この素晴らしい魔王に祝福を!   作:春野 曙

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この紅魔のぼっちに決着を!

「春眠暁を覚えず、だねぇ……」

 

 変わり映えのない平原を眺めるソウゴは、隠すこともなく大きなあくびをした。

 小鳥のさえずりが、心地の良い午後をソウゴに知らせてくれる。この世界の暦上はまだ冬のはずだが、寒波を運んでくる雪精は一身上の都合で親玉の冬将軍と共に長期旅行中。巷で有名らしい『戻りブロッコリー』なる雪原を闊歩するブロッコリーの大群という謎の現象も、それに連れ立って現れるモンスターも一身上の都合で鳴りを潜めているためか、ここ数年で一番仕事がない長閑な時間がアクセルの街には訪れていた。

 

「カズマがカツオみたいなもんって言ってたけど、ブロッコリーとカツオは違うよねぇ……」

 

 サンマが畑で取れたり、野菜が空を飛んだりするという話を聞いたことがあるが、どれもソウゴにとっては見たことのない眉唾物の与太話だ。新鮮な野菜が意思を持って動くことにすら未だ慣れていないのだから、初だの戻りだのと言われても違和感しか仕事をしない。

 

「食べ物のこと考えてたらお腹空いてきちゃったな。お昼は見回りついでに屋台で買い食いしようかな」

 

 財布の中身を思い出し、交代まで腹の虫を宥めておく。いくらお腹が空こうと、眠かろうと、セナに交渉して勝ち取った守衛のバイト(大事な収入源)をサボるわけにはいかないのだ。働くということの大変さを知ると、前の世界でのおじさんの有り難みが身に染みる。

 ソウゴは、眠気と食い気を振り払うため大きく伸びをし、違うことを考えることにした。

 

「そういえば、冬に冬将軍がいるなら春にも何かいるのかな。春一番、とか?」

 

「それ以上考えるなよソウゴ。そういう迷惑な発想が、このろくでもない世界にろくでもないモンスターを生み出すんだぞ」

 

 独り言に答えが返ってくる。聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはよく見知った仲間が二人立っていた。春の陽気に当てられて、いつもよりのんびりとした笑みを浮かべるソウゴは穏やかな口調で声を返す。

 

「あ、カズマにめぐみん。二人とも今から爆裂散歩?」

 

「ええ! 春に相応しい絢爛豪華な、轟音鳴り止まぬ爆裂の華を咲かせてみせましょう!」

 

 爆裂散歩。それはめぐみんの爆裂欲を満たすため主にカズマ同伴の元、爆裂魔法を撃っても迷惑にならないところまで遠出する行為のことである。ソウゴがこちらの世界に来る少し前から始まった日課であり、ベルディアが怒り狂ってアクセルの街に攻め込んできた原因でもあるが、その日課だけはダクネスが潜入調査をしている今でも変わることはない。

 活き活きとしているめぐみんとは対照的に、疲労からかげんなりとした表情のカズマはため息混じりにぼやいた。

 

「ったく、一日一爆裂がしたいなら一人で行けよな」

 

「そうすると、誰が私を運んで帰ってくれるのですか」

 

「あはは。まあ、たまには息抜きしなきゃね。借金のためとはいえ働き詰めはよくないよ」

 

「たまにって言うか毎日だし。俺は休んだ気にならないんだが」

 

「何を言うのですカズマ! 爆裂魔法は最高の癒しではありませんか!」

 

「それはお前だけだ。ソウゴ、アレ貸してくれよ」

 

「はいはい」

 

 催促されたソウゴは、懐から一つのライドウォッチを取り出す。『バイク』とだけ書かれた、これまでの仮面ライダーのライドウォッチとはどこか違うそれをソウゴが起動させると、手のひらサイズだった時計型デバイスは瞬く間にカズマのよく知る大きさの二輪車へと姿を変える。展開されたライドストライカーを見て、めぐみんはキラキラと目を輝かせた。

 

「うはー! この『ばいく』という鉄馬の魔道具はいつ見ても素晴らしいですね! 動かす時の音もさることながら、何と言っても風と一体になる感覚が……! 動力は、やはり風の魔法なのでしょうか?」

 

「そういや、この世界にガソリンってないよな。整備もできないのにどうやって動いてるんだ?」

 

「さあ? でも動くしいいんじゃない?」

 

「ほんと、この魔王はいつもアバウトだよな」

 

「私も〈運転〉スキルさえあれば、この魔道具でどこまでも走れるのですが……。カズマはズルいです!」

 

「ま、最弱職の特権ってやつだな。出自不明のスキルすら獲得できるし」

 

「そもそもこれはマジックアイテムじゃないんだけどね」

 

「いや、質量保存の法則とか完全に無視してるから魔道具よりよっぽど魔法の道具だぞ」

 

 ソウゴにツッコミを入れるカズマは、フルフェイスのヘルメットを被りライドストライカーに跨がった。

 運転方法を説明されたあと冒険者カードに現れた〈運転〉スキルを獲得してからというもの、めぐみんとの爆裂散歩の移動手段はもっぱらこれになっていた。この世界は舗装されていない砂利道ばかりなので普通のバイクなら危険な道中だが、その点ソウゴの愛機は悪路でも問題なく走行できる機能が付いているため重宝されている。ネックなのは最大搭乗人数が二人までなことだが、馬より早く移動できることと爆裂散歩の内容を踏まえればデメリットにはなりえない。

 

「こいつのおかげで、長い時間かけて往復しなくて済むから助かるよ。もっと早く借りとけばよかったな」

 

「めぐみんの爆裂魔法も威力が上がってるから、今までの距離だと街の人からクレームくるしね」

 

「他の守衛さんならまだしも、ソウゴに怒られるのはもう嫌なのです……」

 

「他の守衛さんにも悪いと思えよ」

 

「ねぇ、俺そんなに注意の仕方キツかった……?」

 

「「何をやらかしても穏やかに注意されるから、内心で何考えてるかわからなくて後が怖いだけ」です」

 

「それ本人に言うんだ。いや、聞いたの俺だからいいんだけどね」

 

 うだうだとやりながらめぐみんもヘルメットを被り、杖と帽子を抱えて後部座席に座る。カズマの服をちょこんとつまむと、それが準備完了の合図である。グリップをひねりエンジンを何度か吹かせ問題ないことを確認すると、カズマとめぐみんはソウゴに親指を立てた。

 

「そんじゃ、行ってくるわ」

 

「いざ行かん、爆裂道の果てまで! 進め、ちゃんばる号!」

 

「人様の乗り物に変な名前をつけるな!」

 

「あはは。気を付けてね」

 

 軽妙なエンジン音と共に、二人を乗せたちゃんばる号は地平線の彼方へと消えていく。あっという間に見えなくなった二人の影を眺めていたソウゴは、元の世界ではあまり日の目を見なかった愛機の活躍にしみじみとした感傷に浸っていた。

 

「……ちゃんばるってなんだろ」

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「おっちゃん。串焼き三つ頂戴」

 

「お。王様の兄ちゃんじゃないか。この間は家内が助かったよ」

 

「いいよいいよ。民を助けるのは王として当然だからさ」

 

「アッハッハッ! なら、これは民からの年貢だ。一本オマケしとくよ」

 

「ほんと? ありがと! 何かあったら言ってね」

 

 店主からオマケしてもらった串焼きを握りしめ、空いたベンチを探しながら広場をふらつく。タレの香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、食欲が刺激されるのがわかる。この世界にも随分と馴染んだものだと感慨に耽りながらランチタイムの場所を見定めていると、見慣れない黒髪の少女がベンチでため息をついているのを見かけた。

 観光客、のようには見えない。どちらかと言えば羽織っている魔法使いのようなローブは、めぐみんが身に着けているものと似ている気がする。そして何より、ソウゴの目に写る魔力は常人のそれを超えていた。

 

(結構レベルの高い冒険者、かな?)

 

 だとすれば、仕事がなくてため息をついているのだろうか。チクリと良心を刺す痛みが、ソウゴの足を動かした。

 

「元気ないね、どうしたの?」

 

「へ?」

 

 ソウゴが声をかけると、少女は声をかけられたことに驚いたのか目を見開いて顔を上げた。俯いていてわからなかった、輝く真紅の瞳がソウゴの姿を捉える。潤んだ瞳は緊張しているのか、幼さの残る表情も強張っていて、怯えているようには見えないがどうも堅苦しさが拭えない。その特徴的な目の色に、ソウゴの知識が納得と答えを導き出した。

 

「紅い瞳の魔法使いってことは、君も紅魔族?」

 

「は、はい……」

 

「隣座るね」

 

 返事も待たず腰を下ろしたソウゴは「いただきます」と一言呟くと串焼きにかぶりついた。この世界はアクアの雑な采配で日本人の流入が多かったためか、食材こそ馴染みはないがどことなく日本で食べたことがあるような味で安心する。空腹に染み渡る懐かしの味は、この街の安い美味い早いを牽引しているのだ。ちらりと隣を見ると、彼女は物珍しげに串焼きを見つめていた。

 

「食べる?」

 

「え、いいんですか?」

 

「うん。オマケしてもらったから、遠慮しなくていいよ」

 

 一本受け取った彼女は「いただきます……」と遠慮がちに会釈をして、恐る恐る口をつけた。すると気に入ったのか少し頬を綻ばせ、赤いリボンを揺らし熱心に咀嚼する。紅魔族というのは変わり者が多いと聞いていたが、小動物のような彼女を見る限りめぐみんが突然変異なのではないかと疑いたくなる大人しさだった。

 見た目から推測するに、年齢はめぐみんと変わらないか、少し上くらいの印象。紅魔族ということは例に漏れず彼女もアークウィザードだろうが、爆裂魔法以外覚える気のない彼女と違い、上級魔法を操るのがデフォルトらしい彼ら彼女らがこの駆け出しの街にいることに違和感を覚える。

 そこで、ソウゴの頭の中にあった情報がピンと仮説を弾き出す。

 

「紅魔の里って今、魔王軍の攻撃を受けてるらしいね」

 

「え、は、はい……」

 

「でも、里の住人みんなが上級魔法の使い手だからそれほど鬼気迫る感じじゃないって聞いたけど」

 

「はい、そうですね。里のピンチって感じではないです」

 

「そうなんだ。てっきり、侵攻がすごくて避難してきたとかなのかなと思ってたんだけど」

 

「い、いえ。私は私の用事で……」

 

「用事? ため息と何か関係あるの?」

 

「あ、はい。その、人を探してて……」

 

「人探しか……。手伝おうか? あんまりこの街に慣れてないみたいだし」

 

「いいんですか!?」

 

 おどおどと返答をしていた彼女の顔が、串焼きのときより明るくなる。身を乗り出して食いついてきたところを見るに、どれほど時間をかけたかはわからないが随分と探し回ったのだろう。連絡手段がないと不便だなぁ、などと考えながら二本目を頬張ると、彼女はハッとして首を横に振った。

 

「い、いえ! 大丈夫です! 唯一無二のライバルを人に頼って探し出すなんてダメですから!」

 

「そう? 君がいいならいいけど、友達と約束してるんじゃないの?」

 

 そう言うと、彼女はポカンとした顔で固まってしまった。何かおかしなことを言ったかと自分の言葉を振り返っていると、少女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でぽつりと言葉を溢した。

 

「とも……だち……?」

 

「え、違うの? 唯一無二のライバルって友達のことでしょ?」

 

「うぇ、えっと、あの子は終生のライバルですけど、友達とは違うっていうか、でもでも傍から見て友達ならそれはもはや友達……? 学校帰りに遊んだりしてないし、ずっと勝負しかしてなかったけど友達なの?? でもめぐみんは超えるべき壁で、でも私が仲いいと思ってるだけで向こうはどうかわからないし、そもそもどこからが友達……!? わ、私に友達がいた???」

 

 混乱しているのか、目をぐるぐると回し、顔を瞳よりも真っ赤に染めた彼女は頭から煙を出してうわ言のように言葉を吐き出し続けている。呆気にとられるソウゴを一人置いて思考回路がショート寸前な彼女は、ぶんぶんと腕を振り串焼きのタレを辺りに撒き散らしながら合わせて首も大きく横に振った。

 

「どうやら違います! たぶん友達じゃないかなって! きっと!」

 

「言葉がめちゃくちゃだよ」

 

 指摘された彼女は、串焼きの残りを口に押し込むとソウゴに頭を下げてぴゅーっと駆けていってしまった。一人残されたソウゴは、やっぱり紅魔族って変わってるのかも、という感想を抱きながら三本目に口をつけた。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「…………っていうことがあったんだよね」

 

「ほう。それを私に言うということは」

 

「どう考えてもめぐみんの知り合いだろ」

 

 夕食のハンバーグを囲みながら不思議な出会いの話をすると、少しだけツンとした態度のめぐみんは興味なさげに付け合せのじゃがいもを齧る。

 

「知らない人ですね。紅魔族と一口に言っても、全員を把握しているわけではありませんし」

 

「そうなの? 唯一無二のライバルって言ってたし、めぐみんの名前も知ってたから、てっきり友達なんだと思ってたんだけど」

 

「余計に知りませんね。ご飯をもらっておきながら名前も告げず、お礼も言えないコミュ障ぼっちが私のライバルなんてちゃんちゃらおかしな話です」

 

「ま、めぐみんがそう言うんならそうなんだろうね」

 

「いや、絶対こいつの関係者だろその子」

 

「うるさいですよカズマ」

 

 何か思うところがあるのか、めぐみんは不満げにハンバーグに齧り付く。どうも誤魔化すのが下手な少女は、不機嫌そうなポーズを取ることでこの場を収めることにしたようだ。

 だがそんなことを察せるわけもないアクアが、フォークでくるくるとにんじんをこねながら疑問を投げかけた。

 

「でも、同世代なら学校で一緒だったんじゃないの?」

 

「学校? 紅魔の里って学校があるのか?」

 

「やけに食いつきますねカズマ。ありますよ。そして何を隠そう、紅き牢獄にて一番の成績を納めし者とは我のこと!」

 

「お前が学校で一番? 冗談は爆裂魔法だけにしとけよ」

 

「爆裂魔法は冗談などではありません!」

 

「めぐみんの魔力量的に、魔法の勉強をする学校ならそれくらいでもおかしくないと思うけど」

 

「やはり、魔王にはわかってしまうのですね……。我が秘められし新なる力が」

 

「まあ、秘められてないし俺は見えるしね」

 

「強者にしか感じることのできない最強の片鱗……ッ! 伝説は既に始まっているということですね……。それなのに凡人ときたら」

 

「誰が凡人だ。本気出せばすごいカズマさんを舐めるなよ」

 

「そっとしておいてあげてめぐみん。ヒキニートのカズマさんは学校に嫌な思い出しかないから……」

 

「ほほう、知ったふうな口を利くじゃないかアクア。俺にだって楽しい記憶くらいあるわ。あとヒキニート言うなよ駄女神」

 

「でも、結婚の約束をしていた幼馴染が不良の先輩と仲良く二人乗りしていたのが、引きこもりの原因で学校生活最後の思い出じゃない」

 

「俺にプライバシーは無いのか!?」

 

 過去を勝手に暴露され憤慨するカズマはアクアの皿からハンバーグを強奪する。そこからいつも通りギャーギャーと始まる取っ組み合い喧嘩を横目に、少し拗ねたようなめぐみんを眺めていたソウゴはじゃがいもを口へ放り込んだ。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 翌日。いつも通り、穏やかな昼下がりにあくびをする。そろそろ爆裂散歩の時間かとちゃんばる号のウォッチを手のひらで遊ばせていたソウゴは、背後に大きな魔力を感じて振り返った。

 

「あれ? 君は昨日の……」

 

「き、昨日はいきなり逃げてすみませんでした!」

 

 深々と頭を下げた紅魔の少女は、地面を向いたまま静止してしまった。まさかわざわざ謝るために探しに来たのかと思うと、その律儀さに感心する。そんな彼女にいつも通りへらへらとした笑みを浮かべたソウゴは、ぱたぱたと手を振った。

 

「気にしないで。俺も気にしてないし」

 

「ありがとうございます……。あの、お仕事の邪魔でなければ、お隣いいですか……? わ、私、この街に来たばかりで知り合いがいなくて! 話を聞いてもらうだけでいいので! 絶対にお邪魔しませんから!」

 

「別にいいけど……」

 

「ありがとうございます! 親切な守衛さん!」

 

 そういえば名乗るタイミング失っちゃったな、とぼやっと考えていたソウゴの隣に、早口でまくし立て遠慮がちに並んだ彼女は、緊張しているのかもじもじと身をよじらせていた。その様子は、話しかけてほしいが自分から話しかけるのに躊躇いを感じているような、めぐみんの“コミュ障ぼっち”という表現が的を得ている様子。

 まあ全部黙ってる方が面白いか、と結論を出したソウゴは、二人が来るまで雑談で時間を潰すこととした。

 

「そういえば、ライバルは見つかった?」

 

「いえ……。冒険者ギルドで待ってたんですけど、全然現れなくて……。クエストも遠方のものばかりだし、遠征してるのかなって……」

 

 悲壮感漂う発言に、やはり良心が痛む。自分たちはここ最近、主に自分のせいで受けられるクエストがかなり減っているためギルドには顔を出していないのだ。というか、アクアの借金問題があるため出す余裕がない。カズマとアクアは馴染みのある現場仕事、めぐみんはその料理の腕前を買われ喫茶店で、それぞれバイトに精を出している。

 しかし、めぐみんが「知らない」と言い切っている以上それを教えることはない。

 

「そのライバルの子って、この街にいるの?」

 

「それは間違いありません! この街に爆裂魔法を使う頭のおかしい紅魔族がいるって話を耳にしたので!」

 

「うん、確かにいるけどライバルのこと頭のおかしいって通り名で認知するのやめてあげようね」

 

「そ、そうですよね……。でも、紅魔族でも爆裂魔法なんていうネタ魔法を覚えるのは私のライバルしかいませんから!」

 

「そうなんだ。因みにだけど、そのライバルと会って君はどうするの? ただ会いたいだけじゃないでしょ」

 

「ふぇっ!? えっと……」

 

 もごもごと恥ずかしそうにまごつく姿を見て、ソウゴはなんとなく彼女に昨夜のめぐみんの姿を重ねてしまう。ただ素直になれない、誤魔化すのが下手な少女の姿を。

 少し迷うように目を閉じた彼女は、意を決したように口を開いた。

 

「……私、あの子とは決着をつけなくちゃいけないんです」

 

「決着?」

 

 予想外の言葉にソウゴが聞き返すと、羞恥に頬を染めた彼女はコクリと頷いた。

 

「私は、めぐみんに勝って紅魔族で一番の魔法使いにならなくちゃいけないんです。何れ紅魔の里の長となる者として。……あ、めぐみんっていうのはそのライバルの名前なんですけど」

 

 慌てて注釈を入れた彼女の瞳は、決意に満ちた紅色に輝いていた。冷たい態度を取りながらも付き合いのいいめぐみんに、それがわかっているこの少女の関係。目標を語る彼女の顔つきに、青春だなぁと年寄りのような気持ちが芽生える。

 ただ、自分たちを重ねるにはあまりにも優しい関係だった。

 

「決着をつけるって、何か勝負でもするの? 魔法の?」

 

「それが一番いいのかもしれません。でも、これまでも色々な勝負をしてきたので、折角だからこの街でしかできない勝負をと!」

 

「へー。これまでどんなことしてきたの?」

 

「学生の頃は成績、小テスト、料理、あとはゲームとか、その場で思いついたものですね」

 

「それで互角なんだ」

 

「めぐみんが卑怯な手を使ってくるんです! だから毎回……」

 

「引き分けなの?」

 

「…………そ、それでこの街での勝負内容なんですけど!」

 

(あ、負け越してるんだ)

 

 卑怯な手とはいえ、何度も負けているのならそれは既に決着がついているのでは? という言葉を飲み込み、なんだかんだ付き合いのいいめぐみんについ笑みが溢れてしまう。そんなソウゴを気にすることなく、彼女は自分の考えた勝負内容を語り始めた。

 

「これまでは主観だったから良くなかったんです。客観的に見れる立会人がいれば、めぐみんも卑怯な手は使えないはず」

 

「なるほど」

 

「そこで、この街には“魔王”を名乗る冒険者がいるという噂を耳にしました」

 

「…………いるね。うん、いるよ」

 

 唐突な爆撃につい出そうになった「目の前に」という言葉を飲み込み、平静を装う。嫌な予感がして口を噤んだソウゴの仕草を肯定的な意味合いで受け取ったのか、彼女は今までで一番饒舌だった。

 

「やっぱり! 魔王軍幹部をカツアゲしたとか、モンスターを従えて君臨する第三勢力だとか、命を弄ぶ神の仇敵だとか!」

 

「うわぁ、この話の盛られ方にすごく既視感を感じる」

 

「そんな魔王って人に二人で挑んで、先に倒した方が勝ち! どうですか?」

 

「モンスターの討伐クエストと間違えてない?」

 

 おどおどした喋り方からは想像もできないくらい好戦的な発言に、思わずたじろいでしまった。いつものヘラヘラした笑みが、今では苦笑いだ。このままではこのキラキラと目を輝かせる戦闘民族たちに上級魔法と爆裂魔法の的にされてしまうため、やんわりと軌道修正せねばと知恵を絞る。

 

「噂を鵜呑みにしちゃいけないよ。この街でそんな話聞かないでしょ?」

 

「そうですか? 冒険者ギルドでも皆さんが話しているのを聞いたんですけど……」

 

「それ誰? 詳しく教えて」

 

 このままでは話が要らぬ方向に脱線してしまう。妙な噂をしている冒険者は後で見つけるとして、咳払いをしたソウゴは一度空気をリセットする。

 

「他にはないの? もっとこう、人のためになるような」

 

「人のため……」

 

 素直な性格なのか、ソウゴの言葉にまた思考を巡らせる彼女。あわよくばこれ以上トラブルの種を撒かないで済む方法を思いついてくれないかと祈るが、どうやらエリス様は見てくれていなかったようだった。

 

「そういえば、この街には白昼堂々と女性の下着を〈窃盗〉するクズマという方がいるそうなんです」

 

「え、そうなんだ」

 

「そのクズマって人を捕まえ懲らしめた方が勝ち! 世のため人のためにもなって一石二鳥です!」

 

「それは俺の仕事な気がする。もっと穏便な感じで」

 

 帰ったらお説教しなきゃ、と心中で呟いたソウゴに、少女はむむむと眉間にシワを寄せる。しかし、切り替えの早い彼女は妙案を閃いたのか表情を明るくした。

 

「じゃあ、デストロイヤーの結界を破壊したという凄腕のアークプリーストさんにお願いして、神様に決めてもらうとか!」

 

「絶対にろくな事にならないからやめておいた方がいいよ」

 

「じゃあじゃあ、王国一の硬さと噂のクルセイダーさんを負かした方が!」

 

「喜んで協力してくれそうだけど、その人は今いないから無理だと思う」

 

「もう! じゃあ守衛さんは何だったらいいと思うんですか!?」

 

 自分たちがそこそこ有名な、どちらかと言うと悪目立ちが過ぎることがわかりこの機会に少し大人しくしようと誓う。客観的に見るって大切なんだなぁと教訓を得たソウゴは、この紅魔の娘が納得できるような代案がないかと思考を巡らせた。

 

「大食い勝負とか、体力勝負とか?」

 

「雌雄を決する大一番で地味なのは……。折角の運命的な再会ですから、めぐみんも乗り気になるようなもっと血湧き肉躍る的な……」

 

「うん。大人しい子だと思ってたけど、君も紅魔族だったね」

 

「それどういう意味ですか!?」

 

 パーティーメンバーが一族のはみ出し物でないことがわかり一安心するが、それとは別に目の前の思っていたよりめぐみんな少女に頭を悩ませる。できれば罪滅ぼしとして勝負のお膳立てくらいはしてあげたかったが、紅魔族がここまで好戦的な種族だったとは想定外だった。

 どうしたものかと首をひねっていると、ソウゴは背後に迫る人の気配にタイムリミットが来たことに気がついた。

 

「何をしているんですか、ソウゴ。まあ、こうなるだろうとは思っていましたが」

 

「あれ、めぐみんも未来が視えるの?」

 

「未来など視ずとも、他人との距離感がわかっていない陰キャぼっちが唯一話しかけてくれた相手にべったりになるのはわかっていましたから」

 

「こっちも辛くなるからそれ以上はやめろ」

 

 酷い言い草だと思う反面、この少女のことをそこまで理解していることに感心する。きっと久々に会える友人に対する照れ隠しなのだろう。そう思い振り返ると、そこには想像より不機嫌な顔をするめぐみんが立っていた。

 

(あれ? なんか思ってたのと違う気がする)

 

 友人との再会を喜ぶ、というような態度ではなかった。彼女からは目に見えて負の感情が漏れ出している。例えるならば、好物を取られ拗ねてしまった子どもの様な雰囲気である。

 そんなソウゴの疑問など露知らず。ソウゴとめぐみん、そしてその隣りにいる訳知り顔のカズマの順に視線を右往左往させる紅魔の少女は、状況を理解できたのかできていないのか、咳払いをすると腰に手を当て胸を張った。

 

「ひ、久しぶりねめぐみん! 今日こそは長きに渡る決着をつけるわよ! ていうかその、この親切な守衛さんと知り合いだったの……?」

 

「『親切な守衛』……? ソウゴ、自己紹介はまだしてなかったのですか?」

 

「うん。お互い名前知らないし」

 

「どうしたんだよ。ソウゴが名乗らないなんて珍しいな」

 

「その方が面白そうだったから」

 

「お前も随分とこの世界に馴染んだよな……」

 

 めぐみんは大げさなため息をつき肩を竦める。随分と勿体ぶった態度を取る彼女は、非常に冷めた目に彼女を写した。

 

「嘆かわしいですね。まさか、二日連続で話し相手になってもらっておきながら自己紹介もまだとは。……ではまず、この自称ライバルに名を名乗ってもらいましょうか」

 

「えぇ!? めぐみんが紹介してくれたらいいじゃない!」

 

「嫌ですよ。そもそも、いくらでも時間があったのに対人関係における基本中の基本すらしていなかったあなたの落ち度ではありませんか」

 

 そう言い、めぐみんは少女に睨みを利かせる。反論できなくなったらしい彼女は羞恥で身を縮こまらせていたが、やがて腹を括ったのか目を潤ませながらも声を荒らげた。

 

「わ、わかったわよ! やるわよ! 人前で恥ずかしいけど……!」

 

 頬を朱に染めながらも、ソウゴにとって見覚えのあるポーズを構えた彼女はこほんと咳払いをした。

 

「わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長となる者……!」

 

「とまあ、彼女はゆんゆん。族長の娘で、私の自称ライバルを名乗るぼっちです」

 

「どうして名乗ったあとに紹介するの!? あと、ぼっちじゃないから! ふにふらさんとかどどんこさんとか、『私達、友達よね』って私の奢りで「待ってくれゆんゆん。それ以上は辛くなるからやめて」

 

 涙を堪えるカズマが彼女の言葉を遮った。

 紅魔の少女、ゆんゆんは先程より顔を赤くしてめぐみんの肩を揺らし抗議する。そのアクティブな姿は、さっきまで自分と話していた他人行儀なものではなく、気を許した者にだけ見せる一面のように思えた。

 やっぱり友達じゃん、とは二人ともあえて言わない。

 

「ほら、次はソウゴたちの番ですよ」

 

 その言葉には、意趣返しも含まれているのだろう。揺らされながらも意地悪な笑みを見せる彼女に答えるように、ソウゴは槍を壁に立てかけて兜を取る。そして、マジかという顔で自分を見るカズマの前で足を肩幅に開き、懐かしい気持ちに浸りながら腕を時計の針の様に大きく回しながら叫んだ。

 

「我が名は常磐ソウゴ! パーティーメンバーの借金を返すため、守衛のバイトに従事する者! やがては最高最善の魔王へと至る者! ……だよ!」

 

「我が名は佐藤和真。アクセルの街の冒険者にして、こいつらの冒険仲間である者。やがては金に困らない生活がしたい者」

 

「えっ、えっ、ま、魔王? それに冒険仲間? ってことは、お二人共めぐみんのパーティーメンバー??」

 

「さて、満足しましたかゆんゆん。我々は忙しいのでこれで失礼します。あまりソウゴのバイトの邪魔をしてはいけませんよ」

 

 事態を飲み込めていないのか頭から疑問符を飛ばすゆんゆんの脇をすり抜けためぐみんは、ソウゴからバイクウォッチを受け取るとサクサクと進んでいく。未だ理解が追いついていないのか困惑するゆんゆんを放置して、めぐみんはライドストライカーを起動させた。

 

「さあカズマ、行きますよ」

 

「いいのかよ、この子放っておいて」

 

「大丈夫ですよ。放置されるのには慣れているはずなので」

 

「慣れてないから! ……こほん。いい仲間を持ったようね、めぐみん。それでこそ私のライバル! 私はあなたに勝って紅魔族で一番の座を手に入れる! 我が宿願のため、いざ勝負よ!」

 

「え、嫌ですよ。私は忙しいんです」

 

「えぇ!?」

 

「いや、日課の爆裂魔法を撃ちに行くだけだろ」

 

「それがゆんゆんよりも優先順位が高いという話をしているんです。それに、ゆんゆんとの勝負よりちゃんばる号の方が楽しいですし」

 

「どうして!? 私、あなたと勝負するために上級魔法も覚えてきたのよ!? 紅魔の里から遥々やって来たの! お願いだから勝負してよぉ……!」

 

 さっきまでの威勢はどこへやら。ヘルメットを被っためぐみんに縋り付く様は、どう見ても友達には見えない。不憫にすら思えてくるゆんゆんの行動に、流石のカズマも苦い顔をする。

 

「ちゃんと対価もあるの! このマナタイトを賭けて勝負しましょう! だからお願いよぉ……!」

 

「おいめぐみん。友達が自分よりぽっと出のソウゴにベッタリだったのが気に入らないからって嫉妬すんなよ」

 

「「え、そうだったの?」」

 

「ち、違うわい! ……わかりました。いらぬ誤解を受けたままでは紅魔族の名折れ。その勝負、受けてあげましょう。それで、勝負の内容は?」

 

 ヘルメットを脱いだめぐみんは、渋々といった表情で腕を組む。カズマの言が的を得ていたのか、先程までのツンとした空気は感じられない。カズマと目を見合わせたソウゴは、出来の悪い妹を見るような笑みを浮かべる。

 そんなライバルの反応に、今までで一番顔を明るくしたゆんゆんは嬉しそうに胸の前で手を握った。

 

「いいの? 自分に有利な条件でしか勝負に乗ってこなかったあなたが。お昼休みになったらこれみよがしに私の前をちょろちょろしてお弁当を巻き上げていたあなたが、勝負内容を私に決めさせてくれるなんて!」

 

「お前……」

 

「さっきまでほのぼのとした俺たちの気持ちを返して」

 

「仕方ないじゃないですか! 家庭の事情で彼女のお弁当が私の生命線だったんです! ……それで、何の勝負をするんですか?」

 

 仲間から批難を浴び、逃げるように話題を切り替える。話を振られたゆんゆんは少し考えるような仕草をしたあと、ソウゴと目が合うと何かを思いついたのかポンと手を打った。

 

「ここは守衛さ……じゃなくて、ソウゴさんに決めてもらいます!」

 

「え、俺? いいの?」

 

「はい! フェアな勝負で勝ってこそ、紅魔族一の魔法使いを名乗れるというもの!」

 

「おいめぐみん。このフェアプレイ精神を見習えよ」

 

「フェアプレイから一番遠い男が何を言っているんですか。ソウゴ、ゆんゆんをぐうの音も出ないくらいコテンパンにできる勝負をお願いします」

 

「俺、お前より公平な自信あるわ」

 

 静かに罵り合う二人の隣で、ソウゴは突然の無茶振りに思考を巡らせる。二人がいい勝負になりそうで、それでいてしたことがない、魔法使いとして決着がつけられる対戦カード。めぐみんはいいとして、ゆんゆんの期待に満ちた眼差しに大きなプレッシャーを感じながらブツブツとキーワードを反芻する。

 

「魔法使い、決着、血湧き肉躍る、地味じゃない……」

 

「何か、ソウゴが継承したという歴史の中に魔法使いに関するものはないんですか?」

 

「めぐみん、歴史の継承ってなに?」

 

「あるにはあるよ。でも、この世界の魔法使いに指輪の魔法が使えるかな?」

 

「あの、指輪の魔法って?」

 

「とりあえず試してみればいいんじゃないか? スキルポイントさえ振らなければめぐみんも文句ないだろ」

 

「そうですね。では、勝負内容は『どちらがより上手く指輪の魔法を使えるか』ということで」

 

「使えなかったらどうするんだ?」

 

「今日の勝負は引き分け無効試合ということにしましょう」

 

「あの! 何も理解できないまま話が進んでいくんですけど!?」

 

「大丈夫だよゆんゆん。俺たちも全然わかってないから」

 

「それ大丈夫じゃないですよね!?」

 

 ソウゴは自分に歴史を託してくれた一人、絶望を希望に変える魔法使いの力をこの世界に再現する。と言っても今回は戦士の力を顕現させるのではなく、彼らの使っていた指輪を二つほど拝借するだけだ。ソウゴが手から黒い靄を放つと、その靄はめぐみんとゆんゆんの手の上で魔法陣のような紋章を取り込み形を作り上げる。

 

「なんですかこの黒い靄。なんで靄が指輪になるんですか?」

 

「ゆんゆん。慣れて」

 

「慣れるとかそういう問題なんですか!?」

 

「うるさいですよゆんゆん。これが魔法の指輪ですか? マジックアイテムでしょうか」

 

 めぐみんは自分の手に産み落とされた、赤い鳥が刻印された銀の指輪をマジマジと見つめていた。中には大きな石がはめ込まれており、指に付けると指輪というより鈍器に近い見た目になってしまう。

 ゆんゆんも自分の手にある、めぐみんのものより一回りくらい小さい緑の六角形の指輪を観察していた。

 

「うん。それはプラモンスターっていう使い魔を召喚するための指輪だよ。プラモンスターは魔力さえあれば動くと思うから」

 

「使い魔! 私には既に使い魔がいますが、いいですね! 早速やっていきましょう!」

 

 そう言うや否や、めぐみんは恐れることなく指輪を握り魔力を込める。すると赤い鳥の指輪は輝き始め、指輪を中心にプラモデルのランナーのような赤い四角の魔法陣が浮かび上がった。

 

「おお! なんですかこれは!」

 

「ドライバー経由じゃないから、指輪を中心に魔法が発動するんだね。攻撃魔法の指輪出さなくてよかった」

 

「今、さらっと恐ろしい告白があったような」

 

 めぐみんの感動を受けてか、ランナーから外れたパーツは指輪に吸い込まれるように組み上がり、赤い鳥へとその姿を変えた。専用のウィザードリングに込められた魔力分だけ自律行動ができる現代日本の使い魔、プラモンスター・レッドガルーダの完成である。

 召喚されたレッドガルーダは、翼をはためかせ産声を上げながらめぐみんの手に収まる。

 

「それはレッドガr「ちぇるっし! 今日からお前の名前はちぇるっしです!」……うん、ちぇるっしだよ」

 

「負けてんじゃねぇよ」

 

 困惑気味のレッドガルーダ、もとい『ちぇるっし』を撫でるめぐみんの幸せそうな顔を見て、ゆんゆんも指輪に魔力を込める。レッドガルーダと同じような緑の魔法陣が現れると、それは有翼の獣・グリーングリフォンへと姿を変えた。完成した途端に跳ね回るグリフォンを見て、ゆんゆんの表情は溶け落ちる。

 

「わっ! わっ! か、かわいい〜〜!」

 

「そっちはグリーングリフォンだよ」

 

「えへへ……。よろしくね、グリちゃん」

 

「ゆんゆんのネーミングセンスは普通なんだな」

 

「ゆんゆんは紅魔の里でも変わり者だったので、里では浮いた存在だったんですよ。だから紅魔族らしからぬ変わった感性を持っていて」

 

「なるほど。つまり、中二病だらけの紅魔の里で突然変異の常識人だったからぼっちだったと。なんて不憫な……」

 

 我が子のようにグリフォンの頭を撫でるゆんゆんは、それはそれは幸せそうな顔をしていた。

 プラモンスターたちは召喚主を気に入ったのか、彼らの周りをくるくると飛び回る。ある程度交流して満足したのか、めぐみんはビシッとゆんゆんを指さすと、レッドガルーダを肩に乗せて宣戦布告した。

 

「さぁ、ゆんゆん! お望み通り勝負をしましょう。使い魔を戦わせ、倒したほうが勝ちです!」

 

「え!? グリちゃんを戦わせることなんてできないわよ!」

 

「何を言っているのです。元々そのためにソウゴが力を貸してくれたのではありませんか」

 

「又貸しだけどね」

 

「でもこんなにかわいいのよ!? 私はこの子のことを一生かけて大切に育てるの!」

 

「魔力が切れたら歴史に還元されるんだけどね」

 

「何を甘いことを言っているのです。勝負の世界はいつだって厳しいもの。行きなさいちぇるっし! ゆんゆんの使い魔を倒すのです!」

 

「めぐみんの人でなし! あ、やめっ、やめてちぇるちゃん! 負けでいい! 今日は私の負けでいいからぁ!」

 

 涙目でグリーングリフォンを庇うゆんゆんに、やり辛そうにくちばしで遠慮がちな攻撃を加えるレッドガルーダ。勝負というか、いじめにしか見えない状況にため息を漏らしたカズマとソウゴは、目を見合わせて肩をすくめる。

 

「ハーッハッハッハッ! 今日も勝ちィ!」

 

 勝鬨を上げるめぐみんは、勝ち取ったマナタイトを天高く掲げ、高らかに笑っていた。

 

 

 

 その後、グリーングリフォンが歴史に還元されたためゆんゆんが号泣するのだが、そのせいで“魔王”の噂がまた一つ増えたことをソウゴが知るのは、当分先のことだった。




監視対象に関する報告書 三日目

寝食を共にして三日が経った。彼は早朝、私が起きる前にどこかへ行っているようだ。監視対象の勝手な行動は容認し難く、国家転覆を目論んでいる可能性も捨てきれないため、気取られないよう尾行する。彼が向かったのは教会だった。中で何やら盗賊の少女と話をしているが、会話は聞き取れなかった。湯上がりで少し服をはだけさせた私や、隣で無防備に見せかけて寝ている私を放っておいて逢引とはなかなか豪胆である。まさかとは思うが、小さい方が好みなのか。引き続き、監視の目を強める。
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