アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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日羽梨様の話し方はこんなんじゃないと思うのですが、概要を見てると、自然とこんな感じになりました。悪しからずご覧いただければ幸いです。


第4.9話 vs最凶の1年生その1

 リリィの朝は慌ただしい。

 着替えに髪のセットに身だしなみ、食事もしっかり摂らないと訓練や出撃で身が持たない、予習もしておかなくては講義が身にならない。

 朝の一秒は血の一秒。一瞬たりとも無駄にはできない。

「フミちゃん! 行くよ!」

「はい! 今日こそは楓さんのノートに頼らず授業を乗り切ってみせます!」

 気合十分、気力充実。意気揚々と一歩を踏み出した、まさにその時。

「お待ちなさい、迷える子羊よ(Verirrtes Lamm)

 ……と、こんな珍妙な声掛けをするリリィは、学院広しと言えど一人しかいなかった。

「……何してるんですか、ヒバリ様」

 寮の入口で待ち構えていたのは、山梨日羽梨(ヒバリ)その人であった。

 壁にもたれ掛かり、身体を斜めにこちらを見据えている。格好付けているつもりだろうが、頭のリボンが巻き込まれて絶妙に恰好悪い。

「つれないわね、二川二水」

「そりゃ、忙しい朝ですからね。雑談でしたら放課後にお願いできますか?」

 ざっくばらんなフミの態度に、むしろリリが慌てた。

「だ、ダメだよフミちゃん! ちゃんと挨拶しなきゃ! ごきげんよう、ヒバリ様? えっと、初めまして、ですよね?」

 しかしヒバリは「挨拶など不要です!」と一喝した。

「ちなみに私は山梨日羽梨と申します。初めまして、以後お見知りおきを」(ヒバリ)「あ、一柳リリです。フミちゃんとは仲良くさせてもらってます」(リリ)「これはこれはご丁寧に」(ヒバリ)

「ちゃっかり挨拶してるじゃないですか!」とフミ。

「そんなことどうでもいいのです。貴方は今、大切なものを失っているのですよ」「時間ですか?」「違います。機会です好機です英語で言うところのOpportunityです。貴方は値千金の鉱石を道端に捨てた憐れなHanswurst(ハンスヴースト)……。そして貴方は磨けば光るEdelmetall(イーデルメタル)。貴方は自身を、それと知らず河原に捨ててきたのですよ、二川二水」

 フミは、この人が何を言っているかちょっとよく分からなかった。

「あの、イーデルメタルって貴金属ですよね? 詳しくないんですけど、貴金属って単体で出土すると聞きますし、磨かなくても光るんじゃないですか……?」とフミ

「あの、ちなみにですけど、機会をドイツ語? で言うと何になるのかな、と思ったり……」とリリ。

 ヒバリはそっと目をつぶり、ニコっと微笑んだ。

 

「SHUT UP, MAN!!」

 

「何なんですか!」

「何なんですかはこちらのセリフです。何なんですか」(ヒバリ)「繰り返されても困りますよ。何なんですか」(フミ)「なぜ私の誘いを断ったのです」(ヒバリ)「ああ、その件ですか」(フミ)「許しがたい暴挙です」(ヒバリ)「条件がシビアすぎますって」(フミ)「何を、4月中にラージ級を単独討伐くらい」(ヒバリ)「無理ですって!」(フミ)「私なんて何度も達成しています」(ヒバリ)「それはヒバリ様だからです」(フミ)「私が手取り足取り教えて差し上げますと申したでしょう」(ヒバリ)「ですから、私はリリさんと一緒に強くなると決めたんですって!」(フミ)

「全く。貴方は物の道理を弁えませんね」とヒバリ。

「それはこっちのセリフです」とフミ。

 ヒバリはため息を吐いて身体を起こした。

「分かっていますか二川二水。貴方はKätzchen(ケッツェン)ではなくSechzehn(ゼヒツェン)。自分はDrei mal zwei(ドライ・マル・ツヴァイ)と嘯くSchlafender Löwe(シュラッフェンダルーヴェ)。貴方を真に導けるのは私だけ。私です。私なのです。貴方に最も必要なのは私。間違いありません。貴方に必要なものは私。私が良く知っています。私を頼りなさい。私を頼るのです。私の力が必要だと思ったら私を必要としなさい。貴方は愚かなWeiser(ヴァイザー)Edelweiß(イーデルヴァイス)ならぬEdellilie(イーデルリーリエ)。痩せ我慢は止めなさい。自尊心など捨てなさい。抜き身のLilie(リーリエ)になるのです。その力強い姿こそ貴方が真に咲かせる花。分かりましたか分かっていますね、二川二水さん。然るべき場所でまた会いましょう」

 ヒバリはほとんど一息で言い切ると、スカートをサッとはためかせ、立ち去った。

 リリはぽかんと、その後姿を目で追った。嵐のようなリリィだった。

 本当に何言ってるか分からない人ですね……。

 まぁ、正確には『何を言っているか分からないことにしておきたい』といったところであるが。

「百合ヶ丘って、こんな人ばかりなのかなぁ」とリリ。

 あながち否定できないフミであった。

 

-2-

 

「小沢薬師芽(やくしめ)……様? ですか?」

――百合ヶ丘って、こんな人ばかりなのかなぁ――

 リリはヒバリを見て、夕暮れ時に出会ったリリィのことを思い出したのだった。

「うん、偽名って言ってたし同級生って言ってたけど……あの人、嘘吐きだからよく分からなくて」

 リリのやや怒ったような言葉に、しかしフミは首をひねった。

・室内で傘を差す

・帽子を被っている

・どちらもかなり豪華そうなもの

・お嬢様口調

・同級生?

・小沢薬師芽?

・嘘吐き

 概要を並べただけで、なかなかに奇特そうな人物であった。しかしそれならフミが知っていてもよさそうなものなのに、まるっきり思い当たる人物がいない。

 リリィオタクの面目躍如かと張り切ったフミだったが、予想以上に難解そうだった。

「小沢様も小沢さんもおられたと思いますが、特徴には当てはまらない気がしますね……。『薬師芽』の方は、全国で検索を掛けてもヒットしないですし」

 念のため、小澤、尾沢、尾澤、大沢(おおさわ)逢澤(おうさわ)……なども考えてみたが、そもそも百合ヶ丘にいなかったり、いても、やはり特徴には一致しなかったりした。

「5年前に事件があったかもしれないんだけど……」

「5年前と言うと、私たちが小学校5年生の頃ですね……。仮に上級生だとしましても……まぁ、3年生の方でしたら中1の時期ですが……。あるいは、百合ヶ丘では初等科リリィがヒュージの襲撃を受けた事件がありましたが……もしかしたらそのことなんですかね……?」

 ただし、それが『5年前』の件だとすると、微妙に時期がずれる気もする。

「本当に百合ヶ丘の方なんですかね……?」

「うーん、傘で顔が見えなかったし、服もちょっと隠れてたけど……でも、百合ヶ丘の制服だったと思うよ」

 フミはうーんと唸った。

「……リリさん、その(かた)には何かお話ししましたか?」

 フミは、少しだけ、その人物がスパイである可能性を疑っていた。薄暗い時間、顔を晒さない、本名を隠している、神出鬼没な俊敏な動き。しかもこれだけ派手にリリと接触しているにもかかわらず、一切の手がかりを残していないのだ。仮に彼女がその筋の人物だとしたら、その手際の良さは尋常ではない。

「別に私は何も……。勝手に色々喋って、勝手に行っちゃった。……でも、もう一度会ったら絶対文句を言ってやるんだから……!」

 リリの話を聞きながら、フミは考えに(ふけ)った。

 ……一先ず、何かしら情報を引き出されたわけではないようだ。しかし今回は下見か、あるいは別件の作業を終えた後で、戯れにリリに話しかけた可能性もある。

 もしそうだとしたら、次回出会ったとしても、安易に話しかけるべきではない。下手をすれば、リリや仲間の誰かが(さら)われる危険すらある。

「? どうしたのフミちゃん?」

「……いえ、リリィ新聞に情報を募集する記事でも掲載しようかと思いまして」

 フミはリリの追及を適当にごまかした。

 考えすぎだろう。

 可能性は0でないとはいえ、この厳重なセキュリティの百合ヶ丘に侵入し、その上で、特に意味もなくその生徒と接触するとは考えにくい。そもそも、周辺には防犯カメラもある。

 一応、ユユ様経由で生徒会の耳に入れても良いかもしれないが、現時点でリリに無用な心配を与える必要性はなさそうだった。

「私の方でも、伝手を頼って調べてみます。何か分かったらお教えしますね!」

 疑問も不安も有耶無耶にするように、フミは笑顔を見せた。

 そうして、他愛もない雑談としてこの話はお流れとなった。そう思っていたのだが……。

 

--

 

【注意喚起】

 敷地内カフェテリアにて、不審人物の目撃情報が入りました。以下の特徴に一致する人物と接触、またはその姿を目撃した際は、速やかにその場を離れ、教導官・生徒会役員にご一報ください。また、当該人物について情報をお持ちの方は、編集長の二川二水、並びに生徒会までご連絡ください。

・豪華な傘を持ち歩いている

・豪華な帽子を被っている

・「ですわ」などお嬢様口調

・虚言癖(1年生・偽名を自称)

※当該人物が不審人物ではないことが確認された場合、謝罪と共に訂正の記事を掲載させていただきます。

 

-3-

 

 フミは、リリから聞いた人物についての注意喚起記事を、生徒会監修の下で掲載した。

 思いのほか大事(おおごと)になったことに少々驚きつつ、やはり最前線ともなると情報管理にはシビアになるのだなぁと身を引き締められる思いだった。

 ただ、一点。リリに報告した際、「悪い人じゃなかったよ?」と寂しそうに言うので、それだけは申し訳ない気持ちになるのだった。

「いいえ。百合ヶ丘でそんな迂闊な行動をお取りになる方が問題ですわ。リリさんやフミさんが気にすることではございません!」

 楓はやや不機嫌そうな様子で昼食のご飯をかきこんでいた。

 どうも、自分の与り知らぬ場所でリリにちょっかいをかけられたことが気に入らないらしい。

「何でしたら、リリさんに名前でも書かれたらどうですか?」とシェンリン。

「お黙りなさい! 毒舌!」(楓)「おお。悪口がアップデートされてますね」(フミ)「成長だね」(リリ)「それは成長して良い部分なのか……?」(ミリアム)

「でも、リリに何事もなくて良かった……」とユージア。

 実は、戦場で、日々の生活で、いつの間にか仲間が消えた……ということは往々にしてある。行方不明のリリィはバカにできない数に(のぼ)っており、例えば初代アールヴヘイムの明石愛華も(事件性の有無は別として)行方不明リリィの一人だ。

「残念なことですが、何があるか分からないのがリリィの世界ですわ。今後はツーマンセル・スリーマンセルを徹底すべきかもしれません」

 楓の言葉に、ミリアムは「まぁ、反対はせんが、そこまでは神経質にならんでも良いと思うがの……」と微妙な態度を取った。

 ミリアムはクラスが違う上、夜遅くまで研究することが多く、少なくともこのメンバー内でペアを作るのは難しかった。

「もゆ様をレギオンメンバーに誘ったら如何ですか?」と楓。

「いや、それとなく誘ってみたのじゃが、『あくまで私は研究者! 知の宮殿を彷徨うミノタウロスなんだず!』とか何とか」(ミリアム)「もゆ様も結構変わってますよね……」(フミ)「案外、もゆ様が(くだん)のリリィだったりしませんか?」(楓)「もう! もゆ様に失礼だよ?」(リリ)「……それはそれでその薬師芽(じょう)に失礼なのではないか?」(ミリアム)

 一方シェンリンは、「気にする程のことではないと思いますが」と、気のない様子で熱いお茶を(すす)った。

「基本的に百合ヶ丘のセキュリティレベルは高い筈ですからね。スキルS級レベルが来ない限り、そうそう破れませんよ」

 S級になれば、スキルによってはワープや透視ができるようになる。そんなチートじみたことをされない限り、トップガーデンのセキュリティ網に一切かからないなどあり得ない。

 ……逆に言えば、本件にスキルS級リリィが関わっている可能性が僅かながら残る、ということでもあるのだが。

「……リリさん。やはり私とフミさんの三人で行動するように心がけましょうか。お一人の時は怪しい人に話しかけられても付いていってはいけませんよ?」と楓。

「いや子どもじゃないんですから……」

 まぁ、スリーマンセルは悪いことではないと思いますが……。

「私たちも、なるべく1人にならないよう気を付ける……!」とユージア。

「でもユージアさんとシェンリンさんは一緒にいるから、やっぱりミリアムさんが1人になるんじゃない?」とリリ。

 結局、ペアを考えるならミリアムがネックになるのだった。

「堂々巡りですわね。アナタ、いっそユユ様とペアを組んだら如何です?」

 半ば投げやりな楓の言葉に、

「ダメだよ!!」

 とリリが全力で叫んだ。

「ユユ様をお守りするのはシルトの私の役目です!!」

 ……ああ、これはスイッチが入っちゃいましたね……。

「……まぁ、日常でユユ様が(さら)われるとは考えにくいですから、わざわざペアにしなくて良いと思いますよ?」とフミ。「でも、お姉さまに万一があったら……!」

「マイ様がよく一緒にいるそうですから」とシェンリン。「うぅ……そ、それでも……!」

「会えない時間も恋だよ」とユージア。「…………確かに、ペアで四六時中一緒は良くないよ!」

 一瞬の変わり身だった。

 ユージアの鮮やかな手際に、フミらは舌を巻いた。

「ユ-ジアさん、凄いですね……」(フミ)「やはり経験があるんかの」(ミリアム)「先生とお呼びしましょうか?」(楓)「もう……! やめてよ……!」(ユージア)

 ユージアのファインプレーにより、ユユ様のペア問題はすんなり解決した。

「まぁ、わしも基本的にもゆ様と一緒じゃからな。ああ見えて、もゆ様はかなりの実力者じゃ。わしもペアなしで構わぬぞ」とミリアム。

「私も取材がありますから……」

「別に四六時中一緒に居ろとは申しませんわ。ただ、離れる際は私に一言お願いします」

 そんな訳で、『楓、リリ、フミ』『シェンリン、ユージア』『ユユ、(マイ)』『ミリアム、(もゆ)』が緩くペアを組むような形で話は落ち着いた。

 その後、「私、お手洗いに行ってきますね」とフミが言った時、「私、付いていこうか?」「大丈夫です? お一人で行けますか?」と子ども扱いされたことだけがフミとしてはやや不満だった。

「いえ、それくらい大丈夫ですって……」とフミ。

 ただし、この時、フミは1人でトイレに行ったことを後悔する事態に迫られる。

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