ダクネスの家で見たものとは比べ物にならないほど豪華な装飾が施されたシャンデリア。吊るされているカーテンには尊い身分の方々を守るために何か魔法が付与されているのだろうか、ぼんやりとした光が色づいて見える。真っ白な壁には緻密で細やかな彫刻が施されていて、部屋を整える調度品は流石王族とでも形容すべきだろう、カズマでも一目見れば高価そうなのが伝わってくるくらい繊細な造りに後光が差してる気さえする。汚れの一つでも付けようものなら、その一ヶ所だけがこの部屋で浮いてしまうような違和感を覚えるに違いない。現にカズマは小市民の代表らしく、入ってからずっと居心地が悪くて仕方がなかった。裏を返せば、その風景に調和するお姫様はカズマと違って一片の穢れもないということなのだろう。およそカズマたちの獲得してきた報奨金程度では揃えることが出来ないような贅沢な背景に、ことアイリスはよく馴染んでいたのだから。
それも当然。なぜならここは。
「え~……『ようこそ当城へ、サトウカズマ様。客人としてお招きしたのですから色々と気遣いは不要です。当面はここがあなたの部屋となりますのでどうぞお寛ぎください。では、冒険話の続きを』……とのことです」
レインが主の言葉を代弁すると、アイリスは満足そうににこにこと無邪気な笑みをカズマに向けていた。そのちっとも悪びれる様子のない笑顔に庇護欲を掻き立てられるカズマだが、まずは確認することがあると邪念を振り払ってレインへと視線を移す。
「つかぬ事をお伺いします、えっと……レインさんでしたっけ?」
「呼び捨てで構いませんよ。一応は貴族の端くれですが、ダスティネス家とは比べるまでもない小さな家ですので」
「じゃあまあ、レインさん。……これって誘拐ですよね?」
「違います。客人としてお招きしたのですから誘拐ではありません」
「いや誘拐だろコレ」
「招待です」
「……もう招待でいいです」
「ご理解頂き感謝します。ではカズマ様、冒険話の続きを」
これ以上は暖簾に腕押しというか、レインの真顔は一切崩れる気配がないため諦めた方が早いだろうとカズマが折れる。なんとか招待という体裁を保ちたいということは、流石に王族でも人攫いはまずいということなのだろうか。こんな世界でも形だけとは言え理性があったんだなと拐かされた身ながら少しほっとするのは、カズマもこの理不尽な世界に毒されすぎているのかもしれない。
まあそれは置いといて。期待に目を輝かせる幼気な少女を見て即刻帰してくれとも言いづらいし、可愛らしい少女から好意的な眼差しを向けられるのもやぶさかではないので水に流すこととする。むしろ、これくらいの幼い子なら後先考えず突拍子もないことをしでかすものだろうと妙に納得している自分もいるのだ。なんなら大抵のトラブルに慣れてしまったカズマ的には、懐いてくれたらお兄ちゃんとか呼んでくれないかなとすら能天気にも思い始めていた。
「あの……カズマ様?」
「えっ、あ、はい、話の続きですよね。続き……、続きかぁ……」
レインに声をかけられ現実に引き戻されるカズマ。しかしながらこの申し出を受けるとすると、カズマには新しく頭を悩ませる問題が浮上する。
「続きって言われてもなぁ……。さっき話したのでだいたい終わりですよ? 王女様が気に入りそうな話なんて……」
その問題とは、カズマには王女様が喜びそうな冒険話のタネが既に尽きてしまっているということだ。話してないのと言えば、ソウゴの口車に乗せられて酷い目にあった話や、アクアがやらかしてどえらい目にあった話、めぐみんの爆裂魔法関連で起きたギリギリ犯罪じゃない話に、あとはダクネスの性癖による情操教育に良くない話くらいだ。いつも行く先々で出会う格上の化け物たちと成り行きで戦わされ生きるか死ぬかの瀬戸際で藻掻いているようなカズマたちに、チート持ち冒険者がするような胸躍る冒険の覚えなどないのだから。
うんうんと唸って話を絞り出そうと記憶を掘り返すが、一向にそれらしいものが思いつかないカズマ。その姿を見てバツが悪そうに目を伏せたアイリスは、レインにちらりと視線を送るもすぐに首を横に振り不安げな声を絞り出した。
「……カズマ様、私のワガママに付き合わせて申し訳ありません。とても、困らせてしまっているのだと思います」
(そう思うなら誘拐なんてしないでほしかった)
なんてことは口に出せないカズマ。今にも泣き出しそうな儚げな少女を言葉責めする趣味がないのもそうだが、なにより悪意のようなものを一片も感じられないことが彼の口を閉ざさせたのだ。ついついしてしまったイタズラが親にバレて気分がしぼんでしまう。そんなことカズマにだって経験が無いわけではない。異世界人でもやることは変わらないんだなという暖かい視線を送るカズマにもじもじとまごつくアイリスは、顔色を窺いながらぽつぽつと言葉を発した。
「その……楽しそうなあなた方とララティーナを見て、どうしても知りたくなってしまったのです。人の良い面と、悪い面を。そうすれば……」
「……?」
そこで言葉に詰まるアイリス。しかしそこでぐっと何かを飲み込むように口を噤んだ彼女は、代わりにイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「……私の知るララティーナは、真面目で非常に慎ましく忠義に厚い、家臣筆頭に相応しい誇り高い貴族令嬢です。その社交界の華と称される美貌で婚約の話が幾つも上がるほどですが、未だに理由をつけて断り続け、本人は領民を守るためにと冒険者をしています。あなた方と接していたときのような砕けた態度や慌てた姿を見たのは本当に珍しくて……。私の剣の指南役をしていた時でさえ、あんな顔はしたことがありません」
「え゛っ、あいつが指南役……?」
「ふふっ、意外でしたか?」
貴族の前では猫を被るのは知っているのでいいとして、剣が当たらず拳で敵を倒すことの方が多いため格闘家の方が向いていると巷で噂のクルセイダーが剣の師匠とは何の冗談だろうかとカズマは耳を疑った。嬉々として肉壁になりに行く防御と〈デコイ〉による囮担当の問題児三号が人様に剣を教えている姿を想像できず、空想は形になる前に霧散する。もし両手剣スキルに一ポイントでも振ってくれれば指南役様の実力を拝めるのだろうが、今はそんなことよりもこの王女様まで空振りの達人なんて言わないよな、とカズマは不敬にもそんな感情を抱く。
そんな心中が顔に出ていたのか、くすくすと笑うアイリスは一瞬眩しいものを見たように目を伏せると、パッとカズマに柔らかい笑みを向けた。
「私はそれだけでララティーナのことを知っているつもりでいました。最弱職の事も、聞き齧った程度の知識で。しかしそれが誤りだったと、今日あの場で知ることが出来たのです。……冒険話でなくとも構いません。私はララティーナやお仲間にあそこまで慕われるあなたや、そして皆さんのことが知りたいのです。だからほんの少しで構いません。少しの間だけ、私とも遊んでもらえませんか……?」
彼女の向けてくる笑みに、人の悪い面なんか知ったっていいことないですよ、なんて本心からの言葉をカズマは口に出すことができなかった。アイリスが自分に向けるその笑顔がどこか儚く、何か届かないものを求めるようで、とても寂しそうに見えたのだ。自分はこの顔に弱いと、最近よくそう思う。なんというか、爆裂魔法を諦めようとした時のめぐみんのような、ここを軽口で済ますと取り返しがつかなくなってしまいそうな、そんな気がして。
しかし、これが厄ネタなのはなんとなく察せるのが経験というもの。笑顔なのにどこか自信の無い表情をする彼女へなんて声をかければ丸く収まるのか考えるカズマに、レインはアイリスに聞こえないよう耳元へと顔を近づけた。
「カズマ様。アイリス様は周囲より常に厳格な王族であることを強いられながらも反発することなく、十二歳というお歳でありながら普段からとても聞き分けのいい聡明なお方なのです。そのアイリス様が今回、我々が困るとわかっていて行われた数少ないワガママ。何卒お付き合いいただけませんか?」
「いや、いただけませんかって……。そもそもなんで俺なんです?」
「それは……私にもわかりません。トキワ様とお話しなさって、何か心境の変化があったのやもしれませんが……」
「じゃあソウゴで良かったでしょ、連れてくるの」
「それでも、アイリス様はあなたを選びました。理由は……私にも見当はつきませんが、それでもあなたを選んだのは間違いなくアイリス様の意思です。アイリス様がご自身の意思で何かをされるなど本当に、滅多にないことなのです。お願いします。数日で構いませんので……」
レインの真剣な眼差しにたじろぐカズマ。
どうして自分が王女様のお眼鏡にかなったのか、なぜソウゴではなく自分を選んだのか。疑問に思うことは多々ある。しかし十歳そこいらの少女から「遊んでほしい」と言われて、更に人にここまで真剣に頼まれてそれを断るほど、カズマは人の心を捨てたわけではない。それにカズマには別に一つ、気がかりなこともあった。
(そういや温泉で白ウォズが話してたやつ……。あれがもしこの子に関係あるなら放っておく訳にもなぁ)
仲のいい王族の兄妹だったが妹が王に選ばれたために兄が妹を手にかける、とかいう話だったとカズマは記憶している。細かい内容は忘れてしまったが、このまま冷たく突き放した上に同じような末路を辿ってしまっては寝覚めも悪い。まあ数日お城暮らしを満喫できると考えれば、面倒事以上に利はあると言えるだろう。カズマは自分にそう言い聞かせることにした。
「……わかりましたよ。じゃあ、仲間に数日こっちに泊まるってこと伝えてほしいのですが。あと、もう遅いんでできれば着替えなんかも」
「承知しました。ではすぐに」
そう言ってそそくさと部屋を出ていくレイン。カズマがその後ろ姿を見送りもう一度アイリスへと向き直ると、王女様はとても嬉しそうに屈託のない満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます、カズマ様!」
⏱⏲「じゃあ今夜は俺の事より身近なダクネス……ララティーナの話をしましょうか。他は明日以降で」「お願いします!」⏲⏱
「……アイリス様は?」
「中で客人とご歓談中です」
「そうか。しかし時間も遅い。続きは明日にして頂こう」
「我々もそう進言致しましたが、サトウ様が『夜はまだまだこれからだぞ、邪魔すんな!』と」
「たしか、冒険者になる前の職で徹夜には慣れていると言っていたな。それでもアイリス様を巻き込まないでほしいものだ」
「王女殿下からも『今いいところなので下がっていなさい!』と」
「早速悪い影響が出ている気がするのは私だけか……?」
扉の前に立つ護衛から話を聞き、扉の隙間から漏れ出る楽しそうにはしゃぐ主の声を耳にしながら肩を落とすクレア。いつもなら一度言えば素直に部屋に戻ってもらえるのだが、それほど話が面白いのか、それとも客人の無作法さがうつってしまい始めているのか、どちらにせよ頭痛のタネとしては十分過ぎて悩ましい限りなのは確かだ。しかしそれ以上に、アイリスがワガママを言ったという事実にクレアの心は嬉しさが大半を占めていた。
(普段は王族として威厳ある行動と我慢を強いられる日々だ。甘えられない父や政争相手とならぬよう御自ら距離を取られたジャティス様もいらっしゃらない今、カズマ殿の冒険話で少しでも気が紛れればいいのだが……)
現在、現国王と第一王子が魔王軍と事を構える最前線の街へと長期で遠征しているため、この城における事実上の最高権力者となっているアイリスが突然何の相談もなく連れてきた客人待遇の最弱職。幸い規格外の功績のおかげで城への滞在についてはトントン拍子に話が進んだものの、扱いをどうするか審議に時間を掛けすぎてこんな夜更けになってしまったことは否めない。それはそれとして、どんな形であれ主の数少ない望みが好意的に受け入れられたのは一重にアイリスという少女が家臣や従者に慕われている証拠だろう。そういうことなら、戦果を挙げた冒険者を王族が顔合わせついでに労うのが通例とはいえ、サトウカズマやその一行と接点を持てたことは思わぬ拾い物だったと言える。王族へ迎え入れるには素養が足りな過ぎるが。部屋から漏れ出るアイリスの感嘆の声を聴きながら、クレアはそんなことを思う。
「……それにしても、アイリス様は随分とお喜びのようだな。外まで声が漏れるとは」
「はい。レイン様がカズマ様にお着替えをお渡しになり退出なさってからずっと、王女殿下はたいへん興味深くお話に関心を向けておられるご様子です」
「そうか……。どのような話なのか、私も興味が湧いてきたな。少し同席させて貰うとするか」
「特に王女殿下はサトウ様の御屋敷で起きるダスティネス様とのちょっとエッチな感じの話に食いついておらr「そんな話殴ってでも止めろ馬鹿者!!」
⏱⏲「貴様ァッ!! アイリス様に何を吹き込んでいる!?」⏲⏱
「カズマ殿。その手の話をアイリス様にするのはやめていただきたい」
「でもダクネスの普段の話を聞きたいってアイリスが言うもんだk「様をつけろ様を!! 恐れ多くも王族を呼び捨てなど、そんなに切り捨てられたいかこの無礼者がァッ!!! 王女様と呼べェェッッ!!!!」
カズマの胸ぐらを掴み、顔に剣を突き立てるクレア。鬼の様な形相で殺気を向けるが、貴族階級などまるで意に介した様子のないふてぶてしい態度のカズマが萎縮する……なんてことは一切なかった。むしろ会食の時に散々見た発作かぐらいの感覚で、直接暴力に訴えかけてくる分ソウゴより扱いが楽だなくらいにしか思っていなかった。
切っ先を向けられても全く懲りた様子のない客人を見て耳のひとつでも削ぎ落としてやろうかとクレアが考え始めた時、アイリスが彼女に待ったを掛けた。
「剣を収めるのですクレア。カズマ様には私がアイリスと呼んでいいと言ったのです」
「し、しかしアイリス様。数少ないアイリス様のワガママで何か問題が起きれば反王派の貴族に足元を掬われ……」
「そんなことよりカズマ様。ジャイアントアースウォームに捕食されヌルヌルになったララティーナは恍惚な表情でどうしたのですか!?」
「いけませんアイリス様! その話の続きはアイリス様にはまだ早過ぎる気がします!!」
「ダクネスはヌルヌルのまま鎧を脱ぎ捨てt「やめろと言ってるだろ貴様ァッ!!」
「仕方ないだろ! ダクネス関係じゃこれでもまだマシな方の話なんだぞ!?」
「もっとあるだろう!? あれほどの腕のクルセイダーの逸話がそんなものばかりの訳があるかッ!!」
「だからねえって!」
⏱⏲「こいつめんどくせぇな!」「こいつとはなんだ! 私はダスティネス家にも並ぶシンフォ⏲⏱
「それで、ガッコウというところの『ぶんかさい』について詳しくお願いします!」
「おう、いいぞ」
アクアがギャンブルでクエスト報酬を全額溶かした話や、めぐみんが街のチンピラをフィジカルでボコボコにした話をしようとする度に声を荒らげていたクレアは、流石に疲れたのか椅子にもたれかかってうなされるように船を漕いでいた。それを横目に、「お前たちの日常の話は創作を疑うくらいには刺激とクセが強過ぎる」と怒られたカズマは、なけなしの引き出しから前世の話を引っ張り出してきていた。異世界とか説明が面倒なので東の方の平和な異国の話ということにしたが、カズマにとって退屈だった日々は自国の外を知らないお姫様にはとても魅力的に聞こえたらしい。まるで御伽噺を聴いている子どものように、アイリスは目を輝かせ耳を傾けていた。
「アイリスと同年代くらいの子達だけで出し物をするんだよ。飲食店とか、演劇とか、お化け屋敷なんてのもあってな。要するに学校単位でするお祭りみたいな感じだな」
「まあ、なんて楽しそうで夢のようなところなのでしょう……! でも、子どもだけのお店なんてお金を払わないお客が来たらどうするのかしら……? それに大勢で店を切り盛りするなら全員の給料を賄える利益を出さないと……」
「そんな大げさに考えることないよ。お揃いの制服を着たり客を呼び込んだりなんかして、皆でわいわいやりながらお店ごっこをして楽しむのが目的だからな。それほど儲けようとか思わないんだ。それに、子どもから巻き上げようなんて輩は先生がそもそも学校に入れないし」
「なるほど……。よかった、カズマ様の故郷は平和なのですね。いいなぁ、ガッコウ……。私もそんなところへ通えたら……」
「でも文化祭なんて楽しい行事は年に一回っきりだぞ? それ以外の日はしたくも無い勉強や運動嫌いを増やすことで有名な体育なんかをさせられるんだからな。アイリスだって通ってたらきっと嫌になってくるよ」
「そんなことありません! きっと、毎日が楽しいんだろうなぁ……」
羨むように、しかし諦めたように、アイリスは呟く。紅魔の里にはレッドプリズンなる学び舎があったが、そもそもこの世界には義務教育制度などという概念は存在しない。前にダクネスが領地があればやってみたい、なんてことを言っていたが、王族であるアイリスなら一言言えば学校くらいポンポン建てられそうな気さえする。だからこそほんの軽い、冗談くらいのつもりでカズマは言った。
「そんなに気に入ったのなら、学校作っちゃえばいいじゃないか」
「……え?」
「あって損する施設でもないし、絶対この国のためになるって。ダクネスだって賛成みたいなこと前に言ってたぞ?」
「あの……、ですがそれは――
困ったようなアイリスが何かを言おうとした時、カンカンカンカンと鍋の底をお玉で叩くような警戒音が響く。続いてけたたましいサイレンが王都中に鳴り渡ると、うつらうつらとしていたクレアが
パッと目を覚まし素早く立ち上がった。
『魔王軍襲撃警報! 魔王軍襲撃警報! 騎士団はただちに出撃してください! 冒険者の方もご協力お願いします!』
「ま、魔王軍!?」
「奴らめ、性懲りも無く……! 失礼します。アイリス様はここに」
うるさいくらいの警報にカズマが驚いていると、さっと窓から外を覗いたクレアは状況を把握し、すぐさま部屋から駆け出していく。王都なんていえば貴族が集まる煌びやかで戦争とは縁遠い街を想像していたカズマが唖然としていると、その表情を見て察したのか、アイリスは寂しそうに笑いかけた。
「……国がこんな状況ですもの。とてものんびり学業だけに勤しむなんて……ましてや王族である私がそのような事望むべくもありません」
(“王族”、か……)
そう言う彼女の表情は、この城に来てから時たま見せる諦めの色がありありと出ていた。自分よりもずっと幼い少女とは思えないほど大人びたアイリスの顔を見ていると、ふと脳裏に過ぎるのは主のことを思うレインとクレアの言葉。
『アイリス様は周囲より常に厳格な王族であることを強いられ、十二歳というお歳でありながら――』
『数少ないアイリス様のワガママで何か問題が起きれば反王派の貴族に足元を掬われ――』
(……そうだよな。アイリスはまだ十二なんだよな)
カズマには政治なんて難しいことはよくわからない。自分たちのような平民とは身分が違う人たちが社会を回すためにしている小難しいことくらいの認識しかなく、自分とは無縁のことだと思っていたからだ。
しかし目の前の賢い王女様は、王族に生まれたからという理由だけでやりたいことも我慢させられ、似合いもしない偉そうな王族っぽい振る舞いを強要され、政治というものに自由を奪われている。自分から王になりたがっていてその資質を十分すぎるほど持つソウゴを“生まれながらの王”とするなら、アイリスは“王であることを運命づけられた少女”なのだろう。やりたいことがたくさんあっても、不満がたくさんあっても、でもそれが無い物ねだりだとわかっているから、彼女はこの現実を悲観することなく受け入れている。これがこの世界の、貴族としての当たり前なのだ。そのままならなさがなんとなく、カズマの胸の内をチクリと刺す。
何かこの数日の間でしてやれることは無いか。そんなことをカズマが柄にもなく考えていると、その焦燥を不安と解釈したのかアイリスはまた諦めたような優しい笑みを見せた。
「カズマ様、楽しいお話をありがとう。日が昇る頃にレインに元の街まで送ってもらうといいです。また今度、お話の続きを聞かせてくださいね」
「えっ、今度って……。数日って話だったろ?」
「……ここもこうして魔王軍からの襲撃がありますし、危険がない場所とは言えません。帰ったらララティーナにあなたを勝手に連れてきてごめんなさいと、謝っておいていただけませんか?」
きっとカズマより毎日不安な思いをしている少女が、王族だからという理由でカズマを気遣っている。普段のカズマならなんやかんやと自分に言い訳をしてお暇していたはずだ。客観的に見てもカズマがいたところで何か物事が好転するというわけもなく、自分より高レベルかつ腕の立つ騎士団や冒険者といっしょに戦闘に混ざろうものなら邪魔にしかならないことはわかっている。大人しくアクセルに帰るのは当然いや、必然の成り行きだろう。
でも、ここで何もせず帰ったなら必ず後悔するという確信がカズマにはあった。今まで通りの日常に、この子の辛さを見なかったことにしたという後ろめたさが付きまとう。もしかすると、いつかその辛さが王女様にとって、ひいてはこの国にとってプラスに働くのかもしれない。王族とはそういうものだと言われてしまえば、異世界の庶民であるカズマには反論することなんてできないのだから。
それでも。
(……俺ってこんなキャラじゃなかったと思うんだけどなぁ)
きっと、ソウゴならもっと上手くやるだろう。問題も全部解決して、みんな幸せのハッピーエンドにできただろう。そんな力も知恵もないのは、カズマ自身がよくわかっている。
それでも、
ガシガシと頭をかいたカズマは腰を落として、寂しそうな顔をするアイリスに目線を合わせた。
「なあアイリス。アイリスは、どんな王様になりたいんだ?」
「……トキワ様と同じことを聞くのですね」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな」
「……?」
あの時のソウゴが伝えたかったことなんてカズマにはわからない。純粋に王族が何を思っているのか気になっただけかもしれないし、何か探りを入れるために質問したのかもしれない。いくら考えたって、あの何を考えているかわからないソウゴの頭の中なんて誰にもわかりはしないのだ。だが、そんなこと今のカズマにとってはどうだっていい。例え意図が全く違っていたとしても、これがカズマの自己満足でこの選択が間違っていたのだとしても、今はこのキョトンとする少女に本当の笑顔でいてほしい。慣れないことをする理由は、ただそれだけだった。
「俺が聞きたいのは、アイリス『が』どんな王様になりたいかってことだ」
「私、が ……?」
「ああ。俺には王様がどうあるべきなのかなんてわからないし、ぶっちゃけそんな硬っ苦しいこと興味ない。でも、アイリスがどうありたいかは大事だと思う」
「私が、どうありたいか……」
「アイリスはすごく賢いから周りが期待するいい子であろうとしてるだろ? 自分がワガママを言ったら皆従わなくちゃいけないのが分かってるから、ワガママもなるべく言わない。王族だから仕方ないって割り切って、皆から求められる王族であり続けようとしてる。そうじゃなくてさ、アイリスがどうありたいかってことを俺は知りたいんだ」
「……私にはそれを決める権利はありません。ですが求められているということは、それが正しいということなのではないですか? それが私のなるべき王族の……トキワ様の言う目指すべき王様の姿のはずです。あなたの言う通り、私の意思を、ワガママを言ってしまえば皆に迷惑がかかりますから。今日のクレアや……カズマ様のように」
「人間、他人に迷惑かけずに生きるなんて無理な話なんだ。ウチのパーティーメンバーなんて息するように迷惑かけてくるぞ? それに、俺もあのクレアってお付きも迷惑なんて思ってないさ。きっとレインさんも、皆がもっとアイリスはワガママ言っていいって思ってるよ」
「……ですが王族は民の血税で生かされ、他国からの支援をもって今を維持しています。魔王軍という脅威から民を守り、他国へ被害を出さぬよう戦うことがベルゼルグの王族として生まれた者の責務。私にはその責務を課せられた者の一人として、何を置いても果たさねばならない役目があるのです。本当は、こんな子どものようなワガママなんて言っていられない立場なのです」
「そういう行儀のいいことは大人に任せとけばいいんだよ。それに、さっきも言ったけどそれはアイリスがなりたい王様じゃなくて、周りがアイリスにこうなってほしいって思ってる王族の姿だ。自分で考えて出した答えじゃないだろ?」
「でも……」
「アイリスはまず、自分に素直にならないとな。人っていうのは自分が満たされて初めて他人の事を考えられるようになるんだ。我慢ばっかりしてると、人の気持ちがわからない心の貧しい人間になっちゃうぞ」
カズマの舌先三寸な言葉に言いくるめられ、返事を詰まらせるアイリス。きっと蓋をしていた自分のこうしたいという心の内と、こうあるべきだという理性とで葛藤しているのだろう。なんとなく天使と悪魔の悪魔役をしているような気分でちょっと楽しくなってきたカズマは、ダメ押しとばかりにずいっと顔を近づけ意地悪っぽく囁いた。
「別に悪いことしろなんて言ってないだろ? ただ、アイリスはアイリスのしたいことをすればいいんだ。憧れてることとか、やってみたいこととかあるんじゃないか? ん?」
「それは、その…………あります」
「そうだろう、そうだろう。ならそれを一つずつやっていこう。そうすればその内、自分がどうありたいかわかるようになるよ。俺も付き合うからさ」
「でもそうすると、カズマ様はこの王都に留まることに……」
「そこは安心してくれ。俺は数多の魔王軍幹部と渡り合ってきた冒険者、カズマさんだぞ? 今更魔王軍の雑兵ごとき相手にならないよ」
「……いいのでしょうか。私が自分に素直に、ワガママを言っても。……あなたに、この城に残って欲しいと言っても……?」
「仰せのままに、お姫様。追加のワガママだっていくらでも言っていいんだぞ。もちろん、叶えられるのは俺のできる範囲でだけど。ていうか、これも俺の意見の押し付けだしな。誰かの理想じゃなくて、なんなら王様じゃなくたっていい。色んなことを体験して、考えて、アイリスが将来どうしたいかって自分なりの答えを出すんだ」
「私の答え……ふふふっ。面白い方ね、やっぱり。……昔のお兄様みたい」
「……なんだって?」
ぼそっとつぶやいたアイリスの言葉に、カズマは耳聡く反応する。聞かれると思っていなかったのか恥ずかしそうに頬を赤くするアイリスは、弁明しようと手をパタパタと振り出した。
「ち、違うんです! 私には実の兄がいて、昔はよくこうしてお話ししたのですが、王族の兄弟というのはある程度の歳になるとよそよそしくなってしまうもので……!」
「そういうの今いいから。……それで? 俺が何みたいだって?」
「えっと、その……昔の、お兄様みたい、と……」
「もう一回お願いします。もう少し砕けた感じで」
「……お兄ちゃんみたい?」
「スウゥ--------。……じゃあそのまま最初のワガママを言ってみようか」
「えっ? 最初の? えっと……もう少しお城に残ってくれますか、お兄ちゃん……?」
(拝啓、お父さんお母さん。俺、異世界で念願の義妹ができました)
ロリコンってこんな気持ちなんだなと、カズマは思った。
⏱⏲「俺、この城に永住します。お兄ちゃんなので」「いったい何があったのですかアイリス様!?」⏲⏱
「…………」
かれこれ一週間。カズマがアイリスによって王城に連れ去ら……招待されてそれなりの日数となった。当初は数日と言われていたが延長の話もなく、未だ帰ってきたという報告はテレポート先であるダクネスの実家からも来ていない。ここ三日ほど落ち着きなく一日中そわそわと部屋を徘徊するダクネスの奇行にも、もうすっかり慣れて日常の一部となってしまっていた。そんなダクネスに影響されてか、めぐみんまで目の下にうっすらクマを作りながらそわそわするようになり始めた頃、系統の違う挙動不審さを見せ始めた二人を眺めるのがちょっと楽しくなってきたソウゴは、アクアによって浄化された元紅茶を飲みながら首を傾げた。
「……そんなに心配?」
「ああ。カズマのやつがアイリス様に良からぬ事を吹き込んでいやしないかと……」
「あ、そっち。それはまあ、大丈夫でしょ。良からぬ事って言っても、せいぜいゲームのイカサマとかじゃない? ほら、カズマって袖隠しめちゃくちゃ上手いし。器用だよね」
「一国の王女にハイリスクなイカサマの方法を仕込むのはかなり問題だと思うのだが!? アイリス様は純真なお方なのだ。真っ白な絵の具に真っ黒な絵の具が一滴でも混ざってみろ……」
「権力を持った女カズマができるね」
「ああ、この国の終わりだ」
「そこまでは言ってないよ」
どうやらダクネスはカズマのことよりアイリスへの影響が心配らしい。強制送還されていないところを鑑みるに上手くやっているということはわかるが、怒られていないという保証がどこにもないのも事実。ダクネスの仲間という肩書きを持っていることは本人もわかっているので無茶なことはしないだろうが、調子に乗った時のカズマは急激に知能が低下し人のことを言えないくらいやらかすため、案外面白い方へ転がるかもと思いながらも不安な気持ちもわからなくはないソウゴだった。
対照的に、めぐみんは純粋にカズマの身の安全を心配しているらしい。
「何を言っているのですか二人共! あのカズマのことですから、もしかしたら今頃何か罪をでっち上げられて牢屋にぶち込まれていたりするのでは……!」
「そこまで悪いことになってる気はしないけど」
「しかし、疑いは晴れたとはいえ過去に我々をテロリスト扱いした元締めですよ!? 無断で滞在期間延長なんて、何か良くないことがあったのかもしれません!」
「落ち着けめぐみん。レイン殿の話ではカズマは客人待遇のはずだ。そう悪様に扱われることはない」
流石に一冒険者を誘拐した上に犯罪者扱いなどしようものなら、いくら王家とは言え面目が立たないとダクネスにはわかっているが、貴族のしがらみというのに疎いめぐみんにはいまいちピンとこない話らしい。不安そうな顔でローブを摘む姿は、いつもその辺の冒険者に気軽に喧嘩を売っている普段のめぐみんからは想像もできないくらい憔悴して見えた。
ダクネスがそんなめぐみんを宥めていると、これまでまったく会話に参加する気を見せていなかったいつも通り食後はソファで寝転がるアクアが、酒瓶を抱えたままむくりと起き上がった。
「……ねえ。そう言えばカズマって今、あの王女様のお客様って扱いなのよね?」
「突然どうした、アクア?」
「ていうことは、今カズマはお城で生活してるのよね?」
「まあ、そうなるな。流石に王女の客人を城下に追いやるわけにもいかないだろうし」
「三食昼寝とおやつにシュワシュワ付き。仕事もせず執事やメイドさんが身の回りを世話してくれてぐうたら三昧ってことよね?」
「シュワシュワはどうか分からないが、概ねそのはずだが」
「ずるいずるいずるい! カズマだけずるい! 私もお城暮らししたい!!」
「子どもみたいなことを言うな! したいと言って簡単にできることではないんだぞ!?」
「……そうです。いっそこちらから城へ迎えに行けばいいのです! 皆でカズマを取り返しに行きましょう!」
「めぐみんまで無茶を言わないでくれ! 王都へ行くのにいったい何日かかると思っているんだ? 上手くテレポート屋を乗り継いでも時間がかかるし、出費だって馬鹿にならない。それに、その間にカズマが帰ってきたらどうする?」
「それは……」
「王都に行きたいの? じゃあ行く?」
三人がバッとソウゴへと視線を集める。三人ともが同じことを思っているのだろう、「そんなことできるの?」みたいな顔で呑気に白湯を啜るソウゴを凝視していた。注目の的になっている本人はというと、普段通りのへらへらとした態度でうーんと一つ伸びをする。
「ダストとかウィズも気にしてたし、そろそろ迎えに行ってもいいかもね」
「行けるのですか……? そんな近所の飲み屋に泥酔したアクアを迎えに行くような感覚で……?」
「うん。準備ができたらすぐにでも」
「確か、ウィザード殿のテレポートは行ったことがない場所へは行けないのでは……? まさか、ソウゴは王都に行ったことがあるのか……!?」
「うん、あるよ。でも、最近は地図の距離感が掴めるようになってきたからワープで移動してるんだ。俺はどっちでもいいけど」
「え、いつ!? 聞いてないしお土産も貰ってないんですけど!」
「まあ休みの日にちょっと。それより行くの? 行かないの? まあ俺一人でも別に行くけど」
⏱⏲「行く!」「行きます!」「……」⏲⏱
「へー、ここが王都なのねー」
アクセルののどかさに慣れてしまうと、ひしめく建物に窮屈さを感じるのは致し方ないというもの。都会らしく賑やかな街並みは、やはり都と呼ばれるだけはあり背の高い建造物が多い印象を受けた。露天商や平屋が普通、高くても二階建てが精々の駆け出しの街とは違って、レンガ造りで三階建て以上の家屋が土地を争うように乱立しており、例えるなら日本人が想像する中世ヨーロッパのような街を形成している。服装からして住んでいるのは中流層以上が多いらしく、田舎では見慣れない華やかなドレスを纏う貴婦人やらシルクハットを被るダンディな紳士が石畳の往来を闊歩していた。
「アクアは王都、来たことないの?」
「ええ。私は日本担当のエリート女神ですもの。まあ私の場合はそもそも担当の世界以外興味無いし、担当だろうと直接干渉すること自体が天界の禁則だからアルカンレティア以外は知らないわ」
「へー。神様にもルールとかあるんだ」
「まーね。もう覚えてないくらい随分と昔、テオスって陰険なk「呑気に話している場合ではありませんよ二人とも! 我々は観光をしに来たわけではないのです! 早く城へ行ってカズマの安否を確認しないくては!」
「いや、その前にこの国の貴族としてどうしても確認しておかなくてはならないことがある」
興奮気味なめぐみんを制したいやに真面目なダクネスがコホンと咳払いをすると、逃げられないようその握力でがっちりとソウゴの肩を掴む。なんだろうと当のソウゴが不思議そうに首を傾げていると、いつにも増して真面目なトーンでダクネスは話を切り出した。
「ソウゴは休みの日、いつもこうして各地を転々としているのか?」
「うんまあ、たまにね」
「まさかとは思うが、他国へ行ったりなどは……?」
「今のところは」
そう答えた瞬間、ダクネスの握力がより強くなった。
「お前はただでさえ身分や立場があやふやな上、史上類を見ないほどの力を有しているんだ。そんなほとんど人辞めているようなのが魔法でもスキルでも再現不可能な謎の力で他国へ不法入国なぞしてみろ、我が国からの宣戦布告と受け取られかねないんだぞ?」
「やだなぁ、俺がそんなヘマすると思う?」
「確かにお前なら知らないうちに問題を起こして知らないうち全て解決しそうだが、もっと人を辞めている自覚を持てという話だ」
真剣に話すダクネスに「今のところは数えるくらいしか行ってないよ」などとは流石に言えず、静かに口を噤むソウゴ。これ以上は墓穴を掘るだけだなと思ったソウゴは、ダクネスに心の中で謝りつつ、いつも通りへらへらとした顔で「はーい」と返事を返した。
⏱⏲「だいたい、門番をしているなら緊急時以外で門や公的なテレポート屋を介さず街へ入るのが違法だと知っt「お城まで結構歩くね。ワープする?」お前話を聞いていたのか!?」⏲⏱
「…………早くあの男を連れ帰っていただきたい」
城に着くなりソウゴたちを出迎えたクレアは開口一番に、寝不足や疲れからか騎士としてはあるまじき大変にげっそりした様子でそう告げた。
「どうしたのだクレア殿!? 随分とお疲れの様子だが……」
「どうしたもこうしたも……。いや、ダスティネス卿も普段から苦労されていることでしょう……」
「は、はぁ……」
そこからクレアは流暢にこの一週間の出来事を教えてくれた。カズマがアイリスにボードゲームで使える姑息な盤外戦術を教えこんでいること、アイリスに『いんたーねっとすらんぐ』なる謎の暗号言語を覚えさせようとしていること、勉強の邪魔をしてレインを困らせていること、城壁にスプーンで穴を開け二人で城下への抜け道を通そうとしていたこと、サンマは畑で取れるだのパンの耳を主食にするリッチーがいるだのしょうもない嘘をアイリスに信じさせようとしていること、アイリスと一緒に城の色々な場所に水を入れた『ふうせん』を仕掛けて通りかかった人を水浸しにするイタズラをしていること、メイドにセクハラをしたり執事をセバスチャンと呼び無茶振りをしていること……。
挙げ始めたら止まらないのか、いつ息をしているのかもわからない勢いで呪詛のような恨み言を論うクレア。ソウゴもアクアもめぐみんも、所変わっても平常運転のカズマに心がスンッとなっていたが一人だけ、ダクネス一人だけが身内の恥ずかしさからか目に涙を貯めプルプルと子犬のように震えていた。
「……とまあ、アイリス様のお客人を強制的に送り返すことも出来ず困っていました。連日魔王軍は奇襲をしかけてくるし、城に戻ればあの男が騒ぎを起こしているしで休む暇もなく……。とにかく、即刻連れ帰って二度とアイリスに関わらせないでいただきたい」
「しゅみませんしゅみません!! うちの馬鹿が、本当にしゅみません!!!」
(付き合いが長いと謝り方も似るんだなぁ)
(付き合いが長いと謝り方も似るものですねぇ)
「付き合いが長いと謝り方も似るのねぇ」
この後アクアがダクネスにグーで殴られる未来が視えたので、ソウゴは絶対に口に出さないでおこうと心に秘めることにした。
オーサマくんへ
この間は逃げた玉ねぎを捕まえるの手伝ってくれてありがとうね! まったく、うちの旦那に息子ときたら痛みかけのナスやキュウリにやられて情けない……。娘の方がまだ役に立つのよ? ちょっと鍛えてやっておくれよ! 八百屋に婿入りしてきたってのに、その旦那がこの有様じゃおちおち配達にも行けやしないさね。いやまあ、そういう優しいところがあの人のいい所なんだけど……。そうだオーサマくん、うちの娘の婿に来ない!? 強いし気が利くし温厚だし良い男だし。娘も、親の贔屓目かもしれないけど器量はいい方だと思うのよね。まああんたのとこのお仲間には負けるけどね(笑) それ抜きにしてもいつでもおいで。オーサマくんならおまけしてあげるからさ!
追伸:娘も満更じゃなかったのよね。本当にうちの子にならない?
王国検察官検閲済