時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない?   作:Firefly1122

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魔王の英雄譚

 これは私がまだ副ギルドマスターという立場の時の話だ。

「ゼラチナ。俺は上の階層に登ろうと思う」

 唐突にそう話すギリアスに、私は心底驚いた。

「急にどうしたんですか?ギルドマスター。あなたがいなくなったら誰がここをまとめるんですか?」

 ギリアスはふうっと一つ息を吐くと、自身の考えを話始める。

「私は何人も死地に送ってきた。にもかかわらず俺自身は何も知らないままだ。入ってくる情報だけではこれからも同じことの繰り返しをするだけだ」

 一層のボス、絶対守護者は名の通りで突破できたものなどほとんどいない。50年前のギルドマスターが新たに入ったギルドメンバーと大規模作戦を行い、突破した。その時のギルドマスターはすでに亡くなっているそうだが、その時のギルドメンバーがいまだ登り続けているという。また、30年前にも大規模作戦を行い、成功している。その他の小さな作戦もいくつかは成功しているそうだが、生き残った人数が少なく、報告がないものもある。二層のギルドが見知らぬプレイヤーを見つけ、作戦成功の報告が来るのだ。

 そんな状態であるためボスの情報はほとんど入ってこず、未知の部分も多い。動きが遅い大きな鎧であるというのは分かっているが、どんな攻撃をしてくるのか、どんなスキルを持っているのかが分からない。一振りで数100という人数が死ぬと聞かされても想像がつかないのだ。

「ギルドマスターはその情報を自身の目で見に行くということですか?無茶でしょう」

「無茶かもしれんが、その無茶を多くの人間に押し付けてきた。もし生き残れたら情報を持ち帰ることができる。そうすればその無茶も少なくなるだろう」

 ギリアスは言ったら聞かない人間だ。私が何を言っても曲げないだろう。

「……勝算はあるのですか?」

「ある。今年の大規模作戦にはこれまで育ててきた精鋭を連れていく。彼らならば塔を登るだけの実力があるはずだ」

 精鋭、10年ほど前にやってきた8人のプレイヤーだが、彼らの実力は一層で最も危険なダンジョンを何度も攻略できるほどだ。装備も十分強いものだろう。レベルももうすぐ30になるという。

「確かに彼らなら可能性はあるかもしれませんが……」

「彼らもそろそろ上の階層に行きたいと言っていたからな。ちょうどいいだろう」

「それで、ここのギルドマスターは誰が?」

「ゼラチナ。君に任せる」

 私の目を見てそういうギリアス。私はただ頷くしかなかった。

 

 大規模作戦に参加する人数は5000人ほどだった。私はギリアスを見送るために同行していたが、その隊列は道中、希少種と呼ばれる極めて珍しい存在と対峙することとなった。

 希少種の報告は数えるほどしかない。理由は二つ。一つは単純に滅多に見かけないこと。そしてもう一つは桁違いの強さを持っており、出会ったプレイヤーのほとんどが生きては帰れなかったことだ。その強さは希少種が現れた地域によるが、その地域のダンジョンのボスを上回る強さを持っている。そして我々が出会ったのは塔まであともう少しというところ。すなわち、一層の最高難易度のダンジョンのボスを凌ぐ相手であった。

 見た目は白いオオカミのようだが、その首元から透明な帯が漂う。神々しいその存在がひとたび爪を振るうと、見えない刃が地面を抉りながら飛んでくる。その攻撃を受けたプレイヤーは一撃で光の粒子へと変わった。その希少種の名は『白神』だ。

「騎士団!足止めを頼む!非戦闘員は塔まで逃げろ!」

 騎士団は防御特化の装備を支給されているため、こういう非常事態などでは盾となって非戦闘員や防御力の低い者たちを守る。そんな彼らを装備ごと真っ二つに切り裂き、光の粒子へと変えてしまう白神。装備など意味をなさなかった。防具は破壊不能、そんな常識を崩すその存在は別の次元の存在だった。

 そこからはパニックが広がった。まだ塔の前だというのに次々とプレイヤーが死に、その場に崩れ落ちる者も出てくる。精鋭の8人も今や3人になっていた。

 彼らは白神に攻撃を当てていたが、そのダメージはみるみるうちに回復していった。攻撃面でも桁違いであり、防御面でも体力回復系のスキルを持って勝ち目がない。それが白神であった。

 私は絶望し、皆が死ぬのをただ見ているしかなかった。そんな時、白神を焼き尽くす巨大な炎が横切った。

「なんだ!?」

 その炎の中から現れたのはオーガのような悪魔のようなそんな存在であった。その者が現れた方向からはたくさんの魔物が彼を追ってやってくる。

「カリュブディス様!さすがです!」

 そう持て囃す魔物たち。そしてカリュブディスと呼ばれたその者は炎に包まれ怒り狂った白神を炎の剣で切り飛ばし、光の粒子へと変えた。

「うそだろ……」

 凶悪な希少種、白神がまるでそこら辺の魔物と同じようにあしらわれるその様に、目を疑うしかなかった。

 

 白神を退け、ひとまず塔前の安全地帯であるキャンプ地に着いた。ここであれば魔物に襲われることはない。

 作戦開始前に5000人いたプレイヤーはわずか500人になってしまった。私たちは作戦続行するかどうかの話し合いをすることになった。そこにはカリュブディスも入っている。白神をあっさりと倒せるほどの実力者だ。作戦に協力してもらえれば間違いなく最高戦力となることだろう。

 しかしカリュブディスは騎士団でも先遣隊でもない。ギルドに協力する義理はないのだ。それも含めての話し合いだ。

「今回の戦いで我々は多くの戦力を失った。作戦の続行は不可能だろう」

 ギリアスはそう切り出す。本来なら即撤退の案件だ。

「勝算だった戦力は俺ら8人。そのうち5人が死んで、生き残りは3人だ。ここは撤退が必然では?」

「本来ならばそうだ。一度帰ってまた時間をかけて戦力を整えるべきだ。そしてカリュブディス殿を含めて作戦を行うべきだ。しかしそういうわけにはいかなくなった」

 私とギリアスはすでにカリュブディスの事情を聞いている。彼の時間がほとんどないことを。

「カリュブディス殿のスキルは強力な力を得られる代わりに、寿命が恐ろしいほど早く削られるというものだ。彼はすぐにでも塔攻略に乗り出さなければならないそうだ。我々が戦力を整えているのを待っている暇はない」

「ならカリュブディス殿についていくのがいいでしょ」

 その答えに異を唱える者はいなかった。

「カリュブディス殿。我々も同行してもよいだろうか?」

 カリュブディスはただ頷く。そして一言。

「構わない」

 

 ゼラチナと別れて、私はカリュブディスと500人の作戦参加者、そしてカリュブディスに付いてきた魔物たち、総勢20500人と共に塔へと入る。塔の内部は暗く、どこに敵がいるか分からない。

 全員が塔へ入ると同時に、扉は閉まり、壁の蝋燭に灯がともる。そして部屋が明るくなると共に、アルティメットガーディアンの姿が露になった。山の如し大きさの巨大な赤き鎧。カリュブディスも我々人間の3倍ほどの大きさである。そんなカリュブディスがかすむほどの大きさの鎧が動き出す。それと同時にカリュブディスも突撃する。炎を巻き上げ、アルティメットガーディアンを燃やし尽くさんとするが、それを意に返さないように歩を進める。動きは遅い。

「総員!遠距離攻撃!奴の弱点を探し出す!前衛!奴の体に取り付け!」

 危険な指示だが、それがもっともよい。今更数人の犠牲など考えてる場合ではないのだ。前衛が近づく。アルティメットガーディアンの攻撃範囲に入るや否や、奴は大剣を振りかぶる。

「全力回避!当たるなよ!」

 私はそう指示する。当たればまずいのは見れば分かるし、そういう情報はいくつも聞いてきた。

 アルティメットガーディアンの横凪。巨大な大剣をうまくかわしたプレイヤーは、その衝撃はで飛ばされる。

「うああああ!!」

 まるで団扇で煽られた羽のように、軽く吹き飛ばされる。勢いよく壁に打ち付けられたプレイヤーは、光の粒子へと変わっていく。

「負傷した者は下がれ!まだやれるものは取り付け!」

 こちらの作戦は相手の行動阻害。それを成せばカリュブディスが何とでもしてくれるはずだ。今もなお燃やし尽くさんと炎を撃ち続けるカリュブディス。それでもなお進むアルティメットガーディアン。カリュブディスは攻撃をやめ、前に進む。そこにアルティメットガーディアンの剣が振り下ろされる。

「危ない!」

 私は思わず叫ぶ。しかし、目を疑う光景がそこにはあった。あの巨大な大剣を、カリュブディスは受け止めたのだ。

「嘘だろ…!?」

 そう叫んだのは私だけではなかった。

「総員!今がチャンスだ!できるだけやつの足元に潜り込め!」

 私の指示を聞き、前衛は皆前に進む。それに対してアルティメットガーディアンが剣を再び振りかぶると、カリュブディスはそれをさせまいと引き続ける。アルティメットガーディアンはそれをうっとおしいと思ったのか、剣を横に振り、カリュブディスを吹き飛ばした。

「大丈夫か!?」

 辛うじてカリュブディスは生きている。しかし、やはり大ダメージのようだ。私はカリュブディスの回復を指示した。その時、アルティメットガーディアンは飛び上がり、足元にいたプレイヤーを踏みつぶした。あの大きさで、鎧を身に着けたまま飛び上がったのだ。完全に予想外。私は絶叫した。無論、そんなことしてももう遅いのだが。

 光の粒子がまるで煙のように立ち上る。それは死者の数がとてつもない数であることを意味する。それを見たカリュブディスは咆哮を上げながら走り出す。振り下ろされる剣を今度は止めなかった。躱して前に進むのだ。足元に張り付いたカリュブディスは、ゼロ距離の炎攻撃を放つ。それにはアルティメットガーディアンもたまらず一歩下がった。それでも逃がすまいととりつき、炎を放ち続けるのだ。

 数分が経っただろうか。遠距離攻撃部隊もひたすら攻撃していると、アルティメットガーディアンの様子がおかしくなった。巨大な鎧が少しずつ剥がれ、カリュブディスも下敷きになっては敵わないと一旦離れる。

 鎧がすべて剥がれたアルティメットガーディアンの姿は、過去に科学の世界の住人から聞いたことのある妖怪、名を確かダイダラボッチだったか、山ほど大きな巨人の妖怪。それと瓜二つであった。アルティメットガーディアンは大剣を手に持ち、先ほどよりもはるかに素早く剣を振るう。それにより一瞬にして仲間が死ぬ。それに激高するのはやはりカリュブディスであった。炎を一心不乱に放ち、それをアルティメットガーディアンは避ける。先ほどまでは不動要塞といった印象だったのに対し、次は巨大な獣と戦っているような印象だ。

 アルティメットガーディアンは明らかにカリュブディスを危険因子として見ている。勢いよくカリュブディスに対し剣を振るう。それを彼は止める。それと同時に炎を噴き出した。

 炎は勢いよく剣を焼き尽くしながら、アルティメットガーディアンへ迫る。それを見て剣を手放し、離れる。明らかに炎の攻撃を嫌がっているようだ。

「総員!炎属性の攻撃をし続けろ!」

 いくら素早くても、あれだけ大きい的、すべて外す方が難しい。徐々にダメージが蓄積していく。

 どれくらい削っただろうか?アルティメットガーディアンはついにその膝をつき、光の粒子へと変わっていった。勝利した。しかし代償は大きく、20500人中生き残ったのはわずか2119名のみだった。圧倒的な力を持ったカリュブディスですら死者を出さずに勝つことはできなかったのだ。

 

 それから私たちはカリュブディスについて2層、3層と進んでいく。進むペースは速く、私たちのレベリングはさほどできないままであった。完全にカリュブディスのお荷物になっている自覚はある。それでも先へ進める可能性があるならばついていく。

 幸い、2層、3層にいるプレイヤーも、カリュブディスの強さに惹かれたのか、付いてくる。その大半が魔物だった。私は魔物の文化や価値観などは分からない。しかし、魔物は皆カリュブディスに付いていくのだ。

 前に一人の魔物プレイヤーに聞いてみた。なぜカリュブディスに付いてく決断をしたのかを。理由はただ一つ。

「魔王様だからだ。我々魔物は本能的に魔王様という存在を崇め、従い、付いてくのだ」

 との回答だった。

 

 4層。我々人間の多くがカリュブディスの元を離れる原因となった戦いが起こる。それは死神との戦いだった。

 防具という防具が意味をなさず、紙切れのごとく切り裂かれ、殺されていく。白神の時と同様防具は破壊できないという常識が通用しない相手だった。さらに、奴は死のオーラを周りにまき散らし、プレイヤーを次々と即死させていく。カリュブディスはそんな相手に対し、肉弾戦を挑む。

「危険だ!」

 そう叫ぶが、カリュブディスは1歩も引かない。死のオーラを放つ動作の時にのみ、回避のために退くが、すぐさま死神が後方の我々に向かわないよう足止めをする。それでも何人もの死者が出て、それを見るたびにカリュブディスの表情が曇っていく。

 次の瞬間、カリュブディスは回避が遅れ、腕が切断されてしまった。辛うじて致命傷は避けたが、利き腕を切断されるというのは戦力が大幅に下がるということ。私が下がるよう言うと、カリュブディスはそれに従う。その間、仲間たちが足止めをするが、どんどん犠牲者が増える。

「…余にもっと力があれば、彼らを救えたかもしれない。だが、今の余にそんな力はない」

 カリュブディスの能力は分かっている。これまでの戦いでその片鱗を幾度も見てきた。仲間が死ぬことでカリュブディスの力が増す。そんな能力である。心優しき魔物の王は、その日、非情な決断をした。

「お前たち。残りの者たちのために死んでくれ」

 カリュブディスの命令。それに魔物のプレイヤーは喜んで従う。それが魔物としての本能だから。カリュブディスはこれからそんな戦いを続けていくのだろうか?だとすれば、我々人間は付いていけない。これから共に戦う仲間は減る一方だろう。そうなればいつか我々に死ねと命じるはずだ。こちらの事情、思い、それらすべてを無視して。

 

 戦いは終わった。たくさんの仲間を殺して、強くなったカリュブディスが死神を葬った。5層はワープポータルが街の中にあった。それで2層に帰る。これ以上付いていけないからだ。多くの人間は同じ気持ちだったのだろう。残ったのは、数十名の人間と魔物たちだけだった。

 カリュブディスは止めない。ただ、次の目的地を見つめるだけだった。

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