Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第57話 人にも物にも歴史あり

 しばらくの間ログレフは、じっとアンコウの剣を眺めていた。

 気軽く鞘から抜いた剣を手にしていたが、ログレフが剣の呪いに当てられている様子はまったくない。

 

「……なんで呪いが影響しない」

 アンコウが聞く。

 

「影響していないわけではないが、戦意を持って剣を使っているわけでもないしのぉ。ちょっとしたコツだの」

「………コツね」

 

 コツというのは往々にして感覚的なものだ。妖精種のドワーフ。しかも、一流の魔工匠が言うコツなど、アンコウにわかるわけもない。

 

 カルミは、すでに店内の商品の観察に戻っており、ミゲルと時折楽しそうにしゃべっている。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「知っておるか、アンコウ。このアフェリシェール大陸に流通している一級の魔武具の多くが、このワン‐ロンで作られたものだといわれておる。特に神与の魔武具といわれるものにいたっては、そのほとんどが、このワン‐ロンの職人の手によるものだ。

 神与の魔武具は選ばれし者にしか造れないと言われておる。魔工に関する優れた能力だけでなく、大精霊様のご加護があって初めてできるとな。

………アンコウ、わしはな、神与の力を宿した剣も鎧も、つくったことがあるのよ」

 

(何だこの爺さん。いきなり話しかけてきたと思ったら自慢話かぁ)

 

 アンコウは少し面倒くさくなってくる。年寄りの自慢話は、超絶長くなるからだ。そのアンコウの心の声が、表情にも表れる。

 

「まぁ、そうだ。自慢話だ」

 ログレフは、アンコウの内心を察してか、ニヤリと笑いながら言った。

 

「だがのぉ、アンコウ。魔工の術は、精霊法力を用いた技術だ。何世にも渡って継承されてきた数々の知識と技。職人本人の長年に渡る弛まぬ修練。そして、新たなものに挑み続ける情熱。大精霊様の御加護。

 どれほどの才能に恵まれた者であっても、いずれがかけても、真に望むもをつくることはできん。わしも未だ、魔工匠の一職人として、望む高みには至っていないのじゃよ」

 

(結局、何が言いたいんだ、このじいさん?)

 

「しかしのぉ、この不細工な呪いの魔剣を見ていると、わしも魔工術師として、多少成長できたのだろうと不思議な思いがするわ」

 

 自分の剣を不細工といわれ、反射的に眉をひそめるアンコウ。と同時に、ログレフのその言いように、強く引っかかるものを感じた。

 

「……?ん?それは、どういうことだい?」

「これはのぅ、わしが造った剣だよ」

 

 ログレフがどこか懐かしげな目で抜き身の剣を見つめながら言った。

 目を大きく見開くアンコウ。

「!えっ?」

 

「まさか、またこうして手にすることがあるとはなぁ、実に稚拙で、不細工な剣だ。これだけ質の良い鉱材を使っておるというのに、まさに職人の腕の未熟さゆえの駄作じゃな。

……ふっ、ふっ、ふっ、しかし……懐かしいのぉ、親父殿の怒声を思いだすわい。あのときの拳骨(げんこつ)は痛かったのぉ。これは親父殿が始末したとばかり思っておったが………

 しかしこいつも、190年間もどこをさまよっていたのかの」

 

「ひゃ、ひゃくきゅうじゅうねん!?」

 

「ああ、これは190年ほど昔、わしがはじめて造った魔剣だ」

 

 ログレフは、変わらず懐かしげなまなざしを刀身にむけながら話をつづけた。

 そのログレフの話によると、

 ログレフがこの赤鞘の魔剣をつくったのは、ログレフ8歳の時(当時使われていた鞘は、この赤い鞘ではない)。ログレフは幼き頃より精霊法力に富み、魔工の術の才にも恵まれ、将来頼もしき幼子と言われていたらしい。

 

(……やっぱ自慢か……)

 

 ログレフの魔工の師でもあった実の父親は、そんなログレフに幼い頃より厳しい教育を施した。

 子供のうちは精霊法力を心胆の内で練り上げ続け、技術的な基礎を体に叩き込むことがなりより重要としたログレフの父師は、幼いログレフに通常の剣槍鎧をつくらせるものの、それらに魔工の術を直接施すことは許さなかったらしい。

 

「わしはそれが不満でのぉ、つい親父殿の目を盗み、魔工の術をもって剣を打ってしもうた」

 

 そして出来上がったのは、優れた鉱材の力を十分に引き出すこともできていないうえに、呪いまで宿した剣だった。

 

 そしてそのことは、すぐにログレフの父師にばれてしまい、

「それはもう、死ぬほど怒られたものよ」

 と、ログレフは昔を思い出しながら、どこか楽しげに言う。

 

「わっはっはっはっはっ、」

 ログレフは剣を見ながら、ついに笑い出した。

 

 そしてログレフは笑いをおさめると、またじっと手に持った剣を無言で見つめはじめる。

 

(………おどろいたな、人にも物にも歴史ありか)

 

 

「お~い、アンコウっ」

 カルミが、アンコウの名を呼ぶ。

 

「ん?」と、アンコウがカルミのほうを振り返ると、カルミは両手に何かを抱えて、こちらに向かって走ってきていた。

 

「……おい、カルミ。それ売りモンだろ」

 

 カルミは身の丈ほどもある大剣二本と、これまた大きな戦斧を一本抱えて、アンコウの目の前で立ち止まった。

 三つとも、まちがいなく一級の魔武具であり、しかも全体に施されている絵柄や彫刻といった装飾が、実に美しく、まるで美術品のようだった。

 

「アンコウっ、これカッコイイ!」

 

 どうやらカルミは自分が気に入った武器をアンコウにも見せたかったようだ。

 

「………そうか、」

「うんっ!」

「……俺は買わないぞ(絶対死ぬほど高いぞ)」

「うんっ!私も買わないよ」

 

 一瞬、カルミがこれらを欲しい、買ってくれ的なことを言ってくるのかと思ったアンコウだったが、そういうことではなく、純粋に自分がカッコイイと思った武器をアンコウに見せたかっただけらしい。

 

「……そうか、カッコイイなそれ」

 

「えへへ、やっぱりアンコウもカッコイイと思うでしょ。わたしほんとは、メイスよりも、剣とか斧のほうが好きなんだ。だけど、むいてなくてぇ、じいちゃんにも狩りに行くときは絶対メイスを持っていけって言われてたんだ」

 

「……まっ、カルミだったら、剣でも斧でも練習したら使えるようになるだろ」

「ほんとにっ!?練習したら使えるようになる!?」

「あ、ああ」

 

 カルミの勢いに少し押されるアンコウ。

 確かに今のカルミは、数ある武器の中でもメイスの扱いが最も上手なのだが、

(お前だったら、今でも剣でも斧でも戦えるだろう)

 と、カルミの強さを知るアンコウは、本当に思っている。

 

「ま、まあ、とにかく、三つとも凄そうな武器だな、カルミ」

「そうなんだよっ。みっつとも凄くて、まず、このツルの絵の剣のほうはねぇ、」

 と、カルミは持ってきた三つの武器について語りだした。

 

 カルミは、この店の武器防具魔道具を見て、相当興奮しているようで、この後止まることなく剣や斧について延々しゃべり続けた。

 

・・・・・・・・・・・・

(……ハァ、ジジイの話の次は、子供とお話かよ……しんどいわぁ)

 

 アンコウは、ついにカルミの話をさえぎる。

 

「ああっと、俺ちょっと外の空気吸ってくるわ。カルミはまだここでいろいろ見ていてもいいから」

 アンコウはそう言うと、カルミの横をすり抜け、店の扉に向かって歩き出した。

 

「待て、アンコウ」

 しかし、出ていこうとするアンコウをログレフが呼び止めた。

 アンコウは足を止めて、顔だけログレフのほうにむける。

 

「この剣、強化してみる気はないか?」

 アンコウの赤鞘の呪いの魔剣を示しながら、ログレフが言った。

 

「強化?そんなことができるのか?」

 

「ああ、元々わしが鍛えて、魔工を施した剣だからのぉ。とは言っても、やることは所詮打ち直しの手入れだ。魔工の(いただき)を極めるようなものはできはしない。

 それでも強化はできる。190年ぶりに、この手に持った出来損ないの我が子よ。少しはマシなものに鍛え直してやりたいと思うてしまったのは親心なのかのぉ。

………しかし、今はこの剣はお前のものだアンコウ。お前が必要ないと言うなら、それでよい」

 

「…………掛かりは?」

「むろんいらん」

「呪いは解けるのか?」

 

「童の頃に自身が魔工の術でつくったものだからの、今のわしになら可能だ。が、できるが、そこまで変えてしまえば、すでに別の魔武具も同然になる。

 普通ならそれでもよいのだが、お前の場合はおそらく共鳴ができなくなるぞ」

 

「……それは困るな」

「うむ」

「どれぐらいでできる?」

「これに掛かり切りにはなれんからなぁ、半月は見てもらわんとの」

 

「………ミゲル」

 突然アンコウが、ミゲルに話をふる。

 

「ん?なんだ」

「俺はここに、どのくらいいられるんだ」

「わからん。が、あんたが望めば半月ぐらいは十分滞在許可は下りると思うぜ。なんせ、ナナーシュ様の命を助けたんだからな」

「そうか…………じゃあ、頼むわ。ログレフさん」

 

 アンコウはあっさりログレフの申し出を承諾した。

 ワン‐ロン一流の魔工匠の手で、無料で剣を強化してもらえるもなら、アンコウにとってデメリットは少ない話だ。

 アンコウは心の中で、ラッキ~と喜んでいた。

 

「ねぇねぇねぇ、アンコウの剣、こんなふうにかっこよくしてもらえるの?」

 カルミはお気に入りの売り物の魔武具を抱えながら、ログレフに言う。

 

「はっはっはっ、まぁやろうと思えば、多少はかっこよくできるかのぉ」

「おおっ、アンコウできるってっ!」

 

 カルミが目をキラキラさせながら、アンコウを見た。武具の見た目の装飾などにあまり興味のないアンコウである。しかし、カルミは興味津々のようだ。

 

「ねえっ、アンコウできるってっ!」

「……あ、ああ。まぁ、その辺はカルミの好きにしてもらえ、あんまり派手なのはやめてくれよ」

「おお~っ」

 

 ログレフに任していたら問題はないだろうと了承し、アンコウは再び扉のほうへと歩き出した。

 

 一方、アンコウの剣を強くかっこよくしてもらえるという話をしているうちに、カルミは少しうらやましくなってきたようだ。

 手に持っていた店の魔武具を、そっとカウンターの上に置くと、すらりと自分のメイスを取り出した。

 

「ねぇねぇねぇ、私のメイスも、もっと強くてかっこよくできる?」

 

「おいおい、カルミ」

 ログレフにメイスを差し出すカルミに、ミゲルが苦笑を浮かべながら言う。

「アンコウの剣は、親方にとって特別なんだよ」

「?」 

 

 カルミは、ミゲルを見上げて首を傾げた。

 ログレフも、そんなカルミを見て笑みを浮かべる。

 

「嬢ちゃん。無論、そのメイスの強化もできんことはないがのぉ。わしもこれが商売での、タダでというわけのはいかんのよ」

「………そっか。お代もらわないと、買い物できないもんね」

 

 カルミの祖父も、鍛冶屋稼業をしていたのだ。

 そのへんはよくわかつているカルミは、言われたことに、ウンウンとうなづき、即納得した。

 

「ハハッ、そうだぞ、カルミ。ここはワン‐ロンでも一流の店だからな、お前が思っている以上に高いんだぞ」

 ミゲルが、カルミの頭を撫でながら言う。

 

「うんっ、わたしお金もってない」

 カルミは別に悲しむでも、落ち込むでもなく、普通に言ってメイスを引っ込めた。

 

 ログレフも、自分の腕に自信があり、職人としての誇りを持つ、一流の魔工匠だ。

 目の前の幼子を愛らしいと思っても、自分の腕を安売りすることはしない。アンコウの赤鞘の魔剣は、彼にとって例外なのである。

 

 店の扉の前まで来ていたアンコウにも、そのカルミたちのやり取りは聞こえていた。

 するとアンコウは、店の外に出ることなく、ゆっくりと身を翻して、ログレフたちがいるカウンターのほうに近づいてきた。

 

 そして、カウンターまで来ると、

ゴォドンッ

 

 アンコウが亜空間魔具鞄の中から何かを取り出し、それをおもむろにカウンターの上に置いた。

 

「ほうっ、これは……オークの魔石か」

 

 片手では掴めないほどの大きさの魔石。濃く深い琥珀色の魔石の中に血管のような赤い筋が縦横に走っている。

 

「………中型級のオークのものだろうが、質はかなり良さげだのぉ」

「………これで足りるか」

 アンコウが、ログレフの目を見て言う。

 

「ふふふ………ま、十分だのぉ」

「そうか」

 

 じゃあ頼むと言って、アンコウはオークの魔石をカウンターに置いたまま再び(きびす)を返し、店の扉のほうへと歩いていく。

 

 すぐ横で二人のやり取りを見ていたカルミが首をかしげている。どういうことなのか、よくわかっていないようだ。

 

「嬢ちゃん、カルミといったかの。そのメイスも、かっこよくしてやるぞ」

 

 ログレフにやさしげな眼で見られながらそう言われても、カルミは首をかしげたままだ。

 

 ログレフは、オークの魔石をポンポンとたたきながら、

「これがそのメイスをかっこよくする代金(だいきん)じゃよ」

 と、言った。

 

 アッと、目を大きくしたカルミが、バッと後ろを振り返った。

 ちょうどアンコウが店の扉を開け、外に出ようとしていた。

 

「アンコウ!ありがと!」

 

 アンコウはカルミたちに背中をむけたまま、スッと右手を上げた。

 そして、店の扉は閉まり、アンコウの後ろ姿は扉の向こう側へとキザに消えていく。

 

「アンコウっ!ありがとーっ!」

 

 扉のほうを見つめるカルミが、もう一度、これ以上ないぐらいうれしそうに笑いながら言った。

 

 

(………いや、確か、あのオーク倒したのは、ほぼカルミの力のおかげだって話じゃなかったのか………)

 

 ミゲルは、ナナーシュがしていた説明を聞いており、オークが倒された経緯をほぼ真実のままに知っている。

 

(………だいたいアンコウ、何であんたがその魔石を持ってるんだ。あの場でいつ取ったんだよ………)

 

 ミゲルが、アンコウが消えた扉を見つめる目は、カルミのそれとはまったく違っていた。

 

 

「良かったのぉ、カルミ」

 ログレフが、やさしげな声で言う。

 

「うんっ!アンコウはね、やさしいんだよっ」

「そうか、そうか」

 

 ミゲルはカルミの小ぶりアフロに再び手を伸ばし、クシャクシャクシャと、カルミの頭をなでつづけた…………。

 

「?」

「カルミ、お前は優しいな」

 

 

 いつまでも自分の頭をなでているミゲルに、なに?と首を傾げるカルミ。

 ミゲルは、それ以上何も言わなかった。

 

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