時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない?   作:Firefly1122

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災厄の魔王

 俺は偉大な王であれただろうか。その答えは、今もなお出ていない。4層でたくさんの仲間を殺した。直接殺したわけではない。死んでくれと頼んだのだ。それが必要だったから。

「カリュブディス様…人間たちの多くが下層に戻ってしまいました」

 弟分はそう報告する。

「そうか…」

 俺はそれしか言えなかった。

 俺のスキル、仲間想い、それは仲間と認識する者すべてに作用する。仲間の力を分け与えてもらい、経験値を俺へ集める。代わりに、彼らの寿命消費を緩やかにし、その分だけ俺の寿命が削れる速度は上がる。そして彼らが俺の手以外で死ねば、スキル以外の力を俺が引き継ぐ。俺自身の手で殺せば、わずかだが寿命を奪い取ることもできるのだ。

「人間は自分勝手ですねぇ!魔王様に寿命を肩代わりしてもらってたというのに!ここまで魔王様の力で登ってこれたというのに!」

 そういう魔物に対し、弟分が切れる。

「黙れ!お前も人間と一緒だろ!自分勝手にカリュブディス様に付いてきて、戦闘の役にも立たない!」

 弟分は戦闘の役に立ててないことを悔いているのだ。だからこそ許せない。

「よい。ついてきたいものだけついてくれば。余はただ進むだけだ」

 四層までで寿命はかなり減った。人数が多かったのもある。これから寿命の減りも緩くなるだろうが、最上階はおろか七層にたどり着くことすら難しいかもしれない。

 もし俺が死んだら彼らはどうなる?生き返りを目指して進めるのか?人間たちと同じで諦めるかもしれない。だが、この五層のように安全なエリアに下層へ戻る装置はあるのか?もしなければ…弟分はどうなる?

 俺の頭の中にはぐるぐるとこの先どうやっていくかという思考がまとまらずにいた。寿命を回復する手段はある。だがそれをやってしまえばもう後には戻れない。だから、進む。

 

 まずはレベル上げだ。この世界で過ごす人間たちが言っていた言葉。レベリング。レベル上げ。これが大事だと。そして効率がいいのは最も難しいダンジョンであると。俺は五層にいるプレイヤーを見つけ、尋ねる。

「ここでのレベリングはどこがよいのだ?」

「レベリング?そりゃあもちろん転移石も掘れる転移石の洞窟だぁ」

「それはなんなのだ?」

「知らねえのも無理はねえ!こいつぁ五層でしか掘れねえ希少な石でな、ダンジョンだろうが塔だろうが使えば一瞬でその層の安全地帯に戻ってこれるっつぅ代物よぉ!」

 塔の中で撤退できる。その言葉を聞いた瞬間、四層で消えていった者たちの光が脳裏をよぎった。それがあれば一層や四層みたいに仲間を犠牲にしなくて済む。寿命が削れるのは痛いが、それよりも仲間の命の方が大事だ。

「それはいくらで買い取らせてもらえるだろうか?」

「買取だぁ?無理無理!俺らにとっても必要なものだからなぁ!」

「そうか…情報感謝する」

 俺は人間の男に頭を下げると、教えてもらった洞窟へ向かった。

 洞窟では俺は敵を薙ぎ払い、皆には石を掘ってもらう。

「出ました!転移石です!」

 喜びの声が上がる。無理もない。すでに2週間が経過しているのに、これで5個目だ。あまりにも時間がかかりすぎる。

「カリュブディス様…あなたは街で休んでいてください。我々だけで何とかしますから」

「…この世界のルールなど分からず、突き進んできた。その結果お前たちは十分なレベリングができておらぬだろう。戦う力もないのにこんなところに我無しで来たら死ぬだけだ」

「ならば下の階層に戻ってレベリングしてきますので、しばらくお待ちください…」

「しばらくとはどれほどだ?こうしているうちにも我々の世界の家族が殺されているかもしれない。早く生き返らねばならぬ。今この瞬間にも殺されているかもしれない仲間を、守らねばならぬ。」

 俺の中にあるのはペルセウスによって殺されていく仲間たちの景色。ペルセウスには恨みはない。だが、人間国家がそう決めたならペルセウスであろうと敵なのだ。こうしているうちにも罪のない魔物たちが殺されているかもしれない。その焦りが俺を突き動かす。

「余が早く生き返って人間国家との和解を…」

 まだ、捨てられない理想。口にした言葉は、自分でも驚くほど弱々しかった。弟分は、何も言わず、ただ悲しそうに俺を見ていた。

 

 五層に来て3か月が経った。集まった石はまだまだ足りない。全員分に加え、予備の分も必要だ。この先何が待ち構えているかわからないから。こうしているうちにも刻一刻と俺の寿命は減っていく。俺は五層にいるプレイヤー皆に頭を下げて回る。

「頼む。石を売ってくれ」

 しかし一人たりとも売ってくれるものはいなかった。分かっている。彼らもまた生き返りたいという強い思いがあってここに残っているのだ。そうでなければ皆下層へ帰っているだろう。ここまでだって過酷な戦いばかりだった。それなのにまだ折り返しでしかないのだ。

「頼む…石を…売ってくれ…」

 俺はひたすら頭を下げ続ける。

 1年が経った。もう俺は頭を下げることをしなくなった。石はとりあえず1人1つ分は集まった。まだまだ足りない。俺の寿命はあと2年ほどとなっていた。一層からここまで来るのにも5年かかった。

「なあ……兄弟よ」

 俺は力なく弟分を呼ぶ。

「なんでしょう。カリュブディス様」

「俺が仲間を殺しても、ついてきてくれるか?」

 弟分は膝をついて頭を垂れる。

「……御心のままに」

 それからの行動は早かった。五層の人間たちは皆進みたがっている。ならば話は早い。

「余はこれから塔へ上る。ついてきたいものだけついてくるといい!」

 その宣言に、五層の人々は皆ついてくる。塔の入り口前まで来た時、俺は彼らに言う。

「石の数の確認をさせてもらいたい。持っているものすべて出してくれ」

 皆一度は顔を見合わせるが、俺の部下たちが石を出しているのを見て出し始める。

 すべての石が出たのを確認すると、俺は宣言する。

「よろしい。すまないがこれから皆には死んでもらう!」

 その宣言と共に俺は人間と魔物の一部を焼き払う。阿鼻叫喚。地獄絵図。それは二度と見たくない光景だった。その中に転移する光が見えた気がしたが、もうどうでもいいことだった。

 

 六層。猛吹雪が吹き荒れる世界で、俺は俺の世界の仲間たちと共に先を進む。彼らは仲間であり、大切な家族だ。他の世界の魔物たちは全員焼き払い、俺の寿命へと変換した。人も魔物も区別しない。ただ大切なものだけを守る。

 仲間たちを前に行かせる。後ろから見ている方が仲間が視界に入るから、守りやすいのだ。

「カリュブディス様!あれを見てください!」

 俺の先を進んでいた者の1人が叫ぶ。その者の指す方向を見ると、3つの氷の柱が見えた。

「不自然だな」

 氷の柱は均等に並んでおり、まるで中央に何かあると言わんばかりの配置であった。

 俺たちは恐る恐る中央に立つと、魔法陣が現れ、俺たちは幾度も体験した浮遊感に襲われた。

 視界が晴れると、そこは図書館であった。我々が乗っ取った王城にあった図書館と似ているが、そこよりもはるかに立派だった。下を覗くと、魔女とアンデッド。絶好の狩場だ。俺は迷わずそこに炎を放つ。一瞬で焼き払われるアンデッドと魔女。そして大量に入る経験値に俺は思わず口角をあげた。

 仲間たちがこのダンジョンのギミックを解いている間、俺はひたすらレベリングに励む。次々とリポップするモンスターは、レベリングに最適だった。ギミックを解くのは難航し、気づけば俺のレベルは70にまで達していた。これならば先に進めるだろう。俺は皆に先へ進むことを告げると、彼らは俺についてくる。

 六層の塔のボスは、氷の結晶がそのまま大きくなったような存在だった。俺は敵が戦闘態勢に入る前に最大火力で焼き払う。氷の結晶は炎にめっぽう弱いのか、逃げ惑うばかりでこちらに攻撃してこない。そしてあっさりと六層を突破したのだった。

 

 七層。地獄のエリアだった。地面はひび割れ、溶岩が流れ、至る所で毒ガスが噴き出ている。空は暗雲が立ち込め、太陽など一切見えない。しかし明るいのは溶岩や燃える木々の明かりのせいだろう。モンスターは溶岩スライム、悪魔、ケルベロスなど。そこはまさしく地獄だった。

 俺は先へ進む。レベリングに最適な場所を探すために。一刻も早く塔を登りきるために。たくさんの人間と魔物を切り捨て、20年まで寿命が回復したとはいえ、心もとない。六層で一か月過ごしただけで1年の寿命が消費されてしまった。

 七層の敵に俺の攻撃は効きづらい。ステータスの差で勝ってはいるものの、自慢の炎がこいつらには効かないのだ。

「忌々しい……!」

 俺のスキル、獄炎は炎を操るスキルであると同時に、炎に闇属性も追加される。そのためアルティメットガーディアンにも通っていた。鎧を脱いだ後の方が手ごたえがあった。おそらく鎧自体に炎無効の効果があったのだろう。しかし、闇属性はそのまま通る。

 今回の相手はその闇属性すら無効にする。そのためステータスの差で殴り勝つしかないのだ。

 そんな敵を相手にしながら、七層のダンジョンを回っていく。ダンジョン内もまさしく地獄といった様相で、すべてのダンジョンにおいて俺の攻撃が通じない敵が出てくる。

「このままではレベリングなどできぬ……」

 俺は塔を見る。今のレベルでもなんとかなるか?これまで低いレベルで戦ってきた。アルティメットガーディアンも死神も。

 俺についてきていたプレイヤーたちに聞いたことがある。推奨レベルは1層が20で、そこから10レベルずつ上がっていくと。それが本当ならば俺は推奨レベルを10近く下回ってる状態で戦ってきた。唯一推奨レベルに達していたのが先の六層のみだった。であれば七層のボスにも勝てるのではないか?

 俺は言い知れぬ不安を覚えながら、七層の塔へ足を踏み入れる。

 

 塔のボスはヤギの骸骨を被った黒い毛皮の悪魔だ。二足歩行で手には巨大な斧を持ち、背中には大きな羽が生えている。俺が炎を構えると、悪魔は宙を舞い、斧を叩きつけてきた。炎を放つが、悪魔はそれを意に介した様子もなかった。

「やはりかっ!!」

 嫌な予感というのは当たるものだ。これまで悪魔に炎、闇が通じなかった。その集大成ともいえる悪魔のボスに俺の攻撃は通じないのだ。

 俺は斧攻撃を避け、拳を握る。

「ならばっ!」

 俺は拳を叩きつける。仲間たちを見殺しにし、ステータスは通常の数倍となっている。そんな俺の攻撃は間違いなくこの悪魔に効いている。その証拠に拳を叩き込んだ腹は凹み、ダメージエフェクトである光が舞い上がっている。

 これならば行ける。そう確信した次の瞬間、俺は目を疑った。緑色の光が凹んだ腹に集中し、一瞬のうちに傷口を塞いでしまったのだ。

 回復能力。緑色の光のエフェクトは、回復が入った際によく見たものだ。

「このおおおおお!!!」

 俺は半狂乱になりながら、必死に拳を叩きつける。ダメージを与えては回復され、ダメージを与えては回復され、それを数十、もしくは数百繰り返しただろうか。

 悪魔は俺をあざ笑うかのようにヤギの骸骨の口をパクパクさせていた。それはただの揺れだ。だが、俺にはそれが嗤っているように見えたのだった。

 

 結局あの後も俺は悪魔に手も足も出ず、転移石での撤退を余儀なくされた。

「力を……蓄えるぞ……」

 俺は一心不乱に戦い続けた。仲間を守るための城を作り、人手が足らないから魔物召喚を使い、ひたすらフィールドの敵を狩り続けた。

 レベルが5上がるたびに悪魔に挑んでは撤退し、気づけば俺のレベルは80にまでなっていた。それでも悪魔には届かない。もう時間もない。五層の者たちから奪った石も、あと一回分しか残っていない。それでも俺は進み続ける。

 気づけばフィールドには悪魔がいなくなっていた。代わりに俺が魔物召喚で作り上げたゴブリンの軍勢がひしめいている。悪魔がリポップした瞬間、ゴブリンたちは一斉に襲い掛かる。それはまるで、飢えた猛獣の群れに肉を落としたかのようだった。

 

 カリュブディス様は優しい方だった。弱き者を強き者から守り、役割を与えてくださる。些細なミスは笑い飛ばし、怒るときは本気で怒る。魔物にとってこれ以上ないほど理想の魔王であった。

 そんなカリュブディス様を変えたのはこの過酷な環境だった。仲間想いというスキルは本来仲間に力を分け与えるものだった。それがこの世界にやってきて、寿命を肩代わりするように変質してしまったのだ。理由など分からない。この世界に来る前に会った神の悪戯なのかもしれない。その結果が今だ。

 人間はカリュブディス様の力に魅入られ、そして恐れた。四層で仲間を切り捨てたカリュブディス様を恐れたのだ。あれは人間を守ろうとしての行動だったのに。

 人間を切り捨てるというのはカリュブディス様の信念に反する。人間との共存を目指すならば、まずは自分たちが犠牲を払わねばならぬと何度も言っていた。だからこそのあの行動だった。それを人間は恐れたのだ。

「人間は薄情ですねぇ!」

 そう言う魔物。自分は許せなかった。カリュブディス様の信念に反するから。そして役に立たない自分たちのことを棚に上げてそう発言するこいつが許せなかった。そして心のどこかで同じことを思っている自分を。思わず怒鳴っていた。

 

 五層でしか掘れないという転移石を掘る。これは生存に直結する大事なものだ。だが、これがさらにカリュブディス様を苦しめる。

 カリュブディス様の寿命が刻一刻と削れていくなか、なかなか手に入らない石をひたすら掘り続ける。自分は魔物たちに細かな指示を出す。カリュブディス様が戦ってくれているのだ。自分ができることをやる。

 石は予想以上に手に入らなかった。これでは何年もかかってしまう。だが、これが普通なのだ。カリュブディス様のように数年で登り切ろうとすると、何もかもが足りなくなる。分かっていることだ。

「どうか、休んでください」

 自分はそう告げた。分かっている。聞き入れてもらえないことは。でもそう言うことしかできないから。戦力になれない自分に腹が立つ。

 街で頭を下げて回るカリュブディス様を見た。我らの王が人間に対し、頭を下げる。それに思うことがないわけではなかったが、それで人間たちから救いの手が出れば、報われる。だから自分はカリュブディス様を止めなかった。だが、それは間違いだった。止めるべきだったのだ。

「なあ……兄弟よ」

 カリュブディス様が自分を呼ぶ。魔王となる前から呼んでくれていたその呼び名で。こうなった今でもカリュブディス様はまだ自分たちを想ってくれている。だからこそ精一杯の忠誠で返すのだ。

 だがそれが同時に苦しくもあった。カリュブディス様は優しすぎる。我々を見捨てれば楽になれるだろうに、それができないのだ。我々はカリュブディス様の足枷になっている。いくら忠義があっても無力ならばそれは邪魔でしかないのだ。

「俺が仲間を殺しても、ついてきてくれるか?」

 その問いは、自分が待っていたものだ。ついに我々を切り捨てて、楽になってくださるのだと。そう思っていた。

 しかし、切り捨てたのは我々ではなかった。人間と仲良くなりたいという想い、理想、これまでカリュブディス様が大事にしてきた根幹たる部分だった。それを切り捨てたのだ。我々を選んだ。それが嬉しくもあり、同時に苦しくもあった。そして災厄の魔王。人間語でそう呼ばれるに等しい存在へと変わっていった。

 

 六層は快進撃だった。今までの鬱憤を晴らすように、敵を蹂躙して進む。その姿は頼もしくもあり、同時に恐ろしくもあった。だが、これこそが魔王である。

 しかし、快進撃はすぐに途絶える。七層。地獄のエリアは、カリュブディス様の心の内側を体現したかのような世界であった。たまたまかもしれない。だが、自分にはそう見えて仕方ないのだ。

 七層に蔓延る悪魔は、カリュブディス様の強みであった炎を完全に無効化する。そのたびにカリュブディス様に苛立ちが募っていく。

「忌々しい!」

 そんな言葉を聞いたのは、初めてだった。いつもは温厚で優しく、苛立ちなどは胸の内側に秘めて抱え込む。そんなカリュブディス様が、初めて忌々しいとこぼしたのだ。それはどれほどの苦痛だっただろう。

 そして塔のボス。こいつは最悪だった。いくら相性が悪くても勝ってきたカリュブディス様が、手も足も出ない。自分の得意とする光魔法を放つと、僅かにダメージを与えていた。しかし、所詮自分はただのゴブリンだ。カリュブディス様のような先天的な才能はなく、あの方に近づこうと必死に努力した賜物だが、自分の魔法などたかが知れている。そのうえすべての経験値がカリュブディス様に集中するため、我々は強くなれず、弱いままなのだ。

 悔しい。何もできない自分が憎い。カリュブディス様があんなに苦しんでいるのに何もできない自分が情けない。一心不乱に殴りつけるカリュブディス様を見て、自分は涙を零した。

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