時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない?   作:Firefly1122

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ギルド

 外に出るとすでに夕方だった。決意して外に出たのはいいが、さすがに今の時間から平原に出る気はしない。仕方ないから町中でできることをやる。まずは門前の騎士が言ってたギルドが気になるし、ギルドに行ってみることにした。

 ギルドは盾の形に天使の羽が刺繍された紋章が特徴だ。もっとも、そのことを知らなくても堂々とギルド騎士団と書かれた旗がはためいているためすぐにわかる。俺は建物に入ると、そこにはそれなりの装備を整えたプレイヤーや門前の騎士と同じ格好をしたプレイヤーが和気あいあいとしていた。待合室にも利用客が複数いる。カウンターから名前を呼ばれ、順番に依頼等の対応をしているようだ。俺はカウンターに向かい、受付をする。

「ではこちらに名前を。順番が来ましたらお呼びします」

 俺は名前を書いて、カウンターの隣にある掲示板を見る。そこには依頼がいくつも貼られていた。内容は様々で、よくある落とし物探しやペット探しから、採取の手伝いや護衛などなど。平原をただ歩いていただけじゃわからなかったが、採取や採掘などもできるようだ。掲示板を眺めていると、カウンターから俺の名前を呼ばれる。

「それではご用件を」

「えっと、ギルドそのものについて知りたいんですけど」

「わかりました。ギルド講習の受付ということでいいですね」

「えっとじゃあそれで」

「500Eになります」

「あっはい」

 俺は出されたクリスタルに触れて支払いをした。あの門番っ!このこと分かってたな!?まさか金取られるとは思ってなかったが、ギルドと言えばゲームでも割と重要なところだ。仕組みを知れば元は取れるだろう。俺は案内されるがままにギルドの奥の部屋に入った。ソファー二つを挟んで机があるだけの質素な部屋だ。俺はそこに座らされ、ついでにお茶を入れてもらい待たされた。待つこと数分。男が部屋に入ってきた。

「どうも、私はここのギルド長、ゼラチナと言います」

 男は座るとさっそく自己紹介をしてきた。

「どうも、俺は山口静流と言います。あの、あなたはどこの国出身ですか?」

 俺がこう聞くのも理由がある。見た目は日本人に近いが、名前は日本人名ではない。

「私はセフェルムという国ですよ」

 全く聞いたことのない国名だ。確かあの少女は他の世界からもプレイヤーが来ると言っていた。つまりこの男がその他の世界のプレイヤーってことだろう。

「全く聞いたことない国ですね。俺とは違う世界ですかね?」

「恐らくそうでしょう。私たちの世界は魔法が盛んな世界でした。あなたの世界は違うんですか?」

「ええ。俺の世界は科学が発展した世界ですね」

「ほんと不思議なものですね。全く異なる世界の人間が一つの世界に集められるとは」

「本当に」

 俺たちはこの不思議な世界について談笑し合った。緊張も解け、軽く話せるようになったのちに本題に入る。ゼラチナは表情を引き締め、ギルドについての書類を差し出してきた。なかなかに厚い書類の束だ。俺がめくるとさっそく説明し始める。

「えーまずギルドとは何かという話だが、この世界で快適に過ごすための治安維持や先遣隊による攻略、またダンジョン等の調査を行う組織のことだ」

 治安維持や先遣隊による攻略ってのはなんとなくわかる。門前の騎士のように、何も知らずに外に出る人がいないか、掲示板の依頼のように困っている人の手助けをすることが治安維持になるだろう。また、いくらダメージを受けないといっても種族や世界そのものが違うため、考え方の違いから争いが起こるだろう。それらの鎮圧等もその一環だ。そして先遣隊は文字通り塔の攻略等を行う人々だろう。一馬から聞いたように、とんでもない強さの敵がこの先出てくる。それらの攻略方法やフィールドに出てくる魔物の対処方法など、攻略に必要な情報を自ら探しに行き、攻略していく人々のことだ。それよりもこの世界に塔以外のダンジョンがあることの方が驚きだ。

「この世界にダンジョンがあるんですか」

「もちろん。塔とは違い、制覇しても次の層に進めるわけでもなく、行って戻ってくるだけの場所だ」

「それって何かメリットあるんですか?」

「ああ。不思議なことにそのダンジョンの奥には、入るたびに復活し、中身も変わる宝箱が存在する。それは特に珍しくもないものからかなり貴重な武器まで種類が豊富だ。上の階層に行けば行くほど、ダンジョンの難易度と手に入れられるアイテムの貴重さが変わってくるという」

 なるほど。ゲーム的に言うと寄り道要素ってことだろう。この世界はただでさえレベリングがやりづらい。そういうダンジョンをめぐって、レベリングはもちろん強い武器を手に入れて攻略を楽にしていくのだろう。だが、ダンジョンだからと言って油断はできない。そこで死ねば魂は還元され、生き返りのチャンスがなくなる。

「やっぱりダンジョンの奥にボスとかっているんですか?」

「もちろんだ」

 そう言いながらゼラチナは地図を取り出す。手書きの地図だ。地形など無視し、町とダンジョン、塔の位置とフィールドの名前が書かれているだけだ。

「この丸が塔だな。塔は必ず各層の真ん中に存在する。そしてこの三角がダンジョンだ。層ごとにダンジョンの数は変わってくる。一層は六つのダンジョンがある」

 ダンジョンの位置に規則性はなく、バラバラの位置にぽつんとある。地形が書かれていないからその周辺がどうなっているかは分からないが、恐らくダンジョンごとにそれに合うような地形になっているのだろう。

「この四角が町や村だ。いわゆる安全地帯になっている」

「村とかもあるんですか」

「ああ。どういう経緯で作ったのかは知らないが、ここにも数人のプレイヤーが住んでいたりする。また魔物のプレイヤーは人間となれ合うことを嫌って魔物の村を作ることもしばしばだ」

「町の中じゃなくて大丈夫なんですか?」

「問題ない。アンチフィールドバリアという結界魔法を張ることで、魔物が入らないようにできる。この街の結界と同じものだな」

「それじゃあその魔法をいくつも張って、塔に近づけば」

「それは無理だ。それを試したものが過去にいたが、不思議なことに町と塔の距離が変わらないのだ。町に隣接しているからダメなのかもしれないと考え、少々離れた場所に結界を張ったが、町とその結界の距離、結界と塔の距離が離れ、結果的に前よりも遠くなるという結果になった。原因は分からないが、塔との距離を縮めることは不可能だ。もちろんそんな結果になったため、結界は取り除き、再び今の距離に戻したわけだが」

「それじゃあこの塔の横にある村はどうやって」

 塔の印の丸の真横にある、村や町の印の四角。距離的に隣接しているように見える。

「それは塔に挑むためのプレイヤーの為に作られた安全地帯だ。塔を中心に広げたため、隣接する形になっている」

「それは塔との距離が離れたりはしなかったんですか」

「不思議だよな」

 ゼラチナは愉快そうに笑う。それから周辺の村と塔の距離などを聞き、一つの法則に気づく。それは、一定距離ごとに一つの町、村と判定されているということだ。例えば塔とこの町の距離は一番遠い。それは地図にある通り、地図の一番南端のこの町と地図の中心の塔との距離を見ればわかる。逆に一番近いのは塔を中心に広げたという町だ。当然塔と隣接しているため一番近い。そしてそれらと少し距離を置いた西にある村からの距離は、町から塔よりも短い距離で塔にいける。どういう仕組みかは分からないが、恐らく町を出たときのあの感覚、あれが原因ではないかと思う。町から見た塔はぼやけて見えていたが、外に出たら多少ぼやけて見えはするものの、町の中よりはくっきり見える。このゲームのマップ切り替えに似た何かがこの距離の調整を行うものなのだろう。ちなみにマップ端から先に行く、例えばこの町より南に行くと、マップの北に出るらしい。これもこの距離の調整を行う何かの影響だろう。

「話が逸れたな。次にギルドの二つの組織を説明しよう」

 そう言って解決しないこの世界の不思議の話を終わらせ、説明に戻る。

「ギルドには騎士団ギルドと先遣隊ギルドの二つが存在する。君の世界では冒険者ギルドというほうが分かりやすいか?」

「いや俺たちの世界に冒険者ギルドがあるわけじゃないんですけど。まあ、その方が分かりやすいですかね」

「君の世界と同じ世界から来たというギルドの役員の一人が言っててな。げーむやらまんがやらしょうせつなどというものでよくその言葉が出ていたそうだ。興奮して語ってたよ」

 苦笑しながら、言葉を知った経緯を話す。ゲームや漫画、小説は俺たちの世界の文化で、ゼラチナの世界にはそんなものはないらしい。

「その冒険者ギルドのやることとたいして変わらない。掲示板や名指しの依頼をこなしてお金を稼いだり、ダンジョンに挑んで金目の物を手に入れたり、魔物を倒してその魔物のアイテムを提出したりと自由な組織だ。その書類にも書いている」

 俺は促されるままに書類を開き、先遣隊ギルドの項目を読む。説明と概ね一致する。下には先遣隊ギルドに入った際の規約が書かれている。

「対して騎士団ギルドはギルド本部からの命令で動く組織だ。主に問題があった地域の調査と問題の解決、門番として出入りするものに目を見張らせ、何も問題ないよう注意等を行う。また、問題を起こした者を拘束、ギルドの地下牢に入れるのも仕事だ」

 説明を聞きながら、騎士団ギルドの項目を読む。もちろん説明と概ね一致、その下に先遣隊ギルドと同じように規約が書かれている。

「どんな人がどっちのギルドに入るとかありますか?」

「もちろんだ。塔の攻略を諦め、ここに暮らすことにしたけど仕事がないという者は騎士団ギルドを選ぶ。逆に塔の攻略をしたいけど、お金も欲しいという者は先遣隊ギルドを選ぶな。攻略してたら仕事に就く暇がない。それらの手助けをするのが先遣隊ギルドだと思ってくれればいい。もちろんどちらにも入らないという選択肢もある」

 その話を聞いてどちらに入るかはもう決めた。俺は先遣隊ギルドのページを開き、規約を読む。規約を読んでおくのは大事だ。俺の父は昔規約をろくに読まずに契約をして、あとで詐欺だとわかったということがあり、それ以来口癖のように俺に言い聞かせてきた。その影響でこういう規約を読むのは苦ではない。

 規約の内容は主にプライバシーを守ること、命の保証はないこと、それからもろもろの決まりだ。その決まりの内容は、塔の攻略は必ず先遣隊ギルドの者数人と共に行うこと。塔及びダンジョンの攻略をした際は、その内容等を漏れなく報告すること。決まりを破った際は罰金が生じること。これが先遣隊ギルドの決まりだ。

「塔のボスって一人で攻略しないといけないなんてことはないんですか」

「ああ。攻略した際一緒にいたものも突破したということになり、次の層に上がれる」

「次の階層に上がった人は戻ってこれないんですか?」

「いや、そんなことはない。塔の横にテレポーターがあり、そこで行き来ができる。このテレポーターはその階層を突破した者でないと使えない」

「それじゃあ先に突破したプレイヤーに戻ってきてもらい、手伝ってもらえば簡単に進めるのでは」

「それは無理だ。その階層をクリアしたものはその階層のボスと二度と戦えない。いや、そもそも塔に入ることすらできないのだ」

「なるほど。どういう理屈なんですかね」

「エレメンツが魂に刻まれていることを考えると、それと同じ原理でクリアした際に魂に何か刻まれるのではないかと思っている」

「なるほど」

「まあ、そういうことだから、できるだけ安全に、そして一度に数人送るためにそのような決まりを作っている」

「ダンジョンは別に一人でいいんですか?」

「もちろんだ。ダンジョンは危険ではあるが塔の比ではない。それに何度でも挑むものもいるため、いちいちそんな決まりを守ってられないだろう。だから人数の指示はない。代わりに情報の提供を行う決まりにしている。まあ、こちらとしては脱落者を出したくはないから数人での行動を推奨しているが」

 よく考えられている。さすがはギルドといった感じだ。

「それから塔を攻略した際にギルドに入っていれば、ギルドから報酬を支払われる」

「ほう」

「まあ突破報酬というより、その攻略情報への報酬と言った方がいいだろう」

 報酬が出るというのは、それだけで入っておく価値はある。いろいろ規約はあるが、入らない選択はないだろう。

 その後、ギルド全体の決まりと依頼の際にかかる費用等の説明を聞く。依頼の費用等は受ける側の俺にはあまり関係ないが、聞いておくことは大事だ。

 依頼は2種類あり、掲示板依頼と名指し依頼の2種類ある。掲示板依頼は依頼報酬のみの支払いになるが、名指し依頼は招待料がかかる。依頼の報酬は依頼書にそのまま書かれるが、実際に俺たちに支払われるのは報酬の1割を引いた値段だ。1割はギルドの取り分だ。

「これで一通り説明は終わったかな。さて、この説明を聞いてギルドに入る気はあるかい?」

「もちろんです」

「それじゃあここからは契約の話をしようか」

 説明を聞いた後だったため、規約や決まりの話を省いて契約だけを行う。書類に自分の名前、どちらのギルドに入るか、規約の承認サインを書いてゼラチナに渡す。ゼラチナがそれに目を通し、確認サインを書いて俺はギルドの一員になった。

「それじゃあ待合室で名前呼ばれるのを待っていてくれ。ギルドの一員となった印を渡す。君の活躍、期待してるよ」

 ゼラチナは書類を持って出ていく。俺もそれに続いて待合室に向かった。待つこと数分、俺の名前が呼ばれカウンターに行くと、ギルドの紋章が書かれた手帳と免許証のようなカードを貰えた。役員曰くそれで身分証明できるから、無くさないようにとのことだ。

「何がともあれ、今後お金の心配もしなくて良さそうかな。それよりもまずは宿探しだ」

 ギルドから出て俺は独り言ちる。すでに外は暗く、心細い街灯が光っており、数人のプレイヤーが暗い道をうろうろしている。早急に宿を探さないと、眠る必要はなくても人間というものは夜は安心できる場所でくつろぎたいものだ。俺は心細い街灯を頼りに見えづらい看板を見ながら宿を探す。

「お、あれは宿か?」

 ベッドのマークが書かれた看板がうっすらと見えた。宿らしい店に入ると、中はそこそこ高級なホテルをイメージさせるエントランス。俺は受付を済ませ鍵を受け取る。予約とかしてなかったし時間が時間なだけにもう満室だったりしないかとか心配になったが、問題はなかった。まあ、あと1室だけだったようだが。なんでも家もただじゃないから家を持たないプレイヤーもいるため、部屋はかなり多く作っているらしい。しかし今日に限って普段よりも多くのプレイヤーが泊まりに来たとのこと。今日に限って多いという理由はなんとなくわかっているが。

 部屋に入るとまさに高級ホテルといった感じだった。清潔感溢れる白い壁に赤い絨毯、大きな窓と大きなベッド。思わず飛び込みたくなるほどふかふかそうな布団は、それだけで心をワクワクさせてくる。残念ながら食事は別の店で取る必要があるし、銭湯とかはなくあるのは部屋にあるこじんまりとしたお風呂だけらしい。それでもあるだけましだ。俺はお風呂に入り体を温め、ベッドに入る。ベッドに横になった瞬間、疲れが一気に飛んでいく気持ちの良い感覚に襲われる。そしてゆっくりと意識が飛んで行き、眠りにつく。

 母親がニコニコとご機嫌なように笑い、俺は気になって何があったのか聞く。

「静流は覚えてる?佳代子おばさんのこと」

 佳代子おばさんは、小さいころよく遊んでくれた親戚のおばさんだ。おばさんって言うけど年齢は20代後半で、かなり若い。

「その佳代子おばさんが結婚するんだって。もう嬉しくって」

 その朗報に俺も思わず笑顔になった。誰かの幸せって言うのは他の人も幸せにしてくれるものだ。こんなほのぼのとした風景は、俺の記憶。すなわち、前世の出来事である。俺が小学生のころの出来事だったか。懐かしさで胸がいっぱいになるが、これは夢なのだとすぐに理解した。一馬は言っていた。この世界で眠れば前世の記憶を思い出せると。俺は記憶にゆっくりと浸った。

 気が付くとすでに朝日は昇っており、カーテンの隙間から光が入ってくる。俺が見た記憶は”夢”であり、すでにどんな”夢”を見たのか覚えていない。ただ懐かしい気持ちだけが残った。

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