after days(シン・エヴァンゲリオン after短編集)   作:◆QgkJwfXtqk

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かくして碇シンジは囚われる

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 衛星軌道上に設けられたWILLEの宇宙開発の拠点、ISS-05(エンジェルス・ネスト)

 旧NERVスタッフなどの、使徒戦役からの古参からは苦笑と共に受け入れられる異名の与えられたISS-05はエヴァンゲリオン由来の技術によって、宇宙に出る事が比較的容易となった時代の宇宙ステーションである為、かつてのソレと比べて構造は極めて巨大であった。

 中空の円筒にも似た形をしており、そこに太陽光パネルや各種モジュールが接続されたISS-05は1000m級の全長を持った宇宙開発史で空前の大きさとなっていた。

 100人からが滞在できる居住区画や大規模実験棟、だが何よりも巨大なのは宇宙船などの製造棟であった。

 現在、エヴァンゲリオン系の技術を本格的に採用した第3世代型宇宙船エンタープライズが艤装を行っていた。

 月軌道まで航行した、セカンドインパクト以前の第1世代型宇宙船や、SEELEとユーロNERVが主体となって開発した火星軌道までも行動圏内に収める第2世代型宇宙船が、比較的に小規模で少人数が狭い空間で居住せざる得なかったのに対し、この第3世代型宇宙船は全長が100mを優に超える、本格的なフネとしての能力を持った正しく宇宙()であった。

 宇宙開発を推し進める、人類の象徴的な宇宙船であった。

 とは言えWILLE内部では就役前にも拘わらず、最新鋭との看板が付けられる事は無かったが。

 これは、現在は式波アスカ・ラングレーの研究チーム ―― 汎用ヒト型工業機(デヴァイス)研究開発チームが実証実験に成功した光速推進システム(バニシングモーター)の搭載を最初から想定した第4世代型宇宙船の設計が進んでいるからであった。

 そして、その光速推進システム(バニシングモーター)技術を基に開発されたマイナス宇宙突入機、高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)がISS-05の建造棟で最後の機器チェックを行っていた。

 銀色を基調として所々に赤と紫のラインが入ったヒト型の試験機(デヴァイス)がシステムの統合指揮ユニット(モーター)であり、この試験機が跨る様な形で接続(ジョイント)されているのがカヌーボートにも似たデザインをした純白の光速推進ユニット(ハーリング)であった。

 この2つが1つとなって高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)となっている。

 態々に機体を分けている理由は、元の超光速発揮実証実験機X-25(プロフェシー)の名残であった。

 高価格な制御部分を、新規設計ではなく自立運用も可能な汎用ヒト型工業機(デヴァイス)に担わせる事で安く早く完成させる事が出来たのだ。

 尚、汎用ヒト型工業機(デヴァイス)のセンサー及びコクピット周りだけを流用しなかったのは、アスカの研究チームに引き渡されたのが中古 ―― 他の研究チームが散々に利用していた、失われても惜しくない機体だったと言うのが大きい。

 有体に言えば面倒くさかったのだ。

 必要な部分を取り外して、専用のフレームを作ると言うのが。

 又、実験対象の推進器(バニシングモーター)の出力に余裕があり、汎用ヒト型工業機(デヴァイス)程度の重量であれば例え数機に増えた所で誤差と見れると言うのも大きかった。

 そして高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)X-25(プロフェシー)の2号機を流用して作られた為、同様の構造となっていたのだ。

 

 アスカは高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)のコックピットでチェックリストの最終確認を行っていた。

 コクピットは、1号機たるX-25-01とは異なり複座仕様となっていた。

 本来は収集した情報を集め、或いは増設したセンサーの管制用電算機(アビオニクス)が鎮座していた部分を撤去し、もう1人、人を乗せられる様にしていたのだ。

 捕まえた碇シンジを連れ帰る為であった。

 

「全項目確認、此方では異常は出てないわ、そちらはどう?」

 

 そこら辺に浮かしていた通信機(スマートデバイス)に尋ねるアスカ。

 相手は機外の側の確認者であった。

 機体内部の、機体管制システムからのチェックと外部からのチェックと言う二重確認を行っていたのだ。

 

『………」

 

「ん?」

 

 返事が来ないので通信機を拾って確認したら、相手の若い研究スタッフは顔を真っ赤にしていた。

 

「なに、体調不良?」

 

『な、な、なっ何でも無いです! 外部側でも全項目確認、異常ありません。全表示グリーンです!!』

 

「そう?」

 

 アスカは少しばかり自覚が足りなかった。

 自分が、嘗てのプラグスーツにも似た体の線がハッキリと出る真っ赤な気化L.C.L環境対応スーツを着ていると言う事の自覚が。

 肉体年齢で28歳頃と推測されるアスカの豊満な、ある意味で女ざかりと言って良いボディラインは、若い(スケベェな)研究スタッフにとって暴力的ですらあったのだ。

 研究漬けであったアスカだが、体を訛らさない為とストレス発散とを目的に定期的にトレーニングジムに通っていた結果、柔らかさと精悍さとを両立させた素晴らしい(ワガママ)ボディを作り上げていた。

 そんな、何時もは服に隠れて想像するしかないモノが、下手な水着よりもハッキリと見える格好になって開陳されているのだから、まだ若い研究スタッフ(チェリー)が真っ赤になってしまうのも仕方の無い話であった。

 

 

 粛々と進められていく最終確認。

 その様を高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)計画の総責任者にして宇宙技術部門(ISS-05)の責任者でもある青葉(伊吹)マヤは、腕を組んで黙って見ていた。

 嘗ての幼さすら漂っていた若い頃や、荒んでいたとも言えるAAAブンダー時代とは異なり、今は円熟した凛々しさとでも言うべき雰囲気を漂わせている。

 旦那への感情は別として、敬愛する副長先輩 ―― 赤木リツコを真似て短くした髪が良く似合っていた。

 尚、髪を金色に染める事は旦那である青葉シゲルが必死に阻止していた。

 

 と、ISS-05の建造棟管理官(ドック長)が青葉マヤの所に飛んできた。

 年単位で宇宙空間で過ごしている為か、絶妙な体捌きで着地する。

 ブーツに仕込まれたマグネットが着地の反動を殺す仕草は、秀麗の一言であった。

 それは、人類は宇宙空間を研究の場では無く生活の場としつつある証拠と言うべきなのかもしれない。

 人類はアディショナルインパクトを超えて新しいステージに上りつつあるとも言えるだろう。

 それは、ある意味で人類補完計画が成立したと評価できるのかもしれない。

 

光速推進ユニット(ハーリング)、3度目の外部確認が終了しました。全システムに異常はありません。最終確認と承認を願います」

 

 3度の外部確認を行うのは、まだ光速推進システム(バニシングモーター)の技術が安定していないからであった。

 青葉マヤの判断だけであれば、本来であれば光速推進システム(バニシングモーター)はもう何度か、贅沢を言えば2桁の無人機による試験運用を経てから人間が試乗するべきであった。

 それ程に人類の科学史から見て未知の領域の技術であったのだ。

 にも拘わらず実行される理由は、偏に、実行者であるアスカの強い願いがあればこそだった。

 青葉マヤは、確認項目にキチンと目を通し、ISS-05責任者としての最終承認ボタンに触れる。

 

「良いのね、アスカ」

 

 最後の確認としてアスカに尋ねる。

 酔いも悪いも無く、只、その為に生きてきたのがアスカだ。

 返事は1つでしかなかった。

 

『問題が無いなら承認して、疾く早く(プリィーズ)

 

 アスカに迷いも、それこそ躊躇も無かった。

 故に青葉マヤは携帯情報端末(PDA)の承認ボタンに触れ、承認者の欄に自分の名前をサインする。

 ピン! と言う小さく軽い音と共に、実行認否確認中と黄色い文字で表示されていたのが、青い実行承認に変わった。

 

 

 

 全ての確認が終わった高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)は、作業艇(ボート)の手でISS-05を離れた。

 様々な観測機器、そして多くの人間が見守る中、カウントダウンが進んでいく。

 

 見守る人間には、ストレリチアの姿もあった。

 後学の為にと渚夫妻、渚ヒイロと共に来ていたのだった。

 ストレリチアはヒイロと手を握り合っていた。

 無重力に四苦八苦しながら、体を動かすたびに何処かへ流されそうになるのをヒイロと支え合っていたのだ。

 流石に子供向けのマグネットブーツ(ISS用機械化靴)などは作られていなかったのだ。

 手すりに掴まったり、或いは床の配線に足を絡めさせたりして、何とか2人は床に足を付けていた。

 その微笑ましい姿は、実験を前にした観測室の重苦しい雰囲気を幾ばくかばかり中和していた。

 

「握ってて」

 

 陽光を反射し輝く高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)を見ながら、ストレリチアはヒイロにお願いする。

 アスカとの今生の判れは済ませていた。

 だから後は耐えるだけ。

 だからこそヒイロに頼るのだ。

 縋る様なストレリチアの小さな声、だけどヒイロは決して聞き逃さない。

 

「うん、離さない」

 

 ギュッと力が込められた手。

 握られた手。

 温かい手。

 その事がストレリチアに、自分の居る場所を教える。

 ヒイロは、何処にも行かさないと体を寄せた。

 

 その時、カウントダウンがゼロになる。

 高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)が動き出す。

 最初はゆっくりと、次第に加速していく。

 それはホンの数秒の事だった。

 一気に加速し光となる。

 音も光も振動すらも無く、翔ぶ。

 

「行ってらっしゃい、アスカさん(お母さん)

 

 

 

 ISS-05を離れた高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)は光速の8割ほどを維持して一度、月軌道の外側迄進出し緩いカーブをもって地球への突入ルートに乗る。

 後は、渚カヲルからもたらされたマイナス宇宙へ突入出来る座標 ―― 南極上空のポイントへと突貫あるのみとなる。

 その事を示すアラームを聞いたアスカは、一度、目を瞑った。

 深呼吸。

 開かれた蒼い目には覚悟のみがあった。

 

「アスカ、行くわよ」

 

 躊躇する事無く、操縦桿(グリップ)の赤い最終加速ボタンを押し込む。

 光となった。

 

 

 

高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)、突入確認! 実験は成功です!!』

 

 放送(アナウンス)と共に、観測室では歓声が爆発した。

 人類の新しい一歩が示された事、その場に立ち会えたことの喜びでもあった。

 そんな中にあってストレリチアは喪失感を味わっていた。

 だが、1人ではない。

 ヒイロがギュッと抱きしめてくれているから。

 だから、涙を零すだけで耐えられていた。

 伴星の様に涙を連れたストレリチアの頬に、ヒイロは父親譲りな仕草で頬を合わせる。

 

「僕が一緒に居る。いつまでも居るから」

 

「ありがとう」

 

 自分の体に回されたヒイロの手に、ストレリチアは縋っていた。

 

 

 

 

 

 境界を突破し、マイナス宇宙へと潜った高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)

 初めて意識して見たそこは無限の宇宙だった。

 自分が何処までも広がる様な感覚をアスカは味わう。

 

 地球の外。

 太陽系の外。

 オリオン腕の外。

 銀河の外。

 銀河団の外。

 

 因果律の外側にあるマイナス宇宙。

 アスカの知覚が広がっていく。

 人とは?

 宇宙とは?

 浮かび上がってくる疑問、或いは知の走り。

 だがアスカは歯をむき出しにして、どうでも良いと笑う。

 ()()()()()

 シンジだけで良いのだ。

 宇宙の真実、人類の存在意義なんてどうでも良かった。

 シンジだけで良いのだ。

 人の両手でつかめるものなど限られている。

 だから、アスカはシンジだけ掴めれば良かったのだ。

 

 光がアスカの視野を埋め尽くした。

 

 霞が掛かった様な世界。

 銀河。

 宇宙。

 高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)は翔んでいる。

 動いていない。

 次元の壁を越えた為、軸が失われているのだ。

 

 アスカは真っ赤な人の顔の様なものを持った宇宙船の船団を見た。

 赤だけではなく、青や黄の色の宇宙船がたくさん群れている。

 近くて遠いそれらは、果てしなく巨大だった。

 惑星よりも大きいかもしれない。

 それらが、叫びと共に惑星を砕き、3つが1つとなって巨大なロボットへと姿を変えていった。

 閃光。

 星々が煌きと共に失われていく。

 その眩しさに、アスカは反射的に目を閉じていた。

 

 気づいた時、銀河の外に居た。

 何もない場所。

 と、白亜の、天使の形をした宇宙船が、全天を覆う敵と戦っているのが見えた。

 傷つきながらも突き進む気高い姿。

 壊れ征く宇宙船の破片が光の欠片となって宇宙へと風にまいていく。

 

 気づいた時、時間の流れの果てに居た。

 すぐ近くに黄金のロボット、その頭頂部に座った藍色の髪の少女を見た。

 人形の様に整った顔、細い手足。

 超然とした少女は、薄い笑みを浮かべてアスカに気づいて手を振っていた。

 

 気づいた時、全ての外側に居た。

 巨大な白と銀色のロボットと黒と赤色のロボットが戦うのが見えた。

 舞の様に戦うのが見えた。

 光をまき散らす、その身と同じ大きさの金色の槍をもって戦っていた。

 

 気づいた時、歌が流れていた。

 歌詞は判らないが、只、ひたすらに優しい歌。

 愛の歌だとアスカは思った。

 巨大な、巨大すぎる何かがお腹で歌っているのが見えた。

 その手に、翼を持った蒼い人を乗せて、飛んで行った。

 

 

 

 アスカは、何も分からなくなっていくのが判った。

 見た事、聞いた事、知覚した事、それらが混然となってアスカを埋め尽くそうとしていた。

 因果律の果てへと果てへと流れていく。

 マイナス宇宙の情報は、願望器(エヴァンゲリオン)を携えぬ只の1人の女、否、いつしか嘗て(第2の少女)の姿に戻った式波アスカ・ラングレーと言う器を満たしつくし、溢れさせていた。

 あふれ出る流れによって、自分が漂白されていくのが判る。

 だがアスカに抵抗の術は無い。

 嬉しかったこと。

 悲しかったこと。

 思いですらも手から零れ落ち、解けていこうとする。

 自分が消えていくと言う恐怖。

 

「バカシンジィ!!」

 

 叫び、それは救いを求める声でも願いでも無かった。

 只、アスカにとって縋りたいのは神でも仏でも無いと言うだけの、魂の悲鳴。

 

 水音。

 恐ろしく澄んだ、水面に落とされた水滴の音と共に、アスカを弄んでいた情報が途切れた。

 

「………」

 

 目を開けば、高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)の左右に大きな光る柱が立っているのが見えた。

 否、柱ではない。

 尋常ではない大きさの、それは腕だった。

 宇宙と言う水面から、アスカがそっと掬い上げられたのだ。

 

 

“貴方は勇敢なのですね。でもここは少し遠すぎる”

 

 

 言葉が音とならずにアスカに伝わった。

 その優しさは、それまでの嵐の様な情報とは全く事なっていた。

 情報の質量こそ大きかったが、決してアスカを吹き飛ばそうとはしないのだから。

 だからアスカは思わず、目を閉じて身を委ねていた。

 

 瞬きの様な時間。

 だがそれだけでアスカは理解した。

 世界が1つではない事を。

 因果律と言うものを。

 次元の間、高位次元の存在を。

 

 シンジが、あの世界に於ける因果律の紡ぎ手(世界再構築)を担った事を理解した。

 ()()()なのだ。

 因果律を紡ぐと言う事は1次元()2次元()3次元(立体)4次元(時間)、更にその上の上の次元の権能が無ければ出来ぬのだ。

 果てしなく神の座に近い行い。

 それをシンジは、願望器(エヴァンゲリオン)新生の槍(スピアー・オブ・ガイウス)をもって成していたのだった。

 只のヒトの身で辿り着ける場所では無かった。

 

 

“それでも貴方は諦めませんか?”

 

 

 尋ねられる言葉。

 

「諦めるかっちゅーの!!」

 

 疲弊しても尚、アスカは力一杯に即答した。

 断言した。

 それが誰であれ、どんな事であれ、アスカにシンジを諦めると言う選択肢は無かった。

 

“でしたら鍛えなければいけませんね”

 

 それまで遠かった声が、アスカのすぐ傍から響いた。

 気づいた時、アスカの眼前、コクピットの中に女性が浮かんでいた。

 幽玄な雰囲気を漂わせた、長く青い髪の女性だ。

 微笑んでアスカを見ている。

 

「今日が私でよかったわ。あの子は少し乱暴だから」

 

 玲瓏たる声。

 少しだけ茶目っ気が出て居た。

 只、只の女性ではない事だけはアスカにも理解できていた。

 

「アナタは誰?」

 

「私は津名魅、貴女の勇気を称え顕在した(頂神)

 

 高位次元生命体 ―― 11次元の存在たる津名魅から見て、粗末と言って良い高位次元転移機(バイ・コーザリティ・ダイバー)で上位次元世界へと挑んだアスカの勇気は、蛮勇としか評しないものであった。

 だがそれでも尚、その勇気は褒めるに値する行為であった。

 半分は自殺行為にも似たものであったとは言え。

 だから津名魅は現れたのだ。

 世界を跳ぶ船乗りのもとへと。

 

「さぁ跳びますよ」

 

「へっ!?」

 

 アスカの返事を待つことなく、世界は白く光り出す。

 神は人の反応を待たない。

 自らが決めた事を粛々と行うのみであった。

 

 白が世界を埋め尽くす(ホワイトアウト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 潮騒。

 寄せてはひく波の音。

 

 

「僕を好きだと言ってくれてありがとう」

 

 好きだった。

 アスカが過去形で言った事の意味をシンジは誤る事なく理解していた。

 アスカの戦いを、その覚悟を理解していたのだから。

 だからこそシンジも同じ言葉を返した。

 

「僕も好きだったよ」

 

 エヴァンゲリオンを、全てのエヴァンゲリオンを、己の命を使ってでも消すと決めたシンジ。

 アスカが、多くの人が幸せになる為にエヴァンゲリオンを消す。

 だからこそ忘れて貰う為に、言葉を連ねる。

 本当は何も言わない方が良かったのかもしれない。

 アスカの幸せを、この後の生を思えばそれが正しいのかもしれない。

 だがそれでもシンジは今生の最後にアスカともう一度だけ、会いたかったのだ。

 悲しい程の、小さな我儘であった。

 フト、シンジは己の行いが父、碇ゲンドウが己の人類補完計画(シナリオ)を行おうとした事と同じだと気付いた。

 ただ会いたかったのだ、大切な人と。

 シンジはアスカと。

 ゲンドウは碇ユイと。

 心が欲したのだ。

 

 大人になったアスカの顔。

 本当なら、こうなっていたんだろうと思えるアスカ。

 そのアスカの顔を心に焼き付けるシンジ。

 

 抱きしめたかった。

 離れたくなかった。

 だが、シンジは別れねばならぬ。

 エヴァンゲリオンを消し、ガイウスの槍を使う事でこのマイナス宇宙がどうなるのか見当もつかない。

 消えるのか、それとも止まるのか。

 その中で自分がどうなるのかも判らない。

 皆目見当がつかない。

 だが、やらねば成らぬのだ。

 

 ()()()()()、大事な人をそんな場所に置いておく事など出来る筈も無かった。

 幸せになって欲しい、その願いを込めてアスカを送る。

 

「ケンスケによろしくね」

 

 送る先は第3村、アスカと一緒に住めたあのケンスケの家だ。

 相田ケンスケがアスカの居場所になるかは判らない。

 だけど、あの気のいい親友は、アスカが足を止めてしまったら、再び歩き出すまで支えてくれるだろう事は信じられた。

 だからこそ、シンジは相田の元へとアスカを送るのだ。

 

 エヴァンゲリオン第13号機のエントリープラグにアスカを乗せ、送り出す。

 一瞬で光となって消えて跳ぶ。

 深い喪失感がシンジを襲うが、涙は流さない。

 涙で救えるのは自分だけだから。

 シンジはアスカと、世界を救うと決めたのだから。

 

 凛々しい顔をしたシンジ。

 砂浜に立つその足が、情け容赦なく払われた。

 

「はっ?」

 

 ステーンっとしりもちをつくシンジ。

 何事かと見上げれば、アスカが居た。

 今、別れた筈のアスカが、14歳の頃の姿で居た。

 茶色を基調として、赤い差し色の入った不思議な服を着て立っていた。

 

「あっ、アスカ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げるシンジ。

 対するアスカはとても楽しそうな顔をしている。

 楽しそうではあるが、なんと言うか、不穏な空気も漂わせている。

 あの懐かしい(コンフォート17)で、怒った時の姿を思い出させる雰囲気だ。

 

「何で、何でぇっ!?」

 

 混乱するシンジの両頬にアスカの手が添えられる。

 アスカは笑顔のまま、だけども蒼い目には一切の笑いが無い(シリアスだ)

 添えられた手に力が入り、一気にシンジの頭を掴むとそのままぶん投げた。

 海へ。

 怒声と共に。

 

「くぉのぉバカァシンジィィィィィ!!!!!!!!」

 

 反応する前に派手に海へと投げられる。

 放物線を描いて飛び、着水、派手に水柱を上げる。

 腰くらいの深さの海に沈んで浮き上がる。

 口から入り込んだ海水に咽込んで、鼻に入った海水が死ぬほど痛いけど、それどころじゃない。

 慌てて起き上がったシンジが顔を拭って周りを見れば、アスカがズンズンと歩いてくるのが見えた。

 水面を歩いてくるその姿は、正直な話として怖いし逃げたい。

 腰が引けるシンジ。

 だけども、逃げちゃ駄目だと心のどこかが教えてくれていた。

 だから逃げずにアスカに向き合う。

 

 但し、どうしてもヤケクソな声にはなってしまったが。

 

「どうしてここに居るんだよアスカ! 第3村に帰ってよ!! ここはもう終わるんだよ!!!」

 

「煩いバカシンジ! アタシがどんな思いをしたかっ、どれだけ苦労して()()()()()と思ってるの!!」

 

「戻ってって………」

 

 その言葉の意味する事を考えようとしたシンジは、延ばされてきたアスカの両手に再び捕まった。

 次の衝撃(ヒステリー)を予想したシンジだったが、その手は果てしなく優しく掴まえただけだった。

 引き上げられるシンジ。

 アスカの様に、謎の力で水面に立たされた。

 

 正面からアスカを見る。

 正面からアスカに見られる。

 

 自分の姿が映るアスカの蒼い瞳に、シンジは囚われる。

 

「アンタが帰したアタシ、そのアタシは14年掛けて戻ってきたわ。バカシンジ、覚悟しなさい。たとえ今、また返されたとしてもワタシは又、14年でも何年でも掛けてこの場に戻ってきてやる」

 

 一息に言い切ったアスカは俯いて肩で息をする。

 瞳が逸らされ自由が戻ったシンジは、そっと自分の頭を掴んでいるアスカの手に手を添える。

 

「アスカ………」

 

「馬鹿、ばっかぁしんじぃ」

 

 シンジはアスカの手が震えている事に気づいた。

 そして、アスカが泣いている事にも。

 だから手をそっと動かした、アスカの手から二の腕へと渡り、そして体へと。

 抱きしめた。

 

「ゴメン、アスカ。良かれと思ったんだ。アスカには生きていて欲しいって思ったんだ」

 

「………勝手に決めるなバカシンジ」

 

 涙に震えるアスカの声。

 その声に背中を押される様にアスカを抱きしめる力を籠める。

 アスカも又、その手をシンジの背中に這わせる。

 

 抱きしめ、抱きしめられる。

 頬をなすり合い、お互いのぬくもりとを感じ合う。

 

 どれ程抱き合っていただろうか。

 少しだけ落ち着いたシンジは、吐息の湿度と匂いからアスカの顔が見たくなる。

 近すぎると幸せだけども見えない。

 だから、おずおずとアスカの頬から顔を離し、そして細い頤に手を添えて顔を上げさせた。

 涙に濡れたアスカの蒼い瞳は、吸い込まれそうな魅力を放っていた。

 だからシンジは言葉を紡ぐ。

 

「アスカ、一緒に居て」

 

 居て欲しいと言う願いではない。

 居てくれますかと言う確認でも無い。

 一緒に居る事を望む、我儘だった。

 それをアスカは快諾する。

 

「バカシンジ、ワタシはその為に戻ってきたのよ?」

 

「有難う、アスカ」

 

 唇を重ねる2人。

 2人で世界の改変を始める。

 新世紀(ネオジェネシス)

 世界が変わる。

 変わる世界。

 だがそれでも決して離れまいと2人の手は、指と指とが絡め合い、硬く結びついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浜辺へと顕在化したエヴァンゲリオン8号機。

 だが、誰も居ない。

 

「あれ、わんこ君、どこぉ?」

 

 真希波マリ・イラストリアスの声が、潮騒の音に交じってどこか間抜けに響いた。

 

 

 

 

 

 




 ごめんよ、真希波マリ・イラストリアス。
 君は良いお嬢さんんだけど、オチ担当として優秀過ぎるのだ!!

 尚、外伝と言うか蛇足で、もう少しコメディを担当してもらうがな!!


>因果律の果て
1)ゲッター艦隊
 尚、アスカの機体は視認していた模様

2)銀河の外 ―― 誤解されがちだったけど、リプミラ号
 85億年後の戦いと言う、SFとしてはブッチギリなタイトルホルダーな時間軸で戦闘中。
 でもたぶん、リプミラは見つけたね!

3)時の流れの果て ―― KOGとラキシス
 無論気付いている。
 神様だもの(ナハナハ

4)全ての外側にして箱の中 ―― デモンベインvsリベル・レギス戦
 軍神世界ではないので割とまだましだけど、シャイニング(以下略を振り回しているので、本当に世界がヤヴァス
 尚、ナイア=サンは永劫の果てを見ていたのでアスカに気づかなかった(あぶねー

5)因果律を超えたお腹で歌う ―― マクロスF
 ところでアルトや、とっとと嫁の所に戻れ(真顔


2021.05.12 文章修正
2021.06.05 後書追加
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