Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第50話 迷宮迷子

 アンコウは赤鞘の呪いの魔剣を引き抜き、すばやく共鳴を起こす。

 アンコウが感じる限り、目の前にいるタコ足のコウモリ羽の魔獣が、自分の命を脅かすほどの強き魔獣には見えなかったが、アンコウは足を止めたまま自分から仕掛けようとはしない。

 

 あの魔獣は精霊法術を使うかもしれない。あの触手には毒があるかもしれない。もしかしたら、俺が感じている以上に強いのかもしれない

 

 アンコウはさまざまな可能性を考え、剣を構えたまま静止する。

 しかし、そんなアンコウの横から、スタスタと魔獣どもにむかって進み出る者がいた。カルミだ。

 

「おぃっ……。」

 アンコウは思わずカルミを呼び止めようとするが、とっさに口をつぐむ。

(……あのガキは、まちがいなく俺よりも強い)

 

 カルミはすでに自慢の大きなメイスを手に持ち、まちがいなく目の前にいる魔獣どもとやるつもりだ。

 魔素の森で生きてきたカルミにとって、魔獣が現れれば戦うのみなのである。

 

(……あいつが戦ってくれるのならありがたい話だ。万が一あのガキが死んでも俺が死ぬわけじゃない)

 

 保身のための最善の選択として、ここは様子見を決め込むことを瞬時に決めたアンコウだが、この迷宮に落ちてきた経緯のこともあり、この先迷宮を無事脱出する前には、カルミから決定的な悪感情を持たれるリスクは避けなければならないとも考えた。  

 そして、

 

「カルミ!」

 と、アンコウは前を歩いていくカルミを呼び止めた。

 

 敵を前にカルミは足を止め、頭だけをわずかにアンコウのほうに動かす。

 

「なに?」

「背中は俺に任せろっ!ふたりで戦えば、こんなやつら敵じゃない」

 

 いつもどおりに、ただ目の前に現れた魔獣と戦うつもりだったカルミ。

 

「ふたりでたたかう……」

 

 アンコウにそう声をかけられて、カルミはこの迷宮に来る前、アルマの森で自分に襲いかかってきた一つ目の大猿(サイラアイモンキー)をアンコウが斬り倒してくれたシーンを思い出す。

 あの時カルミは、それはそれはうれしかったのだ。

 

「うん!わかった!アンコウ!ふたりでたたかう!」

 カルミは元気良くそう言うと、また前を向いて弾むように歩き出す。

 

 それを見てニヤリとほくそ笑むアンコウ。カルミの後ろにも、アンコウの後ろにも敵はいやしない。敵は前にだけいるのだから。

 

 カルミは小さい背丈に似合わない大きなメイスを頭上に掲げ、勢いよく走り出す。

 それを見て、「「キィーッ、キィーッ!」」 と魔獣どもが耳障りな鳴き声を発する。

 

(戦うことにためらいなしか。子どもは怖いね)

 

 アンコウも一定の距離は開けつつも、走り出したカルミについて走る。

 あまりカルミとの距離を開けすぎると、羽持ちの魔獣どもが二分し、自分のほうにも襲いかかってくる可能性が高くなると思ったからだ。

 

「つっ!何だあれはっ!」

 走るアンコウが、魔獣どもの方を見ながら声をあげた。

 

 カルミを攻撃目標に定めたタコ足コウモリ羽の魔獣が、(うごめ)く複数のタコ足をねじる様にひとつにまとめあげ、そしてその纏めた足の先に、仄かに白い光を発する球をつくり出していた。

 タコ足コウモリ羽の魔獣は、間髪入れずにその光球をカルミに目がけて発射する。

 

ボシュッ!ドンッ!

 仄白光球は、カルミの足元に着弾。

 

 小石や土が舞いあがった。しかし、カルミにはかすりもしていない。

 カルミは余裕を持って、その仄白光球を避けて見せた。

 

 アンコウは今見た情報をすばやくインプットする。

(精霊法術……ではないな)

 タコ足コウモリ羽の魔獣が、生み出して見せた仄白光球には、精霊力は感じられなかった。破壊力もさほどのものでもない。

(気弾の一種か)

 

 しかし、その光の気弾を避けて見せたカルミの体さばきはすばらしかったなとアンコウはおもわず感心する。

 そのカルミは魔獣の突然の気弾による攻撃を受けても、足を止めるどころか、一気に魔獣との距離をつめていた。

 

(あのガキっ、早いっ)

 

ドンッ!!

「プギイィッ!」

 

 最も近くにいたタコ足コウモリ羽の魔獣が一匹、カルミの振り落としたメイスによって、あっけなく叩き潰され地に落ちる。

 

「「「ギイイィィーッ!ギイイィィーッ!」」」

 

 それを見た残りのタコ足コウモリ羽の魔獣の魔獣どもがいっせいに騒ぎ始める。

 

 そして、その残り4体すべての魔獣どものタコ足の先に、次々と同じく仄白光球が現れた。

 タコ足コウモリ羽の魔獣を一匹叩き潰したあと、動くことなくその場に立っていたカルミにむかって、今度は複数の仄白光球が打ち出されていく。

 

 ボシュッ!ボ、ボシュッ!ボ、ボシュッ!ボシュッ!

 

 カルミは無駄のない動きで、まるでその場でステップでも踏むかのように、次々と飛んでくる気弾を華麗にかわす。

 

 それはギリギリでかわしているかのようにも見えるが、カルミがその気弾による攻撃を完璧に見切っているからこそできる技だと、アンコウはパワーだけでないカルミの力量にあらためて舌を巻く。

 

「あ、あいつ、ほんとに凄いな。何てガキだぁ…あぃぃいいっ!?」

 突然慌てだしたアンコウ。

 

 迷宮では油断大敵、ましてや戦闘中だ。カルミがナイスステップでかわしているいくつかの仄白光球の気弾が、後ろにいるアンコウのほうに飛んできたのだ。

 

ビュンッ!ドンッ!

「いやあぁーっ!」

ビュンッ!ドンッ!

 

……アンコウもなんとかギリギリで2発の気弾をかわしてみせた。

 ただし、完全に油断していたアンコウのステップには、余裕もなければ、華麗さの欠片もない。

 

「クッやばっ……カ、カルミっ!!」

 

 気弾が当たりかけたアンコウは、思わず瞬間的な怒りにまかせて怒声をあげた。

 しかし、怒声をあげた瞬間、アンコウは (しまった) と思う。ここでアンコウがカルミを怒鳴りつけていい理由もなければメリットもない。

 

 戦闘中のカルミは振り向きはしないが、アンコウの声は聞こえているし、続く言葉を待ち受けてもいるだろう。

「チッ」 アンコウは心の中でどうしたものかと思い、舌打ちを発した。

 

「…カルミっ、…ゆ、油断大敵だっ!変な余裕は怪我の元!た、叩き落せる気弾は全部自慢のメイスで叩き落とせっ!」

 

 考える時間の余裕がなかったアンコウは、訳のわからない謎アドバイスをカルミに贈る。

しかし、

「うんっ!わかったアンコウ!」

 カルミは内容は関係なく、アドバイスしてもらえたこと自体がうれしかったらしい。

 

「お、おう」

 アンコウ、ほっと一息。

 

 カルミの背は130センチほど、小さい。

 アンコウはカルミの背後、少し離れたところで身を屈め、戦況を見守る。

 

 タコ足コウモリ羽どもは断続的に気弾を放っているが、

ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!

 今度はそれをカルミが、ひとつ残らず叩き潰す。

ボンッ!ボンッ!ボンッ!

 

「ふぅむ、やっぱりアイツらたいした強さじゃないな」

 少し離れたところでアンコウはひとりごちる。

 

 そして、しばし足を止めて魔獣どもの攻撃をしのいでいたカルミが、再び攻撃に転じた。

 

「やああぁぁーっ!」

ボゴオォォンッ!

「「「ギイイィィーッ!」」」

 

 カルミのメイスに薙ぎはらわれて、また一体、タコ足コウモリ羽が吹き飛ばされる。吹き飛ばされたタコ足コウモリ羽は、一直線に横の岩壁にたたきつけられ、

メチイィィッ!! という破裂音を立てながらペシャンコになり、岩壁にへばりついた。

 

「「ギイィィッ!ギイィィッ!」」

 

 それを見た残りの魔獣どもは、耳障りな鳴き声を発しながら、さらにカルミに気弾を打ち込んでいく。

 

 ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボンッ!ボンッ!

 

 すでに攻撃態勢に転じているカルミは、さすがにそれらの気弾をメイスで叩き落すようなことはせず、一部は華麗なステップでかわしながら敵にむかって前に進む。

 

 そのカルミにかわされた気弾が、アンコウのほうに飛んでくる。しかし、今度はアンコウも油断をしていない。

 

「よっっと!!」

 アンコウはカルミの背後で、カルミが避けた気弾を余裕を持ってかわす。

 

「よしっ!カルミっ、うしろは任せろっ!いけえっっ!」

 

 アンコウが大声でカルミに檄を飛ばす。うしろは任せろというが、今も敵は前にしかいない。

 その激に答えるようにカルミはメイスを振るう。

 

ボゴオォンッ!バガアァンッ!ドゴオォンッ!

 

そして、タコ足コウモリ羽の魔物どもは、すべてカルミのメイスの餌食となった。

 

――――

 

「カルミよくやったな」

 アンコウがカルミに近づいて褒める。

「次もこの感じでいこう。お前が前衛で、俺が後衛だ」

 

 カルミは、素直に「ウン」と(うなず)いた。

 

(とにかく、ここから一刻も早く出ないと。こうなった以上、俺が無事に地上に出るためにはカルミの力は有用だ)

「カルミ。俺とお前はいいコンビになれそうだ」

「うんっ、アンコウ!」

 

 あちこちに散らばる魔物の死体を見て、アンコウは内心少し首を傾げる。

 カルミの父親が妖精種であるドワーフであることは、カルミ本人からも聞いていたし、カルミの外見にもその遺伝的影響は見てとれる。

ただ、

(いくら馬鹿力のドワーフの血が半分入っているからといっても、カルミの年でこれはちょっと強すぎるだろ)

 と、アンコウは思う。

 

(………まぁ、使える道具は性能が良いにこしたことはないか。どうせここを出るまでの短い付き合いだ)

 

 そして魔物の死体の確認を終えたアンコウとカルミの二人は、巨大な魔物が大きく口を広げているかのような迷宮の空間を再び歩き始めた。

 

「よし!カルミ。とっととこんなところからは出るぞ」

「うん!」

 

 

 

 

 迷宮と呼ばれる空間は概して広大で、基本的には下層にいけばいくほど魔素の濃度は濃くなる。

 しかし、より具体的に言うと迷宮内の魔素の濃度の有様(ありよう)はさまざまで、同一階層であっても濃薄の差があったり、場所によっては迷宮内であっても、魔素に覆われていないゾーンさえある。

 

「おーっ、アンコウこれおいしいね」

「……ああ、そうだな」

 

 今、アンコウとカルミは比較的魔素の薄い場所に陣取り、食事をとっている。火をおこし、肉を放り込み、温かい肉スープを食している。

 魔素が薄いのに加え、魔物の避けの魔具を起動させ、周囲の警戒も怠らず、アンコウは十分な備えをして、束の間の休息を取っている。

 

 おいしいスープを食べているカルミの表情は比較的明るい。それに対してアンコウは、手早く肉スープをおなかに流し込みながらも、その表情は険しい。

 実は、今現在アンコウたちがこの迷宮に落ちてきてから、すでに丸2日が過ぎていた。

 

(クソッ、何だこの迷宮は)

 アンコウは相当焦っていた。

(丸2日も寝る間も惜しんで歩き続けたってのにっ)

 

 そう、アンコウたちは未だ迷宮の中にいる。しかもアンコウたちは、この迷宮に落ちてきたときと同じ階層いた。

(上層に続く道がひとつも見つからねぇっ)

 

 上層へ行く道は見つからないが、下層へと降りる道はあった。

 アンコウは、今いる階層自体が行き止まりの階層で、いったん下に降りて、別の上層道を進めば、外に続く道があるのではないかという可能性を考えてはいる。

 

 しかし、これだけ広大な空間を有する階層に上層道がひとつも見つからないなんてことは、アンコウの持つ迷宮に関する常識からして異常としか言いようがなかった。

 

(下層に続く道はいくつもあったんだ)

 

 アンコウたちは下層に続く道を見つけてはいても、まだ一度も下には降りていない。それでも、下層に完全に降りてはいなくても、当然多少様子をさぐる程度のことはしている。

 その結果わかったことは、

 

(この下の層は、魔素の濃さがいきなり跳ねあがっている)

 ひとつでも下の層に降りれば、魔獣の強さも跳ねあがることは確実だ。

(リスクがでかい……だけど、このままじゃ(らち)があかない……)

 

 岩の上に腰掛けているアンコウのひざが、細かく震えている。

 

(だけど、この下はヤバイんだ。くそっ、これだけ広大な階層で下に降りる道はいくつもあるのにっ。普通あるだろ上に行く道もっ………)

 

 そしてアンコウは、この状況から導き出される最悪の予測を考え、恐怖を覚えはじめる。

 

(……まさかこの迷宮、外に出る道がないんじゃないのか………?)

 

「……ア、アハハ。ま、まさかな」

「ん?アンコウ、どうかした?」

「い、いや。早く飯をすませて。外に出る出口を探しにいこう」

「うんっ、わかった!」

 

 ゴクゴク、モグモグと、カルミが勢いよく肉スープを飲み干していく。

 

「ングング、でもアンコウ」

「ん?何だ、カルミ?」

「ゴクンッ、ここって上にいく道どこにもないんじゃないのかなぁ」

 

 その言葉の意味の重大性をいまいち認識していないカルミが、ものを食べながら普通の口調で言った。

 

「あ、あるっ!!」

 

 アンコウは内心、なんてことを言うんだこのガキ、それは思っても口にしたらだめだろと思いながら、叫ぶように断言する。しかし、そのアンコウの目は泳いでいた。

 

「ふーん。そっか」

 

 カルミには、アンコウが感じている不安や恐れは伝わっていないようだ。カルミはそれ以上おしゃべりを続けることなく、また肉スープをほおばりはじめた。

 しかし、しばらくすると頬を膨らませながら肉を咀嚼していたカルミの動きが突然止まった。

 

「!!」

 

 再び頭の中で考え事を始めていたアンコウは、すぐにはそのカルミの変化に気づかない。

 

「……アンコウ」

「ん?どうしたカルミ」

 

 アンコウがカルミの方を見ると、すでにカルミは立ち上がっており、自分たちが身を隠している岩の向こう側、迷宮の洞窟の遠くのほうをじっと真剣な表情で見つめていた。

 アンコウは、そのカルミの目が魔獣どもと戦っているときと同じものだと言うことに即気づき、自分も素早く立ち上がり、カルミの視線の先を追う様に見た。

 

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