時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
二層に上がって早1カ月。二層の町を満喫した俺たちは、ギルドに来ていた。理由は二層のダンジョンを攻略するついでに、依頼をクリアして金を稼ぐためだ。しかし、二層の地理も出てくるモンスターも分からないではどの依頼がいいのか分からない。俺たちは依頼を読みつつ途方に暮れていた。
「このデビルフライっての、名前からもう怖いですね」
「悪魔だもんな。どんなモンスターなのやら。まあ、俺の時止めがあれば余裕だろうが」
「ふふ、頼りにしてます!」
俺たちがそんなのろけ話していると、背後から声をかけられる。
「あー、邪魔して悪いが、ちょっといいか?」
声をかけてきたのは、ゼラチナ。その隣には見たことのない男がいた。
「ゼラチナさん。えっと、そちらの方は?」
「二層のギルド長、ギリアスさんだ」
「どうも。ギリアスと申します」
淡々と自己紹介をするギリアスの顔には生気がなく、何もかもを諦めた人間の顔をしていた。俺たちを見る目はどこか軽蔑しているようで、俺はいい印象を抱かなかった。
「ここで立ち話もなんだし、奥の部屋で話そうか」
ゼラチナに促され、ギルドの奥の部屋に通される。途中すれ違ったギルドの職員がお茶をテーブルに置くと、さっそく話が始まる。
「聞きたいことは2つほど。1つは絶対守護者のことだ。君は炎が効かないと言っていたな?」
俺は戦いを思い出す。絶対守護者にゼロ距離で炎を撃って、それは無効化された。俺はそれを炎が効かないと判断し、それをゼラチナに告げたのだ。ゼラチナはオーバーなほど驚いていた気がする。そう言えば絶対守護者の能力であるユニークスキル「絶対防御」を取得したが、それは状態異常無効とダメージの軽減というものだった。炎無効などという能力はなかった。
俺が戦いを思い出していると、ゼラチナは話を続ける。
「かの英雄、カリュブディスは炎を主体として戦うプレイヤーだった。無論、絶対守護者との戦闘でも炎を最大限扱い、戦っていたと聞く。炎が効かなければカリュブディスの攻撃は通らないと思うのだ。炎が効かないというのは本当なのか?」
「ええ、間違いないと思います。」
「歯切れの悪い返事だね。君の能力はある程度理解しているつもりだ。もしかして絶対守護者の能力は取得できなかったのか?」
「いえ、あいつの能力は絶対防御。状態異常無効とダメージの軽減です」
俺は自分のスキル本を見せながら話す。
「炎無効などと言うスキルはないな。ギリアスさん、これはどういうことでしょうか?」
今まで黙って聞いていたギリアスはしばらく考え込んだ後、話始める。
「1つは、絶対守護者の能力ではなく、それが身につけていた鎧のスキルである可能性。1つは、炎無効は勘違いである可能性だ」
「鎧のスキル?」
「君は武器や防具にスキルがあることは知っているか?」
「ええ」
俺は一層で聞いた話を思い出す。武器や防具には特性というものがあるということ。俺が愛用しているブラッククロウには、軽業と貫通という特性がある。それと同じように、絶対守護者の鎧にも特性があったということだろうか。
「知っているのなら話は速い。絶対守護者の防具にも炎無効の特性がある可能性がある。もっとも、階層守護者の防具やアイテムは入手できないから確認しようがないが」
そこで俺は疑問が頭に浮かぶ。
「炎を使っていたカリュブディスの能力は、その特性で無効できなかったんですか?」
ギリアスはその問いには答えない。まるで私にわかるとでも?と言いたそうな顔だ。その代わりに応えたのはゼラチナだった。
「カリュブディスの実力は今でも語り継がれるほど桁違いのものだ。炎無効をもってしても防ぎきれなかったのではないか?」
炎無効を無効化していたってことか。なんだその小学生の攻撃無効化無効化攻撃みたいなやつ。この世界は何でもアリか?
「カリュブディスってどれほどの強さだったんですか?」
その問いにはギリアスが答えた。
「絶対守護者の攻撃をその身で受けてなお戦い続け、圧倒的な防御力をその炎で焼き尽くす。あれはまさに炎の化身ともいえるものだった。私たちは彼に頼り切りだった。その力であればこの先も進めると、そう思っていた」
ギリアスはそこで遠くを見るような眼をし、天を仰ぐ。そこでずっと黙っていた葵がギリアスに問う。
「進めなかったんですか?」
「……四層、あそこでカリュブディスの力を信頼し、生き返れると思っていたプレイヤーのほとんどがリタイアした。かくいう私もそうだ」
「四層で何が……」
「私から言えるのは、それでもなおカリュブディスは進み続けているということだけ。あんな戦いをずっと続けていられる者はもう人とは呼べぬ。もっとも奴は魔王であり、人ではないのだが」
ギリアスは天を仰ぎながら、手で目を覆う。その指の隙間から頬を伝う涙は隠せてはいなかった。ただ思い出しただけで涙を流すとは、それほどの戦いがあったのだろう。
「君たちも察したかもしれないが、ギリアスさんは4層まで上り詰めたプレイヤーだ。私も話を聞いた程度でしかないが、四層は人々の心をへし折る何かがある。とまあ、そういうわけで聞きたかったのはこれ関連の話なんだ」
ゼラチナはそこで姿勢を正し、真顔で聞いてくる。
「絶対守護者という圧倒的なボスの強さを感じたはずだ。生き残った8000人中5000人ほどが二層での滞在を考えているようだ。君たちはこの先に強力なボスがいることを知りながら、まだ進むか?」
俺の心は決まっていた。圧倒的な強さのやつと戦うことはゲームにおいて最も楽しいことである。この先にそんな強いやつがいると聞けば戦いたくなるのがゲーマーの性だ。
「もちろん、この力であればどんな相手だって勝てる気がします。それに……」
俺は葵を見る。葵は俺を見返しながらきょとんとしていた。
「葵という最高のパートナーがいますから。アルティメットガーディアンすら一撃で屠ったこいつがいれば、この先も何んとなかると思います」
ゼラチナはふっと笑う。それに対しギリアスは、驚いた顔をしていた。
「君は今までのプレイヤーとは違う考えを持っているんだな。皆は生き返るために戦うと言っていた。君は強い相手と戦いたいから戦うと。まあいい、それくらい楽観的な人間がこの先何とかしていくのかもな」
ゼラチナがそう言うのに対し、ギリアスは反論する。
「お前たちはこの世界を甘く見すぎだ。一層のボスを遥かに凌駕する敵がこの先待ち受けている。そんな楽観的な考えでは全滅するぞ」
「それほどのものなんですか?四層に何がいるんですか?」
俺が問うと、ギリアスは答える。「死神だ」と。
ギルドを出ると、ちょうどリーグとオリーブがこちらに向かってきていたところだった。
「おお、久しぶりだな」
「ああ、お前たちも元気だったか?」
俺の言葉に、リーグは笑う。
「ははは、この世界じゃ状態異常以外で病気にかかったりしない。俺たちはいつでも元気だ」
「それはそうだ」
リーグはすっと真顔に戻る。
「俺たちは元気だが、二層には元気とは言い難いやつがたくさんいるな。お前たちは何か知っているか?」
それを聞き、俺はギリアスを思い浮かべる。ギリアスと同じであれば恐らくは4層で心を折った者たぢだろう。俺はある程度端折りながらこの先に待ち受けるものの話をする。
「なるほど、四層で心を折った人間がここにいるわけだ。だがまあ気持ちは分からんでもない」
「え?」
俺はリーグの意外な言葉に驚く。
「絶対守護者、一層のボスですらあの強さだ。正直俺たちは手も足も出なかったと思う。この先もっと強いやつがいるとなれば心が折れるのも分かるんだ」
「強いやつがいれば燃えるもんじゃないのか?」
「まさか。命を懸けて戦うのに、強いも弱いもない。強い相手に自分から戦いを挑むなんてのは自殺行為だ。なのに俺たちはそれを強要されている。勝てればよし。負ければ命を失うのに、こちらに打つ手なしだと心も折れる」
街を歩く人々を眺めながら、遠い目をするリーグ。俺とは違う考えのリーグに何と声をかければいいか分からなくなった。するとリーグはふうっと息をつき、話始める。
「だが、それで生き返りを諦めるなんて俺にはできない。俺にはあっちで守らないといけない奴らがいるんだ」
「守らないといけない奴ら?」
「ああ、ま、おいおい話してやるよ。長くなるし楽しい話でもない。それよりもお前たちもダンジョンに行くつもりか?」
「ああ、もちろんだ」
「だったら霧払いの魔法書を買っておけよ。二層はこれが必須になる」
「ああ、わかった。助言ありがとうな」
俺が礼を言うと、大したことはないと言って笑った。オリーブがそろそろ行くぞとリーグを急かし、彼らは立ち去った。
「あいつは本気で生き返るつもりだ」
俺はそう独り言ちた。リーグの発言にはそれだけの覚悟が感じ取れたのだ。対して俺は、いまだに現実味を感じていない。この世界はゲームのような現実の世界。頭の中にあっても、それを本当の意味で理解することはできていなかった。
二層に上がって初めてフィールドに出た。霧のせいで遠くが見えないが、見える範囲の風景から、そこは沼地であることが分かる。ぬるぬるとした泥に苔が垂れ下がる枯れた木。沼地独特の嫌な臭いが鼻を突き、俺は思わず顔をしかめる。
「沼地か」
「臭いです」
葵は鼻をつまんでそう言う。俺は葵の頭を撫でてやる。
様々なゲームや漫画を見たりプレイしたりしてきた俺の経験上、沼地にいるモンスターはヘビや虫が多いと予想される。そしてそんな中もっとも厄介なのがスライムだ。一昔前までは最弱であるとされたスライムだが、最近ではその考えもだいぶ変わってきている。スライムこそ厄介な相手であると。剣や打撃等の物理攻撃は通らず、仮にダメージが与えられても即再生する。また、取り込まれればじわじわと体を溶かされ、逃げるすべもなく殺される。それがスライムだ。もっとも、世界によってその考えは変わってくるため、これが正解とは言えないが、この理不尽な世界ではスライムは厄介な相手で間違いないだろう。他にはワニや蛇も気を付けないといけない。水の近くから唐突に襲い掛かってくるワニは恐らくとてつもない火力を要する。噛みつかれれば容赦なく死ぬだろう。蛇は言わずもがな毒が危険だ。もっとも、毒は俺には効きはしないが。
「だから、俺から離れるなよ?」
「よくわからないけどわかりました!」
フィールドの風景から予想される危険について葵に話したが、この様子だと何もわかっちゃいないだろう。葵と付き合い始めて1か月で葵の性格はある程度理解した。だからもう何も言うまい。俺が守ってやればいいんだ。
沼地ではあるが、道がしっかりと存在する。この道を進めば恐らくは塔へ着くだろう。だが俺が行きたいのはダンジョンだ。沼を避けながら歩ける道を探しつつ、ダンジョンを探す。地図は購入したが、この霧の中ではほとんど役に立たないだろう。超音波は霧のせいで拡散して使えない。
「なるほどな。リーグたちに聞いててよかった」
俺は先ほど覚えた霧払いの魔法を唱える。魔法にも種類があり、通常の魔法とフィールド魔法、限定魔法といったものが存在する。通常魔法がファイヤーボールやゼラチナのスケルタルウォールなどの戦闘で使うことが多い魔法。フィールド魔法は霧払いや取得はしてないが魔法書で売られていたフォローライトなどがそれにあたる。これらにMPは消費せず、何度でも使えるようだ。限定魔法は詳しくは分からないが、なんでもとんでもない魔法が大体これに当たるらしい。魔法書を買うときに店員さんが詳しく教えてくれた。そういえばゼラチナが俺を追跡していた時に使っていた魔法はどれに当たるのだろうか……あれが限定魔法だとは思えないが。
そう考えているうちに詠唱が終わり、強い風が肌を叩く。小さく「キャッ」と声を上げる葵がかわいい。風が収まり、顔を上げると、茶色く濁った沼に浸かり、苔を枝から垂らす木々。それらに止まる虫やいまかいまかと獲物を狙うワニなど、かなりの距離が見えるようになった。
「これで先に進めるな」
「本当に進むんですか?ここ……」
うん。言いたいことはわかる。俺たちが行こうとしてるのは道を外れた沼の先だ。足を踏み入れればこの臭いを放つ沼が体に纏わりつくことになろう。それは潔癖症でなくても躊躇する。しかし、そんなこと言ってもダンジョンへの道はここしかない。俺はできるだけ沼に浸からないような位置を探りながら進む。当然足場の悪い道を往く人間は、モンスターからすれば格好の獲物だ。次々にモンスターが襲ってくる。もっとも、時止めの前に彼らが敵うはずもなく、俺は葵を庇いながら軽くあしらった。そんな感じで沼地を進み、沼地のダンジョンを攻略していった。
それから2年が経った。俺たちのレベルは35になった。そして沼地のモンスターたちのスキルもあらかた手に入れた。残念ながら装備はいいものはゲットできなかった。
ダンジョンデートも飽きてきた俺は、いつもご飯を食べにくるレストランでいつも頼むシーチキンをおいしそうに食べる葵に一層に戻る提案をする。
「葵、久々に一層の街に行ってみないか?」
「一層ですか?そういえば一層観光したことないですね」
忘れていたが葵は一層に来てすぐに塔付近のキャンプに逃げてきたんだったなと俺は苦笑する。一層に戻ってもまた塔に行けば今度はボスと戦わずに二層に戻れる。そのため気軽に一層に戻れるのだ。そんな話をしているとゼラチナが話しかけてくる。
「一層に戻るんだって?」
「ゼラチナさん。いつも狙ったようなタイミングで出てきますね。ストーカーですか?」
2年間の付き合いで時折お願い事をしてくるゼラチナに遠慮がなくなった葵が尋ねる。
「たまたまだよ。で、一層に戻るんだって?よかったら私も同行させてくれないか?」
「どうしてですか?」
「私は一層のギルドマスターだ。もう2年一層のギルドに戻っていない。まあ、理由はわかるだろう?」
二層の敵は一層の敵よりもかなり強い。ゼラチナのレベルはそれなりに高いが、二層を歩くほど強くはないため、塔に向かえなかったのだろう。仲間を募れなかったのかと聞くと、一層に戻るという人は何人かいたものの、二層に滞在するというものと外に出たくないというものが大半だったようだ。もちろん戻りたいという人達の数の暴力で何とか行進はできるだろうが、やはり沼地という足場の悪いところでは事故が起こる。そこで俺たちに声をかけてきたということだった。
「君の力なら全員無事に一層に行けるだろう?報酬は払う。お願いできるか?」
「仕方ないですね。報酬は弾んでくださいよ」
俺は特に問題ないと判断し、そう軽口を叩く。
それから3日後、一層に戻るという人たちと共に沼地を進む。いつも通りのやり方で敵を退けながら進むと、あっという間に塔に着く。塔に着けたことを喜ぶ人たちは我先にと下へ戻るテレポーターに乗る。俺たちもそれに続いて乗ると、視界が真っ白になり、次に目を開くと一層の一番最初に見た景色が目に入る。
「懐かしいな」
「……あのトカゲはいないですよね?」
あの時の景色を思い出しながら懐かしんでる俺と俺の後ろに隠れながらトラウマになったトカゲを探す葵。俺は久々に一馬さんに会いたいなと思った。
「本当に戻れた。助かったよ。これは約束の報酬だ」
そういいながらゼラチナはそれなりの金額をくれた。依頼を3回ほど受けて稼げるほどの金額だ。ここはありがたく受け取っておこう。
「ありがとうございます」
「君たちはどうせ二層に戻るんだろう?その時は最後に私のところに顔出しに来てくれよ」
そういうゼラチナの顔は寂しそうだった。
「そんな今生の別れってわけじゃないんですから」
俺はそんなゼラチナに苦笑しつつ、別れの挨拶をし、階段を下りた。向かうは一馬の家だ。せっかくだから会いに行こうと思ったのだ。しかし、その家はもぬけの殻だった。
「おう?その家に何か用か?」
通りすがりのプレイヤーが話かけてくる。一馬さんのことを聞くと、そのプレイヤーは悲しそうな顔をしつつ話始めた。
「一馬さんはタイムリミットが来て天に召されたよ。最後に挨拶をしに来てくれたんだ」
俺は正直どうしてそんな悲しい顔をしているか理解できなかった。死んだわけじゃない。この世界から退場しただけだ。いや、頭ではわかっている。この世界からの退場は死亡と同義である。だが、この世界はゲームに酷似しているせいで、俺にはいまいち実感がわかないのだ。MMOゲームで仲良くしてた人がある日突然ゲームをやめた程度の認識でしかないのだ。だが、悲しいのはなんとなくわかる。複雑な感情だった。葵は死んだということを理解しているようで残念そうな顔をしていた。知らない人が死んだといわれてもそのくらいでしかないのだ。
「そうですか。ありがとうございます」
俺は話してくれたプレイヤーにそういうと、その場から立ち去った。葵は俺に気を遣うように大丈夫かと聞いてくるが、大丈夫と答えた。
しばらく歩いていると、どこかで見たことあるような顔の男がこちらを見て驚いたように駆け寄ってくる。俺はその顔を記憶の中から思い出すと、クラスメイトのよく絡んでくる奴だった。俺からしたら趣味も違うし俺に絡んでくるのは宿題を見せてもらうためだけのうるさい奴程度の認識だった。
「静流じゃねえか!久しぶりだな!俺だよ俺!海斗だよ!」
「あ、ああ。久しぶり?」
俺がそんな反応だったのに何が面白いのか笑いながら肩を抱いてくる。
「友達と3年ぶりに会ったのにその反応はなんだ?そっちはお前の彼女か?よろしく!」
そういいながら葵を見る海斗。陽キャ特融の軽さに少々怖気づく葵。そして海斗はこういうやつだったとうんざりしてきた俺。はたから見たらよくわからない組み合わせだろう。俺は海斗を押しのけながら、海斗の状況について聞く。
「お前もこの世界に来てたのか。なんで?」
「なんでってお前も同じだろ?あの大津波だ。そして神様とやらにスキルとやらを貰ってこの世界に飛ばされた。正直よくわかんねえよな!とりあえずこの世界で学生の身でできる仕事に就いて過ごしてたところだ」
なんでも建設業の仕事をしているらしい。スキルについて聞いてみると、これがとんでもないスキルだった。
ユニークスキル「無敵」。文字通りあらゆる攻撃を受けなくなるというものだ。どういう願いをしたらこんなとんでもスキルを貰えるのか。俺はこいつがなんでいまだにここにいるのかわからなくなった。レベルを聞いてみると5。レベリングをしていないのがよくわかる。
「たまにダンジョンに誘われて行ってたらレベル上がったよな」
そんな風に笑う海斗に頭を抱えた。そんな様子を何をしたらいいのかわからずおどおどしながら見ている葵。俺はそんな葵に申し訳なくなってきて、そろそろ別れようと海斗に別れの挨拶をし始める。
「俺たちはこのあとデートだ。というわけでそろそろ……」
「葵!?葵じゃーん!!」
俺の声を掻き消す勢いでそう葵に話しかけてくる一人のギャル。葵とは正反対のような女子が葵の手を握って嬉しそうに跳ねていた。
「美子!?」
葵はその相手の名前を驚いたように呼ぶ。美子と呼ばれたその女子は俺たちの存在に気づき、自己紹介を始めた。
「やっほー!あたしは美子っていいまーす!この葵とは幼馴染で親友でーす!」
頭の上でピースをしつつウィンクする褐色肌の金髪女子は、葵と幼馴染で親友らしい。正反対の彼女たちが親友とは思えないが、葵は親友と会えてうれしそうだ。
「美子が来てるなんて思ってなかったよ!」
「それはあたしも同じ!葵が来てるなんて思ってなかった!で、この人たちは誰?彼氏?」
「そう!私の彼氏!彼氏の静流さん!とその友達さん」
そう胸を張る葵。それを聞いた美子は驚いたようにこっちを見る。
「うっそ!あの葵に彼氏!?」
そういいながら俺を品定めするように見る美子。
「しかもなかなかにいい男じゃん!ねね、あたしとお茶しない?」
「ちょっと!私の彼氏を口説かないでよ!」
もうめちゃくちゃだ。とりあえず近状報告や自己紹介を兼ねて近くの喫茶店に入ることにした。
「改めまして、あたし八条美子っていいます。葵とは幼稚園のころからの親友で趣味は男漁りかなー。あとおしゃれとか?よろしくー」
「俺は近藤海斗。こいつとは高校の友達で、良く宿題とか見せてもらってる仲だ!よろしくな!」
「それって仲いいっていうの?ただのパシリじゃね?」
「そんなことねえって!休み時間もだらだら話す仲だし」
「それはあたしも同じー!葵と最近のファッションの話とかしてた!」
俺たちを置いて二人は盛り上がる。俺は二人をなだめて、この世界に来た理由を聞く。
「この世界って生き返りを望まないと来れないはず。お前たちはなんで生き返りたいんだ?」
「なんでって死ぬのなんとなく嫌じゃん?生き返れるなら生き返りたい」
「俺も似たような理由だな。スポーツ選手になるって夢叶えてないしまだ死ねないなって」
つまりあまり考えずにとりあえず生き返りたいからここに来たと。次にスキルについて聞いてみた。海斗のスキルは無敵だけで、美子のスキルは魅了というものだった。なんでも生き返ってまた男漁りしたいって願いからこのスキルを貰ったらしい。その力は相手の精神に干渉し、魅了した相手を意のままにできるというものだった。しかしこのスキルに関して美子は不服らしい。
「男があたしの魅力に気づいて近寄ってくるならまだしも、こんなスキルで相手があたしを好きになってくれてもなんか嫌なのよねー。でもこれのおかげで男の人がお金くれるから便利よ結構」
このスキルは嫌だといいつつしっかり悪用していた。俺はあきれつつ、この世界のことと生き返りの方法を改めて説明した。そのうえで仲間にならないかと誘う。理由は簡単。海斗のスキルがあればどんな相手でも勝てるからだ。葵の危険が減るから仲間はいた方がいい。もちろん誰でもいいわけではない。それなりの実力がなければ足手まといになるだけだ。それに対して海斗のスキルは有用だし、攻撃手段が少なくても盾として活躍してくれるだろう。美子のスキルがこの世界の敵に効くかはわからないが、昌のようなPKをするプレイヤーには有効だろう。
俺の提案に二人は喜んで乗ってきた。
「よくわからないが、この世界のことよく知っているお前がいるなら大丈夫だな!」
「葵が信頼する君がいるなら大丈夫かなー!あたしも仲間になるよー!」
ちょろかった。俺はこのちょろい二人を鍛えないとと思い、ベアアントレベリングを提案し、可能な限りレベル上げをしたのだった。