Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第56話 迷宮地下都市 ワン‐ロン

 ナナーシュたちは、ボルファスが持ってきていた幻扉(ファンポルト)の鍵を使って、ナナーシュが落としたほうの鍵を回収するために、その場から消えた。

 

 アンコウとカルミ、それに数人のドワーフたちが、その場に残っている。

 少し離れてはいるが、アンコウたちがオークと戦ったこの階層にも、ドワーフの古里ワン‐ロンへと通じる固定設置用の空間移転魔具である幻門(ファンゲート)が置かれている場所があるらしい。

 

 アンコウたちも、ナナーシュからアンコウたちを案内するように命令をうけたドワーフたちに先導されて、その隠されたゲートがある場所目指して移動を開始していた。

 

 

 

 

「うおおっ!ここが、ワン‐ロンなのか」

 

 アンコウは、周囲の景色を見渡しながら驚きの声をあげた。

 

 アンコウたちは通行手形代わりの魔具を持つドワーフの先導で、無事幻門(ファンゲート)を見つけ、迷宮からワン-ロンへと到着することができた。

 

(マジかぁ、まさかワン‐ロンに来ることがあるなんて)

 

 アンコウは門を通り抜けたところで立ち止まり、キョロキョロとせわしなく首を動かしている。

 そのドワーフの古里の話は、アンコウも耳にしたことがあった。

 

『ドワーフの玉都・迷宮地下都市ワン‐ロン』

 

 遥か(いにしえ)の昔より、ドワーフ族が居住し造りあげてきたという この大陸で唯一の地下都市。

 本来迷宮であった一層を、古のドワーフが創造した魔工技術により、テラフォーミングを成し遂げて造られた人工都市・ワン‐ロン。

 

 この街は、いわば街自体が一見(いちげん)さんお断りの超老舗のようなもの。誰もが自由に入れる場所ではない。

 アンコウは噂に聞いたことはあっても、そもそも、あまりに自分には無縁の存在であるがゆえに、この街に来ることなど考えたことすらなかった。

 

 アンコウたちは今、端を見ることができないぐらい大きい広場のような場所にいる。

 振り返れば、アンコウたちが出てきた幻門(ファンゲート)が、意図的にであろうが、迷宮側とは違い視認できる形で設置されていた。

 

 アンコウたちがあの迷宮に落ちたとき、森の中にあった池の大岩にカルミが手を触れるまでは、あの空間の揺らぎは出現しなかった。

 迷宮からこの広場に転移する際も、通行手形となる魔具を所有しているドワーフが、迷宮内の何の変哲もない壁に手を触れて初めて、例の空間の揺らぎが現れた。

 

 この広場には厳重な警備が敷かれ、アンコウたちが出てきた門以外にも、大小さまざまないくつもの視認できる幻門(ファンゲート)が設置されており、しかも、それらは単なる空間の揺らぎとして存在しているのではなく、その揺らぎを囲むようにして、実際に荘厳な大きな門も造られていた。

 

(こんなものが、こんなにいくつもあるなんて………)

 

 幻門(ファンゲート)は、両門固定式の遠隔地空間移動の魔具らしい。

 そのどれもが、このワン‐ロンとは離れた場所につながっている。この遠隔地との空間移動を可能にする魔具は、この大陸ではワン‐ロンにしか存在していない。

 

 より正確に言えば、この大掛かりな魔具は、ワン‐ロンと連なる迷宮内での空間移動か、迷宮外に空間移動するときは、必ずこのワン‐ロンを経由しなければ使用することができない。

 つまり、外の世界だけでは利用不可な代物(しろもの)で、ワン‐ロン・ドワーフの秘宝魔術具ともいえるものだ。

 

 アンコウはこれまでに、実際に、このワン‐ロンに行ったことがあるという者と出会ったことすらなかった。

 ワン‐ロンの噂話を耳にしても、アンコウにとってはファンタジーに近いような存在にすぎず、冒険を求めないアンコウのような男にとっては興味の対象にすらならなかった。

 

(まさか俺が、そのワン‐ロンにいるなんてな)

 

 許可のない者が入ることが許されないドワーフの古里、母なる都市、ワン‐ロン。

 そのワン‐ロンに、アンコウたちがこうもあっさり入ることができたのは、ナナーシュがいたからだ。

 落とした幻扉(ファンポルト)の鍵を取りに行ったナナーシュは、今ここにはいない。

 

--------『ワン‐ロンの統治者、ナナーシュ・ド・ワン‐ロンの名において』

 

 迷宮内でナナーシュが言っていたセリフをアンコウは思い出す。

 ワン‐ロンの統治は世襲制ではない。太祖オゴナル以外、すべての後継者が、大精霊様の神託によって決められている。

 ナナーシュは3歳の時にその神託を受け、今はこのワン-ロン・ドワーフの頂点に君臨する正真正銘の統治者だっだ。

 ボルファスら迷宮に駆け付けた者たちは、当然全員がナナーシュの家臣だ。

 

(………ここの全部がナナーシュの支配下にある。お嬢様どころじゃない、女王様じゃねぇか、あいつ)

 

 アンコウは、迷宮の中でナナーシュに対して行った不敬な言動については、自分の中ですでになかったことにしている。

(……うん。何も知らなかったし、仕方がないよな……大丈夫大丈夫……)

 

 

 

 そして、アンコウたちは、あちらこちらをキョロキョロ見渡しながら、かなりの時間をかけて、ようやくこの大きい広場の端まで、歩いて移動してきた。

 

 

「アンコウ、すごいね!おっきい家がいっぱい並んでるよっ」

「ああ、そうだな」

 カルミの驚きの声に、アンコウが答える。

 

 広場の終わり近くまで来ると、ワン-ロンの街そのものが見えてきた。

 広場の向こう側には、びっちりと建物が並んでいるのだが、そのいずれもが、3階、あるいは4階までもあるだろうと推測できる高さのある建築物だった。

 

(大きい街なんだなぁ)

 

 その景色だけで、このワン‐ロンの街が、アンコウがこれまでこの世界で見てきたどの街より、規模が大きいだろうことが推察できる。

 

「どうだ、すごいだろう。ワン‐ロンの街は。ここが俺たちの里だ」

「うんっ!あんなおっきい家、見たことないよ!ミゲルっ」

 

 目をキラキラさせ、素直に驚くカルミを見て、ミゲルは満足そうに、ウンウンと、頷いている。

 

 ミゲルは、アンコウたちをここまで案内してくれたドワーフ戦士の一人。

 ミゲルもドワーフらしく、小柄で筋肉質な男だが、ボルファスと違い髭は蓄えておらず、その容貌も若い。

 

 ドワーフも妖精種、エルフに次ぐこの世界の優勢種族だ。彼らはエルフほどの選民主義思想は持たないものの、それでも種族的に人間を下に見るきらいは大いにある。

 それは、ボルファスや案内をしてくれたドワーフ戦士たちのアンコウに対する態度からも少なからず見てとれた。

 

(このミゲルって男には、あんまりそういうのがないな)

 

 そんな中でも、さっきからアンコウたちにも気安く話しかけてくるこのミゲルというドワーフ戦士は、そういった差別的な優越意識が少ないのか、アンコウも、ほかの者たちと違ってこの男は比較的接しやすいと感じていた。

 

 そして、どうやらここからはミゲルが一人でアンコウたちを案内してくれるらしく、俺について来い と、ミゲルはアンコウたちを促し、広場の外にむかって歩き出した。

 

 

 

 

「うわあぁー、すごいな」

 

 ミゲルの後について歩いていき、アンコウたちは、ある広い通りに足を踏み入れた。

 その通りは右側も左側も、武具・防具・魔道具といった店がずらりと並んでいた。

 

「そうだろう。すごいだろう、アンコウ。この街を初めて訪れた者は、みんなそうやって驚く。しかもだ、この通りに並んでいる店は、すべて工房が併設されていて、自前の品を売り物にしているんだ」

 

「マジかっ!」

 アンコウは本気で驚いていた。

(……さすが魔工の術に長けたドワーフの玉都だな)

 

「この(たぐい)の通りが、このワン‐ロンにはいくつもあるんだ」

「マジかっ!」

 

 アンコウは大きくため息をつく。

 

(考えてみれば、この街自体が隔絶された迷宮の中に造られた人工の街だもんな。見渡す限りのこの空間のすべてが、魔工の術が生み出した作品みたいなもんなんだ………)

 

 そう考えると、このワン‐ロンという街の存在に対して、アンコウの知識も想像力も追いつかなくなり、アンコウの頭ではとてもではないが理解が及ばない。

 

 この街では天を見上げても、そこには空はない。ただ、アンコウたちがさっきまでいた迷宮のような、岩や土がむき出しになっている天井でもない。

 

 天井は遥かに高く、綺麗に成形されているように見える。

 そして、この空間を取り囲んでいる壁のすべてから、やわらかな光が発せられている。そしてその光も、この街の統治者によって管理されていて、夜になれば、その光量が人為的に大きく落とされるという。

 

(………なんて街だよ。ここの魔工の術の発展度合いは異常だな)

 

 アンコウたちは店舗の連なる通りを、ミゲルに先導されて歩いていく。

 

 わあーっ おおーっ すごいーっ カルミが驚きと感嘆の声をあげながら、あっちこっちの店舗のショーウィンドウにへばりつきながら歩いている。

 

(ああ、そうか、あいつの爺さんは、鍛冶打ちや魔具作りなんかをしてたんだったな)

 

 アンコウは、カルミの家で見た景色を思い出す。カルミ自身も魔工の基礎の基礎ぐらいは習得しているようで、こういった類の品々に相当興味があるようだ。

 

「わはははっ、カルミは魔具に興味があるんだな。さすがドワーフの血を引くだけはある」

 ミゲルが、楽しげにカルミの様子を見ながら言う。

「まだ時間もあるしな。よしっ、ちょうどいい、この近くに俺の知り合いの店があるんだ。案内してやるよ」

 

「ほんとにっ!」

 カルミが目を見開き、嬉しそうにミゲルを見上げる。

 

「ああ、その店にも、武器も防具も魔道具も置いてあるぞ」

 

 カルミは、それを聞いて おおーっ と、目を輝かせていた。

 

 アンコウは蚊帳の外で話が進められていくが、周囲に並ぶ店々に強く興味を覚えているのはアンコウも同じだ。

 再び歩き出したミゲルとカルミに、アンコウもおとなしくついていった。

 

 

 

 

「ほぉ、ミゲル。人間に混じり者とは、珍しい客を連れてきたのぉ」

 

 店の奥から出てきた主とおぼしき、白いモノが目立つ髭を蓄えたドワーフの男が言った。

 

 ミゲルがアンコウたちを連れてきた店は、大通りから少し横道に入ったところにある店で、金色の剣と銀色の盾が交差している目立つ看板を掲げている店だった。

 すでに老齢に入っているだろうそのドワーフは、実にアンコウがイメージするドワーフの職人らしい姿かたちをしている。

 

「ああ、親方、この二人はナナーシュ様の客人なんだ」

「………ほう、ナナーシュ様のか」

 

「それで俺がお屋敷まで案内中ってわけだ。まぁ、急いでいるわけでもないからさ。この通りの店に興味があるみたいだったから、ここに連れて来た。少し中を見させてもらってもいいかな」

 

「ああ、好きにしたらいい」

 

 白髭の親方の許可が出て、アンコウとカルミは店の中を見てまわる。

 

(……すげぇな。剣も鎧も、見たことのない一流の魔武具がそろっている)

 

「ほわぁー、アンコウ、すごいねぇ」

「あ、ああ、全部一級品だ。不出来な物がひとつも見当たらない」

 

 アンコウは、これほど一流の品を揃えた この手の店を今までに見たことがなかった。

 

「当たり前だ、アンコウ。この店はな、この界隈(かいわい)でも、ちっと名の知れた職人がそろった店なんだよ。不出来な物なんてあるわけねぇよ」

 なぜかミゲルが、胸を張って自慢げに言う。

 

「……ミゲル、何であんたが威張ってんだ」

「チッ、何だアンコウ、ここに案内してやったのは俺だろ?俺様御用達の店だ」

 

「あははっ、ミゲル面白い」

 カルミの楽しげな笑い声が、店の中に響く。

 

 

 

「………おい、そこの人間」

 

 それまで黙ってアンコウたちを眺めていた白髭の親方が、ふいに声をかけてきた。

 

「………俺のことかい?俺はアンコウだ」

 アンコウは軽い調子で名を名乗る。

「そうか、わしはログレフだ」

 

 アンコウは、もう一、二歩、ログレフと名乗った白髭の親方のほうに近づきながら口を開く。

 

「で、ログレフさん。俺になんかようかい」

 

 ログレフは、取り立てて表情を変えるでもなく、ただ、スッと視線をアンコウの腰の辺りに移した。

 

「アンコウ、お前はどうして、そんな使えん剣を腰に差しておるんだ」

 

 さすが一流の魔工術師といったところか、ログレフはあっさりとアンコウの腰の物の性質を見抜いたようだ。

 

「これのことかい?」

 アンコウは腰に差した赤鞘の魔剣の柄に軽く手を置き、聞く。

 

「魔剣のようだの」

「ああ。だけど、ここに並んでいるものとは、比べ物にならないけどな」

「お前の腰のそれは、比べる以前の問題だろう」

「呪いのことか?」

 

 ログレフは、白い髭をしごきながら(うなず)く。

 アンコウはログレフの前でピタリと足を止め、口の端に、ニヤリと笑みを浮かべた。そしてアンコウは、少しだけ剣を鞘から引き抜いて見せた。

 スウゥーッ と、アンコウが身体に(まと)う覇気の波が変わる。

 

「!ほぉう、共鳴か。それはまた、よりにもよって呪い憑きと共鳴とはのう」

 

 アンコウの後ろでは、ミゲルもそのアンコウの変化を少し目を大きくしてみていた。

(迷宮の中で話は聞いていたが、本当に共鳴してやがる)

 

チンッ アンコウはまた完全に剣を鞘におさめた。

 

「ふむ、呪いの制御もある程度できておるようだの、どれ、少しその剣を見せてくれんか」

・・・・・・・・・・

アンコウは動かない。

ログレフも動かない。

アンコウは無表情。

ログレフは自然体で髭をしごいている。

ミゲルがアンコウに声をかけた。

 

「アンコウ、親方は信頼できる人だ。それにあんたはナナーシュ様の客人だ。それは親方にも、さっき話しただろう。たとえあんたが人間でも、ここで余計な心配する必要はないと思うぜ」

 

「………そうかい、わかったよ」

 アンコウは鞘ごと、さっと腰から剣を引き抜いた。

 

 別にアンコウは本気で、このワン‐ロンの一流の職人であるログレフが、何かよからぬことを考えていると思っていたわけではない。

 この程度の警戒は、中途半端な力量の冒険者がこの世界を生き抜くための(たしな)みというものだ。

 

「どうぞ、好きなだけ見てくれ。なんだったら、好きに整備してくれてもかまわないよ、タダでね」

 

 アンコウが軽い調子で冗談も交えつつ、赤鞘の魔剣を差し出すと、ログレフは変わらず無言のままで、それをごく自然に受け取った。

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