after days(シン・エヴァンゲリオン after短編集)   作:◆QgkJwfXtqk

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終わりにして始まりの物語
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 大人となった碇・シンジに後ろから抱き着いた、同じく大人となった真希波・マリ・イラストリアス。

 

「だーれだ」

 

「胸の大きいいい女」

 

 人前で、光差す駅のプラットホームで繰り広げるには聊か以上に気恥ずかし気なやりとりをしている2人。

 そう大きな声を出している訳では無い。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()と、向かいのプラットホームで椅子に座っていた式波・アスカ・ラングレーは白けた気分で見ていた。

 好きだったと言った癖に ―― そんな怒り(感情)すらももはや湧かない。

 

「そーゆーのが趣味か」

 

 誰に言う事も無く呟くと、視線を断ち切る様にように手元の携帯ゲーム機を見る。

 電池切れのマークが画面の端で点灯していた。

 舌打ち。

 

終わり(ゲーム・オーバー)ね。丁度良いわ」

 

 視線を走らせればシンジと真希波はプラットホームの階段を駆け上がって行っていた。

 手を繋いでいる。

 やるせなやさ虚しさ、色々な感情がない交ぜになったまま見送る。

 

 そして階段の周りから世界の色が失われていく。

 失われていく色。

 生まれる暗闇。

 (モノの形)すらもぼやけていく。

 或いは、解けていく。

 アスカは形すら定かでなくなったゲーム機を投げ捨てた。

 地面に落ちる前に解けて消えた。

 投げた手は、いつの間にか赤いプラグスーツに包まれていた。

 目にも鮮やかな赤。

 まだハッキリとしているのはアスカ自身の体程度だった。

 とは言え、少しずつぼやけだしてはいる。

 

「これにてお仕舞い。で、アンタたちまで何で居るの?」

 

 いつの間にか傍に居た綾波・レイ(エコヒイキ)を見る。

 そして綾波の隣に立つ男 ―― 面識は無かったが資料では見た事のあった要注意エヴァンゲリオンパイロット(αにしてΩ)渚・カヲルを、胡乱なモノでも見る様に目線を送ったアスカ。

 

 なぜここに居る。

 なぜ守るように立つ。

 

 アスカの知る限りに於いて綾波はNERV本部から離れた事は無く、そして渚は所在不明であった筈なのだから。

 とは言え、もはやその様な事はアスカにとってどうでも良かった。

 ココが何処なのかすら、興味の範疇外であった。

 声を掛けたのは、消えゆくまでの時間つぶし ―― その程度の話でしか無かった。

 だからこそ、返事があった事に驚く。

 

「お別れだから」

 

 綾波の声には、寂しさと嬉しさとが等量に含まれていた。

 その手をそっと握りながら、渚は優しく囁く。

 

「終わりは新しい始まりと共にある。連環って言っても良い。とは言え、そこには分れも含まれているからね」

 

 優しい目。

 綾波を見て、そして自分もその目で見られる事に、何となくの居心地の悪さを感じた。

 

「仲の宜しい事で」

 

 だからこそ、悪態じみた言葉を漏らした。

 始まりと終わりは同じところにあるのかもしれない。

 だけど、もう、()()()()()()のだから。

 

「そんなに昏い顔をしているから、()()()()()()()()()()()

 

 知った様な渚の言葉がアスカの心をささくれ立たせた。

 

 座ったままに渚を睨むアスカ。

 殺意すら漂う目にはこびり付いた隈が刻まれていた。

 否、それどころか左目は消え、昏い窩となっていた。

 蒼い光が窩の奥から液体の如く溢れている。

 狂貌。

 アスカの青い目、視線が渚を射らんばかりの鋭さとなった。

 

 先に別れの言葉を贈った事は覚えている。

 ()()()()()、シンジに対して文句を言う積りは無かった。

 とは言え他人に、心に土足で上がられる様な真似をされて受け入れてやれる程にアスカの心は広く無かった。

 その感情の儘に口を開こうとした時、首を絞ろうかと手を動かした時、綾波がポカンと渚の頭を叩いた。

 その余りの快音に、アスカも毒気が抜かれた。

 

「貴方は言葉が足りない」

 

「酷いじゃないか、痛いよレイ(リリス)

 

「私は謝らない。貴方が悪いもの。人は暴力だけではなく言葉でも傷つくから」

 

 綾波の言葉を受けて漸く渚は、アスカの変貌(雰囲気)に気づいた。

 端正な顔を歪め、失敗したと顔で言う様となる。

 人間くさい仕草で頭を掻いて謝罪を口にする。

 

「ごめん。そういう積りじゃ無かったんだ。只、それじゃ()()()()って事を伝えたかったんだ」

 

「大事な事はキチンと言葉にしないと駄目。碇君が誤ったのもそれが原因」

 

「あれは僕も反省しているよ。シンジ君を助けたかったのに、結果として深く傷つけてしまったなんて、悔恨しかないよ」

 

 何を言っているのか良く分からないが、取り合えず仲が良い事だけは判った。

 ご馳走様 ―― 何もかも馬鹿馬鹿しくなって目を瞑ったアスカ。

 と、アスカの瞼をそっと綾波の指先がなぞる。

 その優しくも涼し気な指先に、閉じられたアスカの涙腺が緩む。

 涙。

 温かくも清らかなその()を、綾波は優しく拭う。

 

「目を閉じては見えないの。他人を見る事も出来ないし、他人から見てもらう事も出来ない」

 

「居なくなったわよ! 見つけて欲しいアイツなんてもう何処にも居ないのにっ!!」

 

「大丈夫。只、少しだけ見えづらいだけ」

 

「僕も手伝おう。これはお詫びだよ、君と、シンジ君への」

 

 渚が手を振るった瞬間、アスカの左目から漏れ出ていた青い光が澄んだ響きと共に広がった。

 

「さぁ、見える筈だよ」

 

 

 

 ゆっくりとアスカが目を開くと綾波も渚も居なかった。

 何が見えると言うのか、と周りを見ようとした時、その首に後ろから優しく手が回った。

 温かい腕で抱きしめられた。

 

「見つけた」

 

 行った筈の声が聞こえた。

 

「シン…ジ?」

 

 震える手を腕に添える。

 細い、子どもの手だ。

 幻聴では無い。

 幻覚でも無い。

 背中から伝わる温もりが、しっかりとシンジが居る事を伝えてくる。

 

「うん。ゴメン、見つけるのが遅くなって」

 

 耳元で囁かれる声には果てしない優しさがあった。

 顔が熱くなるのをアスカは自覚した。

 こそばゆいからだと自分に言い訳しながら、でも、手はシンジの腕を離さない。

 離せない。

 だけど、信じられない。

 あふれ出そうな涙を、歯を食いしばって堪えながら言葉を紡ぐ。

 

「だって、だってアンタ、アイツと一緒に………」

 

「違うよ。真希波さんと行った僕は()()()()()()()()()()()()。僕じゃない」

 

 辺りは完全に黒昏に閉ざされ、不安と言う言葉で塗りつぶされた様な中にあって尚、アスカは不安を覚えなかった。

 ただ背中の温度とシンジの言葉だけに集中しているからだった。

 

「でも、もう此処は終わるわ。どうしてアンタまで行かなかったの」

 

 憎まれ口の様な言葉。

 直感だけに従った言葉。

 だが間違えていない自信がアスカにはあった。

 シンジがここに居る事の喜びと共に、ここ(終わる場所)に居てしまう事の恐ろしさがあった。

 

 金属音。

 方々から小さく響く音は、どこかしらシャッターを閉める様を思わせる。

 

「アスカがここに居るのに?」

 

 甘やかに抱きしめられたアスカは、その喜びを口にだす。

 

「バカ」

 

 字面を否定する、砂糖菓子の様な言葉がシンジの耳と共にアスカの心をくすぐった。

 

「一緒に行ってくれるの?」

 

 何処へと言う訳では無い。

 只、終わりを一人で迎えなくて良いと言うだけでアスカの心は温かくなった。

 それもシンジとだ。

 好きだったと告げ、好きだったと返された相手だ。

 シンジが一緒に居るのだ。

 何も怖くは無かった。

 

「大丈夫だよアスカ。マイナス宇宙で父さんと母さんに触れて僕にも判ったんだ、終わりは始まりでもあるんだって」

 

 そんなアスカの気持ちにこたえる様に、シンジはアスカを抱きしめる力を増す。

 密着した体は、そこから温もりを伝え合う。

 アスカの体からいつの間にかプラグスーツが消えていた。

 溢れていた青い光は消えた。

 瞬きをすれば眼窩はふさがり、再び青い瞳が輝きだした。

 

「循環しているって事?」

 

「近いけど少し違うんだ。円環の様に見えて、でも世界は少しづつ前に進んでいる」

 

 ドリル(二重螺旋)みたいに、と笑うシンジ。

 と、そんな二人の前に一本のねじれ合った赤い槍が浮かんだ。

 

「ロンギヌスの槍?」

 

「違うよ。これは綾波が司る絶望の槍(スピアー・オブ・ロンギヌス)じゃない。アスカと共にある希望の槍(スピアー・オブ・カシウス)だ」

 

 命の槍だと言うシンジ。

 その言葉に応じる様に、赤い螺旋槍は解けて槍の姿を取り戻すカシウスの槍。

 

「さあ、アスカ」

 

 アスカはシンジの手に誘われるままに握る。

 仄かに温かく脈動するそれを、そっと抱きしめるアスカ。

 そしてシンジが、そのアスカを抱きしめる。

 雰囲気で、これで最後と分かったアスカは最後にと、首を傾けてシンジを見た。

 何時ものシンジだった。

 そしてシンジもまた、アスカを見ていた。

 視線が絡み合う。

 口づけ。

 二人のどちらが先と言う訳でも無く、そっと、あくまでも優しく、甘く、唇がふれあった。

 

「一緒に」

 

「一緒に」

 

 光と共に二人は解け、紫と赤の光となってカシウスの槍と共に奔り出す。

 

 

 

 

 

「行ったね」

 

 感慨深く言う渚。

 

「行ったのね」

 

 感慨深く呟く綾波。

 

 二人も又、解けつつあった。

 その傍らに浮かぶロンギヌスの槍。

 

 ロンギヌスとカシウス、2本の槍は1対であり、救いだった。

 定命のモノ(ヒト)には命を。

 永命のモノ(シト)には死を。

 無いモノを与える槍は救いであり新世紀(ネオ・ジェネシス)の鍵であった。

 

 渚と綾波はそっとロンギヌスの槍を握る。

 

「僕はシンジ君に幸せになって貰いたかった。それだけだったんだ。だけど、それは一人では出来ない事なんだね」

 

「人間は一人では生きていけないわ」

 

「僕も失敗してたって事かな」

 

「学べば良いわ」

 

「そうだね、僕も学んだよ。次はシンジ君の傍で一緒に幸せにしたいな」

 

 渚だけではない。

 綾波も同じ思いであり、そしてそれはシンジと共にアスカも同じであった。

 

「時間」

 

「ああ」

 

 銀と青の光となった二人は、ロンギヌスの槍と共にシンジ達を追って走り出した。

 そして世界は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空には星。

 地には光。

 

 第3村は喧噪と活気に満ち満ちていた。

 村の傍の湖には、AAAヴンダーからの非常脱出ポッドが浮かんでいる。

 生還したAAAヴンダーの乗員からWILLEの勝利 ―― 人類の未来が守られたことを知り、誰もが今宵ばかりはと蔵から食料や酒を出しての大騒ぎになっていたのだ。

 

 どんちゃん騒ぎ。

 その様をケンスケの家から見るシンジとアスカ。

 第3新東京市第1中学校の制服姿になっている。

 二人の手は離さない、離したくないとしっかりと握りあっていた。

 

「帰ってこれたんだ」

 

「帰ってこれたんだね」

 

 重なった二人の声には、どこかしら呆然としたものが含まれていた。

 仕方の無い話だろう。

 覚悟を決め、見知らぬ場所(ポイント・オブ・ノーリターン)であろうとも二人であればと思っていたのが、見知った場所であれば、誰しもそうなると言うものであった。

 顔を見合わせて笑う。

 笑いあう。

 

「アスカは何がしたい?」

 

「ご飯が食べたい! 何でもいい、シンジが作ってくれるなら何でもいい!!」

 

「うん、僕に任せてよ!」

 

「シンジは何がしたい?」

 

「アスカ、一緒に釣りに行かない?」

 

「ハマったのね」

 

「うん、楽しかったんだ。だから、一緒にアスカが居るともっと楽しいと思うんだ」

 

「一緒ね?」

 

「一緒」

 

「じゃ、お弁当を持っていくわよ!!」

 

 他愛のない会話。

 だがそれこそが愛おしい。

 ギュッと握り合った手。

 

「「行こう!」」

 

 声を揃えて言う。

 最初の一歩、だがそれを止める声がした。

 

「僕たちも一緒で良いかな?」

 

 からかいの色が滲んだ、優しい声。

 渚が茂みから出てくる。

 

「かっ、カヲル君!?」

 

「私も居るわ」

 

「綾波も!!」

 

「おいていかれると寂しいからね」

 

「アンタたちも一緒ってどういう事よ」

 

 口調とは異なりアスカの口元は優しく笑みを形どっていた。

 シンジはくしゃくしゃに顔を歪めてうれし泣きの笑みだ。

 優しく笑っている渚。

 そして綾波も、小さくも優しく笑っていた。

 

「一緒に行こう」

 

 4人は歩き出す。

 古き時代は終わり、新しい世紀(ネオ・ジェネシス)が始まる。

 

 

 

 

 

 




 駅のシーンの神木シンジ君にも違和感あったけど、それ以前のマイナス宇宙突入後のシンジ君の雰囲気にも何と言うかですねー
 それまでの丁寧さとかが、ぶっ飛ばされている感があってなー
 アスカに絡む部分だけではなく。
 後、緒方さんの言葉もあって、ですなー
 駅から出ていったシンジと、おいていかれたシンジと言うですねー
 なのでー
 こーなりますたったー

ロンギヌスの槍
>綾波レイ
 もうね、何時もアイコンだったからこうなるよねー

カシウスの槍
>惣流/式波アスカラングレー
 何時頃からかアスカはコッチを持っているイメージ

ガイウスの槍
>真希波マリイラストリアス
 鋳造の場に立ち会ったご縁で__
 とは言え、この娘さん人間の範疇からチョイ離れた感があるので、人造の槍に相応しいかと言われれば、じつはびみょー
 シンジの槍とするべきかー
 まよふ

 尚、作中で7本がカウントされているので、愚作シリーズで残る4本を設定したろかいなとか思ってたりする件。
 鍵となる7つの槍。
 7つの鍵?
 そらもー ハーローイーンであるよね(まつ
 7人の乙女で、シンジが選ぶ乙女ゲーム_____
 やるべきじゃないんぬ。
 だってアスカヒロイン√以外はかくきねーしー
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