「働きたくはないが、そろそろ働かないとやばい」
カズマの神妙な呟きは、酒場の喧騒の中でも十分に響いた。
釈放された次の日に王国から名ばかりの見舞い金が送られてきて三日が経った。『魔王軍と戦う勇者候補に対しての無礼を心から謝罪する』という内容の長々しい建前がセナからの口頭で伝えられたが、セナがソウゴに付けたブレスレットを回収しなかったところを見るに実際はソウゴの危険性を鑑みて一応の謝罪をしておいた方が無難だろうという判断なのだろう。
しかし下手に出てきた相手には容赦なくマウントを取り絞れるだけ絞るカズマにしては珍しく、そのことをやり玉に挙げてとやかく言うつもりはない。というのも
「やっぱりあのとき、もっとセナに吹っかけとくべきだったかぁ」
「面倒だし目をつけられるのも嫌だからこれで手打ちにしようって言ったのはカズマじゃない」
「仕方ないだろー。まさか冬がこんなにクエストのない季節だったなんて思わなかったんだよ」
「俺が街の外に出られたら、報酬減らされても数をこなしてそれなりに稼げたかもしれないけどね」
「まあまあ。本来、何の準備もなく冬を過ごそうというのが間違いなのだ。ここは諦めて高難易度クエストに行くしかあるまい」
「難易度が比較的低い群れの討伐より、高く設定された大型モンスター相手の方が我が爆裂魔法による勝利が狙えますよ」
「それ、リスクがデカ過ぎないか?」
「わ、私は構わないぞ! ベルディアに浴びせられた絶命の一太刀、悪くなかった……!」
「死にたてほやほやなら私が〈リザレクション〉で生き返らせてあげられるけど」
「全滅したら時間を巻き戻すよ」
「なんで誰か死ぬこと前提で話進めてるんだよ! 怖いよお前ら! それにそんなリスクの高い作戦却下に決まってるだろ。『いのちだいじに』って知らないのかよ」
「その代わりリターンも大きいですよ」
「全滅の可能性をちょっとハイリスクくらいの感覚で口にすんな。どんな倫理観だ。寒すぎて頭まで凍ってるのか」
「しかし、それでも挑む価値はあるのでは? 私も少し前から馬小屋生活ですし、拠点確保のためにも大金は必要でしょう」
「そうなんだよなー。目先の生活費も大事だが、その先も色々と物入りなんだよなー」
悪態の刹那、カズマは思案を巡らせる。生活費を稼ぐなら街から出ることができなくなった事実上の戦力外通告のソウゴとともに全員でアルバイト生活が一番の安牌だが、そう悠長なことも言っていられない。押し寄せる寒波は貧乏冒険者たちに牙を向き、今朝などまつ毛が凍るほどの寒さが馬小屋に到来していた。洗濯物も乾くどころか霜が降りていて、その納涼っぷりが体感温度を引き下げるのに活躍していたぐらいだ。
「ダクネスの話じゃ、これから更に吹雪いたりするんだよな?」
「ああ。あと一、二週間もすれば雪が降り始めるだろう。去年は吹雪のときウチ……の馬小屋暮らしの冒険者たちは教会や貴族なんかが用意した家屋に避難して難を逃れていたぞ」
「緊急事態のときだけ避難できる場所があっても、毎日が非常事態みたいなもんだからな。あてにはできないか」
「屋根があるだけマシだけど、藁だけじゃもう暖も取れないもんね」
「ダクネスは去年、どうやって冬を過ごしたのですか? 確かクリスと二人パーティーでしたよね。やはり宿ですか?」
「いいや。クリスは教会に、私は実家が近いのでな」
「よし。じゃあ金もないしダクネスの実家にお世話になるか」
「は!? む、無理だ無理だ! それだけは絶対に無理なんだ!」
冗談混じりにダメ元で提案してみたが、予想を大きく上回る慌てぶりで拒否されてしまった。流石にそこまで拒絶されると心に来るものがあったのか、少し泣きそうなカズマにアクアたちが助け船を出す。
「そりゃ、モンスターに襲われて紅潮してるダクネスをいやらしい目で見てるカズマさんに実家の敷居を跨がせるのは嫌だろうけどさ」
「そうです。鎧を脱いだときのダクネスの無防備な姿を食い入るように見つめるカズマに生理的な抵抗があるのはわかりますが……」
「お前ら、援護射撃と見せかけて仲間の背中を蜂の巣にするのやめない?」
「いや、私としては手を出す度胸もないくせに頭の中で私を辱めることにご執心なカズマの目には何の問題もないのだが……」
「今までのこと謝るし改めるからこの話題終わりにしてくれませんか……?」
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
女性陣からの集中砲火に耐えきれず半ベソをかいたカズマの頭をアクアが子どもをあやすように優しく撫でている横で、やはり難色を示し続けるダクネスは今まで見たことのないような複雑な表情をしていた。ベルディアとの戦いの時、仲間だと言ってくれた彼女が意味もなく拒絶するわけもないとソウゴは考えをまとめる。
「理由を言いたくないならいいんじゃないかな? カズマが理由ってわけじゃないんでしょ」
「ああ、勿論だ。その……、皆にもいつか必ず話す。それに安心してくれ。今年は私も皆と同じく馬小屋に泊まろう。何なら今日から!」
「それ何の解決にもなってないような……」
「まあ何にせよ、クエストを受けなければその馬小屋生活すら危ういのです。カズマも自業自得なんですから、いつまでもアクアに甘えていないで仕事を探しに行きますよ」
めぐみんの号令で各々がぞろぞろと席を立ちクエストボードに向かう。クエストには参加できないものの、今後の方針の打ち合せのためにもと後を追いかけるソウゴに、少し傷が癒えたカズマを連れたアクアが声をかける。
「ついでにソウゴのバイトも探さなきゃね。日本の高校生ならヒキニートだったカズマと違ってバイト経験くらいあるわよね?」
「え? 働いたことなんてないよ。王様目指してたし」
「じゃあ大学に向けて勉強してたのか? 知力も中々だったもんな」
「進学するつもりもなかったよ。王様になる予定だったから」
「……どうしよう。こいつ、仮面ライダーにならなかったらとんでもない自宅警備の王になってたんじゃないか?」
「そんな……。正義の味方がカズマさんを超えるキングニートだったなんて……!」
二人が衝撃を受けている傍らでへらへらと笑うソウゴは、どうしてかギルドに入ってくる足跡が耳について振り返った。
そこに立っていたのは銀髪の少女。顔の傷跡は名誉の勲章なのか、彼女はキョロキョロと愛嬌のある素振りでギルド内を見回していた。年の頃はめぐみんと同じだろうか。何故気になったのかもわからず眺めていると、同じく気づいたカズマが親しげに彼女の名を呼んだ。
「お、クリスじゃないか。どうかしたのか?」
「あ、いたいた! ちょっと皆に手伝って欲しいことがあるんだけど……って、もしかしてお取り込み中?」
駆け寄って来た彼女に、ソウゴはどこか見覚えがあるような気がしてついじっと見てしまう。この季節に露出の多い軽装備。しかしカズマのような新人冒険者と違い自身に最適化された装いなのだろう、身軽さを重視しつつ無駄がない。そしてこの横顔、この声、この髪色……そこまで考えてソウゴは気がついた。
俺はこの人を知っている。
そう直感が答えを囁いたとき、彼女は初めて会うような顔でソウゴに微笑んだ。
「ソウゴはまだ会ったことがなかったっけ。こいつはクリス。ダクネスの友達で、俺のスキルの師匠だ」
紹介された彼女は、愛らしい笑みを浮かべてソウゴに握手を申し入れた。
「はじめまして、クリスだよ。職業は盗賊。よろしくね、ソウゴ……くん?」
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「教会の炊き出しにバザーの準備か。もうそんな時期だったんだな。冬の準備に気を取られすぎていた」
「私もアクセルに来た頃はお世話になったのでお安い御用ですよ」
「後輩の信者が中心とはいえ、女神が民衆に手を差し伸べない道理はないわ」
「そうだな。クリスには色々と世話になってるし、クエストは明日にするか」
「いいよいいよ、気にしないで。仕事も大事だし。こっちはまた次の機会でいいからさ」
「だが、わざわざエリス教徒でもないカズマたちの手も借りたいということは、よほどの人手不足なのだろう? すまないがみんな、私だけでも……」
「いいってダクネス。それに、唯一の前衛が抜けたらみんな困るでしょ?」
「いやしかし……」
「じゃあ俺が行こうか?」
堂々巡りの話し合いを傍観していたソウゴが手を挙げる。クエストに参加できないソウゴは四人が出発したあとは手持無沙汰になるだけなので、牢屋から出してもらえた恩を返すことにもなり本人としても丁度よい。ダクネスが申し訳無さそうに、残りのメンバーは納得の顔をしていると、クリスは慌ててその提案を一蹴した。
「うぇ!? だ、駄目だよ! 君が一番駄目だよ!」
「え? どうして?」
「そ、それは……。ほら! デュラハンを一方的に倒した君が抜けたら戦力ガタ落ちじゃないか! 冬のクエストでそれは命取りだよ!」
クリスの同意を求める表情に、女性陣は気まずそうに目を逸らす。特に事実を突き付けられて遠い目をするカズマなんて目も当てられない。自分の言葉に予想とは違う反応が返ってきたクリスは、目を丸くしながらダクネスの話に耳を傾けた。
「ソウゴはクエストに行けないんだ。冒険者登録ができなかったから、参加すれば報酬は国の取り決めでソウゴ分減額される。それに、街の外に出たら手首がもぎ取れる腕輪も付いてるしな」
「そうそう。だから気にしないで。俺もエリス様にお礼したいし」
「な!? まさかソウゴ、この私のパーティーにいながらエリス教に入信するつもり!?」
「今そんな話してないだろ。話が進まないから黙ってろ駄女神」
ソウゴが見せるブレスレットを凝視して、クリスは顔を真っ青にして固まってしまう。わなわなと手を震わせ、釣り上がってしまった頬の筋肉は元に戻るのに時間がかかりそうだ。危険なマジックアイテムに怖れを抱いたのか、この世の終わりのようなその表情からポツリと言葉が漏れ出た。
「じゃ、じゃあ……お願いしよっかな〜……」
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「その、ごめんね? エリス教徒でもないのにこんなこと頼んで……」
手頃そうなクエストを見つけたらしく雪山に向かったカズマたちと別れ、炊き出しに必要な食材を買い込んだ二人は一路協会を目指していた。荷物はクリスが一手に引き受けようとしたが、自分よりも小さな女の子を荷物持ちにするわけにもいかずほとんどをソウゴが抱えている。この世界の野菜は動き回るらしく、新鮮ゆえかたまに袋の中でもぞもぞと動いているのが妙にソウゴの違和感を刺激していた。
「気にしなくていいよ。俺も聞きたいことあったから二人になれてちょうど良かったなって」
「聞きたいこと?」
「うん。前言ってた『とうぞ』って何? あれから色んな人に聞いたんだけど、地名でも人名でもなさそうだから行き詰まってて」
「ああ、やっぱり聞き取れてなかったんだ。あれは『盗賊に会えばわかるかも』と言ったんです」
「あ、盗賊! じゃあクリスを探して話を聞けばよかったのか」
「はい。こちらで接触できればなにかと助言やサポートを…………」
そこまで言って、クリスの歩みが止まった。どうしたのかと振り返ると、呆然と立ち尽くすクリスは恐る恐る言葉を発する。
「……気づいていらしたんですか。私の正体」
「うん。途中からだけど。そういえばエリス教って国教なんだってね。凄いんだねエリス様って。お告げで俺を釈放できるわけだ」
ソウゴはなんでもないように荷物を抱え直し歩き始める。その後ろに小走りで着いてきた彼女は、ソウゴの真意を問うように様子を伺っていた。嘘だったと教えられても流石に世界を作り直せる力を持つ存在に恐怖を抱いているのか、それとも元から謙虚なのか。ソウゴの知る酒飲みの女神とは違ってずいぶんと低姿勢な女神様は、しっかりと言葉を選んでいるようだった。
「怒っていますか?」
「どうして? 俺、怒るようなことされた?」
「確かに外へは出られましたが、ライドウォッチの回収という目的からは遠退きました。そのお役目も本来は私のものなのに肩代わりさせ、その上拘束具で不自由を強いています」
「元は俺の不始末だし、これに関しても不自由な感じはしないけど。それに結構楽しいよ、この生活」
そんなソウゴの言葉に異を唱えるクリスは、彼の前に立ちはだかりその歩みを止める。彼女の真っ直ぐな瞳には同情や憐憫はなく、ただあったのは後悔の色だけだった。
「しかし他の転生者の方と違い貴方は見合う対価も、恩恵も、何も受け取られていません。本当であれば客人としてもてなすべき時の魔王にこのような扱いを……」
「真面目だなぁ。エリス様って本当にアクアの後輩なの?」
しゅんと縮こまるクリスを見てクスクスと笑いを漏らすソウゴは、優しい目で街を見渡す。駆け回る子どもたち、談笑する大人、すれ違う冒険者。誰も彼もが平和を享受し、その中で笑い助け合い生きている。ここ数日でソウゴが感じたことは、そういうのどかな時間だった。
「それに俺、恩恵なら貰ってるよ」
「へ?」
その返しに、間の抜けた声を出したクリスは心当たりを探る。オーマジオウの降臨に関わった天界の者はおらず、送り届けられたあと士が事後報告をしに来たことだけが記録に残っていたはずだ。持ち出された神器も、付与された才能も、増産された財宝も、なにもないことを何度も確認した。言葉の意味を測り兼ねていると、ソウゴはとても生き生きとした目でこう言った。
「“仲間”。この世界でできた、俺のことを仲間だって言ってくれる皆。だからもし俺にまだ悪いなと思ってるならさ、
ね? そう笑いかける彼に、クリスは戸惑った。吹っ切れたような意志の力。無欲とはどこか違う。それどころか、今まで見届けたどの人間よりも欲深い彼の言葉に自分が思い違いをしていたことを思い知らされる。彼は誰に対しても、自分に対しても、嘘をつかないのだと。
「……それでいいんだね?
「よろしくね、クリス」
歩幅を合わせ、二人は歩き始める。収まりのいい距離感を落とし所にできたクリスは少しだけ、この優しい魔王のことを理解できた気がした。
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「ソウゴさん、すみませんが配給の方に回っていただけますか?」
「その次はこの荷物を向こうに。テーブルはバザーに出品しますので裏手へ」
「男性の手を借りたいのですが、ソウゴさんよろしいですか?」
「まおーのにーちゃん遊んでー!」
「アクシズ教徒にパンを袋ごと持ち逃げされた! 誰か捕まえてくれ!」
「つ、疲れた〜〜……」
教会に到着するや否や、詳しい説明もほどほどに怒涛の勢いで東奔西走するソウゴが一息つけたのはもう日も暮れる頃だった。本当に人が足りていないようで、これならカズマたちにもお願いするべきだったかと少し後悔する。
教会の前の階段に腰を掛け、貰ったパンとスープを遅めの昼食として頬張る。途中で「ごめん! ちょっと上に戻ってくるね!」と断りを入れてから姿を消したクリスの帰りを待ちながらバザーの様子を眺めていると、見知った顔がこちらに近づいてくることに気がついた。
「あれ、セナじゃん」
「教会の手伝いとは殊勝な心がけですね。まあ、無償で聖職者の手伝いをする魔王など聞いたことがありませんが。その看板、取り下げては?」
「それはできないよ。これは俺の大切な友人たちへの誓いだから。そういえば、セナはここで何してるの?」
「貴方の監視……と言いたいところですが、今日はバザーの視察と警備です。本来は私の管轄ではありませんが、下の者が出払っていて今は人員が不足していますから。朝からいましたが気づかなかったんですか?」
「ごめんね。周り見る余裕ないくらいこき使われてたから。……って、人手不足? そっちも?」
警察も教会もイベント事だというのに計画性がなさ過ぎるのではと、ソウゴは疑問符を浮かべる。事前にわかっていたはずなのに応援を呼べないなんて、駆け出しの街とはいえ邪険に扱われていいものかと憤りを感じていると、セナは少し疲労の見える表情でため息をついた。
「仕方ありません。デストロイヤーの進路調査に向かってくれる冒険者がいないので、そちらに人員を割くのは当然ですから」
「デストロイヤー?」
「機動要塞デストロイヤーを知らないんですか? ニホンという国は随分と辺境の地にあるんですね」
驚いているセナと対象的に、チープな名前のふざけた存在に心当たりのないソウゴはスープを飲み干す。そんなソウゴを世間知らずな人間を見るように、セナは胸元から一枚の写真を取り出した。
古代兵器・機動要塞デストロイヤー。かつて栄えた大国で対魔王用の機動兵器として建造された蜘蛛型の大型要塞であり、完成と共に設計者が中に立て籠もり暴走した特急危険物。常に展開されている堅牢な魔法障壁と中には防衛用の生体ゴーレム多数、近づくモノを自動で撃ち落とすビームや、周辺を焼け野原にする全方位型熱線などを搭載。自国を滅ぼした後も止まることはなく、通ったあとはアクシズ教徒以外草も残らないと言われている。紅魔の里やあの魔王ですら放置している曰く付きの代物である。
「……とまあ、簡単に説明するとこういうものです」
「古代兵器か……。ちょっと見て来たいからこれ外してくれない?」
「オススメはしません。いわゆる天災というものですし、幾ら腕に覚えがあっても個人で撃破は不可能でしょう」
「もしかしたら、ライドウォッチの影響を受けてるかも」
「魔王軍が所持しているマジックアイテムが、遥か昔に作られたデストロイヤーに搭載されていると? 流石に考え過ぎでは?」
「そうだといいんだけど……」
そんなことを話しているうちに、教会の中から声をかけられるソウゴ。待っているのは炊き出しの片付けやバザーの撤収。その後はエリス様にお祈りを捧げるらしく一段と忙しくなるらしいことは言われていたため、立ち上がって活力を入れるため大きな伸びをする。
「じゃあ俺、呼ばれたから行くね。……そうだ。何かいいバイト紹介してくれない? 監視もできるし人手不足なら丁度いいでしょ?」
「……観察対象が我々に仕事の斡旋を頼むなんて聞いたことありませんよ」
「そうなんだ。じゃあよろしくね!」
返事も待たず要件を押し付けてさっさと教会に帰っていったソウゴを見送り、一人残されたセナは奇特な男の行動に息を漏らした。あくせく走り回る姿も子どもと戯れる姿も本心なのだろうかと思いを馳せる。明日から業務に加えて問題児の世話係までさせられるのかと頭痛の種ができたことに後悔しながらも、裏表のなさそうな彼に少し興味が湧いたセナだった。
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「おかえりー……って、カズマ大丈夫?」
「クタクタだね。何のクエスト行ってたの?」
一足先に撤収したソウゴとクリスが酒場にて四人を出迎える。アクアは嬉しそうに、ダクネスは堂々と、魔法を使ったのかめぐみんをおぶるカズマは疲労困憊の四者四様の有様だった。クリスの問いにカズマが答える。
「……雪精」
「あー、じゃあ冬将軍にやられたんだ。大丈夫だったの?」
「聞いてよ二人とも! 首チョンパされたカズマを私が生き返らせてあげたのに、目を覚ますなりチェンジとか言い出したのよこのクソニート!」
「あーあ! やっぱアクアよりエリス様の方が綺麗だし、心優しいし、女神って感じするよなー。俺が死んでも悲しんでくれたし」
「なんで後輩には様付けで私は呼び捨てなのよ! 私のことも敬って! もっと讃えてよ!」
「お前、日頃の自分の行いを考えろよパチモン女神が!」
「パチモンじゃないもん! 本物だもん! どうしてパッド入りのエリスが本物扱いなのよ!」
一気に騒がしくなる酒場に、ソウゴは笑いを堪えきれずにいた。隣を見ると照れて恥ずかしそうに頬を赤らめているクリスがいて、それが余計に面白く感じる。ギャイギャイと掴み合いの喧嘩を始めた二人を置いてめぐみんを席に座らせたダクネスは、仲裁もせず二人に言葉を投げた。
「そっちはどうだった?」
「うん。ソウゴくんもしっかり働いてくれて大助かりだったよ。今夜はしっかり皆にお礼するね」
「向こうでセナに会ってさ。デストロイヤーってやつの調査で人がいないって言ってたから、バイトさせてくれって頼んできたんだ。明日から少しの間は正門で守衛さんだよ」
「ほほう、ちゃっかりしてますね。仕事を得るだけでなく善人アピールをして腕輪を外してもらう作戦ですか」
「まあね。給料は日払い、交代制で一日二万エリス」
「毎日二万貰えるなら、シュワシュワ飲み放題ね!」
「人の金で酒飲もうとするんじゃねぇよ! ソウゴの稼ぎは五等分して生活費、俺達はクエストで稼いで冬を越すための家を買うんだよ!」
「まあまあ。今日はあたしの奢りだから気にせず飲んでよ」
「そ、そうですか! では私も今夜はシュワシュワを「クリスはカズマと違って太っ腹ね! よーし! すみませーん! こっちにシュワシュワ五つと牛乳一つ! あと適当にご飯もー!」
「お前は少しは遠慮しろ!」
「めぐみん、諦めろ」
「私はいつになったらシュワシュワを飲めるのでしょうか……」
賑やかな夜が更けていく。きっとどの神器を貰ってもこの光景だけは手に入れることができなかっただろう。そんなことを思いながら、クリスはソウゴの選んだ恩恵を噛み締めていた。
「はい! 花鳥風月〜」
(先輩の宴会芸で飲むお酒も、なかなか悪くないかも)
拝啓、親愛なるおじさんへ
突然のお手紙に驚かれていることと思います。今日はご報告があって連絡しました。なんとこの度、異世界でアルバイトをすることになりました。日給二万エリスという高待遇で、職場には私のことを牢屋に入れた上司がいるので職場環境は良好です。勿論、王様になる夢を諦めたわけではありません。おじさんの言葉は私の中で今も生きている教訓です。ですが、初任給でおじさんに美味しいものを食べさせたかったのでそこは後悔しています。そちらの私に食べさせてもらってください。
ソウゴより