時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
五層でレベリングを始めて1年が経過した。日が経つにつれてやはり焦りが出てくる。焦ってもいいことはないと分かっているのに。そんな俺を見かねたリーグが一層に戻ってみないか?と提案してきた。
「一層の街ってめっちゃ広いじゃん?まだ見て回れてないところも多かった気がしてな。あと10年経った今どんな風になってるのか気になるし」
「……ああ、そうだな。そうしよう」
俺は正直レベル上げしたいところだが、リーグの気遣いを無下にするのは違うと思い直した。オリーブは他のメンバーと転移石探しやレベリングが捗ってないメンバーのレベリングで別行動だ。
一層、俺たちは懐かしの街へと降り立った。最初にお世話になった一馬の家はすでに別のプレイヤーの家になっているようで、中から賑やかな声が聞こえてきた。
「俺はあっち行ってみる。1週間後くらいに塔のテレポーターの前でな」
それじゃと手を振りどこかへ向かうリーグ。誘ったくせに一人にするとはどういう神経なのかと思ったが、リーグからすれば誰かが見てなければ六層に挑みかねない俺の息抜きと一人にする時間が必要ということなのだろう。一層であれば次の目標が視界に映らないためいいと思ったのだろう。相変わらずよく見ていてリーダーシップのある奴だ。
俺はとりあえずギルドへ向かうことにした。ゼラチナと話すためだ。
ギルド内を懐かしさでキョロキョロと見ていると「あっ!」という声が聞こえてきた。振り向くといつぞやの受付の女性だった。
「あっ俺のことを馬鹿にしてくれた受付の」
「その節はすみませんね。今では受付じゃなく重役の一人ですよ」
聞くとギルド内でも上の立場になっているそうだ。
「ゼラチナさんからもう上の方まで上がっていると聞いてたんですが、一層に何か御用ですか?」
「ああ、そのゼラチナさんに会いたくて」
そういうと女性は少し申し訳なさそうな表情になった。
「ああ……ゼラチナさんは3年くらい前に引退しました」
「えっ……寿命?」
「あ、いえ、街にはいると思うのですが、ギルドではもう働いてないですね」
そう聞いてほっとした。それと同時に今のギルドマスターは誰がやっているのか気になった。
「今のギルマスは誰が?」
「ゼラチナさんの秘書だった方ですね。呼びますか?」
「ああ、いや、いいです。ただ、伝えたいことを一つ」
そういうと俺は転移石を取り出す。最低でも10個は持っておきたい代物だが、俺は3個しか手に入れてないため、渡すわけにはいかないが情報として伝えるべきだろう。
「五層のダンジョンで採れるアイテムで、転移石っていうんだが……」
「ほうほう。それはどういう代物ですか?」
「塔の中だろうがダンジョンの中だろうが使えばその階層の街に転移することができるという代物なんだが」
「ええええ!?」
その声はギルド中に響き、なんだなんだと騒ぎが起き始めた。
「なんでそんなものがあるんですか!?五層でしか手に入らないものですか!?」
「いや、わからない。探せばどこかにあるかもだが、いまのところ五層でしか見てないな」
女性は転移石をまじまじと見て効果の説明と採掘場所の記録を始めた。さすがギルドの重役なだけあり、そのギルド員としての仕事の早さは目を見張るものがある。最後にカメラで転移石を撮影すると、にっこり笑顔を作って、
「情報、ありがとうございました!」
とお辞儀をした。相変わらずで俺は少し元気が出た。
次に向かったのはドワーフの工廠だ。一度しか行ったことなかったが、あの女性のドワーフのインパクトは忘れない。行ってみるとそこはまだあった。
「はいらっしゃい!武器か?防具か?道具か?金属系の代物ならなんでもござれのテッケン工廠だぜ!」
「どうも。あの時作ってもらった装備、今でも現役ですよ」
俺の姿を見たテッケンは覚えていてくれてたようで、目を丸くして驚いていた。
「おお!ベアアントの殻をくれたあんちゃんじゃねえか!懐かしいなぁ!元気してたか?」
「おかげさまで。今日は武器の融合?とかできないかなと思ってきました」
「融合ってぇと、武器と武器を混ぜ合わせるってことか?」
俺はうなづきながらバナナソードとブラッククロウを取り出す。
「この二つの性能を一つにできないかなって思って」
「おいおい見たことねぇぞこんな武器」
テッケンはバナナソードを叩いてみたり眺めてみたりして加工できるか調べているようだ。ついでにブラッククロウの方も見ている。こちらはたまに出回るようで見たことがあるようだった。
「もしできたらこの防具を差し上げますよ」
そう言いながらブロック騎士の鎧を取り出す。それに目を光らせたのはドワーフの紅一点のサクラであった。
「なぁにこれぇ!いいじゃなぁい!」
「おいサクラ!こいつぁ俺の報酬だぞ!」
「ケチケチしないでぇいつもの共同作業といきましょうよぉ」
相変わらずのサクラはさっそくバナナソードを持って奥へ入っていった。ブラッククロウはテッケンが持ってこいということらしい。
「それで、見た目はどっちにする?」
「ブラッククロウの方で」
俺は即答した。
待つこと1時間ほど。持ってきたのはブラッククロウと何かのアイテムだった。
「待たせたな。無事ブラッククロウにバナナソードの性能を上乗せできたぞ。攻撃力はバナナソードでブラッククロウの性能とバナナソードの性能を持つ武器だ。大切にしろよ。あとこのアイテムだが……」
そう言いながら差し出してきたアイテムはバナナソードだったものらしい。
「バナナソードの素材になってた金属でな、果実金属って代物らしい」
「なんですそのふざけた名前」
「分からん。だがその硬度は凄まじくてな。俺らじゃ加工できない」
驚いた。鍛冶の達人であるドワーフが加工できないとは。
「じゃあどうやってこれ作ったんです?」
「企業秘密だ。あ、鎧ありがとさん」
そういって手を振るテッケンとサクラに手を振り返しつつ、もうすぐ夜だしとホテルへ向かった。
次の日、街を見て回っていた。
「あれ?静流君じゃない?」
その声のする方を見ると、佳代子おばさんがいた。その懐かしい姿に思わず笑みがこぼれる。
「おばさん。元気でした?」
「ええ、あなたこそ元気だった?ちゃんとご飯食べてる?」
「この世界じゃごはん食べる必要ないんだけど」
俺が苦笑すると、おばさんは少しくらい顔をする。
「そう、そうよね。でもちゃんと食べてほしいの。生きていたころを忘れないように」
おばさんが結婚したのは小学生のころだったか。それからも周囲からオシドリ夫婦と言われるほど仲が良かった。そんなおばさんが急に夫と引き離され、こんな世界へ放り出されたのだ。10年経っても癒えるものではないだろう。昔の俺はその気持ちはわからなかっただろう。だが今はとてもわかる。
「でもよかったわ。あなたこんなゲームみたいな世界で喜んで外に出ていくんじゃないかと思ったもの」
「……それが生き返りの条件だから」
俺がそう言うとおばさんの顔は険しいものに変わっていく。
「駄目よ!命を無駄にしちゃ!せっかく二度目の人生を得られたもの!」
「分かってる!でも俺は生き返りたい。いや、生き返らせたいんだよ!」
俺の顔を見るおばさん。
「……どれほどの修羅場を潜ってきたの?どれほどの辛い思いをしてきたの?」
おばさんは手を放しぽつりぽつりと話始める。
「……私には化け物をやっつけられる力はなかった。だから生き返りは諦めたわ。でもあなたは違うのね」
「この力に慢心して、大切な者を失った。もう慢心しないし、本気で生き返りを目指す」
「……そう。じゃあおばさんも応援するわ。がんばって」
おばさんはそういうと、笑顔を浮かべた。その笑顔はとても悲しく、心配しているけどそれを押し殺すような笑顔だった。
(ああ、最後にこの笑顔を見たのはいつ頃だろう)
俺は過去の塞ぎこんで”本気”を封じたことを思い出した。あの時のおばさんの笑顔もこんな笑顔だったかな。
おばさんと別れて俺は再び決心した。生き返りたいのに生き返れない、力がない人がいる。俺にはその力がある。だから誰かのために俺は本気で戦うと。
その後6日間この街でリフレッシュした俺はテレポーターのある塔へむかっていた。
「おい、そこのキミィ」
街の外で話しかけてくるプレイヤーがいるとは驚いた。人数は7人ほど。顔はまるでいい獲物を見つけたと言わんばかりのにやけ顔で、手に武器を持っていることから明らかに追剥目的の輩である。
「なんだ?」
「おいおいこの状況からわかんない?その武器とか鎧とかアイテム置いて行ってくれたら見逃してやってもいいよ」
リーダーらしき男が笑う。俺はそれを見て溜め息をつく。
「俺には多少の余裕ができた程度で、ほとんど余裕がないんだ。もし襲ってくるというなら手加減はできない」
「なに言って――」
その言葉を全部言わせる前に首元に剣を突き立てる。その一瞬の出来事にたじろぐ追剥。
「もう一度言う。もし襲ってくるというなら手加減はできない。失せろ」
追剥は敵わないと分かったのか一目散に逃げだした。
「おーい」
「なんだリーグか」
「何だとはなんだ。というかさっきのあれはなんだ?」
「追剥」
「そうか。追わなくていいのか?」
「いいだろ。ギルドで追剥がどうとか聞いてないし、問題にもならない相手だろ」
リーグは苦笑しつつ。俺の様子を見る。
「……あまり息抜きはできなかったか?」
「いや、いい息抜きにはなったよ。それと同時に心構えもできたし、誘ってくれてありがとな」
「どういたしまして」
俺たちは一層での息抜きを終え、五層へ戻った。