この素晴らしい魔王に祝福を!   作:春野 曙

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この理不尽な要塞に最後ノ審判を!

「ルナさん、もう一回言ってくれないか……?」

 

 カズマは聞き違いであってほしいという願いを込めて声を絞り出した。

 緊急招集がかけられ、アクセルの街にいる全ての冒険者たちが集まった冒険者ギルド。そこに付き添いも連れず一人立ち尽くすセナも、彼女の言葉が誤りであってほしいと祈りながら二度目の報告を待つ。しかし再度突きつけられた現実は、やはりというか、あまりにも残酷だった。

 

「……デストロイヤー偵察隊、十二名の帰還を確認。死者十一名、軽症者一名。生き残ったプリーストの方ですが、彼女もかなり精神的に衰弱しています」

 

 警察署から送り出した部下たち九名、教会に支援を要請して編成に組み込んだ三名、生き残りを除いた合計十一名の犠牲を以って『機動要塞デストロイヤーの進路調査』という任務は完遂された。

 目の前が真っ暗になるとはこのことだろう。それでもなんとか自分を保ち、セナは口を動かす。

 

「…………遺体を、拝見しても?」

 

「ご遺体は全体的に()()が酷く、ほとんど人の姿を保っていません。こういう言い方は亡くなった方に失礼でしょうが……」

 

 あまりお薦めはしません。

 彼女の言葉が空っぽの頭の中で反響する。

 

「構いません。お願いします」

 

「あの、無理はなさらない方が……。顔色も「大丈夫です! だから……お願いします」

 

 難しい任務ではなかったはずだった。派遣したのは確かに盗賊職のような身のこなしができる者たちではないが、遠くから観察できるよう遠見のマジックアイテムも支給していたし、近辺で目撃されているモンスターに遅れを取るような人選でもなかった。熟練者のように冴え渡った勘を持っていたわけではないが、基礎訓練も隊列編成も十分な練度と言っていい。

 自分にとっては一週間ほど人手不足になるだけの、久々に下っ端の仕事をして改善点を見つけられる機会を得ただけの期間。そして、彼らにとっては臨時収入を得られるちょっとした遠出の仕事のはずだった。そのはずだったのだ。

 

「セナ、大丈夫?」

 

「ト、キワ、さん……」

 

 気がつけば、自分の体は誰かに支えてもらっていなければ立てないほどに震えていた。力が入らない。考えもまとまらない。別れ際の顔が瞼の裏をちらつき、彼らと交わした最後の会話がノイズのように思考を邪魔する。頭も心も自問自答でぐちゃぐちゃだった。

 仕事中はキツい性格を演じているため深い交友があったわけではないが、それでも身の上話くらいなら知っている。家族を王都に置いてきた者、恋人がいた者、これからの未来で幸せになるはずだった、そんな者たちがもう帰ってこない。そう思うと、いつも仕事で見せるような気丈な振る舞いなどできはしなかった。

 

「今は休んだ方がいいよ」

 

 かけられた言葉に、肩を掴む力強さに、ようやく感情が追いついてくる。自制心だけでは止めようのない慟哭が、ギルドに響き渡った。

 上司に胸を貸すソウゴは、痛ましげにセナを見つめるルナに問う。

 

「ねえ。何があったのか、そのプリーストの人に話を聞けないかな?」

 

「いえ、それは……」

 

「やめておけ。トラウマを掘り返してやるな」

 

 誰も不用意な発言ができないギルドで、一人の男がルナの言葉を遮った。二階からかけられた声に全員がそちらを向く。そこには、ワインレッドの差し色が上品さと怪しさを醸し出す、貴族階級の者が着るような上等な黒のスーツを着こなした男が手すりに腰を掛けていた。首から下げた二眼レフをいじりつつ、彼は続ける。

 

「お前らは、目の前で仲間が化け物に生きたまま食い殺されるシーンを思い出したいか?」

 

「門矢士……!」

 

「あーーー!! アンタ、ディケイドじゃない!!」

 

「よう、久しぶりだな堕天女神。ついにクビか」

 

「堕天なんてしてないわよ! アンタこそ何しに来たのよアルバム人間」

 

「いつも通り、ただの通りすがりだ」

 

 戯けるような軽口を叩く士は、怒りを孕んだアクアの視線をどこ吹く風と受け流していた。元日本担当だし面識あるのかな、などと考えながらカズマはソウゴに耳打ちする。

 

「士って確かあれだよな。お前をこの世界に行くようお願いしたって」

 

「うん。門矢士。“仮面ライダーディケイド”。平行世界を渡って全ての仮面ライダーを記録し、崩壊した世界を破壊してリセットする役目を持った仮面ライダーだよ」

 

「そのとんでもない設定は初耳なんだが……。本当に味方なんだよな?」

 

「この破壊者が味方なわけないじゃない! こいつのせいで担当世界が破壊されて泣きを見た女神が何人いると思ってるのよ! 悪魔よ悪魔!」

 

「そういうことだ。俺がお前らの味方かどうかはその都度変わる。あまり安心しすぎるなよ」

 

 からかうようにそう言った士は、不敵な笑みを浮かべて冒険者たちを見下ろす。尊大な物言いに好意的な反応はなく、殆どの者が警戒心を顕にする。その様が楽しいのか、士は口角を釣り上げた。

 

「アンタがプリーストさんを助けてくれたの?」

 

「まあな。冒険者共はデストロイヤーの話をそこの受付嬢にしてもらえ。ソウゴ、お前はちょっと来い」

 

 そう言うや否や、士は灰色の波打つ壁を出現させる。ソウゴにとっては見覚えのあるオーロラカーテンだが、初めて見る冒険者たちには詠唱もなく魔法を行使する人間に映るのだろう。その先が別の世界か、場所か、それとも時間かはわからないが、ここではできない話らしい。士は手を振るとオーロラカーテンの中に消えていく。

 

「ごめんダクネス、セナをお願い。カズマ、俺ちょっと行ってくるね」

 

「ああ。こっちのことは任せとけ」

 

 今にも崩れ落ちそうなセナを託したソウゴは、迷うことなく灰色の向こうへと駆け込んだ。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「状況は、最悪の一歩手前と言っていいでしょう」

 

 オーロラカーテンの向こう、死者の世界で出迎えたエリスから告げられたのは、にべもない一言だった。

 

「どういうこと?」

 

「まあ立ち話も何だ。座れ」

 

「……ここ、門矢士の部屋じゃないよね」

 

 我が物顔で女神の椅子にふんぞり返る士に呆れたようなため息をつく。その女神様はというと、簡素な木製の椅子をせっせと二人分並べてくれていた。なんというか、アクアほどまでとは言わないがもう少し態度を大きくした方がいいのではと老婆心が囁く。

 エリスが不満の色一つ見せずその椅子に座るのを見たソウゴは、何も言わず女神に用意してもらった席に腰を下ろした。

 

「偵察隊を襲ったのはただのモンスターじゃない。アマゾンだ」

 

「アマゾンって、仮面ライダーアマゾンズの世界にいる?」

 

 アマゾン。それは仮面ライダーアマゾンズの歴史に存在する怪物。とある製薬会社で作られ培養された、人肉を好むアマゾン細胞を人の姿にまで成長させた人工生命体であり、それぞれが多様な生物の能力を発現させている人類の捕食者である。

 しかしここで、ソウゴの記憶に引っかかる。

 

「でも、今は存在しない歴史だよね」

 

「ああ。アマゾンズの歴史は、三つのライドウォッチに封じられこの世界にある」

 

「その歴史を封じたライドウォッチの一つが、デストロイヤーの中で使用されていると見て間違いないでしょう」

 

「……魔王軍幹部が乗ってるかもしれないってこと?」

 

「それはわからん。そもそも、魔王軍が全てのライドウォッチを持っているとは限らんしな」

 

「でも、可能性は高いんだよね」

 

「はい。そしてそのライドウォッチの力でアマゾンという怪物をこの世界に解き放っています」

 

「このままでは歴史に存在した四千体のアマゾンがこの世界を覆い尽くすことになる。そうなる前に、さっさとウォッチを回収しろ」

 

「ちょっと待って。まだ聞きたいことあるんだけど」

 

 ここまでの話を統括すると、アマゾンズの力が込められた三つのライドウォッチのうち一つがデストロイヤー内部で使用され、アマゾンが生み出されている、ということだ。だがライドウォッチ本来の力は、封じられたライダーの力のはず。

 

「ウォッチを使ってどうやってアマゾンを生み出してるの? 普通に使うだけなら、ベルディアみたいに自分の強化になるはずだよね」

 

「普通に使えばな。だが、アナザーライダーになっていれば話は別だ」

 

「モンスターがライダーの力を取り込んだせいで、正統な力がアナザー化したってこと?」

 

「前例がないわけじゃない。俺も他の世界で、怪物がライダーの力を使うことで怪人化したのを見たことがある」

 

「どちらにせよ人の手に負える相手でありません。……それに、デストロイヤーの進路も厄介です」

 

「ここからの話は向こうでも受付嬢がしているはずだ。エリス」

 

 士に名を呼ばれたエリスが手をかざすと、三人の間に地図が浮かび上がる。それでいいのかなぁ、などとソウゴが顎で使われる女神に不安そうな目を向けていると、さも当然のような面で士は立ち上がった。

 

「初めはこの平原を紅魔の里に向かって直進していたが、偵察隊が遠見のマジックアイテムを使用してしばらくすると停止。偵察隊へと進路を変更している。まるで何かを探すようにな」

 

「探す……。アマゾンの()を? じゃあ紅魔の里を目指していたのはなんでだろう」

 

「それは我々にもわかりません。最近は魔王軍幹部が里を襲っていますが撃退されてばかりですので、デストロイヤーに幹部が乗っていた場合は増援という可能性もあります」

 

「続けるぞ。偵察隊を強襲したデストロイヤーからアマゾンが八体放たれ、十一名を捕食。最後の一人を襲った三体は俺がその場で倒したが、五体は行方知れずだ。デストロイヤーはそこから紅魔の里へと向かっていった」

 

「門矢さんがご遺体を持ち帰ってくださった地点から紅魔の里までの直線上には、アクセルの街があります。予想通り紅魔の里を目指すのなら、デストロイヤーの最接近は恐らく明日の日の出頃でしょう」

 

「というわけだ。そっちは頼めるな?」

 

「? 二人とも手伝ってくれないの?」

 

 ソウゴの問いかけに、エリスは申し訳なさそうに眉を垂らす。

 

「すみませんソウゴさん。我々は、行方知れずとなっている残りのアマゾンの駆除に向かわなければなりません」

 

「そういうことだ。知らないだけで、どこかで生み落としているかもしれんしな。もし不安なら、前の世界からあのやかましいお付きを連れてきてやるぞ?」

 

 そう言われて、一人の仲間の顔が思い浮かぶ。きっと再会を祝ってくれるであろう彼のことを思い出したソウゴは、くすりと笑みを溢しながら首を横に振った。

 口ではヒールぶったことを言っても、この世界の動向を見守っていたり、自分を気にかけたりと甘い部分を見せる破壊者。そんな彼に向けて、ソウゴは挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「大丈夫。こっちにだって頼りになる仲間がいるんだよ」

 

「……そうか。ウォッチをお前が継承すれば放たれたアマゾンも消滅する。取り零すなよ」

 

「それでは、貴方方にご武運があらんことをお祈りしています」

 

 足早なエリスの言葉を合図に、士がオーロラカーテンを出現させる。なんか息ぴったりだなぁという感想を抱いたソウゴは、その感想を口に出すことなく灰色へと足を進める。が、一つ気になったことを聞くために振り返った。

 

「ねぇ、エリス様。十一人の魂ってどうなったの?」

 

「……皆さん、天国へと行かれました。きっと穏やかな余生を過ごされることと思います」

 

「そっか。ありがと」

 

 今度こそオーロラカーテンへとソウゴは飛び込む。悲しむ人を一人でも減らすために。天国の魂が羨むような世界を作るために。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 翌日。まだ世界が夢を見ている時間。この街にいる全ての冒険者たちは、デストロイヤー撃滅作戦の指揮を執るカズマ立案の作戦の下、各々がいつもの明日を夢見て来たるべき厄災に備えていた。

 

 作戦は単純だ。

 アクアの浄化魔法で結界を破ったのち、めぐみんとウィズの二人による人類最大の攻撃魔法(爆裂魔法)でデストロイヤーを破壊。その後ダクネスを筆頭とした冒険者たちが、降りてきたアマゾンから街を防衛しつつ、ソウゴが中に乗り込みライドウォッチの使用者を撃破、ウォッチを回収し事態を収集する。以上だ。

 今回は以前ソウゴが見せたように他のライダーに頼ることはできない。仮にライダーが溶原性細胞に感染しアマゾン化してしまえば手に負えないためである。警戒のため、もちろん水や氷系の魔法は禁止。約一名がずっと文句を垂れていたが、カズマが力尽くで黙らせている状態だ。

 

「自分で言っといてなんだが、この一つでも歯車が狂ったら全員あの世行きの無茶な作戦がよく通ったよな」

 

「俺は無茶だとは思わないけど。なんてったって、カズマが立てた作戦だしね」

 

 迎え撃つ側防塔の天辺で夜明けを待つカズマは、ソウゴと共にまだ境界も虚ろな地平線を眺めていた。

 アクア、ウィズ、めぐみんも同じく上で待機、ダクネスは他の前衛職たちとフォーマンセルを組み、一夜漬けで建てられた即席のバリケードの中で後方支援組と綿密な打ち合わせをしている。そわそわと落ち着かないのはカズマだけではないとわかっているが、それでも何か話していなければならない不安に彼は迫られていた。

 

「この作戦の指揮、本当に俺で良かったのか? 人を使うならお前の方が適任だろ」

 

「作戦の要となる人たちの長所と短所を理解してるのはカズマだけでしょ? 俺はクエストに行ったことないから、二人の実力はベルディア戦で止まったままだし」

 

「まあ、そうだけど……」

 

「失敗したら、とか考えてる?」

 

「…………まあ、ちょっとは」

 

「大丈夫だよ。なんか、いける気がする」

 

「なんだよそれ」

 

「俺はカズマや皆を信じてるから。だから、デストロイヤーも力を合わせて倒せる気がする」

 

「……なんでそこまで、俺たちを信用できるんだ? お前の仲間にしては頼りなさ過ぎるだろ、俺たち」

 

 カズマはこのタイミングで言ってしまったことを、少し後悔した。パーティーの連携や、作戦の要への精神的な負担にもなりかねない軽率な発言だったという自覚はある。きっとこれが、自分が襲われている不安の正体だろうということも、なんとなく察しがついているほどに。

 

「なんで、か……」

 

 考えるまでもなく、ソウゴにパーティーは必要ない。どういう人生を送ってきたのかは知らないが、ソロで十分生きていける力と強かさ、地頭の良さも、先見の明まで持っている。であれば、自分たちのようなお荷物の寄せ集めパーティーより魔王討伐に近い勇者たちと組めば自身の目的を果たすこともできるし、冒険者として生きて行けずとも高額の傭兵として貴族に名を売れば一夜で大金持ちになれるだろう。だが、実際には馬小屋生活にも貧困生活にも甘んじ、その上ここまでの信頼を置いてくれている。志す王への道も遠退いているのではないかと邪推してしまうほどに。それが、カズマにとってずっと気掛かりだった。

 そんな心の内を知ってか知らずか、難しいことなど何も考えていないような、いつも通りへらへらとした笑みを見せるソウゴは何でもないように答えた。

 

「ベルディアのとき、カズマが剣を貸してくれたからだよ」

 

「…………そんなことで?」

 

「そんなことで」

 

 カズマは返答に困った。あれは、転生して来たばかりでいきなり魔王軍幹部との戦闘に巻き込まれた初心者に当たり前のことをしただけだ。ソウゴが先にオーマジオウの力を明かしていれば、全てを押し付けて逃げ出していただろう。

 言葉を失うカズマに、ソウゴは微笑む。

 

「最初は、この世界の基本的なことがわかるまでは利用させてあげてもいいかなって思ってたんだ」

 

「……気づいてたんだな、俺が打算でパーティーに引き込んだこと」

 

「そりゃね。でもあの時、剣を渡されて気が変わったんだ。もしこの世界で仲間を作ることになったら、それは君みたいな人がいいって」

 

 遠くを見つめるその瞳は、何を想っているのか寂しげな、悲しい色を宿していた。前の世界でソウゴが“最高最善の魔王”を約束をしたという、友達のことを考えているのかもしれない。

 笑うことでその色を振り切ったソウゴは、優しい口調でカズマに告げた。

 

「力だけが強さじゃないんだよ。カズマにはその強さがあると俺は思ってる。だから信じられる」

 

「……なんだよそれ」

 

「カズマって口ではなんだかんだ言うけど、自業自得でも困ってる人は見捨てられないし、はぐれ者の手は振り払えないし。そういう甘いところが信用できるポイントってこと」

 

「それ褒めてないよな」

 

「あれ? カズマの褒め方ってこんな感じでしょ?」

 

「……つか、その腕輪いつ外すんだよ。ちょっと食い込んでるだろ」

 

「あ、話反らした」

 

「そそそ反らしてねぇし! で、どうするんだよ。〈窃盗〉してやろうか?」

 

「いいよ壊すし。セナが来たら外してもらおうと思ってたんだけど、やっぱり来れないよね」

 

「サキュバスさんと協定結んどいてよかったよな。おかげでプリーストさんも、あのおっぱい美人も夢でカウンセリングしてもらえるわけだし……って、壊せるの?」

 

「うん。これくらいなら素手で。全部終わったらまた付け直すよ」

 

「あ、素手で壊せるの……。にしても律儀だな。支配からの卒業なんてデストロイヤー撃退の前払いみたいなもんだろ」

 

「それを決めるのは、俺じゃダメでしょ」

 

「ほんと、真面目っていうか変わってるっていうか……。なあ、ソウゴ」

 

「何、カズマ」

 

「これが終わったら、お前のこと色々教えてくれよ。なんで“魔王”なのか、とか。その……仲間なのにお前のこと全然知らないからさ」

 

「珍しいね、カズマがお約束みたいなこと言うの」

 

「やめろよ。本当にフラグになったらどうするつもりだ」

 

「ごめんごめん。じゃあ、みんなで暴露大会でもしよっか」

 

「そこまでしろとは言ってないんだが」

 

「……どう? 気持ちの方は」

 

「……ああ。なんか俺も、いける気がしてきた」

 

「しょうがないなぁ、まったく」

 

 頭をわしわしとかかれ、緊張がほぐれるのがわかる。柄にもなく張り詰めていた気持ちが少し和らいでくる。いつも通り、やれるだけのことをやるだけだと気持ちに喝を入れたカズマの表情は、随分と晴れやかなものに変わっていた。

 

「やってやるよ。せっかく手に入れた家も、サキュバスさんのお店も、潰されちゃたまんないからな!」

 

「そこは嘘でも街のためとか言っとこうよ」

 

「なんだよ。帰ったら暴露大会するのに取り繕ったって仕方ないだろ」

 

 呆れたように肩を落とすソウゴに、笑みを返すカズマ。決戦前に友情を育んでいるような冒険者っぽいやり取りに、二人の男の子の心は少なからず高揚していた。

 

「カズマさーん! なんか、めぐみんが緊張でカチコチなんですけどー!」

 

「ほら、行くよカズマ。女神様が呼んでる」

 

「ったく、しょうがねぇなぁ。おい、めぐみん! トチったらお前の下着だけ玄関先で干してやるからな」

 

 今度は自分が仲間の緊張をほぐすため、カズマは駆けていく。その背中を追い歩いていくソウゴが見上げた空は、薄っすらと白ばみ始めていた。

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

「デストロイヤーが見えてきました。皆さんがこの街の最後の砦です。必ず生きて帰りましょう!」

 

「聴いたかお前らー! 今夜はギルドの奢りだー! あの世から帰ってこれないから不参加なんて言うんじゃねーぞー!!」

 

「ちょ、サトウさん!? そんなこと言ってませんからね!?」

 

「ギルドの奢りか! うまい酒が飲めそうだ!」

「一番高い酒から空にしていくぞ!」

「私、メニューの端から端まで頼んでみたかったんだよね」

「今日は夜通し飲むぞ! サキュバスさんにお酌してもらうんだ!」

 

 側防塔からのカズマの一言で、冗談交じりに士気が上がっていく。眉を垂らすルナも、その姿を見守るギルドの職員たちも、いつも通りの冒険者たちに少なからず安心してくれているのだろう。

 そんな彼らを待ちわびていたかのように、開戦を知らせる太陽が登り始める。

 

「来たぞ!」

 

 誰かがそう言うと、全員がデストロイヤーを迎え討たんと武器を握りしめた。街を更地にする要塞だろうと、人食いの怪物だろうと、今なら何とだって戦える。そう思えるくらい冒険者たちの気分は高揚していた。

 だが、この場にいる殆どの者が姿を現した()()にその認識を改めさせられる。

 

「うわぁ、本当におっきいね」

 

 カズマの隣で、ソウゴは呟いた。

 山を砂の城のように蹴散らし、彼方より満を持して現れた黒き巨体、機動要塞デストロイヤー。八本脚の蜘蛛のような見た目をしているが、カズマの常識の中ではおよそ自力で動けるような大きさではなかった。機動要塞より機動戦士の方がまだ作るのに現実味のあるサイズ感を前に、戦うなんて言葉が馬鹿らしいような気さえする。加えて山を崩しておきながら何のダメージもなさそうな装甲。常に展開しているのか全面に張り巡らされた魔法障壁。近づくものを撃ち落とす砲台に地面の罠を感知する赤外線センサー。そして何かを探すように蠢いていた白く発光する八つの目全てが、アクセルの街と冒険者たちを捉える。

 

 そこからの動きは速かった。

 巨体からは想像もつかないような速さでこちらを目指し直進してくる。あの勢いなら一分と経たないうちにアクセルの街は平らに均されてしまうだろう。戦うための備えをしていなかった偵察隊が、この恐怖に突然襲われたのだと考えるだけでそのトラウマが伺い知れる。

 その恐れを打ち倒すため、犠牲となった者たちへの弔いのために、カズマは叫ぶ。

 

「アクア!」

 

「神の力、思い知れ!」

 

 アクアを中心に神聖な魔力が集約していく。暁を神々しく照らす輝きは、人ならぬ天界の者にのみ許された力。下界にて権能を封じられようとも、神の力を衰えさせることなどできはしない。この世に現存するありとあらゆる呪いを、神の名の下に解き壊す解呪魔法。水を司る女神の渾身の一撃が、人の子に迫る脅威に向けて放たれた。

 

「〈セイクリッド・ブレイクスペル〉!!!」

 

 神の威光が厄災の纏うベールを剥ぎ取る。デストロイヤーがいくら抵抗しようとも、女神の前では動く鉄くず同然。展開されていた障壁は、虚しくも粉々に砕け散った。その反動で勢いの殺されたデストロイヤーに勝機を見たウィズは、隣で杖を抱える魔法使いに視線を送る。

 

「めぐみんさん! 同時にいきま「くくくくくくろよりくろくややみやみより」

 

「ウィズが合わせ辛いだろ! 落ち着けめぐみん!」

 

「わ、私より落ち着いている人間はこの場にはいないと言っても過言ではないが!?」

 

「今までお前から聞いた言葉の中で一番の過言だわ! 落ち着いてる人間はそんなキレ方しねぇよ!」

 

 これまで世界を蹂躙してきたデストロイヤーの破壊という大役のせいか、それとも実物のあまりの大きさに慄いているのか、完全にあがってしまっているめぐみんには誰の声も届いていないらしい。腰はひけてしまい口も視線も震えて対象が定まっていない。

 だが、カズマはここで優しい言葉をかけるようなできた人間ではない。

 

「そうかそうか。そんなにウィズに負けるのがこわいのか」

 

「……は?」

 

 かかった。慰めなんてこの紅魔族には必要ない。大事なのは、闘志に火を付け頭を切り替えさせること。いけると確信したカズマは、矢継ぎ早にめぐみんを煽っていく。

 

「ウィズは昔、凄腕のアークウィザードだったんだもんなぁ。なのに、スキルポイント全振りしてるお前が負けたら恥ずかしいもんなぁ」

 

「……私は、負けませんが?」

 

「違ったか? ならあの虫けら一匹潰す自信がないのか。紅魔族随一の魔法の使い手、爆裂魔法を操るって名乗りは変えたほうがいいんじゃないか?」

 

「……いいでしょう。私を怒りで冷静にさせるためとはいえ、虎の子を起こしたことをじっくり後悔させてあげましょう……! 見せてあげますよ。紅魔族随一のアークウィザード、その本物の爆裂魔法を! ウィズ!」

 

「ふふっ……。はい!」

 

 

          黒より黒く

 

    闇より暗き漆黒に

 

          我が真紅の金光を望みたもう

 

        覚醒のとき来たれり

 

            無謬の境界に落ちし理

 

    無業の歪みとなりて現出せよ

 

 

   「「〈エクスプロージョン〉!!!」」

 

 

 二人の放った力の軌跡は、うねりとなって世界を分かつ。最強を以て最凶を凌駕する二つの魔法は、無防備な害虫を土塊(つちくれ)に返すためその暴威を遺憾なく振るった。爛々と輝く真紅の瞳が、この世ならざる漆黒の(まなこ)が、災害という玉座に胡座をかく暴君をその座から引き摺り降ろす。

 爆炎、爆風を撒き散らし、この世に破壊の二文字を知らしめる究極の攻撃魔法は、デストロイヤーの脚を左右一本ずつ引きちぎりその歩みを止めることに成功した。地を滑る巨体は、その進撃を封じられると力なく機能を停止させる。

 

「くっ……! 流石リッチー、私のものとは、威力が桁違い、デス……」

 

「よくやったよめぐみん。お疲れさん」

 

「フフフ、カズマ。今日の爆裂魔法は、何点ですか……?」

 

「百点に決まってるだろ。流石は最強のアークウィザードだな」

 

「私達の仕事はこれでお終いね。魔王軍幹部にデストロイヤーまで倒したってなったら、前のケチくさいお祝い金じゃなくて、今度はたっぷり報奨金が貰えそうね!」

 

「お前な、そういうフラグっぽい発言は全部終わってからにしろ。また前みたいに雀の涙みたいなオチになるだろうが」

 

「そのことなんですが、気になることがありまして……」

 

「ごめんウィズ。その話は後で。アマゾン、来るよ!」

 

 ソウゴの言葉に、全員が戦場へと意識を戻す。地には巣を壊され、わらわらと湧き出てきた化物の子が溢れかえっていた。くすんだ灰色をベースに、それぞれが持つ生物の特性が色濃く現れた体躯。衣服のような意匠。しかし本能に従う獣。遠くからでもわかる。あれは人を凌駕する怪物だと。

 本能に支配された、人の血肉を喰らう生ける屍たちの行進に、冒険者たちは己を奮い立たせる。

 

「我が領民を手に掛けた罪、その身で償ってもらう。手筈通り行くぞ! 絶対に四人一組を崩すな! 敵討ちだ!」

 

 いつにも増して真剣な表情のダクネスの号令を合図に、冒険者たちはアマゾンへと向かっていく。切りつけても痛みを感じないのか食欲を優先し、腕を落とされても怯む様子のない生物らしからぬ行動に、まともな人間から順番に嫌悪感を抱く。それでも幸いなことに知性は欠片もないようで、徒党を組んだ前衛職に軍勢は切り伏せられていく。

 

「よし、全員下がれーッ!!」

 

「〈パラライズ〉!」

「〈ライトニング〉!」

「〈サンダーアロー〉!」

 

 ダクネスの号令ののち、後退する前衛職と代わって雷魔法がアマゾンを襲う。一撃一撃に必殺ほどの力はないが、雨の様にとめどなく降り注ぐ雷撃は的確に弱点を突いていった。

 全身を撃ち抜かれたアマゾンたちは、その動きを止めドロドロと液状に溶けていく。その光景は、やはり人の感性に耐えきれるものではなかった。

 

「酷い臭いだ。ソウゴから聞いてはいたが、今日は肉が食えなくなりそうだな……」

 

「ダクネスさん! あの化け物ども、また出てきています!」

 

「よし、敵の親玉を仕留めるまでの辛抱だ。二の太刀、行くぞ!」

 

 空を飛ぶアマゾンはアーチャーが撃ち落とし、地を這うアマゾンは前衛職が押し返す。そして魔法使いがとどめを刺し、その間に怪我をした者をプリーストたちが癒やす。地道だがリスクの少ない確実に敵の数を削れるヒットアンドアウェイ。順調に進む攻略に、カズマには勝利の道筋が見えてき始めた。

 

「じゃあ、あとは俺の役目かな」

 

 様子見をやめたソウゴの意思に呼応して、腰に金の装飾が出現する。久しぶりというか、カズマたちにとっては二回目のお目見えとなるそれだが、ウィズには初めての邂逅となる。めぐみんにねだられたカズマが彼女をおぶさり、状況の飲み込めないウィズはアクアが手を引き距離を取る。それを確認したソウゴは、黄金のベルト・オーマジオウドライバーの前で手を交差させた。

 

「変身」

 

 

        « 祝 福 ノ 刻 »

 

           «最高»

 

         «最大»  «最強王»

 

           «最善»

 

      « オ ー マ ジ オ ウ »

 

 

 降臨するのはこの世の王。世界に安寧をもたらし、覇道の前に立ち塞がる全てを踏みつけ進む、神をも恐れぬ業の化身。過去、現在、未来、全ての時を知ろしめす究極にして絶対の王者。生きとし生けるもの全てに祝福されし時の魔王が、再びこの地に現界した。

 

「す、凄い力です……! これがベルディアさんを葬った、ソウゴさんの本当の姿……!」

 

 これで勝った。目を輝かせるめぐみんを背にしたカズマはそう思ってしまって、気がついてしまった。

 

(……なんか、今日フラグ多くね?)

 

「カズマ見て! 空が!」

 

 アクアに言われ、カズマたちは空を見上げた。さっきまで明け方らしく輝いていた世界から、少しずつ色鮮やかさが失われていく。太陽に影などないのに、まるでアマゾンたちの体色の様にくすんだ世界へと変貌していく現象に、オーマジオウは一つの結論を出す。

 

「ウィズ。気になることって、まさか魔王軍幹部が乗ってないんじゃって話?」

 

「あ、は、はい。でも、どうしてわかったんですか……?」

 

「いや、俺もアナザーゼロワンのこと忘れて選択肢から外してたからさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()って可能性を」

 

「アナザーライダー……?」

 

 

        «アマゾンアルファ»

 

 

 その疑問符に答えるように、ライドウォッチが起動する。デストロイヤーの目が明滅し再び八つ全てが白く発光すると、その巨体を中心に陽炎が世界の理と受け継がれし歴史を歪めていく。

 

「まずいな」

 

 ソウゴがそう呟くのと、カズマたちの目の前から消えるのはほぼ同時だった。一瞬で前衛職たちが戦う最前線まで移動したオーマジオウは、来たるべき衝撃に備えて腰を落とす。

 

        «カブトノ刻»

 

「ダクネーース!! 全員を引き上げさせろーーッ!! 何かやばいのが来る!! 後衛は前衛が帰ってこれるようアマゾンの足止めだ!!」

 

「全員退避だ! 下がることだけ考えろ!」

 

 カズマとダクネスの声に、全員が武器を放り投げてバリケードを目指しひた走る。何が起こるかわからなくても、カズマたちまで届くこの熱は人間の生存本能が警鐘を鳴らすのに十分だった。

 

「ライダー、キック」

 

 瞬間、デストロイヤーから自爆かと思われるほどの熱が放たれる。周囲の木々を焼き尽くす死の風と、オーマジオウのカウンターで放たれる蹴りが衝突し、世界を光が包み込む。カズマはとっさにめぐみんの頭を抱えてその光に背を向けた。

 世界が真っ白になるとはこのことだった。光が、音が、その全てが彩度の落ちた世界を真っ白に戻してしまう。だがそれも一瞬だった。光がやみ、耳が硝煙の音を拾うくらいには回復したとき、初めに感じたのは焦げたような臭い。ゆっくりと、誰も丸焦げになっていませんようにと祈りながら開いた目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。

 

「……おいおい、嘘だろ」

 

 誰も死んではいない。殿を努めたダクネスが立ち込める土煙の境界で伏せているのだから間違いない。街も無事だ。破片一つ飛んではいない。

 だが、それ以外の全てが周りからは失われていた。

 

「森が、無くなっています……」

 

「森どころか、山も消し飛んでるじゃない……!」

 

 初めからそこには何もなかったように、町の外に広がっていたのは焼け野原だけだった。先程まで広がっていた森林は、今や焚き火の後の如き灰の山。燻る火種こそあれど、アマゾンの群れすら蒸発し肉片一つ残してはいない。ソウゴが最前で攻撃をいなしていなければ、アクセルの街も焦土と化していたことだろう。その事実に寒気がする。

 

『グオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』

 

 土煙の向こうから轟く咆哮。それに写る特大の影が人の手に余ることは見なくてもわかる。あの機動要塞が脱皮して本来のモンスターの姿に戻りました、ならどれほど良かったかとカズマは思った。

 荒廃した世界を作り出したのは、デストロイヤーの方がよっぽど可愛げのある歴史に歪められた存在。全身は熱の影響か赤く変色しており、浮かび上がる傷はこれまでの戦いの歴史を物語っている。白から緑に変わった眼光が妙に生々しい生物感を強調していて、本体に刻まれた«2016»の数字が痛々しくもその存在を過去の栄華に縛り付ける。機械にあるまじき鉄を割いてできた口に、爆裂魔法で破損した自分の脚を放り込み咀嚼する様は、本当に生きているように見えてしまうから質が悪い。

 

「アナザーライダーっていうのは、歪んだ歴史をその身に宿して生まれる偽物の仮面ライダーだよ」

 

『アァァァアアァァアアアァッ!!!』

 

 オーマジオウの言葉を否定するように、デストロイヤー、いや、アナザーアマゾンアルファは残った脚を駆使し小さな魔王を踏み潰す。その巨体からすれば人間一人程度、トマトを踏み潰すのと変わらない。

 

 だが、何人であれ王を踏むことなど許されはしないのだ。

 

 アナザーアマゾンアルファの一撃を難なく受け止めたオーマジオウは、その脚を掴んで街とは反対の方向に投げ飛ばす。地を滑る巨体は、情けなくも王に頭を垂れる反逆者そのものだった。

 

「ねぇ」

 

「うおびっくりしたな急に出てくんなよソウゴ!」

 

 背後から突然声をかけられたカズマたちは驚きで振り返る。そこにはついさっきデストロイヤーを投げ飛ばしたばかりのオーマジオウが平然と仁王立ちしていた。カズマの抗議に悪びれもせず、彼はいつもの口調で問いかける。

 

「カズマとウィズでさ、あの中に人がいるかどうかってわかる?」

 

「〈エネミーサーチ〉でしたら、生物であるなら感知できると思いますけど……」

 

「最初の爆発で従者のモンスターを全部消し飛ばしてるのに、中で人間が生きていられるとは思えないわよ」

 

「それもそっか。まあ念の為にお願いしていい? 俺はあいつ抑えてるから」

 

 そう告げるとオーマジオウは動き始めたアナザーアマゾンアルファの前に瞬間移動で躍り出る。普通なら一撃を食らうだけで必殺に該当する打撃を、難なく片手で掴み、引き寄せ、拳を打ち付け地面に叩きつける。遠目から見てもわかる。あれだけのピンチを演出した怪物であっても、オーマジオウと相対すればじゃれ合いにすらならないということが。

 すると搭乗員に対する警告のためだろうか。オーマジオウは伏したアナザーアマゾンアルファの脚を掴み、本体から躊躇いもなく引き抜いた。科学とは無縁な世界で生み出された古代兵器だが、もがれた部分から電気的な火花が散る。

 

「抑えるって、脚千切って動けなくするってことなんですね……」

 

「相変わらず敵には容赦ねぇな……。ホント引くわ……」

 

 この前食べた蟹に既視感を覚えつつ、カズマとウィズは〈敵感知〉、〈エネミーサーチ〉、〈トラップサーチ〉を使用した。可能な限り神経を研ぎ澄まし、カズマは〈千里眼〉も使ってアナザーアマゾンアルファの表面も隈なく探査する。

 

「ウィズ、どうだ?」

 

「やはり生き物はいないようです」

 

「よし。ソウゴー! 人は乗ってないぞー! ぶっ壊せー!」

 

 カズマの声を超常識的な機能で聞き取ったオーマジオウは、軽く手を上げて了解の意を示す。もう流石に安心だろうと肩の力を抜いたカズマは、めぐみんに魔力を分け与えつつ下にいる冒険者たちに撤収の指示をする。九回表を大差で迎えた後攻チームのような安心感に、今度エリスに会ったら亡くなった人たちに勝利報告をしてもらおうと考える。

 

「……ですが、活動不能まで機体が損傷すると動力源を核に自爆する機能が付いているようです」

 

「うわぁ、いかにも日本のロボットっぽいな……。おいアクア。これ作ったの転生者じゃないだろうな」

 

「はぁ? 知らないわよそんなの。転生した人間がこの世界で何してたかなんて見てなかったし」

 

「お前、職務怠慢にも限度があるだろ。もっと犠牲者に対して責任を感じろよ」

 

 アクアの面の皮の厚さに苛立ちを見せるカズマは、転生特典の代わりに胸の前で十字を切る。きっとエリスなら良いように取り計らってくれているだろう。そんなことを考えつつ、デストロイヤーの機能停止を待つ。

 そんなカズマに、更に一本脚がへし折られたアナザーアマゾンアルファを眺めるめぐみんが真剣な表情で声をかけた。

 

「カズマ、確認したいことがあるのですが」

 

「なんだよめぐみん」

 

「デストロイヤーが大破すると自爆するんですよね?」

 

「? ウィズがそう言ってたろ」

 

「爆裂魔法を二発受けても脚を二本しか折れなかった装甲を内側から粉々にして周囲の敵を殲滅できるだけのエネルギーが、あのデストロイヤーには積まれているんですよね?」

 

「そうじゃなきゃ自爆なんてできないでしょ。何が言いたいのよ、めぐみん」

 

「……ベルディアのときの爆発がそのエネルギーに引火したら、この辺りはどうなってしまうのでしょうか」

 

 めぐみんのそんな問いかけと同時に、オーマジオウは三本目の脚を引き千切る。半分以上の脚を奪われ機動力などないに等しくなったアナザーアマゾンアルファは、登場時の勢いなど忘れてしまったのか静かに八つの目を緑と赤で交互に明滅させる。それはまるでこの世の終わりを知らせるカウントダウン。

 

『修復不可能なダメージを確認。これより自爆プログラムを作動します。搭乗員は速やかに退避してください』

 

「「「「やばいやばいやばいやばい!!!」」」です!!!」

 

 ベルディアですら、明らかなオーバーキルの爆炎が立ち昇ったのだ。もしあれと同じ爆発がデストロイヤーサイズで、しかも燃料がプラスされて起これば、森や山を焦土に変えたあの熱波とは比較にならない被害になるだろう。地形が変わる程度では済まされない爆発により、地図からこの辺り一帯が消し去ることは優に想像がつく。

 

「ソウゴー!! そこで倒したらやばいから! 頼むからもっと遠くで爆発させてくれー!」

 

「どうしましょうカズマ! 私たち死んじゃいます! 本気の本気で死んじゃいます!」

 

「仮面ライダーなんて嫌いよー! 死んだらあいつら全員呪い殺してやるんだからー!」

 

「死んだら皆で仲良く土に還りましょう……」

 

 諦めムードのウィズを放って、三人は必死に声を上げる。その慌てようは、もちろんオーマジオウの耳にも届いていた。しかし何の憂いもなく落ち着いた様子の魔王は、引き千切った脚を脇へ放り投げて呑気に独り言を呟く。

 

「自爆か。同じロボットでも、ヒューマギアみたいに心がないから諦めるのも早いね」

 

 抵抗しなくなった鉄の塊は、全てを無に帰すためのエネルギーを蓄えることでその答えとした。赤くなった機体はより熱を持ち、導火線がほんの僅かしか残されていないことを悟らせるのに十分な役割を果たす。

 しかし、爆弾が目の前で破裂するという瀬戸際でも、王は見苦しく焦ることなどしなかった。

 

「それじゃあ、そろそろ返してもらおうか。俺たちの歴史を」

 

 

        «終焉ノ刻»

 

 

 オーマジオウは手も触れず、因果律を操作しその巨体を持ち上げる。如何なる理にも支配されることのない魔王は、この世界の常識すらも軽々と覆す。無法者が己の罪の重さに地へと落ちてくるならば、その罪を裁くのも王の務め。

 

 

       «逢魔時王必殺撃»

 

 

 王国の黙示録が、終わりという刻をこの世に刻み込む。

 いかにこの世界を蹂躙してきた機動要塞と言えど、王の御前では静かだった。一度下された王の審判には、誰であれ異議を挟み込むことなどできはしない。落下してきた大罪人に、王は断罪の一撃を叩き込む。

 星さえも砕く蹴りが、装甲に“キック”の三文字を烙印として刻む。サイドキックで再び天高く蹴り上げられた簒奪者は、雲の底に触れたときその身を業火で包んだ。

 轟音がガベルの如く厳かに、太陽を超えるほどの光が王を称える祝砲のように高らかに大地を揺らす。雲の一片すら吹き飛ばしてしまう暴風が色を取り戻した世界を荒々しく撫でたとき、時の魔王の手には確かに受け継がれた正しい歴史が握られていた。

 

「確かに返してもらったよ。アマゾンアルファの歴史」

 

 

   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱

 

 

 森の中で自分たちを囲んでいたアマゾンたちの体にノイズが走る。決着が着いたことを理解したディケイドは変身を解除し、クリスはダガーに付いた液を振り払う。

 

「終わったようだな」

 

「そのようですね。助かりました、門矢さん」

 

「そう思うなら、何か礼でも寄越すことだ」

 

「……では、温泉街の一日フリーパスなどどうでしょう。アクア先輩のお膝元ですよ」

 

「あの堕天女神のか? それ大丈夫なのか?」

 

「温泉は、保証しますよ」

 

「なるほどな。だいたいわかった。気が向いたら貰いに行ってやる」

 

 戦闘後の余韻を楽しんでいるのか、冗談を交えて話すクリスに士は一冊の本を投げ渡す。それを受け止めたクリスは、不思議そうにペラペラとページを捲った。

 

「これって……デストロイヤーの開発者の日記、ですか!? どうしたんですかこれ!」

 

「最初にデストロイヤーと戦った時に取ってきたんだ。交換だ」

 

「交換って……」

 

「……俺はあのシリアスな空気でそれを出す勇気はなかった」

 

「?」

 

「じゃあな。読み終わったらソウゴにでも渡せ」

 

 一方的に告げた士は、オーロラカーテンを出現せてそそくさと帰っていく。一人残されたクリスは、眉をひそめて首を傾げた。

 轟音がクリスの耳に届いたのは、その後だった。




拝啓、ゲイツへ

皆に書く手紙も、これで最後になりました。ゲイツはどんな高校生になっているんでしょうか。俺は、君が託してくれた未来へと進むために魔王になりました。この選択は正しかった。そう胸を張って言えるように、この世界で頑張っていこうと思います。
仲間ができました。初対面で襲ってこない仲間が。きっと彼らといれば、俺の道は明るい。そう思える仲間が、できました。
だから安心してください。安心して、そっちの俺の道を照らしてください。ゲイツと、ツクヨミと、おじさんと、それからウォズと。皆がいてくれれば、どんな俺だって正しい王の道を歩ける。そんな気がする。俺がそうだったように。

俺たちの針はもう交わらないけど、止まったわけじゃない。例え地球の裏側だって、同じ時間を刻んでいなくたって、針は動き続けてるから。俺はそう信じてる。じゃあ、さようなら。

                    ソウゴより


   ⏱こ⏲の⏱す⏲ば⏱


「トキワさん。この鍵のかかった箱は何でしょうか」

「それ? それは俺の故郷への未練、かな?」

「どうして疑問形なのでしょうか」

「色々と複雑なんだ。できれば、それは見逃してほしいかなって」

「……わかりました。では、他の人間に見つからないようにしてくださいね」

「うん。ありがと、セナ」

 部屋から出ていくセナを見送り、ソウゴは箱を手に取る。明日の薪にでも使ってもらおうかと考えて、ソウゴは箱を服の中に隠した。
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