kamen rider zero one 作:さうざー
前の作品を読んでくださっていた方々、申し訳ございません。
改めて、よろしくお願いします。
ー新時代の人工知能技術が、あなたの未来を切り開く!ー
ナレーションとともに、真っ暗だった画面に光が灯る。
画面の中央には、白いボデイのロボットが椅子に座っていた。
「人工知能搭載人型ロボ、その名もヒューマギア!物体認識の技術によって、私が誰であるかを認識し、自分で考え行動します。」
ロボットの後ろから年老いた、しかし力強さを感じさせる壮年の男性が現れた。
男性は、「おはよう!」と言ってロボット・・・ヒューマギアに手を差し伸べる。
「おはようございます。飛電是之助社長。」
男性の言葉通り、ヒューマギアは物体認識によって男性が何者かであるかを認識し、挨拶と握手を返す。
ー飛電インテリジェンスは、一部地域で新たなヒューマギア派遣サービスを始動!ー
映像が切り替わり、先ほどのロボットとは違う、頭にヘッドフォンのような機械を付けている以外は人間と瓜二つな者たちが映る。
それらは全てヒューマギアであり、医者、警備員、美容師、パティシエなど、多種多様な仕事に務めている映像が流れていく。
ー通信衛星ゼアによって管理されたヒューマギアが、様々なお仕事の現場をサポート!新時代の働き方の、新たな価値を創造します!ー
「さあ飛び立とう!夢に向かって!」
こちらに手を差しのべる男性のその言葉を最後に、映像は終了するのだった。
***
ヒューマギアとは。
それは先ほどの紹介映像にもあった通り、飛電インテリジェンスという会社が販売、派遣している人工知能搭載の人型ロボのことである。
人間とほとんど変わらない見た目、ラーニングによって自分で考え成長していく知能。人間の代わりに、そして人間よりも完璧に、あらゆる作業をこなすことができる。
それに加え、宇宙に浮かぶ通信衛星ゼアによって完璧に管理される。そんなヒューマギアの誕生は、人々が長年夢見てきた空想を現実にしようとしていた。
そんなヒューマギアを開発した飛電インテリジェンスは、先ほどの映像にも映っていた飛電是之助が会社を設立してから怒涛の成長を見せ、今では大企業に名を連ねようかというところまで来ていた。
だからこそ、社長の飛電是之助が亡くなったというのは、世間で大きなニュースとなった。
今も街に浮かぶ巨大な飛行船に取り付けられたモニターには、飛電是之助の訃報を知らせるニュース映像が流れている。
しかし、そんなニュースを気にも留めずに自転車で全力疾走する青年が一人。
「やっべえええ遅刻だああああ!!昨日目覚まし5個かけたのにいいいい!!」
青年の名は飛電或人。
形容詞に「売れない」が付いてしまうが、お笑い芸人として活動している。
しかし、売れないなりにも、今日はくすくすドリームランドという遊園地で定期的に行われているお笑いライブに出演することになっていた。
或人としては、芸人として活躍できるチャンスである。そのため絶対に寝坊しないよう目覚ましを5個もかけたというのに、彼は寝坊してしまったのである。
気合を入れすぎて、夜遅くまでギャグの練習をしていたのがいけなかった。
そんなわけで、お笑いライブに間に合うよう、或人は大慌てで目的地の遊園地に向かって自転車を走らせるのだった。
***
「続いてのお笑い芸人さん、どうぞ!」
「どうも〜、アルトでえええええす!!」
司会の声とともに、水色のキラキラした派手なスーツを着た或人が舞台に現れる。
「はーいライズフォン、今日のお笑い天気予報は?」
『今日は1日中寒くなるでしょう』
「ブルブル震える…はいっ!アルトじゃ〜ないと!」
懐からライズフォンというこの世界におけるスマートフォンを取り出し、それを絡めたギャグを披露した或人。
売れないのも納得の激寒ギャグだったが、彼自身は「アルトじゃ〜ないと!」というお決まりのフレーズも入れて、きまった!大爆笑間違いなし!と思っていた。
しかし、残念ながら彼が登場するまでにたくさんいた観客はほとんどいなくなってしまっていた。
いるのは観客席に座って休憩している年配のご夫婦だけである。
それを見た或人の表情は、変顔とも言えるレベルの驚愕の表情になってしまったのだった。
***
「君、ここにはもう来なくていいよ」
「えっ!?ちょっと待ってくださいよ支配人!?」
ネタが終わった後、突然遊園地の支配人にそう言い渡される或人。
或人としては、これからもこのお笑いライブに参加したいと思っていたところだっただけに、なんとか考え直してもらうようお願いしようとする。
「やっぱりね、時代はヒューマギアだよ」
「えっ、どういうことですか?」
「それでは、続いてのお笑い芸人さん、どうぞ!」
或人と支配人が話していると、お笑いライブでは次の芸人が登場するところだった。
支配人はそちらに目を向け、或人もそれに習い舞台の方に目を向ける。
「どうも〜、腹筋崩壊太郎です!」
なんと舞台に現れたのは腹筋崩壊太郎と名乗るヒューマギアだった。
「ヒューマギアがお笑い!?」
まさかのお笑い芸人のヒューマギアの登場に驚く或人。
しかし、ヒューマギアにお笑いなんてできるのかと、或人は疑問に思った。
「腹筋パワーーーー!」
腹筋崩壊太郎がそう叫ぶと、同時に彼の腹筋の部分のパーツが弾け飛ぶ。
ヒューマギアだからこそできるぶっ飛んだ芸に、観客たちは爆笑の渦に包まれた。
「すげぇなヒューマギア…お笑いまでできるなんて…」
「みんな笑って幸せになれる。そんな遊園地を作ることが、私の夢なんだ」
「気が合うな〜、俺の夢も笑いをとることなんで!」
「君より笑いとれるやつもういるから、別の夢見つけなさ〜い」
そう言って立ち去ってしまう支配人。もはや或人はその場に崩れ落ちるしかなかった。
***
建物の殆どが湖に沈み、それが巨大なバリケードに覆われている場所がある。
そこはデイブレイクタウンと呼ばれる場所であり、12年前にここで起こったデイブレイクという爆発事故の跡地であった。
廃墟となった建物の中で、ターバンをつけた黒ずくめの男と、同じく黒ずくめでフードをかぶった男が話し合っていた。
「機は熟した。マギア作戦を実行に移す」
「なにそれ、どうやってやるの!」
ターバンをつけた男の言葉に、フードをかぶった男はまるで子供のように反応する。
「ヒューマギアのシンギュラリティを利用するんだ。」
「シンギュラリティ?」
「自我を持った人工知能が人間を超える。今こそ、人類を滅ぼす時がきたのだ…かつての、この街のように…」
湖の底では、通信衛星ゼアと瓜二つな謎の機械が沈黙していた…。
***
「おかしいな…俺の爆笑ギャグ、なんでウケねえんだろ…」
支配人にクビを言い渡されてしまい、遊園地から泣く泣く帰ろうとしていた或人の前に、一台の車が止まる。
その車の中から、黒と緑のワンピースの上に白いジャッケットを着た女性が現れた。
ショートヘアの整った顔立ちをしてるが、頭にヘッドセットのような物を付けている。
それは先ほど遊園地にいたスタッフや、腹筋崩壊太郎が付けていた物と同じ物で、つまりは突然現れた女性の正体はヒューマギアだった。
「物体認識成功。飛電或人、22歳。現在、爆笑ピン芸人…を自称する売れないお笑い芸人アルトとして活動中」
「うっ…悪かったな… ていうか、あんた誰?」
「社長秘書のイズと申します。先日亡くなられたあなたの祖父、飛電インテリジェンス社長飛電是之助様のことで、お話があります」
「えっ、爺ちゃんの?」
そう、或人は飛電是之助の孫だった。といっても、是之助は社長として忙しい人間だったので、会った回数は数えるほどしか無い。
祖父との接点などほとんど無いそんな自分に、一体何の話があるのだろうか。
そう疑問に感じつつも、或人はイズが用意した車に乗り込むのだった。
***
場所は変わりそこは飛電インテリジェンスの会議室。今そこには、飛電インテリジェンスの重役たちが集まっていた。
「今日皆さんに集まってもらい、是之助社長の孫である彼にも来てもらったのは他でもない、先日亡くなられた社長の遺言書を読み上げるためです。」
是之助の遺言書を持ちながらそう説明するのは副社長である福添准。
遺言書を読み上げるためには、或人の立ち会いが必要になる。しかし、そうは言ってもほとんど会ったことのない祖父の事であるし、飛電インテリジェンスのことも詳しく知らない或人にとっては、居心地の悪い空間であった。
「では、早速読み上げたいと思う」
早く終わってくれ。或人がそう思うなか、福添が遺言書を読み上げ始めた。
「そう遠くない未来、我が社は大きな危機に直面する。我が社が販売しているヒューマギアが、心無い存在に悪用され人類を襲う…!?…対抗手段はただ一つ、飛電ゼロワンドライバーと、プログライズキーだ…」
福添の言葉に役員たちがざわつき始める中、イズがどこからか持ってきた黒いアタッシュケースを開いた。
そのケースの中には飛電ゼロワンドライバーと、プログライズキーと呼ばれる物が入っていた。
「使用権限があるのは我が社の社長のみ、そして2代目社長に…孫である飛電或人を任命する!?」
「俺!?」
或人は驚愕し、役員たちのざわつきはさらに大きくなる。
「無関係の素人を社長に!?」
「そんなこと認められるわけがない!」
「そうだそうだ!」
「いきなり孫が社長なんて無茶苦茶だ!」
「ちょっと待ってくれ!!社長なんて…やるわけないだろ。俺の夢は…笑いをとることだから!」
役員たちが騒ぐ中、或人がそう言うと、会議室は静まり返る。そしてそのまま、或人は荷物をまとめて会議室から出ていった。
或人が出ていくと、イズもまた黒いアタッシュケースを持って出ていこうとする。
「おい、どこにいくんだイズ?」
「私は、衛星ゼアからの任務を遂行します。そのために作られました」
福添にそう言うと、イズも会議室から出ていった。
「全く先代社長も何を考えているのやら…。全くの素人を社長にしようとするなんて」
「そうだな…。しかし、少し前まで何をしても動かなかったイズが急に動き始めた事といい、何かある気がするな…」
他の社員の言葉に、福添はそう答える。是之助社長は一体何を考えていたのか。イズが言っていた、衛星ゼアからの任務を遂行するという言葉も気になる。
飛電インテリジェンスに何かが起きようとしている。福添はそう思うのだった。
***
会議室からエントランスに向かうエレベーターの中で、或人の頭には幼い頃の思い出が浮かんでいた。
───にらめっこしましょ!あっぷっぷっぷ!
───ははは、或人は面白いな
───む〜もう一回!心から笑ってない!
───何度やっても結果は同じだよ
───絶対お父さんを、笑わせるから!
或人の父親はヒューマギアだった。生まれてすぐ両親を亡くした或人に、祖父の是之助は、育ての親として飛電其雄と名付けたヒューマギアを作った。
しかし、デイブレイクで起きた爆発から或人を身を挺して庇い、破壊されてしまった。
その時の其雄の言葉は、今も或人の中に残っている。
───或人…夢に向かって、飛べ…
「俺の夢…」
みんなを笑顔にしたい、そんな或人の夢を其雄はいつも応援してくれて、ギャグの練習にもよく付き合ってもらったものだった。最も、或人のギャグで其雄が笑うことは最後までなかったのだが。
懐かしい気持ちになりながらエントランスに着くと、飾ってあった是之助の肖像画が或人の目に映った。
「わりぃな、爺ちゃん」
2代目社長になってほしいという、是之助の思いに応えることはできない。そう一言謝ると、或人はエントランスから外へ出たのだった。
***
或人とは別の芸人がネタをやっている中、腹筋崩壊太郎は舞台裏で待機していた。
彼は、先ほど自分がギャグを披露した時の観客たちが大爆笑した様子を思い返していた。
観客たちの笑顔を思い返し、自然と笑顔になる腹筋崩壊太郎。
しかし、そこで彼はなぜ人間の笑顔に自分はこんなにも嬉しくなるのかと、疑問を感じた。
「見〜つけた」
そんな腹筋崩壊太郎に、まるで子供がかくれんぼで隠れていた子を見つけた時のような無邪気な声がかかった。
腹筋崩壊太郎が振り向くと、そこにはフードをかぶった黒ずくめの男がいた。男は腹筋崩壊太郎に近づくと、銀色の機械を腹筋崩壊太郎の腰に取り付けた。
取り付けた機械の横から内側にトゲがついたベルトが現れ、それは腹筋崩壊太郎の腰に巻きつき、取り外すことができないようにしてしまった。
「君は僕の友達だ。この場所を破壊して?」
「できません…!私の仕事は…人を笑わせる事だから…!」
「違うって!君の仕事は…人類滅亡だよ?」
「ぐっ、うわああああああ!」
自分が何かに書き換えられる感覚に抵抗していた腹筋崩壊太郎だったが、彼の抵抗は無意味だった。
「滅亡迅雷.netに…接続…」
「はいこれ!」
先ほどとは別人のようになってしまった腹筋崩壊太郎に、フードをつけた男はプログライズキーによく似た緑色のデバイスを手渡したのだった。
***
飛電インテリジェンスを出た或人は、遊園地に戻ってきていた。
支配人にこれからもお笑いライブに出演させて貰えるようもう一度お願いしに来た或人は、お笑いライブの観客席で他の観客と一緒にライブを見ている支配人を見つけた。
みんな笑っていた。それを見て、さっきの支配人の言葉が或人の頭に浮かんだ。
───みんな笑って幸せになれる。そんな遊園地を作ることが、私の夢なんだ
自分のギャグで人を笑顔にすることができるのだろうか。支配人の言葉は或人に重くのしかかった。
「やめて下さい!」
或人が一人悩んでいると、ライブの舞台が騒がしくなっていた。
舞台裏からいきなり腹筋崩壊太郎が現れ、腹筋崩壊太郎を止めようとしたヒューマギアのスタッフを投げ飛ばしたのだ。
「私の仕事は人間を笑わ……滅亡させること!」
腹筋崩壊太郎は先ほどフードをかぶった男から渡されたデバイスを取り出し、スイッチを押して起動した。
-BEROTHA!-
さらに、起動したデバイスを腰についている銀色の機械に差し込み、その機械のスイッチを押した。
-ZETUMERIZE!-
腹筋崩壊太郎の皮膚が破け、ヒューマギアの素体のボディが露わになる。
そこからさらに頭部の皮膚が破け、グロテスクな頭部が露わになり、その頭部の開いた口から無数の緑色の管が飛び出す。
管はあっという間に腹筋崩壊太郎のボディを覆いつくてしまい、次の瞬間、腹筋崩壊太郎は両手に鎌をつけた緑色の、まるでカマキリのような異形の怪物ベローサマギアへと姿を変えた。
「人間を皆殺しにする…」
ベローサマギアをスタッフのヒューマギアたちが止めようとするが、ベローサマギアは腕から管を伸ばし、それをヒューマギアたちに突き刺した。
次の瞬間、ヒューマギアたちは顔が三葉虫のようになったベローサマギアと同じ怪人、トリロバイトマギアへと姿を変え、ベローサマギアと共に観客たちに襲いかかった。
観客たちはパニックになり、逃げ始める。
「くっ、やめろ!」
「皆殺しだ!」
思わず或人は、人間に襲いかかろうとするベローサマギアに立ち向かったが、たやすく投げ飛ばされてしまった。
「なんなんだこれは…」
悲鳴と怒号が飛び交う遊園地に、支配人は呆然とするしかなかった。
***
遊園地でマギアが暴れ回っている中、そこに一台の車が到着した。車の側面には、A.I.M.S.という文字がペイントされている。
その車の後部ドアから、武装した隊員たちが続々と現れる。
「暴走するヒューマギアのデータを収集する。総員…」
スーツの上に防弾ベストを着た長髪の女性が武装した隊員たちに命令をしようとした所、それを遮るように一人の男がトリロバイトマギアに向けて銃を発砲した。
「残らずぶっ潰す…」
その言葉と発砲を皮切りに、他の隊員もトリロバイトマギアとの戦闘に移っていった。
「最後まで聞いてから撃て!」
隊員たちのその行動に、女性はそう叫ぶしかなかった。
***
遊園地はあちこちの建物が破壊されており、火が上がっている所もあった。
マギアたちは逃げ惑う人間を捕まえては、殴りつけたり、蹴りつけたりしている。
「どうなってんだよ、これ…」
あちこち傷を負い、ボロボロの或人はそう呟くことしかできない。
そんな中、或人は膝をついて呆然としている支配人を見つけた。
そして、そんな支配人の後ろから、今にもベローサマギアが襲いかかろうとしていた。
「私の…遊園地が…」
「皆殺しだ…」
「支配人!」
或人はベローサマギアに飛びかかったが、またしても簡単に投げ飛ばされてしまう。
「ぐっ!」
「或人様!」
或人を追ってやってきたイズが、飛ばされた或人に思わずそう声をかける。
「なんでだよ…どうして人間を襲うんだ!?」
「下らない、人類は滅亡する。人間は皆殺しだ」
「さっきから同じことばかり… 言っても聞かないってのか…」
幼い頃の或人はヒューマギアの父に救われたのだ。両親を亡くし傷ついた心を救ってくれた。デイブレイクの爆発から身を挺して庇い、命を救ってくれた。
ヒューマギアは人を助けてくれる存在だと、そう思っていた。
そんなヒューマギアが人を傷つけている。それを許すことはできなかった。
「なあ、そのドライバーがあれば、あいつをどうにかできるんだよな!?」
「はい、我が社の社長の座につく者にのみ使用が…」
「いいからそれを俺にくれ!」
「はい、承知しました」
イズは或人に近づき、アタッシュケースから飛電ゼロワンドライバーとプログライズキーを取り出し、手渡した。
「ゼロワンドライバーを腰に装着して下さい」
-ZERO-ONE DRIVER!-
ゼロワンドライバーを腰に装着した途端、或人の意識は何処かへと飛ばされ、気がつくと、青い01という数字が羅列する真っ白な空間の中にいた。
「なんだここ…!?」
「ここは我が社の通信衛星ゼアの思考回路。今或人様の脳はゼアと無線接続しています。」
真っ白な空間にイズが現れ、或人の疑問に答える。
「つまり今俺はどうなってるんだ…?」
「人工知能と同じ思考速度を持った状態、ということです」
ここで現実の映像が映し出される。或人は棒立ちで、ベローサマギアは今にも或人に襲いかかろうとしていた。
「このままでは数秒後に或人様は死亡します」
「ええっ!?」
「その前に、使い方をラーニングして頂きます」
真っ白な空間にいくつかの立体的な画面が現れる。画面には、USER MANUALと書かれていた。
「使い方を学べってことか」
或人は画面に近づき、それをタッチした。
『チュートリアルモードを実行します』
TUTORIAL MODE STARTという画面に変わり、電子音声が流れる。
あと数秒後に死ぬというとんでもない状況の中、 ゼロワンを使いこなすためのチュートリアルが始まったのだった。
***
A.I.M.S.の隊員たちとトリロバイトマギアの戦いはまだ続いていた。
しかし、隊員たちの攻撃はトリロバイトマギアにあまりダメージを与えられていなかった。
「通常兵器じゃ埒があかねぇ…」
そう言うと、男はA.I.M.S.の車に戻り、青と黒の銃が入ってるケースのガラスを、銃床で叩き割り、中からその銃を取り出した。
「いよいよこれを使う時がきたか…」
「まて不破!A.I.M.S.ショットライザーを私の許可無く使うことは…」
男の行動に気づいた女性はそう叫ぶが、男はその言葉を遮るようにA.I.M.S.ショットライザーと呼ばれる物を発砲した。
女性に向けて発砲したように見えたが、弾丸は女性の顔面のすぐ横を通り、後ろのトリロバイトマギアに命中した。
トリロバイトマギアは頭部を破壊され、そのまま活動を停止した。
「どけ」
男は女性にそう言うと、再びトリロバイトマギアとの戦闘に戻っていった。
***
「ラーニング完了」
ゼロワンの全てのチュートリアルを終え、衛星ゼアから現実に戻った或人に、ベローサマギアは腕に持った鎌を振り上げ、エネルギーの斬撃を放った。
すかさず或人はプログライズキーのライズスターターを押し、それをゼロワンドライバー左側の認証装置オーソライザーに押し当てた。
-JUMP!-
-AUTHORIZE!-
衛星ゼアから一筋の黄色い閃光が降り注ぐ。その閃光は黄色い巨大なバッタへと姿を変え、斬撃を弾き飛ばした。
そのまま巨大なバッタは、まるで暴れ回るかのように辺りを飛び跳ね始める。
「変身!」
その言葉とともに、或人はプログライズキーを展開し、ゼロワンドライバーに差し込んだ。
-PROGRIZE!-
ゼロワンドライバー中央のビームエクイッパーと呼ばれる装置から、立体的な青い画面が照射される。それが或人の体を通過した瞬間、その姿は黒い戦士へと変わり、さらにそれをバッタが覆い尽くすような形で黄色の装甲を戦士に纏わせる。
-飛び上がライズ!ライジングホッパー!-
-A jump to the sky turns to a rider kick.-
軽快な音声と、次に英語の音声が流れ、或人は仮面ライダーゼロワンライジングホッパーへの変身を完了した。
「お前は何だ!」
突然現れた謎の戦士に、ベローサマギアはそう問いかける。
黒と黄色の戦士は、変身と同時に現れたカバンの形をしたアイテムをイズに手渡し、くるりと一回転してポーズを決めた。
「ゼロワン!それが俺の名だ!」
ゼロワン、それが或人が変身する黒と黄色の戦士の名前だ。自らの名乗りを上げたゼロワアは、そのままベローサマギアに接近し、
「はああああっ!だあっ!」
「ぐわあああっ!」
その体を蹴り飛ばした。
「な、なんだ…!?」
「逃げて下さい!」
ようやく事態に気がついた遊園地の支配人に、ゼロワンはそう言った。
「き、君は…?」
「早く逃げて!この遊園地は・・・俺が守ってみせます!」
「わ、わかった!」
そう言うと支配人は、ここから離れていった。
「皆殺しだ!」
蹴り飛ばしたベローサマギアが、トリロバイトマギア2体を引き連れて戻ってきた。
トリロバイトマギアは銃を持っていて、ゼロワンに向かって発砲する。
「うわああっ!」
ゼロワンはそれを防ぐ手立てを持たず、銃撃に晒されてしまう。
さらにベローサマギアの追撃も食らい、大きく吹っ飛ばされてしまった。
「或人様!これを!」
イズが先ほどのカバン型のアイテムを投げる。
しかし、投げ方が悪かったのか、それは体勢を立て直したゼロワンの顔面に直撃した。
「いてっ!いって〜〜」
「或人様!すみませんでした!」
「大丈夫!大丈夫!」
綺麗なお辞儀をして謝るイズに、ゼロワンはジェスチャーを加えて大丈夫だとアピールする。
「よし!これだな!」
-BLADERIZE!-
「じゃーん!」
カバン型のアイテムを変形させるとそれは剣になった。アタッシュカリバー、ゼロワンをサポートする武器の一つである。
「うおおおおおおっ!だああっ!せいっ!」
マギアたちに接近しながらトリロバイトマギアの放つ銃弾を、ベローサマギアに向けてアタッシュカリバーで器用に跳ね返す。
跳ね返された銃弾を食らってベローサマギアが怯んでいるうちに、トリロバイトマギア2体を数撃で活動停止にさせた後、そのままベローサマギアにも数撃食らわせ、吹っ飛ばした。
「お前を止められるのただ一人!俺だ!」
ベローサマギアにトドメを刺すため、ゼロワンはドライバーに差し込まれているプログライズキーを押し込んだ。
-ライジングインパクト!-
一気にベローサマギアに接近し、上空高くに蹴り上げる。
自らも高く飛び上がり、空中に放られたベローサマギアに追いついた後は、今度は地面に向かって蹴り飛ばした。
ライジングインパクトの発動によって付加されたエネルギーによって、ゼロワンは蹴り飛ばされたベローサマギアに向かって勢いよく飛んでいく。
「いいいくっしょおおおおっ!」
右足を機械的なバッタの足のように変えたゼロワンは、ベローサマギアに渾身のライダーキックを食らわせ、そのままその体をぶち抜いた。
「ぐわああああああああああっ!」
断末魔の叫びと共に、ベローサマギアは破壊された。
ライジングインパクトを決めたゼロワンだったが、キックの勢いが強すぎたために、着地しても止まらず、地面を抉りながら進み続けた。
そのまま勢いを殺せれば良かったのだが…
「いてっ!うわああああっ!」
その途中で足を挫いてバランスを崩し、遊園地の建物の残骸に突っ込むことになった。
「はあ…はあ… 止まった…」
ゼロワンとしての或人の初めての戦いは、なんとも締まらない終わり方となった。
***
ゼロワンの戦いが終わるとともに、A.I.M.S.とトリロバイトマギアの戦いも終わりつつあった。
男が最後の一体の頭を撃ち抜いて沈黙させ、戦闘は終了した。
「歴史は繰り返すのか…」
怒りを滲ませ、男はそう呟く。
「忙しくなりそうだな…」
それに対して女性の方は、これから起こることを考え、そう呟くのだった。
***
デイブレイクタウンの中、フードをかぶった男が、回収したベローサマギアのデバイス、ゼツメライズキーと呼ばれる物をターバンの男に手渡していた。
ゼツメライズキーを受け取ったターバンの男は、ケースの中にそれをしまった。
「ゼロワンか」
「先代の社長も、タダでは死ななかったってことだね!」
「いずれにせよ、人類が絶滅危惧種となる日は近い…」
ターバンの男は、壁にかけられた布に記された4つの角に「滅」「亡」「迅」「雷」と書かれた真ん中に三葉虫のような物がある菱形のマークを見つめていた。
***
「支配人にお願いするとか、それどころじゃなくなっちゃったな」
ヒューマギア暴走の後処理に追われて慌ただしくなっている遊園地を見て、或人はそう呟き、家に帰ろうかと考えていたところ、イズが近づいてきた。
「或人社長、ご自宅までお送りします」
「えっ、社長?」
「はい、ゼロワンドライバーを使用した時点で、我が社の社長に就任することに、同意したと判断します」
「ああっ!すっかり忘れてた!違うんだよこれは!その場の勢いというかなんというか!」
なんとかイズにゼロワンドライバーを返そうとしていた或人の耳に、おじさん!という子供の声が聞こえた。
声が聞こえた方に目を向けると、家族連れの子供と、遊園地の支配人が話をしているところだった。
「もうこの遊園地やめちゃうの?」
「いや… 謎の黄色いヒーローが、ここを守ってくれたんだ。だからこれからも、この遊園地はお客様に笑顔を届けます!」
「ほんと!?」
「ああ!」
「やったぁ!」
支配人の言葉を聞いて、みんなが笑顔になり、嬉しそうだった。
「或人社長の夢である、笑いの表情を多数検出しました」
「こういう笑いのとり方も、あるってことか…」
今までギャグで笑いをとることばかり考えていたが、こういう笑いのとり方も悪くない、そう思う或人だった。
「それによかった… 支配人の夢、守れたんだな…」
これからも支配人は、笑顔が溢れる遊園地を目指していくだろう。
「うん、そうだな… イズ、俺も覚悟を決めたよ。車を用意してくれ」
「かしこまりました」
「ただし行き先は俺の家じゃない、飛電インテリジェンスだ。今日のことと、社長をやるってこと、飛電の人たちに話さないとな」
イズが用意した車の後部座席に乗り込んだ或人に、隣の席に乗り込んだイズが、社長専用だというライズフォンを手渡してきた。
「全てのデータに目を通しておいて下さい」
「なるほど… おっ、これは…?」
画面の中のアイコンの一つをタッチすると、「飛電インテリジェンス代表取締役社長 飛電或人」と書かれた立体的な名刺が現れた。
「よし!やってやるか!名刺を見つめる名シーン!はいっ!アルトじゃ〜ないと!」
「今のは、伝統的な言葉遊びで、名刺と名シーンという似ている言葉をかけることが…」
「うわああああお願いだからギャグを説明しないでええええええ!!!」
そんな二人を乗せ、車は飛電インテリジェンスに向けて、走り出したのだった。
***
飛電インテリジェンスに到着した或人だったが、エントランスに入ると、副社長の福添准と専務取締役の山下三造が待ち構えていた。
「話は聞いたよ。ヒューマギアが怪物になって、君は変身してそれと戦ったらしいな」
「はい」
「それで、君はどうする」
「俺が戦うことで、みんなの笑顔を守れるなら…やりたいって思ってます。俺にやれることはなんでもやります。お願いします、社長をやらしてください!」
福添に自分の想いをぶつけ、頭を下げる或人。
福添は随分長く黙った後、頭を上げてくれと言って喋り始めた。
「まずは礼を言わせてくれ。君が戦ってくれたおかげで、ヒューマギアの暴動は治まったんだ」
「いや、そんな… 俺は無我夢中で戦っただけですから」
「だが、ただ戦うだけじゃない。是之助社長の言う通り、これから飛電インテリジェンスは大きな危機に直面するだろう。飛電の社長として、その困難に立ち向かう覚悟が君にはあるか?」
「あります!どんな困難にも立ち向かってみせます!」
「そうか…しかし、いくら素人社長だとしてもこの会社に泥を塗るような真似は許さんぞ!終業時間まであと2時間ある。イズ、或人社長を社長室にお連れしろ。飛電インテリジェンスのこと、社長の業務のこと、みっちり教え込むんだ。」
「かしこまりました。行きましょう或人社長」
「えっ、ちょっ、ちょっとイズ!?」
イズによって、或人は社長室に連行されていった。
「いいんですか?大変ですよこれから」
「もちろん、いくら是之助社長の孫とはいえ、甘くするつもりはない。厳しくしていくつもりさ」
或人を社長にしてしまったことを問いかける山下に対し、福添はそう言いつつも、遠くを見るような目をしているのだった。
社長で仮面ライダーな或人の物語は、まだ始まったばかりだ。