after days(シン・エヴァンゲリオン after短編集) 作:◆QgkJwfXtqk
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シンジと真希波の帰還を祝う
理由の1つはアルバトロスの整備だ。
基本設計をマヤが行い、大部分の部品をアスカが自分で工作し、そして相田が拾ってきた部品で構成されているアルバトロスは、飛行機 ―― 飛行艇の知識を持つ人間からすれば少しばかり認めがたい
良くぞ飛んできたと呆れるレベルの
外見を整形し、外装から内装はシートから配線に至るまでWILLEにあった高品位部品に取り替えたのだ。
その様は、殆ど新造する様なものであった。
アスカやシンジ、子どもへの思いの表れとも言えた。
そしてもう一つは事情聴取だ。
シンジがマイナス宇宙に滞在した事 ―― アディショナルインパクトを阻止出来た事などの報告をWILLEが求め、真希波が行っていた為でもあった。
当初は実行した当事者であったシンジも重要参考人として聞き取りを受けてはいたが、それらの詳細を理解し、行動し、或いは対応したとはとてもでは無いが言い難かった。
この為、証言は何とも曖昧模糊とした感性的なモノとなってしまい、聞き取り調査は早々に打ち切られる事となっていた。
その分、マリが微に入り細に入り、朝から晩までWILLEスタッフからの質問攻めに合う事となっていた。
「いい気味よ!」
とはアスカの弁である。
自他共にマリを親友にして戦友と認めるアスカであったが、
最初はメルボルンに置き去りにしようか言い出す程であった。
「まぁまぁそんなに怒らない怒らない」
呑気に笑うシンジの手には釣竿があった。
肩から氷の入った保冷バックを下げている。
第3村以来、シンジもすっかり釣りを趣味にする様になっていた。
対するアスカも釣竿を、此方は背負っている。
両手は、椅子やら飲み物やらお菓子やらとった細々としたものを括り付けた真っ赤な自転車を押していた。
二人が行くのは海に続く道。
シンジは藍色のハーフパンツ風の水着に濃緑のWILLEパーカーを引っ掛け、アスカは赤白のボーダなセパレート水着に此方もWILLEのパーカーを着ていた。
何ともラフな格好で歩いていた。
その様は正しくティーンエイジャーの
舗装されていた道は半ば砂に埋もれ、道の周りの家々は朽ちつつある様は
或いは思い。
全てが終わった。
だからこそ、例え明日、世界が滅んでも今を生きたいと言う思いが溢れていた。
「何よ、随分と余裕じゃないの」
「怒ってたら魚が逃げちゃうからね」
「平常心って? ホトケシンジにでもなる積りかっちゅーの」
不平不満の様に言うが、アスカの表情は穏やかだった。
不満げに目を細めていても、唇を尖らせていたとしても、シンジはキチンと理解していた。
意味の無い会話。
それが平穏であり日常でもある。
だからこそ愛おしい。
何でもない言葉の1つ1つが嬉しいのだと。
一緒に歩いているだけでも楽しかった。
一緒に会話しているだけでも楽しかった。
着いたのは堤防、突堤の先端にある突堤灯台だ。
ニアサードインパクト以前、セカンドインパクト時代からの被害はかつての風光明媚なメルボルンと言う街の姿を一変させていた。
突堤は、その頃の名残が残っている。
青い海に沈むヨットの残骸、或いは艦船。
それらが丁度良い漁礁となって海の生き物を育んでいた。
とは言え、シンジにとってもアスカにとってもどうでも良い話であった。
釣れても良いし釣れなくても良い。
WILLEメルボルン基地の食糧事情は悪くない為、無理に魚を釣る必要は乏しいのだ。
故に、これは純然たる
相手と一緒に居られる。
他愛も無い会話をする。
それだけが目的であり、全てだったのだから。
パラソルを立てて隣り合って釣り糸を垂らし、色々な事を話した。
アスカの14年間をシンジは聞いた。
シンジの子供時代をアスカも聞いた。
本当に他愛も無い会話であったが、であるからこそ愛おしいのだ。
過酷な日々、或いは体験が、二人にその事を教えていた。
気が変われば海に飛び込んでも良い。
WILLEの趣味人が真水が突堤にまで来るように配管しているのだから、海水にまみれても無問題だ。
問題は日焼け止めクリームだろう。
「背中は兎も角、前を塗るのはシンジにはまだ難しいかな」
水着の紐を解いたアスカが悪戯っけタップリに笑えば、シンジは顔を真っ赤にする。
が、今日のシンジはひと味違う。
「そんなに言うなら塗ってやるよ!!」
顔を真っ赤にしながらヤケクソに吠えたのだ。
その余りの可愛らしさにアスカの笑いは深まる。
「バーカ、エッチ、チカーン!」
罵り声。
但し、その響きは甘やか極まりなかったが。
「誰………碇君?」
農作業で汗を流していた綾波は、フト、ナニかに呼ばれたように空を見上げた。
シンジが見つかったのだろう。
そんな気がしたのだ。
農作業と言っても、綾波が行っているのは嘗ての様な棚田で米作り ―― 手作業で米を植える様な事では無かった。
大型のトラクターで巨大な農地を耕しているのだから。
季節が1つ進んだ中、来年に向けた準備であった。
男衆は電力や上下水道から始まって様々な
活気に満ちて、拡大傾向にある第3村。
人口も増えつつあった。
戦が終わりWILLEから降りた人も居るが、それ以上に
文字通りの
100人だの1000人だのと言う様な程に多い訳では無いが、それでも稀に1人2人と、忽然と現れ、村に参加するようになっていた。
流石に死んだ人間が帰ってくる事は無かったが。
『綾波ちゃん! そろそろお昼にしようかね』
トラクターの
集中していた綾波も、その声に食欲を覚えた。
「はい」
返事をして、エンジンを止める綾波。
周りを見て今日の出来を思う。
良い調子であると思いながら、巨大なトラクターから降りた。
「綾波ちゃんは大きな機械を扱うのが上手いから助かるねー」
「のみ込みが早いし、仕事が丁寧だし」
木陰の下で広げられたお弁当。
おにぎりと漬物、そして卵焼きと言うシンプルな内容だった。
味付けもシンプルに塩だけといった塩梅であったが、ひと汗をかいた後の食事と言うものは実に美味しかった。
程よい温度になったお茶が、合間に喉を潤す。
ほっこりと笑う綾波に、周りのおばちゃん達は本当にそっくりさんにそっくりだと笑っていた。
「………ぐぅ」
と、近くで盛大に腹が鳴った。
食べたばかりでまだお腹が減っているのかと皆で笑いながら顔を見合わせるが、誰もが違っていた。
首を傾げた綾波。
「?」
と、もう一度、同じように腹が鳴った。
すぐ傍、木陰の向こう側だ。
「誰?」
誰何をすれば返事があった。
「やあ
ひょっこりと顔を出したのは、渚カヲルだった。
とは言え、綾波からすれば初対面であった。
但し、知ってはいた。
NERVの頃、ゲンドウから渡された資料で第1使徒である事を。
使徒故にか超然とした雰囲気が特徴的な渚であったが、今の姿は萎れた、年齢相応の雰囲気があった。
と言うか服装も酷い有様だった。
泥に塗れ、所々に葉っぱだの枝だのが付いている。
美男子が台無しと言えるだろう。
「渚カヲル?」
「そうだよ。いや、リリンは大変だね、こんなにお腹が空くなんて」
「綾波ちゃん知り合い? この可愛い子」
あんまりな渚の状態に、おにぎりが渡される。
貪る渚。
空腹だったんですと全身で表現する勢いだ。
慌てて食べて咽て、おばちゃんから貰ったお茶を飲む始末。
整った顔から放たれていた雰囲気が台無しだ。
故に、おばちゃん達から可愛い子扱いされるのも仕方の無い話だった。
「渚カヲル。知っていたけど会ったのは初めて」
使徒であった事は言わない方がよいだろう。
NERV絡みの部分も含めて、そう考え答えたのだった。
夕暮れまでには基地に戻ったシンジとアスカ。
海に魚が戻ってきているとは言え大物は釣れなかった。
とは言え11匹ほどは釣れた為、厨房の調理スタッフに贈り喜ばれた。
11匹だけではこの基地の食材としては全く足りないが、重労働もこなす重要スタッフ ―― 航空機パイロットなどへの加給食には十分な量であったからだ。
後は借りていた自転車や釣り具を返してから、住居として宛がわれたコンパートメントに戻る。
文字通り客車を元に、間仕切りされベットなどの寝室やトイレが設置された仮設住宅だ。
アパートなどの居住性の高い物件は、使用可能な準備が出来ると共にスタッフの奪い合いとなっている為、
尚、3人で1つのコンパートメントであり、まだ子どもの体と言う事でキングサイズのベットで一緒に寝る形になっていた。
思春期真っ盛りのシンジは、同じベットで寝ると知った瞬間に真っ赤になってしまい揶揄われていた。
アスカと真希波に。
二人が慌てなかったのは、
無論、その後に女性スタッフから
否定したけど、ベットを一緒にする事は譲らなかったが。
真希波と女性スタッフはアイコンタクトを行い、
晩飯は大食堂で食べる。
帰還歓迎会が行われた場所でもある。
温めなおしたりしたり、手を加えた携帯食が主役の食事ではあるが、コア化の解けた場所の冷蔵庫から回収されたン年ものの冷凍食材が彩を加えており、それなりの食事にはなっていた。
「ちかれたー」
連日の事情聴取にすっかりバテた真希波は、もそもそとボイルされ香味油の掛かった魚料理をかっ喰らっていた。
重要な頭脳労働と言う事が勘案され、真希波にも
「姫たちは良いニャー ギラつく太陽の下でストロベリーにラブしているんだから」
揶揄う言葉を怨嗟の様な響きで言う真希波。
本当に疲れ果てている様だ。
「わんこ君、この後、お風呂でお尻を揉んでくれない? 石になってないかしっ ―― 」
鎮圧された。
アスカが鎮圧した。
シンジが何かを言う前に、アスカの手が真希波を捉える。
「そ”う”い”う”の”は”駄”目”っ”て”言”っ”て”る”わ”よ”ね”?」
「姫姫姫姫!? 身が出る、身が出るって。何なら姫も一緒に…って、アーッ!」
何ともドタバタコメディに悪意の無い笑いが大食堂に生まれる。
シンジは少しだけ恥ずかしそうに顔を覆って俯いた。
が、足音で顔を上げる。
シャープな顔をした、猛禽の様な貌をした若い男だ。
とは言え攻撃的な雰囲気ではない。
「碇シンジか?」
「はい」
「俺はイオ・フレミング小尉だ。少し話があるんだが良いか?」
「少尉、私たちは食事中なんだけど?」
面倒事は嫌いだとの気持ちを全身から発散させているアスカが口を挟む。
WILLE支給なパーカーの襟に縫い付けた
正しく威圧。
外見は
航空部隊に所属し実戦を重ねていたとは言え、ニアサードインパクト以降にWILLEに参加したフレミングとでは食ってきた釜の飯が違う。
目つきが違う。
その威に反射的に背筋をのばしたフレミングであったが、別段に含む所が無かった為に陽性に対応する。
「申し訳ございません特務少佐。少しばかり特務少佐の男をお借りしたいだけです。で、なぁ碇さんや、お前さんチェロが弾けるんだろ?」
フレミングがシンジに声を掛けた理由。
それはJAZZだった。
JAZZを趣味としてドラマーとしてドラムを叩く事を趣味にしていたフレミングであったが、
ピアノ兼ボーカルは居るが、それ以外はからっきし。
暇を見てはドラムを叩き、未来の仲間に備えて弦楽器やら管楽器を集め、手入れをしてきていたのだ。
そこに降ってわいたシンジ。
チェロが弾けるのだと言う。
誘わない理由が無かった。
「すいませんね少佐、アイツ、言い出したら聞かなくて」
そうアスカに詫びを入れるのはフレミングのJAZZ仲間、ピアノ兼ボーカルを務めるビアンカ・カーライル少尉であった。
アスカよりも赤味の強い髪をまとめ上げた、さばけた感じの女性であり、アスカとは旧知の仲であった。
傍に小柄な女性 ―― 子どもを連れている。
実子、と言う訳では無いだろう。
誰かと付き合っただの結婚し只のの話は聞いた事が無かったからだ。
とは言え、少女ともフレミングとも距離感は近い。
「あ、この子はリリー・シェリーナ。色々とあってイオの妹になった子なの」
ペコリと頭を下げたシェリーナ。
その仕草と、少しばかり超然とした雰囲気は、どことなく綾波を思わせた。
或いは
L.C.Lに帰った
第3村の綾波に、その記憶と経験はうっすらと引き継がれたと言う。
或いはそれは幸せな事なのかもしれない。
違うかもしれない。
「ま、良いけど。式波アスカ・ラングレーよ、よろしく」
シンジの加わったJAZZの
古典の楽曲しか弾いた事の無いシンジであったが、譜面を読み、耳から入るフレミングのドラムにそつなく合わせる形で音を紡ぎ出すのだ。
それは初めてにしては上出来と言う水準を超えていた。
聞き惚れる様にアスカは無心になって聞いていた。
と、水のボトルが差し出される。
見上げれば真希波だった。
「わんこ君、ホントにハイスペックだねぇ」
呆れた様に言いながら、アスカの隣に座った。
「多芸よね」
「多芸ならまだしも、音を合わせて来れるって凄いよね。姫も参加しない?」
「アタシは無理よ、やった事無いモノ」
戦闘用クローンである式波Typeの生き残り、
生体戦闘マシーンとして生み出され、鍛えられ、そして今まで戦い抜いてきたのだ。
音楽と言うものを聴いたことはあっても、やった事など無かった。
情操教育なんてモノを受けた事は無い。
エヴァンゲリオンに乗ること以外で教わったのは、時間つぶしとして与えられた古臭いゲームだけだった。
ゲームは楽しいからしていた訳じゃない。
時間つぶしと、そして他人と
「だから良いんじゃない。わんこ君に手取足取り教えてもらえるよん、お姫様」
「時々アンタが味方なんだか敵なんだか判らなくなるわ」
「うーんそこは迷って欲しくないかな。アッシは姫の忠実なるマリですニャ」
ブイっと指をする真希波に改めてアスカはため息をついていた。
一休みとシンジがアスカの所へ戻ってくる。
フレミングはまだまだ物足りないって感じだったが、まだ成長期のシンジでは大人の体力に追随しきれなかったのだ。
幾度か音を外してしまった為、水分と休養をとカーライルが口を挟んだのだった。
「お疲れ、凄いのね」
水のボトルを差し出せば、嬉しそうに受け取るや否や飲みだすシンジ。
見れば汗でびっしょりという様だ。
「でも、楽しかったんだ」
「そっ」
持っていたタオルをシンジの頭に掛けるアスカ。
「程々にしなさいよね」
「わんこ君、姫とも話したんだけど、第3村に戻ったら音楽もしない?」
肯定的な返事をしたつもりが無かったにも拘わらず、この真希波の言葉である。
慌てて否定しようとしたが、シンジが先に食いついた。
「良いね。楽しいよ!」
「アタシは音楽なんてやった事ないもの………」
俯き萎れるアスカ。
だがシンジがそっと手を繋ぐ。
「誰だって初めてはあるよ。僕はアスカと一緒に演奏したい」
音楽だけの話では無い。
その誘いは、式波アスカ・ラングレーと言う少女に
そう
差し出されたシンジの手をアスカはそっと握った。
「アッシも居るニャ!」
「うん、ありがとう」
全てを知っている訳では無いが、それでも少年少女たちの仕草から何かを感じ取ったフレミングは、小さく呟いた。
「
戦争だけが人生なんて、潤いが無いと笑う。
その笑いに、コテっと首を傾げたシェリーナが尋ねる。
「文化って?」
「愛さ」
投げキッスの1つでもしようとしたフレミングだったが、カーライルに制圧された。
割と蓮っ葉な雰囲気もあるカーライルだけれども、情の深い女性らしく良識と言うものも存分に持っていた。
「私は子どもじゃないわ?」
「まだ子どもよ、だからもう少し大きくなったらね」
この数日後、シンジはフレミングたちと一緒にメルボルン基地の慰労会で