「賊だー! 賊が出たぞーッ!!」
先程まで夢うつつだった夜を、警備兵の声が打ち破った。すると先程までの静寂は無数の松明が光を灯したのを皮切りに、今か今かと待ち構えていた冒険者や騎士たちの汚名返上という名の喧騒へと姿を変える。
「いたぞ! こっちだ!」
「手配書通りの銀髪の少年に黒髪の男! あいつらだ!」
「逃がすなー! 今日こそ捕まえろーッ!」
散々コケにされてきたのが頭にきているのだろう、怒声は執念深く彼らを追い立て着実に退路を潰していく。罠を張り、逃げ込める隙間を潰し、小粒の石や弓で追い立て、待ち伏せて影から奇襲をしかける。全てはある男の読み通りに展開された布陣とその男が立案した騎士道など欠片もない作戦によるものなのだが、それが尽くハマりネズミらを面白いように袋小路へと誘い込む。敗戦に敗戦を重ねてもう五日。与えられたチャンスを棒に振り続けている狩人たちには騎士や高レベル冒険者としてのプライドなどもう少しだって残っておらず、ただ貪欲に勝利を求めるだけの飢えた獣しかその場にはいなかった。
そんな彼らを遠目で見ているこの場で最もレベルが低い最弱職の冒険者は、険しい顔で到着したばかりの戦局を眺めていた。
「サトウカズマ殿! お待ちしていました!」
「状況はどうなってるんだ?」
「はい! 銀髪盗賊団と思われる二名を確認。作戦通り屋敷の敷地から出さないよう周囲の家屋の屋上から牽制しています。屋敷の人間は使用人棟に退避済みですので、屋敷に引き返されても前のように変装されて逃げられる心配はないかと」
銀髪盗賊団。誰が呼び始めたのかそんな通り名が付けられた二人組は、非常に軽やかな身のこなしで追跡をいなしていく。随分と嫌われたものだな、なんて心の中で嘆息しつつ、今や賞金首として有名になった彼らの動きを観察し、カズマは伝令役に指示を出す。
「……そろそろ銀髪の方が何かアクションを起こしてくるはずだから解呪魔法の準備を。二人とも近接から中距離までが攻撃範囲だから今まで通り接近は控えるように。上からの攻撃は当たらなくても威嚇になるから続けさせてくれ。待機してるスカウト班は念の為三手に分かれ〈潜伏〉を使って例のポイントへ移動。それから、何人か今日初めて俺の指揮下に入ったタンク役を突撃させて連携がきちんと取れてない感じを出してくれ。追い込むぞ」
「わかりました!」
伝令役の衛兵が素早く身を翻し前線へと戻っていく。銀髪の方も、黒髪の方も、知り過ぎているくらいに癖は熟知している。そろそろ銀髪は遠距離からの石の礫や当たらない弓などの消耗戦に痺れを切らせ、目くらましと盾を兼用した〈ワイヤートラップ〉を使ってくるはずだ。黒髪はそれが無効化されることを見越して、解除されるまでのわずかな隙に脱出経路確保の為の別行動を取るだろう。黒髪に待ち伏せが効かない以上、銀髪をポイントへ追い込み捕らえるにはその瞬間しかない。
(まあでも、こそこそ別働隊が動いてもソウゴにはそいつらの魔力で気付かれてるだろうし対策はもう打たれてるよな。あいつのことだし、今日はクリスをエサにして油断させて気が緩んだ隙をついて逃げた……みたいな感じで終わりにするつもりかな)
今日のオチまで予想したカズマは、ふーっと強ばっていた肩をほぐす。いつバレるともわからないこんな悪質なマッチポンプに気後れする部分はあれど、最近はどうやればソウゴたちに一泡吹かせられるのかと戦略を練るのが楽しくなってきているのも事実。それ故に、いくら手を尽くそうと手の届かない背中を遠く感じながら、カズマは自分がこんなことをする羽目になった晩餐会の、あの後のことを思い出していた。
⏱⏲時は六日遡って⏲⏱
肩に背負った風呂敷を金貨でジャラジャラと鳴らしながら寝静まった王都の夜を揺り起こす影が一つ、自分の懐だけは大丈夫と高を括っていたマヌケの屋敷からそっと抜け出してくる。明日の朝には大騒ぎだろうが、月が睨みを効かせる時間帯は巷を騒がせる義賊も大人しいもの。科学捜査など存在しないこの世界で証拠を一つも残さないことなど彼女にとっては造作もないことで、多少警備が厳重な程度はまったく問題にならなかった。抜き足差し足忍足、されど素早く標的の屋敷から離れていき、深夜なら誰も好んで通らないような、それでいて彼女にとっては慣れ親しんだ街灯のない裏路地や屋根の上を駆け抜け、警戒中の衛兵や騎士たちの目を掻い潜っていく。そしていつも通り誰も見ていない隙にエリス教の教会に忍び込み、抱えた風呂敷を月明かりが照らす女神像から見えるよう講壇の前に下ろすと、仕事を終えた彼女はふぅと一つ息をついた。
「よーっし! 今日も大漁大漁♪」
所詮は上の人間にバレないようこそこそと小狡い悪事を重ねて肥やした私腹という名の贅肉だ。多少なりと削ぎ落ておいた方が国という名の体は健康になっていくだろう。ついでにその余計な栄養は行き届いていない末端に還元すれば世のため人のためにもなる一石二鳥。独善的な考え方かもしれないが、最近は先輩女神の奔放で楽しそうな姿や気ままな魔王の日々に付き合わされているせいか、自分の思うままに行動してみるのも悪くないんじゃないかと思い始めている自分がいるのだ。なんて言ったって、今の自分は引っ張り降ろされた先輩女神や追い出された魔王と違って
長ったらしい自分への言い訳は程々に。大漁とは言いつつも初めに比べれば幾らか目減りした風呂敷を見下ろし、クリスはうーんと唸りながら頬の傷を掻いた。
「それにしても、最近は荒らしすぎて骨董品や宝飾品に替えちゃう貴族も増えてきたなー。神器だって二つとも見つからないし、そろそろ対策立てないと……」
「ねえクリス。骨董品や宝飾品じゃダメなの?」
「ダメだよ。貴重なものだったら換金する時に持ち主がわかっちゃって足が着いちゃうし、仮に買い取ってもらえても売り手が価値をわかってなきゃ相場より買い叩かれたりもするし。やっぱり現金が一番だよねー」
「なあクリス。最近はって言ってたけど、前は違ったのか?」
「一昔前は今より人間側が全然弱かったから色んな街が魔王軍に襲撃されてて、領主が討死とか一夜で領地が焼け野原なんてこともあったんだよ。だから最悪砕けても価値の残る金や銀の硬貨が重宝されてね、その名残りで純金貨や魔銀貨を溜め込む貴族が多かったんだ。それが近年だとアクア先輩がポコポコ神器持ちの勇者候補を喚ぶから戦力も拮抗してきて、前線にいた貴族たちは暇を持て余して都市部に引きこもり堕落したり腐敗する余裕が――」
はて、とここでクリスは疑問に思う。自分はどうしてこうもするすると誰かに愚痴をこぼしているのだろうかと。今この教会の中には自分しかいないはずで、モンスターや人間からの敵意や悪意は向けられていないことが〈敵感知〉のスキルを発動している自分にはわかっている。それにこの聞き覚えのある声と自分の名前を知っていて馴れ馴れしく接してくる態度。そして何より自分を出し抜けるくらいの人物となれば自ずと誰かピンとくる。ギギギと錆び付いた歯車のような音が鳴りそうなぎごちなさで腰をゆっくり後ろに捻ると、深夜の暗がりでもわかるくらいよく見知った二人がチャーチベンチに腰をかけていた。
「……やあ、ソウゴくんにカズマくん。こんな時間にお祈りかな?」
「こんばんはクリス。今日は君に、頼みがあってきたんだ」
足を組んで神聖な教会でふんぞり返るソウゴは、かしこまって座るカズマにちょっと引いたような目を向けられながら意地の悪そうな笑みを見せた。
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
この世界における“盗賊”とは、決して泥棒という意味ではない。
物騒な名前ではあるし言葉の意味としては同義なのだが、野盗とは違って立派な冒険者の職業の一つに当たる。パーティーにおいてやることは探知や索敵、罠の解除などシーフというよりレンジャーやスカウト寄りの職であり、仲間を暴力以外の脅威から守る役割を担っている。暗く危険なダンジョン探索はもちろんのこと、屋内外においても近接格闘や罠を設置するスキルによる中距離支援で貢献する、パーティーにできれば一人は欲しい有用な中衛職と言えよう。念を押すようだが決して、利己のために盗みを働くような者達を指す言葉ではないのだ。
しかし、きっとこの盗賊という職業は神にとって同系統のレンジャーやスカウトと比べ色々と都合良かったのだろう。気配を消し身を潜める〈潜伏〉、逃げに徹する〈逃走〉、相手を縛り隙を作る〈バインド〉、お目当てのものを見つける〈宝感知〉、相手のスキルを封じる〈スキルバインド〉etc、etc……。そう、盗賊という職で得られるこれらのスキルは自分が天より課せられた神器回収というお役目と非常に相性が良かったのだ。そこでクリスは考えた。なら効率的な神器の回収だけでなく、悪い人間を懲らしめながら助けを求め天に祈りを捧げる幼い信徒たちを救うこともできるのでは、と。この職に自分が就いたのは、きっと神から与えられた多くの迷える人々を救えというお導きなのだ。
「――ていうのが、市民人気絶大の大義賊クリス誕生の経緯だよ」
「ほー……」
「あれ、反応薄いね。何かわからないところあった?」
「いや、見知ったヤツが義賊してたってだけで驚きなのにそれがエリス様のお願いまで絡んでると思ったら、クリスって実は凄いヤツだったんだな、と」
「い、いや~。そんな大したことはないよ~」
(となると、さっきの愚痴っぽいのはエリス様が言ってたのか? とりあえずあの駄女神は一発シバいとくか)
あははと困り顔で頬の傷を掻くクリスは、女神像の真ん前でソウゴの口からぺらぺらと語られる嘘とは言い難い感じの内容に肯定も否定もしなかった。冒険者として資格を得たのには他にも理由があるのだが、ここで語る必要も無いだろうと割愛しておく。しかし余計なことに巻き込んできたソウゴの脛を報復とばかりに蹴るのは忘れてやらない。
ゲシゲシと脛を蹴られながらも平気そうなソウゴは見ていないことにして今頃ベロベロに酔っ払い宴会芸でダクネスの顔を青くしていることだろうパーティーメンバーへの鉄拳制裁をカズマが決意していると、こほんと咳払いをしたクリスはボロを出す前に話を変えにかかった。
「それで? さっき言ってた頼みってなんなのさ?」
「そういや俺も何するのか聞いてなかったな」
「ああそうだったね。……実はクリスに、協力してほしいことがあるんだ」
「協力してほしいこと?」
蹴るのをやめ訝しげに首を傾げるクリス。わざわざ義賊として活動中の自分の正体をカズマに暴露してからの魔王直々の協力のお話だ、何か込み入った事情があるのかと身構えざるを得ない。しかし当のソウゴはいつも通りのへらへらした笑顔で、事も無げにこう言った。
「俺たちと八百長してほしいんだ」
「「八百長……?」」
これにはクリスだけでなく、カズマも怪訝な顔をみせた。あまりにも同じ顔をするものだからソウゴがくすくすと笑っていると、神妙な面持ちのまますっとカズマが挙手をする。
「おいソウゴ。まさかとは思うが、義賊してる最中のクリスを公衆の面前で捕まえさせろって意味の遠回しな死刑宣告じゃないよな? 確かに義賊は捕まえないと困るんだが……」
「ええ!? 二人ともアタシを捕まえに来たの!? てっきりどこか盗みに入ってほしい貴族の屋敷があるから警備を手薄にしておくとかそういう話なのかと……」
「なんで俺たちがそんな強盗幇助しなきゃいけないんだよ!? このままクリスをお縄にかけて王国に売り飛ばせば俺の安泰なお城ライフが待ってるのに、そんな危ない橋渡るわけないだろ!?」
「待ってよ! その言い方だとアタシこのまま処刑まっしぐらなんだけど!?」
「大丈夫だって。ダクネスに事情話せば親友の極刑くらいは回避してくれると思うし、最悪首チョンパされてもソウゴが繋げてくれるから! 前科持ちの冒険者なんて珍しくもないし!」
「何も大丈夫じゃないよ!? カズマくんは最近命を軽く見すぎてないかな!?」
静かな教会に醜い言葉の応酬が木霊する。やいのやいのとお互い自分の不都合を押し付け合う様は……まあほとんどカズマがクリスに無茶を押し付けようとしている様は見るに堪えないものがあるが、幸いにも二人の想像するところはソウゴの想定からは大きく外れている。これ以上この不毛な争いを続けさせる意味は無いとパンパンと手を叩いて仲裁するソウゴは、ヒートアップし始めていたクリスとカズマの間に割って入った。
「二人とも落ち着いてよ。俺は二人にとってすっごく良い話を持って来たんだ」
「「良い、話……?」」
なんとなく、二人は嫌な予感がしていた。この男がただうまい話を持ってくるとは、クリスも、カズマだって微塵も思っていないからだ。胡散臭いセールスマンでも見るような目を向けてくる二人にへらへらとした笑みを見せるソウゴは、まるで謎かけでもするように口を開いた。
「そ。カズマは王城の人達に実力を認めてもらってお城暮らしを継続しアイリスの境遇を変えてあげたい。クリスは神器の回収をしながら困ってる人たちの為に義賊を続けたい。……これって両立するんじゃない?」
「いや、しないだろ。俺は義賊捕まえなきゃいけないんだぞ?」
「アタシ、捕まったら情状酌量の余地無しだよ? 両手の指じゃ足りないくらい貴族の屋敷を荒らしたもん」
カズマとクリスは二人揃って首を横に振る。お互いそれを理解しているからこうして平行線な言い争いをしているのだが、しかしソウゴだけはちっちっと指を振って二人を窘めた。
「カズマ。君の目的はクレア達に実力を認めさせることで、義賊を捕まえるのはその手段に過ぎない。じゃあ、どうして義賊を捕まえたらカズマの実力が認められるの?」
「そりゃ騎士団やチート持ちの奴らができなかったことだからだろ」
「その通り。要は手柄云々じゃなくて、彼らの頭の中にある“カズマは最弱職でグータラで王女様に寄生し堕落させようとしているダメな人間”って刷り込みを“慧眼な王女様に一目置かれ慕われている実は凄い冒険者”に変えてあげればいいわけだ」
「俺って今そこまで酷い人間だと思われてんの?」
「そこで俺は、二人にとって最善になるはずのプランをご説明しようと思います」
こほん、と咳払いをして話を区切る。内容が気になるのか前のめりになるカズマと、嫌な予感がしているのか口角が引き攣るクリス、そしてそれを見て見ぬふりをしてへらへらと笑うソウゴ。三者三様の反応を示しつつ、ソウゴは強調するように人差し指を立てた。
「まず、今までしっぽも掴めなかったはずの義賊をカズマに先回りして待ち構えていてもらいます」
「いきなり無理な前提から始めるんじゃ――いや待てよ。クリスが義賊だったってことは次狙う貴族も打ち合わせができて、そこの警備もこっちの裁量でどうとでもなるのか……?」
「さ、最初から国家反逆罪に足突っ込み過ぎじゃないかな……? これ聞かなかったことにしてあげるからアタシ帰りたいんだけど……」
「せっかくだし最後まで聞いてってよ」
「巻き込まれたくないって言ってるんだけど!?」
あっけらかんとへらへら笑うソウゴとは対象的に、気づいてはいけないことに気づいてしまったカズマとクリスの顔が青ざめていく。初めの一歩から「これ以上踏み込むと一線の向こうに行ってしまうのでは?」という空気が滲み出てきているのだが、クリスの抵抗もスルーして畳み掛けるようにソウゴは話を続けた。
「でもやっぱり凄腕と噂の義賊相手はカズマだけじゃ荷が重くて、奮闘の末にあえなく逃げられてしまうけど被害は出なかった。だから今度は確実に捕まえるべく、騎士団や高レベルの冒険者の手も借りていくつかめぼしい貴族の屋敷に分散し迎え討つ。最弱職一人で撃退できたんだからと、この時点でみんな楽な仕事だと思ってるだろうね。でももし義賊がそんな騎士団や冒険者を真正面から難なく倒せるくらい強かったら? 残念なことに、カズマがいなかったせいで呆気なく貴族の金庫は荒らされてしまう。すると、カズマへの周りの評価ってどうなると思う?」
「……少なくとも、騎士や王都の冒険者より俺は腕が立つか頭がキレると思われる可能性が高い……?」
「そうなるよね」
「上手くいけば! 見てきたみたいな口ぶりだけど、これって全部上手くいけばの話だよね!?」
「お、おお、そうだな! 上手くいけば! 上手くいけばだよな!」
「そうそう。そんな何でも都合よく上手くいくわけが……」
稀代の詐欺師に洗脳され始めているカズマの思考をなんとか引き戻したクリスだが、否定的な意見を口にしようとも「ない」と断言できないのがソウゴというイレギュラーな存在である。きっと離れた位置からクリスに見せかけて攻撃することだってできるのだろうし、なんなら透明にでもなって直接手を出すこともできるかもしれない。どんな否定の言葉を用いても、この男が「できる」と言えばできてしまうのだから。
カズマの心が若干なりと傾いていることにうっすら笑みを見せるソウゴは、クリスが言葉選びに迷っている間に都合のいい未来を囁く。
「じゃあ全部上手くいったと仮定しよう。上手くいったとして、もしそれ以降カズマの奮闘も虚しく義賊に逃げられ続けたって文句を言われる筋合いはないよね? だって実績のある騎士や名のある高レベル冒険者でもできなかったことを最弱職がやってのけてるんだから。カズマは評価され、クリスは捕まらず、この国の悪い貴族は痛い目を見て困っている人達が助かる。みんな幸せハッピーエンドだ」
「なるほど、確かに……」
「冷静になってよカズマくん! 何度も言うけど上手くいったらだからね!? バレたら国家反逆罪で二人仲良く処刑台コースだよ!? 今度は言いがかりじゃなくて本当のテロリストになっちゃうんだよ!?」
「二人じゃないよ。俺も義賊としてクリスの手助けするから三人だね」
「落とされる首が一つ増えただけじゃん! ……って、首謀者だから当然なんだけどさ!」
「でも、余裕そうなソウゴを見てるとなんかいける気がしてこないか……?」
「いやその気持ちはわかるけど! わかるけど、一つでも歯車が狂ったらお終いだよ!? バレたらダクネスたちだけじゃなくて、君が会いたがってる王女様にだって迷惑がかかるんだよ!?」
「そうだよな……。いやでもなぁ……」
「何言ってるのさクリス。そんな未来、俺には視えないよ?」
「君が目指してるものは本当に最高で最善の結果なんだろうけど、その途中式には毎回良心が勘定されてないよね!? アタシが言うのもなんだけど、ほとんど犯罪だからね!?」
「要するにバレなきゃ合法ってことだね」
「君の場合は法整備が追いついてないだけだから!」
この王様をこれ以上野放しにしていていいものかと、クリスは頭を抱える。彼が一切の迷いを見せていないので下手を打つことはないのだろうが、なんでもできてしまう存在というのがここまで厄介だとは思ってもみなかった。普段は理性的なのに対して最適解を弾き出すと最短ルートを掘削して進むソウゴに、僅かばかりの恐怖を感じるのは仕方ないことだろう。しかし事の重大さを理解していないのか依然としてへらへらと笑うだけのソウゴは、チャーチベンチに体重を預け直す。
「まあ色々言ったけど、やるやらないを最後に決めるのは二人だ。でも俺はこの選択が最善だと確信してるし、リスクに見合った未来を約束しよう。二人はどうしたい?」
そう言って選択をこちらに委ねるソウゴ。きっとここでどちらかが断ればこの話はお流れになり、もう少しリスクが低く実りの少ない安全な案を出してくるのは違いない。嫌なら断ればいい。ペナルティなんてないし、首を横に振るだけなのだから簡単なことだ。
しかし、カズマもクリスもどうしてかノーと言うことを躊躇ってしまっていた。それは、この話を受けることのメリットよりも考えうるデメリット……忘れてはいけない懸念事項というものが二人にはあるからだ。
(処刑台コースはごめんなんだが、俺が城に残るためにできることって言えば後は魔王軍との戦いで功績を残すとかなんだよな……。俺一人でなんて袋叩きにされたらエリス様のお世話になるだけだし、アイリスのそばに居るためにはリスクを覚悟してやるしか……!)
(この話に乗って二人に貸しを作っておけるのは大きい。ソウゴくんのサポートがあるならアタシにとって悪い話じゃないのは確か。でもそれ以上に、断ったら弱みを握られるだけの可能性があるのが痛すぎる! ソウゴくんに義賊やってるってこと話したのは迂闊だったな……!)
二人の心中を知ってか知らずか、悪巧みを背景ににこにこと晴れやかな笑顔を見せるソウゴの態度は、答えなど分かっているかのような実に落ち着いたものだった。その悪魔、もとい魔王の前でカズマとクリスは恐る恐る顔を見合わせ理解する。お互いわかっているのだ。ここで首を横ではなく縦に振ること以外の選択肢は用意が無く、そしてそれが二人にとって最も利益になる一番の選択肢だということを。
それはそれとして、最善の選択のために色々犠牲にし過ぎではないかと思うのはきっと間違いではないのだろう。両手を挙げ降伏するしかない二人はそんなことを考えていたせいで見逃していた。
不敵に、含みを持って笑う魔王の顔に。
⏱⏲時は戻って⏲⏱
(いやぁしかし、いつもながらご都合主義の如くソウゴの予定通り事が進んでるなぁ。まあ未来が視えるなら当然か)
昨日もあと一歩のところで義賊には逃げられました、と王の間でアイリスに膝を着き恭しく報告し終えたカズマは、一人そんなことを考えながらベッドに寝転がりお菓子を貪り、アイリスが遊びに来るのを待っていた。
昨夜の襲撃もやはりと言うべきか、クリスたちに軍配が上がるという結末で幕を閉じた。一つ想定外があったのは、あの後二人ともが逃げずに正面突破という力技で退路を切り開いてきたことか。時空に関する権能の一切を使っていないソウゴがフルプレートのアーマーを拳で凹ませるなど、あの空間だけがいつの間にか少年誌のバトル漫画にジャンルが変わっていたが、その一撃で慄いてしまった彼らの脇を抜けて正門から堂々と王都の闇の中に消えていった姿に、盗賊団に箔をつけるにもちょっとやりすぎなのではと引いた記憶が新しい。
(手抜きすると周りにわかるから本気でやれって言われてるとはいえ、俺がいくら知恵を搾ってもアイツらに勝てるビジョンが見えないんだよな)
素手でダンジョンの壁をぶち抜ける上に頭も回るソウゴと紅魔の里でアマゾン相手にゆんゆんのアシストを難なくこなしていたクリスが正攻法とカズマの浅知恵に対策を立てているのだから当然と言えば当然なのだが、それはそれ。単純な兵力差はこちらの方が圧倒的なので、手数で上回るこちらが連敗を喫しているのは純粋に指揮を執っている自分の力不足が大きいのだろう。それについてほんの少しばかり悔しく感じたってバチは当たるまいと、カズマは眉を下げてみせる。
とはいえ、最初のソウゴの目論見通り王国の騎士団や高レベル冒険者に先陣を切らせることで捕まえられないけど追放もされないという絶妙なバランスを保っている。狙われている悪徳貴族たちは涼しい顔の下で阿鼻叫喚しているそうだが、明らかにカズマのことを下に見ていた城勤めの人たちや騎士たちからの印象が良い方に改善されたことは素直に喜ぶべきだ。おかげで城での居心地が格段に良くなっており、一生ここで暮らしたいとまで思うほどである。
「ま、考えても仕方ないか。今日はアイリスと何して遊ぶかなぁー。高速アルプス一万尺は昨日でマスターしたし、次はマジカルバナナか山手線ゲームでも……」
なんてことを口走っていると、扉をコンコンとノックする音がした。おや? とカズマは不思議に思う。いつものアイリスならノックなんてせずに部屋の中へ飛び込んでくるのだが(というかそのほうが妹っぽいのでそうするようアイリスに言ってある)、扉は一向に開く気配は無い。ルームメイクの時間でもないし、ハイデルに何かを頼んだ記憶もない。もちろん〈敵感知〉スキルに反応はなく、暗殺者やクリスたちに懐を漁られた貴族たちの八つ当たりということもないだろう。
考えても仕方ないしとりあえず出るかと身を起こしたカズマは、はーいと声を掛けながら扉を開く。するとそこには、珍しく思い詰めたように目を伏せるアイリスが立っていた。後ろには神妙な面持ちのクレアとレインが控えていて、なんとなく、只事ではないと感じさせる雰囲気だった。
「一応聞くけど、今日は四人でパーティーゲームを……とかじゃない、ですよね~…………」
⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱
「おや、ようやく来ましたかカズマ」
「一人だけお城暮らししてる裏切り者にお菓子は無いからね!」
「いや、お菓子はもう食ったから別にいいんだけどさ……。なにしてんのお前らまで。ていうかまだ王都にいたんだな」
「当たり前だろう。お前を連れ戻しに来たのに、先に帰れるわけがあるか」
マッチポンプがバレたのではと内心ヒヤヒヤしながら応接間へと連れてこられたカズマは、ふかふかのソファーに沈まりながらお菓子を貪るアクアとめぐみんを見てそう言った。行儀よく座っているのはダクネスくらいのものだが、そのダクネスも王城にいるというのにドレスではなく珍しく鎧を着用している。いまいち理解の追いついていないカズマが困惑の表情を浮かべていると、足組みをして雑誌を眺めていたソウゴが視線はそのままに口を開いた。
「アイリスに呼ばれたんだよ。お願いがあるって」
「お願い?」
「ああ。ではアイリス様、全員揃いましたしお話をお伺いしても?」
ダクネスが進言すると、アイリスはきゅっと唇を結んで不安げな目でレインに目配せをする。するとレインは泣きそうな子をあやす様に微笑んだ後、こくりと一度頷いた。
王族がわざわざパーティー全員を招集し、かつ玉座の間ではなく応接間に連れてくるなんて内緒話をしますと宣言しているようなもの。面倒事なのは分かりきっているのだが、妹の無茶ぶりの一つも聞けない兄などこの世のどこにいるというのだろうか。それにせっかくクレアたちにも覚えが良くなってきたのだ、ここで印象を悪くして待遇が悪くなったり城から追い出されるのだけは避けたいカズマ。この贅沢な暮らしにしがみつくためしぶしぶソファに座ると、クレアは畏まって背筋を伸ばした。
「貴殿らの戦績は素晴らしい。最初に魔王軍幹部が駆け出しの街で討伐されたと聞いたときは耳を疑ったが、実物を見て私も自分の見聞の狭さを痛感させられた。私の渾身の突きを軽々止めてみせたダスティネス卿を始め、上級魔法を操る紅魔族のアークウィザード、デュラハンに有効打を与えるアークプリースト、時を操る自称魔王、そして騎士団や勇者候補をあしらう義賊相手に対等以上の指揮能力を見せる最弱職。貴方々は我々の想像を遥かに超えた逸材でした」
「クレア殿、前置きはいい。要件を頼めるだろうか」
ダクネスが少し厳しい口調で話を遮る。するとクレアは立場からなのか、それとも剣士としての敬意なのか、すっと口を噤むと僅かに目を伏せた。
「失礼した。……では、これはアイリス様のご意思ではあるが、公には私とレインからの
「なんでよ?」
「……察して頂けると助かる」
「アクア、静かにしていましょうね。ほら、私の分のお菓子も食べていいですよ」
「ねえめぐみん。私の事子ども扱いしてない? お菓子は貰うけど」
「……仲間がすまない。承知した、続きを聞こう」
空気の読めないアクアの口にお菓子を放り込んで閉じさせるめぐみん。王国の第一王女に二大貴族のご令嬢が関わるのだから絶対に派閥争いだとか勇者認定だとかの政治的な絡みなのでアクア共々外に出て一連の話を聞かなかったことにしたいのだが、どうも分不相応な評価のされ具合からして叶わぬ願いらしいことはわかっている。ちょっとマッチポンプを派手にやり過ぎたなと後悔していると、こほんとクレアが咳払いをした。
「貴殿らに頼みたいことと言うのは他でもない。魔王軍との大規模な戦闘が予測されるため、そこに参加して頂きたいのです」
(どうしよう。頑張って評価を得たせいで変に目をつけられてしまった)
何とかして帰りたいなとそわそわし始めるカズマ。しかし他の全員がクレアの発言に注目しているせいで抜け出すにも抜け出せない。大人しく地蔵になることに決めたカズマは、嵐が過ぎ去るのをじっと待つこととした。
「というと、何か魔王軍に動きがあったのですね?」
「はい。二週間ほど前……丁度カズマ殿が城へ滞在するようになった頃に諜報部隊から砦を攻めているモノとは違う魔王軍幹部率いる軍勢が千ほど、王都近郊を目指し出発したと連絡が入っていました。おそらく本日の夕方頃から明日の朝辺りに王都強襲軍と合流すると見込まれていたのですが……。朝方入った情報によると、どういうわけかその軍勢が八千ほどの大軍勢に膨れ上がっていたそうです」
「「「「八千!!??!??」」」」
「紅魔の里で戦った時の倍じゃない! に、逃げなきゃ……、早く逃げなきゃ……」
「今からじゃ王都に住む全員を他の街へテレポートは無理だね。二週間あっても無理だったろうけど。陸路で近くの街を目指しても、今更魔王軍が逃がしてくれるわけもないか」
「はい。我々もパニックを避けるため未だに公表できておりません」
「篭城戦か……。紅魔族は全員が上級魔法を使えるから良かったが、都となるとあの時と単純に比較できるものでは無いな……。だが、これまでほとんど陽動のようなものだった王都の奇襲をなぜ今になって……? しかも、なぜそんなに増えているのだ……?」
「増えた理由は分かりませんが、前線の砦はジャスティン王子を中心に選抜隊の騎士や勇者候補たちで強固な陣を敷いているので、まずは王都を陥落させ補給路を断ち挟み撃ちにするのが狙いでしょう。向こうも貴殿らの活躍で主力級が大幅に削られていますし、焦るのも無理はないかと」
「なるほど。シルビアが倒されて魔王軍が紅魔族から手を引かざるを得ない今、国が紅魔族と結託する前に物量作戦で押し切ろうとするのは理にかなってるね。幹部が減ったってことはそれだけ指揮を執る旗印もいなくなったわけだし、戦力を一点集中させるのもわからなくない。にしても思い切りのいい舵の切り方だね。前線に全部投入して砦を落としに行ってもいいはずなのに」
「ふむ……。紅魔族はその…………コミュニケーションが少し独特な方が多く、感性も一般と比較して斬新なのでこれまで国として助力を願うことはありませんでしたが、皆さんのように連携して魔王軍幹部を討ち取っている実績があるため協力を仰ごうという意見が最近上がっています。もしかすると、その辺りの情報が漏れた可能性もありますね」
「内通者か……。腐敗しているとはいえ、そこまで落ちぶれた貴族がいるとは考えたくないが……」
「仮に内通者がいたとして、それを逆に利用して和平まで持っていけないかな? 俺に炙り出すためのいい案があるんだけどさ――」
ソウゴ、ダクネス、クレアの賢い組がああでもないこうでもないと魔王軍の思惑について推察した意見交換が始まった応接間。そういうのは軍議でやってくれ的な話が熱を帯び始め置いてけぼりとなったカズマは、なんとなく嫌な予感がして恐る恐る手を挙げる。
「あの~……。なんか承諾する前に俺たちの参加は決定で、敵軍を全滅させるにはどうする的な感じで話が進んでる気がするんだけど……?」
「……? 当たり前だろう。そもそも王都に危機が迫っているというのに、我々冒険者が戦わないという選択肢はないし、そもそも逃げ場がない」
「いやいや、でも八千を超える大軍勢なんて俺たち五人ぽっちが加勢したところで変わりないって。焼け石に水っていうか……な?」
「そうよそうよ! ちょっとお願いを聞けば私もカズマみたいにお城で贅沢暮らしができると思ったから来たのよ? 命かけて八千の敵と戦うなんて嫌よ! 絶対にいーやっ!」
「二人とも安心してください。いくら頭数を集めようと所詮は烏合の衆。シルビアをあの世に送ってから更に研鑽を詰んだ我が最強の魔法で、その程度の有象無象などまとめて塵にしてやりますよ!」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
「アクア殿の希望も事前にダスティネス卿より伺っており承知している。戦勝の暁には、私の権限をもって全員の城への滞在許可を得てみせましょう。もちろん戦勝パーティーでも貴方々の要望を最大限叶えることを約束します」
「……それって、高級なシュワシュワは出るのかしら?」
「年代物の貴重な品を幾つか当家で保有しています。お望みならば他にも取り寄せましょう」
「さ、張り切ってシバきに行くわよ! 私の女神としての力を見せてあげるわ! いやー、王都の酒屋ってあんまりいいの置いてないからお土産どうしようか迷ってたのよねー!」
(あっさり懐柔されやがってこのアル中駄女神がーー!!!)
神器回収の件もあるため二発シバこうと心に誓ったカズマは、何とかこの案件を穏便に回避しようと考えを巡らせる。そもそも、カズマたちのパーティーはソウゴを除いて大勢を相手にするのに向いていない。主砲は一発撃てば再起不能の魔法使いで、要のタンク役は勝手に群れに突っ込んで揉みくちゃにされるだけ。アークプリーストは余計な死亡フラグを乱立させ、肝心のカズマ本人に至っては決め手にかける器用貧乏だ。ここでカズマ本人の戦闘能力が露見し、義賊と通じていることがバレでもすれば断頭台という想定しうる最悪の未来がやってくる。叶うならソウゴにお任せしてお城に引きこもっていたいが、ここで逃げたとあってはアイリスに顔向けができなくなるのも自明の理。
いくら考えても最良の結論は出ず。そんな悩めるカズマに、ここまで黙っていたアイリスは深々と頭を下げた。
「アイリス様! お顔をお上げください!」
「構いませんクレア。……我が国の軍や勇者候補たちは精鋭ですが、八千を超えるモンスターを相手取るには不安が残ります。危険なことはわかっています。でも、私はお兄様たちなら何とかしてくれるかもと思ったのです。私は王族として城から離れることはできません。兵も民も、一人でも多く死なせないためには、誰もなし得なかった魔王軍幹部連破を誰一人欠けることなくやってのけたお兄様たちの力が必要なのです! お願いします、お兄様!」
「アイリス……」
随分と買い被られたものだと、カズマは思う。カズマなんて特別な力も特筆した才能もなく、常に手札を全部切って悪足掻きしてその場その場を何とか凌いでいる凡庸な人間の一人に過ぎない。アクアのように多彩な支援ができるわけでも、めぐみんのように一撃必殺が放てるわけでも、ダクネスのように何者にも勝る硬さがあるわけでも、ソウゴのようにデタラメな力があるわけでもなく、ただそれら癖のあるメンバーを組み合わせるのが人より上手かったと言うだけの話なのだ。
だが、民を想うアイリスにとっては藁にもすがる思いなのだろう。盛りに盛ったカズマの冒険話を素直に受け入れ期待しているのかもしれない。城に残るためにマッチポンプなんかに手を出して、あまつさえ保身のために往生際も悪くジタバタするこんな恥ずかしい男を、まだ兄と呼んでくれて助けを求めているのだから。
(……違うな。話を盛ったことも、しょうもない嘘で誇張してくることも、きっとアイリスはわかってる。それでも信じてくれてるんだ。本気で俺なら何とかしてくれるって)
アイリスの下げられた頭を見て、震える声を聞いて、カズマはグッと拳を握る。
(俺はなんで城に残りたかったんだっけ? 贅沢な暮らし? チヤホヤされるため? 馬鹿にしてきた奴らを見返したい? ……違うだろ、そうじゃない。俺はアイリスに笑っていてほしいから、もう、あんな顔させたくないから、バレたら処刑でもやるって決めたんだろ!)
きっとここで逃げたり、ソウゴに全部押付けたら何か大事なものを失う。それに比べたら、今さら城の人間に手のひらを返されるくらいなんだっていうだ。死にかけるのだって、危険なことに突っ込んでいくのだってなれている。腹をくくれと自分に言い聞かせるカズマはアイリスの目の前まで行くと、膝をついて彼女に満面の笑みでサムズアップをした。
「お兄ちゃんに任せろ!」
「……はいっ!」
彼女の真っ直ぐな瞳は、決してカズマを疑わない。カズマなら大丈夫だと、何とかしてくれると本気で信じている目だった。立ち上がって振り返る。仲間たちの顔はやる気に満ち溢れており、今ならどんな敵だって、魔王だって倒せる。そんな気にさせてくれた。
「やってやろうぜ、お前ら!」
「この女神アクアに任せなさい! 勝利の美酒が私を呼んでるわ!」
「お見せしましょう。紅魔族最強の魔法使いの力を!」
「そうだな。皆で王都を守りきってみせよう!」
「じゃ作戦考えよっか。時間もないし」
「……急に冷静になるのやめてくんない?」
トキワソウゴ様へ
いつもエリス教会へのご支援とご協力、誠にありがとうございます。当教会の神父として厚くお礼申し上げます。
お手伝い頂いているバザーや礼拝の準備もそうですが、子供たちもトキワさんがいらっしゃるのを心待ちにしております。特にあの跳ねっ返りで教会の誰にも懐かなかったマルクスなどは貴方が次いつ来るのかと気が気ではないようで、我々も驚きました。孤児たちが心を開いているということは、貴方がそれだけ清い心の持ち主だと言うことでしょう。気軽にお立ち寄り頂ければ、子供たちも我々も非常に嬉しく思います。
話は変わりますが、もう少しでエリス祭の季節となります。街の皆に喜んでもらえるよう、また準備を手伝って頂けると幸いです。
女神エリスの祝福があらんことを。
追伸:ご所望でした、過去十年でエリス教へ出家した精神的に不安定な貴族子女たちの名簿も送付致します。敬虔な教徒として清貧に努めているそうですが、皆一様に何かに怯え、夜な夜な悪夢に魘されていて不憫だと各教会の神父も憂いておいででした。