Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第87話 歓迎!新御領主御一行様!

 アンコウたちの眼前に広がるコールマルに属すると思われる山々。

 少なくとも今アンコウの目に見えている範囲については、そこまで険しい山岳地帯ではないようだが、グローソン領の北の辺境ということもあり、冬場はその全体に積雪があるという。

 

 ハァー と、アンコウはため息をつく。

 

 しかし、そこは田舎であることは変わりなく、一応都会派(シティーボーイ)であるアンコウには魅力ある地には映らない。

 

 アンコウは、昨日まで滞在していたスネの町のことを思い出す。スネの町はイェルベンなどと比べれば、ずっと小さい町だった。

 しかし、それなりに人口があり、大通りには各種店舗が軒を並べ、活気ある市場もあった。

 

 なかなか悪くない町だと思ったアンコウが、モスカルに この町はコールマル領じゃないのかと聞くと、あっさり違うと答えた。

 このスネの町は、グローソンの とある有力貴族の氏族が持つ飛び領だ とモスカルは言っていた。

 

 くそ~貴族め、ちょっとでもおいしそうなところは全部押さえてやがる とアンコウが愚痴を言うと、

 モスカルは、当たり前のことです と言っていた。どこに行っても、うまみのある土地ほど力ある者が押さえていると。

 

 ただ、この時のモスカルとの会話で、アンコウは自分のことについて、初めて認識したことがある。

 

「しかし、アンコウ様。アンコウ様も、この一般の住民たちから見れば、隣領の御領主様なんですよ。アンコウ様は爵位を賜っておりませんので貴族ではありませんが、豪族領主ということにはなりますね」

 

「……えっ………お、おれ豪族なの?」

 

 このウィンド王国において、一般的に貴族と呼ばれるものは、まず、グローソン公爵のようにウィンド王家より直接爵位を賜った者、それにグローソン公もそうだが、一部大貴族には自らの家臣に対し、独自に授けることが許されている陪臣爵位があり、それを受けた者も、このウィンド王国の正式な貴族として認められている。

 そして、アンコウのように爵位は受けていないが、ウィンド王国内において、正式に知行地を有する領主を一般的に豪族と総称している。それに自分が当てはまるということに、アンコウは初めて気づいた。

 

「俺が豪族………」

(………豪()なんていっても、俺、この世界で天涯孤独だぜ……(ぞく)の意味ないな……)

 

「ああ、そういえばアンコウ殿。豪族といえば、普通 (うじ)を名乗るものですが」

「ん?」

「家名のことです」

「ああ、その(うじ)ね。俺は()()が家名だよ」

「えっ?そうなのですか?」

「まぁ、そんな氏なんてものはどうでもいい。それよりも、コールマルの情報は集まったのか、モスカル」

 

 アンコウたちが、スネの町で数日滞在した目的は、間近にせまったコールマル領についてのより正しい情報を収集するためであった。

 

「あっ、はい。一般的に知られている大まかな情勢はわかりました。それに地図も。ただやはり、より正確で詳しい情報となると、領境を越えないことには……」

 

「いや、それはそうだ。わかったことだけでいい、教えてくれ」

 

 

――――――

 

 

 そして今、アンコウたち一団はコールマルに入る領境にいる。眼前に広がる山の緑は濃く、その匂いも同様に濃い。

 それは、自然の厳しい辺境なれども、決して自然の恵みが少ないわけではないということを示している。

 

 アンコウは頭の中に写したコールマルの地図を思い浮かべる。

 山と森が広がる土地。領内北境に進めば、そこは広大なアフェリシェール大陸を東西に分断するかのように連なるイサラス山脈に達し、その大山岳牢の向こう側はグローソン公領でもウィンド王国でもなく、極寒の大地広がるアフェリシェール大陸最北地域へとつながっている。

 

 

「いつまで待たせるつもりなのかっ、ここに御領主がおられるのだぞっ」

 

 モスカルがめずらしく、怒りの籠もった厳しい声を発していた。

 アンコウたち一行は、今、コールマル領へと入る関所にいる。そして、その関所で足止めを食らっていた。

 

「申し訳ありません。いま関守長が確認をしておりますので」

 

 モスカルと関所の人間が、そんなやり取りを少し前から続けていた。

 アンコウはというと、あまり興味を持つこともできず、馬上の人のまま、ぼぉーっ と、コールマルの緑深き山を見つめていた。

 

「どっからみても田舎…だよなぁ」

 

 そんなアンコウの元に、モスカルが引き返してくる。アンコウのそばまで来るとモスカルは、兵士に預けていた手綱を受け取り、馬の背に(またが)った。

 先ほどまで関所の人間相手に怒気を見せていたモスカルなのだが、今は至って平静だ。それを見てアンコウは、ニヤリと笑う。

 

「怒ってみせるのはやめかい?モスカル」

「……予想はしていたことですが、それでも怒りというものも見せておかねばなりません」

 

 アンコウはそれを聞いて、(まつりごと)の処世術も難儀なものだと思う。

 関所の者たちにとっても、アンコウは自分たちの上に立つ新たな領主だというのに、関所の者たちのこの対応、当然ながら無礼・非常識と言えるものだ。

 

 だが同時に、こんなことはどこにでもある話だと、グローソンの文官であるモスカルは知っているし、それをアンコウも理解している。

 

 自分たちは突然外からやって来た新領主という名の余所者(よそもの)

 

 モスカルが情報を集め、アンコウがスネの町で聞いたコールマルに関する報告によると、当然ながら、コールマルにも地場の実力者という者がいる。

 その地場の実力者の権力と影響力はかなりのものがあるとのこと。

 

 もう十年以上前のことらしいが、前々任の領主の時代、時の領主は、今のアンコウと同様に直接コールマルに入り、領地運営を行おうとしたらしい。

 その結果、地場の実力者たちとの武力衝突に発展し、結果、領主側が敗北、領主も敗死。

 

 しかし、そのような謀反じみたことがあっても、地場の実力者たちはグローソンの他の貴族豪族にうまく取り入り、何ら咎め立てを受けることはなかったようだ。

 そして、次の新領主が決まり、お飾り代官を迎え入れ、そのまま自分たちの権力を保持することに成功したらしい。

 

 その前任の貴族領主の代官がいたときは、形式上表面的には代官を立てて、実質自分たちで領内を仕切っていたという。

 それでも領主に対する税はきちんと納めていたため、特別問題は生じていなかった。

 

(まぁ、力があれば、やりたい放題出来るってことだな)

 と、アンコウは理解した。

(連中はハナから俺の言うことなんか聞くつもりはないんだろうな)

 

 ただ、別に聞いてもらおうとも、聞かせてやるという気もないアンコウではある。

 

「なぁ、モスカル。貧乏くじなのも、歓迎されていないのもわかっている。それに、別にやりたくてやる御領主様じゃなし、余計なことをする気もない。ただな、向こうに行ってさ、自由気ままに平穏無事にやっていけると思うか?」

 

「………さて、それは……どうでしょうか……」

 モスカルがしばし考え込む。

「たとえアンコウ殿が、彼らの既得権益を侵さないことを明言したとしても、こうして自ら領地に乗り込んできた以上、そう簡単に信じてもらえるかどうか……」

 

「……チッ……ほんと、めんどくせぇよなぁ、権力が絡むとさぁ」

 

 アンコウは小声で(なげ)きながら、自分をこんなところに送り込んだハウルの顔を思い浮かべる。

 

「公爵のヤツは、ほんといい趣味してるよ。モスカル、俺のことを公爵様に報告するよう命令されているんだろ?」

「特別な命令。というわけではありませんが、当然定期報告の義務はあります」

 

 モスカルは、あくまでグローソン公から借り受けている吏官なのである。その忠義を尽くす対象はアンコウではなく、グローソン公爵だ。

 あんまりあのホモ野郎を喜ばせるようなことにならなきゃいいんだけどなぁ と思うアンコウである。

 

 

 さらにしばらく待つと、ようやく関所側に動きが出る。

 

「やあ、やあ、やあ、これはこれは、お待たせいたしました。御領主様」

 

 それなりに質の良さそうな生地でつくられた文官服を着込み、頭に布製の冠を載せた男が、何やら のたまわりながらアンコウのほうに近づいてきた。

 その男を先導してきたのは、初めに少しだけ顔を出したこの関所の関守長である。

 

 そして、彼らの後ろには10人ほどの武装した者たち。

 

「私、シクと申します。現在ハリュート城にて、筆頭執政官を努めておりますナグバル様の命を受け、新御領主様をお迎えに参りました」

 

 アンコウは馬上の人のまま、そのシクと名乗った男の挨拶の口上を聞き続ける。

 その言葉の中に、事前情報として仕入れていた名称がいくつか登場していた。ハリュート、このコールマルの中心地で、代々領主が居館をおいている地でもある。

 

(……ナグバルっていうのが一番の実力者だったよなぁ)

 

 ナグバルという男は、コールマルの南部を中心に多くの所領を有している豪士族の長であり、先代領主時代の初期からハリュートで筆頭執政官を勤めている。

 また、先々代の領主との戦争時には、反領主豪士族連合の指導的地位にいた人物でもあった。

 

(つまり、俺がここに来なけりゃ、今までどおり実質コールマルの支配者でいられたってことだ)

 

 

「――――ナグバル様はじめ、家臣一同、新御領主アンコウ様の御到着を今や遅しと、ハリュートでお待ち申しております」

 

 挨拶口上を言い終えたシクという男が頭をさげる。

 一応深く頭をさげて見せたものの、膝を突くことはせず、アンコウが声をかける前に、その頭も上げた。

 

 そしてアンコウは、顔をあげたそのシクという男の顔をじっと見つめた。しかし、アンコウは何も声をかけない。ただ、じっと馬上からシクを見下ろす。

 

「あの、御領主様……」

 シクという男の顔に、少し動揺が見え始める。

 

 アンコウたちも、このシクという男がずっとこの関所の中にいたということは、わかっている。

 

 アンコウたちは、今日あたり、この関所に着くという知らせを、しばらく前にはコールマルに対して通知していた。

 そして、城代より命を受けたシクも、二日前にはこの関所に入っていた。つまり、わざと新領主であるアンコウを外で待たせていたということ。

 その真意は言わずもがなである。

 

 しかしシクも、関所にやって来たアンコウたち一行の姿を隠れ見て、関守長ともども非常に驚いてもいた。

 

『なんだあの連中は?』

 

 かつてこの地にやって来た領主やその代理の者たちは、(みな)妙に着飾り、派手な馬車や輿に乗り、こちらを田舎者と見下す中央人気取(きど)りの者ばかりだった。

 しかし、今度やって来た新領主たちの様子はまったく違う。

 

『まるで、北山(ほくざん)の山賊ではないか』

 

 コールマル領の北山に根城を置く山賊共と、じつに良く似た風体の一団であった。

 その(かしら)たるアンコウは今、黒光りする薄汚れた鎧兜で身をかため、口を開かず、馬上から鋭い眼光で、シクを見下ろしている。

 

 シクは抗魔の力を有していない。しかし、新領主であるアンコウが抗魔の力を有しているという情報は得ていた。

 それでも、どこぞの貴族や豪族の縁故で、コールマルの領主という地位を得た ただの苦労知らずの若造であろうと考えていた。

 そんなものならどうとでもあしらえると考えて、ここに来ていた。

 

 だから、予想外のアンコウたちの姿形(すがたかたち)を見て、驚きはしたものの、当初予定していた通りに対応を取ったのだ。

 

「あ、あの、御領主様……」

 

 シクもさすがに、アンコウがわざとらしく放つ殺気には気づいている。

 

「………よう、シク。てめぇ、人を外で待たせてどこで茶を飲んでたんだ?」

「い、いえ、……し、少々準備に手間取りまして……」

 

 アンコウは別に本気で気分を害しているわけではない。こんなものだと思っていたし、余計な揉め事を起こすつもりもない。

 ただ、なめられっ放しはよろしくないというのは、この世界の冒険者一同のモットーであるし、モスカルが先ほど怒気を見せていたのも同じような理由だろう。

 

 そして、アンコウの殺気含みの言葉に反応し、後方にいたダッジが馬から下り、シクの横に近づいてくる。山賊面といえば、ダッジだ。そのイカツさは、アンコウの六段上をいく。

 

 そのままシクに接近したダッジは、シクの真横すれすれに立ち、剣の柄に手を置き、シクの顔間近に自分のイカツい顔を近づけた。

 シクの体が硬直していくのがわかる。

 

 そしてダッジは、アンコウよりもはるかにドスのきいた声で囁いた。

 

「……テメェ、遅れてきたら、まずワビだろうがぁ」

「ひっ!あ、あのっ」

 

 シクは背後に目をやるものの、いつのまにかシクの背後に控えていた武装兵たちの周りを山賊風味のアンコウの手下どもが取り囲んでいた。

 

「あっ………は、はい」

 

 そして、顔中に汗をかき始めたシクは、ゆっくりと両膝を地に着けた。そして、詫びた。

 

「お、遅れまして、申し訳ございませんでした」

 

 

「………あんまり、ナメたまねをするなよ。俺がアンコウだ」

「……は、はい………」

 

 張り詰めた空気が関所を支配する。

 

 アンコウは、「チッ」と一度舌打ちをしてから、「もういいから立てよ」 と言った。

 

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