after days(シン・エヴァンゲリオン after短編集)   作:◆QgkJwfXtqk

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ある嵐の夜に

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 メルボルン基地の片隅。

 生活エリアの一画、一言さんでは辿り着く事の難しい場所へと設けられた歓談室ドラ猫で、その日、真希波マリ・イラストリアスはくだを巻いていた。

 

 歓談室はそう広くない。

 2つのボックスシートとカウンターシート、40㎡も無い小さな歓談室には所狭しとセカンドインパクト以前の貴重品 ―― アルコールの瓶が並んでいた。

 内装も、何処其処から拾ってきた部材で()()()()()作られた、事実上のBarであった。

 看板代わりに入り口にはF-14戦闘機(ドラ猫)のレリーフが、女性専用(ガールズ・オンリー)の文言と一緒に掲げられている。

 入り口に設けられているIDカード式の入室管理(ドア・チェッカー)機械は、一見な男性のソレを[入室資格ナシ]の文言と共に弾いている。

 別に女性優位主義などが理由では無い。

 作ったばかりの頃に、酔っぱらった馬鹿が過激なナンパ(非文化的行為)をした結果だった。

 とは言え、女性だけだから平穏かと言えば、そういう訳でも無い。

 真希波の如くくだを巻く奴、上司同僚部下への怨嗟を潰れるまで呟く奴、女性へのナンパをする奴、果ては銃を抜く馬鹿。

 迷惑度数最大値な最後の奴は1人だけで、しかも、今現在は出禁なので問題は無い。

 では最小値だから真希波の行為を許すかといえば、実は微妙であると言うのが、このドラ猫の管理者たる長良スミレの正直な感想であった。

 

「長良っち、聞いてる!?」

 

「聞いているよ」

 

 特にそれが色恋沙汰であれば。

 正確に言えば、性絡みだ。

 本当にこの()()()()()がっ! と長良はグラスを磨きながらコッソリと嘆息した。

 

「何で姫とわんこ君、まだエッチしてないの! 絡めないじゃん!!」

 

 本当に最低の話題だった。

 式波アスカ・ラングレーと碇シンジの性的な関係が成されていない事を延々と真希波は愚痴っていたのだ。

 

「14年越しに成された初恋だよ!? 普通さ、14年分の悶々と10代の性欲とが入り乱れて直ぐに凄い事になるって思うジャン!!」

 

「2人ともガキって事っショ」

 

 ペロペロと度数のキツいジンを舐めながら、毒を吐いているのは北上ミドリだ。

 何と言うか、真希波が嘆き北上が煽り、煽った結果、真希波が嘆くに戻ると言うループ状態なのだ。

 長良の表情筋が死ぬ(ブッダスマイルな)のも仕方の無い話であった。

 

「そもそもの話として、同居人(保護者枠)が居ればオイタは出来辛いだろ?」

 

 礼儀として、そもそも真希波が同居しているのが悪いのでは無いか? とツッコむ長良に、真希波は納得しない。

 

「普通、目を盗んでするモンでしょ!?」

 

「それって、欲望モンスターのアンタ基準の話ッショ」

 

「にゃーん! 世界のみなさーん!! 青葉っちを喰えそうだからって余裕ぶちかましてる性悪がここに居ますよーっ!?」

 

「なっ、何を証拠にそんなヤッヴァい事言ってるのよ、信じられないッショ!!」

 

「焦ってるって春だーっ!!」

 

「いや違うって。鬼の伊吹に聞かれたらホントにマジヤバだからね!!」

 

 旧NERV時代からの赤木リツコの子飼いで、AAAヴンダー整備班班長であった伊吹マヤ大尉。

 若手、特に叱られている男性陣からは()()()()と恐れられる女傑だが、肩書その他を手放すと、可愛い(チャーミング)な所のある女性だとも言われていた。

 特に、旧NERVからの付き合いがある青葉シゲルなどからは。

 そして、それを憎からずと受け入れているのだ、伊吹が。

 共に公務が忙しいから()()なっていないだけの関係だと言うのが、北上などの色恋沙汰大好きな若い女性の一致した意見であった。

 聞かれたらヤヴァいと言う問題は、その青葉が割とモテると言う事に起因していた。

 まだ若いながらも中佐の階級を与えられ、多目的空中艦あおばを任される程に能力がある青葉は、まだ特定のパートナーを持たない事も相まって人気(有望株扱い)であったのだ。

 

 だが、北上も含めてAAAヴンダー乗り組み経験者は誰も青葉に手を出そうとはしていなかった。

 伊吹が、可愛い顔をしながらも、整備班班長として率先して現場に立ち、自分の背丈ほどもあるパイプレンチを軽々と扱うゴリラ(頭脳派筋肉ガール)であるからだ。

 そしてAAAヴンダーでは誰もが見ている前で、錯乱した男性乗組員を保安班のスタッフが駆けつけてくる前に素手で()()してみせていたのだ。

 間違っても敵対(恋敵に)したい相手では無かった。

 

「そー言えば、伊吹チャンって今はパリの仮本部だったっけ?」

 

「そうさ、あそこの施設が完全に使える様になると人類圏の存続はかなり楽になるからね」

 

 ユーロNERVの中心であったパリは、MAGIタイプの第7世代型有機コンピューターがあり、その他にも各種生産設備が整備されていたのだ。

 各種機能の本格的な再稼働ができれば、文字通りの人類再興の牙城となれる場所であった。

 問題は、MAGIシステムにせよ、各設備にせよコア化していた事による極端な劣化こそ免れていたが、それでも放置されて14年なのだ。

 全面的な再稼働には、事前の保守点検は重要であった。

 

 その再稼働準備の責任者として、伊吹はアスカが第3村を発つと共にパリ支部へと赴任していたのだ。

 この1点を見ても、WILLEの上層部がアスカに心を配っていると言うのが判る話であった。

 人類の再興を優先すると共に、人類を生き残らせる為に身命を賭した子ども(エヴァンゲリオン操縦者)への配慮は、同じ価値があると断じていたのだから。

 

「んじゃ、鬼の居ぬ間に?」

 

「マヂ、止めて………」

 

 許してっとばかりに北上は頭を振った。

 自分の欲望に素直なのが真希波と言う女性であったが、他人からそれをモンスター扱いされるのは許さないと言うワガママさがあった。

 人間、そういうモノである。

 

 凹んだ北上をカバーする様に長良が話題を戻した。

 

「で、少佐と碇少年。年相応で微笑ましい以外の事は無いし、何が問題があるの?」

 

「混ざりたいジャン!!」

 

 わんこ君を鳴かして、姫を蕩かせたいと言う真希波。

 本当に最低発言であった。

 

「………やっぱし欲望ジャン」

 

「なーにー?」

 

「なら真希波、アンタが少し離れて見るのが良いかもね」

 

 北上の自爆をサラリと流して見せる長良、その様は正に管理責任者(バー・マスター)の仕草であった。

 

「丁度、南極のマイナス宇宙域の再計測話が出てたし、行ってきなさいよ」

 

「姫ともわんこ君ともはーなーれーたーくーなーーーーい!!」

 

 

 グダグダな内にBarドラ猫の夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

「と言う訳で、1週間程南極に行っていますニャー!!」

 

 WILLEの乗員制服をビシッと着こなした真希波が、こればっかりは真面目な敬礼をしてみせていた。

 シンジとアスカに。

 2人からすれば青天の霹靂であった。

 尤も、言う真希波当人にとっても青天の霹靂であったが。

 

 手を回したのは北上。

 飲み屋での話題への善意(報復)だった。

 青葉を介する事でメルボルン基地上層部へと持っている交渉力(コネ)をフル稼働させたのだ。

 

「ひーめー! わんこくーん! アッシが戻るまで元気で居てねっ!!」

 

 2人に泣きつく真希波に、暑っ苦しいと顔を背けるアスカ。

 とは言え力づくで引きはがそうとしない辺り、割とアスカも絆されていた。

 シンジは宥める様に真希波の背中を優しく撫でていた。

 

「なーに、今生の別れみたいに雰囲気出しているのよ。自分で言ってるじゃない、1週間って」

 

「姫に1週間もハグ出来ないなんて死ぬような思いだよ!? しかも、わんこ君の匂いを1週間も嗅げないんだから、実質拷問みたいなモノじゃないか!!」」

 

「変態かっ」

 

「まーまー」

 

 

 

 嵐の様に仕事に出て行った真希波。

 1週間の出張と言う事で3人が住むコンパートメントが静かになる ―― 訳では無かった。

 今日は何処に遊び(デート)に行こうかと考えていた所に、電話が鳴ったのだから。

 メルボルン基地司令部からアスカへの出頭要請だった。

 

 

 アスカを呼び出したのはまだ若い男性、アスカと同じ少佐の階級章を持ったメルボルン基地救難部門の部長代行だった。

 

 敬礼と答礼。

 軍隊的な意味での貫目比べ ―― 先任の確認をする。

 恐らくはアスカが先任となった。

 大多数の若い将校に比べてアスカは軍歴の長さが違うのだから当然だろう。

 14年前の時点で中尉の階級章を与えられ、それから順当に昇進して今の特務少佐なのだ。

 その昇進速度は一般的なソレと比較して余りにも早いと言う訳では無いのだが、そもそも、スタート時点が違い過ぎるのだ。

 14年前、14歳で中尉だったのだ。

 同じ年齢位の相手では、軍歴の長さで比肩できる人間など居る筈も無かった。

 

「そう堅っ苦しくせずに」

 

 基地の救難部門の部長代行と言う決して軽い立場では無い人間に与えるには聊か貧相な執務室で、アスカを応接セットに促す部長代行。

 だがアスカはソレをやんわりと断る。

 何の用事か判らぬが、この救難部門の部長代行と腰を据えて語りたいとは思っていなかった。

 この後はシンジと一緒に自転車で遠出をする予定にしているのだ。

 軍務中であれば別だが今は休暇中の身、仕事よりも余暇を優先したいと言うのが本音であった。

 だからWILLEの制服を着る事も無く、至急の呼び出しだったから ―― と言うのを盾に、白いパーカーと濃紺のカットジーンズと言うラフい格好で来ていた。

 休暇中に呼び出しやがって、と言う無言の抗議でもあった。

 

 尤も、若い部長代行には()()()()を発揮してしまい、アスカの感情は急降下しつつあった。

 

「何の要件でしょうか」

 

 鼻の下が伸びて何とも言い難い顔を晒しているのだ。

 これで好意的な感情を抱けと言うのは難しいと言うものであった。

 尤も部長代行の側はアスカの空気、その気分を見抜く事が出来ていなかったが。

 若さと、そもそもUS-NERV系へのコネで昇進していた人間であった為、どうしても甘さがあったのだ。

 可愛い女性をみたら口説きたいと思う類の。

 アスカの肉体年齢は子ども(ティーンエイジャー)であるが、書類上は28歳と記入されていた事も、そのスケベ心の背中を押した。

 無論、エヴァンゲリオン操縦者としてのアスカの名前を知らない訳では無いのだが、そこに重きを置いていなかった。

 少しでも知っていれば、初々しい恋人(シンジ)との関係を大切にしている事も理解していたかもしれないが、残念ながらも部長代行にそれらの知識は無かった。

 旧NERV ―― NERV本部関係者から伝えられる、アスカとシンジに干渉するなと言う要請(事実上の命令)も知らなかった。

 WILLEの後方部隊勤務で、実に呑気な人間だったのだ。

 そんな部長代行にとってアスカは、エヴァンゲリオン操縦者で可愛いと言うだけでしか無かった。

 既に階級で相手が先任(上位者)であると言う意識も飛んでいた。

 だから本題の前の世間話で、個人的交際(デート)のお誘いをしたのだった。

 

「健康的で良いねアスカ少佐。最近は父を見習ってサーフィンをやり始めたんだ。今度、一緒に海に行かない?」

 

 許可も無く(ファーストネーム)を呼んだ事に、アスカの堪忍袋を〆る紐にハサミが入った。

 だが我慢した。

 一応は階級では上位であるが、相手は基地の部門長の代行なのだ。

 面倒事を避ける意味で大人の態度をする(猫を被る)程度はアスカも出来るのだ。

 世間向けの微笑みを浮かべて断る。

 

「お断りします。それより本題をお願いします。後、アスカでは無く式波と呼んで下さい」

 

「ゴメンね。海は苦手? でも青い海って楽しいよ。後、アスカって呼んじゃダメ? ほら君と僕の関係だし」

 

「僕ぅ?」

 

 アスカは自分のコメカミがヒク付いたのを理解した。

 ユーロ空軍、NERV、WILLE渡り歩いた戦歴を持つアスカにとって、何とも看過し辛い発言であった。

 が、アスカは我慢する。

 ()()2()()()、それにこの後はシンジと自転車で楽しむのだ。

 こんな所で時間を取られる訳にはいかなかった。

 コホンっと、1つ空咳をすると出来るだけ冷静に返答をした。

 

「私がアスカと呼ぶことを許す異性は1人で十分ですから。それよりも本題をお願いします」

 

「いや僕の方が良い男だよ。なんたってマイアミに家があるしね。世界が元通りだから、フロリダの別荘にだって行ける。今度、案内するから2人っきりで、さ」

 

 ウィンクを1つキメた。

 キメたのは暴言も3つ目(スリー・アウト)

 アスカがキレた。

 

「黙れ、このケツ拭き屋!」

 

 一喝。

 エヴァンゲリオンに乗っていても乗って居なくても常に前線部隊にあって軍歴をアスカは、文字通りの叩き上げだった。

 気迫と言うモノが違う。

 アスカの大喝に、部長代行は思わず立ち上がって背筋を伸ばしていた。

 が、アスカは許さない。

 仕事中に海だの女だのと現を抜かす玉無しに、本当に千切って口に突っ込んでやろうか等と、キツイ軍隊式表現(スラング混じり)で怒鳴る。

 怒鳴る。

 

 美少女少佐と思っていた相手が、鬼軍曹(ドリルサージェント)も吃驚の表情で叩きつけてくるのだ。

 部長代行は逃げ腰になって腰が引ける。

 涙目。

 だがアスカの叱責は止まらない。

 ここにシンジが居たならば、アスカのキメフレーズであるアンタバカァ? が本当はそこに優しさがあったと感心するであろうレベルの気迫で放たれる、叱責だった。

 

 30分ほど叱責は続き、そして終わった。

 

「それで、私に出頭要請が出た理由は何?」

 

 それまでの怒鳴り声を忘れた様なアスカの態度、声色であったが、部長代行は緩む背筋を伸ばして答えた。

 

「サー、申し訳ありません、サー」

 

 新兵訓練時に戻った様に、言葉の頭と最後にサー(殿)と付けだした部長代行。

 そもそもこの部長代行、元々が親のコネとコンピューターの使用能力を買われての裏方(オフィスワーカー)に配置された元民間人 ―― 子どもであった為、真っ当な軍事訓練を受けた事が無かった。

 それが叩き上げ(ホンモノ)の迫力に当てられれば、こうなると言うモノであった。

 

「理由を聞いている」

 

「サー、申し訳ありません、実は少佐殿の飛行艇をお貸し頂きたくありまして、サー」

 

「はぁ?」

 

 聞けば理由は航空機の問題だった。

 WILLEは現在、メルボルン基地を起点にしてオーストラリアやパプアニューギニア、果てはニュージーランドまで資源開発に乗り出していた。

 この定期連絡用として航空機や飛行艦が使われている為、救難部門で管理する非常事態向けの機材が少ないと言うのが理由であった。

 正確に言えば、長距離を飛行できる機材だった。

 1000㎞から遠方まで機材や医療品を届けたり、或いは病人を移送する手段が限られていたのだ。

 そこでアスカの飛行艇に目を付けたのだ。

 

 ある意味で先ほどアスカをナンパしようとしたのも、その為と言えた。

 アスカの私物を、男女の関係になる事で接収しようと考えていたのだ。

 ()()()()()()になったが。

 

「アタシは何時までも此処に居る訳じゃないわよ?」

 

 呆れた様に笑うアスカ。

 真希波が解放されればもう第3村に帰る予定であるのに、そんなモノを頼ろうとしてどうするのか、と。

 しかもアスカの飛行艇、アルバトロス号の物資搭載力は大きいとは言い難い。

 けが人や病人を乗せるにしても開口部も狭くて乗り降りは非常に大変なものになっている。

 

 だが、それでもと部長代行は素直に頭を下げていた。

 軟派な人間ではあるが、性根が腐っている訳でも無かった。

 そして、()()()()()()()()()()()()と言うメルボルン基地救難部門の惨状でもあった。

 担当する領域の急速な拡大が、産んだ苦境と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 外見が少し変わり、ピカピカに磨き上げられたアルバトロス号。

 真っ赤な外装がメルボルンの強い日差しの下で輝いている。

 その様をアスカは満足げに見ている。

 ヒネた所や素直じゃない所があるとはいえ、根っこが真面目で優しい性格をしたアスカは、他人の為に助けてくださいと言われれば応えてしまう人間だった。

 

「荷物の積み込み、確認まで終わったよ」

 

 チェックリストを片手にやってくるシンジ。

 アスカとお揃いの、OD色のWILLE航空乗員作業着は腕も脚も裾を捲らねばならぬ程度にはぶかぶかしているが、それでも男の子らしい凛々しさをシンジに与えていた。

 

「シンジはゆっくりしてて良いのに」

 

「アスカと一緒に居たいんだ。それとも、邪魔だった?」

 

 少しだけ自信なさげなシンジ。

 その軽く鼻を弾いて、アスカは抱き着いた。

 まじまじとシンジを見る。

 まじまじとシンジに見られる。

 それだけでアスカは何となくの満足感を覚え、頬にキスする。

 

「ばーか」

 

 何を指しての言葉か、そんな事、言った本人のアスカすら判らぬままに言葉を舌に乗せ呟く。

 その響きは何処までも甘ったるいものであった。

 

 

 

 メルボルン基地救難部門からの委託業務。

 その最初のモノは、中距離の物資輸送であった。

 目的地はタスマニア島。

 南極調査部隊用の前進基地が設けられている場所だった。

 メルボルンからは片道1000㎞近く離れており、飛行艇で飛ぶにも丁度良い位の距離であった。

 自律航法による自動飛行能力迄付与されているアルバトロス号にとって、難しい飛行では無いのだから。

 

 天候快晴。

 海も空も果てしなく青い中を飛ぶ、真っ赤な飛行艇と言うのは実に絵になるものであった。

 シンジとアスカは操縦席と航法席に縦に並んで(タンデムに)座ってお喋りをした。

 

「コレはコレで良いわよね!」

 

「滅多に味わえない経験だよ!」

 

 風切り音に負けない様に声を出しながらの会話だが、それでも2人は楽しんでいた。

 

 そして昼。

 飛びながら食べるお昼ご飯は、シンジ手製のお弁当だ。

 最近発見された日系企業の冷凍庫から可食状態で発見された冷凍精米を炊いて作ったおにぎりに、ウィンナー、そしてポットに入れた緑茶だ。

 飛行艇で簡単に食べられる様にと、シンジが考えた結果だった。

 

「…………」

 

 アスカは食事中は会話をしない。

 食事に集中するのだ。

 14年ぶりに得たモノを食べると言う喜びをかみしめる為に。

 シンジが作ってくれたモノを食べると言う喜びを逃がさぬ為に。

 只、静かに食べる。

 

「ごちそうさま」

 

 それはシンジにとっても至福の時間だった。

 

 

 

 昼食を食べ、喋りながらさらに飛ぶ。

 すると大きな島が見えて来る。

 タスマニア島だ。

 

「翼よ、あれがタスマニアの灯だ!!」

 

 お約束の事をアスカが言い、シンジがボケて、そしてアスカがツッコむ。

 最後に笑う2人を乗せてアルバトロス号は降下していく。

 

 海岸沿いに飛んで更に南へと目指す。

 セカンドインパクトによる海面上昇によってかつてとは変わっであろう海岸は、それでも空の上から見る限り、どこまでも続く砂浜が綺麗であった。

 所々に入江もあって飛行艇を安全に止める事が出来そうであった。

 1つ、思いついたアスカが声を張り上げる。

 

「帰りにっ!」

 

「えっ!?」

 

「帰りに寄って見ても良いかもねっ!」

 

「いいねっ!」

 

 お弁当はもうないけど、念のためと保存食や水は予備を積んでいるのだ。

 寄道も、万が一には機中泊も一泊程度は可能であった。

 

 

 アルバトロス号が目指しているのはWILLEが拠点としているホバート市、その空港であった。

 かつてホバート国際空港と呼ばれていた場所である。

 島でも随一の大きさを誇る空港である為、様々な輸送機の発着は勿論、飛行艦の停泊も可能である事から選ばれていた。

 そしてアルバトロス号で運んでいるのは、基地で使われる機材の保守部品や医療品などの、それなりの貴重物資だった。

 飛行艦や輸送機を臨時に手配する程の重要度では無いが、出来れば早く欲しい物資。

 船で運ぼうとすれば時間が掛かり過ぎて、人手が奪われる事が問題に思えるような遠い場所、ヘリコプターでは航続距離が足りない場所。

 そんな隙間の様な要求(ニッチなニーズ)に、アルバトロス号は最適であった。

 メルボルン基地でも、独自にソーラー式飛行艇を建造してはどうかと検討される程度には。

 飛行艇は海の傍であればある程度自由に降りる事が出来、ヘリコプターよりも遠くまで早く飛べるのだ。

 この、社会インフラが再構築する最中にあっては、使い出のある飛行手段と言えた。

 

 飛行場へと着陸し、手際よく運んできたものを渡す。

 受領証明書にサインを貰い、帰路へと就く。

 折しも時間は昼過ぎを過ぎようとしていた為、タスマニア島基地の人からは泊っていく事を勧められたが、2人は丁重に断っていた。

 往路で見た綺麗な砂浜に早く行ってみたかったからだ。

 夕暮れに沈む海を見たい、そういう欲求もあった。

 だが、その選択肢が2人の関係を進める事に繋がった。

 

 

 

「シンジ、急いで!」

 

「判ってる!!」

 

 綺麗な入り江にアルバトロス号を着水させた、そこまでは良かった。

 海辺の水遊びを楽しみ、残されていた人の家 ―― 倉庫から樹脂製の椅子を浜辺まで持ち出し、優雅な気分で珈琲を飲んだ、そこまでも良かった。

 問題は、その後で急速に天候が悪化しだしたのだ。

 

 空が曇り、遠雷が轟だすや、2人は慌ててこの場を離れる準備に掛かった。

 だが手早く片づけを行ったにもかかわらず、片付けが終えた頃には海が荒れだし、アルバトロス号での離水は不可能となっていた。

 風が囂々と音を立てている。

 

 非常時の即断を訓練されているアスカは、アルバトロス号で離れる事を諦めて機体の固定を行う事をシンジに言う。

 アスカの判断を疑わないシンジは、直ぐに動き出す。

 アルバトロス号を出来るだけ陸上に押し上げてロープで固定し、海に流されない様にする。

 入江であった事が幸いし、外洋程は海は荒れていないお陰で作業はそこまで難しくは無かった。

 問題は、大雨の中での作業だったと言う事。

 2人は頭からつま先までずぶ濡れになって、近くにあった倉庫に逃げ込むのだった。

 

 かつてこの辺りに住んでいた人が使っていたであろう倉庫にはキャンプ用品などが整理して置いてあった為、2人が夜を超える事を手伝っていた。

 先ずは火を起こして、暖を取る。

 併せて、ずぶ濡れになった服や靴を乾かす。

 そこまでは良かった。

 問題は、この倉庫の主が1人暮らしであったろう為に使える毛布が1枚しか無かったと言う事だ。

 

「………」

 

「………」

 

 真っ裸で2人、一枚の毛布に包まる。

 最初は冷えからそれどころではなかったのだが、温まってくると、相手の体温が相手の吐息が気になってくる。

 それまでの、グダグダとした話が嘘のように静かな室内になる。

 先ほどまで荒れていた外が少し静かになった。

 夜の帳と雨音が、倉庫を世界で唯一残された場所の様に閉ざしている。

 風に弄られてカタカタと揺れる窓枠と、パチパチと薪の燃える音だけが支配する中で2人は、共に自分の高鳴っている胸の音が相手に聞こえているのではないかと心配していた。

 

「アスカ………」

 

「何よ、バカシンジ……」

 

 ギュッと抱きしめ合っていた手と手が繋がる。

 指と指とを絡め合う形へと変わる。

 

 シンジもアスカもお互いの瞳に囚われる。

 

 互いに相手への好意は伝え合い、確かめ合っている。

 キスは何度も繰り返していた。

 性欲だって人並みにはある。

 だが何となく、まだその先に2人は足を踏み入れて無かったのだ。

 臆病であった訳では無い。

 好きだと言って好きだと返され、2人は涙を流しあった位なのだから。

 

 只、真希波が居たと言う事もあって、機と言うものが無かっただけなのだ。

 だからこそ、その時が来た時に2人は共に躊躇しなかった。

 

 

 その夜、2人は1つとなった。

 

 

 

 

 

 




 尚、18歳以上の限定版の続きはワッフルワッフルと___ うーそーでーすー

 本作品は18禁ではありません。
 全年齢対象デース!
 
 大体、ワタスの場合の18禁って、ちょーとばかし赤味のある鉄分多めの意味ですしお寿司?
 あ、そう言えば本作は(おげひん
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