時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
大災害
唐突に起こったその天災、人々は成すすべもなく散りゆく。無論例外なく俺もそれに巻き込まれた。
バイト終わり、市内放送で流れる放送は、人々に絶望を与えた。それは大地震の予告だった。事態の把握に時間を取られている間に、それは起こる。立っていられないほどの揺れと、建物が軋む音、人々の悲鳴がところどころから聞こえる。そして次に起こるは建物の崩壊。爆発音に似た騒音、そしてその後に空に立ち昇る煙。地獄絵図だった。しばらくたって揺れは収まり、近くの人たちはゆっくりと立ち上がる。しかし、恐怖と戸惑い、状況把握で誰もその場から動こうとはしない。俺も周囲を確認し、怪我したと思われる人に話しかける。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……いや、大丈夫ではないんだが……」
その人が抑える腕を見ると、小さなガラスの破片が刺さっている。怪我はしているが、軽傷で済んだようだ。よく見ると、ところどころにガラスの破片が散らばり、目の前の男の人以外にも怪我をした人がいる。俺はカバンからタオルを取り出し、筆記用具の中からハサミを取り出す。痛みますが我慢してくださいと一言入れ、破片を抜き、タオルを切って止血をする。とりあえずこの人は大丈夫だ。ありがとうと感謝の言葉を聞きながら、他の人の元へ行く。次の人は俺と同じ学校の生徒だと思われる女子生徒。面識はないが、胸についているネームプレートを見る限り、年下だろう。その子の足に大きめの破片が刺さり、血が流れ落ちる。重症だ。
「大丈夫……じゃ、ないよね。いま応急処置するから」
女子生徒に一言理を入れ、今の状況を確認する。破片の大きさ的にかなり深い。抜いてしまえば大量出血を起こすだろう。破片の隣の太ももを残ったタオルで縛り、血の流れを止める。これを抜くのは医療従事者に任せるしかない。止血し終え、スマホを取り出すと、救急車に連絡する。が、繋がらない。おかしいと思い、スマホを見ると、圏外だった。おかしい。俺が状況を掴めずあたふたしていると、ゴゴゴゴという音が遠くから聞こえてくる。そして騒ぎ出す人々。その人々の中から聞こえる声。
「逃げろ!津波が来るぞ!」
俺は絶望した。今から逃げようにも高い山は遠い。そして短い思考の中俺は、建物の屋上を目指すことにした。女子生徒を見ると、涙目で不安な顔をしている。
「どうしよう……これじゃ、走れないよ……」
「大丈夫。俺の背中に乗って!」
「でも、それじゃあなたが……」
言いたいことは分かる。自分が乗れば走ることはできなくなるだろう。そうすれば逃げられないかもしれないということだろう。だが、もともと俺は死ぬ覚悟だ。たとえ建物の屋上付近に上っても、先ほどの大地震のせいで外壁はボロボロ。そんな状態で津波を受ければ、成すすべなく壊れるだろう。だが、助かる可能性が1%でもあるなら、絶対に間に合わない山の上よりはましだ。
「いいから!」
俺の大声にビクッとなりつつ、女子生徒は俺の背中に乗る。できるだけ傷口に触らないよう気を付けてささえ、近くの高い建物に入る。階段を慎重に登ると、すでに何人か同じ考えの人々が避難している。俺はそのオフィスと思われる部屋のソファに女子生徒を座らせると、窓の外から様子を見る。津波はすでにすぐそこまで来ていた。津波に流され、すでに一帯が海になっている。何本か倒壊せず生き残った建物はあるが、それ以外はすべて流されたのだろう。そして今も、津波に打たれ、津波で流された建物の破片に打たれ、次々と建物が壊れていく。次の瞬間、この建物も大きく揺れた。地震と遜色ないその衝撃で立っていた人々は転ぶ。それは何度も起こり、窓についていた生き残った窓ガラスは割れ、家具はガタガタと揺れる。そして……。
「きゃああああああ!!!」
「うあああああああ!!!」
空中に投げ出される感覚、床が崩れ、上から瓦礫が落ちてくる。そして俺は地面に叩きつけられ、意識を失った。
「……ここはどこだろう」
ふわふわと浮いた感覚。自分がどうなっているか何も分からない。目の前には……いや、前なのか後ろなのかもわからないが、青白く光る何かがそこにいた。そして声が俺の頭の中に響くように聞こえてくる。
「あなたは死ぬ前に何を望みましたか?」
なんだその質問。死ぬ前にって?そりゃ津波から逃げられたらよかった、だろう。時間でも止まってくれて、俺と全員でなくても俺の付近の人が逃げられれば、まだ楽しい人生が待ってただろうに。あーあ、そういえば家に帰って超レアアイテムを集めるつもりだったのに。手に入れられなかったなぁ。
そんなことを思っていると、声が話しかけてきた。
「わかりました。では、あなたに時止めの能力を差し上げましょう。また、情報を統合し『入手する』という願いをそのまま能力にしましょう」
は?能力?何言ってんだ?俺は誰かもわからないその声の主に若干イラつきながら、声を聞き続ける。
「この後は死後の世界”エイデン”の管理人から話を聞いてもらいます」
エイデン?管理人?じゃあお前は誰なんだ。
その声はその問いには答えず、俺の意識は何かに引っ張られるような感覚に襲われる。
はっと目を覚ますと、そこは教会のような場所だった。目の前に羽を生やし、頭に輪っかを付けた全体的に白い少女がそこにいた。
「神……様……?」
俺が見た目から思ったことを、ぼそっとこぼすと、その女はにんまりと微笑む。
「そう!私が神様なのだ!」
俺は神様だと思った自分を殴りたくなった。神様が自分のことを神様なんて言わないだろう。
「そうか。紙様の間違いだろう」
「神様だ!神様!お前らの世界でいうゴッド!ペーパーの方じゃない!」
俺の言葉に憤慨した少女は、俺に詰め寄りながら怒鳴りつける。このままじゃ話にならないし、とりあえず神様ということにして俺は話を聞くことにした。神様はまだしも天使であればまだ納得いくし。
「んで、その神様が何故ここに?というかここはどこだ?」
「ふふん!ここは死後の世界、エデンだ!」
「エデン?」
「そう!寿命以外で死んだ者がまだ生きたいと願えば、死者選別係によってこの世界に飛ばされる」
「死者選別係?」
「言ってしまえば死神だ」
恐らく俺の意識がふわふわした世界にいたときに見た、あの青白い光がそれなのだろう。姿は見なかったが、あの光が言っていたエデンがここなのだとすれば納得がいく。そして「あなたは死ぬ前に何を望みましたか?」という質問に対し、間接的にだが生きたかったという気持ちを伝えた結果ここに飛ばされたということだろう。
「ここエデンは生き返りを最終目標とする世界で、この世界のラスボスを倒せば生き返ることができる」
「ラスボス?」
「そうだ。お前、ゲームは好きか?」
「うん……まあ……」
「なら分かりやすく説明しよう。ここはそのゲーム、RPGと言われる種類のゲームと似たような世界だ。いや、ほぼそれだと思っていい」
うん。全くわからん。RPGとは、ロールプレイングゲームのことで、何度も周回することで、自身の強化やストーリーの変化を楽しむゲームのことだ。それと同じってことはつまりどういうことだってばよ。
俺があまり理解していない顔をしていたのを見た少女は、戸惑ったような顔をする。
「ええっと……つまり、この世界で生活し、レベルを上げて、ラスボスを倒す。そうすれば生き返れるよ」
「レベル?ゲームと同じようにレベルがあんのか?」
「そうだ。ここには私が生み出した魔物がわんさかいる。そいつらを倒したりしてレベル上げて強くなれるぞ。あとお前の他にも死後、再び生き返りたいと願った者もいる。いわゆるプレイヤーがいるぞ」
「つまりMMORPGと思えばいいのか」
「そうだな。その認識で間違いないだろう。ただし、ゲームとは違ってここで死ねば魂は霧散し、二度と生き返ることはかなわぬから気を付けろ」
つまりセーブなし、デスポーンなしのMMORPGか。難易度高いな。
「ちなみにここで生活している人間とかってのもいるのか?」
「ああ。生き返りたいと願ったものの、敵を倒せないことを悟って生き返るのを諦めたやつはかなりいる。そういうやつは自殺するかそのままここで生活を営んでおるぞ。制限時間もあるのに何を楽しんでおるのかねぇ」
「制限時間?」
「ああ、100年だ。100年以内にラスボスを倒せなければ、強制的に魂を霧散させる」
「100年もあるのか。なるほどな。生活営む理由もなんとなくわかった」
どうせ100年あるならここでとことん楽しんでやろうということだな。前世ではなかった刺激的な世界だ。わざわざ自殺して消えるなんてことはしたくないだろう。
「さて、この世界が大体理解できたか?」
「まあな。……一つ聞かせてくれ」
「ん?なんだ?」
「この世界って魔法とかあるのか?」
「もちろんだ」
俺は思わずにやけてしまった。死んだあと100年も何かに縛られることなくMMORPGができるんだ。これが楽しみでなくてなんだ。
「あとそれから、お前らの世界とは違う世界のやつらもいる」
「違う世界?」
「ああ。お前らの世界は科学を極め、人間が世界を埋め尽くした世界。他の世界には魔法が盛んだった世界や能力を持った者がいる世界、魔物が埋め尽くした世界、お前らがいう動物の世界などなど、お前らがよく想像する世界と似たような世界だな」
俺たちが想像する世界、つまりはラノベや漫画、ゲーム、映画のような世界ってことだろう。そんな世界がいくつもあるというのか。目の前の少女はさらに説明を続ける。
「お前らには何の能力もないが、そいつらには能力や魔法といった前世に身につけたものをエデンでも使える。エデンを作った当時は、それによりお前らは成すすべもなく離脱することになった」
「エデンを作った当時ということは今は違うのか?」
少女は頷く。
「お前が死神に会ったときに能力を貰ったと思うが、それが不平等を直すテコ入れの産物なのだ。何の能力も持たないもののみ死んだ祭に望んだ能力を与えられる」
つまり、あの時俺に与えられた”時止め”と”手に入れる”の二つの能力は、その時に望んだから得られたものということだ。
「ちなみに、魔法と能力の二つがあるが、魔法はマジックと呼ばれ、魔法に該当するものはカタカナで、能力はスキルと呼ばれ、スキルに該当するものは漢字で書かれるぞ。もっとも、これはお前らの世界の場合だが」
「俺の時止めと手に入れる能力はどう呼ばれるんだ?」
少女は俺の質問には答えず、話を続ける。
「まあ最後まで聞け。魔法は下位魔法から上位魔法、一番強いもので最上位魔法と呼ばれている。そして能力はノーマルスキル、レアスキル、エクストラスキル、ユニークスキルが存在する。ノーマルとレアはレベルを上げる過程で手に入れることがある能力だが、エクストラとユニークに関しては違う」
俺が話す暇もなく、説明を続ける。だが、かなり重要な話であるため、俺は大人しく話を聞く。
「エクストラスキルは特定の条件を経て手に入れられる、ノーマルやレアとは威力や使い勝手が桁違いのスキルだ。そしてユニークは、種族、個人によって異なる能力になる。お前がさっき聞いた時止めと手に入れる、すなわち、時間操作と
「……時間操作や取得者を持ってるやつって他にいるのか?」
「いないな。お前が始めてだ。時間操作など神の御業だからな」
俺はやばい能力を手に入れたらしい。
「だいたいの説明は終わったな。それじゃあ、お前にこれをやる」
そう言って手渡してきたのは、金色の懐中時計だった。開くとそこには100年と書かれている。
「言わなくても分かると思うが、それが0になった時、お前はエデンから強制的に消される」
「消されたらどこに行くんだ?」
「さあ?それは閻魔次第だ」
「閻魔様のところに行くってことか?」
「お前らが閻魔に会うことはない。気が付いたら閻魔が決めた世界に、一切の記憶を消して飛ばされることだろう」
いわゆる生まれ変わりというやつだろう。まさか閻魔様に会うことすらないとは。というかこいつ閻魔様のこと呼び捨てしてるがどんな関係なんだろうか。……まあ、聞かない方がいいだろう。
「さて、これからお前をエデンの1層、始まりの町の教会へ送る。そこからお前の旅の始まりだ」
そういうと、俺の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がる。そして俺の視界は真っ白に光、ニコニコと笑う少女が見えなくなった。