時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない?   作:Firefly1122

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叶える者

 私は陸上部に入り、特にいい成績だったわけでも、悪い成績だったわけでもなく、ただ平凡な部員だった。ただ、走るのは誰よりも好きで、自己練は欠かさず行っていた。走っているときの風を切る感覚、走り終わった後の心地よい疲れは生きている実感を与えてくれた。同じ部の友達からは、女の子らしくないよと言われ、彼氏できないよとも言われた。余計なお世話だ。いいんだよ。私は楽しく生きられれば。

 部活帰り、大きなビルが立ち並ぶ街をぶらぶらと歩いて、ガラス越しに見える服やケーキ等を見つつ帰っていると、急に地面が揺れ、私はバランスを崩し、その場に倒れた。咄嗟に頭を持っていたカバンで守り、目をつぶる。激痛が走った。驚き、目を開くと、私の足に大きなガラスが刺さっていた。目の前のことが信じられなかった。自分の足を貫くガラスの破片。ガラスに伝って赤い液体が地面に滴る。本当に痛いときは声も出ず、頭も真っ白になる。

 困惑し、今にも泣きそうな私の前に、男の人が現れた。同じ学校の制服、ネームプレートは上の学年の色だ。

「大丈夫……じゃないよな」

 と声をかけてくる男の人に、いまだパニックで何も答えることはできなかった。すると彼は、手慣れた手つきで私の足を縛り、出血を抑える応急処置をしてくれた。嬉しかった。しかし、そんな束の間の安堵を壊す叫び声が聞こえてくる。津波が来る、と。足はこの状態で逃げることはかなわない。

「どうしよう。これじゃ走れない」

 と独り言ちた。絶望だった。もう走れない。私の生きがいであった走ることはもうかなわない。何ならこのまま津波に飲まれて死んでしまうのだと。そんな私を見て、彼は背を向け、乗れと言ってくる。私を抱えたまま逃げられるはずもない。私は一度拒否したが、彼は声を荒げ、怒鳴る。私は何も言えず、背中に乗る。彼は私の怪我を触らないよう細心の注意を払いながら、それでも急いでビルを駆け上がる。そんな彼の背中に私は初めて恋をした。たくましく優しい背中だった。

 ビルの最上階のソファーに座り、ひとまず落ち着いた。落ち着くと足がズキズキと痛み始めた。足に注意を向けたとき、ビルが大きく揺れた。また地震かと思ったが、違った。津波がこのビルにぶつかったのだ。大きな物音が立て続けに起こり、足場がなくなった。悲鳴を上げドスっと鈍い痛みが体に走り、私の意識はなくなった。

 

 気が付くと、ふわふわとした感覚、真っ白な世界に困惑する。そこへ透き通るような声が聞こえてきた。

「あなたは死ぬ前に、何を望みましたか?」

 質問の意味を理解するのに時間がかかった。死ぬ前に?それって私は死んだということ?ということはここは天国なのかな?と。長い間そうしていたからなのか、もう一度同じ質問が聞こえてきた。

「あなたは死ぬ前に、何を望みましたか?」

 とりあえずその質問に答えなくては。

「私は、逃げたかった。生きたかった。走りたかった。あの人に迷惑かけたくなかった。もう一度あの人に会えるなら、ちゃんと謝りたい。ありがとうって言いたい」

 その答えを聞くと、声は静かに話し始める。

「わかりました。あなたに走る力を与えましょう。また、あなたの会いたい人と結ばれるように能力を与えましょう」

「結ばれる!?え!?私が!?あの人と!?まだ、そんな、まともに話してないのに!」

 私は顔が熱くなる。ドキドキと胸の鼓動が高鳴る。あの人と結ばれ、あんなことやこんなことをする私を想像して死にたくなった。いやもう死んでるんだけど。そんな私を無視して、声は語り始める。

「この後は死後の世界”エイデン”の管理人から話を聞いてもらいます」

 しかしこの声は私には届いていなかった。

 おーいと声をかけてくる声で、ようやく私は我に返った。そこには真っ白で可愛らしい少女がいた。私はかわいいものが大好きだ。その子を見たとき、私は声を上げた。

「か、かわいい~!」

 私はその子を撫でたくなってじわじわと近づく。少女はそんな私に危険を感じたのか私から距離を取る。

「おい私は神だぞ!気安く触るでない!」

 私ははっとした。かわいいものを見るといつもこうだ。改めて少女を見る。

「えっと、神様……ですか?」

「そうだ。これからお前が行く世界の話をする。よーく聞くように」

 神様は私にわかるように説明をする。ゲームなんてしたことない私にはゲームのようなものと言われてもピンとこなかった。唯一分かったのは、生き返りができること、死ぬとそこで終わりであるということだった。神様は理解しない私に疲れたようにわかったか?と聞いてきた。とりあえず私は分かったと答えた。

 そんな私を見た神様は手に負えないといった感じであきらめて、何もないところに手をかざす。すると不思議な模様が現れ、そこから光が立ち上る。

「さあ、ここに入ってエイデンへ行くんだ」

 私は促されるままにその光へ入った。視界が真っ白になり、思わず目を瞑る。ざわざわと喧噪が聞こえ、恐る恐る目を開けると、そこは見たことのない世界だった。外国へ来たような感覚だった。私がその光景に見とれていると、急に声をかけられる。

「君は新しいプレイヤー……」

 言い終わる前に私は悲鳴を上げて逃げ出した。目の前に人間と同じサイズの大きなトカゲがいたのだから。

 

 なりふり構わず逃げ続けると、何やら鎧を付けた人が私の方に走ってくる。私の方に走ってくる!走ってくるということは、さっきのトカゲの仲間!そう結論付けた私は、一目散に逃げだした。どこを走っているかは分からないが、そこは広い平原で、周りに誰もいない。私は一呼吸置く。すると、グルルと唸り声が聞こえてきた。ふと後ろを見ると、目つきが怖い、いかにも狂暴そうな犬がいた。私は再び逃げた。森の中を走り、大きな大木の麓に人工物があるのを見つけ、私はそこに駆け込んだ。やっとまともな人に会えた。

「人だ!よかった~」

 私は安堵でそこにへたり込むと、男の人が2人話しかけてきた。

「よくここまで来れたな。君も先遣隊ギルドの者か?」

 私はよくわからず、トカゲや鎧を着た人や狂暴そうな犬に追われて逃げてきたことを伝えると、男の人に笑われた。

「君は本当に何も知らないんだな。とりあえず一つ一つ説明していくから、そこに座りな」

 私は促されるままに四人掛けのテーブルに座る。一つ一つ丁寧に説明されて分かったのは、戦って強くなれること、私のスキルは疾走者というすごいスキルだということ、そして私がびっくりして逃げたトカゲは、別の世界から同じようにしてこの世界にきたリザードマンといういい人だということだった。また、鎧を付けた人はいわゆる警察みたいなもので、犬は逃げて正解のモンスターであるということだった。

「ひとまずこれだけ理解できればいいだろう。君はまだこの世界に来たばかりなんだろう?一緒にレベル上げしてやるから、パーティー組もうぜ」

 親切な男の人に促されるままに、私はその人達とパーティーを組んだ。名前はリーグとオリーブというらしい。

 私はゲームをしたことがない。ましてや戦ったことなどあるはずもない。渡された短い剣の振り方なんてわからない。目の前に迫ってくるモンスターに、私は逃げるという選択しか出てこなかった。そのたびに二人は怒鳴るのだ。もう嫌だ。こんな物騒な世界は嫌だ!そう思い始めていた。しかし、生き返るためには塔をクリアする必要がある。

 しばらく一緒にレベル上げをしていると、リーグとオリーブは

「もう荷物運びしてくれ。君に戦いのセンスはない」

 と言われてしまい、パーティーから外れて、そのキャンプ地のお手伝いをすることになった。それではレベルも上がらない。が、ここは安全だった。みんないい人ばかりで、私専用のキャンプまで用意してくれた。戦いに参加しない以上、少しでも役に立つために荷物運びとかをして、生活する。そんな日々が1カ月続いたとき、私の前にあの人が現れた。心が浮き立つ。ドキドキと止まらない。それを誤魔化すように口が動く動く。自分で何を言っているかも分からない。

 あの人の名前は静流という名前だった。話していくうちに、私は静流さんとパーティーを組むことになった。そしてパーティーを組んで分かった。彼はスパルタだ。あの恐ろしい犬と戦わせるというのだ。いざ対面すると、やはり私に向けられる殺気に足がすくむ。ここは現実であり、あれに噛まれれば容赦なく死ぬだろう。恐怖に負け、逃げ出すと、犬は私を追いかける。

「こいつはすげえや。ブラックパンサーよりはやい」

 静流さんは私の気も知らずにのんきなことを言っていた。私が必死に助けを求めると、気が付けば私は抱えられ、私を追ってきていた犬はすべて消えた。何が起こったか全くわからなかった。

 再び犬の前に立たされた私は、静流さんに教えてもらいながら、戦い方を学ぶ。短剣をぎゅっと両手で握り、目をつぶると、頭の中に文字が浮かぶ。一閃。その文字をなぞるように読むと、体がぎゅんと加速するのが分かった。静流さんが近づいてきて、やったなと声をかけてきたが、私には全く実感がなかった。

 その後、何度か練習し、戦い方が分かってきた。そして戦えるようになると、私の中の恐怖心もだんだんと薄れていった。自分に確かな自信が湧いてきた。今ならあのトカゲも倒せるかもしれない。

 

 次の日の朝、憧れの人と一緒にいられると思うと浮足立って、居てもたっても居られなくなり、彼のキャンプに入り込んだ。

「なんでいるんだよ」

 その問いに答えていると、ギルド長のゼラチナさんが入ってきた。どうやら勘違いされたようで、それに慌てた静流さんに追い出された。

 ゼラチナさんの用事は、静流さんに作戦指揮官を任せるという話だった。私はなんだか誇らしくなった。好きな人が大役を任されると、どうしてこんなに嬉しいのだろう。本人は嫌そうだったけど。

  ゼラチナさんと別れて、蟻の古城という穴の中に入っていった。そこは人間の数倍の大きさの蟻がうじゃうじゃと居た。静流さんは私に安全なところで見ているように言って、一人で蟻に戦いを挑んでいった。彼の動きは人間のそれではなかった。蟻の攻撃をギリギリのところで回避し、壁を走り、燃える岩を撃って蟻を次々と光の粒子へと変える。昔見ていたアニメの主人公を見ているような気分になり、体が震えた。かっこいい!と。私に学ばせるように戦ってくれたみたいだけど、あんなのは真似できない。それでも少しでも戦えるようになりたい。彼に近づきたい。そう思って、静流さんに戦いたいと言うと、彼は楽なところで練習しようと言ってくれた。

 キャンプからはかなり離れ、大きな壁が見える平原の近くにある穴の中へ入る。そこはモグラと気持ち悪いコウモリがいた。気持ち悪いコウモリは静流さんが撃ち落としてくれて、私はモグラに集中できた。静流さんからは、相手の後頭部を狙えと言われているため、一度背後に回らないといけない。疾走者で近づき、攻撃をジャンプで躱し、後ろを取るとすかさず一閃。モグラは光の粒子となって消えていった。それを何度か繰り返すと、自分の体の動きが分かってきた。生きていた時より体が軽く、素早く動ける。楽しい。そう思えてきた。

 洞窟を進むと、あのでっかい蟻を超える大きさのモグラが出てきた。私は少し怖くなったが、彼に大丈夫と言われ、勇気を出す。モグラとの戦いと同じように、一気に近づき、背後を取ると、先ほどの戦いの中で手に入れた新しいスキルを繰り出す。死蝶一閃。その一撃はデカいモグラを一撃で葬る。彼に聞くと、無茶苦茶強いスキルだったようだ。私は彼に褒められ、嬉しくなった。

 

 数日後、いよいよ塔の攻略が始まった。9500という人数が集まり、その全員が正面の台を見る。そこにはゼラチナさんが立っていた。

「聞けっ!我々は10年間、一度もここを突破できなかった!それは我々に力がなかったからだ!しかし今回は違う!突破できる兆しがある!皆も聞いているだろうが、私が見込んだ一人のプレイヤーがこの戦いの要だ!今回の指揮は彼に行ってもらう!皆もしっかり言うことを聞くように!誰一人として死ぬことは許さない!」

 その声には賛否の声があった。しかし、誰も強く非難はしなかった。一人を除いて。

「どうしてそんな子供が指揮官なのだ!」

 その男の人は、昔話でみたことあるような王様風の人だった。その人の登場で、周りはざわざわとなる。私もその人にはいい印象を抱かなかった。その人は、騎士団を連れて我先にとゲートに入っていく。それに続いてみんなも入る。中は9500人が入ってもなお動けるほどの広さだった。ゼラチナさん曰く、入る人数によってその広さが変わるとのこと。そして暗い部屋の中で唯一明かりが灯る場所には、赤い鎧を身につけた巨大な騎士がいた。全員が部屋に入り、あらかじめ決めていた陣形に展開すると、部屋が一気に明るくなり、その巨体は動き出す。

 壮絶な戦いだった。先陣を切って戦い始めた静流さん、それを援護するようにまわりの人たちは遠距離攻撃、支援魔法を行う。近接攻撃しかできないものも攻撃しようとするが、静流さんは来るなと声を荒げる。静流さんの攻撃が全然入っていないようだった。遠くでよくわからないが、それは隣にいたオリーブさんが話してくれる。

「あのフルプレートの隙間に剣を刺すことでしか攻撃で来ていないようだ」

「それって静流さんのスキルがうまく発動しないってことですか?」

「ああ、刺突系のスキルじゃないと効果がいまいちだろう」

 刺突系、それは私の得意分野だ。じゃあと私も前に出ようとしたとき、先ほどの王様が声を上げて、騎士を連れて前に出る。静流さんもゼラチナさんも声を荒げ、それを制止するが、止まらない。赤い騎士の攻撃の出を見て、前衛の騎士は盾を構えた。体の大半を守る大楯だった。しかしそれは、何の意味もなさなかった。騎士は大きな剣で吹き飛ばされ、後ろの騎士もろとも消し飛ばされた。文字通り、消えたのだ。光の粒子となって。人が死んだ。この世界に来て初めての人の死だった。

「ひっ」

 私は小さく悲鳴を上げた。周りの人たちも同じだろう。屈強で大きな盾を持っていた騎士が、いとも簡単に、しかも数十人まとめて死んだのだ。その後はもはや戦いどころではなかった。次々と逃げ出す周りの人たち。その辺りで腰を抜かしている人もいる。そんな中、オリーブさんとリーグさんは周りを鼓舞する。

「落ち着け!相手は遠距離はない!近づかなければ死ぬことはない!攻撃できるものは少しでも攻撃するんだ!」

 リーグさんはそう呼びかけ、オリーブさんは再び遠距離魔法の詠唱を始める。その姿は静流さんとは違い、戦いに生死をかけているように見えた。とうの静流さんは、攻撃が通らず焦っているようだった。しかし、焦りは見えるが、まだ余裕そうだった。何かセーブをかけているような、そんな感じだった。

 戦いはその後も数時間経過し、オリーブさんも

「MPが切れた。遠距離攻撃での支援は難しい」

 とつぶやく。しかし、オリーブさんもリーグさんも、まだあきらめている様子はなかった。MPが切れたということはもう戦うことはできないということのはずなのに。

「まだあの騎士倒れてないのに……どうしたら……」

 私がそうつぶやくと、リーグさんはこう答えた。

「遠距離攻撃ができないなら、刺し違える覚悟で前に出るしかあるまい。何としてでもあれを倒さないと、俺たちは生き返れないんだ」

 闘志の消えないその二人に対し、静流さんは目に見えて疲労していた。この世界では疲れるということはないが、何時間も戦い続けていれば、精神的疲労は目に見えて出てくる。私は意を決して前に出ることにした。

「静流さん!」

「葵!?」

 私が前に出てきたのを見て、静流さんは驚いている様子だった。そして私に、下がれと言うが、私は引かなかった。

「もう、守ってもらう私ではありません!少しでも戦力にっ!」

 そう言うと、静流さんははっとしたような顔になった。そして私に死蝶一閃を放つように言った。静流さんは死蝶一閃の即死にかけるつもりのようだ。死蝶一閃の即死が発動する確率は低い。しかし、私だったら、それは100%の確率にできる。誰にも教えていないスキルがあるから。

「俺が全力で足止めする。一気に駆け上り、あいつの弱点にあれをぶちかましてやれ!」

「っ!わかりました!」

 そう返事して、私は前に出る。静流さんの紡ぐ者はほとんど拘束できていない。しかし、静流さんは奥の手として、魔法を唱えた。それはその巨体を跪かせて、私が駆け上がる足場を作った。騎士の膝を踏み台に、練習の時のように、弱点を狙う。狭い隙間だ。この短剣をその隙間に入れられなければ、間違いなく赤い騎士に殺されるだろう。しかし、その恐怖心を打ち消し、私は死蝶一閃を叩き込む。狭い隙間に吸い込まれるように短剣は入り、大きな髑髏マークを出す。私はすかさず鎧を蹴り、距離を取る。騎士は動かなくなっていた。そして、徐々に光の粒子となって消えた。

 戦いに勝ち、皆歓声を上げたが、素直に喜べるものではなかった。ゼラチナさんはこう言った。一人も死ぬことを許さないと。それが、王様の独断で前に出たことで、1500人の騎士が犠牲となったのだ。それでも私たちは生きている。

 静流さんは、私にこれからどうするかと聞いてきた。今回みたいに守ってやれる自信はないと。私はそうは思わなかった。私は静流さんについていくと宣言すると、そっぽを向いて、階段を降り始めた。夕日がとても美しく、生きているという実感があった。願いを叶える能力。叶える者、それは私の恋の成就という願いを叶えてくれた。そして、騎士を倒したいという願いも。

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