時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
五層
巨大な山を右手に見ながら、ダンジョンがある山脈へ向かう。五層にいるモンスターは一言でいえば恐竜だ。だが、図鑑で見たことのある恐竜とは所どころ違う。ステゴサウルスに似たモンスターの背は鋭い針の山のようで、攻撃方法は丸まってものすごい勢いで突進してくる。ティラノサウルスに似たモンスターの下顎の牙は大きくはみだしており、その牙で地面を掘り上げるほどだ。上空には巨大なプテラノドンのようなモンスターが羽ばたいており、油断すると鎌のような爪で切り裂かれる。
そして中央にそびえたつ巨大な山の頂上付近を飛び回るドラゴン。巨大な翼とトカゲのような体。そして時折口から青い炎のようなものを吹く。遠目から見てもあれが強敵なのは分かる。
俺は襲ってくる恐竜モドキを時止めで殲滅しながら、塔を見て焦る気持ちを抑える。
「静流、何を焦っている?」
「ああ、すまん。早く塔を登りきらないとと思ってな」
「焦って塔のボスに挑んでも死ぬだけだ。まずはしっかり準備する必要がある」
オリーブに諭される。俺は珍しくしゃべるオリーブに少々驚いていた。自分を凝視する俺にオリーブは顔をしかめる。
「……なんだ?」
「いや、オリーブが喋ってるの久々に見たなと思ってな」
「俺だって喋る。ただ苦手なだけだ」
そういいながら顔を背けるオリーブに、俺は毒気を抜かれた気がした。オリーブはオリーブなりに俺を励ましてくれているのだ。
「いや、ありがとうな。そうだな。まずは落ち着いて準備だ」
リーグはそのやり取りを見つつ、微笑んでいた。
ダンジョン内に入ると、そこは青い水晶がいくつも飛び出ている洞窟だった。洞窟の割には明るく、光源など必要ないほどだ。その水晶をよく見ると、転移石に似ているような気がした。
「リーグ、これは?」
「お前も気づいたか?こいつは転移石の塊だと思う。だが、どんな手段でも掘ることはできなかった」
リーグ曰く、つるはしなどの採掘アイテムを持ってきて掘っても、採掘系のスキルを持つプレイヤーを連れてきて掘らせてみても、びくともしなかったという。俺も試しに採掘者を発動し、掘ってみるが、その塊に傷一つ付けられなかった。どうやら破壊不能オブジェクトのようだ。壁を掘ってみると、壁は簡単に崩れるが、その奥には同じように転移石の塊が見えた。
「この洞窟は転移の洞窟。最初は転移系の罠でもあるのかと思ったが、壁を掘ったりしてみてわかった。ここは転移石でできたダンジョンだ」
「なるほどな。それで、ここが転移石を拾うのに適しているダンジョンってことか」
リーグはうなづく。
「それにここに出てくるモンスターは小さいながら群れるモンスターで、レベリングも捗る」
そういうことならと俺は採掘者を使いながら壁や床を掘りつつ、先へ進む。時折奥からやってくるモンスターはこれまた恐竜で、ラプトルのようなモンスターだ。その爪は自身の体の半分ほどの大きさで、これに当たればただでは済まないというのが見て取れる。それが一度に数十匹襲ってくる。
オリーブは敵が見えた瞬間に広範囲殲滅ができる魔法、インフェルノを放つ。それだけでモンスターは光の粒子へ変わる。
採掘者はアイテムが埋まっている場所をほんのりと照らす形で教えてくれる。だが、それはアハ体験のようなもので、埋まっている場所に近づけば近づくほどほんのりと明るくなる。その場所を掘ってみると転移石以外にも金や鉄といった鉱石類も掘れる。
「そのスキルすごいな。アイテムが埋まっている場所が分かるのか」
「今まで使ったことはなかったんだが、こういうスキルだったんだな」
掘ったアイテムはほとんどが鉱石類で、俺には必要ないものばかりだ。結果転移石は1つ。ボス部屋前まで明かりを見つけ次第掘っていたが、この結果だ。
「転移石ってホントに出にくいんだな」
俺がそう愚痴をこぼすと、リーグはフォローを入れてくる。
「いや、俺たちは約2年ほどで3つだ。お前と同じようなスキルを持っているプレイヤーでも5つくらいだ。今回は運がいい」
採掘系スキルを持ったプレイヤーでも2年で5つ程度しか手に入らないほどのアイテムが消費アイテムとは、やはりこの世界はバランスがおかしい。
いやそもそも100年という時間があるのだ。1層につき10年ほどというバランスなのだろう。そう考えるとこの希少性も納得できる気がする。
もっとも必須ともいえるアイテムを五層以降でしか拾えないようにする性格の悪さには怒りすら覚えるが。
ボスはやはり恐竜モドキで、時止めで瞬殺。宝箱の中身は大量の鉱石だった。
焦ってもいいことはないとオリーブに言われたことを心にとめ、俺は五層の街を探索することにした。一層と同じような造りの建物ばかりだが、ところどころ技術が違う。まず一層にあった物を冷やす棚なんてものはなかった。後から聞いた話だが、この棚は俺たちの世界、すなわち科学の世界から来た人が伝えた冷蔵庫を、この世界で使えないかと開発したものだったらしい。
魔法が使えるこの世界ではエネルギーは魔法に置き換わっているものの、そのエネルギーを永続させる力は科学の知恵によるものだ。それは一層で暮らす人達が快適に過ごすために開発したもので、五層ではそれらは存在しないのだ。
そんな違いを感じながら五層でしか手に入らないアイテムなどを探していると、カンッカンッと金属を打つような音が聞こえてきた。五層に残ったメンバーかと思ったが、その音のする方はまるで隠れるような路地裏であった。わざわざそんなところで鍛冶をするメンバーなどいない。俺はその音のする方へ向かった。
黙々と金属を打つ人。その工房の至る所に銃が飾られており、たくさんの箱の中には材料となる金属と銃の弾、銃器のアタッチメントが入っていた。
「あの……」
俺が声を掛けても気づかないほどの集中力で金属を打つその人は、次の工程に入った時にこちらへ振り向き、驚きの声を上げた。そこまで驚くかと思うほどだった。
「い、いつからそこに!?」
「いや、結構前からいましたけど……驚かせてすいません」
俺が謝ると、落ち着きを取り戻したようで机に案内され、自己紹介を始めた。
「いやいや、この五層に別のプレイヤーがいるとは思わなかった。俺の名は平坂雄介。もう50年ほど前にこの世界に来たプレイヤーだ」
「俺は山口静流といいます。10年ほど前に来たプレイヤーです」
互いに自己紹介を終え、俺の疑問を投げかける。その疑問とはもちろん銃のことだ。
「この世界に銃があるなんて思わなかったです。一層、二層では見なかったですから」
「ああ、あそこに籠るような奴は武器なんていらない奴らばかりだからな。それに飛び道具なら魔法もある。材料と加工する技術が必要な銃なんざ誰も作らんのさ」
「では平坂さんは何故銃を?」
「俺は戦争で死んだもんで銃を使うしか戦い方を知らんでな。銃のないこの世界でどうやって生き返るか試行錯誤してたんだ。そんで銃を作る方法を見つけたわけだが、肝心の材料がなかった。仕方なくナイフ一本で戦ってきた」
どこか遠くを見るような平坂の話を俺は黙って聞く。
「そんな時だ。カリュブディスが一層の塔に挑むって聞いたのは」
「カリュブディス。英雄って聞いてます」
俺がその名前に反応し、そう言うと。唐突に眉間にしわを寄せ、机を叩く。
「とんでもねえ!あいつは魔王だ!虐殺者だ!」
俺の予想とは反してカリュブディスに怒りを露にする平坂。
「何があったんですか?」
「あいつは俺たち人間を虐殺し、魔物の仲間と六層に登っていった!あいつは俺たちをただの経験値としか見てなかったんだ!あいつはっ!人間をっ!クソっ!クソっ!」
一通り机を殴り付け、落ち着いた平坂は俺に謝罪をして、話をつづけた。
「俺はカリュブディスについていくことにした。一層の鎧は厄介だった。接近戦などやっていい相手ではなかった。だがカリュブディスはそれをやったんだ。あの巨体に対して強力な一撃を放ち、転ばした。俺たちの力など遠く及ばないその存在に、俺は喜んだ。あいつがいれば生き返られると。残念ながらそれで倒せる相手ではなく、何人も死者は出た。だがそれでもカリュブディスについていきたいと思えるほどの強さだった。俺にも生き返りたい想いがあったから」
一息ついた平坂はここからが本題だと言わんばかりにこちらを見る。
「五層について俺たちは転移石を見つけた。それは俺たちの常識を変えるものだった。そしてここには銃を作る材料となる鉱石がいくつも存在した。俺はここなら銃を作れると思い、銃を作ることにしたんだ。銃の材料となる鉱石は鉄や真鍮の他にも魔導石なるものもあった。魔導石は魔力を含んだアイテムでな、これを使って武器を作ると武器にも魔力が宿って通常じゃありえないほどの力を持つものだった。俺はこれを本体だけじゃなく弾の材料にもしたわけだ。その威力はあの恐竜どもを一撃で倒せるほどの代物だった。俺はこれでカリュブディスと共に戦えると、足で纏えにならなくて済むと喜んだ。だが」
一つ一つ思い出しながら語る平坂は、次に語ることがよほど恐ろしいものだったのか、肩を震わせながら語る。
「ある日カリュブディスが言った。人間どもは俺に頼りすぎている。俺に転移石をすべて捧げよ。でなければ今後俺についてくることは許さんと。そう言いだしたのが街の外であることに気づけばあんな参事は免れたのだろう。俺たちは転移石をカリュブディスに差し出すしかなかった。あいつの力なしでこの先進めなかったから。俺たち人間はみんな転移石を渡した。俺はこっそり1個くすねたんだが、それが功を奏した。次の瞬間、奴は俺たちを焼き殺そうとしたんだ」
俺は絶句した。転移石をすべて回収し逃げられないようにしたうえで焼き殺そうとしたとは。今まで聞いたカリュブディスの逸話が嘘のようだ。
「俺は辛うじてくすねた転移石で助かったが、誰も街に帰ってこなかったんだ。それから俺はただひたすら銃を作る日々だ。いつかあいつの脳天に銃弾を撃ち込むことを夢見てな。だが、そんなことは叶わない。俺一人で奴の元まで上がるなど不可能だから」
「……だったら俺たちと一緒に行きませんか?」
俺がそう言うと、平坂はゆっくりと首を振る。
「もういいんだ。あれからもう10年は経っている。奴の元まで行ったところで俺の銃が通じるとも思えん。そして生き返りたいという想いも忘れてしまった。大切な何かだったはずなのに。俺は後続の誰かにこの街とこの銃を託したい」
「……この街はあなたが一人で?」
「いや、俺たちがこの街に来たときはプレイヤーがいた。この街を皆が楽しく、そして安らげる街にするんだと語っていたよ」
平坂は懐かしむようにそうつぶやいた。