Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第82話 狂楽の宴

 ホール中央、一段高くなっている場所。その上にも、寝台のような形の大きな台座が置かれている。

 その端に腰かけているハウル、もちろんハウルも裸だ。

 そして、そのハウルのまわりには、何人もの見目麗しい美女と筋骨逞しい美男子が(はべ)っていた。

 

「アンコウ、よく来たな」

 

 ハウルが、下で(ひざまづ)いているアンコウに声をかける。

 

「は、はい。お招きありがとうございます」

 

パチンッ とハウルが指を鳴らす。

 

 すると、貧弱な体つきの年配の男が、アンコウに近づいてきて、飲み物がのった盆を差し出してきた。

 その飲み物はガラスの容器の中に入れられており、ピンク色の液体が透けて見えていた。

 

「まぁ飲め、アンコウ」

「!」

 

 ハウルに促され、アンコウはそのガラスの容器を手に取るものの、口にするのをためらっている。

 

(……中身なんだよこれ)

 

「ふふ、心配するなアンコウ、その桃色のものはただの酒だ。もっといい気持ちになりたいのだったら青色の酒を飲め」

 

「は、はぁ」

 

 どうやらやはり、やばい酒もあるらしい。それはまわりで踊り狂い腰を振っている者たちを見ればあきらかだった。

 アンコウは手に持ったグラスをじっと見つめている。

 

「……アンコウ、まさか俺の酒が飲めないと言うのではなかろうな、フフフ」

 

 ハウルは意地悪そうな笑みを浮かべている。あからさまにアンコウをからかって楽しんでいる。

 

 アンコウは、自分の感情を表には出さないようにしながら考える。自分は自由への逃走をあきらめ、グローソン公の下につく覚悟をしてここにきた。

 

 アンコウは元の世界で、営業職のサラリーマンをしていたときの事を思い出す。

 付き合い酒、クラブ接待、キャバクラ接待、セクキャバ接待、付き合い風俗、それと同じようなものだと自分に言い聞かせた。

 

 アンコウはニコリと笑い、

「頂戴します」と、まったく心のこもらない声で言った。

 そして、ぐいぃぃっ と、一気にそのピンクの酒を飲みほした。

 

(きっつい酒だな。だけど、確かにただのカクテルみたいだ)

 

 それを見とどけたハウルは、

「楽しんでいけ、アンコウ」

 と言い、さらに、

「ふふ、しかし、一人では楽しめなかろう。パートナーをつけてやろう

」と、言った。

 

「い、いや、一人でも十分楽しめるので」

 

 これまで、娼館で普通に遊んできた経験はあるアンコウだ。

 しかし、

(こ、これは勘弁だ。変な酒で飛びたくなんかないし、乱交なんてごめんこうむる)

 

「ふふ、この手の(うたげ)は初めてか、アンコウ。何、そんなこともあろうかと思ってな。もう一人招待しておいた」

 

 パチンッ とハウルがまた指を鳴らす。

 すると、アンコウの背後から近づいてくる人の気配。

 

「だ、旦那様」

 

 その声にアンコウは思わず、後ろを振り返る。

 

「テ、テレサっ!?」

 

 アンコウの後ろに、メイド帽を乗せた二人の裸の女に挟まれて、テレサが立っていた。無論、テレサも全裸である。

 

「では、アンコウ。二人して、今日の宴を楽しんでいけ」

「えっ!ちょっ!公爵様っ」

 

 アンコウがハウルに話しかけても、ハウルはもう行けと アンコウに手を振るだけで、何度アンコウが話しかけても、それ以上相手にしようとはしなかった。

 アンコウはやむを得ず、テレサを(いざな)って場所を移動していく。

 

 

 

「だ、旦那様………」

 テレサは恥ずかしそうに手で体を隠しながらアンコウについていくが、いろいろと隠しきれていない。

「テレサ、お前」

 

 アンコウが滞在している屋敷を出たあと、公爵の使いを名乗る者が馬車でテレサを迎えに来たらしい。

 その使いの者にとり立てて怪しいところはなく、アンコウの奴隷であるテレサが、その迎えを断ることなどもちろんできなかった。

 

 そして、その迎えの者に城に連れてこられたテレサは、館の奥の大きな部屋に案内され、アンコウが脱いだ服を見せられて、

「主は脱いだから、あなたも脱ぎなさい」と、問答無用で服を脱がされたらしい。

 

「て、抵抗はしました」

 と、テレサ。

「はぁーーっ」

 と、ため息をつくほかないアンコウである。

 

 周囲は相変わらずの狂乱の馬鹿騒ぎに興じている。

 テレサはただ怯え戸惑い、アンコウにくっついている。一方アンコウは、このどうしようもない状況の中でも、ちゃんと周囲に目を配り続けている。

 

 少し離れたが、中央台座のところにいるハウルが、時折りこちらに意識を向けていることにも気づいているし、

(それにこいつらも……)

 この大ホールの中に、狂態を示しながらも目だけ鋭く周囲をうかがっている者が何人もいることにも、アンコウは気づいていた。

 

(公爵が配置している草の者だろうな)

 

 彼らが代わる代わる自分の様子を観察している視線も、アンコウは感じていた。

 

(公爵は私室で、この宴に参加することは、俺が家臣となる通過儀礼を兼ねると言っていた)

 

 アンコウは自分が試されているのだと、このイカレた宴で、自分がどういう態度をとるのか観察されているのだと思った。

 

「………しかたがねぇな、ほんとに邪教教団の入信儀式な気がしてきた」

「あ、あの、旦那様」

「テレサ、あきらめろ。今はこれに付き合うしかない」

 

 アンコウに耳元でそう(ささや)かれて、テレサは(うなず)くほかない。

 アンコウたちはしばらくホールをうろうろしていたが、観察者たちの目もある、いつまでもそんなことをし続けているわけにもいかない。

 

「……テレサ、酒を飲め。とりあえず踊るぞ」

「え、ええっ」

 

 アンコウは、裸のウェイターから受け取ったピンク色の酒をテレサに渡す。

 

「しらふでここにいられるのなら別にいいけどな、どうする?」

「ほ、ほんとうに帰れないんですか?」

「無理だ」

 

 アンコウが断定したのを聞き、テレサは大きくため息をついたあと何とも言えない表情で、その酒を一気にあおった。プハァーッ かなりキツイ酒だ。

 

「テレサ、踊るぞ」

「はっ、ひゃぃぃっ」

 

 アンコウとテレサは室内の火柱を囲んで踊り始めた。

 

!♪♪♪~♪♪♪♪―♪♪♪♪~♪!

ウヒョー アヒョー エッサッサァァー

 

 

 何重もの人の輪の中で、響く音楽の音と意味をなさない人々の歓声の中で、アンコウたちは踊りつづけた。

 それこそ、アンコウはやけくそで踊り続ける。テレサはアンコウから渡される酒を次々に飲み干し、酒の力に身をゆだねていく。

 

「旦那ひゃまあぁ~」 酔っ払うしか、この場にいていられなかったのだろう。

 

 さすがにアンコウは、この状況で前後不覚になるわけにもいかず、へべれけになっていくテレサがうらやましいと思いつつ、正気を保っていた。

 

 アンコウは火柱を囲み、踊り、歌い、踊り、歌い、踊る。そしてアンコウは踊り続けた。

 

 アンコウは、ウッッヒヨョョーーウッ! と言ってみた。

 アンコウのまわりで踊り狂う裸形の者ども。老若男女、人間、獣人、それにわずかながらダークエルフの姿もある。

 

 いくぶん肌が衰え、乳が垂れている踊る女。しかし、髪型やその身につけている宝飾品から、貴族階級に属する女だとわかる。

 張り艶のある綺麗な肌、艶やかな髪、女性かと見まごう中性的な美しい顔の踊る男。しかし、テレサと同様その首に嵌められている首輪から、奴隷であることがわかる。

 その中年の女が美しい男を誘い、火柱の踊りの輪から抜けていく。

 

 踊るアンコウが次にその二人を見たとき、二人は踊りの輪のすぐ近くの床で絡まり合い、蠢いていた。享楽痴態(きょうらくちたい)の宴。

 アンコウが見たくもない そんな光景がここには(あふ)れている。

 

 そして、踊るアンコウに、見目麗しい裸の一人の女が近づいてきた。

 

「アンコウ様、寝台がひとつ御用意できました。御案内いたします」

 

 アンコウは、周囲にいる観察者の視線を感じる。離れた中央の台座からも。

「……ああ」

「では」

 

 その女に(いざな)われ、アンコウは踊りの輪から外れ、移動する。

 

「だ、だぁんなさまぁぁ?」

 アンコウに、腕を引かれてついていくテレサ。

 

 テレサは酒だけでなく、周囲に充満する蠱惑的な(こう)のかおりにも のまれてしまったようだ。

 

 アンコウが女に(いざな)われて行った先、ずらりと並ぶ寝台の列。その寝台の上には絡まりあう獣が何組もずらりと並んでいた。

 その中にひとつ、誰もいない整えられた寝台があり、女はそれを指し示し、アンコウにむかって、「さぁ、どうぞ」と言った。

 

「ああ」 アンコウはテレサと共に、その寝台に移動して、テレサに覆いかぶさる。とっくの昔に二人は裸である。

 

 アンコウとテレサも、そのずらりと並ぶ絡まりあう獣の一組となった。

 

 

 ―――中央、長台座の上。裸の美男子を組み敷くハウルが、わははと笑っていた。

 

 

 

 

 この大ホールには外からの明かりは入ってこない。もうアンコウにはどれぐらい時間が過ぎたのか、正確にはわからない。しかし、感覚的に、

(もう、夜が明けているんじゃないのか)と感じていた。

 

 そう感じとれるぐらいには、アンコウは正気を保っている。

 しかし、アンコウの後ろに横たえられているテレサは意識朦朧、「だぁんなぁさまぁ~」な状態だ。

 

 

 ホールの中では未だ、乱痴気騒ぎが続いている。

 

―――――

 

 

「アンコウ、どうであった今宵の宴は」

 

 ハウルが、下で(ひざまず)いているアンコウに問いかける。

 

「は、ハッ。な、なかなか……経験できない宴だったかと……」

「正直に申せ、アンコウ」

 

 ハウルは半笑いで聞いてくる。この問答を楽しんでいるらしい。

 アンコウは、自分の目の奥が少しこわばってくるのを感じた。

 

「……では、あの、公爵様。聞いてもよろしいですか」

「なんだ」

「………このような宴には、これからも出ることになるんでしょうか?」

 

 アンコウは、できる限り表に出さないよう努めていたが、その声に幾分怒りがにじむ。

 

(今夜だけならいい。だけど、これが仕事で、当たり前の日常になるのなら……)

 アンコウは、命を賭ける事になっても、また身の振り方を考え直さなければならないかもしれないと思う。

 

 アンコウを見下ろすハウルの口元から笑みは消えない。

 

「お前はどうしたいアンコウ。気に入ったのなら、いつもお前の席を用意しよう」

「い、いえっ、……こんなに騒がしくては、私の仕事である公爵様と昔話はできないのではないかと」

 

「ふふっ、ハッハッハッハッ!アンコウよ、俺もこんなところで思い出ばなしに興じようとは思わぬわ。

 ふふふっ、アンコウ、この宴は自由の宴ぞ。参加したい者だけが参加するものだ。今日は貴様の我が家臣となった通過儀礼も兼ねていたが、次はお前が参加を希望した時にだけ来ればよい」

 

「は、はいっ!」

(絶対に希望なんかしねぇっ!)とアンコウは心の中で付加えた。

 

 アンコウは少しほっとするものの、この先、このグローソンでの宮仕えの日々が本当に続くのかと思うと、いっそう気が重くなってきた。

 

 

「アンコウよ。それにもう一つ、我が臣下となったお前に、お前に贈るものがある」

 

 ハウルはそう言うと、パンッ! と一度手を打った。

 すると、アンコウのほうに向かって、妖艶な雰囲気を漂わせた裸の男が、その両手で木製の献上台をうやうやしく持って、近づいてきた。

 

 そしてその献上台は、ひざまずいた姿勢のままのアンコウの前に、コトリ と置かれた。

 そこのは何か片手で抱え持てるぐらいものが置かれており、その上に白い布がかぶせられていた。

 

「よい、見てみよ」

 ハウルがアンコウに言う。

「………はい」

 

 アンコウは献上台に近づき、手を伸ばすが、その手が ピタッと止まる。

(!これ、血か……)

 

 献上台の底と(かぶ)せられた布の下のほうが赤く染まっていた。

 アンコウは視線だけ、チラリとハウルのほうに向けるが、ハウルは一切表情を変えることなく、変わらずアンコウを見ていた。

 

(…………しかたがない)

 アンコウは視線を戻し、無言のまま、再び手を伸ばした。

 そしてアンコウは白布をつかみ、ゆっくりと動かし取った。

 

「なっ!?これはっ」

 白布の下から現れたものを見て、アンコウは驚き、一瞬固まった。

「に、人間の首か……」

 

 そう、ハウルが贈り物だとアンコウに差し出した献上台の上には、今斬ったばかりのような人間の生首が乗っていた。

 

 現れた予想外のものに、アンコウは驚きはしたものの、今さら生首ひとつで恐怖するほどアンコウも初心(うぶ)ではない。

 これは何のつもりだと、再び視線をハウルに向けた。

 

「見覚えがないか、アンコウ」

 軽く笑みを浮かべながらハウルが言った。

 

「えっ?……あっ!こ、こいつ!」

 ハウルに言われ、あらためて生首を見直して、アンコウは思い出した。

「こいつ!アネサで俺を拷問した連中のっ!」

 

 アネサがグローソンの手に落ちる前、アンコウはそのグローソンの関係者に拉致され、拷問を受けた。そのときに、一味の連中に指示をしていた男の顔だった。

 

「その男の名はデンガルという」

 

 確かそういう名前だったなと、アンコウも思い出す。

 

「一応俺に仕える貴族の手の者だ。俺の命を都合の良いように曲解し、勝手な真似をしたから斬った。俺にとっては虫けらのごとくどうでも良い男だが、お前の贈り物ぐらいにはなるかと思ってな、とりあえず首を落としておいた」

 

「………そう、ですか」

 

 アンコウは何とも言えない気持ちになる。どこかで会うことでもあれば、ぶっ殺してやりたい人間ではあったが、こんな風に首だけで出てこられても、特別うれしくもスッキリもしない。

 

「どうしたアンコウ。その首だけで不服なら、その者の一族郎党、ついでにその者の主の首も足してやってもよいぞ」

 

「……いえ、その必要は……」

「……ないか」

 

 アンコウを見るハウルの目が少し鋭くなる。

 

「アンコウよ、俺は下の者たちには寛容な男だ。義務さえこなせば、自由を認め、享楽(きょうらく)(ふけ)ることも許す。

 ただ、何をするにしても俺の機嫌を損ねるようなことはするな」

 

「は、はい……」

 ハウルの威圧的な言葉に、アンコウはまた顔を伏せた。

 

 何のことはないハウルはアンコウに、自分に逆らえばお前もこうなるということを見せただけだ。

 アンコウは心の中で、チッ、この野郎 と舌打ちをした。

 初めの頃よりは、ハウルに対する恐怖心も薄れてきてはいるようだ。

 

 アンコウは、ハウルのやること、生き方は自分には合わないと再認識した。

 ハウルが主宰する この宴のような享楽的な快楽に沈溺する喜びは理解できないし、主従として野心を共有することもむずかしいと思っている。

 

 グローソン公ハウルは、武を持って己の勢力圏を拡大し続けてきた。しかし、それに何の意味があるのかとアンコウは思っていた。

 このグローソンがあるウィンド王国はエルフが王族、支配者階級に君臨する国だ。自分たちに税を納めている限り、信じられないぐらい放任主義的な統治を行っているエルフたちであったが、それにも限度がある。

 

 もし、ハウルが限度を超えて、ウィンド国内で勢力圏を拡大すれば、エルフたちも動くはずだ。そうなれば、必ずグローソンは滅ぼされる。

 ハウルの軍事行動は、常にエルフたちの手の平から出ることはないという暗黙の条件下で許されているものに過ぎない。

 

 そんな中で、何十年と戦い続け、十分な富と権力を手に入れても なお戦うハウルという男は、アンコウの感覚でいうと、戦闘享楽者にしか見えないし、実際そうなのだろう。

 ハウルは、今宵(こよい)のこの狂楽的な宴と変わらぬ感覚で、戦争もしているのだろうとアンコウは感じた。

 

(いくさ)の駒として配下に加わることを望まれたわけではないけれど、この先大丈夫なのか。とてもじゃないが平穏無事な生活があるとは思えない………)

 

 と、自分ではどうしようもないことながら、アンコウは不安を感じずにはおられなかった。

 

 

 

 ごうごうと燃えさかっていた火柱が細くなり、音楽団の奏でる音色が緩やかなものに変わっていく。

 酔い潰れ、踊り疲れ、トリップして倒れ伏した人たちが、次々と運び出されてしまった宴の間。イカレた宴の時間が終わろうとしている。

 

「して、アンコウよ」

 

 少し考え事に気をとられていたアンコウに、ハウルが声をかける。

 

「えっ、あっ、は、はいっ」

 アンコウが慌てて顔をあげる。

 

「それは放おっておいてよいのか?」

「えっ?」

 

 ハウルは壇上から、アンコウの後方をあごをしゃくらせて示しながら言った。そのハウルの顔には、いたずら小僧のような笑みが浮かんでいる。

 何のことかわからないアンコウであったが、ハウルが指し示した後方を振り返り見た。そして、

 

「!?なあぁっ!」

 

 アンコウは、酒と御香(おこう)に酔い、酩酊していたテレサを自分が(ひざまず)いている場所の少し後方に寝かしていた。

 しかし、振り返ったアンコウの目には、テレサだけでなく、もう一人 別の人物の姿が映った。

 

 それは、金髪バーコードにテカテカに脂ぎった顔、はち切れんばかりのでっぷりおなか、デカいケツの色つやの良さが妙にムカつく、あの「イエェェーイ」の中年親父だった。

 

 それを見て、アンコウは怒鳴り声をあげた。

 

「オッサン!何やってんだっ!」

 

 金髪バーコードのでっぷりおなかは、酩酊するテレサに覆いかぶさっていたのだ。当然、二人とも裸。すでに男はテレサの足のあいだに割り入っている状態。

 テレサはとろんとした目をしており、男の首の後ろに両手を回していた。

 そして、迫る男の顔を見つめながら、

「アンコぉおうぅ、来ぃてぇぇん」と、言っていた。

 

 テレサはわかっていないが、ワン‐ロンで小オークに襲われていた時よりも、ギリギリの貞操の危機だった。

 

ドガアァッ!

「げふぅんっ!」

 

!!危機一髪!!

 

 アンコウのヤクザキックが、おやじのダボンダボンの脇腹にヒット、おやじはふっ飛んだ。

 

「このクソオヤジっ!油断も隙もあったもんじゃねぇっ!」

 

「ああっ!アンコぉおう~」

 

 テレサは助けに来たアンコウのほうではなく、ふっ飛んだ金髪バーコードデカいケツおやじのほうに腕を伸ばしている。

「チッ!」

 

 アンコウはテレサの横にしゃがみ込み、テレサの顔を無理やり自分のほうに向ける。

 

「こっちだっ、テレサっ」

「ええ~、あっ!アンコーだぁ~」

 アンコウの首に腕を巻きつけ、抱きついてくるテレサ。

 

「……テレサ、頼むからあんなのとだけは、間違えないでくれよ……」

 

 アンコウは視線の先に転がっている金髪バーコードの肉の塊を見て、つぶやいた。

 

 中央台座の上で、

「アッハッハッハッハッハーー!」

 と、ハウルの大きな笑い声が響いていた。

 

 

―――――

 

「………失礼いたしました」

 

 アンコウはテレサを横に抱きかかえ、再びハウルの下に(ひざまづ)いている。

 

「くっくっくっ。アンコウよ、今のはお前が悪い。ここでは女を抱くのも男を抱くのも自由だ。その女を他の男に抱かせたくないんだったら放置するな。くっくっくっ」

 

 ハウルは、今のアンコウ&テレサ&バーコードケツおやじの三人組による『ド下ネタコント』がいたくお気に召したらしい。

 

「アンコウよ、朝が来た。宴は終わった。お前の処遇とお前に与える知行地については近いうちに正式に通達する。それに従え、以上だっ!」

 

 ハウルは壇上から姿を消し、狂乱の宴が終わった。

 

 

~~~~~

 

 

ガラ ガラ ガラ ガラ ガラ

馬車が揺れる。

 

 帰りの馬車の中、アンコウはぐったりとし、目は開いているものの動かない。ただ出るのはため息ばかり。

 アンコウのひざの上に頭を乗せたテレサは、スヤスヤと寝息を立てているが、時折うなされている。

 

 日はもう空高く昇っている。アンコウは屋敷に着くまで、ただただタメ息をついていた。

 

(………ん?……知行地って何だ………)

 

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