この素晴らしい魔王に祝福を!   作:春野 曙

20 / 36
この罪深きモノに鎮魂歌を!

「よし。荷物をまとめて帰ろう」

 

 宿まで逃げおおせたカズマは、開口一番にそう言った。

 

「帰れたら、の話だろう。外を見てみろ」

 

「アクアたちを探してアクシズ教徒が徘徊していますからね。ここが見つかるのも時間の問題でしょう」

 

「流石に私が盾になっても全員逃し切れるかわからないな……。安心しろ。その時は私を見捨ててくれていい!」

 

「息を整えろ変態。いやほんとどうすっかなぁ」

 

 カーテンの隙間から覗いた外には、アクシズ教徒たちが文字通り草の根をかき分けて神敵を探している様子が見られる。時々ガラス越しに聞こえる『粛清』や『魔女狩り』という不穏なワードが、自分たちの未来を暗示しているようでカズマの背筋はぞわぞわとしていた。一歩外に出れば、命がけの鬼ごっこのスタートである。

 唐突に始まった催し物にカズマが頭を抱えていると、ウィズが控えめに手を挙げた。

 

「あのー……。〈テレポート〉ならアクセルの街まですぐに帰れますけど……」

 

「私も、アクセルはテレポート先に登録してます!」

 

「よし、それでいこう。ウィズ四人、ゆんゆん三人に分かれて逃げるぞ」

 

「ホテルの違約金とやらはどうするんです? 手持ちにそんな余裕ありませんよ」

 

「後でなんとかする。今は命が最優先だ」

 

「街まで追ってこられたらお終いではないか?」

 

「その時はその時考える」

 

 暗雲立ち込める現状に差した一筋の希望。外に出て馬車に乗るリスクを回避しつつ、即時帰還できるこれ以上ない脱出方法である。やっぱり持つべきものは本物の魔法使いだなと思いながら、カズマは最後の懸念へと視線を向けた。

 

「というわけでアk「嫌よ」

 

 最後の関門、アクアは即答するとぷいっと顔を反らした。淑女とは思えないほど股を開きソファに陣取る彼女の頑なな態度は、絶対に譲るつもりはないという意思表示なのだろう。

 

「帰りたければカズマだけ帰ればいいじゃない。私たちは残るわよ。ねっ、ウィズ」

 

「ふぇぇ!? 私ですか!? 私はその、ここに来てからずっと、アクア様の興奮した神気に当てられているので、ご遠慮させていただきたいのですが……」

 

「ウィズの薄情者! ならゆんゆんでもいいわよ! とにかく私はかーえーらーなーいー!」

 

「ああっ! そんな涙を振りまかないで! 消えちゃ、消えちゃいますぅ!」

 

「でもってなんですか!? 私だって嫌ですよ! あとなんでウィズさんは透けてるんですか?」

 

 まるでお菓子売り場の子どものように腕を振り駄々をこねるアクアに、カズマは溜め息と共に肩を落とした。

 いつもの単なるワガママなら切って捨てられたのだが、今回はそういうわけではないことをカズマも他のメンバーもわかっている。迷惑そうな顔をしながらも優しく諭すように、カズマの口調はとても穏やかだった。

 

「あのな。お前、石まで投げられたんだぞ? そこまでしてやる必要ないだろ。これで何かあっても自業自得だって」

 

「そんなの関係ないわ! 私のかわいい信者たちに魔王軍の魔の手が迫っているのよ!? 見殺しにするなんてできるわけないじゃない!」

 

「そうは言ってもな……」

 

 信徒というより暴徒と言った方がいい住民たちに追われながら、魔王軍の相手までする義理はカズマたちにはない。かと言って、折れないだろうアクアだけを放置して帰れば今より悲惨な状態になるのは目に見えている。

 どうやって説得しようかと思案を巡らせていると、話を聞いていためぐみんがカズマの援護に回る。

 

「そもそも、魔王軍がというのもアクアの想像ですよね? 何かそれらしい噂もないのに、被害妄想だけで犯人は探せませんよ」

 

「そうだぞ。いたずらの首謀者が誰かはわからないが、それも我々が居なくなって頭の冷えた教徒たちが見つけてとっちめるだろう。今は互いのために身を引くべきだ」

 

「めぐみん、ダクネスまで……。でも、私のかわいい信者たちが……」

 

 仲間たちに諭され、しょぼくれた目にうっすらと涙を貯めるアクア。どれだけぞんざいに扱われても、自分を信仰している人間を愛しく思うのは神の定めなのだろう。自分がなんとかしなければというアクアの使命感と、信者の身を憂う気持ちは伝わってくる。しかし、カズマは我が身が一番かわいいのだ。

 そっとアクアの肩に手を置いたカズマは、いつもとは違い優しく微笑んだ。

 

「そうそう。ソウゴが感知できないってことは、そんなに強くないだろ。筋肉ついたオッサン一人くらい、アクシズ教徒だけで追い払えるよ。ここはあいつらを信じて、帰ったらシュワシュワでも飲もう。な?」

 

「……そうね。みんなを信じるのも女神の務めって今なんて言った?」

 

 涙を器用に引っ込めたアクアが今度は目を見開く。異様な食いつきにいつものアル中思考を取り戻してきたのかと思い、カズマは現金な女神だなぁと眉を垂らす。

 

「もちろん奢りじゃないぞ。自分の飲んだ分は自分で払えよ」

 

「違うわよケチ。そこじゃなくてもっと前。なんで犯人が筋肉ついたオッサンだってわかるのよ」

 

「なんでって、そりゃあそんな話してるのを俺が聞いたからだけど」

 

 言葉を失い、呆然とするアクア。何か変なこと言ったか? とカズマが眉をひそめていると、いつの間にか背後に立っていたダクネスがカズマの頭にポンと手を置く。

 

「そう言えば先程の街頭演説のとき、アクアの意見を支持していた理由を聞きそびれていましたね」

 

「なんだよめぐみん。改まって」

 

「いいから答えろカズマ」

 

「え? ……ああ、そういや言ってなかったか。混浴入っただろ? その時に中で『もう温泉に入れなくなる』とか『この忌々しい街から開放される』とか話してたやつらがいたからそうかなって。俺が巨乳のお姉さんばかり見てたから向こうも油断してたんだろうな。士も『温泉が危うい』みたいなこと言ってたし痛い痛い痛い! ダクネス頭痛い!」

 

「どうしてそういう大事な話を先にしないんだ!?」

「どうしてそういう大事な話を先にしないんですか!?」

 

 ダクネスのアイアンクローで深刻なダメージを負ったカズマが、握り潰されかけた頭を抑えて蹲る。もう少しでエリス様に旅行の土産話をすることになるところだったが、何とか持ちこたえた自分の頭蓋骨を褒めてやりたいくらいだった。カズマは反抗的な目で二人を睨み返す。

 

「なにするんだよ! 今更言ったって逃げるってことは変わらないだろ?」

 

「変わりますよ! カズマは冒険者をなんだと思ってるんですか!?」

 

「魔王軍の破壊工作が行われているかもしれないとわかっていて、逃げ出す冒険者がどこにいる! さあ立てアクア。我々も共に問題解決に当たろう」

 

「みんな……っ! やっぱり、持つべきものは仲間ね……!」

 

「えー、何この展開……」

 

 目の前で繰り広げられているのは、それはもう美しい仲間の絆とやらだろう。だがカズマにとっては想像以上の剣幕で叱られ腑に落ちないだけでなく、いつの間にか逃げることより戦う方向で話が進んでいく非常に厄介な流れ。思うように事が運ばないため助けを求めるような目でソウゴを見るが、彼は少し呆れたように肩を竦めるだけだった。

 

「元々俺はアクアと残るつもりだったから。アクアが自分の民を守るために戦うならね」

 

「で、でもゆんゆんとウィズはなー。関係ないしなー?」

 

「魔王軍と戦うなら私も!」

 

「そうですね。もしかしたら、私が取りなせば話し合いで済むかもしれませんし」

 

「えっ。どうしてウィズさんが間に入ると魔王軍と話し合いができるんですか……?」

 

「……はぁ。もうわかったよ。わかりました。しょうがねぇなぁ、ったく……。でも俺、そういう話をしてる奴がいたってだけでどこにいるとかは知らないぞ? そもそも魔王軍かどうかもわからないし」

 

 犯人がわかっても、居場所がわからなければ取り押さえようがない。そこのところは全員がわかっているのだろう、返しの句に困りあぐねている。そんな中で、めぐみんが一つ提案を上げた。

 

「やはり聞き込みしかありません。幸い、私やゆんゆん、ウィズの顔は教徒たちに強く認知されていないはずです。長く滞在しているのなら手掛かりはあるでしょう」

 

「それしかないだろうけど、いけるか? 外の様子だと話しかけるのも厳しいだろ」

 

 そう切り替えしたカズマがそっと外を覗く。慌ただしく走り回るアクシズ教徒たちは健在で、ほとぼりが冷めるのはかなり時間がかかるだろう。いっそアクア一人突き出して怒りを納めてもらおうかと考えていたカズマだが、彼らがどうも先程と様子が違うように感じ、窓を開けて身を潜めた。

 

「どうしたカズマ?」

 

「(しっ。静かに)」

 

 カズマの行動に違和感を覚えたダクネスを制し、〈千里眼〉〈読唇術〉のスキルをフル活用して慌てる教徒たちの様子を観察する。

 

『ど なってる  ! なんで    あんな毒みたいな湯 !』

『まさか、あの     報 のた に!?』

『とに  全員に  せろ!    は管理人が行ったがこっちはまだ          はずだ!』

 

「毒みたいな湯……?」

 

 帰ったら聴力を上げるスキルを取ろうと心に決めながら、読み取れた言葉だけで会話を推察する。どうやら自分たちを構っている余裕がないくらいのアクシデントが発生しているらしい。毒みたいな湯、ということはアクアが浄化したという微量なものではなく目に見えてわかる変化があったということだろう。事態の急変に、カズマとしても思うところがないわけではない。

 神妙な面持ちのカズマに不安を煽られたのか、アクアが心配そうに表情を曇らせる。

 

「ちょっとマズいな……」

 

「どうしたのカズマ!? まさか魔王軍のやつら、私が動き出したのを察知して進行を早めたんじゃ……!」

 

「俺たちに罪を擦り付けられる今が一番動きやすいからだろうな。でもチャンスだ。すぐに源泉に行けばあのオッサンがいるかもしれない」

 

「急に積極的だな……」

 

「面倒な事をさっさと済ませたいだけだ。ここで俺がグズっても長引くだけだしな」

 

 ピンチはチャンスという言葉があるように、カズマはこの状況を好機と捉えた。見つかって捕まればより酷い目に合うのは確実だろうが、混浴で『仕上げ』と言っていたところを見るに、この街の全ての温泉がダメになるような仕掛けをしているはずだ。抑えるなら今しかないと、この世界で培われたカズマの経験が告げている。

 

「ですがこの人数だと、こそこそ移動してもアクシズ教徒に見つかってしまいますね。二手に分かれて源泉に向かいますか?」

 

「……いや。アクアには街の温泉の浄化をしてもらう。ソウゴ、一緒に頼めるか?」

 

「わかったよ」

 

「でも、源泉が汚染されているのなら流れてくる温泉を浄化しても意味がないんじゃ……」

 

 カズマの指示にゆんゆんは疑問を投げかけた。さっさと源泉に向かってそちらを浄化しなければ、末端である温泉は汚染され続ける、という彼女の考えは正しい。しかし、それをソウゴは首を振って否定した。

 

「そんなことないよ。魔王()魔女(アクア)が一緒にいればアクシズ教徒たちの目を引けるから、ゆんゆんたちは誰にも邪魔されず一気に現場まで向かえる。それに、アクアは信者が困ってるの放っておきたくないでしょ?」

 

「カズマ、あんた……!」

 

「違う。アクシズ教徒にとって最優先事項は女神の名を騙ったアクアへの私刑と、魔王を名乗ったソウゴをしばくことだ。せいぜい囮として役に立ってくれ。アクアがどんなポカやらかしても、ソウゴがいれば捕まることはないだろ」

 

「カズマ、あんた……」

 

 輝いていた目が一瞬でドブを見る目に変わる。なんとでも言えと言いたげなカズマの横顔を見てクスリと笑うのはソウゴだけではない。同じく眉を垂らしためぐみんやダクネスと目を合わせて、ソウゴも同じように素直でない男のために肩を竦めた。

 まとまりつつあった話だが、ウィズが疑問を持って手を挙げる。

 

「いいんですか? ソウゴさんがこちらにいた方が、戦闘になったとき安全なのではないでしょうか」

 

「確かに戦力が多いに越したことはないけど、こっちにはアークウィザードが二人もいるから大丈夫だよ。それでいいな、アクア」

 

「構わないわ! 早く行きましょうソウゴ!」

 

「おいちょっと待て。アークウィザードは三人だが? 今誰をカウントしなかった?」

 

「ソウゴたちはそっちが済んだらこっちに向かってくれ。まあ、出番はほとんどアクアの浄化能力だろうけどな」

 

「そうなることを祈るよ」

 

「よし、じゃあ各自装備を万全に整えて待機! 源泉は山の中で、何があるかわからないからな。アクアたちがアクシズ教徒を引き付けたのを確認したら出発するぞ!」

 

『おー!』

 

「おい! 誰をカウントしなかったか言うのですカズマ!」

 

 

   ⏱⏲「カズマ! 正直に言うのです! カズマ!」⏲⏱

 

 

「〈ピュリフュケーション〉! 〈ピュリフィケーション〉!」

 

 アクアが何度目かの呪文を唱えると、赤黒く濁っていた露天風呂の湯船はすっかりと元以上の透明色となっていた。元以上、というのは語弊でも誇張でもない。アクアに標準装備された浄化能力に〈浄化魔法(ピュリフィケーション)〉の重ね掛けをすれば、飲用水よりももっと安全かつ清潔な水へと昇華させることなど造作もないのだ。

 効能や独特のにごりまで綺麗さっぱり消滅しているので、温泉というよりとてつもなく清潔な公衆浴場のお風呂になっているわけだが、今は目を瞑ってもらう他ない。浄化が完了したことを確認し、ソウゴは街の観光マップの温泉の一つに丸印を追加する。

 

「……ふぅ。ここはこんなものね」

 

「じゃあ次に行こっか。あと数分で入口から三人、男湯の仕切りから一人登って来るのが視えた。外は今も囲まれてるから、また羽衣で飛んでくれる?」

 

「任せて! じゃあソウゴ、よろしく!」

 

「ほいきた」

 

 ソウゴが腰をかがめてバレーのレシーブのような構えをすると、そこに羽衣の両端を握ったアクアが足を掛ける。せーのっ、という声に合わせてアクアがそこに両足を乗せると、ソウゴは彼女を垂直に空へと打ち上げた。だいたい建物の二階から三階ぐらいといったところか、そこまで到達した彼女は自身の羽衣を広げてまるで気球のようにプカプカと空に浮かぶ。

 

「いいわよ、ソウゴー」

 

「おっけー」

 

 アクアからの合図を確認したソウゴは、周りを見回して一番頑丈な壁を見据えると、そこに向けて真っ直ぐ駆け出した。勢いを落とさずぶつかる手前で踏み切り、その壁を足跡を刻むかのごとく力強く蹴り上げる。いわゆる、三角飛びというものだ。

 しかし重力に縛られた人間がどれだけ高くジャンプしても、到達できる高さには限度というものがある。もちろん建物の二階三階など到底届くはずはない。もっとも、ソウゴは普通の人間と違い重力操作や空中浮遊などを無意識レベルで行えてしまう類の存在であるため、そんな心配は不要なのだが。

 ふわふわと浮いたソウゴはゆっくりとアクアの気球の上に着地すると、大きく体を伸ばして大の字で空を仰いだ。

 

「ふー。やっぱ気持ちいいね、これ」

 

「ちょっと。のんびりしてないで次に浄化する場所を決めてほしいんですけど」

 

「はいはい。じゃあ、東の方にしよう。人も散ってるし、追ってきてる人たちは疲れてるみたいだから時間も稼げるよ」

 

「わかったわ! 落ちないように気をつけなさいよ!」

 

 アクアが舵を切ると、ソウゴの肌を撫でる風の流れが変わる。その心地よさに身を任せれば、地上から飛んでくる教徒たちの罵声など気にならないが、アクアはやはり違うのだろう。少なからず心にダメージを受けているようだが、それがただの傷心ではなく魔王軍への怒りに変換されているところがアクアらしいと、陽炎のように立ち昇る神気を眺めながら思う。

 

「カズマたちの方はうまくいってるかな?」

 

「どうかしら。こっちは粗方浄化したし、向こうもそろそろ犯人をボコボコにしててもいい頃よね」

 

「いや、ボコボコにはしてないと思うけど」

 

 ウィズとゆんゆんのアークウィザードコンビに、最大火力持ちのめぐみん。防御はダクネスが一手に引き受けるだろう。カズマが中距離で支援をしつつ指揮をとれば、相当な戦力差でない限り崩すのは容易ではない。そもそも、魔王軍の所属であれば幹部のウィズがいるので穏便に話は済むはず。

 アクシデントはあったものの、この件が片付けばのんびりとした温泉旅行になるだろう。そんな風に考えて、穏やかな日差しに目を瞑る。

 

「……ッ! アクア、備えて!」

 

「え、何!? 何に備えるの!?」

 

 しかし、そんな皮算用が吹き飛んでしまうような、比喩ではない文字通りの爆発的な魔力の放出にソウゴは飛び起きた。直後、解放された魔力の余波に煽られた羽衣気球がアクアの悲鳴と共に大きく揺れる。

 

「うぇえええ!? 何これ何これ!? なんだか邪悪な気配がするんですけど!? とっても邪悪な気配がするんですけどー!?」

 

「この気配、山の方から……!?」

 

 魔力の発生元を探り、まさかと思いそちらへと視線を向ける。自分たちが考えているより状況は良くない。それを知るのに十分すぎるほどの惨状が、そこでは起きているようだった。

 緑が生い茂っていた山に一点のシミ。その赤黒いシミは時間と共にどんどんと大きな汚れとして広がっていく。シミに追い立てられた鳥たちが慌てて逃げ出すが、逃げ遅れたのろまは飛び立てはしてもシミに飲み込まれて力を失い、ボトボトと墜落していった。

 

「マズいわよソウゴ! 山が毒で汚染されてる! あそこ、カズマたちが行った源泉がある辺りよ!」

 

「毒で汚染……? いや、あれは違う。生命力を吸われてるんだ!」

 

 ソウゴが断言するのと、動きがあったのは同時だった。

 

 そのシミの中心から、何かが生まれる。

 

 枯れ果てた木々や死して堕ちていく鳥たち、地上で息絶えたモンスターたちもいるだろう、その全ての生命を取り込み成長しているそれ。汚染された温泉と同じ赤黒い死の塊は、ただ膨らんでいるだけではなかった。

 塊から、突起が伸びる。その突起が腕のような形を得ると、反対側から鏡写しに腕が生える。異形の腕が大地を掴み、ゆっくりと体を持ち上げる。そこでソウゴもアクアも気がついた。

 

 アレは、人の形になろうとしているのだと。

 

「みんな……!」

 

 急がないとマズい。ソウゴは久しぶりに焦りを感じていた。

 

 

    ⏱⏲時は戻って⏲⏱

 

 

「いったい、何の骨でしょう?」

 

「見たところ人骨のようですね。衛兵、もしくは冒険者でしょうか」

 

「えっ!? ゴブリンとかオークとかじゃないんですか!?」

 

「はい。骨格からして成人の男性だと思います。アンデット化する危険はないと思いますが、後でアクア様に浄化していただきましょう。これはエリス教のお守りでしょうか?」

 

「アクシズ教徒には街の出入り口にエリス教徒の骨を飾る風習があった……?」

 

「そんな風習あるわけがないだろう。しかし不気味だな。どうしてこんなものが……」

 

 街を抜け、山頂を目指し山道を登り十数分。明らかに関係者以外の立入が禁じられていそうな雰囲気の門の前で、そこに転がっていた二人分の骨に一同は歩みを止めていた。粘液のようなものがべったりと付着しているそれは、冗談で誤魔化しても誤魔化しきれない、紛れもない不審死。大型のモンスターに捕食されたにしては平らげ方が些か上品すぎる新鮮な骨塚を前にして、カズマは一つの結論を出す。

 

「よし。引き返そう」

 

「ここまで来て何を怖気づいているのです。さあ、キリキリ歩いてください」

 

「いやいやこれはソウゴがいないとやばいやつだって! 絶対にやばいやつだって!」

 

「とは言っても、人がモンスターに襲われた形跡があるんだ。我々冒険者には進む以外に選択肢はないぞ」

 

「ちょっ、やめろ離せ! 俺には帰りを待つ家族がいるんだ!」

 

「そういう嘘は恋人の一人でも作ってからにしてください。だいたい、カズマがスキルを使って警戒していないと奇襲される危険が上がるんです」

 

 ダクネスに襟首を捕まれ、無理矢理引き摺られるカズマ。抗議や抵抗を無視してそのまま先を行くめぐみんたちに、ゆんゆんは彼らの普段の冒険がいかなるものか察しため息をつく。しかし、これは呆れや疲れからくるため息ではない。

 

「いいなぁ……」

 

「我々も行きましょうか、ゆんゆんさん」

 

「あっ、はい!」

 

 ウィズに促され、少し駆け足で追いつく。仲間への憧れが強くなったことを自覚したゆんゆんだが、今は目の前のことに集中しようと杖を握り直した。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 源泉に近づくと、充満しているのは硫黄の匂いだけでないことがわかる。腐臭とも少し違う、例えるならば死の臭い。その発生源を見て、ゆんゆんは声を漏らした。

 

「お湯が真っ黒……」

 

「これは毒ですね。ここまで酷いとアクア様以外に浄化は難しいかと」

 

「犯人はまだ近くにいるはずだ。手分けして探すか?」

 

「カズマ! あそこに人がいます!」

 

 めぐみんの指差す方向に、こちらに背を向けてしゃがみ込む人影があった。浅黒い肌に筋肉質な体格、間違いなく先日混浴で遭遇した男だと確信したカズマは、逃げ出さないよう背後からゆっくりと近づく。

 男の周辺に毒物らしきものは置かれていない。使い切ってしまったということは考えられないが、仲間が補充しに行っている可能性もある。〈敵感知〉と〈千里眼〉で周囲をサーチし、伏兵が潜んでいないことを確認したカズマは、男に向かって声を上げた。

 

「そこまでだ! 汚染野郎!」

 

 こちらに気がついた男は、ゆっくり立ち上がると余裕のある笑みを浮かべた。

 

「何ですかあなた達は。私は温泉の管理をしている者で、水質の調査に来ているだけですが」

 

「とぼけても無駄ですよ! 街でアクアたちが騒ぎを起こしたのを幸いと、一気に源泉に毒を混ぜようとしたんでしょう!」

 

「既にいくつもの源泉が被害にあってるわ! 神妙にお縄に付きなさい!」

 

「私はダスティネス・フォード・ララティーナ。貴族特権で詰め所まで来てもらおう。詳しい話はそれからだ」

 

 畳み掛けるが、男の態度はかわらない。怒るわけでも焦るわけでもなく、纏わり付く羽虫を適当に払うように余裕の態度で鼻を鳴らす。

 

「何を言っているのかわかりませんが、そこまで仰るなら調べてもらって結構ですよ。どうせ毒物なんて出てきは……」

 

「…………」

 

「出て、きは……」

 

 男の顔色が変わった。呆けるように、何かを思い出そうとしているウィズと目があった男は目を泳がせると、ゆっくりとウィズから顔を逸らそうと横を見る。その反応にウィズの中の最後のピースがはまったのか、ポンと手を打った彼女は晴れやかな笑みを見せた。

 

「ハンスさん! ハンスさんですよね?」

 

「さ、さあ? 誰のことやら……。私はハンスなんて名前じゃありませんよ……」

 

「私です! リッチーのウィズです!」

 

「リッチー? あのとびきり危険なモンスターの? でも私にリッチーの知り合いは……」

 

「リッチー!? ウィズさんリッチーなんですか!?」

 

「ゆんゆんうるさいです」

 

「えっ、みなさん知ってたんですか!?」

 

 昔なじみなのか、子犬がしっぽを振るように嬉しそうに男に駆け寄るウィズ。たじろぐ男を余所に、さらっと正体を知ったゆんゆんが慌てているが、めぐみんはおざなりにそれをあしらって状況を眺めていた。

 

「本当にお久しぶりです! お会いするのは私が魔王軍に入ったとき以来ですよねハンスさん! そう言えば、ハンスさんはデッドリーポイズンスライムの変異種でしたね! じゃあハンスさんが温泉に毒を? あれ? どうして顔を逸らすんですかハンスさん? もしかして私のこと忘れちゃいましたか? 私です! 結界の維持だけ頼まれてる、魔王軍のなんちゃって幹部のウィズですよハンスさん! ほら昔、私が魔王さんのお城に乗り込ん「あーあーあー! 急な用事を思い出したのでこれで失礼させていただきますー!」

 

 ハンスは詰め寄るウィズを引き剥がすと、下山するためそそくさと脇を駆け抜けようとする。しかし、そんなハンスを簡単に許すような人間はここにはいなかった。

 ハンスの退路に躍り出た面々は、それぞれ構えてハンスを見据えた。

 

「どこへ行こうというのだ、ハンス!」

 

「そんな嘘で誤魔化せると思っているのですか、ハンス!」

 

「ウィズさんって魔王軍幹部なんですか!?」

 

「そろそろ正体を現したらどうだ? ハンス!」

 

「ハンスハンスと俺の名を気安く呼んでんじゃねぇーよクソ共がーーーーッッッ!!!!!」

 

 怒りの臨界点に達したのか、ハンスは先程までの余裕をかなぐり捨てて叫んだ。声をかけたときの落ち着きはなく、額に青筋を立てて怒りの形相に染める彼はまずウィズに向かって怒声を浴びせる。

 

「何でここにいやがるんだウィズ! お前、店出すとか言ってただろうが! 温泉街で遊んでないで働きやがれ!」

 

「ひ、ひどいです! 私だって必死に働いてるんですよ! 何故か働けば働くほど貧乏になるだけで……」

 

「それからそこの女ァ! どうしてお前だけウィズの正体聞いていちいち驚いてやがる! 事前に打ち合わせくらいしてこい!! 一人だけ浮いてるんだよ!!」

 

「どうして私、魔王軍の人にお説教されてるの!?」

 

「ほう、ゆんゆんがぼっちであることを見抜くとは。ハンスあなた、なかなかやりますね」

 

「そんなところで褒められても嬉しくねぇんだよ! 人のことナメてんのかお前ら!!」

 

 ある程度溜まっていたものを発散したのか、肩で息をするハンスは手を額に当てため息をつく。その後しゃがみ込むと、ぼそぼそと後悔を交えた独り言をつぶやき始めた。

 

「なんてこった……。調査に時間をかけ、入念な下準備をして決行した作戦だったんだ。アクシズ教徒共からの重圧に耐え、この街の住民共に気取られぬよう隠密に神の尖兵たちを滅ぼす重要な任務だったが、ウィズのせいで思わぬ邪魔が入った……」

 

「そんな! 私、ハンスさんの邪魔なんてしてませんよ! ただ知り合いがいたから声をかけただけじゃないですか!」

 

「それが邪魔だって言ってるんだよ!! 普通に考えて魔王軍の知り合いが一人でこそこそしてたら、声なんてかけないだろうが!」

 

「そ、それはすみません……。それでその、今回は話し合いとかでなんとかなりませんか? この街は私の友人の街なんです」

 

「話し合い? ……クハハハハッ! アークウィザードとして俺たちを狩りまくってた頃はそんな言葉出てこなかっただろ! お前とはお互い不干渉の関係だったが、何ならやり合ったっていいんだぜ?」

 

 実力を知っているはずのウィズを前にして、まるで気にならないかのように挑発するハンス。余程腕に自信があるのか、それともウィズが敵対してこないと踏んでのことなのかはわからないが、このまま放置というわけにもいかないだろう。カズマは腰の脇差を抜いた。

 

「知り合いならウィズもやり辛いだろ。下がっててくれ。俺が相手をしてやるよ、ハンス!」

 

「ほう、弱っちそうなお前がか? ……ん? お前どこかで……」

 

「俺の名はサトウカズマ。昨日風呂で会っただろ? 魔王軍幹部ベルディアとの戦いに参加し、デストロイヤー討伐を指揮をとり、そしてバニルとの戦いを見届けた者だ」

 

「……なるほどな。昨日連れを凝視していたのはフェイクで、俺のことを張っていたというわけか」

 

「おいカズマどうした! いつものお前らしくないぞ!」

 

「まさか、ここに来る途中に変なものでも拾い食いしましたか!?」

 

「お前ら俺をなんだと思ってるんだ」

 

 カズマは甘く考えていた。

 ウィズが言っていたデッドリーポイズンスライムがやつの正体なら、毒を分泌できたとしても所詮はスライム。ウィズがここについて早々つるつる食べていた、あのところてんと同種族なのだ。ゲームでも最弱モンスターであるスライムなら、いくら強そうな見た目でもウィズ抜きで倒せる、と。

 

 しかし彼は忘れていた。この世界にカズマの常識は通用しないことを。

 

「門番の骨を警告代わりに置いてやっていたんだが、それでも引かない態度を見るにどうやらただのハッタリじゃないらしいな」

 

「……え? アレお前がやったの?」

 

「俺の名はハンス! ()()()()()が一人、デッドリーポイズンスライムの変異種ハンスだ! 管理人のジジイのように骨までしっかり消化してやる。覚悟してかかってこい、小僧!」

 

「え? 今なんて? 幹部?」

 

 聞き捨てならない単語が聞こえた気がして、カズマは聞き返す。しかし、時はカズマを待ってはくれなかった。

 

「〈カースド・クリスタルプリズン〉!!」

 

 背後から強烈な冷気が吹き荒れカズマの隣を駆けると、ハンスの下半身は一気に氷漬けにされる。不意打ちとは言え腰まで完全に凍結しており、逃げ出すのはほぼ不可能だろう。

 しかし、意表を突かれたのは彼だけではない。突然のことにカズマが驚き振り返ると、そこでは冷気を纏うウィズが、普段のおっとりとした表情からは想像もできない憤怒の形相を見せていた。

 

「何をしやがるウィズ……!」

 

「ウィ、ウィズさん……?」

 

「今、なんと仰いましたか……? 管理人のおじいさんを()()した……?」

 

「何をキレていやがる! 俺はスライム、食うことが本能だ! あのジジイも、門番の男共も同じ人間。同じ俺の食糧だ!」

 

「違います。……私が皆さんに不干渉なのは、戦闘に関わらない人間を襲わないことが条件だったはずです。冒険者がモンスターと戦い命を落とすことは仕方ありません。門番の彼らもそうです。それで生きる糧を得ているのですから。でも、管理人のおじいさんは違うじゃないですか!!」

 

 次の一撃を放つためだろう、ウィズは右手に冷気を集める。もう一度同じ攻撃を喰らえばマズイことをハンスも理解しているのだろう、悔しげに顔を歪ませる。

 

「本気で俺とやり合う気かウィズ! さっさと魔法を解け!」

 

「〈カースド……!」

 

「ウィズ! 貴様ァ……ッ!!」

 

「……クリスタルプリズン〉!!」

 

「ウィズーーーーッ!!!」

 

 ウィズが得意とする氷結魔法が炸裂する。許されざる罪人を氷の牢獄へ閉じ込めんと、容赦のない吹雪がハンスを襲った。氷の柱が生成され、放たれる冷気と源泉の湯気が混ざり合い水蒸気が場に溢れる。もはや爆風と呼ぶに相応しい霧の膨張に、カズマたちは吹き飛ばされそうな体を何とかその場に留めていた。

 

「ウィズこえぇ……」

 

 これがなんちゃってでも魔王軍幹部に抜擢される者の実力。同じ幹部を瞬殺する、ソウゴとは違う強者の圧を放つ存在。それを目の当たりにして、カズマたちは静かに怒るリッチーを眺めることしかできなかった。

 静寂を得たその場の、霧がゆっくりと晴れていく。彼女が作り出した氷のオブジェが、異様なまでの存在感を放ち戦いの終幕を知らせる。

 はずだった。

 

「っ! ハンスがいないぞ!」

 

 ダクネスのその言葉に、全員が氷の柱を注視する。そこに閉じ込められていたのは、ハンスの下半身だけだった。

 

「まさか、分離して逃げたのですか!?」

 

「逃げる? 馬鹿なこと言うなよ、冒険者ども」

 

 声は氷の柱の奥から響いた。背後にあった源泉から、再生した下半身とともにその体を顕にしたハンスは、あれだけの攻撃を見せつけられながら余裕の表情をカズマたちに向けた。

 

「今のはヤバかった。戦う場所がここじゃなかったら、今ので俺は終わっていただろうな。神に感謝してやってもいいくらいだ」

 

「なら、もう一度食らわせてあげます。感謝とともに懺悔もしてきたらどうですか」

 

「おっと、恐い恐い。……なあお前ら。少し話をしようじゃないか」

 

 不敵に笑うハンスは、そうカズマたちに持ちかけた。しかし、先程までのぽわぽわしたウィズならまだしも、既に戦うことを決めた彼女に対して時間稼ぎにしても愚策ではないか。カズマがそう思うくらいだ、本人もわかっているだろう。しかしハンスは攻撃の素振りも意思も見せずに、各々武器を構える冒険者たちと向かい合って自分の下半身が氷漬けにされた柱に寄りかかった。

 

「ウィズ。お前不思議に思わないか? 俺の再生力が早いことに」

 

「それがどうかしましたか」

 

「お前は貰ったときから興味がなかったな。これだよ」

 

 そう言って、ハンスは懐から見覚えのある手のひらサイズのデバイスを見せる。緑の丸い、時計のような装置。カズマたちは嫌というほど見覚えのある、ソウゴが探し求めているもの。ベルディアに爆裂魔法をほぼ無傷で耐える強力な防御力を与え、デストロイヤーに周辺地域の地形を更地にしてしまう熱放射とアマゾンを生み出し使役する力を与えた、強力無比なマジックアイテム。

 

「それは、魔王さんから頂いた〈オーパーツ〉……!?」

 

「ライドウォッチか! そりゃ幹部なら持ってるよな……!」

 

「お前らも知っていたか。この〈オーパーツ〉はいい。ひと目見たときに惹かれる何かを感じ、取り替えてもらって正解だった」

 

 ウォッチを見せびらかすように、カズマたちの前で空に透かす。再生能力の上昇なんていう地味な効果だが、失った下半身を瞬時に取り戻せるのは魅力的だろう。しかし、そんなカズマたちの思考を否定するようにハンスは笑った。

 

「お前らは知っているか? これの正しい使い方を」

 

「正しい使い方、だと……?」

 

「押して力を得る。それだけではないというのですか!?」

 

「ああ。うちにはモンスターを改造して強化する部署があってな。そこの局長がたまたま発見したのさ」

 

 ハンスは片手でウォッチの能力開放弁、ウェイクベゼルを九〇度回転させる。すると、そこにそのウォッチに封じられた歴史を持つ仮面ライダーの顔が現れ、能力の開放が可能な状態になる。ここまでは、ベルディアが見せたものと同じ。そのままライドオンスターターを押すことで、時を読み取り仮面ライダーの名前がコールされる。

 

 

«J(ジェイ)»

 

 

「冥土の土産に見せてやる。この〈オーパーツ〉の真の力を!」

 

 そしてそれを、ハンスは自分の体へと押し当てた。

 

『!?』

 

「ハッハッハッ! 漲る! 力が漲るぞ……!」

 

 ライドウォッチは押し当てた場所に黒い渦のような力の流れを生み出すと、そのまま体の中へと取り込まれる。スライムが捕食したようにも見えるが、違う。そう感じたとき、ハンスの肉体が変化が起きた。

 黒い渦から力の帯のようなものが湧き出てくる。それがハンスの全身を包むと、彼の肉体は先程までの人間の姿とは違う、どこかソウゴの変身するオーマジオウと似た雰囲気の異形へと変化させる。全身が緑で、黄緑のラインが入った体。目は赤く発光し顔の半分ほど大きく。そしてへその辺りにイチョウ型の赤い鉱石のような器官を持つ、ウォッチの示す顔と瓜二つの存在。

 

「ライドウォッチが融合って、確かデストロイヤーを作ったやつの日記にも書いてたやつじゃ……!?」

 

 だが、変化はまだ終わらない。

 

 体に«1994»の文字が刻まれると、まるで殻を破るようにハンスの体から芋虫のような触手が無数に突き出してきた。その芋虫は体表で繋がると形を変え、さらなる異形へとその身を象っていく。右肩から腕にかけてトカゲのような硬質な肌を、肘や膝には鋭利な針を、そして顔を裂いてできた口に蛇のような牙を生やしたそれは、全身を毒々しい赤紫に染めて笑う。

 

「本当に腑抜けになったなウィズ! 敵が話をしようなんて言って、本当に攻撃の手を止めるとは!」

 

「姿を変えたところで、問題は何もありません! 〈カースド・クリスタルプリズン〉!!」

 

 ウィズは臆することなく、笑う異形と化したハンス――アナザーJに向けて氷結魔法を放つ。いくらライドウォッチの力で姿を変えても、どれだけ高い再生能力を持っていても、全身を上級魔法で氷漬けにされてしまえばどうしょうもないはず。今度こそ氷の標本となったハンスを見て、カズマはホッと息をつく。

 

「魔王軍幹部なんて言われてビビったけど、なんとかなったな……。つかなんだよ、スライムのくせに幹部って」

 

「スライムの『くせに』? いつもと違った強気な態度と言い、もしやカズマはスライムについて誤解していませんか?」

 

「え? スライムって最弱モンスターじゃないのか?」

 

「誰だそんなことをお前に教えたやつは……。いいか? スライムっていうのはだな……」

 

 ダクネスとめぐみんが呆れた顔でカズマを見る。こういう世間知らずみたいな扱いを受けるのも慣れてきたが、やはり理不尽なこの世界に対する不満は募るもの。それも命あっての物種と、気を抜いたときだった。

 

 ピシッ

 

 確かに聞こえた音に、全員がハンスへと視線を移す。その瞬間、氷は見事に砕け散った。中から現れたアナザーJは、どこか一回り大きくなっているような気がしてならない。そんなカズマの気づきを余所に、アナザーJは笑う。

 

「この〈オーパーツ〉の力が、本当に再生能力の向上だと思うか? 俺も最初はそう思ったさ。だが違うんだよこれが」

 

「ッ! 皆さん走ってください!」

 

「どうしたウィズ!?」

 

「いいから早くしてください! 皆さん死んでしまいます!」

 

「この〈オーパーツ〉の真の力は姿を変えることでも、再生能力の向上でもない。この俺、スライムと同じ糧を得る力!」

 

 そう言ったアナザーJの触れている地面が、アナザーJの体と同じ赤黒く変色していく。それは紛れもなく、目に見える死。そこから逃げるため、全員が死物狂いで後退を始める。

 

「俺に触れた命を貪る能力。全ての命を吸収して糧とし、俺の力に変換する能力だ!!」

 

 アナザーJの体が膨らむ。普通なら取り込みすぎて弾けているだろうその体も、スライム故にいくらでも膨張を続ける。際限なく周辺の生命力を吸収するアナザーJは、遂に人形からただ膨らむ肉の塊へと変貌を遂げた。

 

「おい! あれを見ろ!」

 

 ダクネスの声につられて、走りながら全員が指差す方へ視線をやる。そこには飛び立つのが遅かったのか、群れから墜落してきた一羽の鳥がいた。そのまま赤黒く変色した土地に落ちると、鳥はまるで水分を吸われたかのように干からび、次の瞬間には腐った野菜のようにどろどろと溶けて地面に染み込んでいく。

 

『………………』

 

 あれが自分たちの最期かと思うと、何時間走っても疲れたなんて口が裂けても言えそうにない。

 

「追いつかれたら終わりだぞ!」

 

「カズマなんとかしてください!」

 

「俺に振るな! 黙って走れ!」

 

「これどこまで逃げればいいんですか!?」

 

「ハンスさんの体の膨張が終われば恐らくは!」

 

「それっていつだよ!?」

 

 走りながらカズマは考える。何か打開策はないかと。躓いたらそこで人生終了。まだアクシズ教徒との鬼ごっこの方がかわいかったと数時間前の自分の判断を恨めしく思う。周りを見回しながらこの危機を切り抜けるヒントを求め、そして思い出す。

 

「そうだ……! ウィズ! 氷で高台を作れるか!? なるべく高い位置に逃げたい!」

 

「高台……。ゆんゆんさん! 〈タイダルウェイブ〉は使えますか? 私がそれを凍らせます!」

 

「は、はい! いきます! 〈タイダルウェイブ〉!」

 

「〈フリーズガスト〉!」

 

 カズマの依頼で、前方に大きな波を作り出す魔法と冷凍魔法を組み合わせ氷の高台を作り出す二人。滑りやすく登り辛いことは承知しているが、現状これ以外の策をカズマは閃かなかった。

 大地も源泉も、そして空すら汚染されるあのアナザーJの能力。しかし無事だったものはあった。それは取り込まれず砕かれたウィズの氷魔法、そして飛び立ち逃げられた鳥たち。生命活動が不可能な温度と侵食が届かない高さがあれば助かるのではないか、その可能性に賭けるしかないカズマは〈バインド〉用に持ってきた縄を鞘から抜いた脇差の柄に括り付けながら、目の前の急な斜面に向かって走る。

 

「全員全力で登れ! もし死んだらあの世でいくらでも文句を聞いてやるよ! 〈クリエイト・ウォーター〉!」

 

 そう言ったカズマは、生成した水を脇差の刃にかけた。そこに〈フリーズ〉を掛け、縄を凍りつかせ固定する。後は自分の幸運を信じ、弓を取り出し構えた。

 初心者向けの短弓、しかし攻撃の意味で弓を引くわけではない。縄を括った脇差を弦に宛てがい、なるべく高台の高い位置を狙う。

 

「頼むぞ! 〈狙撃〉!」

 

 縄は放った脇差の軌跡を描き、氷の高波へと吸い込まれていく。脇差は狙い通り、見事に高い位置に刺さった。氷と氷がくっついて、簡単には抜けないだろう。効率よく登るための即席の命綱の完成である。

 

「ダクネスは自分の剣でなんとか登れるな!?「ああ!」ウィズとゆんゆんも風の魔法かなにかでなるべく早く上へ!「「はい!」」めぐみんは俺にしがみついてろ!「わかりました!」」

 

 言うや否や、五人は山頂アタックを開始する。滑りやすく、滑落すれば死あるのみ。手は冷たく触れば体が拒否反応を起こす。それでも本能に抗って上を目指す。両手剣をピッケル代わりに、縄でよじ登り、風の魔法で背中を押して、ようやく五人は登頂に成功する。幸い読みが当たったのか、氷の高台がドロドロに溶けるようなことはなかった。

 しかし、油断はできない。

 

「なんだよあれ……」

 

 息を整えながら、カズマは言葉を漏らした。だがそう呟きたかったのはカズマだけではない。

 振り返ると、いたはずのハンスは見当たらない。だが明確に危険な存在だけがそこにいた。スライムのように流動的な体から生えた腕。それは変異する前のアナザーJと同じ形。そこからさらに足、頭を形作った赤紫の死の塊は、その巨体を持ち上げ立ち上がる。

 

『「これがこの〈オーパーツ〉の真の力だ。さあ、俺を楽しませろ冒険者共! 裏切り者のウィズ!」』

 

「あんなサイズのスライムとどう戦えと言うんだ……!」

 

「大きすぎます……!」

 

 カズマの記憶に照らし合わせると、十階建てのビルくらいはあるだろうという身長。ロボットアニメに出てくるような、デストロイヤーと正面切って殴り合えそうな、そういうサイズ感だ。高台に登った自分たちを優に超えるその大きさに、言葉を失うとは正にこのことだろう。この体格差でどう戦えと言うとか、絞り出そうにも案も知恵も策も浮かばない。

 

『「丁度いい。お前たちを食った後は街の人間全員だ。あの忌々しいアクシズ教徒を根絶やしにしてやる。隠密なんて面倒なことはやめて、最初からこうすれば俺があんな目に合うこともなかったんだ……!」』

 

 アルカンレティアでの日々を思い出し、ふつふつと怒りが湧いているのだろう。憎らしげに歪む表情と握りしめる拳で気持ちは伝わってくる。だが、見逃してくれない以上倒さねばいけない相手だ。同情もしていられない。

 

「ウィズ、ゆんゆん。あれ凍らせられるか!?」

 

「全力の魔力でも怪しいですが、かなり消費してしまっているので四分の一くらいが限界だと思います……!」

 

「すみません! 私も全力でそのくらいです!」

 

「めぐみん! 爆裂魔法であれ全部焼けるか?」

 

「スライムは魔法に強い耐性がありますから、倒し切るのは無理でしょう。加えてハンスが爆発四散すれば辺りに猛毒が散乱しますよ」

 

「爆裂魔法で倒しきれない相手って、この世界のスライムはどうなってるんだよ……!」

 

『「最後の会話は済んだか? 安心しろ。続きは俺の腹の中でさせてやる!」』

 

 アナザーJは下半身をスライムに変化させる。体こそ半分ほどの大きさになるが、どうということはない。そのスライム化した体が津波のように、素早くカズマたちに襲いかかる。

 

「〈ブリザードウォール〉!」

 

「〈ウインドカーテン〉!」

 

 二人の防御魔法が間に合い、飲み込まれるのだけは回避した。ドーム状に展開された風と吹雪の結界が五人を包み、捕食しようと近づくスライムを寄せ付けない。しかし、こうなっては動くことができない。スライムが周りを取囲み、さながら絶海の孤島のように逃げ場を絶たれる。

 

『「“氷の魔女”もこうなれば型なしだなァ! 終わりにしてやる!」』

 

 目の前まで迫ってきたアナザーJの上半身は、抵抗を繰り返す冒険者を見下し嘲笑う。そして体を捻り引導を渡すため拳を握ったその姿を見て、ダクネスは結界のギリギリ縁に立って両手を広げた。

 

「ウィズ! 私が受け止めて見せる! あれを凍らせてくれ!」

 

「おいダクネス! 受け止めるなんて無茶だ! 死ぬぞ!」 

 

「だがそうしなければ全員スライムに飲み込まれてあの世行きだ! ウィズ、頼む!」

 

「は、はい……! 〈フリーズガスト〉ォ!」

 

 アナザーJから拳が繰り出された。巨体ゆえに空気や重力の抵抗があるのか、動きは怠慢。しかしゆっくりと迫る恐怖というものを肌はピリピリと感じている。ウィズの魔法で凍てつき鈍器となったその拳は、風と吹雪の結界を意に介さず簡単に突き抜けてきた。それを大きな音と共に全身で受け止めたダクネスは、後ろに滑りながらもなんとかその場に踏ん張ることに成功した。

 しかしとてつもない衝撃だったのだ、鎧にヒビが入り欠片がこぼれ落ちる。あの様子では骨と内蔵も傷ついただろう。凍りついた拳に、ダクネスの吐き出した赤が新たな色として吹きかけられた。

 

「ぐっ……! うおお……!」

 

『「耐えるじゃないか冒険者。だが、お前の命も俺の糧にさせてもらうぞ……!」』

 

「ダクネス!」

 

「気にするなッ! 私はクルセイダーだ。自らの体を盾とし、お前たちの身を守るのが私の役目だッ! だが、これは結構、クるな……! こんなに強い衝撃、そして命を危険に晒されているという感覚は初めてだ……っ!」

 

「喜んでんじゃねぇよ緊張感持て!」

 

『「ハハハッ! 諦めろ冒険者共!」』

 

「どうしようめぐみん! 防御魔法の内側にも汚染が!」

 

「周りがスライムで囲まれているから、土台が侵食される前に汚染が始まったようですね……! カズマ、どうしますか!?」

 

(どうする……!? ここはもう、爆裂魔法しか……!)

 

 ダクネスの受け止めた氷が砕ければ、防御の内側にもスライムが溢れてしまうことになる。爆裂魔法の威力なら、倒せなくても逃げるための隙を作ることはできるかもしれない。しかしそれで周りを囲むスライムが動きを止めなければ、切り札を無駄に使うだけに終わってしまう。しかも運悪く大きな破片がこちらに飛んでくることも、爆裂魔法の爆風で自分たちが吹き飛ばされる可能性もゼロではない。この絶望的な状況を切り抜けるには、手札が絶対的に足りないのだ。

 ダクネスも今はなんとか踏ん張って耐えているが、少しずつ力で押され後退している。その上氷のコーティングを飲み込みつつある毒が、ダクネスの体を蝕み首筋や顔に赤紫の斑点が出始めていた。

 万事休す。諦めかけた、その時だった。

 

 

«キング! ギリギリスラッシュ!»

 

 

 『ジオウサイキョウ』の文字が空を裂く。

 王に与えられた大剣・サイキョージカンギレードによる一撃が放たれると、ダクネスを苦しめていた腕が吹き飛び宙を舞った。こんなことができるのは一人しかいない。この戦況を覆すワイルドカードに、カズマは歓喜の声を上げた。

 

「ソウゴ! アクア!」

 

「ごめん! 遅くなった!」

 

「うぇえ!? あの鎧の方ソウゴさんなんですか!?」

 

 空から現れたのは、竜と建物が一体になったモンスターの頭に乗ったオーマジオウと、城壁のような背中から身を乗り出すアクアだった。先程の一撃を放った大剣を黒い靄として体に取り込んだオーマジオウは、結界の内側にいた五人を事も無げにアクアのいる竜の背中へと瞬間移動させる。ランダムテレポートとは違う瞬間移動に困惑するアークウィザード二人とは裏腹に、ダクネスの外傷を見たアクアが顔を青くした。

 

「毒まみれのボロボロじゃない! ダクネスしっかり! 〈セイクリッド・ハイネス・ヒール〉!」

 

 最上位の回復魔法から放たれる暖かな光りに包まれ、ダクネスの体から赤黒く変色し始めていた斑点が消え去る。苦痛が和らいだのか、苦悶に頬を染めていた顔が少し残念そうな顔と変わったのを見て、カズマはホッと息を吐いた。

 仲間の命が助かり安堵したも早々に、カズマとめぐみんは背中に乗り移ったオーマジオウに駆け寄った。

 

「何だよこのドラゴン! まさかこれも仮面ライダーの力なのか……?」

 

「なんだか外観は城のような、見たことのないドラゴンですね」

 

「キャッスルドラン。キングオブバンパイア、“仮面ライダーキバ”の居城だよ」

 

「バンパイア!? 仮面ライダーってバンパイアもいるのか!?」

 

「まあその話は追々。ところであれは何?」

 

 そう言って、オーマジオウは隣へと視線をやる。するとそこに、キャッスルドランの現在の飛行高度を超えるアナザーJの巨体が顔を覗かせた。間近で見る巨大なアナザーJは、流動的な体を持ちながら固いはずの鱗や牙が再現されているため、生物と非生物の境界を曖昧に感じて気持ちが悪くなる。斬られた腕も再生しており、本当に生き物なのか疑いたくなるのは仕方ない。

 常識をかき混ぜられるようなその見た目に対して嫌悪感を顕にするカズマたちに、アナザーJは咆哮した。

 

『「腕を斬ったくらいで調子に乗るなよ! 俺はスライムだ。〈オーパーツ〉の力で取り込んだ生命力があれば、腕くらいいくらでも修復できる!」』

 

「ライドウォッチを使ってアナザーライダーになってるのか。そのウォッチ、“仮面ライダーJ”のウォッチだよね?」

 

『「そんなこと知る必要があるのか? 今から俺に喰われるやつが!」』

 

「確かに、回収すればわかることだね」

 

 仲間たちを庇うように前に出たオーマジオウが手をかざす。そこから念じるだけで衝撃波を生み出し、迫りくる驚異をいとも容易く跳ね返した。衝撃波の余波でキャッスルドランも傾くが、慣れているのかすぐにバランスを立て直す。跳ね返されたアナザーJはというと、たたらを踏んで大きな地鳴りと共に大地に仰向けに打ち付けられた。

 その姿を見て自分の手のひらを見るソウゴは、追撃には移らず少し首を傾げる。

 

「ちょっとソウゴ! あいつが弾けたら汚染範囲が広がるんだから、もっと優しく攻撃して!」

 

「あ、ごめん。でさ、斬ったときもそうだったけど、なんか手応えないんだよね。あれ何? 水?」

 

「あいつは魔王軍幹部のデッドリーポイズンスライムだ。打撃は効かないらしいぞ」

 

「でっど……なに?」

 

「デッドリーポイズンスライム。触れれば即死の猛毒を持つ、スライムの中でも更に上位の危険なモンスターです。特にあのハンスさんは、魔王軍の中でも高い賞金がかけられています」

 

「ふーん。スライムってどんなモンスターなの?」

 

 いまいちわかってるのかわかってないのか、首を傾げるオーマジオウ。そんな彼に先程カズマに見せた視線と同じように、めぐみんと復帰したダクネスは少し呆れたような目を向けた。

 

「スライムに打撃は効きません。魔法への強い耐性もあり、貼り付かれれば待っているのは窒息死か、生きたまま消化液で溶かされ栄養にされるかです」

 

「捕食されればおしまいよ。溶かされたら私の〈復活魔法〉じゃ生き返らせることはできないわ。ま、ソウゴなら溶かされる前まで時間を巻き戻せるから平気でしょうけど」

 

「唯一の弱点である核が体のどこかにあるはずだが、あの大きさだと見つけるのは無理だろうな。そもそもあのサイズなら、核を破壊しても猛毒の体が散らばってここら一帯を汚染する。小さければ浄化もできるんだがな」

 

「スライムってそんなやばいやつだったのか……」

 

「カズマさんは知らずにあれだけの啖呵切ってたんですか!?」

 

「ゆんゆんはわかっていませんね。知っていたらこの男が強敵に戦いを挑むわけ無いでしょう」

 

「むしろ我々は、こいつがスライムを雑魚だと勘違いしていたことに納得したくらいだ」

 

「ていうかお前ら、門のところにあった粘液まみれの骨。あれスライムの仕業ってわかってただろ」

 

「「さてなんのことやら」」

 

「お前ら、家に帰ったら泣いて謝るようなすんごいことしてやるから覚えてろよ……!」

 

 死の瀬戸際まで追い込まれていたが、いつも通りの空気を取り戻す一行。気持ちの入れ替えは済んだ。高度を上げたキャッスルドランから、立ち上がろうとしているアナザーJを見下ろしてオーマジオウは呟く。

 

「ライドウォッチの排出には、俺が瀕死レベル以上のダメージを与えなきゃいけないんだ。でもあの体にダメージを通せるだけ力を込めると、爆発の影響で山は吹き飛ぶしアルカンレティアは毒まみれになるよ」

 

「どんな威力の攻撃をするつもりなんですか……?」

 

「破片を集めるために時を戻せばハンスが蘇ってしまうでしょうから、その案は保留ですね。あと、私は一度ソウゴの本気の一撃が見たいです」

 

「やめときなさい。この星がなくなるわよ」

 

「凍らせれば触れることは可能だ。私もそれでさっきやつの攻撃を受け止めた」

 

「ゆんゆんとウィズが力を合わせれば半分までなら凍らせられるらしい。あの毒さえなんとかできれば……。アクア、あれ浄化できないか?」

 

「あのサイズを一瞬で浄化なんて無理よ。一日以上かかるわ」

 

「それに、今のハンスさんは触れた生命を取り込むことで力を増します。浄化し続けてもすぐに毒を生成してしまうのではないでしょうか?」

 

「……ねえカズマ。毒をなんとかできれば策はあるの?」

 

「ああ。俺が考えてることが正しければ、半分凍らせられれば倒せるはずだ。……って、できるのか!?」

 

「わからない。けど、なんか行ける気がする」

 

 そう言って、オーマジオウはサムズアップをする。未来を見ての自信なのか、それとも根拠がないのかはわからない。でも、そんなソウゴを見て同じように“なんかいける気”がしてきたパーティーメンバーは、ニヤリと笑うとサムズアップを返した。

 

「ソウゴがそう言うと、確かになんだか行けるような気がしてくるな」

 

「根拠なく自信満々に言われちゃうとね」

 

「紅魔族はいつだって、なんか行ける気がしていますよ」

 

「お前のは自信じゃなくて過信だからな」

 

 この状況で笑い合う五人を見て、困惑を隠せないゆんゆん。そんな彼女の肩にそっと手を触れ微笑んだウィズは、懐かしいような寂しいような、複雑な笑みを浮かべていた。

 

「よし! めぐみんは爆裂魔法の準備!」

「承知!」

 

「ウィズとゆんゆんは合図をしたら全力の凍結魔法を!」

「わかりました!」「は、はい!」

 

「ダクネスとアクアは、魔力を使い切った三人がソウゴの攻撃で吹き飛ばされないよう守ってやってくれ!」

「わかった」「任せて!」

 

 それぞれの役割の配置につくのと、アナザーJが立ち上がるのはほぼ同時だった。更に汚染範囲を広げ、大地からエネルギーを強制徴収し体をまた大きく成長させている様子。アナザーJは、その凶悪な牙をむき出しにして叫んだ。

 

『「どれだけ足掻こうと無駄な事だ! お前らはオレには勝てない!」』

 

「そういうのフラグって言うんだぜ……! ソウゴ、頼む!」

 

 オーマジオウは手のひらから黒い靄を生み出すと、そこに新たなライダークレストを刻む。ゴーグルに髪のような意匠を持つその紋章が靄に吸い込まれると、靄は守護者の力と色を持ってこの世界に顕現する。

 

「“仮面ライダーエグゼイド”。ゲームから生み出されたウイルスと戦い患者の運命を変えた、天才ゲーマーで医者の仮面ライダーだよ」

 

 オーマジオウの語りと共に現れたのは、医者という言葉から想像できない、なんとも奇抜なカラーリングだった。イメージしていた白衣と違い全身が明るい、きっと夜なら映えるであろうネオンピンク。まるでゲームのキャラクターのように描かれた目のパーツに、コントローラーのような胸部アーマー。現れた戦士が拳を高く掲げたのを見て、カズマはポツリと呟いた。

 

「いや、ゲーム要素強くね?」

 

「お願い、エグゼイド」

 

 ピンクの戦士、エグゼイドはオーマジオウの言葉に首を縦に振ると、どこからか銀色のデバイスを取り出す。それを起動すると、彼の背後にゲームのタイトル画面のようなビジョンが浮かび上がった。

 

«MAXIMUM MIGHTY X»

 

 その銀のデバイス、ガシャットを腰に付けたネオンイエローのベルトに差し込むと、ベルトからうるさいくらいに歌が流れ始める。

 

«マキシマムガシャット! ガッチャーン!»

«LEVEL.MAX!»

«最大級のパワフルボディ! ダリラガーン! ダゴズバーン! 最大級のパワフルボディ! ダリラガーン! ダゴズバーン!»

 

 歌に合わせて上空に現れた、巨大な顔。カズマが口をあんぐりと開けていると、エグゼイドは拳でベルトに差し込んだガシャットを叩いた。すると、エグゼイドはその顔に吸い込まれてしまう。中に取り込まれ何が起きるのかと見ていると、その顔から腕が、足が生えてエグゼイドが顔を出す。

 

«MAXIMUM POWER X»

 

 一連の流れが完了したのか、縦にも横にもカズマの五割増しになった巨大なエグゼイドが着地する。手には剣なのか銃なのかわからない武器を構え、巨大化したエグゼイドはアナザーJを見据えた。

 

「いや、やっぱりゲーム要素の方が強くないか!? このフォルムのどこに医者要素があるんだよ!?」

 

 カズマの言葉など届いていないのか、エグゼイドは気にせずその銃剣にベルトに挿していたガシャットを差し込む。やっぱりゲームっぽいなぁなどという感想はしまっておくべきだろう。銃剣にエネルギーが溜まる。

 

«MAXIMUM MIGHTY CRITICAL FINISH!»

 

 その音声がコールされると、剣の刀身に当たる部分からビームが放たれる。そのビームは真っ直ぐにアナザーJへと向かうが、当のアナザーJは意に介した様子はなく鼻で笑った。

 

『「どんな魔法を使うつもりか知らないが、スライムに魔法耐性があることを知らないのか!?」』

 

「魔法じゃないよ。医療行為だ」

 

「嘘つけどこがだよ」

 

 放たれたビームはアナザーJに着弾する。すると、変化はすぐに起きた。赤紫だった体は、徐々にその色を失いまるで川を流れる水のように無色になっていく。この変化に一番驚いたのは、やはりアナザーJだった。

 

『「!? なんだ!?」』

 

「エグゼイドマキシマムゲーマーレベル99(ナインティナイン)。その力はリプログラミング。あんたの中の毒を生み出す遺伝子構造を書き換えて、毒を生成できない体にした。カズマ!」

 

「リプログラミングってパソコン用語にしか聞こえないんだけどまあいい! めぐみん! あいつの腹のあたりにぶっ放せ!」

 

「ええ、任せてください!」

 

 瞬間、めぐみんの瞳が紅く輝いた。

 

 

 

「死を司る赫き鉄槌よ」

 

「断罪の刻 来たれり」

 

「悪しき魂は今、煉獄に身を堕としその罪過を灌ぐ」

 

「神に仇なす邪悪を滅ぼせ」

 

「王に盾突く愚者を罰せ」

 

「常闇より出れ、葬送の業火」

 

 

爆 裂 魔 法(エクスプロージョン)〉!!!

 

 

 

 めぐみんから放たれた全魔力が、アナザーJの中心に集まる。魔力の残滓がキラキラとこの世界を彩るが、それも刹那。人類最大の攻撃魔法はその威力を遺憾なく発揮すると、キャッスルドランすら吹き飛ばしてしまうような爆風と爆炎をこの世界に現出する。

 

『「何ィィ!!?? あいつと同じ爆裂魔法だと!?」』

 

 真ん中で炸裂したのだ、上半身と下半身はきれいにおさらばしていた。余波で腕も吹き飛んでおり、条件はかなり整っている。突っ立っているだけだった足がどろりと形を崩したのを見逃さなかったカズマは、自分の仮説が正しかったと笑った。

 

「ウィズ! ゆんゆん! あいつの上半身だ! 再生するのは意識を持った頭のある方だけだ!」

 

「いきますよ、ゆんゆんさん!」

 

「はい! これが今の私に残された全魔力! 喰らいなさい!」

 

 

「「〈カースド・クリスタルプリズン〉!!!」」

 

 

 二人の氷結魔法が宙を舞うアナザーJの体を包み込む。春の日に起きた猛吹雪。命の活動を奪うその牢獄から逃げ出すことは、空中ではまず無理だろう。

 

『「このままやられてたまるかァ!!」』

 

 しかし、ただやられるだけのアナザーJではない。首と頭を分離させて逃げ出そうとする。だが、それを許すほどカズマは甘くない。

 

「〈狙撃〉! 〈狙撃〉! 頭だけ逃げようってことはそこに核があるんだろ!? 逃がすかよ!」

 

 なるべく頭頂部を狙い弓を引き続ける。エグゼイドも加勢してビームを放つ。一瞬でいい、逃げる時間を奪う。その一瞬の、核に当たるかもしれないという躊躇いが、アナザーJから逃げる僅かなチャンスを奪い取る。氷結魔法に飲み込まれたアナザーJが、恨めしそうにカズマを睨んだ。

 

『「ぐっ……き……さま…………!」』

 

「ソウゴ!」

 

「返してもらうよ。俺たちの歴史」

 

 

«終焉ノ刻»

 

 

 エグゼイドが靄となって歴史に還元されると、オーマジオウはドライバーに配置されたオーマジオウマトリクスを押した。全身から溢れ出る黒の金の力の波動。それを纏いキャッスルドランからゆっくりと、重力を無視して浮かび上がったオーマジオウ。凍りついたアナザーJの周りに出現した大量の『キック』の文字。オーマジオウは、必殺の一撃を叩き込むための構えをとる。

 

 

«逢魔時王必殺撃»

 

 

 背中のアパラージタが展開し、翼のように広がる。天の使いのように見えなくもないが、その本質が天に召すなんていう可愛らしいものでないことを知っているカズマは、キャッスルドランの塀にしがみついて叫んだ。

 

「いけーーーーーッッッ!!!」

 

 文字通りの一撃必殺。キックが炸裂するとともにやってくる、爆裂魔法を超えた爆風と衝撃。キャッスルドランは耐えきれずに吹き飛ばされ、投げ出されそうなアクアとダクネスをカズマは〈バインド〉で繋ぎ止める。声にならない搭乗者全員の悲鳴が、自分の悲鳴と爆音でかき消されていた。

 今日一番の命の危険を感じるが、爆風が収まればなんてことはない。安全バー無しのジェットコースターの方がまだ楽しいかもしれないが。なんとかアトラクションを楽しみ終えたカズマは、バクバクとうるさい心臓を抑えながら息を吐いた。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

 体勢を立て直したキャッスルドランが、ゆっくりと源泉近くの地面に着陸する。生きているという感覚、そして枯れてしまった木々に囲まれていてもドロドロに溶かされることはないという安心感から、体の力が一気に抜ける。

 

「お、お前ら生きてるか〜……?」

 

「な、なんとか……。あのカズマ、魔力を分けていただけると……」

 

「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! な゛わ゛あ゛り゛が゛と゛ね゛か゛じ゛ゅ゛ま゛さ゛ぁ゛ぁ゛ん゛! わ゛た゛し゛も゛う゛こ゛れ゛の゛り゛た゛く゛な゛い゛ぃ゛ぃ゛!!」

 

「あぁ! アクア様の涙で、わたし、きえちゃいますぅぅ……」

 

「ゆんゆんがショックで息をしてないぞ! 帰ってこいゆんゆん!」

 

「…………っこほ! こほっけほっ! ……ここはどこ? 私は誰……?」

 

「しっかりしろゆんゆん!」

 

 阿鼻叫喚とはこのことだろう。カズマも脱力しきってしまい、吐き気すらやってこない。

 だが、生きている。空を仰いで硫黄臭い空気を吸い、それを実感する。あの絶望的な状況で勝ったんだという実感の方は、残念ながら湧いてこない。まだ夢の中にいるような気分だが、太陽の輝きだけはこれが現実だと教えてくれる。

 

「終わったな……」

 

「終わったね」

 

 キャッスルドランに降り立ったオーマジオウ。彼の手には確かにハンスが取り込んでいたライドウォッチが握られていた。変身を解除しソウゴの姿に戻った彼は、カズマの隣に座り込んだ。

 

「お前、もうちょっと加減しろ。お前に殺されるところだったぞ」

 

「ごめんごめん。でもJの歴史は確かに返してもらったよ。これで一件落着」

 

「温泉旅行に来て魔王軍幹部と遭遇とか、本当にこの世界はろくでもないな。ゲームバランスはどうなってんだか……」

 

「まあまあ。俺としてはありがたいけどね」

 

 そう言ってソウゴはサムズアップをする。呆れたように笑うカズマもサムズアップを。勝利を祝う二人は、拳を打ち付けて全員無事に生き残れたことを喜んだ。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「くっ……! まさか俺がおめおめと逃げることになるとは……!」

 

 ハンスは生きていた。オーマジオウによる一撃を受け、爆発の中でなお執念で源泉に飛び込み、パイプの中の毒を食いながら逃げ遂せていた。これ程までに自分の幸運と耐性の高さに感謝したことはないだろう。〈オーパーツ〉を奪われ、体も小さくなったが生きている。ここで逃げることは恥ではない。毒を生成できない体にされても、毒を持つモンスターを食らい続けて器官を擬態で生み出せばなんとでもなる。撒いた自分の毒を回収すれば吐き出せはしないが触れれば即死の毒の体は取り戻せた。まだ終わりではない。

 

「復讐してやるぞ、サトウカズマ……! 勝利に油断した今夜、寝込みを襲えば簡単に殺せるんだ……!」

 

 ハンスは恨みの炎を灯していた。絶対に許してなるものかと、デッドリーポイズンスライムとしてのプライドがあの憎い冒険者の顔を思い出させる。

 

「やつを食って、擬態して、仲間を全て殺して食ってやる……! 絶対に、絶対に許さんぞ……!」

 

 ハンスはパイプからどこか知らない温泉へと流れ出た。スライムだ、少しの隙間があれば逃げることも隠れることもできる。力を蓄えて、復讐を果たし、〈オーパーツ〉を取り返す。ハンスの頭にはそのことだけしかなかった。温泉から小さくなった自分の体で這い出る。

 

「まずはこの街の人間を食らって回復だ……。ウィズにさえ見つからなければどうということはない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもそれは、俺がもう視た未来だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 そんなはずはない。自分より先に、この街のどの温泉に出るかわからない自分を待ち伏せることなんてできるはずがない。そう思い振り返る。しかし、神は微笑んでくれなかった。

 

「よくも私のかわいい信者たちの街を無茶苦茶にしてくれたわよね。ハンスだったかしら? 覚悟、できてるんでしょうね……?」

 

 ポキポキと指を鳴らすアクア。怒りから、神気が溢れ出しモンスターであるハンスの皮膚をピリピリと刺激する。

 まずい。本能がそう告げていた。このプリーストと真正面からやり合うことだけは避けなければならないと。逃げ道を探す。しかし、退路が絶たれたことだけがわかった。

 

「本当に出たぞ……」

「スライムだ!」

「あのプリーストと自称魔王の言った通りだ……」

「同志に石を投げるなんて、俺たちはなんて罪深いことを……!」

 

 ぞろぞろと見届人たちが姿を現す。こんなはずじゃなかった。何かの間違いだ。悪い夢に違いない。そんな言葉ばかりがハンスの脳内を駆け巡る。

 

「な、なぜ俺がここにいると……! お前らは完全に勝利に油断していたはずだ……!」

 

「ご愁傷様だな、ハンス。こっちには未来が視える“時の魔王”がいるんだ。お前がパイプを通って街に逃げて、住民を食う未来を予知したんだよ」

 

「未来が視えるだと……!? デュラハンよりも先の未来が視える人間なんて聞いたことがないぞ!?」

 

「まあ俺、魔王だからさ。だから、ハンスが次にどう行動してどう逃げるかも視えるんだよ」

 

「最後のお喋りは済んだかしら? 安心なさい。懺悔を聴いても赦しはないわよ。その代わりに、綺麗さっぱり浄化してあげるわ!」

 

 アクアは身に宿る神気を拳に込める。その右拳から放たれる人を超えた眩い神聖属性の輝きに、ハンスは目を疑った。

 

「ふざけるな……。ふざけるなッ! 俺は魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムのハンスだぞ!? こんなカルト教団の街簡単に破滅させて終わらせるはずだったんだ! もう少しで、もう少しで計画も完遂! アクシズ教団をぶっ壊し、ベルディアとバニルが消息を絶った街で調査と報復活動をする手筈だった! なのに、なのにこんなところで……!」

 

「そんなこと知らないわ! あんたの不幸は唯一つ。私達を相手にしたことよ! 〈ゴッドブロー〉!!!」

 

 アクアの、いや、女神の怒りと悲しみが込められた拳がハンスに刺さる。信者たちに信じてもらえなかった悲しみ、信者たちに石を投げられた悲しみ、仲間たちに信者たちを悪く言われた悲しみ。そして、その全ての原因であるハンスへの膨大な怒り。人を超えた神の力はその拳を更に輝かせ、左拳を瞬かせる。

 

「私も、なんか行ける気がしてきたわ……!」

 

 ソウゴにだけは見えていた。この街に漂う神気が、アクアの左拳に集約されていく奔流を。信者たちの神への懺悔と祈りが、輝きとなってアクアに集まっていく奇跡を。

 

「なんだ、この異様な神聖属性は! まさか、この地が崇める忌々しい女神とは……!」

 

「これで終わりよ」

 

 その拳は、女神の愛と悲しみの鎮魂歌。石を投げられ、魔女と罵られ、それでも捧げられる信者たちへの愛。そして同胞を虐げた懺悔と共に捧げられる信者たちから神への愛。そしてそれを引き裂くハンスへの膨大な怒り。「おい。悲しみどこいったんだよ」左拳から、人智を超えた聖なる光が放たれた。

 

 

〈ゴッドレクイエム〉

 

 

 鎮魂歌は巨大な光の柱となって天を衝いた。

 その街を包む強大な輝きに、今度こそ全て終わったのだとカズマは思った。




「良かったんですか? 私達一緒に戦わなくて。結果的にはなんとかなりましたけど……」

「ああ、問題ない。知りたいことはしれたしな。どうして俺がこの世界で役割を与えられたのか。どうしてあいつらと会ったのか」

「役割? ああ、そのアロハですか。たまには楽しめっていう世界からのお達しだったんじゃ?」

「そんなわけないだろ。この世界の主人公と会わせるためだ」

「えっ、いたんですか? どこに?」

「おかげでこの世界が誰を中心に回っているのかも、だいたいわかった」

「誰なんです? 私、お会いしましたか?」

「どうだっていいだろ。またこの世界に来るかどうかもわからないんだ。この〈ろくでもない世界〉にな」

「他人の世界を指してろくでもない、なんて言い過ぎですよ」

「いいんだよ。帰るぞ、ナツミカン」

「あっ、待ってください士くん!」


   ⏱⏲⏱⏲⏱


 かくして、魔王軍幹部ハンスを討伐しライドウォッチを回収した一行。これで手に入れたウォッチは五つ。残るウォッチはあと七つ。気持ちよく踊って貰えたようで、招待状を出した側としては嬉しい限りです。
 さて、次の舞踏会までは時間があります。もっと楽しんでいただけるように私も仕込みをしなくては。彼にももっと頑張っていただかなくてはなりませんから。

 それでは皆さん、また、お会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。