時間停止の能力あるなら、他に能力いらなくない? 作:Firefly1122
「こいつは珍しいな!」
「珍しい?」
大規模作戦の約束を交わした後、俺は武器屋に来た。ここに来たのはもちろん、ブラックパンサーのダンジョンで入手した武器について聞くためだ。
武器屋の店員のおっちゃんに武器を見せると、目を丸くして驚いていた。
「こいつはブラッククロウって剣でな、一層じゃ獣の大木でしか入手できない武器なんだ」
おっちゃんは武器を食い入るように眺めながら、武器について話す。
「入手するのが難しいし、流通量も少ない。故にかなりの高額武器となってるぜ」
「はあ、それで性能は?」
「残念ながら攻撃力はそこにあるゴールドソードに一歩劣る。まあ、それでも一層ではかなり強力な武器に違いないが。だが、この武器は攻撃力が低い代わりに、軽くて切れ味がいい武器になっている性能で言えばゴールドソードよりも上だな」
おっちゃんは説明が下手なせいで理解するのに時間がかかったが、おっちゃん曰く武器には特性というものがあるらしい。特性とは武器についているスキルみたいなものだ。ブラッククロウの特性は二つ、軽業と貫通だ。軽業は威力が下がる代わりに重量が下がる。つまり要求ステータスが低くなるものだ。そして貫通は防御無視するというものだ。これは武器の威力とステータスの値をそのまま相手に与えられるため、かなり強い特性となっている。ちなみに俺が使っていたブロンズソードもこの店にあるゴールドソードも特性はなし。一般に流通している武器に特性はついていないことが多いらしい。
「さて、まあ聞いても結果は分かっているが、一応聞いておこう。あんちゃん、その武器を俺に売ってくんないか?」
「ダメです」
武器屋として高額で希少な武器は持っておきたかったのだろう。だが、俺も使える武器は必要だ。即答でそう返すと、おっちゃんはちょっと残念そうな顔をして笑った。
「わっはっは。まあそうだよな。そんな希少な武器をほいほい売れねえよな!」
「なんかすいません」
「いや、いいんだ。俺もコレクションにしたかっただけだからな。どこかでまた手に入れられる機会があればそっちで手に入れるよ」
おっちゃん、コレクターだったのか……。俺はそんな風に思いながら、また手に入れたらおっちゃんに譲ろうと決めた。
俺はブラッククロウの代わりに今まで使っていたブロンズソードをおっちゃんに譲った。お礼に買った時より安い金額のエレメンツを受け取った。おっちゃんは笑ってたし嬉しかったんだろう。ちょっと引きつった笑顔だったけど。
その後、街で買い物を済ませ、レベリングの為に1層で2番目に難しいダンジョンであろう蟻の古城というダンジョンに籠った。ここはベアアントという大きい蟻が出てくる。ベアアントは腹部以外の全体に装甲を纏い、攻撃を弾く。そのため腹部を狙って攻撃しなくてはならない。幸いベアアントの体力は少ないようで、俺の攻撃力でも数回攻撃する程度で倒せる。これだけでは雑魚が出てくるだけのダンジョンで難しい要素は見当たらないだろうが、ここが難しいのには当然理由がある。まず俺の攻撃力で数回というのはブラッククロウという強力な武器を持ったうえでの話で、普通のプレイヤーは基本的にブロンズソードかそれより少し強い程度の武器しか持たないであろう。そんな武器ではロクなダメージを与えることができない。現にブロンズソードでここに挑んだときは骨が折れた。2つ目に的確に弱点を狙わなければ倒せないという点だ。体中に装甲を持つベアアントの弱点はお腹。かなり大きめの弱点であるものの、ベアアントの動きは速く、大きいため、回り込むのも難しい。装甲はブロンズソードはもちろんブラッククロウでもダメージを与えられないほど硬い。ブラッククロウの特性である貫通はあくまで防御力を無視する効果で、装甲を貫く効果はない。
俺は数時間いまだに減る気配がないベアアントを狩り続ける。レベリングにおいて大事なことは、自身より強いか弱くても経験値が多い敵を倒すこと。そして場所はそういうやつが無限に沸いてくる場所を選ぶことだ。この世界では敵は一度倒せばそのダンジョンから抜けない限り敵がリポップしない。これはレベリングに置いてかなり面倒な仕様だ。いちいち奥まで進んで敵を倒し、再び戻らないといけないのだから。しかしここは違う。ここは無限に敵が沸いてくるのだ。これがここが難しい理由でかつ、俺がレベリングに最適だと選んだ理由だ。
普通のプレイヤーにとってここは地獄だ。ただでさえダメージを与えるのが難しい敵が無数に沸いてくるうえに、相手はかなりのレベルである。ここでレベリングは愚か突破することすら難しいだろう。だが俺は敵の弱点を的確につき瞬殺できるうえ、ダメージを受けることなく立ち回れる。強力なスキルがあってのことだ。俺の時止めのようなスキルを持たずここを突破できるのであれば、そのプレイヤーは相当な実力者であると言えるだろう。
蟻の古城に籠って体感数時間、ベアアントを狩ることで自身がどんどん強くなることに快感を感じ、気づけばベアアントを探して蟻の古城を走り回っていた。入手したスキルや魔法の試し打ちやこの世界の仕様について、自分の武器について知るために実験、レベリングの間にそんなことをしていれば時間もすぎるというもの。ふと懐中時計を開いて時間を見ると、すでに5日経っていた。
「やりすぎたか?」
俺は敵がいなくなった巣穴を見渡し、申し訳なくなった。いくら無限湧きとはいえ物凄い速度で敵を狩り続けていればリポップが間に合わなくなる。しばらくすればここにベアアントがやってくるだろうが、俺は一度休憩することにした。身体的な疲労はないものの、一度落ち着かないとまたベアアントを殲滅しかねない。俺はポーチから鑑定紙を取り出し、自分のレベルを確認する。レベルは13になっていた。
「ひとまずこんなもんか。一旦帰ってギルドの依頼こなして来よう」
レベリングも大事だが、他にも大事なことはある。それはお金だ。一馬にもらったお金ももうほとんどないため、金策しないといけない。ギルドで受けてきた依頼は、どれもモンスター討伐によるドロップ品の納入ばかりだ。モグラの爪、犬肉、ゴブリンのこん棒などなど、こちらに来たばかりのプレイヤーが受けるような依頼ばかりだ。それも仕方ないだろう。難易度が高い依頼はそのまま死に直結する。そんなものを受けるプレイヤーはそうそういない。
「しかしまあ、売ればそれなりのお金にはなるか」
俺はベアアントのドロップ品を仕舞いつつ、ダンジョンを後にする。
帰り道、何もしなくても寄ってくるモンスターを一振りで葬りながら、鼻歌を歌いつつ帰る。普段なら奇襲を警戒しつつ動いていただろうが、レベル差ができたため警戒する必要がなくなった。そのせいで後ろからデスハウンドに襲われたりしたが、蚊に刺される程度の痛みで済んだ。防御力がいくらあっても1のダメージは入るためだ。
「装備も何とかしないとなぁ」
噛みついてきたデスハウンドを倒し、犬肉を拾い上げながらそんなことを考えていると、いつの間にか門の前まで来ていた。依頼の内容とドロップ品の数を見合わせ、数が足りていることを確認すると、街の中へ入る。すると今までになかった喧噪が聞こえてきた。
「なんだ?」
何か揉め事があっているようだ。ふと騎士団の方を見ると、何を問いたいかすぐに察してくれて、事情を話してくれる。
「なんでも一国の王だとか叫ぶ奴がいて、それで喧嘩が起こっているらしい」
「一国の王?」
「この世界で王様も何もないだろうに。すでに騎士団に応援要請が行っている。すぐに収束するだろう。俺はここを守らないといけないから動けないけどな」
俺は喧嘩が起こっているという場所へ野次馬に行く。そこには赤いマントを羽織り、白いひげを生やし、冠を被ったいかにも王様って感じのプレイヤーと、それに覆いかぶさり殴りつけるぼろきれのようなシャツを着たいかにも農民って感じのプレイヤーがいた。
「お前が無能なせいで俺たちまでこんな目にあってんだ!」
農民っぽい服装のプレイヤーはそんなことを叫び、ひたすら殴りつける。王は必死に抵抗するが、彼を助けようとするプレイヤーはいない。
「お、お前たちっ!私を助けっ!助けろ!」
まあ、あんな口調で助けを求められて助け出すプレイヤーはいないだろう。そうこうしているうちに騎士団がやってきて、仲裁に入った。王の言い分はこれだ。
「私はかの大国、リューデルンデ王国の王、エドマルス・エル・リーゼントである!ここにきてそうそうあのものは私を殴りつけたのだ!あのものを処刑しろ!」
そして農民の言い分はこれだ。
「俺はリューデルンデ王国のはずれで農家をしている者だ。あいつは俺達から高い税を毟り取り、自分の為に消費していた。俺たちは今日食べる食事にすら困る有様だった。そんな時に奴は戦争を起こし、俺達を戦争に駆り出したんだ!腹をすかせた俺達をだぞ!?そんな状態で勝てるはずもなく俺たちは巻き添えで死んだんだ!すべてはあいつの責任だ!」
農民の言い分はもっともだ。自分の為に金を使って民を思いやらず、しまいには戦争を起こし国を滅ぼしたとなれば殴られて当然だろう。俺は農民の方に同情した。
結局王の方はギルドに連行され、農民は騎士に諭され、解放された。やはり皆も同じ考えだったようだ。騒動が終わり解散する流れにのって俺はギルドに依頼をこなしに行った。
「やっぱこんだけか」
3つの納入依頼をこなし、入った金額は3000ちょっと。難易度低い依頼だし仕方ないと言えば仕方ないが。
「ベアアントのドロップはどれくらいなるかな……」
俺はベアアントのドロップ品を眺めながら、そう独り言ちた。その瞬間、このドロップ品で装備が作れないかと思い始めた。
MMORPGならばよくあるだろう。ドロップ品を入手し、それで装備を作る。そういうゲームには大概生産職というものがある。この世界でもそういうのはあるはずだ。そうと決まればまず向かうところは一馬の家だ。
「私は便利屋じゃないんだけどね」
「知り合いもいないですしお土産もありますからそう言わないで」
一馬の家に行くと、呆れながら家に上げてくれる。土産に依頼で余ったデスハウンドの犬肉を渡した。
「で、防具屋だったね?この街で一番有名なのはテッケンさんだな。ドワーフって種族の腕のいいプレイヤーだ」
「ドワーフ!やっぱり鍛冶はドワーフが一番なんですね」
「必ずしもそうではないらしいが、少なくとも彼は君がイメージしてる通りのドワーフだ」
「ありがとうございます。行ってきます」
一馬に場所を聞き、お礼を言うと、俺はさっそく向かう。そこにはイメージした通りのドワーフがいた。毛深く背が低く体躯ががっちりしている男だ。
「はいらっしゃい!」
「防具の制作をお願いしたいんですが」
「防具?素材はあるのか?」
「はい」
俺はベアアントの装甲と爪を取り出した。するとテッケンは目を丸くして驚いていた。
「おいおいおい!こいつぁすげえや!ベアアントの装甲だと!」
その声を聞いたのか奥からわらわらとドワーフが出てくる。
「まじかよおい!ベアアントの装甲とか爪がこんなに大量に!今まで見たことねえよ!」
「この子、見た目に反してたくましいのねん!」
「あんちゃん!こいつ俺達に売ってくれねえか!?」
ドワーフがこんなにうるさい種族だとは思ってなかった。それに一人おかまっぽいのいた。俺は装備を作ってくれたら売ってやると条件を言うと、無償で作ってやると返事が来た。ベアアントの装甲、そんなレアなのかと思った。
おかまっぽいのに体を調べられ、他のドワーフが衣装のイメージ作成や素材の加工を行う。その手際は素晴らしいの一言だった。鍛冶について完全な素人の俺でも分かるほどに正確で完璧な仕事をしていた。ものの数分で先ほどまでベアアントの殻だったものは、銀色に輝く鎧へと変わっていた。
「試作品にうちの最高傑作の剣をぶつけてみたが、大した強度だよ!最高傑作が折れちまったよ!」
がっはっはと豪快に笑うドワーフ。割と大変なことを言ってたようだが、まったく気にしてないようだ。
「どうだ?強度はもちろん着こなしやすい細工、素早く動けるように重量も軽い鎧に仕上げたが」
鎧を着ると、確かに軽い。さすがに服を着ているとまではいかないが、重量感を感じない鎧だった。値段にしたら相当な値段になるのではないか。
「素晴らしい出来です!これなら今までの戦闘スタイルを崩さず戦えます!」
興奮した俺にがっはっはと笑うドワーフ。おねえも嬉しそうにしていた。ちなみに身体測定の途中に聞いたらおねえじゃなく女性だったようだ。名前はサクラらしい。ドワーフの女性ってこんな感じなんだなとちょっと引いたのは内緒だ。
「さて、約束通りこいつは売ってもらうぜ!そうだな、5万でどうだ!」
即決だった。こんないい装備を無償で作ってもらった上に余った素材を5万で買い取ってくれるというのだから、これ以上いい取引はないだろう。見送るドワーフたちに手を振って、俺は街へ買い物に出かけた。
あれから1か月が経過した。ほとんど街に戻らず巣穴に籠り、ひたすらベアアントを狩り続けた。魔法を撃ちまくってみたり、鎧の効果を試してみたり、様々なことを試しているうちに、俺のレベルは28まで上がった。
「さて、作戦まであと1週間か。そろそろ塔に向かうとするか。俺は気合を入れて塔へ向かった。