この素晴らしい魔王に祝福を!   作:春野 曙

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爆裂娘にcheer heat low!2017
この伝説への幕開けを!


「盗賊を私兵の如く使役する最低最悪の魔王よ。どうだ、悪魔である我輩と取引をしないか?」

 

「へぇ。何が望み?」

 

「拠点がほしい。我輩は例の白い粉を出そう。いくら魔王とて、港で高い代償を支払いたくはあるまい?」

 

「まあ、余裕があるって言っても無駄な出費はしたくないからね」

 

「ダメよソウゴ! そんなこと、神が許しても私が許さないわ……!」

 

「黙っておれインチキ守銭奴。そのインチキで金を巻き上げ、迷える子羊を導くのではなかったのか? 今の汝はその子羊を無慈悲に刈り上げる毛革屋ではないか!」

 

 牙を剥き出しで威嚇するアクアをからかい、楽しそうに笑うバニル。その隙に切れる手札を悟られぬよう確認したソウゴは、二人の無意味ないさかいを宥めるようにへらへらとした笑みを携えて結論を口にした。

 

「小麦二、レンガ一で」

 

「交渉成立だ」

 

「あー! 私の最長交易路がー!」

 

「フハハハハッ! 次の我輩の手番で、汝の悔しがる顔が見れると思えば安い買い物である!」

 

「じゃあ俺は最後に独占を使うね。二人とも、木材頂戴」

 

「貴様……ッ! まだ我輩たちから巻き上げるつもりか……!?」

 

「過度な重税は神の審判が下るわよ!」

 

「アクア文句しか言わないじゃん」

 

 

 

「平和だなぁ」

 

 魔王と悪魔と女神による無人島をかけた壮大なテーブル代理戦争を離れたところで眺めながら、カズマは店主の入れてくれた紅茶に口をつけた。

 渋みの少ないすっきりとした香りが鼻を抜け、お茶受けのクッキーとの相性もいい。これも連日通いつめている身内の駄女神のせいかと思うと心苦しくはあるが、魔道具店よりも喫茶店を開いた方がいいと思えるほどの腕前に成長しているウィズには素直に感心させられる。少なくともその方が負債も少なくて済みそうだな、とはあえて言わない。

 

「悪いな、ウィズ。俺までお茶出してもらって」

 

「いえいえ。カズマさんの商品のおかげでお客さんも増えていますし、このくらいは」

 

 ウィズの嬉しそうな笑顔が物語る通り、ウィズ魔道具店の業績は緩やかに上昇の兆しを見せていた。旅行前にいくつか納品した試作品も発売時期を聞かれるほど反応がよかったらしく、アルカンレティア旅行から帰宅後すぐにバニルから次の商品の催促があったのはつい数日前の出来事。文句を言おうと乗り込んだはいいものの、出端をくじかれたのはカズマの記憶に新しい。

 対面に座り自分も紅茶を飲み始めたウィズは、三人が囲んでいる見慣れないアナログゲームを指してカズマに問いかけた。

 

「皆さんがされてるあのゲームも、カズマさんの故郷のものなんですか?」

 

「ああ。バニルに追加で娯楽商品もって言われて困ったけど、まだこれが持ち込まれてなくてよかった」

 

 トランプやルーレットなどは隣国エルロードにカジノがあるらしく、そこで既に使用されていたため却下。日本でも有名なゲーム類は既に普及済み。知恵を振り絞り、世界で一番売れている外国産ボードゲームを思い出したときには奇声を発し仲間たちに変な目で見られたものだと、カズマはしみじみと思い出していた。〈転生特典〉持ちはこの世界でチートを駆使した冒険者として生活しているため、地道な商売で金を稼ぐ発想がなかったのが一番の幸いだったのだろう、というのがカズマの見解である。

 のんびり穏やかな午後の一時を優雅に楽しんでいると、アクアの悔しそうなうめき声と地団駄で新製品の試供が終わったことがわかった。

 

「くぅ~~~!!! どうして私のサイコロは七を出してくれないのかしら! エクスプロージョンルールを追加すべきよ! 作った拠点を全部更地にできるやつ!」

 

「卑怯にも〈ブレッシング〉まで使ったくせに賽の目に嫌われるとは、所詮は悪質教団の迷惑女神と言うことか! ククク、実にいい気味である!」

 

「悪質じゃなくてアクシズよ! ア・ク・シ・ズ! どうせ見通す力とか使ってズルしたに決まってるわ、この陰険悪魔!」

 

「我輩が汝と同レベルなわけなかろう。なんなら、もう一戦してやってもよいぞ? 結果は変わらぬだろうがな!」

 

「上等じゃない! 無人島だろうとどこだろうと、悪魔の好きにさせる女神が居てたまるかってもんよ!」

 

「楽しかったね。本当にもう一回しよっか?」

 

「あんたとだけはイヤ」

「汝とだけは御免被る」

 

 真顔の女神と真顔の悪魔が仲良く声を合わせたことで、また新たに対戦相手を失ったソウゴ。へらへらとした笑みはなりを潜め、しょんぼりとする彼を見てカズマは、帰ったら神経衰弱で相手をしてやるかと仏心を見せる。そんなカズマが自分の幸運値と運ゲーでようやく互角ぐらいになるチート魔王を横目に試作品を片付けていると、一段落ついたタイミングを見計らったようにウィズは三人分のお茶とお菓子をテーブルに広げた。

 小競り合いもほどほどに紅茶を飲んでほっと一息をつく三人。その中で咳払いをしたバニルは、お菓子を次々口に運ぶアクアに対して珍しく嫌みの一つも言わずに足を組んだ。

 

「さて、このゲームの出来もわかったことだ。そろそろ商談といこうか。まずは既に販売を始めている『らいたー』からだな」

 

 そう言い帳簿のような紙の束とそろばんを取り出したバニルは、それをペラペラとめくりながら手際よく珠を弾いていく。随分と様になっているが、これで地獄の公爵なんていう偉い立場だというのだから、地獄という場所が本当にどういうところなのかカズマにはわからなくなってくる。少なくとも、死ぬ度に自分が召される天界よりは人間社会に近いのかもしれない。

 ぼんやりとそんなことを考えながら待っていると、計算を終えたバニルは小切手のような用紙にさらさらと文字を綴った。

 

「現時点で『らいたー』の売上個数がおよそ二百。販売額が一つ五百エリスだったので約十万。取り決めでは売れた額の一割ということだったな。相違なければ、汝らの収益は今でだいたい一万エリスほどとなる」

 

「まあ、ライターだけならそんなもんか」

 

「いやはや、小僧への見立ては正しかった! 短期間でこの売れ行き。王都の商人にも卸したことで、これからの売上の伸長にも期待ができる。どこぞのガラクタばかり店に並べるポンコツ店主とは大違いである」

 

「ひ、酷いですバニルさん! 私、これでも頑張ってるんですよ!?」

 

「店を構えてから恐らくかなりの年月を空腹と暇な店番に費やして来たであろう全自動負債製造機よ。そろそろ商売は頑張るだけではどうにもならんということを理解せよ」

 

 呆れた調子で諭され、悔しそうに頬をふくらませるウィズ。そんなウィズも、店が栄えて嬉しいことに変わりはないのでその怒りもすぐに冷めていく。しかし貧乏生活からの脱却の兆しが見えたことを喜ぶバニルやウィズとは対照的に、カズマの反応はドライなものだった。

 販売個数は目を見張るものがあるが、だからと言って一万エリス程のお小遣いで喜べるほど子どもでもない。カエル討伐のクエスト報酬の相場(肉の買取含む)が一匹当たり二万五千エリス、ソウゴのバイト代が日給二万エリスということを思えば安定した収入からは程遠いものの、裏を返せば単価が上がればそれだけの収益が見込める反応だったということだ。ハンスとの戦いを経て命の大切さを実感したカズマの目指す、安心安全の異世界ライフも決して夢ではなくなってきた。

 まだ見ぬ未来に想いを馳せ、その足掛かりとして差し出された小切手へと手を伸ばす。しかしバニルは、明るい未来に向けて伸ばしたカズマの手をひらりとかわした。

 

「……なにすんだよ」

 

「そして、ここからが本題だ」

 

「本題?」

 

「汝にとって、とても良い提案がある」

 

 悪魔の囁きとはこういうものを言うのだろう。ニヤリと笑うバニルの表情からはろくな提案である気が全くしないが、どうにもつい期待してしまう、そういう声色だった。それでも警戒するに越したことはないとカズマが身構えると、お菓子の入っていた皿を一人で空にしウィズにおかわりを要求するアクアが横槍を入れてくる。

 

「この木っ端悪魔の提案なんて絶対ろくなもんじゃないわよ! 耳を傾けちゃダメよカズマ!」

 

「黙っておれ、我が家のエンゲル係数に多大なダメージを与える意地汚い乞食女神め。……さて、さっさと危険と隣り合わせの生活から脱却したいと願う小僧よ。今まで提供した試作品の知的財産権自体を、我輩に譲る気はないか?」

 

「知的財産権? そんなことしたら俺、利益なくなるだろ」

 

「タダでとは言っておらんだろう。まとめて三億エリスで買い取ろう」

 

 さらっと飛び出た金額に、カズマとアクアは紅茶を吹き出した。

 

「「さ、さささ、三億!?」」

 

「もちろん、取り決め通り売上の一割でも我輩は構わん。この出来ならば月々百万エリスは固いと思っていいだろう」

 

「「月々、ひゃくまん……!」」

 

 一足飛びで夢が叶ってしまう、想定より多い(ぜろ)の数に思考が固まるカズマ。貰えないデストロイヤーの褒賞金と同じ、一生働かなくていい額が飛び出せば警戒心など吹き飛んでしまうのも無理はないだろう。先程までお菓子に夢中だったアクアでさえ悪魔の甘言ということを忘れ、目を¥にして指折り(ぜろ)の数を数えていた。

 盛大に紅茶を吹き掛けられても動じない当のバニルは、ウィズに差し出されたタオルで濡れた体を拭きながら続ける。

 

「今すぐに決めろとは言わん。汝らもこれから大金を手にするのだ、答えは量産体制が整ったときに聞こう。それまで考えておくといい」

 

「大金を手にする? そんな予定なかったと思うけど」

 

 ウィズが補充したお菓子を摘まみながら、三億エリスで頭がいっぱいの二人に代わってソウゴが答える。その反応の何が面白かったのかくつくつと(わら)うバニルは、自分の唇に人差し指を立ててニヤリと口角を吊り上げた。

 

「おっと失敬。汝らにとってはまだ少し未来の出来事であったな」

 

 聞き覚えのある答え方をしたバニルは、外が騒がしいことに気がつくとにんまりと三日月を描く。実に悪魔らしい表情というべきか、良くも悪くも彼にとってはいいように事が運んでいる表れなのだろう。なんとなく気に入らないが、そういうものを表に出すと喜ばせるだけだというのをソウゴも重々承知している。

 流れに身を任せると決めたソウゴは、扉を突き破らんとする勢いで雪崩れ込んできたダクネスの慌てようにも驚くことなく、眉ひとつ動かさずに落ち着いて紅茶を啜った。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 場所はギルド。多くのギャラリーに囲まれ相対するのは、仲間と一緒にカエルに丸呑みにされた仲であるいつぞやの騎士二人と、最近もしかしたらこの人はポンコツなのかもしれないと思い始めているお馴染みの王国検察官。

 この構図は見たことがあると、カズマの既視感が告げていた。もちろん忘れるはずもない、アルダープに目をつけられたあの日である。もう何も期待しないと決めていたカズマは、次はいったいどんな無茶振りがやって来るのかと話半分といった感じでぼやっとした表情を浮かべていた。

 

「冒険者、サトウカズマ一行。魔王軍幹部ベルディア、並びにバニルの討伐、及び機動要塞デストロイヤーの破壊のみならず、新たにアルカンレティアにて魔王軍幹部ハンスの討伐という多大な活躍をされました。ここにその功績を称え、褒賞金より金五億エリスを進呈いたします。こちらは、王室からの感謝状です」

 

「はあ……」

 

 そう宣言されても間抜けな声しか出なかったカズマは、冴えない顔のままで笑顔のセナから通算二枚目の感謝状を受け取った。沸き立つ場内の盛り上がりようにもこれといった感慨はなく、どこか他人事のようにしか感じられない。

 だが、現実を受け止められていないのはカズマだけではなかった。腕を組みドヤ顔でふんぞり返っているのはアクアくらいなもので、期待していなかった分反動が大きかったのか、飛び出した金額にめぐみんやダクネスも目を点にしていた。

 

「五億かぁ。バニルの言ってた大金ってこの事だったんだね」

 

 唯一涼しい顔をしているソウゴがそんな感想を漏らす。しかし、それに言葉を返す者はいない。あの場で大金がどうのという話を聞いていたウィズはもちろんのこと、いつもなら自分の知らない話に対して異様に食いつくゆんゆんすら、降って湧いた高額所得に固まったまま動こうとしなかった。それが少しおかしく感じて、ソウゴはくすりと笑ってしまう。

 

「あの……サトウさん?」

 

 困惑気味のセナに声をかけられ、カズマは少しずつ、この歓声が自分達の命懸けの戦いを称えるものだと理解し始める。頭が追い付けば、感情も追い付く。だがカズマは、沸き上がる大金への興奮と、喜びから飛び跳ねそうになる衝動を寸前のところでグッと堪えた。

 まずセナに確認しなくてはならないことがある。この世界の石橋はしっかりと叩いて渡り始めても、突然壊れて地獄へ真っ逆さまという鬼畜仕様なことをこの身をもって知っているのだ。こんなうまい話、何かの罠の可能性だって十分考えられる。

 緊張からか、絞り出した声はカズマが自分で思っていたより震えていた。

 

「なあセナ? 本当にお金が貰えるのか……?」

 

「はい。今度こそお受け取りいただけます」

 

「だ、だって倒してから音信不通だったし、てっきりまた貰えないものだと……」

 

「それは、皆さんがアルカンレティアのギルドに討伐報告を上げていながら、報酬を受け取る前に街を出てしまったからです。手続きに時間がかかってしまいました」

 

「領主は? あのオッサンが難癖をつけてこなかったのか!?」

 

「確かに抗議の連絡はありましたが、そもそもアルカンレティアはアルダープ氏の治める領地の外ですから口を挟む権限はありません」

 

「アルカンレティアの連中は!? その、温泉に何か問題があったから弁償しろとか言ってこなかったのか!?」

 

「いいえ。アクシズ教団の最高神官であらせられるゼスタ氏からも、直接感謝の意を伝えられないことが非常に残念だったとお言葉を頂戴しております」

 

「国……。そうだ国! またソウゴがヤバイやつだから減額しますとか言うんだろ!?」

 

「ソウゴさんは正式に冒険者として認められていますのでご安心ください。あの、お気持ちはわかりますが疑い過ぎでは……?」

 

 困り顔のセナを見ても頑なに信じようとしないカズマ。話を聞けば聞くほど都合が良すぎて、むしろ謀られているのではという疑いが強くなる。

 

(あの温泉の変化は絶対にすぐ気付く。なのに触れてこないなんて、アクシズ教団は何を考えてるんだ……?)

 

 報復とは行かずとも何かしらアクションがあるだろうと考えていたカズマとしては気味が悪い。仮に聖水が出るようになったことがアクシズ教団にとっていい結果だったとしても、あえて触れないのは何かしら理由があるはず。何か裏があるのではないか? 褒賞金は餌で罠が待っているのではないか? 考えれば考えるほど、ど壺にはまっている気さえしてくる。

 疑心暗鬼なリーダーの反応に、この状況でもたった一人能天気なアクアはこれ見よがしにやれやれと首を振った。

 

「何よカズマ。そんなに貰うのが嫌なら私が一人で全額受け取ってもいいのよ?」

 

「なんでそういう結論になるんだよ」

 

 いつもの癖で放蕩女神の頭を小突いてやろうかと拳を固める。少なくとも幸運とは縁遠い仲間が浮かれているのだ、何か良くないことが待っているはず。しかし、そんな彼の偏見で凝り固まった疑いの目も、現物をいざ目の前にしてしまえば簡単に霞んでしまった。

 ギルドのカウンターから現れた、山のように積まれた札束。総額五億ともなれば驚くことすら忘れるほどの迫力だった。これまで大人しかったウィズも、普段お目にかかることのない宝の山を前にして「まあ」と感嘆の声をあげる。その札束の向こう側から覗くルナは、ようやく五億エリスという浮世離れした金額を理解したカズマにとびっきりの笑顔を向けた。

 

「みなさんおめでとうございます! 魔王軍幹部・ハンス討伐の褒賞金、五億エリスです!」

 

 ソウゴに背中を押され、一歩前に踏み出すカズマ。紙のはずなのに黄金と見間違うほど輝いて見えるその山から、そっと一束拾い上げる。

 感じるのはただの紙束の重量ではない、しっかりとした百万エリスの重み。感謝状とは違う手触りの影響か、拒絶していた全ての感覚が鮮やかに戻ってくる。報われたという実感が、抑圧していた諸々の感情を一気に思い出させ、溢れ出す感慨に気付けばカズマの頬には一粒の雫が伝っていた。様々な感情が混じり合う言葉にならない情動を抱え、後ろを振り返る。

 そこには、苦楽を共にした仲間たちの笑顔があった。そこで初めて、カズマは素直な自分の気持ちが見えてくる。湧き上がる喜びは、もう誰にも止められなかった。

 

「やった……、やったんだ…………! 俺たちの頑張りが、ようやく認められたんだ……!!」

 

「カズマ! 私の頬をつねってくれないか?」

 

「こんなときにまで性癖出してくるなよダクネス! 夢が覚めるだろ!」

 

「夢ではありませんよカズマ! これは現実です!」

 

「いいの!? ねぇめぐみん、私パーティーメンバーみたいな扱いしてもらってるんだけど! 本当にいいのかしら!?」

 

「ま、この女神アクア様のパーティーなんだから当然よね! ほーら、祝いの〈花鳥風月〉~♪」

 

「ようやくちゃんとしたご飯が食べられそうです……!」

 

「目の前にすると圧巻だね」

 

「もっと喜べよソウゴ! やっと報われたんだぞ俺たち! お前にはいっぱい苦労かけたよな! これからは楽させてやるからな!」

 

「さぁ、今日は新たな門出を祝してパーッと飲むわよー! いいわよね、カズマ!?」

 

「ったく、しょーがねーなー! よーし飲め飲め! 全員飲めー! 今日は俺たちの奢りだー!」

 

 思い思いの感想を吐き出しながら、ようやく盛り上がり始めた主役たち。カズマの一言でギルドの熱もまた上がっていく。割れんばかりの歓声に飲まれていく彼らの姿にほっと胸を撫で下ろしたセナは、キリッとした仕事スイッチに切り替えるとほとんど話を聞いてないであろうカズマたちに向けて声を張った。

 

「皆さんの功績は史上類を見ない快挙です。短期間での快進撃は王都でも噂になっているそうで、アイリs「堅いことはもういいから、あんたも飲みなさいよ! すみませーん! こっちにシュワシュワ三つー!」

 

「あ、ちょ、困ります! 私はまだ帰ったら仕事が……!」

 

「楽しい日に何言ってんのよ! ほら仕事なんて忘れて、後ろのあんたたちも飲みなさいな! 奢りなのよ? 飲まなきゃ損損♪」

 

「頼んじまったもんは飲まなきゃなー! セナさんの、ちょっといいとこ見てみたいー!」

 

「ええ!? あの、本当に私帰ったら取り寄せた書類の整理とかあって……!」

 

 アクアとカズマに挟まれてテーブル席へと座らされたセナは、両サイドからジョッキをぐいぐいと押し付けられる。一応の抵抗を見せてはいるものの、他の冒険者に囲まれ既に一気飲みを始めた騎士たち同様、それも無駄になってしまうだろう。ギルドの職員すら昼間から酒をかっ食らう、駆け出し冒険者が大出世したお祭り騒ぎ。なんとか自分だけでも抜け出さなくてはとキョロキョロと目を泳がせているが、周りは囃し立てる冒険者ばかりで逃げ道はない。しかしそこに、手を差し伸べてくれる救世主が現れた。

 

「ほら皆、無理矢理はダメだよ」

 

「そ、ソウゴさん……!」

 

 まるで猫を取り扱うように襟首を掴んで二人を持ち上げるソウゴ。その腕のどこにそんな筋力が? という疑問もほどほどに、二人をひょいと引き離しジョッキを取り上げた。ソウゴがお説教をするために眉間に皺を寄せ口をムッと結ぶと、とばっちりを受けたくない周りの冒険者たちは蜘蛛の子を散らしたようにはけていく。

 当のカズマやアクアはというと、それこそ慣れたもので、イタズラのバレた子どものような反省もほどほどという顔をしていた。

 

「アクアは毎回巻き込んだ人を飲ませ過ぎるんだから気をつけてね」

 

「は~い」

 

「カズマもお酒の無理強いはダメだよ。特に、セナはお酒弱いんだから」

 

「まあ、ソウゴは逆にザル過ぎて全然酔わなちょっと待て。なんでお前セナがお酒弱いって知ってるんだ?」

 

 浮かれてへらへらしていたカズマが急に神妙な面持ちになる。今までで見たことがないくらい真剣な顔にいったいどうしたのかと疑問符を浮かべたソウゴは、目を泳がせるセナに気付かず首を傾げると何の気なしに答えを口にした。

 

「え? だってドリスの時、やたらお酒勧めてくるのに自分はちょっと飲んだらやたら絡んでくる上にすぐに寝ちゃってたからさ。女の人が外でそれじゃ危ないでしょ?」

 

「ふーん。へー。ほー」

 

 カズマからじとっとした目で見られ、セナはだらだらと冷や汗を流し始める。追求の眼差しから逃れるように視線を反らすと、今度はその先にいたアクアの笑いを堪えるニタニタとした目と合ってしまう。たじろいでしまったセナの反応からその〈くもりなきまなこ〉を以てして真意を見抜いたアクアは、そっとカズマの肩に手を置いて口許を押さえ、へらっと笑いぼそっと呟いた。

 

「……むっつり」

 

「ち、違いますから! やましいことは決して……!」

 

「セナだって知ってるだろ。そういう言い訳するやつには大抵心当たりがあるもんだぞ」

 

「それにしてもやーねー。ソウゴを酔わせて何しようとしてたのかしら」

 

「言ってやるなよアクア。相手は十代とは思えないくらい三大欲求の一つが決定的に欠けてるソウゴだ。むしろよく頑張ったと思うよ俺は」

 

「確かに、あの民が最優先の特殊な変態だものね。カズマくらいお手頃だったらそんなに苦労しないでしょうに」

 

「あれ? なんか俺、今貶されてる?」

 

「馬鹿お前。貶されてるのもケンカ売られてるのも俺だよ」

 

 不本意そうなソウゴなどお構いなく、わざわざ茶化すような言葉を選ぶ二人。そんなカズマとアクアのにやけ面に顔を赤らめ、羞恥からぷるぷる震えて涙を溜めたセナは、カズマたちの言葉を誤魔化すためかソウゴからジョッキを引ったくる。驚くソウゴを放って男前に酒を煽ったセナは、空になったジョッキをダンッと机に叩きつけ口元を拭うと、据わった目でネクタイを緩めながら二人を睨みつけた。

 

「わかりました。仕事なんてもういいです。ならとことん付き合って貰おうじゃありませんか! 今更なんですか! こっちはもうそれ以上に恥ずかしいところを知られてるんです!!」

 

「これ以上の恥ずかしいところってなんですか?」

 

「……見れば解る。あなた、酒飲みね? その飲みっぷり、練り上げられている。気に入ったわ! すみませーん! こっちにシュワシュワじゃんじゃん持ってきてー!」

 

「そんなことより恥ずかしいところについて詳しく!」

 

 

   ⏱⏲「朝まで飲むわよーっ!」『カンパーーイッ!』⏲⏱

 

 

 宴もたけなわ、という言葉を先輩女神から聞いたことがある。大抵使われる場面は会をお開きにする時で、宴会が盛り上がってるという意味らしい。盛り上がってるところ悪いけど解散しましょう、というお開きの話を切り出す日本のポピュラーな方便だそうだ。

 下界に降り冒険者として宴というものに混ざるようになってから、いつ使うのかと興味はあったものの、荒くれ者たちの宴会は最初から最後までクライマックス。そのうえ馬小屋暮らしが基本の冒険者たちには家に帰るという概念が薄く、ギルドで夜通し飲み倒してそのまま寝落ちする人間も多いため、自分には縁遠い言葉だと思っていた。

 

(書類仕事が多くて遅くなりましたが、カズマさんたちの宴会はまだやっているでしょうか……)

 

 そんな心配をするのも、日がもう落ちて街が暗闇に包まれてしまっているが故。始まったのが昼頃だったことを思えば、いくら酒好きの先輩がいるとは言えそれこそ宴もたけなわ、なんて言葉が出ていてもおかしくは無いだろう。仕事の合間に下界を覗いてから心惹かれていた分、お開きになっていた場合は少し凹んでしまうかもしれない。

 日々を苦労に感じているわけではないが、いつぞやの先輩女神が言っていた通り真面目な女神業務の後のシュワシュワは格別に美味しく感じるもの。特にそれが人様の奢りであれば尚更に。ご相伴に与れれば幸運くらいの気持ちで煌々とした明かりが漏れるギルドを裏手から覗くと、そこには行儀悪くテーブルの上で扇子から水を撒き散らす先輩と、その水を被りながら楽しそうにジョッキを空にする冒険者たちの姿があった。

 

「よかった、間に合ったみたいですね♪」

 

 自分でも声が高くなったのがわかる。世界が大変だというこのご時世に

女神である自分が浮かれるのはどうかと思わなくもないが、それはそれ。神が楽しめない世界など、きっと人も楽しめない。そんな風に一人言い訳をして窓越しに中をよく確認する。

 ざっと見えるだけで、最早恒例となった負けた方が一気飲みをするルールの腕相撲に素面で連勝を重ねる親友、テーブルの上にカードを叩きつけ合って仲良く遊んでいる紅魔族の二人、カウンターでスーツが少しはだけた公務員と目の据わった受付嬢に絡まれ困った表情の魔王がいる。いつも通りとそうでない者達が共存する、混沌とした様相のギルド。気持ちが落ち着く実家のような安心感が、その空間にはあった。

 

「さて、あたしも混ぜてもらおうかな~♪」

 

 口調をエリスからクリスへと切り替えて入口へと回る。第一声はどうしようかと悩みながら通りへ出るとそこには、入口の扉に背を預け何やら本を読む不審な人物が佇んでいた。音も漏れていない外で、誰かを待っているかのような落ち着きよう。もう春も終わりだと言うのに白いコートを羽織り、日差しもないのにベレー帽を被る出で立ちは明らかにこの世界から浮いていた。

 無意識に腰のダガーに手を添えていたクリスに気がついたその男は、パタンと本を閉じると首に巻きついたチョーカーを撫でながらにこりと微笑んだ。

 

「こんばんは、冒険者君。これから中に用事かい?」

 

「……そうだけど、キミは?」

 

「そう警戒しないでくれ。私はただの使いっ走りさ」

 

「そうは見えないけど、一応聞くよ。誰の?」

 

「さあ、誰のだろうね」

 

 質問に質問で返す胡散臭い口調の不審者は、笑みを浮かべたまま懐から一通の手紙を取り出した。クリスはすかさず〈トラップサーチ〉を使用し、それが何の変哲もない蝋で閉じられただけの封筒だと言うことを確認する。

 一連の工程を終えるまで待っていた不審者は、それをクリスへと差し出すと、その上に自分が先程まで読んでいた本を重ねた。黒のハードカバーに赤と金の装飾が施されたセンスを疑う造りの表紙。そのタイトルに目を落としたクリスは、差し出された一式を自然と受け取ってしまい、つい見慣れない本の名前を読み上げた。

 

「『紅魔黎明記』……? 何これ?」

 

「それは君にあげるよ。紅魔族に伝わる彼らの成り立ちが記された書物さ。一緒に渡されたんだが、異世界のお話というのも中々面白いね。こういうのに、君くらいの歳の男の子は心惹かれるんだろう?」

 

「……あたし、女なんだけど」

 

「おっとそれは失礼した。女神のように麗しいお嬢さん。すまないがその手紙を族長の娘に渡しておいてくれるかな? 頼まれ物なんだが、私がこの中に入ると君の友人たちに冷水を浴びせてしまいそうでね。流石に楽しそうな空気を壊すのは忍びない」

 

 仰々しく頭を下げた不審者は、目的を達したのか手をひらひらと振ってクリスの脇を抜けていく。最後までクリスのダガーを、まるで抜かないことが分かっているかのように気にも止めなかった不審者は、少し進むと何かを思い出したかのように歩みを止めて振り返った。

 

「そうそう、一つ言い忘れていた。〈窃盗〉には気をつけた方がいい」

 

「……?」

 

「それじゃあね」

 

 コツコツと靴底を鳴らしながら闇へと消えていく不審者。手元に残された未開封の手紙と本を抱えたクリスは、もう見えなくなってしまった男の背中見つめながら肩の力を抜いた。

 

(掴みどころのない、気味の悪い方……。ソウゴさんのお知り合いと考えるべきでしょうか? 私のことを知っている口ぶり。でも私が〈門〉を通した記憶はない。それに、ゲートを勝手に開けるのはディケイドとディエンドだけのはず……)

 

 不審者ではなく、危険人物として認識を改めたクリス。手紙をそのまま渡していいかどうか悩みながらも、彼女は一先ず中に入ることとした。敵か味方かの判断はソウゴに確認を取ってからにすればいい。そんな風に考えを纏め彼の消えた先を見つめながらガチャリと扉を開けると、騒がしい日常が静かな通りを飲み込み、明るく照らす。

 

スッティール! スッティール!

 

「よ~~~しっ! 〈窃盗(スティール)〉!!」

 

「へ?」

 

 今日この時ほど、余所見をしていたことを恨めしく思うことはないだろう。

 開けた途端耳に届いた言葉に、クリスは間抜けな声を出してそちらを見た。瞬間、視界に映ったのはハンカチをヒラヒラさせる冒険者と、その先でスキルを発動させ右手を輝かせるカズマ。そしてその光が収まったときに残ったのは、やけにスースーする自分の下腹部と、カズマに握られた見覚えのある布切れだった。

 その時、先程の不審者の言葉がフラッシュバックする。

 

 

 

『「〈窃盗〉には気をつけた方がいい」』

 

 

 

『ひゃっはーーーーー!!!!!』

 

 勝鬨をあげ戦利品を振り回し掲げる冒険者たちに対して、クリスは規定を曲げてでも必ず天罰を下してやろうと誓った。

 

 

   ⏱⏲「いぃぃやぁぁぁああ!! パンツ返してーーーっ!!」⏲⏱

 

 

「ずみ゙ま゙ぜん゙。反゙省゙じでま゙ず」

 

「お前と言うやつは、どうしてすぐにクリスのパンツを剥ぎ取るんだ!? 公衆の面前で辱めるなら、なぜ私を標的にしてくれない!?」

 

「ダクネス。たぶん、怒るところはそこじゃないわよ」

 

「俺だってパンツが欲しくて〈窃盗〉してるわけじゃないんだ。欲しくないわけじゃないが。ランダムだし仕方ないだろ」

 

「あんたも、ダクネスとクリスにボコボコにされてよく開き直れるわね」

 

「うるせぇよ。ていうか早く〈ヒール〉かけてくれ。ヒリヒリして痛いんだが」

 

「嫌よ。なんで私が性犯罪者の手当しなきゃいけないのよ。そんなのツバでも付けときゃ治るわ」

 

 正座でダクネスからみっちりとお仕置されたカズマは、まるで反省の色もなく平然としていた。そんな彼を二人に任せ、クリスから事のあらましを聞いていたソウゴは興味も薄げに受け取った本をぺらぺらと捲っていた。

 

「ふーん。これを白ウォズが?」

 

「うん。今ソウゴくんから聴いた特徴通りだし間違いないと思うよ。その人が族長の娘に渡してってさっき」

 

「この封蝋印、お父さんからです。アクセルに来てから手紙のやり取りはしてたんですけど、最近は届き辛いことがあるみたいで……」

 

「ということは、間違いなくゆんゆん宛ですね。ほら、ちゃっちゃと開封してください」

 

「ええ!? 凄く怪しそうなんだけど!?」

 

「どの道開けなければ話が進みません。早くしてください 」

 

 めぐみんに急かされ、乗り気では無さそうなものの封を開けるゆんゆん。その中から出てきたのはたった一枚の便箋だった。それに目を通したゆんゆんは、はっと目を見開くとわなわなと震え、次にはぎゅっと手紙を握りしめた。

 

「お、お父さんが……! どうしようめぐみん! 里が! 私、私……っ!」

 

「……? 貸してください」

 

 次第に青ざめていくゆんゆんの顔に、めぐみんは彼女からパッと文を取り上げる。不穏そうな流れにカズマたちも気がついたのか、お説教を切り上げてめぐみんを取り囲んだ。文字を目で追うめぐみんは、全員が聞こえるように声を出してそれを読み上げた。

 

 

 

 

 

最愛の娘、ゆんゆん。

この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう。我々のことを恐れた魔王軍がとうとう本格的な侵攻に乗り出したようだ。既に里の近くに巨大な軍事基地が建設されている。そこから現れる見たことの無いモンスターの影響で、手紙すら簡単には送れない。

それだけではない。どうやら在留している魔法に抵抗のある幹部がそのモンスターを生み出しているようだ。さしずめ魔王軍の新たな生物兵器と言ったところか。

ふふ……。魔王め、切り札を出してくるとはよほど我々のことが恐ろしいとみえる。

とはいえ、軍事基地の破壊もままならない現在、我々にとれる手段は限られている。

 

そう、紅魔族の族長として。

この身を捨ててでも魔王軍の幹部と刺し違えること。

 

愛する娘よ。お前さえいれば紅魔の血が絶えることは無い。

紅魔族族長の座は任せた。この世で最後の紅魔族として、決してその血を絶やさぬように。

 

 

 

 

 

「こ、これは……ッ!」

 

「見たことの無いモンスター……。アマゾン、だったか? アレに関するウォッチとやらはまだあるのか? もしくは他に何か」

 

「あるよ、二つ。間違いなくアマゾンズのどちらかのウォッチの力だね」

 

「紅魔族がここまで追い詰められているなんて……。かなり厄介そうだね。あたしも手を貸すよ」

 

「ふーん。で、どうするのよカズマ」

 

 話を振られ、頭をわしわしと搔くカズマ。

 正直、カズマの心境としては関わりたくない、その一言に尽きる。褒奨金だけでなく、バニルとの取引で得られる三億エリスまであるのだ。わざわざ危険なことに首を突っ込んで命を危険に晒すなんて論外も論外。そんな選択肢は選択肢として並ぶ前に予選落ちである。

 聞かなかったことにして会計を済ませ、先に帰ってしまったウィズと同額をゆんゆんに渡し、アクアの作った借金を完済させ残りを五等分。そこから一人新商品造りに勤しみ、仲間たちとたまに簡単なクエストに赴く程度の怠惰な毎日を過ごす。今のカズマの心のほとんどは、そんな理想の日々を望む気持ちがウエイトを占めている。

 

「カズマ……」

 

 めぐみんが弱々しげにカズマを見る。わかっている。ここで絆されては、きっとまたハンスと同じかそれ以上に手強い敵と戦わされるということを。だがあのウォッチの力を使った魔王軍幹部の規格外の強さは身に染みている。その魔の手が家族や故郷に迫っているとわかっていれば、気持ちは落ち着かないだろう。

 自分たちのリーダーがどんな決定を下すのかわかっている仲間たちは、酔いなんて冷めたような面でカズマに視線を集めていた。

 腰に剣を差し直すダクネス。勝気な笑みを浮かべるクリス。いつも通りへらへらと笑うソウゴ。面倒くさそうに欠伸をするアクア。今にも泣き出しそうなゆんゆん。全員の顔を順番に見たカズマは、わざとらしく大きなため息をついた。

 

「ったく、しょうがねぇなぁ……。まあ、ゆんゆんにはアルカンレティアで世話になったしな」

 

「カズマ……!」

 

「んじゃ、ちょっくら行くか。紅魔の里へ!」




 魔王の攻勢により追い詰められた人類は、欲深き王の一言によりついに禁忌へと手を伸ばすこととなる。

 新たなる生命の創造。

 魔王を討つため、一人の平和を願う天才によって生み出された彼らを、人は天の使いだと信じて疑わなかった。
 しかし、彼らは悪魔の子だった。膨大な魔力と血の色の眼を持つ彼らは、その眼に写るもの全てを破壊する獣。名も無き忌み子たちは本能のままに世界を蹂躙し、やがて魔王をも凌駕する恐怖を人々に与えた。

 だが、創造主である天才は彼らに眠る光を諦めていなかった。破壊衝動を抑える力を持つ刻印を開発した天才は、それを彼らに刻むことで遂に知性ある人間へと生まれ変わらせることに成功する。自らの、命と引き換えに……。

「紅き瞳を持つ黒き魔導の王が、闇に支配された世界に夜明けを連れてくる」

 散り際に天才が残した言葉を胸に、かつて獣だった者達は平和を願う彼の思いを継ぐ。そして、自分たちが彼の思い描いた平和な夜明けに輝く星にならんと誓い、こう名乗ることにした。

 紅き瞳を持つ黒き魔導の王に連なる一族――“紅魔族”と。


紅魔黎明記 第一章 瞬くは紅魔の明星
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