時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
三層に上がると、目がチカチカするような世界が広がっていた。空は赤く地面は黄色く、至る所に生える四角い物体は緑や青、紫などなど幻覚でも見ているのかと思うような世界が広がっていた。そんな風景を見て呆然としていると、
「やあ!ここに人が来るなんて久しぶりね!」
上から逆さまになった女の子が生えてきた。その少女を見た時の違和感は、その少女の髪や服が重力に逆らい、上に垂れ下がっているのだ。
「ここは三層、狂いの楽園って呼んでるよ!そしてうちの名前はイーゼロ!一応ここでギルド長ってのやってるんだ!よろしくね!」
その少女は空中で逆さまのままくるくる回りながら自己紹介をしていた。そしてみんなを案内すると言ってその状態のまま先を進み始めた。
三層の街はスラム街にも似た雰囲気だが、その割にはみな楽しそうでやつれている雰囲気もない。すべての家が色とりどりのブロックで構成されており、ある意味遊園地のようでもある。街の広さは二層の5分の1ほどだろうか。必要最低限の施設が揃っているといった感じだ。
「よー!ゼロちゃん!今日も浮いてるねぇ!」
ゼロと呼ばれるこの少女は街のみんなに手を振って愛想を振りまく。街の人々も後から入ってきた俺たちを歓迎するように酒を勧めたり、一発芸を披露したりしていた。根はすごくいい人たちなのはわかった。
「さて!この人たちを率いてきたのは君かな?」
「あ、はい。静流といいます」
「あー敬語はいいよ!堅苦しいだけだし!」
よっと声を出しながら飛び降りるように地面に降りる。空中で一回転してもなおスカートがめくれることもなく、まるで人形をくるりと空中で一回転させたかのような動きだった。そこにとても自然な感じはなかった。
「えっと。君は一体?」
「さっき自己紹介したじゃん!うちはイーゼロ!ゼロって呼んでもいいよ!」
「いやそういうことじゃなくて」
きょとんとしていたイーゼロだが、俺が聞きたいことが分かったようにニコニコし始める。
「あーうちの能力について聞きたいんだね!うちはね現実改変能力っていうの?自分の思った通りに法則を曲げられるスキルを持ってるんだよね!」
とんでもないスキルだ。このスキルがどれほどの力を持つかわからないが、少なくとも時間操作に匹敵するほどのとんでもスキルである。
「さっきの空中浮遊もその現実改変ってやつか?」
「いやこれは反転ってスキルによるものさ!うちがこの世界に来た時に手に入れたもう一つのスキルだね」
こっちもこっちでとんでもないスキルだ。言ってしまえばあらゆる攻撃を反転させて相手に返すこともできる絶対無敵のカウンター技である。ますますなぜこの層にいるのかわからなくなってきた。
「ゼロはどうしてこの層に留まってるんだ?ゼロほどの強いスキルがあればこの先でもなんとかなると思うんだが」
それに対してすぐに答えがきた。
「それはここが大好きだからさ!みんな気のいい仲間で、みんなで毎日お祭り三昧!こんな環境はうちのいた世界では考えられなかったからね!」
「ゼロのいた世界って?」
「もう忘れた。もうどうでもいいことだ」
元の世界について聞いてみた瞬間、空気が一気に変わった。それは冷たく、背筋が凍るような錯覚すら覚えた。が、それは一瞬で、ゼロはすぐに先ほどのテンションで話始める。
「過去なんか忘れてさ!ここでみんなで過ごそうよ!」
「いや、俺は先に進みたい。この目が痛くなるような場所から抜けたいからな」
俺がそう言うと、ゼロは心底残念そうな顔をする。
「そっか……ここに来る人もほんとに珍しくて、新しい仲間ができると思ったんだけどね」
ゼロは周りにいる人たちを眺めながら、悲しそうな顔をする。
「ここにいる人たちもすぐに寿命が来る。いずれ誰もいなくなるかも」
俺は何と言ったらいいかわからなくなった。が、すぐにまた明るい表情に戻って話始める。
「でもしばらくはここにいるでしょ?その間だけでも仲良くしてくれたらいいな!」
本当にころころと表情が変わる。俺は思わず苦笑してしまった。
俺たちは三層のダンジョンを探してフィールドを歩く。至る所に色とりどりのブロックが立ち並び、それは都会のビルが立ち並ぶ感じと似ている。ブロックとブロックの間の暗がりから、ブロックでできた人型や犬のようなモンスターが襲ってくる。
「この先にダンジョンでもありそうなんだがな」
「こんなとこ通ったら挟まれてやられそうだな!ま、俺と静流がいたらどうにかなるか?」
建物と建物の隙間を見ながら俺たちは話す。その隙間は人ひとりが通れるくらいの狭さだ。ダメージを受けない海斗と敵が来ても時間操作で何とかできる俺であってもこの狭さでは難しいところだ。そんなことを思っていると、ガシャガシャとブロックがぶつかる音が上の方からしてきた。音のする方を見ると赤く四角い頭に三角の緑色の体。四角い黄色いブロックが連なって4つの脚を作り出し、その足は青い爪三本あり、三角の体のお尻にあたるであろう一からは紫色のブロックが連なって先端は黒く鋭いしっぽがある巨大なモンスターが建物を蜘蛛のように這っていた。
いままでの階層にはフィールドボスなど存在しなかった。あれも雑魚の類かもしれないが、俺の勘が危険信号を放っている。頭であろう赤い四角のブロックがこちらを向くように動くと、そのブロックが開き、中に赤い水晶のようなものが見えた。それは赤い光を放ち、それがどんどん強くなっていっているように見える。攻撃が来る。俺はすぐにそう判断し、海斗の後ろに隠れるように指示する。
間一髪。海斗が大の字になって俺たちを庇うように立ち、その陰に俺たちが隠れると、赤いレーザーが海斗を貫くように発射された。
「あっぶねぇ!」
海斗は無傷だが、おそらく今の状況で勝てる相手ではない。俺は逃げるように指示し、建物の影を利用し射線を切りながらその場から離れる。
しばらく逃げた後、あのモンスターが放つ足音が聞こえなくなったのを確認し、一息つく。
「何?あれ……」
「フィールドボスだろう。おそらくあの付近にあったひと際でかい建物を中心に動いている。塔に向かう時はあいつを避けて遠回りするべきだな」
いくら時止めや無敵のスキルがあっても、あんな高い位置に陣取る相手は分が悪すぎる。魔法で何とかなるかもしれないが、フィールドボスである以上MPが尽きるのが先だ。俺たちは奴のテリトリーだと思われるこのフィールドの中央を避けて、周辺を探索するようにした。
中央付近はいけなかったが、このフィールドにあるダンジョンは5つ。まるで星形を模しているように均等な位置に配置されていた。そして街のようなフィールドは五芒星で、その外側は真っ青な草原が広がっていた。草原にいるモンスターはブロックでできたナメクジだが、その大きさは遠目で見てもまるで天に届くのではないかと思うほどのでかさだった。それが草原エリアを数体徘徊している。五芒星の街の中を探索するのが安全だろう。
ダンジョン内も探索してみたが、ダンジョン内はそれこそゲームの世界ではないかと思うほどデジタルで、出てくるモンスターもまるでデータがバグったかのような存在だったり、ピエロのようなモンスターや頭が電球で体からコンセントがまるで触手のように生えているモンスターなど、今までの自然とはまるで違ったモンスターが出てきていた。おかげで雷系のスキルや魔法、見えない壁やら武器を浮かせて攻撃できるスキルとかが手に入った。
「ここダメだわ。あたし活躍できない」
美子の魅了はここに出てくるほとんどのモンスターに効かなかった。唯一聞いたのがピエロで、これはおそらく相手が無機物系のモンスターだからだろう。心という概念があるかどうかはわからないが、無機物には心があるイメージは沸かない。そんな美子を笑う葵。
「私の死蝶一閃は無事効いたよ!私の方が役に立てるってことね!」
美子は悔しそうに唇を噛む。最近はこういう風に互いに争っている。葵は美子が来てからやたら元気だ。遠慮がなくなったというか、俺に対しては遠慮するものの、今までよりは自分から動くようになっている。
「葵、美子を煽ってやるなよ。美子は美子でバフ系魔法で助けてくれるんだから」
俺は美子をフォローする。美子のバフ魔法で助かることが多いのも確かだ。
このあたりの敵は無機物なだけあって硬く、バフ魔法による攻撃力上昇がかなり役に立つ。魔法もあまり効いていないようだし、かなり厄介な相手ばかりだった。
しかし収穫はあった。三層ともなれば武器や防具が一層のころよりも遥かに強い。だが見た目が玩具である。
例えば俺が拾った武器はバナナソードで、文字通りバナナだ。だが生ではなく金属系の物でできたバナナで、性能は悔しいがブラッククロウより強い。攻撃力はブラッククロウの2倍で、特性は転倒。この武器で切った(殴った?)相手の体制を崩すというものだ。どういう風に体制を崩せるのかはわからないが、体制を崩せるというだけで十分強い。
防具の方はブロックの鎧で、名前はブロック騎士の鎧だ。防御力は今装備しているベアアントの鎧の1.5倍。特性は貫通無効と重鈍。貫通無効は文字通り特性貫通を無効化する特性で、重鈍は自分の素早さを4分の1にするというデバフ系の特性だった。さすがはドワーフが作った装備だ。この辺でもまだ活躍できるなんて。俺はブロック騎士の鎧をしまいながら、そう思う。
葵は「子供のころの宝物」という名前の短剣を拾った。見た目は子供がおままごとをするときに持つような白い刃の何も切れなそうな包丁だ。しかし攻撃力はブラッククロウの1.3倍で、特性は千切り。攻撃を当てると5回ダメージを与えたのと同等になるというぶっ壊れである。
防具は子供が着るような水色のロリータドレスで、とてもかわいい。これは一つですべての部位の防具となるようで、それを着た瞬間腕や足、頭に赤いうさ耳カチューシャやシュシュが着き、その性能は軽装備でありながら俺のベアアントの鎧と同等の防御力。特性は全身鎧と速度上昇、跳躍力上昇である。
美子も葵と似たような装備だが、こっちは赤いメイド服といった感じだ。防御力は葵の防具と一緒で、特性は全身鎧、奉仕、軽業である。防具での軽業は剣とは異なる能力のようで、回避力が上がるというもののようだ。回避力なんてプレイヤースキル次第だろうと思ったのだが、どうやらその装備をしていると当たりそうな時にまるで闘牛をしているように狙いがぶれるようだ。
そして海斗は玩具騎士のハルバードと騎士の鎧というまともなものだった。このフィールドではかなり浮いているように見える。武器の特性は破砕。攻撃を当てた相手の防御力を下げるというものだ。そして防具の方は守護者、パーティー内の味方が受けたダメージを肩代わりするというものだ。無敵のスキルを持つ海斗とは相性がいい特性だ。
俺たちはおおむね満足な成果なのだが、やはりバナナソードは納得いかない。俺たちはいったん街へ帰ることにした。