・・・うん!重ねてすみません!
_川神学園 学園長室
「去年は入学を断っておったのに今年になって来るとはおもわなかったわい」
「すみません。すこし事情があって天神館に入学したかったんですよ」
通りすがりのおっさんから場所を聞いた後、辿り着いた俺はさらに疲れる状況にあった。
「ひさしぶりじゃのお恭介。昔に比べて大きくなりおって」
「ご無沙汰してます。鉄心さん」
とか言っときながらまったく覚えていないけどね。
「ほほ。そうかしこまらんでもいいじゃよ」
「はは。そういう訳にはいきませんよ」
んなことできるか!と頭の中で叫ぶ俺。
学園に着いた後に連れてこられたのは学園長室。そこで相対している相手は気楽に話せといってくる。相手は超の付く年上。さらに過去に武道の頂点に立った人。あの川神鉄心だ。畏まらない奴は頭がおかしいとしか思えない。
「それにしても、よく覚えていましたね。一度だけしか会ってないのに」
そう。おれは実際のところ鉄心さんには一度しか会ったことはない。父さんが自分を川神院に連れて行ったのだ。父さんはまだ会社を継ぐ前の頃に川神院でお世話になったことがあったらしく、川神市に寄ったついでに挨拶をしに向かった。その時に連れられて鉄心さんに初めて会った。俺自身の記憶ではほとんど覚えてないが。それ以降、鉄心さんに会っていなかった。
「あの海人の息子を簡単に忘れはせんよ」
フルネームは村上海人、俺の父さんだ。父さんは棍を使った戦闘が得意で、実力はマスタークラス到達寸前だったらしく、昔は強かったと言ってよく自慢してきたことを思い出す。その当時の川神院に殴り込んで父さんが負けたのは釈迦堂さんと鉄心さんだけだったそうだ。しかし、会社を継ぐ関係で引退。それ以降は時々鍛練を行う程度になったそうだ。
「それにあの時、同年代で百代と良い勝負ができたのはお主だけだったからの」
「あー、そんなことありましたっけ?」
そう、俺は一度だけ武神と闘ったことがある。どういう経緯で闘うことになったかはまったく覚えていない。迫ってくる拳を全力で避けて隙を探し続けていたような気がする。結果は負けたはずだ。なぜなら俺がリアルに覚えているのが攻撃を避けきれずにくらって気絶したときの拳だったからだ。
「なに、あの頃でさえ修行僧のほとんどが相手にならん状態じゃったのだ。百代との対戦相手ができたと思って成長を楽しみにしておったのじゃが・・」
そこで鉄心さんは言葉を切り、こちらに心の内を探るような目を向けてきた。
「おぬしの気の質は良くなっておる。じゃが、大きさは昔と変わっておらん・・いや、むしろ小さくなっておる。伸びしろがなかっただけでは説明がつかん」
まず第一に”気”持っていない人間はいない。しかし、大多数の人間はどうやって使うかを知らない。その上に気の量はその人ごとに限界値が決まっており、過去にいる武で名を上げた者たちは必ずこの限界値が高い。武道において上を目指すなら必要不可欠なものである。なぜなら気を使った武術はなしの状態とは一線を駕するからだ。そしていくら極めても、気は体力などと同じく若いころのピークを過ぎると徐々に減っていくものだ。
鉄心さんの言いたいことはわかる。未だ体力などの伸びる可能性のあるこの時期に気がなぜ幼少期時代より減っているのかを聞きたいのだろう。いくら限界値に到達していたとしてもこの年で減ることはないからだ。
「おぬしの父も武道から離れたゆえに体の衰えが生まれたが気が小さくなってはおらんかった。・・・いったいなにがあったのじゃ?」
減っている原因も、いつこの状態になったかもわかっているが答えようとは思わない。
「まあ色々事情があるんですよ」
「それは天神館へ行きたかった事情とやらと関係ありかの?」
「それについては聞きたいこともあるのでまたの機会にしてください」
「ふむ。たしかに疲れておる相手にするはなしでもないの」
「はは、疲れてるってわかってるなら聞かないでくださいよ」
このひとが一番俺の知りたいことを知ってそうな人なんだ。今すぐにでも聞きたいがちゃんと意識があるときに聞きたい。
けっこう睡魔も襲ってきているし、ぼーっとするし、ちゃんと敬語を使えてるかもわからない。
「それに教室に顔を出すなら早めにいかないと授業も終わってしまいますし」
「おお、そうじゃな。ではさっそく向かうとしようかの」
「どこのクラスですか?」
「Fクラスじゃ。しかし、一応Sクラスの成績に届いておったのに拒否してよかったのかの?」
「そういう堅苦しそうしそうなの嫌いなんですよ」
これまでもそうだったし。
さて、自己紹介は重要なターニングポイントだ。印象に残るようなことしたほうがいいよな。なにをしようか?
この後錯乱して披露したネタは大多数に滑り、ギャルゲーをよくやる者たちからは反響があった。
2-Fのクラスに新しく一人編入してきた翌朝。
「おいおい、俺らのクラスにも新しく編入生入ったなんて聞いてないぞ!」
「そりゃあキャップは昨日いなかったんだから知らないにきまってるじゃん」
キャップはついさっき昨日の話を聞いて、予想通りのリアクションを起こしている。今日はいつもなら義経への挑戦者を朝から消化している姐さんも一緒に登校しており興味を示していて、みんながそれぞれの感想を漏らす。
「ふーん。その編入生はどんなやつなんだ?」
「よくわからんが自己紹介で盛大にすべっていたぞ」
「あのネタはネットでよく遊んでる人しかわからないよ」
「昨日は挨拶した後、すぐに帰っちゃったからなにも知らないよ。天神館から来たってことと村上運輸のとこの息子ってことは前に聞いたけど」
「結構ひと
「京はやけに嫌そうな顔してるな。あいつとなにかあったのか?」
「別に。交流戦のときに大和を気絶させたやつだったから」
「そんなことはどうでもいい。他にはないのか」
「っていうかモモ先輩のことだから闘いたいだけだろ?」
「なんだ、わかってるじゃないか」
やはりそっち系のことを聞いていたのか。ていうか俺の扱いひどくないですか姐さん。
「へー、モモ先輩は燕先輩がいるから当分は他の人に興味示さねーと思ったんだけどな」
「燕との組手は楽しかったんだけど、全力の戦いは断られたしなー。というか昨日頼みに行こうとしたらもういなかったし」
「たしかに、あのひとそういうの完璧に回避してそうだ」
全校生徒が注目しているのところで上手く納豆の宣伝をしたところからもなんとなく抜け目ない感じがしたし。
「というか!今燕の話はいいんだよ。で、そいつはどうだったんだ?」
「気に関していえばたぶん全然」
「それって大体どれくらいなんだ?」
「う~ん。初期のヤムチャぐらい?」
「わかりにくいなその例」
つまりはちょっと強いぐらいの一般人ぐらいといいたいのか?
「さすが大和。私の言いたいことは全部わかってくれる」
確実にいつもの告白に繋げたいんだろうが、ここでおれが反応したら「一言も言ってないのにその話を考えるなんて!」とかいいながら迫ってくるのでスルー。
「ん?というか気に関して?他に何か引っかかることがあるのか?」
「うん。実はねあいつ、この前の交流戦のときに私と義経の攻撃全部避けきったの」
それって普通に考えてかなり強いのでは?
自分は義経達の攻撃がほぼ見ることができていないが、実力はこの数日でなんとなくわかっている。義経の斬撃はとても速い。大概の挑戦者たちは瞬く間にで片づけられてしまう。いつものように鍛錬のためにここにいないワン子や同じくクリスも少しは粘ったが負けている。そんな攻撃に合わせて京の弓が援護していた攻撃を村上は全部避けたという。
「それで剣使ってたからもしかしたらまゆっちみたいなタイプなのかも」
「やべーよ、まゆっち。属性被りが発生するなんて一大事だぜ!」
「それは被っているとなにがまずいのですか松風?」
「友達作りにきまってるじゃねーかYO!まず友達作りで大切なのはどれだけ相手に覚えてもらえるような個性を魅せるかにかかってんだ。そこに同じような人が一人増えただけでももう一人の印象が薄れちまうもんなんだぜ。よって、属性被りはまゆっちの夢の障害になっちまうってわけよ!」
「なんと!それではまた友達100人計画から遠ざかってしまいます」
「これは今日も作戦会議しなくちゃいけねーな!」
学年も違うし明らかにまゆっちが変な方向へ突っ走ってるとは思ったが自己完結するとおもうので放置。
「で、交流戦で気になっていたワン子は決闘を申し込んだと・・」
「決闘するなんて俺きいてないぞ!」
「だからキャップ昨日いなかったじゃん。この会話二回目だよ!」
「聞いてれば昨日中に賭けの準備できたのによー」
「たしか決闘昼休みの予定だったし、その間につくればいいんじゃねーの?」
「おお、そいつはラッキー。よし!そうと決まれば学校に着いたら賭けのための券を作らなくちゃな!」
「姐さんはどう?こっちは全員見に行くと思うけど」
「うーん。燕も決闘の観戦なら捕まるだろうから捕まえ次第、見に行くとするか」
備考:今日は絶好の戦闘日和。
今度はワン子との決闘および主人公の強さがわかります。これからもっと変化ある・・はず・・?