この碌でもない世界に王様を!
「ここは……?」
ふと気がつくと、
数々の闘い、継承してきた歴史の重み、かけがえのない友たちの死、自身が開花させた“魔王”の力……。
「そうだ。俺はスウォルツを倒して、世界を再構築して――」
「――そして、俺がここに連れてきた」
気がつくと目の前にはよく知った男が座っていた。黒のジャケットから覗く赤いシャツ。首から下げた二眼レフで目を開くソウゴをパシャリと写した男は、足を組み意地悪く微笑んだ。
「
「よう、ソウゴ。世界から追い出された気分はどうだ?」
「ここ、どこ?」
「死者の世界って言ったら信じるか?」
「…………」
「安心しろ。お前は生きてる。まだな」
押し黙るソウゴにおどけるような言葉を足した男――士は、簡素な椅子が玉座に錯覚してしまうほどの大層な頬杖をつき、余った左の手のひらをソウゴへと差し出す。するとその手のひらの上にバスケットボールほどの大きさの地球がぼんやりと浮かび上がった。
「結論を言えば、お前は役割を果たした。スウォルツを倒すことで全ての
士は手のひらに乗せた地球をグッと握る。すると地球は簡単に砕け、その破片から無数の地球が生み出された。破壊と創造、その二つが無事済んだことを理解したソウゴは肩の力が抜けたのか安堵の息を漏らす。
だが、と士は静かに話を聞くソウゴに続ける。
「お前の再構築した新しい〈仮面ライダージオウの世界〉にオーマジオウとして開花したお前がいては意味がない。時が経てばツクヨミも、あの世界のソウゴもライダーとしての力を取り戻すだろう。これは絶対だ。そうなれば同じことの繰り返し。だからお前が新しいソウゴと同化する前にここに連れてきた」
「つまり、その世界にはもう俺の居場所はないってことか」
「そういうことだな。お前はお前のいるべき世界を生贄に新たな世界を創造した。もっとも、あの世界の生命は全て滅んでいたから大事に残しておいても俺が破壊していたが」
そんな風に嘯いた士は懐から三枚の真っ白なカードを取り出す。それをまるでババ抜きをするように握った士は何事か思案するように指を迷わせていた。
「かと言って、お前をこのまま放置するわけにもいかない。世界を救った英雄に隠居生活はまだ早いだろう」
こういうのは本当は女神の役割なんだがな、と前置きをした士は、その中のカードの一枚を抜き取りテーブルの上に置く。
「本来、選択肢は三つだ。しかしお前にはやってもらいたいことがある」
残りのカードを放り投げ、オープンされたその〈異世界への移住〉と書かれたカードをトントンと指で突いた士はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「この素晴らしい世界を良くするために、最高最善の魔王になる気はないか?」
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「へぇー! ここが異世界かー!」
石畳とレンガの街並み。映画で見る昔の外国のような馬車に、日本人離れした人種と見たことのない文字に目をキラキラと輝かせるソウゴは異世界の地に降り立っていた。
士の提案に疑問も持たず二つ返事で首を縦に振ったソウゴは、簡易的な説明を受けていた。
この世界は現在、魔王軍によって人々の生活が脅かされているらしい。その脅威に人々は怯え、この世界で転生するはずの魂は皆それを拒否し人類は衰退の一途を辿っているのだとか。そして魂の均衡が崩れてしまったことと、歴史の再改変の影響で流入してしまったある物の回収の任。それが士の言う「やってもらいたいこと」だが、この件に関しては多少なりともソウゴは責任を感じていた。
「早いとこ見つけなきゃな、クォーツァーのライドウォッチ」
一通り見て回り、すれ違う者人種を問わず挨拶と握手を繰り返したソウゴはある程度満喫したのか市役所のような大きな建物の前、噴水の段差に腰を掛けた。
この剣と魔法のファンタジー世界でのソウゴの役割。それは魔王を打倒し人類の衰退を止めること。そして平行世界のソウゴが倒した
のどかな雰囲気と穏やかな民衆。ソウゴの前を理解不能な言語で談笑しながら通っていくのは、絵本の中にいるようなローブを着込んだ魔女や大きな剣を背負う屈強な男たち。少し前にテレビで見た辺境でのスローライフとはこういう街のことなんだろうと思えるほどに、魔王の脅威もライドウォッチの影響も欠片も感じることはない。
そんなことを考えているときだった。
「こぉんの駄女神がーーーーーっっ!!!!!」
街に響き渡る怒声にビクリと肩が跳ねた。周りの人間はまたか、という呆れ顔を浮かべて日常に戻っていく。そんなことは露知らず、ソウゴが慌てて声の主を探していると、目の前の大きな建物から少女が飛び出してくるのが見えた。
青い服に天女のような羽衣を纏う青髪の少女。彼女は頭を押さえながら涙目で一直線にこちらに駆けてくる。目が合うと、彼女は到底人に見せられないような涙や鼻水まみれの顔でこちらに救いを求めてきた。
「だしゅけでぇ〜〜!! カジュマさんに殺しゃれるぅ〜〜!!!」
えらく物騒な物言いにギョッとするソウゴ。まさかこんな平和そのものの街のど真ん中でそんな物騒な単語を聞く羽目になるとは思わず慌てて立ち上がり身構える。魔王軍関係かと少女を後ろに庇うと、建物からおそらく件の“カジュマさん”と思われる短い緑のマントを羽織る少年が鬼のような形相で現れた。
「おいコラこのアル中穀潰し!! 人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇ!!」
「誰がアル中穀潰しよ、ヘタレ童貞ヒキニート!!」
「誰がヘタレヒキニートだ貧乏神!! 人の報酬から勝手にツケ分払うなって何度言えばわかるんだよ! デュラハンのせいで受けれるクエストだって限られてるのに生活できなくなるんだぞ!」
「私の取り分だけじゃ払えなかったんだから仕方ないじゃない! そんなに文句言うならカズマがもっと稼げるクエスト受注させてくれればいいのよ!!」
「余計なことするアークプリーストと、一発屋のアークウィザードと、硬いだけのクルセイダーでどうやって高難易度クエストこなせって言うんだよバカかお前!?」
「バカ!? この私に向かってバカって言った!? この高貴な水の女神アクア様に向かってバカって言ったの!? 謝って! バカって言ったこと謝って!」
「バカにバカって言っただけだろ誰が謝るかバカ!」
「またバカって言った! 何回も言った! 信じらんない! あんたが次に怪我してもヒールかけてあげないんだから!」
「上等だこの野郎! その辺のプリーストからヒール教えてもらって独立してやる!! よかったなアクア。これからは報酬は三等分だ。めぐみんやダクネスに迷惑かけずに魔王討伐頑張れよ!!」
「嘘です嘘です神様仏様カズマ様! お願いだから私のアイデンティティを奪わないで! サポートするからもっと優しくして! 崇めて! 甘やかして!」
「借金作ることだけが特技の飲んだくれのことを甘やかすやつなんていねぇよ!!」
ギャイギャイと言い合いを繰り返す二人には、どうやら挟まれているソウゴは目に入ってないようだ。どんどんとヒートアップしていく口論の中、さっさと立ち去ってしまいたいが青髪のアクアと名乗った少女にガッチリと服を掴まれているため動くに動けない。先程から流暢に罵倒する少年、カズマもこの様子では自分のことなど眼中にないだろう。どうしたものかと悩んでいると、二人の出てきた建物から救いの手が差し伸べられた。
「おいカズマ、アクア。二人ともその辺りにしないか。罵倒なら後でいくらでも私に向けてくれて構わないから」
「怒ったところでアクアが支払ってしまったお金は帰ってきませんよカズマ。またコツコツ稼げばよいではありませんか」
鎧に身を包む呆れ顔のポニーテールの仲裁に、大きな帽子に身の丈以上の杖を持つ眼帯魔女っ子が同意する。するとお互い怒りが頂点に達していたのか、二人は仲良く揃ってツバを飛ばした。
「だってこのクソビッチが!!」
「だってこのクソニートが!!」
「わかったわかった。とりあえず、その間に挟んだ彼を解放してやれ」
鎧少女の言葉に、二人は顔を見合わせゆっくりと顔を上げる。二人と目があったソウゴは、にこやかな笑みを浮かべて会釈した。
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「いやー、さっきは巻き込んじまって悪かったな。お詫びと言っちゃなんだけど、何でも奢るよ。好きなの頼んでくれ」
「いやいや、見てて面白かったしいいよ。……この、ジャイアントトードって何?」
我に返った二人から丁重な謝罪とともに食事に招待されたソウゴは、四人の出てきた建物・ギルドの酒場で先程のメンバーと席を囲みながら物珍しげにメニューを見つつそう答えた。何故か読めるようになった文字を理解すると見知った料理名ばかりなのだが、どうも見知らぬ食材ばかりのようで好奇心が止まらない。
「ジャイアントトードを知らないのか? この辺りでは見かけない顔と服装だったので、てっきり外から来たのかと思っていたんだが……」
「まあ、外っちゃ外かな」
「あー、自己紹介がまだだったナー」
会話を断ち切るようにそう前置きをしたカズマは立ち上がり、緑のマントをたなびかせ仰々しく咳払いをした。腰に下げたショートソードがカチャリと音を立てる。
「俺は
柔和な笑みを浮かべて握手を求めてくるカズマ。それをソウゴはよろしく、と返して握り返す。
「私はアクシズ教が崇める御神体その人、水の女神アクア「を、自称するイタいアークプリーストです」しばくわよカズマ」
アークプリーストという聞き慣れない単語に、“余計なことをする”という枕詞を思い出す。さっきの金銭トラブルの様子を見るにアクアがトラブルメーカーであるのは間違いないだろうとひとりごちた。
「やめないか二人とも。……私はダクネス。役職はクルセイダーで、このパーティーの前衛をしている」
ファンタジー世界だからか、重そうな鎧を難なく着込む“硬いだけの”と称されていたダクネスはそう言って微笑む。二人の喧嘩の仲裁を行っているところを見るに、見た目相応なのか少し大人びて見えた。
そして、満を持してと言わんばかりに立ち上がった“一発屋”の魔女っ子は「フッフッフ……」とタメを作って杖を構える。
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、人類最強の攻撃魔法・爆裂魔法を操る者……!」
煌めく真紅の瞳を覗かせて決め顔でそう言い放っためぐみんに思わず拍手を送るソウゴ。その反応に満足気な彼女は晴れ晴れとした表情で気持ちよさげに着席した。四人の視線を集めるソウゴも楽しそうな笑顔で自己紹介のバトンを繋ぐ。
「俺は常磐ソウゴ。ソウゴでいいよ。当面の目標は、探し物を見つけてこの世界で最高最善の魔王になること。よろしくね」
「「「「最高最善の……魔王…………?」」」」
「うん。で、聞きたいこと色々あるんだけど「いやいやいやいやちょっと待て」
早速魔王と探し物の情報集めを始めようとしたソウゴに、カズマが待ったをかける。キョトンとしたソウゴをよそに、複雑な表情の四人を代表してカズマが重い口を開く。
「最高最善の魔王って何?」
「俺、王様になるのが夢なんだけど、どう頑張っても魔王にしかなれないみたいなんだ。だから友達と約束したんだよね。世界を良くする魔王になるって」
さも当たり前のように返すソウゴに、困惑を隠しきれない四人。閉口するダクネスとめぐみんを置いて、カズマはアクアと共に席を少し離れ肩を組む。
「(おいアクア)」
「(はい、なんでしょうカズマさん)」
「(もしかして、言語能力押し込んで頭がパーになったらああなるのか?)」
「(いいえ。頭がパーになったら言葉なんて話せないもの。廃人まっしぐら。モンスターの餌として投棄されるわよ)」
「(……今恐ろしいことを聞いたがまあいい。つまり、あれは素でああなわけだよな?)」
「(そうなるわね)」
二人は揃って振り返る。中二病気質全開のめぐみんですら苦笑いなのに対し、あの空気の中で普通に魔王軍の話を尋ねているところを見ると、この反応に馴れているのかそれとも神経が図太いのか。あっけらかんとしたソウゴを見て、二人は再度小さく丸まった。
「(人格はこの際置いておこう。無害っぽいし)」
「(そうね。若くして死んだ悲運な人間にしか転生の話はしないし、少なくとも根っからの悪人ってわけじゃないと思うわ)」
「(ならあいつには、転生特典として何かしらの恩恵が与えられてるはずだよな?)」
「(ええ。私の後任は生真面目で有名な女神よ。間違いないわ)」
「(見たところ武器も持ってないが、魔王になりたいなんて言い出すようなやつだ。恐らく身体能力の強化とか、相手を圧倒する威光とか、そういうものだと俺は睨んだ)」
「(つまり、仲間に引き込めば戦力になる)」
「(戦力が増えれば強いモンスターを倒せるようになる)」
「(高難易度クエストの報酬でお酒がじゃんじゃん飲める!)」
「(いや、お前は魔王が倒せる可能性が上がったことを喜べよ?)」
なにはともあれ、二人は鴨がネギを背負って来たことを確信してサムズアップを交わす。根っこの部分が揃ってアレなカズマとアクアは、困惑していたダクネスとめぐみんがドン引きするような爽やかな笑みを浮かべて席へと戻ってきた。
「どうだ、ソウゴ。駆け出しなら俺達とパーティーを組まないか?」
「こっちに来たばかりならわからないことが多いでしょ? まずはカズマさんから1000エリスを貰って冒険者登録をしてくるといいわ」
「なに、金なら気にしなくていい。袖触れ合うも他生の縁ってやつだ。これから仲良くしていく仲間なんだから尚更な」
「二人とも、顔が詐欺師のそれですよ」
めぐみんのツッコミなどどこ吹く風と、ついさっきまで全力で罵り合っていた二人とは思えないコンビネーションで会話を進め、流れるようにアクアはカズマの財布から金貨を抜き取る。この世で最も醜い人間を見るような目をするダクネスも、この金が先行投資であることは察しがついた。この紅魔族よりもイタそうな少年を関わらせていいものかと思案していると、ソウゴは彼らの言葉の裏を疑うことなく純粋な感謝とともに金貨に手を伸ばした。
「わかった、ありがと! 必ず返すね」
ソウゴの指が金貨に触れる。その瞬間だった。
『緊急! 緊急! 全冒険者は直ちに武装し、至急正門前に集まってください! 特に冒険者サトウカズマさんとその一行は大至急でお願いします!』
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「なぜ城に来ないッ!!! この人でなし共がッッ!!!!!」
首のない漆黒の馬に跨った騎士が人だかりに向かって怒声を浴びせる。正門の前にいたその御仁はフルフェイスの甲冑越しでもわかるほど大変なご立腹の様子だった。
「どうして……!? もう爆裂魔法を打ちこんでもいないのに……!」
呼び出され押し出され、群衆の先頭に立つことになったカズマが驚愕の表情を見せる。目線の先にいる、闇色の甲冑に身を包み禍々しい気を放つ彼にひどく困惑しているようだった。自身の頭を小脇に抱え、もう片方の手に人が振るうには幅が広すぎる板のような大剣を構える姿は、ファンタジーならではといったところだろう。
しかし、どうしてピリピリとした戦場特有の緊張感が漂っているのか要領を得ないソウゴは、心の底から湧き上がった疑問を口にした。
「ねえ! あんた、なんで頭取れてるのに喋れるの?」
「はあ? デュラハンなんだからそういうものだろう」
「へー! デュラハン! 首なし騎士の!? 初めて見た……!」
感動に打ち震えるソウゴに頭のおかしいやつを見る目でデュラハンは答えるが、当の本人はそんなこと気にしない。
「で、どうして怒ってるの?」
「今からその話をしようとしているところだろう! この街は話を聞かないやつしかいないのか!」
カルシウムが足りていないのか自分の頭を地面に叩きつけ怒りをぶちまけるデュラハンは、冷静さを取り戻すために咳払いをする。喉もないのに器用だな、と素直な感想を胸にしまったソウゴは、彼の話を静かに拝聴することとした。
「冒険者よ。貴様先程“打ちこんでもいない”と言ったな? ……そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれからも懲りずに毎日毎日私の城に爆裂魔法を打ちこんでおるわ!」
カズマの射抜くような視線に目を逸らすめぐみんとアクア。怒髪天を衝くとはこのことで、カズマの鉄拳制裁に言い訳を重ねる二人は事情のわからないソウゴから見ても見苦しいものがあった。しかし、どうやらデュラハンの怒りの矛先は爆裂魔法とやらの被害でもないようで。内輪揉めを起こす彼らに、肌を刺すような闘気が浴びせられる。
「俺が真に怒りを覚えているのはそこではない。……貴様らには、仲間を庇い呪いを受けた、あの騎士の鑑のようなクルセイダーの死に報いようという気概はないのかッ!!!!!」
怒りに打ち震えるデュラハンから闘気が漏れ出す。その黒い靄のようなものは彼の足元の雑草を枯らし、あらゆる生命に平等に死を運んでいく。流石に状況がまずいことを察したカズマたちも、喧嘩を切り上げて武器に手をかけ交戦体制に入った。
「俺も生前は真っ当な騎士であったつもりだ。それ故に、仲間の死を無駄にするような貴様らに「あの、ちょっといい?」……なんだ」
「デュラハンって元人間なの?」
「それは今聞くことか!?」
怒りのままに声を荒げ肩で息をするデュラハンは、兜越しにその朽ちた目でソウゴを睨みつける。隣のダクネスからデュラハンの成り立ちの説明を受けている姿が、彼の怒りに更なる油を注いでいく。デュラハンの怒りは生前死後全ての中で頂点に達しようとしていた。
達しようとして、視界におかしなものを捉えその熱が急激に冷めていく。
「……………………いやちょっと待て。どうしてお前が平然としているんだ、クルセイダー」
「平然としているように見えるか? これでも、腕の立つ騎士と見受けたお前から騎士の鑑のようだと言われて恐縮しているんだぞ」
「そ、そうか。それはその、よかったな。……って違う! 何故生きている!? 確かにお前には〈死の宣告〉を与えたはずだ!」
「そんなの、あんたが帰ったあとすぐに私が解除したわよ。なになに? もしかしてそうとも知らずずーっとお城で待ってたの? ちょーウケるんですけどー! ぷーくすくす!」
「駆け出し風情が我が呪いを破れたくらいで生意気な……! 俺がその気になれば、お前らまとめてあの世に送ることもできるんだぞ!」
「アンデッドのくせに生意気ね! ならお望み通り成仏させてあげるわよ! 〈ターン・アンデッド〉!」
アクアが唱えると同時に、彼女の手のひらから人一人ほどの大きさの光の球が射出される。ほのかに暖かい安らぎを感じるその光球は、ブレることなくまっすぐとデュラハンへと迫っていった。直撃は免れないだろうが、それでもデュラハンは余裕の態度で迎え撃つ。
「駆け出しのプリーストの魔法が通じrギィィヤァァァァァアアア!!!!!!!」
それが間違いだった。
直撃と同時に天に昇る光の柱。その流れに身を任せた首なしの馬は粒子となって溶けていく。雲間から差し込む一筋の光明のようなその光に当てられてデュラハンはもだえ苦しんでいた。
一頻り悶絶し地を転がったデュラハンは、なんとなく白け始めた冒険者たちの前で立ち上がる。
「どうしようカズマ! 私の〈ターン・アンデッド〉が効いてない!」
「いや効いてると思うぞ。『ぎぃやぁぁあ!』って言ってたし。もう一回いっとくか?」
「き、貴様! 本当に駆け出しか……!?」
愕然とするデュラハンは息を整えながら腕を振るう。すると、彼の周りの草木は死に絶え、代わりに地面より無数の影が伸び出てくる。それが人らしき形に造形された時、再び冒険者たちの間に緊張が走った。
「〈アンデッドナイト〉! あの冒険者共に地獄を見せてやれ!」
デュラハンが剣を構えて配下に当たる
「〈セイクリッド・ターン・アンデッド〉!」
「ヒィィヤァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!!」
〈ターン・アンデッド〉より眩い光が天を貫く。光が収束するとそこでデュラハンは、断末魔を平原に響かせ心配する配下たちの前でのたうち回る醜態を晒していた。
「どうしようカズマ! 私の浄化魔法が全然効いてない!」
「いやかなり効いてると思うぞ。『ひぃやぁぁあ!』って言ってたし」
「貴様らは不意打ち以外できんのか!?」
「うるせぇ! アクアの魔法にビビって援軍呼んだやつが偉そうにすんな!」
「なっ……! ち、違うわ! ボスが最初から相手するわけないだろう! 私と戦うのはこいつらを倒してからだ」
RPGのフロアボスのようなことを言い始めたデュラハンが、今度こそ切っ先をこちらに向けてくる。その合図から“蹂躙せよ”という命令を理解したアンデッドナイトたちは、屍の軍勢とは思えぬ健脚で前進を始めた。
「この街の住人を、残らず血祭りにあげよ」
亡者の進軍とともに砂埃が立ち込める。乾いた空気が今までのおちゃらけた雰囲気を消し飛ばす。
戦場に慈悲などはない。あるのは生きるか死ぬかだけ。それを理解しているものほど顔は強張り、武器を持つ手に力が入る。あのアンデッドナイトはそれなりの強敵だろう。〈アンデッド〉と呼称される類のモノたちが元人間と聞いてどうしたものかとソウゴが悩んでいると、臨戦態勢の喧騒の中でカズマは自分の剣をソウゴへと押し付けに来た。
「ソウゴは隠れていてくれ! どんな〈
「ちーと? なにそれ。そんなにすごいの?」
「これが終わったら説明する。だから死ぬんじゃないぞ! 皆が聖水を持ってくるまでこっちの守りは頼んだぞダクネス! めぐみんは魔法唱えて待機! 行くぞアクア!」
「ああ、任せてくれ。肉壁になるのは得意だ!」
「わかりました!」
「え、行くってどこに!? ってなんでアンデッドどもはこっちに来るのー!?」
「お前、魔物寄せの魔法早すぎなんだよ!」
「待って! 私まだ何もしてない! 本当なの! 信じてよ! ねぇカズマさん!」
そう言い残したカズマは涙目のアクアの手を引いて駆けていく。アンデッドナイトたちは餌に釣られる鯉のようにアクア目掛けて方向を転換した。それを見て各々は自分の役割をこなすため配置へと散らばり、後ろで浮足立っていた冒険者たちも街への入口を固めて防御の構えを取る。
ソウゴの手元に残された剣は恐らく自衛のため。会って間もない自分のために、少ない装備の中自分に貸し与えてくれる善意に心がむず痒くなる。冒険者たちもみんなこの街を守るために陣を敷いているのだろう。背を預け合える“仲間”の存在を強く感じたソウゴは、自分の心にぽっかりと穴が空いていたことに今更気が付かされた。
「不謹慎かもだけどさ。俺、ちょっと羨ましくなっちゃった。やっぱり仲間っていいね」
「その気持ち、私にもわかるよ。だがソウゴ。そういう言い方は寂しいぞ。私達はもう仲間だろう」
「……うん、そうだったね。さっきからだけど、俺もこのパーティーのメンバーだった」
失った友たちは、新しい世界でまっさらな自分と幸せに暮らせているだろうか。そんな自己満足と弔いにも似た気持ちを心に仕舞ったソウゴは、この新たな仲間と過ごす戦局を見届けることにした。
先程からアクアが〈ターン・アンデッド〉を繰り返しているが、あのアンデッド軍団には通用していないらしい。何か特殊な加護でもあるのか、多少動きは鈍くなるものの首なしの馬とは違って消滅することはない。だがカズマたちもただ逃げ回っているだけではないようだった。それを察知したダクネスが一歩前に出ためぐみんに声をかける。
「めぐみん!」
「わかっています! この絶好のシチュエーション、逃すわけがありません! 今日のクエストで打たなくて本当によかった! ……我が名はめぐみん! この街随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者! 皆のもの、とくとその目に焼き付けよ!」
魔力が杖に流れ込み、増幅された力のうねりが世界に顕現する。夜の星のごとく煌めく余剰魔力が、これから起きる現象の壮大さを魔法など知らないソウゴの本能に訴えかけてくる。
カズマの狙いは恐らく、奴らをまとめて吹き飛ばすこと。引き寄せて逃げつつ、アクアの浄化魔法による地道な戦力の削ぎ落としから“一発屋”と称していた魔法攻撃への転換までをあの一瞬で考え指示を出していたのならかなりの知恵者だろう。敵に回したくないなと考えていると、デュラハンへと一直線に駆けて行ったカズマの声が響く。
「めぐみーーーんッ!! 今だーーーッッ!!!」
「穿て! 〈エクスプロージョン〉ッッ!!!」
カズマとアクアが同時に横へと飛び退く。それと同時に力のうねりは収束し、人類、魔物、この場にいる全ての生き物が平等に危険を察知する。
しかし、時既に遅し。
強烈な爆音、開放される爆風、皮膚を焼く熱に、立ち上がる火炎の破壊力。人類最強の攻撃魔法と呼ばれるだけのことはある、そんな衝撃が地形を変えるような振動と共にこの地に落とされた。
「ふぅ……。最高に、気持ちよかった、デス……」
そう言い残しためぐみんはぐにゃりと倒れ込み意識を手放しかけた。慌ててソウゴが抱えるも、彼女は疲労からかうつらうつらと船を漕いでいる。それでも必死に意識を留めている彼女は、ダクネスからのサムズアップを見て安らかに目を閉じた。
「うちのパーティーで一番の仲間思いだ。魔力を使い果たしてすぐにでも眠りたいのに、二人を巻き込んでいないか確かめるまで気力を持たせるなんていじらしいだろう?」
「なるほど、だから“一発屋”なわけか」
「爆裂魔法は魔力の消費が激しいらしくてな。日に一発しか打てないんだ」
腕の中ですやすやと眠る彼女を見て、大役をこなした後とは思えない満ち足りた寝顔に安堵する。流石にこれほどの爆発であれば一溜まりもないだろうことは想像に難くない。しかしダクネスは、全速力でこちらに戻ってくる仲間二人に最悪の事態が脳裏をよぎる。
そしてその予感は見事に的中してしまった。
「……まさか、配下を全滅させられ俺まで手傷を負わされることになるとはな。駆け出しの街だと侮っていたことをここに詫びよう、冒険者共よ」
土煙を切り裂いたデュラハンは、満身創痍ながらまだ余裕があった。体の焦げ跡も徐々に修復され、あれだけの爆発を受けたとは思えない回復速度に一同に戦慄が走る。
「無事か、二人とも!」
「ああ、でもあいつ妙なんだ。爆裂魔法を受けるとき、剣を地面に突き刺してまるで防御しようっていう感じがしなかった」
「それに、アンデッドナイトに浄化魔法が効かなかったのも変よ! 何か手元で見たことあるおもちゃみたいなのカチャカチャしてたし」
「なに!? 戦場で爆裂魔法とセットのおもちゃ遊びだと!? そ、そそそれはどんなプレイだったのだ!?」
「落ち着けこのド変態! お前以外で戦場で欲求満たそうとするやつがいるわけないだろ! 時と場所を考えろ! どう考えても防御系のマジックアイテムだろうが!!」
「貴様のパーティーはふざけていないと死ぬのか!? 真面目な空気をぶち壊しやがって! お前たちと戦っていると頭がおかしくなってくる! ……まあ、それももうすぐ終わるがな」
切実な悪態をつき、文字通り頭を抱えるデュラハンは大剣を肩に担いでこちらに歩みを進めてくる。
「お前らばかりに負担はかけさせねぇ!」
「囲めば必ず隙ができるはずだ!」
「そこに魔法を叩き込め!」
「無茶だお前たち!」
「戻れ! やつにはまだ正体不明のマジックアイテムがある! それを看破しない限り勝てない!」
ダクネスとカズマの制止を振り切って突撃していく前衛職たち。背後ではウィザードたちが攻撃魔法を準備している。状況判断的にはこの一手が最善のように思えるが、あの爆裂魔法を耐えきった方法がわからない以上危険な賭けと言わざるを得ない。もちろんそんな自ら首を差し出す自殺志願者たちをデュラハンが見逃すわけもなく。
「愚かな」
デュラハンは己の頭を空高く投げ上げた。そして上空で開眼した瞳は未来予知のように全ての攻撃を見切り、立ち向かう前衛全てを切り捨てていく。一人、また一人と鮮血を上げ、血しぶきが舞い、ガラクタのように打ち捨てられていく。デュラハンが自分の頭をキャッチするころには、やつの周りは死体の山と血の海が築き上げられていた。
「どうした? 魔法は打ってこないのか? 魔王様から授かった〈オーパーツ〉はもう使う必要もなさそうだな」
勝てない。一流の太刀筋にダクネスは戦慄し、見切りと防御のスキルにカズマは息を呑む。後衛たちも絶望を感じ詠唱を止めてしまっていた。
途方も無い格の差を見せつけられて、この場の誰もが戦意を失いかけた。
「……お前たちは逃げろ」
そうダクネスは一言発すると、一人でデュラハンの前に立ち塞がる。カズマやアクアの呼び止めに答えることはなく、ただ皆の希望であろうとする聖騎士は堂々とした態度で剣を構えた。
「騎士は守るべきものを背に受けている時、決して逃げない。例えそれが、死に戦だとしてもだ」
「ふむ、見上げた胆力だ。……我が名はベルディア。魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディアだ。名乗れ、クルセイダーよ」
「私の名はダクネスだ」
「勇敢なクルセイダー、ダクネスよ。その名、きちんと墓石に刻んでやろう」
二人は己が剣を相まみえ、沈黙に支配された世界で出方を伺う。一歩でも動けば斬られる、そんな恐怖を乗り越えたダクネスは大きく剣を振りかぶった。
そして、一閃。
それはほんの一瞬。
太刀筋など最弱職の動体視力で見切ることなどできず、気がつけばダグネスは剣を振り上げたまま倒れ伏した。
負けた。
防御力だけが自慢のダクネスが負けた。
その事実だけが重くのしかかる。
「だ、ダクネスーーーーーーッッッッ!!!」
仲間が、死んだ。
「でもこれは、
「な、何だ!?」
一番最初に声を上げたのは正門前で防御を固める前衛職たちだった。自分たちの体のどこを触っても切り口などなく、気がつけば立ち向かう前まで戻されていたような感覚に気味が悪くなるのは当然だろう。
ベルディアも、周りを探るが自分が切り捨てた死体の全てが無くなっていることに言葉を失う。
「わたし……は……、どうして…………?」
「ダクネス……! 生きてる……!」
「生"き"て"て"よ"か"っ"た"よ"ダ"ク"ネ"ス"ぅぅぅぅ!」
安堵からか、わんわんと泣きながらへばりつくアクアをあしらえないほど困惑しているダクネスが斬られた腹を触るが、そこは全くの無傷。血の一滴も出ていない、しかしあの強烈な痛みを思い出して身を悶えさせるくらいには平常運転の彼女を見て、カズマは全身の力が抜ける感覚があった。
「な、何をした貴様ら!! あれは幻覚の類ではない……。あの肉を裂く感覚は紛れもなく本物の斬り合いだった! 何故だ!? まるで時間が戻ったように何事もなくなっているのは何故だ!?」
その疑問に答えられるものは誰もいない。全員が死を覚悟し、人生の終わりを感じていたのだ。問題を引き起こした頭のおかしい紅魔の娘に恨み言を言う余裕すらなく絶望に身をやつしていた彼らには動揺することしかできない。
しかし、カズマだけは心当たりがあった。
こんなわけのわからない現象を引き起こせるのは、〈転生特典〉を貰った転生者しかいない。カズマは、めぐみんを自分に渡しゆっくりと前に一歩出たソウゴの、その言い表せない表情から目が離せなかった。
「俺だよ。俺が時間を戻したの」
「時間を、戻しただと……?」
「うん。ねえ、ベルディア。ライドウォッチって知ってる?」
「らいど……? 何だそれは」
「手のひらサイズの、こう、丸い時計みたいなやつなんだけど。蓋のところが回って顔みたいになるの。魔王軍の幹部なら何か知ってるかなって。俺、それを探してるんだよね」
「顔になる丸い時計……? もしかして、この〈オーパーツ〉のことか?」
そう言って、ベルディアは懐からマジックアイテムを取り出す。それを、ソウゴは知っている。
悲しみから生まれた力。悪を滅さんがため振るわれる権能が一つ。遠距離攻撃を得意とする精密さと圧倒的なパワーを兼ね備え、溶岩の中ですら耐えられる装甲を持つ攻守一体の力。
幸先の良さに、ソウゴは自然と笑みを浮かべた。
「あ! あれよ! さっき爆裂魔法を受けたとき遊んでたおもちゃ!」
「……見つけた、一つ目。ロボライダーのウォッチ」
「ロボライダー? なんだそれは」
「あれ? その力を使ったのならライドウォッチがライダーの名前を読み上げるでしょ?」
「何!? あのよくわからない音声はロボライダーと言っていたのか!? 一体どこの言語だ!?」
「日本語だけど……。まあいいや。それ、返してくれない? 俺たちのなんだよね」
ライドウォッチとソウゴを見比べるベルディア。しかしデュラハンはその人間の提案を鼻で笑った。
「フンッ! どこでこの〈オーパーツ〉の話を聞いたかは知らんが、これは私が幹部の証として魔王様より承った古代のマジックアイテムだ。大方、私の戦力を削るための嘘だろうが、吐くならもっとマシな嘘を吐け!」
「嘘じゃないんだけどな……。まあいいや。じゃあ交渉しようベルディア」
「交渉だと……? なんだ? この〈オーパーツ〉を渡すまで時間を戻し続けるというのか? それとも金でも積むつもりか?」
「ううん。もっと単純なこと。俺と勝負して、勝ったらそれ返して」
そんなソウゴの提案に、全員が目を剥いた。静まり返る平原でなお平然としているソウゴに、一拍おいて一番初めに正気に戻ったカズマが掴みかかる。
「お前何考えてるんだよソウゴ! 確かにお前の時間を戻す力はすごいけど、そんなんでどうやってあいつを倒すんだよ! アクアの浄化魔法も、めぐみんの爆裂魔法も効かない相手だぞ!?」
「多分それはあのウォッチを持ってるからだと思うんだ。宿ってる力は神聖なものだし、あのウォッチの力を使えばあの爆発にも耐えきれると思う。俺が取り返したら倒せるんじゃない?」
「取り返すために戦おうとしてるんだろ!?」
「そうだけど?」
堂々巡りに言葉が出てこなくなったカズマの肩を叩いて、へらへらと笑うソウゴ。底しれぬ何か“ヤバい”雰囲気を直感で感じたカズマは、会って間もないその少年の言葉を一生忘れることはできないだろう。へらへらとした笑いの底にある、見えない狂気と共に。
「クックックッ……! 面白い! なら力ずくで奪ってみせろ、愚かな冒険者よ!」
「奪う、か……。うん。なんか、そっちの方が俺らしくていいや。でも一個だけ訂正いい?」
歩みを進めるソウゴを止める者はいない。
その覇道を止められる者は誰一人として。
ソウゴの意思に共鳴するかのように、彼の腰に黄金色のベルトが姿を現す。空気が変わるのがわかった。ベルディアでさえ息を呑む静寂で、彼は一人だけ笑っていた。
ソウゴは、今この場にいる誰もが待ち焦がれた“英雄”でも、“救世主”でも、ましてや“勇者”でもない。最も似つかわしくない名乗りを上げた。
「俺は冒険者じゃないよ。……“魔王”だ」
変身
彼がベルトの前で手を交差させる。すると世界に異変が起こった。
彼の足元に浮かび上がる謎の文字。身を包む因果の鎖が彼に時の王者の力を授ける。雷鳴が高らかに、地を這う炎が厳かに、纏う空気が盛大に、この素晴らしい世界に魔王が降臨したことを祝福する。
«祝福ノ刻»
«最高»
«最善»
«最大»
«最強王»
«オーマジオウ»
そこに立っていたのはソウゴではなかった。漆黒の鎧、綺羅びやかな黄金の装飾。着飾るだけではなく、どこか孤高めいた力強さを見る者に与えるその姿は、正に彼が宣言した通りの魔王の姿だった。
「…………そうか、ウォズがいないから祝ってくれる人いないんだ」
「ふ、フンッ! そんな虚仮威しに惑わされるかッ!」
最初に動いたのはベルディアだった。頭を天高く投げ上げ、先読みのスキルを使用する。この権能を使用してこれまで数多くの勇者の首を跳ねてきたベルディアは、渋ることなく目の前の敵に全力を傾ける。
「先読みか」
しかし、その程度の未来予知が通じるわけもなく。
「それで? 俺を斬れる未来は視えた?」
オーマジオウはベルディアの一振りを難なく片手で受け止めた。押すことも引くこともできず、微動だにしない愛剣にベルディアは一歩たじろいでしまう。
「降参してくれる? 俺もできれば、元人間とかとは戦いたくないんだよね」
「ふ、ふざけるなッ!!」
«ロボライダー»
剣を手放したベルディアはウォッチを押す。その拳は分厚い壁をも砕き、両拳なら戦車さえも静止させる威力を誇る。それを魔物が、それも幹部クラスの強靭な肉体で使用すればどうなるかは明白だ。それを知らずとも、爆裂魔法を耐えきる装甲が殴りかかればどれほどの力かはカズマたちでもわかる。
「ソウゴ!」
「大丈夫だよ」
しかし、それを剣を放り投げたオーマジオウは難なく受け止める。足元は少しも動かず、ただ受け止めただけの衝撃波が砂を持ち上げカズマたちの頬を撫でる。
「ロボライダーは遠距離攻撃が基本だからさ。相性悪かったんだね、ベルディア。……そろそろ渡してくれる気になった?」
「人間に脅されて持ち物を渡す魔王軍幹部がいるものか……!」
「そっか。じゃあ仕方ないね」
ここで初めてオーマジオウの足が動く。それは踏み込むためではなく、ただベルディアという敵を蹴りつけるために。ごく簡単な前蹴り。しかしその一撃はベルディアの鎧を砕くのには十分なものだった。
「ガハッ……!」
蹴られたベルディアは地を滑り、アンデッドである身に深刻な打撃でのダメージを受ける。空から溢れ受け取ることが叶わなかった頭が目の前の脅威を認識する。理解不能とはこのことだった。何故自分がただの蹴りで地べたを這っているのか、何故自分の剣が受け止められるのか、その全てが理解不能だった。
「し、〈死の宣告〉! お前は三日後に死ぬ!」
苦し紛れに放った〈死の宣告〉。黒い靄をその身に受けたオーマジオウは、自分の体を少し観察して右手を上げた。
「呪いとかは困るな。だから、時間を戻すね」
そう言うと、世界は止まる。いや、オーマジオウが世界を止めた。自然の理に反して風は流れ、雲は後ろ歩きし、落ちた葉は枝に戻り、そして黒い靄はデュラハンへと帰っていく。
「なんなんだ……! なんなんだお前は!」
「言ったでしょ。俺は時の魔王。“仮面ライダー”オーマジオウ」
「オーマ……ジオウ……? 聞いたこともないモンスターが、これほどの強さだと…………?」
「さあ、終わりにしようか」
オーマジオウがベルトに手を充てがうと、彼の体から満ち満ちた力が溢れ出す。ゆっくりと空に浮かび上がる魔王は、ベルディアに最期を悟らせるに相応しい覇気を放った。
«終焉ノ刻»
«逢魔時王必殺撃»
何故、自分は初手から全力を出したのか。何故、この怪物は戦いたがらなかったのか。何故、死した自分がこれほどまで恐怖を感じているのか。何故が紐解かれた時、ベルディアは勝てないと確信した。
空中で飛び蹴りの構えをしたオーマジオウは、ベルディアの回避不能な速度で迫りくる。背に背負う禍々しい時計の針はベルディアへの死の宣告か。神の鉄槌、いや、魔王の審判が下されたベルディアは、過剰なまでの爆炎に包まれ塵となってこの世から消滅した。
「
後にこの戦いを見た者はこう語る。
「……ここまで一方的に強いと流石に引くわ」