それではごゆっくりご覧下さい。
「……はぁ〜、終わった」
僕は今着いている机に向かって、両手を力無く伸ばして一息吐いていた。
思い返せば……学校への登校前に色々間に挟まれ何だかんだあり、学校に着いたら着いたで……つぐから苦笑を貰いつつも、日菜から任された(半ば強制的に押し付けられた)代表挨拶をする事になったりと、本当に息付く暇も無かったのだ。
「さっくん、だらしないよ〜? この後の始業式で、また挨拶するって言うのに〜」
「だぁれぇのせいで……こうなったと思ってるんだぁ、ひぃなぁーーーーーー!!!」
「いひゃいいひゃい、いひゃいからはなしひぇ〜」
いつも通り笑顔で近付いてきた日菜の両頬を、僕は思いっきり抓ってお説教する事にした。朝の時も学校の時もやられっぱなしだったから、仕返しと言うか憂さ晴らし……みたいなのをするのには、またと無い機会だしね。
暫く抓り回してお説教して居たら……日菜の方から降参の意志が聞こえて来たので、僕は彼女の頬から手を離して、近くにあった椅子へと座らせた。
……全く。これじゃあどっちが生徒会長なんだか、全然わかりやしないよ。
「痛ぁいぃ……うぅ、痕が出来たらどうするのさぁ」
「知らない。自業自得と言う事で反省して」
「むぅ……さっくんのケチんぼ」
日菜が抓られた頬を擦りながらそう言ったが、僕としては朝から少々頭に来てたので、素知らぬ顔をしてそう答えた。
今はちょうど入学式や文系科目の実力テストも終わってお昼休みなので、時間いっぱいを使って生徒会室で挨拶文を考えながらお昼ご飯を食べていた。
「……ったく、次からは気を付けてよ? この学校の生徒会長は僕じゃなくて日菜なんだから」
「はぁい」
「わかったならそれでよし。……さて、お昼を食べ終えたらもうひと頑張りかな」
日菜にある程度の釘を刺し終えた僕は、お弁当を食べる手を動かしながら、始業式で全校生徒に伝える挨拶文を考え始めた。
本来これは……生徒会長である日菜の役目だけど、それを何故か生徒会長補佐の僕が担っていると言う訳である(僕が補佐に着いてるのは、日菜のお目付け役と言う事らしいです)。
「もぐもぐ……(ふむふむなるほど、ここはこの文の方が今年度の目標を伝えるには良いかな。あ、ちょっとここは違うかも……修正しよ)」
「ねーねー、さっく〜ん」
僕が挨拶文を考えている最中に、隣に居る日菜は暇だったのか……僕の脇腹を軽くつんつんして『構ってよぉ』と言う意思表示をしていた。
だが……僕一個人としては、そんな日菜の事情など知った事じゃないので、ガン無視して作業を続けた。
その後もつんつん突っつかれたり擽られもしたが、こちらは構っている余裕など全然無かったので、お昼ご飯を食べ終えた後も無視し続けた。
「むぅ〜。さっくんのケチんぼ! こうなったら……こうしてやるもん!」
「え、ちょっ……待って、日菜……んむっ!?」
そしてとうとう我慢の限界に達したのか、半ば自暴自棄になった日菜が攻撃を仕掛けて来た。その行動があまりにも突然過ぎたために、僕は彼女の行動に為す術なく堕ちてしまった。
僕と日菜しか居ない生徒会室に、この場には似つかわしく無い卑猥な音が聞こえ始めた。僕はそこから逃げ出そうとしたが、膝の上に彼女が乗っかっているのに追加して、顔を両手で固定されてしまっているので、逃げようにも逃げ出せないままでいた。
「ひ、日菜……これは一体どう言う『さっくんの意見なんて聞かない。今は聞きたくない』日菜……んんっ!?」
僕が質問をしようとしたが……彼女に間髪入れず遮られてしまい、また唇を互いに重ね合ってしまう。その際に僕は彼女が変な動きをしたのを視界に捉えた。
その日菜が取った行動とは……。
「んはぁ……」
「ちょっ……何してんだよ」
「さっくん、あたしに全然構ってくれないんだもん。あたしが色々イタズラをしても、ピクリとも目を向けようとしてくれなかった。そんな強情なさっくんには、お仕置を受けてもらおうと思って」
それはお前が悪い……と僕は言おうとしたが、本日三度目のキスにより、言えずじまいになってしまう。その間に布が擦れる音が聞こえ始め、何かが外れて行くのも合わせて聞こえて来た。
唇が離れた後にその光景を見たのだが。
「お前、何してるんだよ! 自分が何やってるのかわかってんのか!?」
「分かってるよ! あたしは……さっくんの事が大好きだもん! 千聖ちゃんや彩ちゃんにだって負けないくらい! 何なら……おねーちゃんやリサちーにだって渡したくない!」
「だからって学校で服を脱ぐバカが居るか!」
「バカって言った方がバカだもん! さっくんにあたしの事を好きになってもらうまで、絶対に諦めない!」
日菜がやっていたのは……なんと、制服のブレザーのボタンを外して脱ぐと言う行為だった。もう既に床へブレザーは脱ぎ捨てられていて、ネクタイも緩めていて……カッターシャツのボタンもとっくに第三ボタンまで開け放たれていた。
その開けられた所からは、穢れ等を知らないキレイな純白の肌が目に入り……育ちの良さそうな胸を包むかの様に、淡い水色の下着が付けられているのが見えた。
どうやら彼女が考えている目論見は、このまま僕の理性を削ぎ落として……あわよくば襲って貰っちゃおうと言う魂胆らしい。
「ひ、日菜? そろそろいい加減にしないと、僕が作業できないんだけど?」
「ダメだよ、あたしに構ってくれなきゃ……。さっくんにはいつもいつもお預けを食らってたから、今日くらいはあたしの事だけを見ていてよ……ね?」
そう言って日菜は、顔を紅くしながらもジリジリと僕との距離を縮めて行く。少しでも本人がその気になれば……本番までやってしまいかねない雰囲気だ。
どうするかなぁ。弁当や作業道具はここに置いたまま避難する訳には行かないし……かと思えば、日菜を連れて行かないと全然話が進まないし……!
どうすればいいんだよ……と、僕が半ば諦めかけたその瞬間!
「「!?!?!?!?!?!?!?」」
『颯樹さん大変っす! 緊急事態です!』
「麻弥!? ……すまない、鍵は開いてるからそのまま入って来てくれ!」
「え、ちょっ……さっくん!?」
日菜が止めるのも気にする事無く、僕は麻弥に入室を促した。一方の彼女はと言えば……今の自分の状況を見て慌てふためいていて、何とか逃げ出す術を考えている様だった。
そして日菜の想いを裏切る様に……生徒会室のドアが開けられ、麻弥が入室して来た。
「颯樹さん、今は作業をしている所ですが……本当にすみません! 実は緊急の要件で颯樹さんへお呼び出しがかかりまして……て、うわぁ!」
「あーあー、入って来ちゃったかぁ」
「日菜さん!? 一体何をやっていたんですか!?」
生徒会室に入って来た時に、目に入った光景の事を麻弥が問い詰めるが……方や日菜の方はと言うと、立ち直ったのかケロッとした表情で何でも無い様な返答をした。
「はっ、そうじゃないっす! 颯樹さん!」
「ん? どうしたの、麻弥」
「千聖さんから『さっさとダーリンを出しなさい』と言われたんですが、心当たりはありますか!?」
「え、ちーちゃん? 確かそんな事言ってた様な気がしなくもな……いや、待て。有り得るぞ。ちーちゃんならやりかねない」
麻弥の慌てようから全てを察した僕は……スマホの電源を入れた後に『電話』のアプリを開いて、彼女から言われた事の確認をした。するとそこに見えたのは……約3分置きにかけられたと思われる通話履歴が残っていた。
その通話履歴の大半は、件の彼女と……彩と花音だったのだが。かけた回数が二桁以上な所を見ると、よっぽど我慢が効かなかったらしい。
そして、それを確認して閉じようとした直後。
「……出るよ」
「は、はいッス」
「……わ、千聖ちゃんだー」
二人に確認を取った僕は、かかって来た着信へと応答する事にした。一応……この学校では、スマホの事については黙認されてはいるのだが……実際に使用が可能な時間は、こう言ったお昼休みに限定されているのが事実だ。
「もしもし、ちーちゃ『アナタ、今の今まで一体何をしていたのかしら?』生徒会室にて始業式で伝える挨拶文を考えておりました」
『それは、日菜ちゃんの役割だと紗夜ちゃんから聞いたのだけれど……何故、それをダーリンがしているの?』
「押し付けられました。反論の余地すらありませんでした」
僕はありのままの、起こった事全ての事実をちーちゃんに説明した。それを聞いた通話口の向こうの彼女はと言うと、鋭利な刃物で突き刺す様に反論をして来た。
……そのせいで返答が敬語になってるなんて、普段じゃあまり無い光景だったりする。
『私、登校前に言ったわよね? 私が何もする事が無くなって暇になった時、アナタの声が聞きたくなった時……その時はガンガン電話をかけると』
「……はい」
『にも関わらず、アナタは日菜ちゃんの良い様に使われていて……挙句の果てには、私との約束すら無視した……これはどう責任を取ってくれるのかしらね?』
次から次に放たれる彼女からの口撃が、僕の心を否応無く抉って来る。それもここまで休み無しで来ている為、もう心もズタボロになっていてもおかしくないくらいだ。それに関しては謝り倒すしか無いので、僕は全力でちーちゃんに謝る事にした。
そして少し頭も冷えたのか、ちーちゃんも落ち着いてくれた……のかな、と思っていたら。
『ダーリンにも込み入った事情があったでしょうし、責め立てるのはこれくらいにしましょうか。私も少々言い過ぎた部分はあったわ。それについてはごめんなさい』
「……い、いいけど……『ただし』?」
『明日から一週間、私のドラマ撮影のお仕事に付いて来て貰うわよ? 先に監督さんやスタッフさんには話をしてあるから、宿泊するお部屋も同室にしてあるわ♪』
その言葉を聞いた瞬間、僕たち三人の体温が氷点下まで下がった様な気がした。大抵ちーちゃんが何か言い出す時は、ほぼ確実に良からぬ事を企んでる時の事が多いのだ。
その事もあり、彼女から言い出された言葉には常に細心の注意を払う事が多くなった。
『ふふっ♪ 明日から一週間、ダーリンと一緒にドラマ撮影のお仕事なんて……今から考えただけでも楽しみだわ♡』
「あ、あの〜。僕に拒否権は『アルワケナイデショウ?』やっぱし」
『それじゃあ、今日の放課後迎えに行くわ♪ 午後の始業式も頑張ってね、ダーリン♡』
その言葉が聞こえた後、短い切断音と一緒にちーちゃんとの通話は終わった。それを聞いた僕たちは、これから先に起こる展開に嫌な雰囲気を漂わせてしまう事になった。
そして放課後……件の彼女に、花咲川学園の高等部の校舎へと連れられ、心配しまくっていたと言う彩と花音から、お説教をたっぷりと聞かされる羽目になり、後日一対一でデートをすると言う事で宥めたのはまた別の話。
今回はここまでです。如何でしたか?
それでは次回に……待て、しかして希望せよ。
感想や評価など、お待ちしております。