時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
誓い
目が覚め、隣のベッドを見ると、葵が気持ちよさそうに寝ている。昨日の夜、ホテルで部屋を取ろうとしたら、1室しか余っておらず他を探そうとした。すると葵が同じ部屋でいいと言い始めたのだ。さすがに男と女で1室というのはと断ろうと思ったが、ホテルマンが、
「今日は久々に1層から来たプレイヤーで溢れかえっていて、他のホテルも同じように部屋がいっぱいらしいですよ」
と言い始めたのだ。それを聞いた葵はほらあ!ほらあ!と嬉しそうにしており、俺も折れて部屋を取ったのだ。
「ああ、そうだったな。2層なのか」
俺はここが2層なのだと改めて思い出し、少しの恐怖と不安とそれ以上のワクワクで溢れていた。とりあえず今日やることは……と考え始めるとふと思い立った。葵ってスキル一覧とか持っているのか?そもそもエレメンツ計測器とかバッグとか必要なもの持ってるのか?そしてエレメンツはいくら持っているのだろうか?今日は買い物になりそうだと俺は頭を抱えた。まあ、激戦の後だし少し息抜きは必要だな。そう思いなおし、暇つぶしに俺のスキル一覧を確認した。するとユニークスキルが増えていた。
ユニークスキル「絶対防御」―あらゆる攻撃を半減し、死以外のあらゆる状態異常を無効にする。
これはアルティメットガーディアンのスキルだ。しかし、止めを刺したのは葵であり、俺ではない。どういうことなのだろう。一つ思い当たることがあるとすれば、葵とはパーティーを組んでいたという点だろうか。取得者の条件は敵を倒すこと。自分で止めを刺すことではない。さらにパーティーは魂の共鳴なるものがあり、それにより経験値は分配されるのだ。ということはモンスターを倒したという事実が取得者を発動させ、この絶対防御を取得したのだろう。取得者、今思えば協力すぎるスキルである。いや待てよ。レベリングの時葵のレベルは6から8に上がっていた。俺はこれは取得者を持っていなかったからと認識していたが、冷静に考えると取得者で得た経験値を分配していたからその程度に抑えられたのかもしれない。つまり、俺が取得者を持っていなかったら7にすらならなかったのかもしれない。まだパーティーとそれによるスキルの挙動は分からない。考えこんでいると、ふああっとかわいい声を出して葵が起きた。
「あ……静流さん……おふぁようございまぁす……」
あくびをしながら起きる葵に、おはようとあいさつする。パーティーによるスキルの挙動はこれから実験していけばいいか。俺はそう考えて、今日の予定を話し合った。
準備を終えて外に出ると、葵は嬉しそうにしていた。鼻歌など歌いながら、今にもスキップして駆け出しそうなほどに。もともと葵は運動することが好きなようだ。ユニークスキル「疾走者」もそんな葵だから与えられたものかもしれない。俺はそんな彼女を眺めながら少し顔が緩んでいたかもしれない。葵はかわいいの部類に入る女の子だ。そんな子にあれだけ信頼され、笑顔を向けられたらどんな鈍感でも気が付くものだろう。彼女は俺に好意を抱いている。そして俺も少なからず彼女のことが気になっている。だからだろう、今日の予定を考えるとき葵のことを考えたのは。
「何してるんですかー!」
葵がこちらを見て声をかけてくる。
「悪い、考え事してた」
俺は葵の元へ駆け出した。
まず入る店は道具屋だ。エレメンツ計測器にカバン、それからこの階層の地図といくつかの日常品を買った。次に向かうのはスキルカスタム屋だ。ここに来たのはもちろん葵のスキル一覧を作ってもらうためだ。スキルカスタムもしておこうかと思ったが、取得したのはレベルに応じて取得するスキルと魔法くらいで、カスタムしようとしても何もできないだろう。絶対防御に関してはもはやカスタムする意味もない気がするし。葵のスキルに何かあればスキルカスタムしていこうと思ったが、スキルはカスタムするほど持っていなかった。当然と言えば当然か。
葵のスキルはユニークスキルが疾走者のみ。エクストラスキルはなし。レアスキル、通常のスキルは一閃と死蝶一閃だ。たったの3つ!?と驚いたが、普通はこうなのだ。普通は。俺が普通じゃないことが証明されて少し落ち込んだのは内緒だ。
2層の武器屋や防具屋を周ったが、俺の武器として使うには弱いものばかりだった。武器の威力自体は1層で一番強いダイヤソードよりも上のアダマンソードがあったが、どうしても特性なしという点で見劣りしてしまう。また、防具は俺の特注のベアアントの装甲で作った防具の方が性能がいい。この階層では硬い敵がいないのだそうだ。葵の武器はアダマンタイトで作ったアダマンナイフを購入。防具は速度を重視して軽い装備であるドラゴンフライドレスを購入。トンボの羽を編んで作ったドレスということで葵はどんな反応するか気になったが、
「見た目きれいだしトンボに見えないからいいです!」
と購入。喜んでくれたようだしよかったと思う。
一通り必要なものを買い終えた俺たちは、街を見て回ることにした。街はギルドを中央に波紋のように広がった構造をしていて、ギルドから商業区、ホテル区、居住区、農業区と別れているらしい。ギルドと商業区は賑わっており、人通りも多いが、そこから外側に行くごとに人の数は減っていく。しかし、農業区や居住区はデートスポットも多いらしく、カップルは多い。俺たちはまずギルドの中に入る。ギルドも円形になっており、中央に禍々しい魔物の像が仁王立ちして立っている。その周りに机や椅子が並び、像の正面の方に受付が、背後に関係者以外立ち入り禁止と書かれている札がある部屋が。チラッと中をのぞくとどうやら2階と地下へ続く階段のようだ。階段のある入り口の右側には掲示板が、左側には長椅子が並んでいる。
葵は仁王立ちする魔物にくぎ付けだ。俺もどうしてこんなものがあるのかと気になってしかたない。俺たちが魔物の像を見ていると、俺の横にいつの間にかプレイヤーが来ていた。
「お前さん、昨日登ってきたプレイヤーだろ?」
「え?あ、はい」
「なんでわかった?って顔してんな。わかるぜ。ここにいるやつらでこの人のことを知らない人はいないからな」
「なるほど。で、この魔物はなんなんですか?」
「この人は大魔王カリュブディス。英雄と呼ばれるプレイヤーだ」
カリュブディスと言えば2万のプレイヤーを率いてアルティメットガーディアンを倒したというプレイヤーだったか。男は語る。
「カリュブディスはすごかったでぇ。あいつの攻撃を受け止めやがったからなぁ。まあ、だから油断して近づいたやつらが死んだってのもあるだろうが、少なくともあの人が英雄なのは間違いねえ」
カリュブディスってどんなやつなのだろうか。あのアルティメットガーディアンの攻撃を受け止めるとは。相当の強さなのは間違いない。
「近づいたやつらが死んだとき、カリュブディスは無茶苦茶怒った。そして俺たちに言ったんだ。そこから動くんじゃないと。それから一人でアルティメットガーディアンと戦った。あの気迫と溢れ出すオーラ、それにかなりの距離なのに伝わるカリュブディスが放つ炎の魔法の熱はそれだけで相当の火力だったのがわかるんだ。いまでもあの熱はこの身に焼き付いて離れねえ。風呂入っても40度じゃ温く感じるくらいだ」
わっはっはと笑う男。俺はカリュブディスは今どこにいるかと聞いた。
「カリュブディスはもう上の階層に行ったよ。聞いた話じゃもう7階だとか」
「あなたはついて行かなかったんですか」
「無理だ。あれだけの強さのプレイヤー頼みでここに登って来たんじゃ、2層でも死んでまう。俺はここで残りの期間を過ごすことにしたんだ」
男はそれだけ話すとじゃっと言って立ち去って行った。俺たちは2層のプレイヤーの大半がカリュブディスの戦闘をみて心が折れ、この階層に残ることを決めたのだと察した。それでもここまで連れてきてくれたカリュブディスを英雄と称え、感謝しながら生きている。それはなんだか罪の意識を感じて懺悔しているようで、いい気分ではない。カリュブディスもそんなことをされるためにここまで来たのではないだろう。俺がカリュブディスの立場だと、階層を遡ってでもやめさせるだろう。俺たちはギルドから出て、商業区のレストランに入る。レストランではハンバーグ、ステーキ、ピザに焼き魚定食。子供の頃夢にみた骨に大きな肉がついており、そのまま焼いたようないわゆる漫画肉もある。しかし彼女の前でこれに齧り付くというはしたないことはできない。俺は上品にステーキ定食を頼むことにした。彼女は魚定食を頼む。
「魚好きなの?」
「大好きです!海のものなら何でもござれ!サザエにナマコにウニ、イクラ!マグロ、サバ、ブリ、タイ、ハマチ!」
海のものならゲテモノでも食べるという彼女に少し苦笑しつつ、料理を待つ。しばらくすると、おいしそうなステーキ定食と魚定食がやってくる。焼き魚の見た目はタイに似ているだろうか。ステーキは牛の肉に似ている。一口食べると口の中にトロンと溶けるように広がりつつも、形を残し、噛めばその歯ごたえに感動する。彼女の方も頬を抑えおいしそうに食べていた。
「おいしい?」
「はい!食べますか?」
「いいのか?じゃあ」
と取ろうとすると、箸で身を取ってあーんと差し出してくる。少し恥ずかしいがいただく。身がしっかりとしていて、塩味がよく効いている。噛めば焼き鯛に似た味が口に広がる。
「おいしいですか?」
「ああ、無茶苦茶うまいよ。ほら、俺のステーキも一口どうぞ」
俺がそういうと、葵は不機嫌そうに顔を歪める。
「あーんしてください!」
「ええ……」
葵があーんと口を開けるから、仕方なくステーキを一口取り、あーんしてあげる。
「えへへ、間接キスですね」
「ばっ!?」
恥ずかしげもなくそういう葵に俺の顔が熱くなる。これでは俺が変に意識しているようだ。
「どうしたんですか?冷めちゃいますよ」
葵には勝てそうにないかもしれない。俺たちは少し甘酸っぱい時間を過ごし、レストランを後にした。商業区を見て回ると、防具の他に防御力のないただの服を売っているブティックやアクセサリー店、本屋などのショッピングを楽しむための施設があり、二人で回る。葵は服屋でいろんな服を着ては見せて来て、アクセサリー店では大はしゃぎ。本屋ではほかの世界の本を読んで楽しそうにしている。
一通り店を回っていると、すでに夜になっていた。俺たちは店を回っている間に聞いた居住区の公園へ行く。そこは大きな木が一本生えており、その周りを色とりどりの妖精が飛び回り、まるでクリスマスツリーのように見えた。また、木の周りを小人が踊る。それは現実では見られない光景だった。他のカップルたちがベンチに座り、その光景を見つめている。俺達もベンチに座り、その光景を眺めた。
「きれいですね……」
「ああ……」
「私、本当は生き返りなんて興味なかったんです」
「え?」
「ただ、あなたにお礼が言いたくて」
俺は彼女の言葉を静かに聞く。
「変ですよね。あなたもこの世界に来るかわからないのに。なのにこの世界に来るって何故か確信してて。それで、この世界に来たんです。ただ、あの時お礼を言いたかっただけなのに。あなたのこと考えてると居てもたってもいられなくなって、街を飛び出しました。そしたら犬に追いかけられて、気づいたら前線基地にいて、皆さんにお世話になりながらあなたがいつか来るんじゃないかって街に戻らずに待ってたんです」
「もし俺があそこに来なかったらどうしたんだ?」
「ずっと待ってたかもしれません」
俺はどうしてとつぶやくと、葵はこちらを見る。その頬は赤く染まっていた。
「助けられた時から、好きになってたからかもしれません」
これは告白だ。心臓の音が大きく聞こえる。うるさいほどに。イルミネーションに照らされた彼女はとてもとてもきれいに見えた。
「俺も、葵のことが好きだ」
俺を信じてくれて、一緒にいて楽しい気分にさせてくれて、いざというときに助けてくれた葵のことを好きなのだ。
「一緒にいよう。この世界でも現実世界でも。俺が葵を守るから」
「はいっ!」
俺はそっと口づけを交わす。触れるだけの優しいキスだ。まだこの世界に来たばかりだ。この先何があろうと俺は彼女を守り通すと心に決めた。