アサルトリリィ BOUQUET ~if~ 作:クロスカウンター
「しかし本当に便利屋みたいな人ですね……」
少し離れたところから観察しながら、フミはぼやいた。ルイセはユユ様が話しかけてくるのを見て、ぎょっとした様子だった。それでも大して取り乱しもせず話しているのは、一流が一流ゆえなのかもしれない。
「しかし
『え!? ユユ様じゃねぇですか!』とか言ってそうである。
「……いえ、流石にユユ様相手にざっくばらんな口は利かないのではありません?」(楓)
「まぁ、ああ見えて一流リリィですからねぇ」(フミ)
SSSレギオンの期待の新メンバー。他のメンバー(ヒバリ様とか)がぶっ飛んでいて目立つだけで、ルイセも折り紙付きの実力者だ。
「それで、フミさんはいつの間にルイセさんと……って、遠征に行ってらしたから、ここ1~2週間のことでしょうけど」
サングリーズルは5月頭から5月下旬までの数週間、遠征に行っていた。
「どうせその取材じゃろ」とミリアム。
「それだけにしては、妙に信頼されているではありませんか」と楓。
「何ですか。リリさんの次はフミさんですか?」(シェンリン)
「何を。単純な疑問ですわ」(楓)
言い合いを始めそうな2人に、フミは慌てて口を挟んだ。
「いえ、最近取材をしたので記憶に残っていただけですって!
「まぁ、妙ちきりんな口調じゃからな」
ミリアムさんが言いますか……? ツッコミ待ちだろうかとフミはちょっと悩んだ。
しかしツッコむより先に、ミリアムが口を開いた。
「それより、今の内に聞いておきたいのじゃが……」
ミリアムは言いにくそうにフミの腹部を差した。
「お主、お腹の包帯は何なのじゃ?」
フミは、意図的に表情を隠した。
「別に。ちょっとかぶれてるだけですって」
……この件に関しては、リリからも楓からもユージアからもミリアムからも、何度も何度も聞かれている。そりゃ、痣が治ったと思ったらまた包帯を巻いているのだ。一緒に風呂にも入るのだから、気にならない訳がない。
「前にも言いましたが、ご病気の兆候があれば恥ずかしがらず診ていただくべきですよ」
これも何度も聞いている。
「大丈夫です、もうほとんど治ってますから」
「本当に怪我の類ではないんじゃの?」とミリアム。
「だからそう言ってるじゃないですか」
「ルイセさんとは関係ないんですよね?」と楓。
「なんでルイセさんなんです……?」
「それじゃあしおりと関係あるのかの?」とミリアム。
「だから、ただのかぶれですって」
フミは、憮然とした表情を一切変えずに言い切った。
「強情じゃのぅ……」とミリアム。
「ここでも話さんということは、リリがいるからという訳では」
「だからリリさんは関係ないでしょう!」
急に怒気を顕にしたフミに、ミリアムと楓は目を丸くした。
フミも驚いた。どうしてこんなに声を荒げたのだろう……。
「あっ、その、すみません、急に大声出して……」
「いや、その……わしもくどくどとすまぬかったな……」
「フミさん、その……いえ、何でもないのでしたら、良いのですが……」
一同に、気まずい雰囲気が流れた。
そんな中、シェンリンだけが澄ましていた。
「訳ありということですよ。秘密の一つや二つ、誰しも抱えているものです」
そうであるからこそ、聞くべきでない。
メンバーの内、シェンリンだけはフミの態度に同調的だった。……ただし、それはそれで事情を察されている気がして、フミとしては落ち着かないのだが。
「まぁ、誰だって聞かれたくないものはあるからの」とミリアム。
「
相変わらずツンと澄ましていた。
「それでしたら、ユージアさんとどこまで進んでいるのか伺いたいものですが?」(楓)
「ご想像の通りです」
「接吻とはどのようなものなのじゃ?」(ミリアム)
「一般論ですが、さくらんぼの甘酸っぱさが近いとか」
「今、リリさんとユージアさんは別行動ですけど、お二人が一緒にいることは気にならないのですか?」(フミ)
「後でお仕置きですわね」
……。ポーカーフェイス過ぎて冗談とも本気とも取れない。
何と言いますか、プロですね……色んな意味で。
そんなことを考えていると、視界の先では、ユユがルイセと別れてこちらに帰ってくるところだった。……しまった、話に夢中で全然見ていませんでした……。
「まぁ、ルイセなら適当にやったじゃろ」「ルイセさんなら大丈夫ですわ」「ルイセさんですから」
扱いが雑であった。
……まぁ、ルイセさんなら大丈夫ですか。
結局、便利枠扱いなのだった。
-7-
フミはちょっとドキドキしながら廊下を歩いていた。その隣にはユユ様。あの伝説のユユ様と肩を並べて歩けるなんて、ほんの数か月前まで恐れ多くて想像すらできなかった。
しかも、その『伝説』を打ち壊すためにこうしているのだから、人生とは何があるか分からないものである。
「何だか嬉しそうですね、フミさん」
「それはそうですよ! ユユ様とご一緒できるなんて……! これは完全に役得ですね!」
数分前。次のターゲットを決める際、ユユから『外部の下級生でなくても構わないのではないか』と提案があったのだった。
それは盲点だった。確かに、適任かつ暇なリリィを探すまでもなく、ここに4人もその候補がいた。
というか、リリとセットになりすぎていることが、ユユ様の偏狭なイメージを助長している感があった。むしろ、仲間内でリリ以外と2人で歩くことの方がイメージアップには大きく貢献しそうだった。
思考の柔軟さは流石ですね~、とフミ。やはり、あらゆる点で尊敬できるリリィなのであった。
-
「行きましたわね……」と楓。
ユユ様の提案は、渡りに船だった。
もちろん、その提案はイメージアップキャンペーンの趣旨とも合致しているし、この4人の中で最も適任なのも新人のフミだった。
しかし、どちらかと言うと3人は別の理由でフミを推した。少し、フミのことで相談したかったのだ。
「フミが声を荒げるとは……やはり何かあったのかの」
「私はルイセさんと何かあったと踏んでいたのですが……見当が外れましたわ」
深刻な顔のミリアムと楓に、「詮索は不躾ですよ」とシェンリン。
「先程申し上げた通り、『訳あり』なのでしょう。詮索するべきではありませんよ」
それでも、楓は複雑な表情をした。
「それはそうなのですけど……異変は明らかに『あの日』以来ではありませんか」
あの日。フミは急な『体調不良』で講義を欠席し、腹部に包帯を巻くようになった。
その後の動きの鈍り方も、体調不良とは明らかに違う。恐らく、何かしら負傷を負っている。
「ここまであからさまにされて、見て見ぬふりというのも難しいものですわ」
ミリアムも、楓に賛同した。
「わしもフミに何かあったのなら力になりたいと思う。……まぁ、
むしろ、生き生きしているようにすら見える。それが余計に何があったか混乱させる。
しかしそんな状態で、シェンリンだけが大して興味を示さないのだった。それは不可解ですらある。
「もしかしてですが……シェンリンさんは、フミさんに何があったのかご存知なのですか?」
――あの人に関わると碌なことになりませんよ――
「見当くらいは。……まぁ、タブーに触れてしまったということかと」
タブー? と怪訝げなミリアム。一方、楓はそれ以上は追及しなかった。シェンリンが知っていて『詮索すべきでない』とは、きっと知らない方が良いことだ。
「不甲斐ないですわ。ずっと一緒にいる私の
「仕方ないでしょう。百合ヶ丘のことは、百合ヶ丘に居なくては分かりませんから」
と言うことは百合ヶ丘関連の……と言いかけて、ミリアムは口を止めた。
「いや、止めておこうかの。お主が問題ないと判断したのじゃ。ならば、わしもそれを信用しよう」
楓もミリアムに倣った。
「信頼と妄信は紙一重なのですが……。アナタが黙っているということは、そうであるべきなのでしょう」
「あら。貴方に評価いただいているとは思いもしませんでした」
シェンリンは驚いた振りをした。
「一緒に居れば嫌でも分かりますわ。判断力、分析力、視野の広さ。戦場だけではありません。常日頃から、人間というものが分かっている動きですわ。アナタは間違いなく良質な司令塔タイプのリリィです」
ほぅ、とミリアムは感嘆の声を上げた。楓が正直に人を褒めるのは珍しかった。
と思いきや、一言付け加えた。
「……ただし、何を怯えているのかとは思いますが」
シェンリンは、不機嫌そうに楓を見据えた。
「それをおっしゃるなら、貴方のリリさん
今度は楓が不機嫌になる番だった。
「リリさんのことはアナタに関係ないではありませんか」
「関係ないとはお言葉ですね」
「2人ともちょっと落ち着かんか」とミリアム。
「フミの話はともかく、リリで言い合うのは脱線しすぎじゃぞ」
しかし、シェンリンは引かなかった。
「フミさんに関係するのですよ。……貴方、フミさんとリリさんを同列に扱っているつもりで、フミさんを蔑ろにしていますね? 表面上の話ではありません。本音の部分です。フミさんを一人にしたのもそうです。もしリリさんでしたら、何があっても付いていったでしょう? ……その不均衡を自覚していないのは問題ですわよ」
楓は反論しようとして言葉に詰まった。そんなことはない。そう言いたいのだが――そう思っていたのだが――、思い当たる節が、多すぎる。図星だった。
代わりに、別の部分に噛みついた。
「お待ちなさい、シェンリンさん。まさかあの時、こうなることが分かっていて、フミさんを一人で行かせたのですか?」
見当が付いているとシェンリンは言った。そして言外に、楓は止めるべきだったとも。
分からずにやったのと分かってやったのでは、意味合いが変わってくる。半ば居直りであるのは楓も承知している。それでも、それは黙って聞き流せるような話ではなかった。
しかし、シェンリンは詰まらなそうに口を開いた。
「予感はありました。チャームを持たずに席を立つとは愚かだとも思いました。……しかし思いのほか痛い思いをしたようで安心しました。これで、二度とチャームを手放すことはしないでしょう」
事も無げにいうシェンリンに、楓は表情を消した。
険悪な空気に、ミリアムは視線を慌ただしく動かした。
「お主ら……少し……」「アナタは黙ってなさい」
ピシャリと冷たい声の楓。視線はそのまま、シェンリンに向けられた。
「なるほど。そういうお考えですか。アナタは優れた司令塔だと思っていましたが、そうではありませんでしたのね」
楓とシェンリンはお互いに視線を外さない。
「アナタは優れた司令塔などではなく…………ずば抜けて優れた司令塔だったのですね」
楓は、苦々しくシェンリンを称賛した。
危険を正しく把握し、それでもリスクとリターンを天秤に掛けること、そして自分ではない誰かにリスクを負わせるのを躊躇しないこと、それが司令塔の仕事である。
分からずにやったのと分かってやったのでは、意味合いが変わってくる。こうなることが分かっていて、それでも相応のリターンがあると判断したなら……そして実際にフミにポジティブな影響が現れた現実を見るなら……シェンリンの判断は的確だったと言える。
「貴方も優れた司令塔であるようで」
シェンリンはニッコリと笑った。
「優れたではありませんわ。『ずば抜けて優れた』ですわ!」
途端に仲良さげにする2人を見て、ミリアムはようやく脱力した。
「そういうのは止めてくれんか……心臓に悪いぞ」
「まぁ、リリさん贔屓に関しては冗談では済みませんが」
楓も、それは分かっていた。
「申し訳ございません。リリさんに集中しすぎてフミさんに不注意でしたのは私のミスですわ」
痛恨といった風に項垂れた。
……ところで、ミリアムはずっと不思議に思っていた。
「どうしてリリに拘るのじゃ?」
確かに、リリには目を見張るものはある。入学式に共に出撃した経緯もある。それでも、世界レベルのリリィ(楓)が素人リリィ(リリ)にここまで入れ込むのはどうも解せなかった。
「止めておきましょう。リリさんにとってのユユ様、私にとってのユージアさん。他人にとっては理解できないものがあるものです」
と、入れ込んでいる当のシェンリンに言われると、ミリアムもこれ以上言及できなかった。
「まぁ、そうじゃな……それより、フミのことじゃったな」
ミリアムは頭を切り替えた。
「わしには何のことか分からんが、このまま放っておいていいものかの? あまりに冷淡すぎるように思えるのじゃが」
大丈夫ですよ、とシェンリン。
「それより問題は、フミさんがリリさんに劣等感を抱いていることです」
ミリアムは驚いた。
「まさか……そんな風には見えぬが……」
しかし、楓は苦い顔をした。
「薄々は私も……。やはり、私のリリさん贔屓が悪いのですが」
「いえ、そんなことはありませんよ。自覚がなかったのは愚かしいですが、いつかは直面する問題でしたから」
……ずいぶんとばっさりとした評価だが、その通りだった。楓は、リリが絡むと判断が鈍る。自分の不甲斐なさにため息を吐いた。
「そうか、フミは一応、経験者じゃからの。初心者のリリに、実戦経験も抜かれ、先にお姉さまにも見初められ……考えてみれば、焦って当然じゃな」
「逆にリリさんだって、いくらかフミさんに劣等感を覚えている筈です」
またもミリアムは驚いた。
「まさか……そうなのか?」
楓は、やはり苦い顔をした。
「良くご存知で。決して口には出さないのですが、時折……。例えば、レアスキルは分かりやすいですわね」
「あー、そうか。リリはまだスキルがなかったの……」
百合ヶ丘高等部で、レアスキルを持っていないリリィは珍しい。同じスキラー数値50のフミでも、鷹の目を持っている。リリもまた焦りがあるのは間違いない。
「ユユ様に
何か言いたげな顔をしているのを見て、楓は怪訝に思った。シェンリンは、言いたいことは言うタイプの人間の筈だが。
「いえ。もしかして、リリさんは『カリスマ』ではないかと思っていたのですよ」
カリスマ。類まれな統率力を発揮するレアスキル。発現者が少なくその実態は分かっていないが、単なる支援スキルと見ても破格の性能を誇っている。
人を惹きつけるその有り様、ユユ様の暴走を止めた一件、そして何よりフミと異様な連携を決めた一件。リリが『カリスマ』と考えれば説明も付くのだが……。
「しかし、判定は『スキルなし』なのじゃろう?」とミリアム。
「私も『カリスマ』の可能性は考えましたわ。しかし学院に問い合わせましたが、まだよく分からないそうです。確かにそれらしき特徴は見られるのですが、波形パターンが一致しないとか。そもそも、『カリスマ』は低めの数値で発現するとはいえ、50で発現する例は……まぁ、絶対数が少ないのでまだ分かりませんが」と楓。
「そうですね。まぁ、この話は忘れてください」
閑話休題。
「結局、フミとリリの劣等感は……何と言うか『隣の芝は青い』という奴じゃの」とミリアム。
「どんぐりが背のびしていて微笑ましいじゃないですか。まぁ、お二人が言い合いでもしてくれれば早いのですが」
「喧嘩どころか険悪な空気になったことすらないからの」
リリもフミも、人に怒りをぶつけるタイプではないのだった。
「ただ、今日のフミさんを見るに、溜まっているものはありそうです」と楓。
「一番良いのは、当人同士、洗いざらい胸中を晒しあうことですわ。私たちに相談いただければ誘導は致しますが……やはり、こちらから手出しをする問題ではありませんね」
難しいのぅ、とミリアム。結局、当事者以外にできるのは見守ることだけだった。
「……というかお主ら、いつもそんなことを考えとったのか」
正直、ミリアムは驚いていた。
「司令塔として当然のことですわ」と楓。
「あら。ミリアムさんまで劣等感ですか? よしよしして差し上げますよ」
子ども扱いするでない! とミリアム。
「まぁ、何にせよ、
そう言いつつも、裏側を知るとどうも焦れてしまう。
そんなミリアムと対照的に、司令塔の2人は呑気に見えるほど落ち着いていた。
「忍耐力も一流には必要ですわ」
「あら、果報は寝て待てと申します。忍耐は努力ではなく楽しまなくては」
……わしもフミらも、こやつらと同じレギオンで良かったのやら悪かったのやら。少なくとも、楓もシェンリンも
フミもリリもどうか頑張ってくれと、微力ながらミリアムは願うのだった。
-
一方、その頑張らなくてはならない当のフミは、
「へぇ、辛い食べ物がお好きなんですね~。リリィおススメの料理屋さん特集……そういうのもアリですね!」
非常に呑気であった。
「貴方はいつもそれですね」
「職業病ですから~」
とはいえ、流石にメモ帳を出すのは自重している。目的はあくまでイメージアップキャンペーン。取材ではなく後輩との会話でなくてはならない。
「一応忠告しておきますが、部活動に属さない取材活動というのはあまり良く思われませんよ」
突然、ユユは妙なことを口にした。
「え? でも、学院からは許可が出ていますよ?」
「リリィの自主性を建前にする以上、禁止はできません。しかし、シビアな情報管理が求められる学院からすれば、あちこち嗅ぎまわる人間とは目障りなものです」
フミは驚くというか、感心してしまった。なるほど、その発想はなかった。
「取材をやめろとは言いません。ただ、事件に巻き込まれぬようゆめ注意することです。危険を感じた時は、すぐに私に相談なさい」
フミはあまりピンと来なかったが、気遣ってもらえるのは嬉しかった。
「分かりました。ご忠告ありがとうございます」
と、手拍子で返事をしたフミの内面を読んだかのように。
「私はそんなに頼りないでしょうか」
ユユが責めるような口調で言うので、フミはドキッとして足を止めた。が、ユユは構わず歩いていくので、慌てて小走りで追い付く。
「さくあさんとトラブルがあったそうですね」
フミはまたもドキッとして転びかけた。
「そ、それをどこで……?!」
「しおりさんとルイセさんです。全く。私に頼らない癖に、引き抜きがあった両レギオンの同級生には頼るのですね」
「それをどこで……?!」
驚きすぎて、同じ反応を繰り返してしまった。水夕会の噂はともかく、サングリーズルの方はマイナーな話である。孤高のリリィたるユユ様が一体どこでそんな情報を……? これもルイセさんが……?
ユユは、ため息を吐いた。
「それくらい耳を塞いでも回ってきます。それなのに貴方は、引き抜きの件も相談しませんし、訓練も、しおりさんのコーチの件だって全く相談がありませんでしたよ。マギ理論の小テストも、相談されればそれなりに手伝いました。メンバー集めだってそうです。今日まで私に一言も相談も報告もしないではありませんか。ルイセさんを引き抜こうとしていたなんて、
言われてみれば……確かに、あまりに独りよがりだった。
「すみません……自分たちで頑張るものだと思っていまして……」
「その自主性の高さは誇るべきものです。私もそれを重んじるべきだと口出ししませんでしたが……、しかし、さくあさんの件は、貴方の口から聞きたかったと思います。私は後輩から信用がないのかと悲しくなってきますよ」
フミは「そんなことないですよ……」と言うものの、我ながら説得力がないものだと思った。
「貴方は人に頼ることを覚えるべきです。私はリリさんのお姉さまなのですよ。友人の姉は他人ではありません。もっと気軽になるべきです」
そう言われてフミは、昔、友達の家で妹ちゃんと一緒に遊んだことを思い出した。後日、学校であった時にその妹ちゃんから挨拶をされた。
そうですか、他人じゃないんですね……。友達のお姉さんとは、そういう距離感なのかもしれない。
「何でも自分で抱えてしまって申し訳ありません……。ただ、さくあさんの件はどうかご内密にお願いします……」
それでもなお、自分で抱えようとするフミに、ユユはため息を吐いた。
「詳しいことは私も教えていただいておりません。それに、貴方のことを考えれば公表などできませんよ」
随分と気遣っていただいているようで恐縮だった。
「それで、リリさんのことで私に言うことはありませんか?」
『リリ』という単語に、今までと別の意味でドキッとした。
「その……あの……、確かに、リリさんには対抗心はありますが……それはライバル意識と申しますか、その……」
見透かされているような気がして、フミはたどたどしく捲し立てた。
ユユは、小さくため息を吐いた。
「分かりました。貴方は自主性の高いリリィですが、こと相談に関しては自主的になれないようですね。来週の同じ時間、また同じように2人で話し合いましょう」
それはリリィオタクとして魅力的な提案の筈なのに。
「はい……はい、ありがとうございます!」
フミは営業スマイルで誤魔化した。
結局、フミは最後まで自分で抱えようとするのだった。
-7.5-
『番外:リリと、ユージアと、カチューシャちゃん』
「ユユ様ってシルトに厳しくないの?」
「そんなことないよ! 4月だってチャームとの契約も教えてくださったし、チャームの訓練もしてもらって、それに、焦ってた私に『完璧じゃなくて良い』って。まずは一人前を目指せばいいって!」
「へ、へぇ~……まずは一人前って、やっぱりスパルタなんだ……。でも、厳しいだけじゃなくて、リリさんには優しいお方なんだね?」
「私やシェンリンにも、アドバイス……してくれるよ?」
「え? ユージアさんって射撃も近接も完璧じゃないの?」
「ううん! そんなことないよ……! 保守的過ぎるから、もっと前に出なさいって……」
「えっと、やっぱりスパルタ……?」
「あ、あはは……」
「リリさんってどうして、ユユ様とシュッツエンゲルになりたかったの?」
「え? どうして?」
「だってその為にわざわざ百合ヶ丘まで来たって聞いたから。私だったら、それだけの為に来るなんて…………あ! ごめんなさい、別に非難してる訳じゃなくて……」
「リリ。私も知りたい。ユユ様との馴れ初め……!」
「え~? でも、百合ヶ丘に来たのはシュッツエンゲルなんて全然……そりゃあなれたらいいな~ってちょっとは思ってたけど……。ただ、甲州撤退戦でユユ様に助けられたから、もう一度会いたいなって思って……」
「甲州撤退戦……」
「あっ! ごめんなさい! あんまり良くないんだよね……戦いの話って……」
「ううん! そんなことない! だってアールヴヘイムの初陣だもん。私、アールヴヘイムの大ファンなの!」
「アールヴヘイム……。私も、名前は知ってる」「名前だけですか!?」
「えっ? あの……」
「作戦成功率100%! あの
「「…………」」
「あっ……あ、その……ごめんなさい、その、あんまりお話する機会がなくって……」
「なんだか……フミみたい……」
「ユージアさん、失礼だよ!」
「あの……それはフミさんに失礼じゃ……」
「私、ユユ様にお会いできて、それで満足できると思ってたんだけど……。お会いしたら、全然、雰囲気が変わられていて……どこか、悲しそうだったから……。私、何があったか知りたくて。それで勢いでシュッツエンゲルのお願いをしたの」
「すごくリリらしいよ……!」
「うん……それに、ユユ様とリリさんって何だかピッタリって感じ」
「そうかなぁ……?」
「うん……! お似合いだよ?」
「リリさんってやっぱりすごいよ。リリさんのレギオンって聞いて面白そうだと思ってたんだけど、ユユ様に楓さん……気付いたらシェンリンさんにユージアさんまで入ってて……」
「でも、私は初心者だから……」
「ううん。リリさんはきっとすごいリリィになれる……」
「私も……リリさんみたいに行動出来たら、何か違ったのかな……」
「え?」
「……実は、私も……アールヴヘイムに憧れて、百合ヶ丘に来たの……」
「へぇ~そうなんだ……!」
「なんだか……リリみたい……」
「ユージアさん、失礼だよ!」
「え? リリさん、あの……その、ええ?」
「リリ! リリに失礼だよ!」
「ゆ、ユージアさん……?」
「…………あ。冗談だよ?」
「ふふっ。ね、面白いでしょ? ユージアさんって結構冗談も言うんだよ?」
「……やっぱり、私もリリさんのレギオンに入れば良かったかなぁ」
「まだメンバーは募集中だよ?」
「今なら特典付き……!」
「うーん……もうお姉さまのレギオンに入ってるから」
「……お姉さまごと……」
「ゆ、ユージアさん……?」
「…………あ。冗談だよ?」
(本当に冗談なのかなぁ……?)
「お姉さまも……アールヴヘイムの大ファンで。たまたま話をしている内に仲良くなったの」
「アールヴヘイムが恋のキューピット……!」
「へぇ~、お姉さまたちがキューピット!」
「フミさんとも色々話したことがあるんだけど……」
「え!? フミちゃん?」
「……? だって有名なリリィオタクだもの。……でも、私がビックリするくらい色々知ってて……。それに……」
「……?」
「……先輩に甲州撤退戦のことを聞いて回ったり、上級生にずばずば聞いたり……それに……」
「もしかして……フミ、お姉さまに失礼した?」
「ち、違うよ! そうじゃなくって……あの、フミさんって……水夕会と何かあったり、とか……」
「え゛!?」
「あっ、やっぱり……」
「ううん! しおりさんと、ちょっとお手合わせしてもらったというか、コーチをしてもらってるというか……!」
「……あの……さ、さ……水夕会主将の……その……」
「さくあさん?」
「リリのクラスメイトの?」
「そ、そう……あの人に取材……? 分からないけど、みんな恐れ多くて簡単に話しかけたりできないのに……。フミさんも只者じゃないよね……」
「うん……フミちゃんは……すごいもんね!」
「うん! リリもフミも……すごいリリィになれるよ……!」
「そうだ! アールヴヘイムが好きだったら、ユユお姉さまと……!」
「え?」
「ユージアさん、言っちゃっていいかな?」
「うん! リリに任せる……!」
「? どうしたの?」
「実は今、ユユ様のイメージアップキャンペーンをしていて……」
-8-
その後、フミのリリィ新聞には珍しい対談記事が載った。カチューシャの似合うまだ無名の1年生リリィと、百合ヶ丘屈指のリリィ、ユユ様の特別対談だ。
フミの取材と違い、突っ込んだ質問はないものの、それ故にユユの人間性が表れた温かみのある記事となった。
ゴシップ気味なフミの新聞にしては、異例と言えるほど幅広い層のリリィに読まれたらしい。フミの元には、いつになく大きな反響が帰ってきていた。
イメージアップキャンペーンは大成功の
余談。
「あの、ちなみにですけど、アールブヘイムの推しリリィってユユ様だったり……?」
「あの……」
カチューシャは口を濁した。
……何となく、ユユ様推しでないのは察していた。恐らく、彼女の推しはソラハ様……ではなく、それと双璧をなした、2代前の元ジーグルーネたる竹腰
「あの、か、
の、シュッツエンゲルの林薫様ですか!?
「あ、はい……」
そっちですか……とフミ。
フミは寮長でもある薫様が少し……いや、かなり苦手なのだった。