アサルトリリィ BOUQUET ~if~ 作:クロスカウンター
こういうのを知るとしおりさんを応援したくなり……必然的に出番も増えます。
非番で授業もない昼下がり。しおりが水夕会の控室に向かっている最中、鼻血を噴き出すフミを見かけて足を止めた。
『鼻血を噴き出す』という表現をこんなにカジュアルに使わせないでほしいのだが、体質なのか何なのか(当人曰く職業病)、フミは定期的に鼻血を出していた。そして、取材を受けていた先輩がぎょっとしているのが目に映る。
なるほど、初めて見ると驚くものらしい。しおりは既に慣れてしまったが、改めて考えると、確かに異様な光景ではあった。
「ごきげんよう、フミさん。また鼻血ですか」
取材が終わったタイミングを見計らって、しおりは声を描ける。
「ああ、しおりさん。ごきげんようです。取材をしてたらついつい出してしまうんですよ~」
そんな『春になると鼻水が出る』くらいのテンションで鼻血を出さないでもらいたいのだが。
「それなんですが、一度保険医の
あまり症例は多くないが、マギを使う度に粘膜の弱い部分が破ける(≒鼻血が出る)ケースがあるらしい。
滅多なことはないと思うが、診てもらって損はないだろう。そのくらいの気持ちで何気なく聞いたのだが。
「いえ実はマギ梗塞の一種らしいんですよね」
「えっと? マギ梗塞ですか」
「はい。どうもマギの通路が詰まっているようで、そこを無理やりマギが通る時に粘膜を傷付けているとか」
どうも、滅多なことがあったらしい。
「ちょっとお待ちください。そんな状態で戦って大丈夫なのですか?」
思いのほか深刻に捉えられ、「いえいえ!」と、フミは慌てて付け加える。
「詰まっているのは鼻の粘膜の辺りだけですし、それもチャームを使っていない時だけですから! 現状『鼻血が出やすい』以外の何物でもないんです。保険医の方にも全く問題ないと言われましたよ?」
なお、百合ヶ丘(というより各ガーデン)の保険医は医師免許を持っている。主に外傷やマギ関連の治療が専門であるから、その先生が言うなら間違いないだろう。
「正確には、局所性非活性時マギ梗塞症と言うらしいです。これが『非局所性』や『活性時』だとリリィとして不適格もありうるそうですが、私の症状がそういったものに変化する可能性は低いそうです」
局所性⇒鼻の粘膜のみ。
非活性時⇒主にチャームを使っていない時。
マギ梗塞症⇒マギが詰まって出血を伴う。
……どうして病名というのはこうも物々しいのだろうか。
「そんな御病気を抱えていたとは知りませんでした」
「まぁ、私も百合ヶ丘に入学してから知ったくらいですけどね。先生には『花粉症より全然困らない』と言われました」
「いえ、ですから免疫反応感覚で鼻血を出されましても……」
まぁ、ビジュアルはともかく、実害が少ないのは事実らしい。一般人より治癒能力がずっと高いリリィなのだから、多少の出血は問題にならない。その点、便利な身体である。
「とはいえ、何か困りごとがありましたらすぐにおっしゃってくださいね」
「それを言うのでしたら、しおりさんの左手の方がよっぽどだと思うのですけど」
しおりは、一瞬真顔になった。
しおりは過去の事件で左手の感覚を部分的に失っている。こちらはフミと反対に『戦闘中にマギを通す』と痺れは酷くなる為、一時はリリィ不適格の烙印を押されたこともある。
ただ、それはタブーに半歩踏み入った発言だ。
その事件でしおりは両親と妹を亡くしている。今更しおりは気にしないのだが、普通は周りが気を使って話題に上がらない。それを臆面もなく話題にするのは、友人の中でも『工藤さくあ』その人くらいなものだった。
「フミさん、取材の時もずっとその調子なのですか?」
フミはしおりの変化を見て、「あっ、ごめんなさい……」失言だったと頭を下げた。
「以前、あまり気にされていない様子だったのでつい……申し訳ないです……」
「いえ、気にしていないつもりだったのですが……。他の方は避けられる話題ですので、少し驚いただけです」
考えてみれば、フミは先輩相手に甲州撤退戦の件を尋ねるような人間だ。
「老婆心ながら忠告しておきますが、あまりタブーに突っ込むものではありませんよ」
「忠告はありがたいですが……しかし聞きにくいことを聞くのが新聞記者ですから」
この点でも、フミは『恐れ知らず』なのだった。
しおりは小さくため息を吐いた。
……この性癖も改めなくては、いずれトラブルを招くのではないか……。
まぁ、4月冒頭時点で既にトラブルに見舞われており、今後もしおりの心配を他所に、トラブルに巻き込まれることになるのだが。