アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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第4.7話 vs最強の1年生

「ちょっとよろしいですか」

 講義室で何気なく話しかけてきた人物に、フミは、「はいはい何……ろっ! 六角汐里(しおり)さん!?」飛び上がらんばかりに驚いた。

 飛び上がらんばかりというか、事実飛び上がった。

「そんな大声を出されなくても……」

「だって! 水夕会の副将! 百合ヶ丘1年のエース! あのスーパースター六角汐里さんですよ!?」

「そう私に言われましても……。あの、鼻血を出されていますよ?」

「ああ、これは職業病なのでお気になさらず」

 これがフミとしおりの、1対1でのファーストコンタクトだった。

 

-1-

 

 リリたちが特訓を初めてから数週間が過ぎた。

 その間、ユユ直伝スパルタ指導の結果、リリたちは見違えるように成長した。

「はあああ!!」

 気合を上げながら、リリは前へ前へ突っ込む。そこに、弾丸の雨が降り注ぐ。ユユ、シェンリン、ユージアの3名による集中砲火だ。

 それらを受け、リリはなおも前進する。時に受けきり、時に受け流し、時には避けながら、足は決して止めない。そして、たどり着いた至近距離――チャームとチャームが触れ合う距離――、ユユが放った弾丸を押し流すように(さば)く! 更に一歩、跳躍、チャームを投げ捨て……「お姉さまああ!!」ユユの胸元に飛び込んだ。

「お姉さま! やりました! 初めてお姉さまのところまで辿り着きました!!」

「こら、リリさん。チャームを投げ捨ててはいけません」

 ユユは厳粛さを装って言うものの、その表情はどこか柔らかかった。

「ほぅ。あの初心者だったリリが、見違えたの」

 それを見ていたミリアムらも感嘆の声を上げた。

「リリさんなら当然ですわ!」

「私だって、2人までなら辿り着けますよ!」

 先程まで容赦のない射撃を加えていたシェンリンとユージアも、顔をほころばせた。

「あらあら。お姉さま作戦は成功したようですね」

「リリ……やったねっ」

 なお、お姉さま作戦とは、『ゴール役のお姉さまに抱き着きたい心理を利用し、リリのモチベーションを高める』という作戦である。そして、ユユは3対1での訓練でしか狙撃役を務めない。ユユに合法的に抱き着くには、早急なレベルアップが必要なのであった。

 こうして5月も半ばを迎える頃、新人2人の教育は一定の目処がついた。もちろんバリバリにデュエル(1vs1)などはできないが、一先ず、集団戦での自衛と味方のサポートは何とか形になっていた。

 前線に立つ準備は問題なし。気合も十分。そんな訳で、目下の課題はというと……。

「レギオンメンバー、集まりませんね……」

 とある放課後。本腰を入れてレギオンメンバー探しに奔走をする一同だったが、これが非常に難航していた。

 あと2人。たった2人なのだが、それがなかなか集まらない。

「ボヤいている暇があるなら、身体を動かしなさいな」と楓。

「そうは言いましても……」

 何故か人が寄ってこないというか……何となく、話しかけようとしただけで避けられている感すらある。

「みんな、もうレギオン決めちゃってるのかなぁ」とリリ。

「もう5月もいい頃じゃからな。めぼしいリリィは、どこぞのレギオンに加入しとるじゃろうな」とミリアム。

「まぁ、噂も飛び交っていますからね」とシェンリン。「噂?」

 フミは、首をひねった。

「何か良からぬ噂でも広まっているんですか?」

「いえ。ユユ様のレギオンでは、新人が瀕死の重体だとか、実弾で撃たれるだとか、肉を物理的にそぎ落とされるとか、寄ってたかって無理やりサインさせられるだとか」

「滅茶苦茶悪名高いじゃないですか!!」

 そりゃあ、人も寄ってこない訳だった。しかも一部が事実なだけに反論しづらい。

「ど、どうしてそんなことになってるんですか!?」とリリ。

 まぁ、半分はリリが倒れたり、その直前にダイエットを宣言したりしているのが原因なのだが、流石にそれを指摘するような心無いリリィはいなかった。

「いやそりゃお主が」「ええ! 本当に不思議ですね!!」

 それを指摘するような心無いリリィはいなかった。

「しかしそれでしたらアプローチを変えなくては、いくら待っても獲物はかかりませんわ」と楓。

 いや獲物って……。

 ……しかし表現は別にして、確かに、このままいくら待っていても事態は好転しない。

「伝手を頼ってみますか? リリさんのルームメイトのシズさんとか、あるいは今まで取材した方からお話を伺ってみるのも……」

 と、フミが話している間、リリが「ほー……」と、遠くに視線を向けていることに気付いた。

「……えっと、リリさん?」

「あ! ご、ごめん! ちょっとしおりさんが練習してるのが見えて……」

 そう言ってリリが指さす先には……といってもかなり先、フミが鷹の目を使わないと分からないほどの位置に、しおりはいた。

 六角しおり。1年生のエースリリィである。

「しかしよく見えますわね……」と楓。

「一度、授業で教えてもらったから」とリリ。

 ……微妙に答えになっていない返答だが、行間を読むなら『一度教えてもらった⇒型を見たことがある⇒遠目でも分かった』ということだろう。

「いや、それでもよく見えるの……」

 肉眼では豆粒サイズであはあるまいか……? それをしおりを識別できるのは、リリの視力の良さ(曰く「田舎育ちだから……」)の賜物だろう。

 ちなみにだが、しおりの指導というのは、実はかなり貴重な経験だったりする。しおりの所属する水夕会はいわゆる外征レギオンで、学院の外を飛び回ることが多いからだ。

 他には2代目アールヴヘイムも外征レギオンであり、4月の中旬ごろから外征に出かけ、未だ戦闘中である。水夕会はまだそこまで長期の任務はこなしていないが、その実力の高さは2代目アールヴヘイムと同格と言われている。

 要は百合ヶ丘の、ひいては全国・世界レベルのトップ級レギオンである。そんな実力者かつ多忙なしおりに、授業の一環とは言え手取り足取り教えられたとなれば、(リリィオタクに対して)一生涯自慢できる程だ。フミも、その様を横目で見ながら羨ましさに唇を噛んだものだ。(フミは楓とペアだった)

「しおりさんってすごいよね……」

「まぁ、百合ヶ丘きってのエースリリィじゃからな」

 ミリアムの言葉が聞こえているのか、聞こえていないのか、リリは、ぼんやりとした様子でしおりの動きを見つめ続けた。

「……一緒に戦えたら楽しいだろうなぁ」

 おや? え? ふむ? おお。ほうほう……。「え?」

 リリの何気ない言葉に5人は反応し、その意味ありげな反応に、逆にリリは声を上げた。

「しおりさんみたいな()がタイプだったのですか」とシェンリン

「ちょっとリリさん、それって……」とフミ。

「お主、やるつもりじゃな?」とミリアム。

「ヘッドハンティング……!」とユージア。

 リリは、「……え? ええええ!!?」皆の盛り上がりに付いていけず、ただただ驚きの声を上げた。

「そうと決まれば善は急げですわ! さあリリさん、参りましょう!」

 言うが早いか楓はリリの手を引き、しおりの(もと)へ走り出した。

「えええ!? いいんですか??」

 そうして、リリが強引に連れられて行くのを見て。

「やれやれ。わしらも行くとするかの」とミリアム。

「これは面白くなってまいりました」とシェンリン。

「ちょっと、楽しんでないでくださいよ」とフミ。

「ヘッドハンティング……!」(ユージア)「……何気にユージアさんもノリノリなんですね……」(フミ)

 

-2-

 

 その数分後、ぞろぞろと現れた一同に連れられて、しおりは楓の自室(3部屋ぶち抜き・広々とした1人部屋)にいた。

「いや~本日はお日柄も良く、しおりさんにおかれましてはますますご清祥(せいしょう)のこととお慶び申し上げます~。そのチャームの冴えは凄まじく、その二つ名『不動劔(ふどうけん)の姫』に相応しい働きと活躍ぶりであるとかねがねお聞きしておりまして、本日はしおりさんにご勉強させていただきたくこちらの席を用意させていただいた次第なんですよ~」

 フミはやや早口でこの長文を言い切った。

 フミ……胡散臭(うさんくさ)い……。小声でユージアがぼやいたがフミは無視を決め込んだ。多少胡散臭くても、こういう場ではこういう風にするものなんですよ……! 多分……!

 実際かなり胡散臭いというか、警戒しない方がおかしな言い回しであったが、

「それはそれは。こちらこそ、お招きいただき光栄です」

 しおりは、にっこりと微笑んだ。よくできた人間である。

 さて、どう切り込んだものかと二の句を検討しているフミだったが、「フミよ、そんな回りくどい言い方なぞせんでよいじゃろ」とミリアム。

「そうですわ。単刀直入に申し上げます。しおりさん、アナタ、(わたくし)たちのレギオンにお入りなさい!」

 うわっ……楓さん、あのしおりさんによくここまでストレートに切り出せますね……。

 取材慣れしているフミでも、そこまで無遠慮な物言いはできないのだった。

「まあ。そんな提案、全く思いもしておりませんでした」

 なお、しおりはとぼけているが、リリのレギオン(仮)が勢ぞろいで駆け寄ってくるのを見た時点で大体の流れは察している。

 そして、しおりの思いの外の好感触(?)を見て、レギオンの頭脳たちは動いた。

「今でしたらリリさんをギュッとする権利を差し上げます!」と楓。

「え!? 何で私!?」(リリ)

「大盤振る舞いですね~」(フミ)「楓がリリを俎上(そじょう)に載せるとは……これは本気じゃな」(ミリアム)

「ついでにフミさんもお付けしましょう」とシェンリン。

「え!? 何で私ですか!?」(フミ)

「シェンリン、大盤振る舞いだね」(ユージア)「えー、フミさんでは交渉の具になりませんわ」(楓)「ついで扱いの上、酷い言い草ですね……!」(フミ)「お主、リリの時は他人事だった癖して、自分の時は大仰に騒ぐんじゃな……」(ミリアム)

「私もフミちゃんも貸し出せません!」とリリ。「まぁ、私は1回くらいでしたらむしろ……」とフミ。「何と。1回抱かせてあげると」(シャンリン)「……何でそう紛らわしい言い方するんです?」(フミ)「フミちゃん大胆すぎるよ……!」(リリ)「フミ、狼……」(ユージア)「ちょっと! お二人まで乗らないでくださいよ!」

 わちゃわちゃ騒ぎ出した一同に、それでも顔色一つ変えず、「まぁ、それはお得ですわね」としおりは微笑んだ。

 楓は騒ぐ一同を差し置いて、話を切り出した。

「もちろん、その他の事でも厚遇をお約束しますわ。希望のポジション、希望の戦法、希望の出撃先……しおりさんの意向を最大限尊重いたします。あれほど大所帯ですと、しがらみも大きいのではありませんか?」

 しおりは、微笑んだまま答えなかった。

「また、グランギニョル社から最高のチャームを提供することも、各種トレーニング機器を取り寄せることもできます。それに、ユユ様とお手合わせしたり、指導を受けたりする機会もあるでしょう」

 そこで、しおりの反応が変わった。

 しおりは、ユユと手合わせする機会をずっと伺っていた。しかし孤高のリリィたるユユとは、手合わせどころか顔を合わせる機会すらほとんどない。ユユと手合わせする権利は、しおりにとって何より魅力的なものだった。

 ……相手にはないもの、相手が欲しがっているものをチラつかせ、揺さぶる。

 楓は本格的な引き落としに入っていた。

「如何でしょうか。悪い話ではないと思うのですが?」

 楓の問いかけに、しおりは再び微笑みを浮かべた。

「私をそこまで評価していただけるとは、望外の幸せです」

 しおりの言葉に「おお~でしたら!」とフミは(はや)る。が、「しかし」としおりは続けた。

「しかし、私を信頼し任せてくれる仲間がおりますから……私の一存では、とても決められることではございません。申し訳ありませんが、このお話はなかったことに」

 ……まぁ、やっぱりそうなりますよね……。

 そもそも、しおりは水夕会の副将であり、そう易々と抜けたり交代したりできる立場ではなかった。それに仮に億が一、このヘッドハンティングが成ったとしても、水夕会に加え、百合ヶ丘、そして全国のリリィから猛烈なパッシングが巻き起こるのは目に見えていた。

 どのレギオンに属するかは個人の自由とは言え、(推定)格付けSSSレギオンの主格を引き抜いたとなれば、世間が黙っていないというものだ。

「わざわざごめんね、しおりさん?」とリリ。

「いえいえ。このようなご提案は初めてでしたから、私も新鮮で楽しかったですよ」としおり。

 フミも完全に終了モードだった。引き抜きは早々に諦めて、せめて取材の1つでもしようかと(むしろフミにとってはそちらが本題)メモ帳を取り出していると……「なるほど、なるほど」と楓が立ち上がった。

 楓だけでなく、ミリアムも、シェンリンも、ユージアさえも立ち上がっていた。というかチャームを抜いていた。

「……あらあら皆さん、どういうおつもりで?」

「とぼけなくて結構。こうなれば実力行使ですわ!」

 気付けば、ミリアムは扉の前に立ち、出入り口を封鎖している。3室ぶち抜きとは言え、扉は一つに改装されており、中央部屋のそこが唯一の出口だ。

「ダ、ダメだよそんなこと……!」「ちょ! 本気ですか楓さん!?」

 慌てる2人とは対照的に、4人は戦闘モードに入っていた。

 リリは、止めるべきか一瞬躊躇した。剛の者しおりとは言え、(ミリアムはともかく)楓、シェンリン、ユージアという世界レベルのリリィ3人を相手に切り抜けるのは厳しいだろう。……と、普通なら思うのだが……。

 図らずも、リリはここしばらく3者の攻撃を掻い潜り相手の懐に飛び込む訓練を行っていた。リリでさえその動きができるのだから、自分よりはるかに優れたしおりなら、もしや、この場を切り抜けるのではないか……。

「待ってください! しおりさんは左手に古傷があるんですよ!? そちらのチャームはバンドで固定する必要があるので、今は右手しか使えないんです!」

 フミは好戦的な4人にストップをかけた。

 しおりは『円環(えんかん)御手(みて)』(二刀流)使いだ。円環の御手は、単純に攻撃能力が1.5倍になると言われており、場面打開の鍵となりうるスキルである。しかし逆に言えば、片手しかチャームを使えない状態では全力の7割弱程度の力しか出せない。

 ですから、荒事はやめてください! とフミは主張したが……。

「なるほど。それは良いことを聞きましたわ」と楓。

「あのしおりと言えど、戦略的に戦えばこの通りじゃ!」とミリアム。

「年貢の納め時ですわ」とシェンリン。

「鬼ですかあなた方は!!」

 リリは、そんな4人の前に立ちはだかった。

「ダメだよ! しおりさんが嫌がってるのに無理やりだなんて!」

 フミもリリに倣った。

「そうですよ! それに相手の弱みに付け込んで、多数で1人を狙うなんて……!」

 しかし、「2人とも、お退()きください」とリリとフミを止めたのは、誰でもなく、当のしおり本人だった。

「相手の弱みに付け込む? 結構じゃないですか。勝つために何でもするのはリリィとして当然のことです。多数で1人を狙う? それも結構。私たちが常日頃行っていることです。その因果応報が私に廻ったからと言って、文句を言う筋合いはありません」

 淡々と右手一本でチャームを抜き、構えた。

 そして問いかける。

「貴女方。本気ですか?」

 殺気。

「本気で、片手の私になら勝てると思い込んでいるのですか?」

 それは高純度の覚悟。

 自分に向けられた訳でもないのに、フミは後ずさっていた。ただ構えただけで、喉元に刃を突きつけられたようなプレッシャー。戦闘モードのしおり。恐らく、同級生で最も武に優れたリリィ。

 4対1の筈なのに、しおりが、この場を圧倒していた。

――鬼ですかあなた方は!!――

 フミは心の中で自分の発言を訂正した。しおりさんの方が……4人よりよっぽど鬼じみてるじゃありませんか……。

 

-3-

 

「どうしたんですか? かかってきなさい」

 しおりの言葉に、誰も反応できない。言葉通り切りかかったら、そのまま切り捨てられる。そんな嫌なイメージを誰も払拭できなかった。

 そんな中、リリがチャームを構えているのを、フミは視界の端に捉えた。

 一体何を……? フミが訝しんでいる間に、「たあ!」気合一閃、リリはしおりに切りかかった。

「リリさん!?」

 フミは度肝を抜かれた。しかし。

「フミちゃん!」

 リリの呼び声に、咄嗟にチャームを抜き、「はぁ!」フミも、しおりに切りかかった。

 なぜそうしたかは、フミにも分からない。ただ、リリの呼びかけは……一緒に戦ってほしいとフミの手を引いているように思えて……気付けば、身体が動いていた。

 しかし力の差は歴然としている。しおりは右手一本でリリを払いのけ、飛びかかってきたフミを正面から弾き返した。

「リリ……! フミ……!」

「おい! あいつらは何をしとるんじゃ!」

「リリさん! フミさん!」

 仲裁しようとする2人を、助太刀しようとする楓を、シェンリンは止めた。見ると、リリもフミも、体勢を立て直しもう一度突撃を試みるところだった。

 

――正面から打ち合っても敵わない……それなら……――

 フミは、しおりの左手側に回り込んだ。弱みに付け込め。しおりの言葉通りの戦法だ。

 フミはそこで、思いっ切りチャームを振り下ろす。

 確かに、フミの一撃はしおり程重くはない。それでも、全力を乗せた一撃なら防御なり回避をしなくてはならない。その隙は、リリの攻撃に繋がる筈だ。

 そして、しおりが選択したのは防御だった。その場から一歩も動かない。

(狭い室内で、大きな移動を嫌ったのでしょうか……?)

 リリに正面を向けたままの無理な体勢で、フミの一撃を受け止めた。

 ……逆に、その体勢で受け止めてしまえるのは驚異的なことだった。力を入れにくい筈なのに、むしろ、チャームを叩きつけたフミの方が顔を歪めるくらい、堅牢で強固な防御だった。

 それでも、そこにしおりの隙が生まれた。リリが正面から飛びかかる。フミは、しおりがチャームを動かせないよう、力をかけ続ける。……私がチャームさえ抑えていれば、しおりさんは何もできません……!

 しかしその時、しおりの左手が自分の方へ伸びてくるのを見て……フミは、呆然と動きを止めてしまった。

――そんな、だって左手は……!――

 胸倉を捕まれる、地面に引き倒される、しおりはそのまま屈んだ膝をバネのように使い、驚くリリに飛びかかる。鎧袖一触(がいしゅういっしょく)、リリは弾き飛ばされた。

 フミはせき込んだ。喉を引きちぎられたかと思った。信じられない、左手には、古傷があるんじゃなかったんですか……?!

「私の左手を置物か何かと思いましたか? ずいぶんと不用意なものですね」

 床に顔を付けながら、フミは、しおりの武勇を思い出した。『不動劔(ふどうけん)の姫』、最も武勇に優れた1年生。バンドで固定しているとはいえ、左手でヒュージの攻撃を受け、戦場を飛び回っているのだ。

 不用意。本当にその通りだ。左手の存在を全く無視した動きは、軽率以外の何物でもなかった。

「おい、フミ! 大丈夫か」

 そんなミリアムの声がどこか遠くから聞こえてくる気がした。フミは立ち上がり、バックステップで距離を取りつつなおもチャームを構える。

 ……私、どうして戦ってるんですかね?

 そんな些細な疑問は、戦いの高揚感の中に消え去っていた。そんなことより今は、勝ちたい。やってやりたい。目の前のリリィに、目にもの見せてやりたい……!

 視界の隅でリリが起き上がり、チャームを構えるのを見て。

「リリさん、同時攻撃を仕掛けましょう!」

 フミは声を張り上げた。

「同時に攻撃すれば、しおりさんはどちらかの攻撃は回避しなくてはなりません。回避された側は、もう一人が迎撃されている隙を狙って、連続攻撃を仕掛けましょう。そうすれば、流石のしおりさんも苦しい筈です」

 しおりは眉をひそめた。作戦会議を敵の眼前でするなど……いやこれは罠?

 しかし、フミとリリは、タイミングを揃えて同時に飛び込んできた。

 ……いや、僅かにフミの方が早い。僅か半歩、時間にしてコンマ数秒程度だが、フミの方が早く辿り着く。しおりは瞬時に判断し、フミの側へ身体を向けた。

 その瞬間、フミはブレーキを掛けた。逆に半歩、リリが先へ出る。

――やはり罠――

 猪口才な。

 しおりは咄嗟に身体を捻る。リリへと向き直す。リリを弾き飛ばす。フミに向き直る。この間僅か0.1秒。

 戦力差というものは、時に絶望的だ。小細工を弄されようが、しおりは十分にフミを迎撃する余裕があった。いや、フミの攻撃を受けて立つどころか、むしろ攻撃しようとしたフミの機先を制するように、しおりはチャームを振るった。

 フミは、これまでチャームで攻撃する訓練を受けていなかった。基礎訓練は受けていても、どこを攻撃したら嫌がられるか、どう力を加えれば効果が大きいか、攻撃のイロハは学んでこなかった。今までやってきたのは防御技術。いかに相手の攻撃を受け止め、受け流すか。

 そうであるからこそ、フミはこの一瞬に掛けていた。しおりが防御でなく、『攻撃』にチャームを振るうこの一瞬に――フミが今、最も得意とする『防御』に――全てを掛けた。

 しおりの一撃が、恐ろしい速度でやってくる。そこに、フミは、チャームを軽く合わせた。それだけで、チャームが吹き飛ばされそうな衝撃が走る。しかし、踏ん張る。いや、無駄に()()()()()()

 チャームの角度を調整する、全身を使ってその力を外に逃がす。今まで何百回と繰り返した動き。銃弾という超音速の相手にだってやり(おお)せた動き。敢えて受けて、流して切る。しおりのチャーム程度の速度で、それが再現できないはずがない……!

 力を込める、チャームの上で斬撃が滑るように()らされる。そして、フミは、流れるようにしおりの攻撃を受け流した。

 しおりの大勢が、大きく崩れる。攻撃を受け流された直後、この一瞬だけは、どんな人間でも無防備になる。

 仮に二本のチャームを持っていれば、もう一方の手で防御ができたかもしれない。しおり程の使い手なら、迎撃すらしてきたかもしれない。しかし、今のしおりは一刀流だ。

――勝った!――

 フミは勝利を確信した。しおりがどれだけ早く腕を振り直そうと、今まさにチャームを振ろうとしているフミには敵わない。フミがやるべきことは、焦らず、しかし手早く急所にチャームを突きつけるだけ。

 その筈だった。

 腹部から、衝撃が飛び抜けた。視界が目まぐるしくスライドする。チャームを振るおうとして、目の前にしおりがいないことに気付く。それどころか……あれ? え? 何で?

「はいはい。そこまでにいたしましょう」

 フミは、自分がシェンリンに抱えられていることに気付いた。同時に、「……っ……ぃあ……だっ……」腹部から猛烈な鈍痛が襲い掛かってくることにも気付いた。

 ……痛っ……どう……なんで……?

 フミは、記憶を手繰った。自分は今まさに、その決定的シーンを見ていた筈だ。何が起こった? 確か自分はチャームを振り抜いた。勝利を確信したはずだ。そうだ、その瞬間、しおりが、攻撃を加えた。どうやって……。

 フミはハッとした。足だ。しおりは、不用意に接近してきたフミの無防備なお腹を、思いっ切り蹴り飛ばしたのだ。

 ……またやってしまいました……。油断してはいけないと分かっていたのに……せめて手なり肘なりガードが間に合っていれば、まだ戦闘は継続できたかもしれないのに……。

 腹部の痛みか、それとも悔しさか、フミは鼻の奥がツーンと痺れるのを感じた。

「しおりさん、大変申し訳ございませんでした。冗談半分でチャームを向けるべきではありませんでした」

 シェンリンは陳謝した。楓らもそれに続いた。

「私も失礼を申し上げて、大変申し訳ございません」「しおりさん、ごめんなさい……」「わしも調子に乗ってすまなかった……」

 リリもハッとしたように「急に私が切りかかってごめんなさい」と頭を下げた。

「ほら、フミさんも謝罪なさ……って、アナタ、鼻血が出てるわよ」

「……ぅえ?」

 鼻の奥の痺れは、痛みでもなく、悔しさでもなく、ただの鼻血だったようだ。

「フミ……大丈夫……?」

 ユージアが部屋のティッシュで栓を作ってくれた。情けないのだが、今は一歩も動ける気がしない。その好意に甘んじることにした。

 しかし、謝罪に関しては人に代わってもらう訳にはいかない。……のだが、腹部の痛みがひどく、今はまともに喋れなかった。一先ず頭を下げたが、それだけでズキンズキンと腹部が痛み、改めて謝罪が必要そうだった。

「いえ。謝るのは私の方です」としおり。

「皆さんが冗談で言っているのは分かっていましたのに、私、挑発するようなことを言ってしまいました。その結果、楓さんの自室で暴れ、それどころかフミさんを思いっ切り蹴り飛ばしてしまいました。……誠に申し訳ございません」

 しおりもまた、陳謝した。先程までの異様なプレッシャーは消え去り、そこにいるのは、どこまでも普通の女の子だった。

「謝らなくても結構ですわ。この部屋なんて仮初の住まいですし、フミさんを多少殴る蹴るしたところで誰も気にしませんわ」

 楓の言葉に、フミは両手を振って抗議した。フミが声を出せず、反論できないのを分かってしているのが憎たらしかった。

「というか、どうしてリリは切りかかったんじゃ?」

 別に責めている訳でなく、ただただ純粋な疑問として、ミリアムは尋ねた。リリが切りかからなければ、この場を何とか丸く収められたかもしれない。

「あー、それは恐らく……」としおり。

「あの……しおりさん、授業の時に、『かかってきなさい』って言われら切りかからないのは失礼だって……」とリリ。

「そんなことで切りかかったんですか……」とシェンリン。

「そんなことじゃなくて、大切なことなんですわ!」と楓。「お前はリリバカすぎじゃ」(ミリアム)

 リリは、改めて頭を下げた。

「フミちゃんも、しおりさんも、本当にごめんなさい」

「リリさんを責めないであげてください。本当は、挑発をしたらこうなることは分かっていたんです。それに、リリさんが切りかかった時点で、私には応戦しないという選択肢もありました。それなのに 私はチャームを(まじ)えました。……このままでは血がおさまらなくなったからです。全ては私の不徳が致すところです」

 なお、デュエルが得意な者は、大なり小なり、好戦的で血の気を好む傾向がある。その極地がデュエル復古主義と呼ばれる一団だ。しおりは普段の人当たりの良さに反して、かなり武闘派な一面があるのだった。

 それにしても。

 シェンリンは、フミのお腹に手を触れた。

「……っ! ……ぁの、……ェンリン……さ」「喋らなくて結構です。その怪我、応急手当くらいはしておきましょうか」

 恐らく、痣になっている。あの蹴りは、しおりが本気で嫌がる時の動きだ。格下相手に出すようなものでない。

――随分とお熱くなったようで――

 意味ありげな視線に気付き、しおりは抗議するような目を向けた。シェンリンは、それに微笑みで返した。

 

-4(おまけ)-

 

 その後、喧嘩両成敗のような形で、お互いに後を引かないということで話は決着した。しかし、このままだと後味が悪いということで、その後、ささやかながら親睦会が開催された。

 

「トントントン」「誰ですか」「グングニル」「グングニルって誰ですか?」

玩具要(がんぐい)る? と聞いたのじゃ!」

 

「何でノックノックジョークなんです……?」とやや復活したフミ。「その掛かり方は微妙じゃないですか?」と楓。「私は嫌いじゃないよ?」とリリ。

 

「では僭越(せんえつ)ながら私が……」としおり。「え? しおりさんもやるんですか?」

「トントントン」「……(あ、私がやるんですか?)誰ですか?」「張飛(ちょうひ)です」「張飛って誰ですか?」

超秘密(ちょうひみつ)です!」

 

 …………。

「うん……そうだね……」とユージア。「あ、うん。面白いよ!」とリリ。「やや受けですわね」(楓)「しおりさんともあろう人が……」(シェンリン)「ゲストを喜ばせようという気遣いはないんですか」(フミ)「わしは結構好きだったぞ」(ミリアム)

 なお、しおりはあまりウケずにちょっと拗ねた。

 

「本場のノックノックジョークをお見せしましょう」と楓。「……別にいいですけど本場ってアメリカじゃないんです?」

「トントントン」「……(あ、これ交代じゃないんですね……)誰ですか?」「しおりです」「しおりって誰ですか?」

菓子折(かしおり)りですわ!」

 

 そう言うと、裏手の棚からお菓子を持ってきた。

「あ、これはどうも」(しおり)「あー、こうやって使うものなんですね」(フミ)「楓、カッコいい……!」(ユージア)「楓さんってジョークも得意なんだ」(リリ)「まぁ、笑いはとれていませんが」(シェンリン)「お黙りなさい! こういうのは笑わせるものでなく小粋に使うものなのですわ」(楓)「まぁ、小癪さは認めてやるわ」(ミリアム)

 

「私、やってみる……!」とユージア。「これ全員やるんですかね?」

「トントントン」「誰ですか?」「三角形……」「三角形って誰ですか?」

「楓さんかっけえ」

 

 不意打ちに、フミは噴き出した。

「ちょっと、ユージアさんがそんな口調使うのはずるいですよ」(フミ)「ユージアさんのポテンシャルを感じましたわ」(楓)「ヤンキーみたいで可愛かったよ」(リリ)「ヤンキーって可愛いんかの……?」(ミリアム)

「……っ……ふ……」(シェンリン)

「シェンリンさんが静かにツボってます……!?」(フミ)「これは珍しいですね」(しおり)「シェンリン……大丈夫?」(ユージア)「これ、そこは『へへ、シェンリンさん、大丈夫っすか?』じゃろ……痛っ!」

 ミリアムはシェンリンに無造作に(はた)かれた。

 

「全く、こんなバカなことを……」とシェンリン。「でもやる意志はおありなんですね……」

「トントントン」「誰ですか?」「わたしです」「わたしって誰ですか?」

「おや、自分の事すら分からなくなったのですか?」

 

「…………? あ! うわ、結構ムカつきますねこれ……」(フミ)「ふふ、騙されてやがりますわ」(楓)「これはやられた方が間抜けじゃぞ」(ミリアム)「フミちゃんはフミちゃんだよ」(リリ)「いえ分かってますが……」(フミ)

「フミさんはフミさんではありません」(しおり)「……え? じゃあ私って誰です……?」(フミ)「アナタは奴隷……その名はあああああ」(シェンリン)「デフォ名じゃないですか!」(フミ)「あああああちゃんはあああああちゃんだよ」(リリ)「あああああちゃん……」(ユージア)「あああああ」(ミリアム)「勇者あああああ」(しおり)「あああああさん」(楓)「止めてください……何か……怖いです……」

 

「私もやってみるね!」とリリ。「リリさんって何を言うかちょっと恐いんですよね……」

「トントントン」「誰ですか?」「リリだよ」「リリって誰ですか?」「…………」「リリさん……?」

「私って誰だろう……」

 

「おっとこれは?」(シェンリン)「リリさん、それホラー系なんですよ……」(フミ)「お主、意外と演技派じゃな……」(ミリアム)「あ、あはは……」(リリ)「お聞きなさい。アナタは私の伴侶、リリ・ジョナサン・ヌーベル……」(楓)「どさくさで既成事実を作らないでくださいよ」(フミ)「リリ、上手だったよ」(ユージア)「上手であるべきかは少し疑問ですけども」(しおり)「これは前振りが悪いですよ……」(フミ)

 

「そんじゃフミのしょーもないのを聞いて解散するか」とミリアム。「私が大取なのも、しょーもないの前提なのも腑に堕ちませんが……」

「トントントン」「…………」

「え? ちょ……」

「誰ですか?」(しおり)

「ごめんなさい、ちょっと心が折れたのでやり直しても……」

 

「何じゃ。こういうのは伸ばせば伸ばすほどハードルが上がるんじゃぞ」とミリアム。

「誰も言わないのは酷いじゃないですか!」

「ごめん、ミリアムさんがやるのかなって……」(リリ)「しおりがやるもんだと思っての……」(ミリアム)「申し訳ありません、ちょっと反応が遅れました」(しおり)「いや、しおりさんの所為じゃないですよ……」(フミ)「早くやってしまいなさいな」(シェンリン)「滑ってもよしよしして差し上げますわ」(楓)「あなたたちの所為ではないんですけど、何かあなたたちの所為にしたくなりますね……」

 

「では改めまして……トントントン」

「「「誰だれで誰ですか」」」

 

「ちょっと! コントじゃないんですよ!!」

「ごめん、私がやるのかなって……」(リリ)「私がやるもんだと思っての……」(ミリアム)「申し訳ありません、私がやるものかと」(しおり)「いや、しおりさんの所為じゃないですよ……」(フミ)「早くやってしまいなさいな」(シェンリン)「私だって早く終わりたいですよ……」

 

「では改めま……これ絶対3人とも言わないパターンですよね?」

「「「…………」」」

 

「ほら! やっぱりそうじゃないですか!!」

「ミリアムさんが~」「しおりが~」「反応が~」「3人とも雑ですよ!!」(フミ)「早くやってしまいなさいな」(シェンリン)「じゃあシェンリンさんが返答役やってくださいよ」(フミ)「フミ……不憫(ふびん)……」(ユージア)「そう思うなら手助けしてさしあげなさいな……」(楓)

 

「では改めまして……トントントン」「誰です?」「ふふふです」

「ああ。ふが三つで『ふみ』ですか。下らないですね」

 

「ちょっと! ネタバラししないでくださいよ!!」

「……ふふ……」(リリ)「その笑いは何の笑いなんですかね……」(フミ)「と言いますか、フミさん、趣旨を分かっておられます?」(楓)「ちょっと違うのは分かってますが、思い付かなかったんですよ……」(フミ)「フミ、分かるよ……難しいよね……」(ユージア)「今日一番のネタを決めたユージアさんの言葉は素直に受け取れませんが……」(フミ)

「ふふふ、ふふふ、ふふふ」としおり。「お? その心は?」(ミリアム)「『ふみさん』です!」

「おい、フミ。しおりの方が面白いぞ」(ミリアム)「流石フミさん。これがゲストへの気遣いと言うものなんですね」(シェンリン)「滑った手前、反論出来ないのが悔しいですよ……!」

「フミさん、お気を落とさず」としおり。「ご高配痛み入りますが、その優越感と、私への憐憫(れいびん)の情は隠せていませんからね?」

「フミが尖ってる……」(ユージア)「近づくもの全てを傷付けてますね」(シェンリン)「『おい、フミ! シェンリンパイセンに挨拶しろよ』……痛っ」(ミリアム)「アナタも懲りませんね……」(楓)「でも尖ってるフミちゃんも可愛いよ?」(リリ)

「『わかってくれとは言わないが~♪』」(しおり)「え、何ですかそれ?」(フミ)「すみません私も知りません」(楓)「ごめん、私も……」(ユージア)「知らんの」「何ですか?」「何ですそれ?」

「ちょっと貴女方、リターゲッティング能力高すぎませんか?」(しおり)「隙を見せたら食われる。野生の掟じゃ」(ミリアム)「百合ヶ丘の寮でサバイバルしたかないですが」(フミ)「安息の地は自分の部屋だけです」(シェンリン)「まぁ、その安息の地が踏み荒らされてる訳ですが」(楓)「ごめんね? 後で掃除するから……」(リリ)「私もお手伝いいたします」(しおり)「いいですよ、ゲストなんですから」(シェンリン)「まぁ、ゲストの扱いとはとても思えませんけど」(フミ)「笑いに敏感過ぎるのですよ。水夕会でもここまで殺伐としていませんよ」(しおり)

「え? 殺伐としてるの?」(リリ)「何となく、琶月さん美土莉さん辺りでいがみ合ってそうですが(※どちらもしおりが大好き)」(フミ)「さくあさんも結構な曲者ですよ(※水夕会の主将)」(シェンリン)「まぁ、はい」(しおり)(あっ、否定しないんですね……)(フミ)「……やっぱりウチに来ますか?」(楓)「…………」(しおり)「その間は闇が深そうじゃの……」(ミリアム)「苦労されてるんですね……」(フミ)

 …………などなど。

 話は尽きず名残惜しかったが、いつまでも話している訳にはいかなかった。

「では、私はこの辺で……。今回のお詫びと言っては何ですが、近い内に、リリさんとフミさんに稽古を付けさせてください」としおり。

 フミたちとしては、攻撃の名手に指導してもらえるなら、これ以上ない話だった。

 リリは「別にそんないいよ~」と言っているが、「リリさん、こういうご厚意は受けておくものですわ」と楓。「そういうものですよ」としおり。「それでは遠慮なく~」とフミ。「お主はちっとは遠慮せい」(ミリアム)

「参考までに、お二人は普段から連携をされたりしていますか?」としおり。

「え? 特にしてないよ?」とリリ。「まぁ、入学以来、ほぼずっと一緒にいますけどね」とフミ。「言わなくても通じ合う……」(ユージア)「中々、堂に入った連携じゃったからな」(ミリアム)「止めなさいな! こういう話は蒸し返さないでおくものです」(楓)「嫉妬しおってからに……」(ミリアム)

 

 そんな訳で、本日、レギオンメンバーは集まらなかった。

 しかしデュエルの名手・六角しおりの師事を手に入れ、リリたちのレギオンはまた一歩前進したのだった。

 

-5-

 

 しおりは帰り道、今日の一件を思い出して、くすくすと笑い声を立てた。実は、しおりは茶目っ気がある。親しい友人には冗談を言ったりもする。しかし、あんな風にバカをする仲間はほとんどおらず、今回のことは新鮮な経験だった。

 しかし回想が遡り、リリとフミとの手合わせの場面に差し掛かると、自然とその目は鋭くなる。

 しおりは携帯を取り出すと、メッセージを打ち込み始めた。

 

 リリたちと一悶着(ひともんちゃく)あったその日の夜、水夕会の幹部会が開かれた。

 メンバーは主将・工藤朔愛(さくあ)、副将・六角しおり、そして2人のシュッツエンゲルの泉牡丹(ぼたん)、谷口(ひじり)の4名。

 この会自体は遠征前に不定期に開催しているのだが、今回はそれとは別に、しおりが開催を希望したものだった。議題は、外征の一時休止の提案だった。

「しおり様がそのようなご提案をなさるとは、珍しうございますね?」

「しおりん、急にどうしたの? 何かあった?」

「あの子たちが、『しおりが楓に攫われた!』とか何とか言ってたけど……。まさかとは思うけど、そこで脅されたりしてないわね?」

「まさか。そのようなことありませんし、仮に脅されたとして、それに屈する私ではございません」

「それでしたら、お気に入りの小娘でも見つけられましたか?」「いや小娘って……」

「え~、でも18人もいるでしょ? これ以上は多すぎないかな?」

「そういう訳ではございません。ただ、5月までの外征で、学院には次回の格付でSSSは確実だろうとおっしゃっていただきました。これで私たちの要望も十分通るようになるはずです。それでしたら、これ以上の遠征で消耗するより、来るべき時に備えて地盤を固めるべきではないかと考えたのです」

「ふ~ん?」

「地盤ねぇ……」

「由比ヶ浜ネスト、その討伐でございますか?」

「まさか……!」

「いえ、そこまでは申しません。しかし、私たちやアールヴヘイムなど、実力派レギオンが遠征に行く間、この学院を守るのは一体誰でしょうか。そして、この学院で何かあった時に、それでも安心して任務に集中するには何が必要でしょうか?」

「ふーん? 新入リリィの育成をしようって訳?」

「あらあら。やはりお気に入りがいらっしゃるのではございませんか。ご紹介してくださいな、一柳リリさんのことを」

「…………」

「あら、これは正解でございますね♪」

「……そういうの、嫌われるわよ」

「……。さくちゃん、余計な手出しはしないと誓ってくださいね」

「うふふ♪ 大丈夫ですわっ。私にお任せくださいな」

「アンタは信用できないのよ……まぁ、シルトに言う言葉じゃないけど」

「お褒めに預かり光栄ですわ」

「ねえねえ、しおりんしおりん。私も反対じゃないけど、あまり長くはできないよ? 最長であと2~3……う~ん1~2か月? 夏頃までなら待てるかな? 3年生の先輩方も、そこまでなら大丈夫。逆に、そこがリミットだよ」

「分かっております。それまでに目処を付けさせましょう。もし、それが成らないのであれば……いえ、必ず成らせてみせます」

 

 水夕会、外征の一時休止の提案は、全会一致で可決された。

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