時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
一層に戻って三か月が経った。ベアアント狩りで二人ともレベルが上がり、二人の戦い方が決まってきた。海斗は無敵のスキルでダメージを受けないことを利用してハルバードを振り回す超脳筋。美子は魅了を使って相手の動きを縛り、仲間にバフ魔法を使って支援する支援型の戦い方だ。魅了の効果はこの世界のモンスターにもちゃんと効くようで、それで足止めをしたうえで海斗が叩き切るというシンプルながら強い戦法でベアアントをひたすら狩りまくっていた。飽きが来ないか心配だったが、それでお金が稼げるということで二人とも意外に楽しんでいたようだ。
「そろそろ二層に上がろうか。海斗がいればまあ負けることはないだろうし」
一層のカフェで俺はそういう提案をする。一層のボス、アルティメットガーディアンは間違いなく強敵だ。だが無敵のスキルを持つ海斗がいれば負ける未来は見えない。せっかくだから二層に上がりたいという仲間を募って挑む事にしょうと提案した。二人は快諾。葵も一層の観光を楽しんだようで、そろそろ二層に戻ろうと言ったらすぐに了承してくれた。
「そうだ、ゼラチナさんに会いに行こうか」
帰る前に顔を見せてくれと言われていたのを思い出し、ゼラチナの元へ向かった。
ゼラチナは俺たちの顔を見ると嬉しそうに駆け寄ってくる。
「お、静流君。ギルドの依頼かな?」
「いえ、今日は挨拶とお願いをしに来ました」
「ほう、君の方からお願いとは……ああ、なるほど」
ゼラチナは頭が回る。俺の後ろについてくるゼラチナからしたら新顔であろう二人を見ただけで、俺が何を言いたいのかが分かったようだ。
「君もわかっていると思うが、塔のボスを倒した者は二度とボスに挑むことはできない。静流君が同行できない以上危険地帯に他のプレイヤーを送ることはできないんだが」
「分かってますよ。勝算があるから来てるんです」
「……奥で話を聞こうか」
ゼラチナは俺たちを奥の部屋へ案内する。まずは自己紹介と自分たちのスキルを説明。そして作戦を伝えると、ゼラチナは笑う。
「あのアルティメットガーディアンだぞ?そんなシンプルな作戦で勝てるとは思えないが……」
「もちろん。そのために予測不能な事態が発生した場合どうにかできる人材が欲しいんです」
「……わかった。探してみよう」
「よろしくお願いします」
そのあとは雑談をしたのち、別れた。
それから一週間後、ゼラチナに呼び出された俺たちは作戦の準備が整ったことを聞く。なんでも2000人ほど集まったそうだ。これだけいれば何とかなるだろうか。作戦開始はそれから三日後だ。俺たちは塔の前のキャンプに向かい、作戦が始まるまで待機することにした。もちろん、近場でレベリングしつつだが。
三日後、作戦は開始された。俺と葵は先に二層に帰っている。正直心配だった。あんなシンプルな作戦でどうにかできるのだろうかと。そわそわしつつ転移先で待って1日が経った。
「遅すぎる……」
「静流さん……」
葵は今にも泣きそうだ。俺は葵を安心させようと頭を撫でる。と転移先である魔法陣が光はじめ、そこからよく見知った顔が疲れた様子で出てくる。
「いやー時間かかった」
「まったくよ……何なのあの堅さ」
ぼやく二人に続いて疲労困憊といった感じのプレイヤーが続々と出てくる。この様子だと死者は一人もいなかったようだ。作戦は成功だ。
「あ、静流。お前の言う通り倒せたぜ。だがもうあんな戦いは御免だ。一日中動かない鎧を切り続けるなんて作業疲れるに決まってる」
「え?」
海斗の発言に違和感を感じ詳しく聞くと、どうやらアルティメットガーディアンに魅了が通ったようだ。絶対防御は死以外の状態異常を弾くスキルなのにどうしてと思っていると、それをやってのけたのは美子だった。
「魅了が解けるたびにかけ直さないといけなかったから本当に疲れた」
どうやったのか聞いてもしらばっくれている様子もなく、ただ魅了してみたらかかったとだけ言った。まだ俺の知らないシステムがあるのかもしれない。何がともあれ、無事二人は二層に上がれたのだった。
それから6か月後、美子はやたら俺にアプローチしてくるようになっていた。
「ねえ静流!今度南東のダンジョンに二人きりで行きたいんだけどー!」
「いやなんで二人きりなんだよ」
「別にいいじゃん!それともあたしと一緒に行きたいくないっての?」
「そうじゃないが……」
正直うんざりしていた。親友の彼氏を奪おうとしている理由はわからないが、そうしようという企みは明白だった。それは葵も感じていたようで、美子が俺の腕にしがみついてくるたびにむすっとしていた。
「ちょっと!美子!静流さんにべたべたしないでよ!」
「あっごめーん!でも静流も満更でもないじゃん?」
こんな感じの喧嘩が最近多くなっていて、それを海斗が遠目からうざそうに見ていた。見てないで止めてほしいところだが、関わりたくないのかこういう喧嘩を止めてくれた試しはない。俺はうんざりしつつ、日々のレベリングに向かった。
二層に上がって二か月目のある日、沼地のダンジョンである蟲王の巣というところでレベリングとやらをやっていた。蟲王という名の通り、ここは虫系のモンスターが大量に出てくる。虫はあたしにとって天敵だった。気持ち悪い。そんな存在がいること自体許しがたい。そんな相手に私の魅了は効かないのだ。魅了は万能なスキルだと思うが、唯一制約があった。それは自分自身が相手を魅了したいと思わないといけないということだ。あたしは相手が獣だろうが幽霊だろうがおっさんだろうが魅了できる自信がある。なぜならあたしの魅力は全ての生き物に通じるから。だが虫だけはだめだった。
「ひゃっ!」
あたしは虫の羽音にビビッてしゃがみ込む。静流のもう大丈夫という声を聞き、そっと目を開けると、足元に牙が見えた。悲鳴を上げて尻もちをついたあたしに纏わりつくムカデ型モンスター。無数の手が体中を這う感触に気が飛びそうになり、パニックになる。
「やっやだあああ!!」
ムカデを払おうと必死にじたばたしていると、次の瞬間ムカデはバラバラになり、あたしは静流にお姫様抱っこされていた。その時あたしの胸の奥が熱くなる。
昔から恋というものに憧れ、恋というものについていろんな少女漫画とかで勉強していた。男漁りが趣味なのも、恋というものを知りたいがためにいろんな男を食っていただけに過ぎなかった。だが、顔が良くても、性格が良くても、あたしが恋に堕ちることはなかった。おかげで付き合った人数は二桁を超えている。そんなあたしが感じたことない感覚に襲われたのだ。一瞬で理解した。これが恋なのだと。窮地に陥ったお姫様を王子様が助けるなんて物語を何度読んだだろうか。まさにそのシーンだ。まさか相手が葵の彼氏になるとは思っていなかったが、この瞬間親友はあたしのライバルとなった。
それから幾度となく静流にアタックしてみた。色仕掛けしてみたり男が落ちる仕草してみたりと考えられることをやった。しかし唯一魅了だけは使っていない。これは最終手段だ。魅了で簡単に落ちる男に魅力はないし、それは私が許さない。葵は私が静流のことを好きになったことに気づいているだろう。そのせいであたしたちの関係はどんどん悪化する。そして二層に上がって1年後、ついに葵が爆発した。
「いい加減にしてよ!静流さんに近づかないでよ!」
今までに向けられたことのない葵の怒り。だが、あたしも本気だ。これにあたしは真向から立ち向かう。
「嫌だ!あたしが初めて好きになった相手だもん!あんたから奪ってでも物にしてやるわ!」
いままでどんな手段でも落ちなかった相手に、ついにあたしは最終手段を使う。魅了。その効果は静流曰く状態異常を完全に無効にする相手にすら通じるという。これで落ちないわけがない。しかし、どういうわけかあたしの魅了は静流には通じなかった。
美子は静流さんのことが好きだ。それに気づいたのは二層に上がって三か月目のころだ。やたら静流さんにアタックする美子に私はやきもちを焼く。私の彼氏に手を出すなと、無言の訴えをする。美子にアタックされても美子を突き放さない静流さんに私はイライラし始めていた。それは静流さんも感じていたようで、宿屋でいつもなだめてくれる。でもそれで私のイライラが収まることはなかった。
一年が経ったころ、私のイライラはついに爆発した。美子に対し、今までに向けたことのない怒りをぶつける。それに対して美子はあろうことは向かってきた挙句、魅了のスキルを使って静流さんを落とそうとしていた。魅了のスキルが発動した場合、対象に♡マークのようなものが浮き出て、体がピンク色に輝く。魅了のスキルの効果は絶大だ。たとえ初対面の相手だろうが種族が違おうが発動する強力なスキルだ。それに対して私は無力だった。卑怯だ!この女!私は思わず短剣を取り出す。が、不思議なことが起こった。確かに魅了は発動した。しかし、魅了状態である証拠の体がピンクに光るという状態が起こらなかったのだ。それに狼狽したのは美子だ。
「噓でしょ!?なんであたしの魅了が効かないの!?」
「いや、俺にもわからん……。でも俺はずっと葵のことが好きだからかも」
静流さんの言葉に私は嬉しくなったたまらなく勝った気がした。そして思わず静流さんに抱き着くと、静流さんも私を抱きとめてくれる。美子は今にも泣きそうな顔をして、走り去っていった。
「いや、本当になんで魅了が効かなかったんだ?」
デリカシーがない静流さんの言葉は聞かなかったことにした。
美子の魅了事件から半年。葵と美子は険悪ながら、仲間としてちゃんと互いを助けあいながら、そして競い合うようにレベリングをしていた。それを遠目で見ながら、海斗は俺に相談してくる。
「なあ、美子ちゃんと仲良くなってもう一年半くらいじゃん?そろそろアタックしてみてもいいと思うんだ。美子ちゃんお前に振られたしそこで俺がいるで付き合えないかな?」
「いや知らないが」
実は海斗は美子のことが好きだった。だからこそ美子にアタックされる俺が面白くなかったようだが、俺が明確に葵のことが好きだと宣言した結果、うざったい視線を送ることはなくなった。そして葵と美子の喧嘩も止めるようになったのだ。
「やっぱピンチのところを助ける感じじゃないとダメかな?まあ、もうこの辺の相手でピンチになることないけどな」
一年半のレベリングで、二人のレベルは33まで上がっている。俺の取得者によってレベルがガンガン上がっていた。俺と葵のレベルは38だ。やはりこの辺ではもうレベルが上がりづらくなってきていた。
「そうだな。そろそろ三層に上がろうか」
ものすごい速度で俺に突っ込んでくる葵を見ながら、俺はそう提案する。
「もう十分レベルも上がったしな!そろそろ三層に上がれるころだろ」
「そうだな。それじゃあ、ギリアスさんのところ行くか」
ギリアスとはあれ以来会っていない。約4年ぶりだが、まだいるのだろうか。
ギルドに着いて受付を通してギリアスを呼んでもらうと、あの時と変わらないギリアスが出てくる。
「お前か。何か用か?」
「はい。俺たちそろそろ三層に上がろうと思っているんです」
それを聞くと、ギリアスはそうかとだけ言った。別に驚くことでもないという感じだった。
「それでギリアスさんの力を借りて、仲間を集めようかと」
「分かった。手配しよう。だが、あまり期待するなよ。作戦の考案実行はお前に任せる」
ギリアスはそれだけ言うと、さっそく手配の準備を始めた。その手際は見事だった。ギルド内の従業員に次々に指示を出し、あっという間に街全体にこの話が広まった。
一週間後、集まったのは1200名。そのほとんどが海斗についてきた人たちだった。つまりはこの世界での死を体験したことない人たちだ。メンバーの中にはリーグとオリーブの姿も見えた。
「お前に言われた通り人を集めた。後はがんばれよ」
ギリアスはそれだけ言うと、ギルドの中に帰っていった。俺は集まったメンバーに今回の作戦を伝える。
「えー、今回の敵は石化攻撃をしてくる絶対捕食者と呼ばれるキマイラというモンスターだ」
これはギリアスから聞いた話だ。ギリアスからは二層のボスの攻撃方法をすべて聞いている。
「キマイラは上半身はライオン、後ろ足はウサギ、背中に翼を持ち、しっぽは蛇の獣だ。強靭な爪は脅威だし、ウサギの脚力や翼で縦横無尽に駆け回る厄介な相手だ」
それを聞き、ざわざわとなり始める。俺は構わず続ける。
「石化攻撃は光線で、当たればその部位が石となる。全身が当たればその場で死ぬという話だ。そしてキマイラのしっぽの蛇に嚙まれると、猛毒によって即死らしい」
「そんなのどうやって倒すってんだ!?」
「フィールド内に入ったら光線をまとめて食らわないように散らばってもらう。先頭は俺の仲間の海斗が担当する。海斗ならばどんな攻撃でも無傷で受けられる」
その話を聞いて半信半疑の者も出ているようで、またざわざわとし始める。
「いまその証明をしてもいいが、時間も惜しいのでさっさと君たちにやってもらいたいことを伝える。簡単だ。遠距離攻撃をしつつ敵の攻撃を受けないように気を付けて生き残ればいい」
「それじゃあその海斗とやらに丸投げってことか?」
その質問はリーグからだ。
「いや、攻撃手段は葵の即死攻撃だ。多分これで一撃でやれる」
「そんなにうまくいくのかよ……」
そう口々に不満を言っているが、そんなのはやってみないとわからない。だが、俺は仲間を信じている。
「以上だ。それじゃあ、塔に向かうぞ!」
俺はさっさと話しを切り上げて、塔に向かって進んだ。
塔へ着き、全員で塔になだれ込む。フィールド内は大きな木が4本ほど円状のフィールドに均等に生えており、中央に巨大な気が生えていた。足場は木の根で悪く、回避がしづらい状況だった。その巨大な木の上に眠っている獣が一頭。これがキマイラだろう。俺たちは作戦通り広がり、海斗が前に出る。
「よっしゃ!いつでもいいぞ!」
その声を聞き、俺はフレアシュートを放つ。フレアシュートが当たったキマイラは目を覚まし、咆哮を放つと、一番前にいる海斗に対し石化の光線を放った。その光は海斗に直撃し、海斗の影で細くなった光線はその後ろの方まで伸びてきた。
「ひいっ!」
小さい悲鳴を出しながらよけるプレイヤーは、その足に光線を食らい、足が石化した。あれでは回避も難しいだろう。だが、それはキマイラが健在していればの問題だが。海斗は直撃したにも関わらず石化していなかった。
海斗はキマイラに対して挑発すると、キマイラは木から飛び降り、海斗をその爪で切り裂こうとするが、ものすごい勢いで駆け出し、海斗を踏み台にキマイラに攻撃をする葵。死蝶一閃はうまく決まり、キマイラを一撃で屠った。作戦は完璧に終わった。
「さすがだ葵!」
葵は嬉しそうにしていた。石化の光線を受けたプレイヤーの足は、きれいに元通りになっていた。
二層はあっけなくクリアできたのだった。