この素晴らしい魔王に祝福を!   作:春野 曙

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太陽の王女1988
この勝ち組冒険者たちにいつもの日々を!


冒険者にとって必要なもの、ですか……。やはり心……『意志の力』ですかね

 

 そう語るのは、新進気鋭の冒険者・サトウカズマ。最弱職でありながらもデュラハン・ベルディア、悪魔・バニル、デッドリーポイズンスライム・ハンスと続き、四人目の魔王軍幹部であるグロウキメラ・シルビアを討伐したパーティーのリーダーを務める彼は、記者の前でそう話した。

 

恐怖や慢心は誰にでもあります。恐怖する自分を恥ずかしがらないこと、死の恐怖を受け入れて強敵に戦いを挑むこと、仲間を信じ背中を任せること、そして慢心せず日々努力を怠らないこと。心のたるみを律する意志の力、とでも言いましょうか。それが僕の思う、冒険者にとって必要なものですね。他にも沢山ありますよ、必要なことって。それでも力だけが全てじゃない。そう思いますね、僕は

 

 駆け出し冒険者でありながら魔王軍幹部を四人も討伐した超新星。アクセルにやって来るまでの経歴は一切不明。しかし数々の実績を打ち立て頭角を現した彼のような冒険者は、いかにして誕生したのか。我々は彼の日常に密着した。

 

 

ザ・ドキュメンタリー      

   サトウカズマ  冒険者の流儀

 

 

   

 

 

 冒頭一ページ目で雑誌を閉じた鎧姿のソウゴは、暇そうに欠伸をする年老いた店主に尋ねた。

 

「おっちゃん。これ、売れてるの?」

 

「いんや。万引きも捕まえてくれたことじゃし買ってくれるならオマケするよ、王様の兄ちゃん 」

 

「……じゃあ、一冊だけ」

 

 これは同情ではない。山積みにされた雑誌から目を逸らし胸の内でそう唱えながら、ソウゴは店主に金を払う。

 

「まいどー」

 

 そして店主はさも当然のように残りの雑誌を全てソウゴの手に積むと、空いたスペースに倍ほどの量の新しい雑誌を並べ始める。表紙は見たことの無い端正な顔立ちの青年で、青いフルプレートに身を包み真っ白な歯を見せはにかんでいた。カズマが表紙だったものに比べて強気な部数に、思わず店主に対して疑問を口にする。

 

「こっちは売れるの?」

 

「まあ、そじゃの。イケメンじゃし、ミツルギさんは男女問わず人気じゃからの」

 

 ほほほと笑う店主を見て、これがこの世の無情さかと積み上げられたおまけの重みを噛み締める。

 

 遠く轟く爆発音が店の窓を揺らす。今日もアクセルの街は、いつも通り平和だった。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 最近は人手の補充もあり、丸一日働き続けるということも無くなってしまった。午前、午後、夜勤のうち、午前か午後のどちらか。給金はセナの計らいでそのままだが、少し前まではほぼ毎日身につけていた衛兵の鎧は数日に一度程の頻度にまで下がってしまっている。失った命は帰って来ないが、ゆっくりと傷が癒えてきたこの街があるべき姿に戻っているのだと思えば王として感慨は一入であった。本日の業務を終えて着替えを済ませたソウゴは、短期間で十分にくたびれた鎧を眺めて呟く。

 

「そろそろ俺もお役御免かなー」

 

 元は収入と情報収集を目的に始めたバイトだった。冒険者の本業でもあるクエストに行けるようになり収入の心配はなくなったし、もう一つの理由の方だって想定以上の成果と言っていい。この街にもすっかりと馴染めたうえ、セナを伝として得られたこの世界の情報、そしてなによりこの世界の民の普段の暮らしというのをよく理解できた。人員の補充があるのなら、もうソウゴとしては働き続ける理由もないのだ。

 詰所への寄付と称して放置することとした大量の雑誌の内の一冊を丸め、自分が退職する前にサキュバスと協定を結んでいることを話して衛兵を内側から攻略する算段をつけながら詰所を出たところで、ソウゴはよく見知った大男に軽く手を挙げた。

 

「おつかれ隊長。おさきー」

 

「おう、お疲れさん! そうだソウゴ! これ、お前が見回りに行ってる間にセナさんが持ってきたぞ!」

 

「またお弁当? もう借金苦じゃないから大丈夫って言ったのにな」

 

「人が入るまでお前には随分と助けられたからな、その礼だろ! 無下にするんじゃないぞ!」

 

「わかってるよ。お礼考えないとなー」

 

 可愛らしい柄の風呂敷に包まれたお弁当を受け取ったソウゴは、ひらひらと手を振ってガハハと豪快に笑う衛兵の取りまとめと別れた。今日は天気もいいし外で食べるのもありかなー、とぼんやり考えながら、穏やかな昼下がりの街を歩く。子どもたちのはしゃぐ声、活気づいた商店の呼び込み、街行く人々の話し声、冒険者たちの悪巧み。色々な声に耳を傾けながら、いつも通りの日々に頬を綻ばせる。

 

「おっ! 王様の兄ちゃん! どうだ、仕事終わったなら一杯やって行かないか?」

「今日はギルドに行く用事があってね。また今度にするよ」

「オーサマくん! 今日は活きのいい野菜が入ったのよ! 持ってって!」

「いいの? みんな喜ぶよ。ありがとね、おばちゃん」

「まおーのにーちゃん! 『ふうせん』が木に引っかかったから取ってー!」

「ウィズの所で買ってくれたんだ。いいよ、ちょっと待っててね」

「王様の坊主や、悪いが屋根の修理手伝ってくれんかのう? ダストの馬鹿が踏み抜きやがって……」

「後でダストにやらせるからそのままにしといて。ついでに雑用とかさせればいいよ」

 

 いつも通りの帰り道だった。街の人と言葉を交わし、相談事を解消し、ギルドや商店の困り事を解決する。この何気ない日々に戻れたのも、偏に仲間たちのおかげ。いい恩恵を授かったと、決して口にはしないがあの愉快な仲間たちを思いながら独りごちる。

 アルターライダーという歪みを正し、アクセルの街に帰ってきてそろそろ一週間が経つ。魔法を駆使し、目を見張るような速度で更地を里へと復元していく紅魔族を目の当たりにした一行は、父親の手伝いをするゆんゆんだけを残して早々にアクセルへと帰っていた。理由は簡単、いても手伝える事がないからだ。土木作業は召喚した悪魔やゴーレムが行い、上級魔法で丘や川を再現していく。丁度リフォームしたかった、なんて言う彼らがたった一日で里をそれっぽく再現したのを見れば、帰るか、と呟いたカズマに全員が肯定の意を示すのは必然である。

 

「ただいまー」

 

 扉を肩で押して入る、野菜やらなんやらを抱えるソウゴ。さっさと荷物を降ろそうと一目散にキッチンに向かうと、廊下の途中でひょいひょいと袖を引っ張られる感覚があった。

 

「あ、ただいまアンナ。……え? あー、カズマたちまだやってるんでしょ。大丈夫。今日は秘策があるんだよね」

 

 呆れたような顔でそう返したソウゴは荷物の中から一枚の紙を抜き取ると、同じ武勇伝ばかりで退屈を持て余す同居人ににこっと無邪気に笑ってみせた。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「俺たちは働かないぞ」

 

 寝巻きのアクアと共に暖炉の前のソファを陣取るジャージ姿のカズマは、ソウゴの顔を見るなりそう言った。

 

「まだ何も言ってないじゃん」

 

「皆まで言うな、わかってる。数日俺たちが暇そうにしていれば、ギルドで持て余してる厄介な案件を持ち帰ってきて働かせようとする。お前はそういう奴だし、今のお前はそういう時の顔をしてる」

 

「いやいや、そんなわk「目を閉じるだけで思い出すわ……。初心者向けだからと騙されてアースウォームに丸呑みにされたこと、割のいい仕事だからと言いくるめられて爆弾岩の大爆発に巻き込まれたこと、他にもライドウォッチの影響かもって突然変異種や異常行動種のモンスター討伐に駆り出されたこと……」

 

「最後のはまだしも、俺たちはもう騙されないぞ。褒賞金もたんまりあって、これからバニルとの商売でどんどん儲かるのがわかってるんだ。雑誌に取材されるほどの注目度で、顔が売れれば有名人の仲間入り。道行く女子たちが振り返る、物語の主人公みたいな日々だって夢じゃない。安い命を買い叩いてまでクエストに行く必要なんてないんだからな!」

 

「そーそー。カズマの小狡いパテントで輝かしい未来は約束されてるわけだし、今更真面目に働くなんてできるわけないのよねぇ」

 

「これまで俺たちはよく頑張ったよ。駆け出しなのに身の丈に合わない格上と散々戦わされ、楽に死ぬか苦しんで死ぬかの紙一重のところを首の皮一枚でなんとか生き残ってきた。もうそろそろ安心安全な異世界生活を享受したっていいはずだ。少なくとも、一年は冒険者稼業なんて休業だからな」

 

「いいわねぇ。一年、こうしてダラダラと焚き火を眺める生活も悪くないわねぇ。カエルに食べられることも、ミミズに食べられることもない一年……。考えるだけで心の傷が癒えていくわ……」

 

「何不自由ない俺たちの勝ち組印税ライフを棒に振ってたまるか! 俺たちは命のやり取りから解き放たれ、真の自由を勝ち取ったんだ! そういう事だから、そのクエスト用紙は菓子折り付きで丁重にお返ししてきなさい」

 

 取り付く島もなくしっしっ、と追い払われたソウゴは、仕方ないと一度戦略的撤退を選択する。テーブルで頬杖をつきながら成り行きを見守っていためぐみんとダクネスは、ソウゴでさえ調略出来なかったダメニートコンビにほとほと呆れた様子でため息をついた。

 

「あの駄目人間たち、テコでも動く気がないようですね……。紅魔の里での奔走っぷりはどこへ行ったのでしょうか」

 

「どうする? このままでは本当に休業、そのうち冒険者は廃業して商売で食っていく、などと言いかねないぞ」

 

「そうだね。せっかくルナからカズマとアクアが好きそうで面白そうなクエスト譲って貰えたのになぁ」

 

 四つ折りにしていた紙を広げ、そうボヤくソウゴ。しかしそんな言葉に未だ引っかかるほどカズマやアクアも学習能力がないわけではない。聞こえないふりをして怠惰を極める二人は、ピクリとだって反応する気配がなかった。そんな電池の抜けた二人と違って少なからず興味を示すめぐみんとダクネスは、ソウゴの言う面白そうなクエストとやらの依頼書を覗き込む。

 

「ほほう、新たに発見された遺跡の調査ですか。難易度は……ってなんですかこのドクロの数は!? 冬でも無ければ駆け出しの街のクエストボードになんて張り出されることのない危険度ではありませんか!」

 

「ただの遺跡調査とは思えないな……。何がそこまで危険だというんだ?」

 

「なんでも、巨大なゴーレムが遺跡を守ってるらしくて、近づく者には容赦なく攻撃してくるんだってさ。外に散乱してる石碑を調べても年代は不明。運良く中に潜り込めた人の話によると、そこら中に機能を停止した人間みたいな形のゴーレムが放置されてるらしいよ。誰が何のために作ったのかわからない、まさに謎と未知に溢れた不思議遺跡ってわけ。冒険っぽくてワクワクしない?」

 

「確かに冒険っぽいですが……」

 

「そんなクエストでよくあの二人が釣れると思ったな……」

 

 めぐみんとダグネスは揃って顔を引き攣らせた。概要を聞いただけでもカズマたちが喜んで受けるようなちょろくて稼げるクエストでないことはわかる。一体どんな口八丁で二人を丸め込んで死地に連れ出そうとしたのか、この何を考えているのかわからないへらへら男に久しくドン引きしていると、ソウゴは含むような笑みを浮かべて少し小声でこそこそと語った。

 

「それがさ、その遺跡にいるゴーレムのほとんどがメイドみたいな格好してて、更に奥に何体か美少女っぽいゴーレムが眠ってるらしいんだよ。ゴーレムって創造者じゃなくても主人になれるんでしょ? そういうのカズマ欲しいかなって」

 

美少女メイド……!」

 

「そうですね。稼働しているものは支配権を塗り替えるのにかなりの魔力が必要ですが、ソウゴなら問題なくできると思いますよ」

 

「あとね、お宝は見つけたパーティーの総取りだけど、帰還した人達は今のところ戦利品無し。それってまだ財宝が残ってる可能性が高いってことでしょ? たくさんのゴーレムを使役するくらいの凄いダンジョン主なら、それ相応の凄いお宝が奥に眠ってる……かもしれないね。そういうのアクア喜ぶかなって」

 

お宝ざくざく……!」

 

「ほう、リスクは高いが夢があるんだな。だがそれだけの好条件なら、難易度はさておき受けたいパーティーは他にも多いんじゃないか? ソウゴにしては珍しいクエストのチョイスだな」

 

「そこはちょっとまあ、色々とね」

 

 ダクネスの疑問にへらへらと笑みを浮かべ歯切れ悪く誤魔化すソウゴは、追求を避けるように早々に話題を切り上げて、鼻息荒くそわそわと落ち着かない二人へと視線を向ける。そして見透かしたような目で微笑むと、わざわざいつもより大きな声量で、これまたわざとらしい口調で独り言を呟いた。

 

「ちょっと勿体ない気もするねー。まあ俺たちが断ったら王都に回される案件らしいし、すぐ解決するかなー。仕方ないけど、お昼食べたらルナに返してくるよー」

 

「「…………」」      

 

 ダメ押しのようにわざとらしくため息をついたソウゴは、そわそわしている怠け者二人のことに気づいていないのか依頼書を畳み直しさっさと懐にしまう。もう本当に諦めてしまったのだろう、残念がっていたクエストのことなどさっさと忘れセナからの差し入れである包を広げると、ソウゴはわっと顔を綻ばせた。

 

「おっ、今日は一口サイズのサンドイッチかぁ。いっぱいあるし、みんなも食べる?」

 

 そんな申し出に、めぐみんとダクネスは少し困ったように眉をひそめて顔を見合わせる。そして示し合わせたかのように眉を八の字に曲げたまま、めぐみんは手探りで言葉を選びつつ疑問を口にした。

 

「いいのですか? その……セナがソウゴにと作ったお弁当なのに」

 

「みんなで食べた方が美味しいし、俺は足りなかったら適当に食べるから平気だよ」

 

「その言葉、セナが聞いたら泣いてしまいそうだな……。頂戴するが」

 

「そうかな?」

 

「せめてお礼くらいちゃんと選んであげてくださいね……。私たちは選びませんが」

 

「うん。そのつもりだけど……」

 

 感動するような言葉だったろうかと首を傾げながら、二人の言葉の意図に勘づかないソウゴは摘んだサンドイッチを口に運ぶ。きっと仕事をしながらでも食べられるようにという配慮が込められているのだろう、野菜も挟んであってバランスがいい。彩りに星やハート型に切られたバランが添えられていて、そういう目でも楽しませてくれるところにも細かな気遣いを感じる。

 

(お礼かぁ。たしか、セナって男同士の恋愛ものが好きなんだっけ……。また今度あのおっちゃんに聞いてみよ)

 

 などと、悪魔のような善意を芽生えさせるソウゴがひょいひょいとサンドイッチを摘んでいると、暖炉の前からわざとらしい咳払いが聞こえる。チラチラとこちらへと視線を向け、見えるように伸びをする挙動不審者二人。しかし、そんなあからさまな仕草を視界の端にも入れないソウゴは残りをさっさと口の中に放り込むと、ご馳走様でした、と一礼をして席を立つ。

 

「じゃあ行ってくるよ」

 

「「いや待って」」

 

 

   ⏱⏲「「待ってくださいお願いします」」⏲⏱

 

 

「あれが遺跡か。見た感じ、なんか神殿みたいだな」

 

「儀式とかしそうだね」

 

「ここから見える限りでは、巨大ゴーレムとやらの影はありませんね。ソウゴはなにも感じませんか?」

 

「それらしい魔力は全然見えないよ。魔法的な力が使われてないゴーレムなのかも」

 

「そんなことがあるのだろうか? 動力となる核には大なり小なり魔石が使われているはずだが……」

 

「それ以外でも魔力で構成されている部分は多いですよ。パーツ同士を繋げているのだって魔法の力ですから」

 

「あらあらぁ? ということは、百戦錬磨の私たちに恐れをなして逃げたのかしら? なかなか賢いゴーレムみたいね」

 

「バカ座ってろ。隠れてる意味なくなるだろ」

 

 カズマに何を言われようと、敵の影すら見えない現状況下のアクアには効果がないらしい。宴会芸用の扇子をひらひらと舞わせる女神様は、こういうとき真っ先に不幸な目に遭うということを忘れてしまっているようだった。もちろん〈敵感知〉は怠っていないが、先日の女オークのこともありやや過敏なくらいのカズマは駄女神のことなど早々に諦めて岩越しに遺跡を注意深く観察する。

 新しく見つかった未調査遺跡はそれなりに古いものなのだろう、遠目から見ても風化や損傷の具合がわかる。遺跡というよりはゲームで見た事のある神殿なんかに近い見た目の、例えるならローマっぽい建築物は建物を囲うように聳え立つ柱がいくつか折れてしまっていて、神聖さと不気味さを併せ持つ荒れ果てた廃墟らしさを醸し出していた。それが戦闘の爪痕なのか経年劣化なのかは定かでないが、これほど立派なものがこれまで誰の目にも触れず放置されていたという事実にカズマは首を傾げる。

 

「しっかし、結構目立ちそうなのになんで今まで見つからなかったんだろな」

 

 カズマの疑問は、きっとアクア以外の全員が抱いていたものだろう。この遺跡、別に鬱蒼とした木々に囲まれているだとか、谷の底にあるとかではない。アクセルの街から南に歩いて数時間。見晴らしの良い砂丘の中に、ぽつんと鎮座しているのだ。宝船が現れたと思うべきか、それとも何か悪いことの予兆なのか。何か勘づくものがあるのかと仲間たちの表情を窺うも、期待に叶わずただ一様に眉をひそめるだけだった。

 

「デストロイヤーのせいで辺り一帯焼け野原になったでしょ? あの後周辺を調査してて見つかったらしいけど、それについてはギルドの人皆が不思議だって言ってたよ」

 

「ソウゴが余計なものまで復活させちゃったんじゃないの?」

 

「それはないよ。巻き戻したのは精々数時間程度だし、あれは元々ここにあった建物だよ。間違いなく」

 

「人の目に晒されなかった理由……。例えば、強いモンスターの縄張りだった、とかではないでしょうか?」

 

「モンスターから遺跡を守るために配置されたゴーレムというわけか。生態系は戻っているが分布は変わっているようだし、納得のいく仮説だな。なら、どうしてこんな辺鄙な場所に遺跡を建てたのだろうか?」

 

「それは……余程の機密事項が眠っている、とか?」

 

「ま、理由なんて何だっていいわよ。ちゃっちゃとお宝頂いて帰りましょ!」

 

「おいアクア、突っ走るんじゃない! どこから敵が来るのかもわからないんだぞ!?」

 

「へーきよへーき! ソウゴだって敵の気配はないって言ってたじゃない。そんなことより、お宝は見つけた人の総取りでいいわよね? じゃ、おさきー!」

 

「待ってくださいアクア! 一人は危険です!」

 

 じっとしているのに飽きたのかダクネスとめぐみんの制止を振り切ったアクアは、「おったから♪ おったから♪」と鼻歌を交えて遺跡へとスキップしていく。普段の行いを省みてほしいと思うのはきっと高望みなのだろう。後で泣きべそをかく姿が容易に想像できるが、仲間の危機に体が動いてしまうダクネスやめぐみんと違ってカズマは慌てたりしなかった。

 

(アークプリーストより炭鉱のカナリアにでもジョブチェンジした方がいいのではなかろうか)

 

 恐れを知らないというのは怖いもので、地雷原を軽やかなステップで意気揚々と駆け抜ける自称女神には鳥ほどの危機感も無いらしかった。ダクネスやめぐみんもトラブルメーカーを引き戻そうと後を追い、陣形も何もあったものではない。巨大ゴーレムに泣かされるのか、遺跡内のトラップにでも泣かされるのか、取り敢えず様子を見るため俯瞰に徹しようとカズマが決心した直後、足元を揺らす大きな地鳴りに合わせて遺跡の入口まで近づいたアクアの真下から突き上げるような衝撃とともに大きな亀裂が走った。

 

「な、なになに!? 何だかとっても嫌な予感がするんですけど??!!」

 

「ほー。近づいたら現れるタイプの門番か。(おもむき)があるな」

 

「感心している場合か!? アクア! 早く戻ってこい!」

 

「でも、さっきの仮説通りモンスターから守るためのゴーレムってことはなさそうだね。出てくるのが遅すぎるよ」

 

「どこかにゴーレム出撃のスイッチがあって、アクアがそれを作動させたのかもな。寸前まで〈敵感知〉スキルに反応がなかったし」

 

「二人ともどうしてそこまで落ち着いていられるんですか!? 仲間のピンチですよ!?」

 

 隆起した地面は砂丘を掻き分け、巨大な壁となって遺跡への侵入者を阻む。流れ落ちる砂粒の向こうにある影は遺跡を上から覗きこめるほどの丈があり、確かにこれは巨大と称する他に表現方法はないだろう。砂塵の中から現れた黒光りする腕は、ごつごつとした五本の指で慌てふためく強欲な侵入者の体を絡め取り、いとも簡単に右手の中に収めてしまう。お約束のごとく捕まったアクアがわーきゃーと喚いているが、この巨体を前に構っていられる余裕は無い。砂のベールを払い除け見せた真の姿、その得体の知れない見た目のゴーレムに、ダクネスは思わず身震いしてしまった。

 

「なんと巨大な……! 金属でできたゴーレムなど見たことがなかったが、アレなら私も満足できそうだ……! おいゴーレム! 人質なら私が代わろう。アクアを離せ! 締め上げるならわ、私を締め上げろぉ!」

 

「感心してる場合じゃなかったんじゃないの?」

 

「なんですか、なんなんですか、あの形状、あの光沢……! カッコイイ! カッコイイですよ! 紅魔族の感性にビシビシ響きます! 何とか捕獲して持ち帰ることはできないでしょうか!?」

 

「仲間のピンチは?」

 

「ちょっとアンポンタンどもー! 女神の私が捕まってて超ピンチなんですけど!? 遊んでないで助けて欲しいんですけどー!?」

 

(俺が言うのもなんだが、こいつら敵が出てきたってことを理解しているのだろうか。しかし……)

 

 緊張感もなく平常運転の三馬鹿娘プラス魔王はさておき、カズマは現れたゴーレムに既視感を禁じ得ずじっくりと観察する。まず目に付くのは全体のフォルム。ダクネスの見立て通り光沢のあるボディが金属でできているのは一目でわかるのだが、そのシルエットは昭和の超合金の玩具のような無骨さと愛嬌があった。

 それだけならまだいい。

 動くたびに関節部から排出される蒸気、今まで見たどのゴーレムよりも洗練されたボディ、どことなく一昔前のロボットアニメを彷彿とさせる見た目、アクアの首から上以外すっぽりと握りしめてしまえる巨大さ、そして極めつけは赤く発光する複眼。そして何より、これだけの巨体にも関わらずソウゴが少しだって魔力を感知していないのだから間違いない。

 

「どう見ても巨大ロボだよなぁ」

 

 ゴーレムというよりロボットそのもの。自律型巨大ロボと言えば聞こえはいいが、力を誇示するように腕を上げて胸を張るポージングもカズマのよく知る九十年代に主流だった日本のアニメのイメージそのままだった。

 魔法の力以外で動くロボなんて絶対に日本からの〈転生者〉が関わっているんだろうなとしげしげと眺めていると、ロボは人質を取っていることなど忘れているのか右腕を前に突き出す。ここまでくれば次にどんなに技が飛び出すのかは想像に難くはない。それは元日本担当の女神であるアクアも同じようで、髪の色ほど青ざめる彼女は直視したくない現実から目を背けることも許されずただうわ言のように口をパクパクさせていた。

 

「う、嘘よね……? 私、まだ握られっぱなしなんですけど……? まさかお約束的にロケットパンチとかしないわよね……? 死んじゃうから! 絶対死んじゃうからー! たすけてよかずまさわぁーーーーーー!!!」

 

 ロボの右肘の辺りから推進力なのか炎が溢れ出す。こんなお約束ばっかり起きることがあってたまるかという呆れの気持ちと、これがソウゴの視ている未来の景色なんだなという緊迫した気持ちが混じり合う最中、泣きじゃくるアクアを握りしめたロボの右腕は無慈悲にも発射された。

 

「凄いですカズマ! 腕が飛びましたよ! あんなゴーレム見たことがありません! 絶対に生け捕りにして連れて帰りましょう!」

 

「ダメに決まってるだろ! ああいうのはその場で壊しといた方がいいって相場が決まってるんだよ!」

 

「お願いします! ちゃんと餌もあげますし、毎日散歩にもいきますから!」

 

「あんなデカイのどこをどうやって散歩させる気だよ!」

 

「馬鹿をやっている場合か、敵の前だぞ! あれは私が受け止めるからアクアを頼むソウゴ!」

 

「はーい」

 

 水の女神様から垂れ流される涙と鼻水で緩やかな下り坂の軌跡を描き、カズマでも全然余裕で避けられる程度のとろさで迫り来るロケットパンチ。等速直線運動など夢のまた夢と言いたげに、重力に従ってなだらかに高度を落とす飛翔体を素直に受けてやる義理は全くもって無いのだが、それでもわざわざ仲間たちの前に躍り出たダクネスは両手を広げ鋼鉄の塊を待ち構える。

 

「さあこい! 私を押し潰してみせろぉーー!!」

 

「お前は実益と性癖が合致してるだけじゃねぇか」

 

 長身の部類に入る自身の身の丈の二倍以上はあろうかという金属の塊を、嬉々とした表情を浮かべて全身で受け止めんとするダクネス。まあ避けても砂のおかげで無事に不時着するだろうが、変態はそんなことでは止まれないらしい。

 両手を広げニヤけたダクネスと、絶叫するアクアを握りしめた巨大な拳がぶつかりあった瞬間、金属同士がかち合う重い音が辺りに響いた。ロケットパンチは遅さの割に燃料が切れるまで前進は止まらないらしく、吹き出す炎を推進力にダクネスを襲い続ける。しかし勢いにも質量にも一歩も押し負けない防御力を見せつける彼女はギリッと歯を噛み締めると、拳を捕まえながら険しく眉間に皺を寄せた。

 

「カズマ……! っく、ダメだ……っ!」

 

「おいまさか、ダクネスが音を上げるなんて……!?」

 

「こいつ見た目に反して中身が空洞だ! 重さが足りない! これでは満足できないぞ!!」

 

「早くもアクアを助け出すって目的を忘れてんじゃねぇよ。……ソウゴ」

 

「はいはい」

 

 どうして遺跡に入る前に疲れているんだろうか。浮かんだ疑問を頭の周りから振り払うカズマは、隣で仕方ないなぁとでも言いたげな顔で事の成り行きを静観していたソウゴに後を任せる。不満げなダクネス、白目を剥くアクア、目を輝かせるめぐみん。第一関門で騒ぎ倒す仲間たちを見て、カズマはただただ肩を落とすしかなかった。

 

「……もう帰りたい」

 

 

   ⏱⏲「えいっ」「私のまじぇんがー!」「もう名前付けてたのかよ」⏲⏱

 

 

「うう……。わたしのまじぇんがーが……」

 

「元気出してめぐみん! 帰ったら私が爪楊枝で機動魔神グレートマイザーを作ってあげるわよ!」

 

「……カッコイイですか?」

 

「もちろん! 女神の本気を見せてあげるわ!」

 

(傍から見たらお母さんと娘だな)

 

 なんてことを口走れば無意味に爆裂魔法を食らってしまうだろう。いつもならポロッと零れるような言葉をそっと胸の内に秘め、カズマはソウゴによって木っ端微塵にされ機能を停止したロボの破片を拾い上げまじまじと観察する。この世界で魔法を使わずに機動する巨大ゴーレムというだけで興味は引かれるが、それ以上に気になるのは今後同じ素材で似たようなものを作り販売できるかどうか。ロケットパンチで飛んできた拳と発射台となった本体とでは材質や重みが違うことに気がついたカズマは、カンカンと打ち合わせてぼそぼそと一人言を呟く。

 

「飛んできた方は薄いわけじゃないのにすごく軽いな。鉄とか鋼とは違うみたいだし……合金とかか? いや、この世界の合金がこんなに軽いわけないか。でも軽さの割には硬いしな……。そもそもこいつの動力ってなんだ?」

 

「何かわかったのか?」

 

「いいや全然。何か新製品に役立てばと思ったけどダメだな。わかったのは部分ごとに耐久度とか重量とかが凝られてるってことくらいだよ」

 

 土台は自重を支えて動けるようにしっかりと造られているが、上半身になるにつれて軽量化の試行錯誤が窺える。両肘から先は特に硬くそれでいて軽く、飛ばして武器にすることが前提の構造のように思えた。ここまでロマンに拘ってロケットパンチを再現したのなら、あの蜘蛛型兵器と同じく自爆装置の一つでも付いているのではないかと残骸を漁るが、どうやら作動する前にトドメを刺されてしまったらしい。開発者泣かせな魔王の行いに多少の申し訳なさを感じつつも、余計な災難に巻き込まれずに済んだと胸を撫で下ろし立ち上がる。

 

「かなり作り込まれていた、ということか」

 

「ああ。一体何と戦うことを想定して作ったのかはわからないけど、少なくともこの近辺のモンスター相手なら負け無しだったろうよ」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

「……そりゃ全部素手で粉々にするやつには違いなんてわかんないだろうけどさ」

 

「オーマジオウの鎧の方が軽くて丈夫だし負け無しだよ」

 

「出処のわからない不思議スーツで張り合ってくんな。……しかし、これだけデカいうえに自爆機能まで付いてるとなんかデストロイヤーを思い出すな。なあアクアー。冬将軍のときみたいに、転生者たちの意識のせいでゴーレムが生まれるみたいなことってあるのか?」

 

「それは無いと思うわよ? 少なくとも私は聞いたことないわね。めぐみんは心当たりある?」

 

「いいえ。そもそもゴーレムとは〈クリエイト・ゴーレム〉などの魔法で生み出し使役する魔法人形のことです。精霊のように人間の意識が存在に影響を与えることなどありえませんよ」

 

「そうか……。となると、こいつはオーバーテクノロジーの産物とかでもなくて間違いなく日本人転生者が作ったものってわけだ。一気に関わりたくなくなってきたな。帰るか」

 

 こういうのに関わるとろくな目に合わないという経験則から、回れ右を提案するカズマ。二度あることは三度あるなんて言葉があるように、妙に親近感が湧き始めている科学者の存在がチラついているのが最たる理由なのだが、そんな及び腰のカズマに仲間たちは異を唱えた。

 

「ちょっとちょっと。今更引き返すなんて冗談でしょ? 面倒なゴーレムも倒して宝の山が目の前だって言うのに、私が怖い思いしただけになるじゃない」

 

「これだけ強力なゴーレムに守らせていたのです。重要な秘密、あるいは財宝が眠っているに違いありません。今こそ、隠匿されし真実を暴く時です」

 

「新たに発見された古い遺跡なら歴史的価値もあるだろう。クエストを抜きにしても興味があるな」

 

「守ってたゴーレムがいなくなったから、今を逃せば他の冒険者が全部探索し尽くしちゃうだろうね。それはちょっと勿体ない気がする」

 

 どうやら多数決では惨敗らしいことを悟るカズマ。嫌な予感がしつつも一理ある仲間たちの反論に折れた彼は、肩を落としてため息をつく。

 

「……しょうがねぇなぁ。俺も美少女メイドゴーレム欲しいし、ちゃっちゃと終わらせるか」

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 松明だけが頼りの薄暗い石造りの廊下に、コツンコツンと靴底が石畳を叩く音が響く。壁には照明らしい設備が一応あったものの応急処置の目処が立たないほどに劣化が酷く、蜘蛛の巣だらけのそれらはカズマの手に負える具合ではなかった。事前情報通り暗がりのそこかしこに機能停止した人型の残骸や風化し砂埃で汚れた布切れが散乱しており、その損傷っぷりが廃墟然とした佇まいをより際立たせている。その陶器のように冷たい光沢を放つガラクタに松明を近づけたカズマは、ぽつりと疑問を口にした。

 

「……美少女?」

 

「には見えませんね。どう見ても」

 

 煌々と燃える炎に照らされるそれは、不気味の谷に足を踏み入れてすらいない、マネキンに落書きをしたものとでも表現すべき人形だった。目はぱっちりしているが瞼はなく、直接ペンキで描かれた灯台の地図記号そのもの。頭に植え付けられている毛のようなものも毛糸のような質感でもさもさと毛羽立っており、とてもじゃないが美少女なんていう装飾語が付いていいような代物ではなかった。

 

「おいソウゴ。聞いていた話と違うんだが」

 

 きっと()()さえ無ければ不出来な失敗作が転がっているだけと無視できただろう。しかしこの人形たちが袖を通しているこれは、風化しているとはいえカズマのよく知るおよそ機能性皆無のメイド喫茶のコスプレ衣装のようなぼろ布。この転がっているガラクタを指して、 美少女メイドだなんて宣うのであれば無視するわけにもいかない。そんな詐欺師を見るようなカズマに対して悪びれる様子のないソウゴは、ケロッとした顔で小首を傾げた。

 

「何のこと?」

 

「放置されてるのは美少女メイドって話だったろ。まさかとは思うが、これがそうだなんて言わないよな?」

 

「メイドみたいな格好してるとは言ったけど、美少女メイドが転がってるとは言ってないよ。美少女型は奥に眠ってるって言ったじゃん」

 

「……そだったっけ?」

 

 どうだったか、半日ほど前のことを思い出そうと首を捻るカズマ。そう言われればそうだったような気もするが、なんと言うか、いつもと同じように上手く口車に乗せられているような気もしてくる。スキルとは違うカズマの直感と経験が、何となくこの先に進んでもいい事は無いと告げている気さえする。

 

「ねえ、そんなのどっちだっていいから先に進みましょ? お宝はもう目の前なんだから」

 

「そうだな。ここで立ち止まっていてもゴーストが寄ってくるだけだ」

 

「私は構いませんよ。手に負えないくらい集まってくれば屋内でも合法的に爆裂魔法を撃つことができますし」

 

「屋内であんなもん撃とうとするな」

 

 こういう時の嫌な予感は当たるものだが、もう引き返すなんて言えるところはとっくに過ぎてしまっている。ため息をついたカズマは、まあソウゴがいれば最悪死ぬことはないだろうと、まだ見ぬ美少女メイドとお宝に思考を切り替えた。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「ここが一番奥の部屋なのかな。儀式とかは……しそうな感じはしないや。試作品の展示会みたいだね」

 

「並んでいるのは一体どういった用途の魔道具でしょうか……? うーん、私でも見たことが無いものばかりですね。使い方も見当さえつきません」

 

「これは……香水入れだろうか? ほんの微かだが、爽やかな香りがするな。いい香りだ」

 

 長いテーブルのように隆起した石段の上にズラっと並べられた魔道具らしきものをそれぞれ手にし、各々の感想をこぼすめぐみんとダクネス。めぐみんがカショカショとおもちゃのナイフを抜き刺ししている、黒い髭をつけたオッサンが樽から飛び出してくる系のそれは魔道具じゃなくてゆんゆんが喜びそうなパーティーグッズだよとか、ダクネスが熱心にスンスンと匂いを嗅いでいるそれはトイレの芳香剤だよ、と教えれば喜ぶのだろうか怒るのだろうか。どちらにせよ日本の影がチラついて仕方がないので黙っておこうと、カズマとソウゴは目を合わせて肩を竦める。

 ここは神殿でも遺跡でもなく、おそらく日本人転生者が建てた工房とか倉庫とか、そういった類のものだったのだろう。ここまで入り組んだ道もなく、罠なんかが仕掛けられていなかったところを見るに間違いない。存在を隠蔽するための仕掛けが何らかの拍子に解除されたと考えるべきだろうが、まあ細かいところは考えたって仕方がない。

 

(ってことは、お宝とかは期待できないよな。俺が家主だったら倉庫に貴重品なんて絶対隠さないし。でも美少女メイドゴーレムが我が家にやってくるのは大きい。俺たちの勝ち組印税ライフをサポートしてくれる家事代行は普通にありがたいし、もういっそ美少女じゃなくてもいいまである)

 

 正直なところ散乱していた人形もどきと比較して美少女というのなら、まあそれはそれとして抗議したいところだが、カズマとしては姿形にこだわるつもりはもうすっかり無くなっていた。美少女メイドというものに心が浮かれていたが、よくよく考えてみればいくら金があろうとあの屋敷に積もる埃を綺麗にするには人手が必要で、それが紅魔の里を素早く復興していたようなゴーレムがやってくれるのならこんなにありがたいことは無い。欲を言えば美少女メイドが希望だが、入口を守っていたゴーレムの凝り様を見るにきっと実用的な機能はついているはず。探索を進めるなかでそんな期待がカズマの中にふつふつと芽生えてきていたのだ。デザインはさておき。

 そんな期待に胸を膨らませるカズマに、片っ端から家探しする埃まみれのアクアは少しムスッとした顔を見せた。

 

「ちょっと、カズマにソウゴ。ぼさっとしてないでアンタたちもお宝探しなさいよ。もしお宝が見つかっても分けてあげないわよ」

 

「見つかったらな。……ところでソウゴ。それでその、例の美少女メイドっていうのは……?」

 

「俺も聞いた話だからあんまり詳しくないんだよね。でも、壁の隙間からは魔力が漏れ出てる。きっとそこに隠し扉とかあるんだと思うよ」

 

「ホント、相変わらず便利な能力してるよな」

 

 迷いなくある一箇所を見つめ壁の前に立ったソウゴは、両手の平でぐっと壁を押す。押戸ではなかったらしくビクともしない壁を見て、少しふむと考えたソウゴは、四人が見守るなかで拳をグッと振りかぶった。

 

 

   ⏱⏲「えいっ」「隠し扉を力技で開けるんじゃねぇよ」「え、ダメなの?」⏲⏱

 

 

「ここは、手狭だが居住スペースのようだな。ソウゴ、ここには隠し扉のようなものはないのか?」

 

「どうだろうね。魔力が滞留しててよくわかんないや」

 

「思わせぶりな隠し扉で隔離していたというのに、お宝の気配は全くありませんね。空振りと見ていいでしょう」

 

「そぉんなぁぁ……。私のお宝がぁ……」

 

「お前のじゃねぇよ。……さて。美少女メイドゴーレムはっ、と」

 

 項垂れるアクアを放置して、四人は部屋の探索を始める。馬小屋と同じか少し広いかくらいの部屋にあるのはホコリの被ったベッドに木製の机と椅子、それとタンス。机の上には設計図やら本やらが散乱しており、若干荒れているように感じるのは前回ここまで到達した冒険者が既に探索を終えているということだろう。それとは別に、生活感が非常に顕著であり長い間放置されていたことがわかるようにかなりしっかりと煤と埃にまみれている。何かを動かす度に埃が舞うが、今更冒険者がこの程度の汚れでキャーキャー言う訳もなく、ベッドの下からタンスの裏まで隅々調べていく。そうしているうちに、カズマは少し模様がズレている壁を見つけた。

 

「おっ、ここ外れるな。まるで脱出ゲームみたいな……、ってなんだこれ、金庫か?」

 

「金庫!?」

 

「わかりやすく元気になるやつだな。でも中にお宝なんてないと思うぞ」

 

「そんなのわからないじゃない! 早く開けましょう!」

 

 板が雑に嵌っているだけだったそこを開いてみると、そこにはカズマがかがんで入れるくらいの背丈の偉く仰々しい金属の引き戸が現れた。ダイヤルと押しボタン式パスワードのダブルロックだが、やはり誰かが最近侵入したのだろうパスワード用のボタンは特定の場所の埃が無くなっており押された形跡があった。きっとこの奥に例の美少女メイドゴーレムが安置されているのだと悟ったカズマは、アクアから期待の眼差しを背に受け前回来た冒険者たちが開けっぱなしにしている事を祈りノブを回すも、返ってくるのは固い施錠済みの感触だけだった。

 

「ま、そりゃそうだよな」

 

「ねえカズマ。早く開けてほしいんですけど」

 

「そう言われたって鍵のヒントもないんじゃな」

 

「クリスがいれば盗賊スキルで開けられたのかもしれないな」

 

「そんな事せずとも、先程同様ソウゴにぶち破ってもらえば良いではありませんか。まじぇんがーを素手で砕けるのですからこんな鉄の扉だってわけは無いでしょう」

 

「いやいや、これ開けてすぐ目の前にゴーレムが眠ってたらどうすんだよ。こういうときは、どこかに解錠のヒントがあるのが定番なの」

 

「穴を開けるのがダメなら無理やりこじ開けることもできるけど。仮にゴーレムを壊しちゃっても直せるよ?」

 

「どんな馬鹿力だよってまあソウゴなら素手でこじ開けられるし穴くらい開けられるか……。でもな、やっぱりこういう脱出ゲームの謎解きみたいな要素はちゃんと乗り越えてこそ手に入れた時の感動があるってものだよ。やったことないか? 捕まってるなら扉蹴破って外出ろよって感じのゲーム」

 

「ないけど……。そういうものなの?」

 

「そういうものだよ。その辺に何かないか? 謎の色つき文字とか、見たことあるこの施設内の場所の絵とか写真とか、とにかくそれ単品じゃ何の役に立つのかわからないものだ」

 

「なんだその抽象的だが具体的な探し物は……? まあ、思い当たるものはあるにはあったが……」

 

「あるんだ」

 

 感心するソウゴを横目に、ダクネスは一冊の本をカズマに見せる。表紙のハードカバーはかなり傷んでいて、室内同様年季を感じさせる一冊だった。受け取ったカズマは表紙を入念に調べるが、特に変わったところは無い。本当にただの、経年劣化しただけの普通の本という印象だった。まじまじと外装を見つめるカズマに、ダクネスは補足を口にする。

 

「少し中を見たんだが、見たことのない字で何が書いてあるのかさっぱりでな」

 

「見たことない字……って、これ日本語じゃねーか」

 

 カズマが一ページ目を開くと、それに習って関心を示す全員がその本を覗き込む。お世辞にも綺麗な字とは言えないが、そこにはしっかりとした筆跡で、紅魔の里で嫌という程に見たさほど懐かしくもない日本語が記されていた。内容としては日記なのだろう、言葉の端々や筆圧から責任感や重責、苦悩といった感情が滲み出ていて、これを書いた人物の人間性というものが窺い知れる。ここに金庫を開く鍵が記されているのだろうか、眉間に皺を寄せるダクネスとめぐみんにもわかるよう、他人の日記を盗み読むことに抵抗を感じつつもカズマは文章を読み上げ始めた。

 

「えっと……『異世界生活一日目。この日、私は女神に頼まれて異世界へと降り立った。魔王を倒し、世界を救うために。道は困難を極めるだろうが、俺の決意に揺るぎはない―――

 

 

 

 『―――異世界生活七日目。女神様に貰った力を試してみた。それは自らが望むものを創り出すという恐るべき能力だった。手始めにこの施設を作ったが、この力があれば世界を征服することすらもできるのではないだろうか? だが、私の望みはただ一つ。魔王を倒し、この世界の人々を救うことのみだ。

 

 『異世界生活一一三日目。魔王に対抗できるものを生み出したいが難航していた。それは、この能力を使用する時の制約が問題なのだ。その制約とは『物作りの際に強い思いを必要とする』というもの。作り出すものにどれだけ強い想いを抱けるかが重要なのだ。私の魔王を倒したいという思いはこの程度のものなのか……!? 苦悩が続く。

 『分かっている。自分が本当に望んでいるものは何なのかを。だが、魔王を倒したいというのも嘘ではない……! 私は悩んだ。何度も何度も、自分に問いかけた。そして、悩みに悩んだ末に……

 

 

 『魔王討伐は、諦めることにした。

 

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 五人の声が綺麗に重なる。責任感の強い勇者が現れたと思っていたのに、唐突な意志の瓦解に全員が困惑していた。目が点になりながらも、カズマは続きを読み進めていく。

 

 

 

 『だってしょうがないじゃん。俺、元ニートだし。異世界に来たくらいでそうそう中身が変わるわけないじゃん。……決めた。俺はこれから好きに生きる。自分の作りたいものだけ作ろう。まずは男の憧れ、美少女型ロボが欲しい。それと、巨大ロボットもロマンだなぁ。いや、もうどっちも作っちゃおっと!

 

異世界生活一九三日目。巨大ロボ改め巨大ゴーレム作ってみた。でもダメだ。搭乗できない。ちょっとだけ乗ってみたけどホント無理! 洗濯機に放り込まれた汚れ物の気分だった。でも作ったものは仕方ないし、ここを守らせとこーっと。おっといけない、自爆装置つけ忘れてた。必須だよな、自爆装置。自爆しなきゃロボじゃないよ、うん。あ、ロケットパンチもいいな。もう少し改良しよう。

 

異世界生活二八九日目。念願の美少女型ゴーレムの制作開始。だが失敗ばかりだ。だって硬いんだよ、膝枕がさぁ! 力加減もできないし! 頭撫でて貰った時なんか首折れるかと思った(笑) ついでに言うなら致命的な欠陥があった。美少女型ゴーレムにとって最も重要なものが足りなかったんだ。それはデザイン。俺絵心ないんだよなぁ。おかげでコケシみたいなのしかできない。練習しよう。

 

異世界生活三〇二日目。巨大ゴーレムと美少女型ゴーレムが、目を離した隙に暴走を始めた。外がめちゃくちゃだ。反抗期だろうか? 守らせとくの無理だな。なんか障壁とか展開しとくか。

 

異世界生活五六三日目。もう一度原点に立ち返る。妥協することなく、自分の理想を追求したものを作ることにした。まず俺が求めるものは……Mか、Sか。いやまあ、それはひとまず置いておこう。

 

異世界生活七八三日目。違う! 何が違うんだ!? 目鼻立ちか!? 髪型か!? それとも造形そのものなのか!? もう一度デザインから見直しだ。ここで妥協したら今までの苦労が全て無になる。あ、ちなみに俺Mだったわ。やっべ、俺やっべ! ひとまず、それは置いておこう。

 

異世界生活一二三○日目。悟った。そうだよ。俺の力があれば美少女型ゴーレムにこだわる必要ないじゃん。この力でどこかの技術大国に士官しよう。それで、高給貰って、美人メイドさんとか雇えばいいじゃん。やっべぇ! テンション上がってきた! この世界に送ってくれた女神様、あざーしたーっ!

 

追伸。今、私はノイズにいます。国を飛び越えてこの世界の上下水道を私は作っています。もし誰かがこの日記を読んだなら、ここに眠るゴーレムたちを大事にしてあげてください。ちっとも言うこと聞かないけど、みんな可愛い我が子です。

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

「ハハハッ。ハズレだったみたいだね」

 

 読み終えたカズマは、そっと日記を閉じる。なんだろう、この清々しいまでの読了感は。なんとなく、途中からこれを書いた人間が誰かは分かっていた。それはソウゴを除く三人も同じなのだろう、ソウゴの軽口に反応することも無く皆無言を貫いている。その様子を妙に感じたのかソウゴは首を傾げるが、四人はお互い目を合わせることも無くすぅーっと、大きく息を吸い込んだ。

 

 

   ⏱⏲「「「「お前かーーーっ!!」」」」「えっ、誰!?」⏲⏱

 

 

「ねえカズマ、やめときましょ? どうせその中に入ってるのは、デストロイヤーを作った転生者が言うこと聞かないって太鼓判押したゴーレムだけよ? 今日のところは私が泣かされただけでいいから、もう帰りましょうよ」

 

「ダメに決まってんだろ。それに、ソウゴなら言うこと聞かせられるかもしれないし、そうじゃないなら今ここで全部ぶっ壊しとかないと後が怖い」

 

「そんなに美少女メイドが欲しいの? ほら、きっとダクネスなら喜んでメイド服着てくれるから、それで我慢しましょ?」

 

「おおおいアクア! どうして私がメイドにならねばならない!? お前たちは忘れているかもしれないが、私は誇り高い騎士でダスティネス家の娘だ! む、無理やり女給の格好で傅かされ、下げたくない頭を下げさせられ、カズマの下卑た視線に晒されながら毎日をす、すす過ごすなど! きっ、きっとカズマの事だ。主人という立場を利用し、断ることの出来ない私に無茶な要求ばかりしてくるに決まっている……! んっ、ハァ……ハァ……やれるものならやってみろ!!!」

 

「今日一でよく喋るなぁ。でも腹筋の割れたメイドなんていらない」

 

 アクアとダクネスを袖にしつつ、次々とロックを解除していくカズマ。日記にはきちんと解錠の仕方が載っていたのだが、やはり盗賊スキルに縁があるからだろうか、傍目から見ても手慣れた作業のように感じる。扉が開くのを後ろで控えながら眺めるソウゴに、同じく後方に陣取るめぐみんがそう言えば、といった感じで尋ねた。

 

「ソウゴソウゴ。帰還したパーティーとやらから何か情報は聴けていないのですか? その美少女メイドゴーレムとやらについて。襲いかかってきたとか、そもそも魔力切れで動いていなかったとか」

 

「俺は家でグータラしてるカズマとアクアが簡単に食いついてきそうな持て余してる厄介事ないかってルナに聞いて、出てきたのがこれだから詳しくは知らないんだよね。本当はギルドから派遣された調査隊が、駆け出しの手には余るって判断したから王都の方へ流れる予定だったらしいし」

 

「家で歯切れが悪かったのはそういうことですか。こうして見るといつも通り二人が上手く丸め込まれただけなのですが、ここまで表現と誇張だけで別の話のように思わせるのは、立派に詐欺師の手管ですね」

 

「人聞きが悪いなー。あはは」

 

 冷静に分析するめぐみんに、へらへらと笑って誤魔化すソウゴ。調査隊だって立派なパーティーだし、誰もアクセルの冒険者が来たなんて言っていないので嘘をついているわけではないのだが、なんともスレスレの言い分に、きっとその内もっととんでもない案件を引き連れてきそうだとめぐみんは思う。少しワクワクしてしまうのは、きっと紅魔族の性分だからだろう。

 そんなこんなしているうちにロックを全て解除したカズマは、扉に手をかけて開く……前に、ソウゴにぴっと指を向けた。

 

「いいかソウゴ。美少女メイドゴーレムなんて、いたらいるだけ幸せになれるんだ。使役できそうなら一体だって壊すんじゃないぞ」

 

「わかってるよ。それに、機能が停止しててちょうどいい背丈ならアンナが乗り移れるかもだし」

 

「なるほど。いっつも虚空に向かって喋ってるからアクアかソウゴがいないといるのかどうかわからないもんな。よし、ちょうどいいの探すか」

 

 話はまとまったとばかりに、カズマは扉を開いて奥へと進む。それに習ってダクネスが、その後ろを嫌々アクアが、そしてめぐみん、ソウゴと順番にくぐって行く。扉の向こうは想定よりも広い開けた場所になっているらしい。特に前を行く仲間にぶつかることなく大広間に出たソウゴは、ほほー、と高い天井や青く光る地面に声を上げた。

 

「おい、あれを見ろ!」

 

 ダクネスが指差す先にあるのは、複数のガラスケース。中はゴーレム保存用のものだろうか、白い気体が充満していてどうなっているのか窺い知ることはできない。しかしそれぞれ人影のようなものは見えるため、中で待機状態になっているのだろう。近づいてメをこらせば中にどんなものが入っているかは分かるはずだ。きっと調査隊はここまで来て、ガラスケースを開けずに撤退したと思われる。外に襲ってくるゴーレムが待ち構えていたのだ、普通に考えればここのゴーレムは全て好戦的だと思うだろう。わざわざ敵を増やすような真似を常人がするわけもない。

 そう、常人なら。

 

「おい、ちょっと待てめぐみん」

 

 ふらふらとガラスケースに近づくめぐみんの肩を、カズマはしっかりと握りその足を止める。彼女の目の前にあるのはボタン。押せば何が起きるか、とかは書いていないが、各ガラスケースごとに同じものが併設されているのだからだいたい予想は着く。それはここにいる誰しもが同じだったようで、引き止められためぐみんは振り返るとそれはそれはにこやかな笑みをカズマに向けた。

 

「どうしたんですか、カズマ?」

 

「どうしたんですかじゃねぇよ。お前今何しようとしてる」

 

「目の前にボタンがあるなら、何が起こるか予想が着いていても押してしまうのが人の性。カズマも押したければ隣のをどうぞ」

「お前忘れたわけじゃないだろうな。こいつら全然言うこと聞かないらしいんだぞ。そんなの解き放ってみろ、どうなる?」

 

「ソウゴが困ります」

 

「その通りだ。でも、こっちにはソウゴの未来視っていう誰も困らない解決法があるんだ。大人しくしてろ」

 

「嫌です! 未来の私がボタンを押せたとしても、今の私が押せないではありませんか! 何の解決にもなって、は、離せー!」

 

「お前のそのよくわからん衝動を抑えればいいんだよ! 絶対押させないからな! おいソウゴ! どうなんだよ、使役できそうなのか!?」

 

 バタバタと暴れるめぐみんの両手を押さえ、ガラスケースから引きはがそうとするカズマは後方に控えているソウゴへと問いかける。すると、後ろで俯瞰していたソウゴは少し残念そうに肩を落とすと両手で大きく‪✕‬を作った。

 

「ダメだね。どれも」

 

「何がダメなんだ? やっぱりチートで作られたゴーレムだから、主人を変更できないとかか?」

 

「うーん。たぶん、現物見た方がわかるかな」

 

 ちょいちょいと、ソウゴはカズマの左を指さす。何だ? とその行動に疑問を覚えつつも指された方を見ると、これまた迷惑行為に定評のある女神様が今まさにボタンを押しましたという体勢でこちらを見ていた。

 

「……目の前にボタンがあるなら、何が起こるか予想が着いていても押してしまうのが人の性なのよ」

 

「めぐみんと同じこと言ってんじゃねぇよ!」

 

 ボタンが押されたからだろう、ガラスケースが音を立てて開き始める。それと同時に中の白い気体が辺りへと漏れ出し、中のゴーレムが再起動する。一度下がらないと、とアクアに気を取られ油断したのが良くなかった。カズマの拘束をすり抜けためぐみんが、アクアに続けとばかりにもう一つボタンを押しガラスケースを解放する。

 

「お前何やってんだ!? ソウゴが使役できないって言ってるのになんでわざわざ起動させてるんだよ!?」

 

「一つも二つも同じでしょう。アクアが押せて私は押せないなんて我慢できません」

 

「堪え性のないやつらだなぁ! 余計なことしなきゃどうにかなっちまうのかお前らは!?」

 

「遊んでいる場合か! 三人とも早く下がれ!」

 

 ダクネスの一喝で我に返った三人は、全速力でダクネスとソウゴの後ろに隠れる。生き物でないが故にソウゴとの力の差がわからず、その上ソウゴにも使役できないほどの力を持つ〈転生特典〉で生み出されたゴーレム。外にいた巨大ゴーレムが強力だったため、ここに眠っていたゴーレムたちもさぞ強敵になるのだろう。

 しかし、身構えるカズマたちの前に現れたのは、意外にも大人しい二体の可憐な美少女だった。

 

「どなたが我々のご主人様ですか?」

 

「俺です」

 

 条件反射で名乗り出てしまったカズマ。自分でも驚くくらい自然と前に出て、後ろから三馬鹿娘の非難を受けるが何処吹く風。というのも、ご主人様だと名乗ってから二体の表情が和らいだように思えたからだ。

 二体のゴーレムは、本当に人間じゃないのかと疑うほどよくできていた。話しかけた方の一体は長い赤髪にクールな印象の美少女。もう一体は茶髪のボブで可愛い感じの美少女。胸から下は気体に隠れて見えないが、ボブの方はメイド服らしきものを着ていることが分かる。二体とも文句無く美少女で、並べればパーティーにいる三馬鹿娘に引けを取らない造形をしていた。

 そんな風に観察しながら鼻の下を伸ばしていると、カズマはふと疑問に思う。どうしてソウゴは使役できそうにないと言ったのだろうか、ということである。

 

(これはあれか? ソウゴが上書きするまでもなく俺がご主人様になれるってことなのか?)

 

 期待を込めてソウゴへと視線を向ける。これは、残りのゴーレム全て解放してもいいかという確認のための目配せでもあったのだが、状況に似合わずソウゴはとても渋い顔をしていた。女子たちの冷たい目線はいい。もう慣れている。しかし、こういうときのソウゴはカズマに軽蔑の念を抱くよりもへらへらと笑っていることの方が圧倒的に多いのだ。それがどうして? その答えは、ピシャッ! という鞭かなにかが放つ音と共に知ることとなった。

 

「……ぴしゃ?」

 

 変な音がしたと振り返る。そこには美少女ゴーレム二体が並んでいて、それ以外何も変化は無い。そう、変化()無い。何故なら最初から、彼女たちは持っていたのだ。

 

「……ふあ?」

 

 白い気体が晴れていき、彼女達の全貌がわかる。赤髪の方は鞭を、ボブの方は首輪を、それぞれ手にチャラつかせながらニッコリと微笑む。そこで、カズマはあの日記の一文を思い出した。

 

 

あ、ちなみに俺Mだったわ。やっべ、俺やっべ! やっべぇ!

 

 

「さあご主人様、お仕置の時間ですよ?」

「ほら、いい声で鳴けよ! 情けないオス豚が!」

 

 カズマは悟った。これはそう、あれだ。使役できるとかできないとかじゃない。そもそもメイドでもない。ちらりと、ソウゴへと振り返る。するとソウゴは、何を思ったのかにっこりと微笑むとぐっとサムズアップを向けてきた。いやいやグッじゃない、グッじゃ。そういうのは求めてない。お前はどんな未来を視てるんだ。ピシャンピシャンと地面を叩く音が近づいてくる。アクアとめぐみんの顔は青く、しかしダクネスの頬は赤く。本当に、外で巨大ゴーレムを倒した時点で帰っておくべきだったと心の底から深いため息をつく。

 

「メイドじゃなくて、女王様じゃねぇかーー!!」

 

 もう四度目は勘弁してください。カズマは、天にましますエリス様に深く祈りを捧げた。




まおーのえーへーさんへ

きのうは、けがをなおしてくれて、ありがとう! みーあちゃんとも、うぃずおねーさんともなかよくなれて、とてもうれしいです! まおーのおにーちゃんとも、なかよくしたいです! おおきくなったら、およめさんになってもいいよ! また、てじなみせてね!

追伸:うちの娘がどうしてもお礼のお手紙を書きたいと言いましたので、今回筆を取らせて頂きました。それで、お嫁さんとはどういうことでしょうか? まさか俺の娘が可愛いからって今から唾つけとこうとかそういうことか? 出るとこ出てもいいんだぞこのロリコン野郎! 手ぇ出してみろぶち〇してやるからな!? ついこの間までパパのお嫁さんになる、なんて言ってた娘を誑かしやがって! だいたい何だ魔王って!? バカにしてんのか!? 今度娘に近づいてみろ、アクシズ教の入信書にお前の名前書いて提出してやるからな!! わかったか!!!
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