大きく見開き、アンコウを見るその瞳には、あきらかに喜びの色が浮かんでいた。

 

 アンコウの変身ぶりは、実にわざとらしくしらじらしいものであったし、アンコウの助けなどなくともカルミは一つ目の大猿(サイラアイモンキー)など歯牙にもかけないほど強い。

 しかしカルミの心は、絶賛(ぜっさん)孤独に(さいな)まれ中の6歳の子どもなのだ。

 

 先ほどよりも、はるかに至近距離でカルミを見ているアンコウは、そのカルミの瞳に浮かんだものを見逃さない。

 

(……何だ?喜んでるのかコイツ、……普通の子供みたいな反応しやがって……)

 

 アンコウは、口元に笑みを残しつつも、(いぶか)しげにカルミを見る。アンコウは、ようやくひとつの事実に近づきつつあった。

 アンコウが、そのカルミの反応にわずかに戸惑っていると、

 

「カルミ!!」

 

 カルミが突然アンコウに対して、大きな声で自分の名を名乗った。

 しかし、あまりに脈絡のない突然の名乗りに、アンコウにはその発言の意味がわからない。

 

「えっ!?」

(カルビ?お肉?)

 

 アンコウは一瞬何言ってんだコイツという顔をするが、カルミは名乗りを挙げた次の瞬間、再び動き出していた。

 再びメイスを振るいはじめたカルミは、まわりに残っている大猿どもを先ほどまで以上の勢いで、縦横無尽に叩き潰していく。

 

ドガッ!ドォンッ!ドガッ!………

 

「……………」

 その光景を間近で見ているアンコウの顔が、ぴくぴくと引き()る。

 

 アンコウがこれ以上戦いに加わる必要もなく、襲いかかってきた残りの一つ目の大猿(サイラアイモンキー)どもも、わずかな時間で1匹残らず動かぬ肉塊となった。

 

 地に転がるその大猿どもの肉塊に囲まれて、カルミは表情も変えずに立っている。

 戦い終えたカルミは、手に大猿どもの血が滴るメイスを握ったままで、アンコウのほうを見ていた。

 

 用心深いアンコウは、自分からこれ以上カルミに近づこうはしない。

 しかし、相変わらず頬のあたりが引き攣ってはいるものの、何とか口元に笑みを浮かべて、カルミを見つめている。

 

 アンコウは呼吸を整えながら考えていた。

(大丈夫だ。言葉は通じる。魔物でもない)

 それにさっきは普通の子供のような反応だったと、アンコウは意を決してカルミに話しかけた。

 

「……よう、怪我はないか?」

 

 アンコウは話かけるが、すぐにはカルミの表情に変化はなく、黙ったままアンコウを見ている。

 

「…えっと、大丈夫か?」

 

 アンコウが重ねて尋ねると、アンコウを見るカルミの目が、また大きく見開いてくる。アンコウが自分のことを心配をしてくれているのがうれしいのだ。

 一方、そんなカルミの微妙な変化を観察しているアンコウの額から、汗が伝い落ちる。

 

(……喜んでるん、だよな……何とか言えよこのガキ)

「お、おい、」

 

「カルミ!」

「ま、またか?カルビが何なんだよ」

「カルミっ!!6歳っ!」

「あ……名前か。そ、そうか、カルミか、いい名前だな」

 

 いい名前と言われて、カルミが少し嬉しそうに頷く。そんなカルミを見てアンコウは思う。

 

(コイツ……()()なのか)

 

 カルミの足元に転がる大猿どもを見て、カルミをただの子供とはどうしても思えないアンコウであったが、どうもカルミの持つ雰囲気はメイスを振るっているときとは違う。

 

「……俺はアンコウだ。旅の途中でここにいる」

「アンコウ!」

 

 アンコウは少し首をかしげながらカルミを見る。

(………少し話をしてみるか)

 

 アンコウは警戒を解く気はないものの、少なくともカルミが自分に危害を加える意思はないようだと理解した。

 

 アンコウは、とりあえずカルミは恐ろしく強いが、中身は本当に子供らしいという前提で接することにした。

 これが人の子なら、近くに親か家族がいるはずだと思ったのだ。

 

(普通なら考えにくいが、これだけの強さだ。こいつなら一人でこの魔素の森をうろつかせても何も問題はない。親や家族もそう思うだろう)

 

 アンコウは、この目の前にいるアフロのガキの伝手(つて)で、イサラス山脈を越えるための情報を入手することができるかもしれないと考えた。

 

(子供がこんなところをうろついているんだ。カルミと一緒にいるやつらは、このあたりの情報には詳しいだろう)と。

 

 ただ、危険がありそうならすぐに逃げなければならないと、アンコウは頭の中で考えをまとめる。

 そしてアンコウは、カルミに話しかけた。

 

「えっと、カルミ。お前が住んでる村はこの近くにあるのか?」

「村じゃない。家」

「ん?」

 

 アンコウはどう違うんだと一瞬思うが、アンコウが首を傾げている間に、カルミが1歩、2歩、3歩と、アンコウのほうにむかって近づいてきた。

 カルミの手には、まだ一つ目の大猿(サイラアイモンキー)どもを叩き潰した血が滴り落ちるメイスが握られている。

 

「うぐっ、」

 アンコウは思わずたじろぐが、

(ここでビビッたところを見せたらだめだ)と、何とか後ずさりすることなくその場に踏みとどまる。

 

「家、あっち!」

 カルミは手に持っているメイスで、アンコウのななめ後ろの森のほうを指し示した。

 

 その森は薄いとはいえ魔素の漂う森だ。カルミが死んだ祖父と住んでいた家は、その森の中にあった。

 

 アンコウも、カルミはこの魔素の漂う森に住んでいるのかと理解したが、その驚きとは別の理由で、今、アンコウの手は微かに震えている。

 そのアンコウを見るカルミの口から声が漏れた。

 

「あっ……」

 

 カルミの視線の先で、体をプルプルさせながら立つアンコウ。

 カルミが血まみれのメイスで、勢いよく家がある方向を指し示したために、メイスにたっぷり付いていた大猿の血が派手に飛び散っていた。

 そして、その飛び散った大猿の血がアンコウの顔や体にべったりとついていた。

 

(……こ、こいつ!そりゃこうなるだろうがっ!)

 大猿の臭い血を浴びたアンコウは何とか怒りを抑え、血まみれになった顔を引きつらせながらも笑みを浮かべている。

 

 そのアンコウの状態を見たカルミは、

「ご、ごめんなさい」

 と、申し訳なさそうに謝った。

 

(……へぇ)

 

 アンコウの頭から怒りがスッと引いていく。別にカルミの謝罪を受け入れたからというわけでもない。

 

(素直に謝るのか……)

 

 さっきといい今といい、戦っているときはとんでもないが、カルミの態度はそれ以外のときは完全に普通の子供と変わらないとアンコウはあらためて思う。

 アンコウは、少なくともカルミから邪悪さは感じていない。

 

(……これなら大丈夫か)

 アンコウは、少しカルミに対する警戒心を解いていく。

 アンコウは怒りを消し、やさしくカルミに話しかける。

「……気にするな」

 

 アンコウは顔についた血をぬぐい、手に持つ剣をごく自然な動作で鞘におさめた。

 それを見て、カルミもメイスを不思議な鞘袋におさめた。

 

「……カルミ、家に帰るのか?」

 

 アンコウはカルミに尋ね、カルミは(うなず)く。

 

「もうすぐご飯の時間」

「そうか……。なぁ、カルミ、俺も一緒に行ってもいいか?」

 

 カルミは家を訪ねてきた商人たちに、いつも祖父が食事を用意していたのを思い出した。

 

「アンコウも一緒にご飯食べる?」

「ん?いいのか?」

「うん!」

 

 カルミは、少しうれしそうにまた(うなず)いた。カルミは祖父が死んでから このひと月ほどは、ずっと一人で食事をしていた。

 

 カルミはアンコウに肯定の返事をすると同時に、どこか機嫌良さげに動き出す。

 カルミは、地面に転がっている1匹の一つ目の大猿(サイラアイモンキー)の両足を持ち、軽々と引きずりながら歩きはじめた。

 

(何やってんだ……)

 アンコウは(いぶか)しげな目でカルミを見ている。

 

 カルミは、そのまま大猿をズルズルと引きずりながらアンコウの横をすり抜け、先ほどメイスで指し示した森のほうへと歩いていく。

 

「アンコウ、こっち!」

「え、あ、ああ」

 

 見れば見るほど、なんともシュールな絵だ。

 前を向いて歩く6歳の童女の後ろに、その童女に足を持たれたその童女よりも大きい猿が、仰向けにズルズルと地面を引きずられている。

 

 軽々と童女に引っ張られている大猿の両足の間には、形状自体は人の男と変わらないものの、実に大きなモノがダラリと垂れさがっている。

 この引きずられている魔獣の大猿は、動物でいうところのオスの仕様となっている。

 

(…グロいな)

  アンコウは、自分のモノよりもはるかに大きいムケムケ黒光沢(くろこうたく)のそれを見て思う。

 

 両手を上に顔は空にむけたまま、軽々と童女に引きずられていく一つ目の大猿(サイラアイモンキー)の口は大きく開き、目は白目を剥いている。

 その大猿の顔には、あきらかな死相が浮かんでいる。だって死んでいるのだもの。

 

 アンコウは何ともいえない目で、その様子を眺めている。

「……………」

 

 大猿の背丈は、おそらくアンコウとそう大きくは変わらない。

 目がひとつしかなく、顔と分厚い筋肉があらわになっている胴体の胸と腹の辺りを除いて、全身が茶色い毛で覆われているが、体のフォルム自体も人間のごっついオッサンと変わらない。

 

 見方によれば、小さい女の子が毛深い全裸のオッサンを引きずっているようにも見える。実際、この世界の獣人と呼ばれる者の中には、全身が毛で覆われている者もいる。

 

 それを見ながら、アンコウの嫌な予感のメーターが振り切れそうになっていた。

 

「……おい、カルミ。それどうするんだ……」

「ごはん!」

「!!!」

 

 やっぱり!いやいやいやいや、待ってくれ! と、アンコウは心の中で叫んだ。

 

 6歳童女が、ワイルドにも程があるだろう。いや、アンコウも一つ目の大猿(サイラアイモンキー)という魔獣が、食べようと思えば、食べられる魔獣であることは知っている。

 

 しかし、(こんなもん食べたくない!)見た目があまりに人間に近すぎるのだ。

 

 アンコウが元いた世界でも猿を食す文化のある地域はあったし、アンコウ自身もこの世界に来てから、飢えに苦しんだ末に相当グロいものも口にしてきた。

 しかし、今のアンコウは特別飢えてるわけじゃない。

 

 食うや飲まずで働かされる奴隷ではなく、迷宮で迷い、食料が尽きた状態でもない以上、アンコウはわざわざこんな毛深いオッサンをさばきたくないし、心の底から食べたくない。

 

 アンコウはこの世界においても、未だ都会派(シチィーボーイ)のようだ。

 

「だ、だめだ!」

 アンコウは思わず叫ぶ!

 

「………どうして?」

 カルミは足を止め、不思議そうに聞く。

「一緒にご飯食べてくれないの?」

 カルミの目が少し悲しそうにアンコウを見る。

 

「い、いや、違う。一緒に行くよ。えっと……そ、そうだ、これ!」

 

 アンコウは(このオッサン猿だけは勘弁してくれ)と、慌てながらウエストバッグのように腰に着けている魔具鞄の中に手を突っ込んで、

そして、

 これだっ!と言いながら何かを取り出した。

 

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