アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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第4-12話 リリィ日和2

 百合ヶ丘はヒュージ迎撃の最前線だ。戦いに休みなどない。

 その日の出撃は、スモール級・ミドル級が複数だった。とは言っても、簡単な任務ではない。一体一体は大したことがなくとも、数でリリィたちを攪乱(かくらん)してくる。

 そこに、轟音と共に地中から巨体が飛び出した。ラージ級だ。

「リリ! 行くわよ!」

「はい! お姉さま!」

 ユユはヒュージに向け勢いよく飛び出し、リリはそれに付いていこうとして……前につんのめった。

(あれ?)

 マギ出力を間違えた? 違う。足元の地面が崩れた。そこからヒュージの鋭利な触手がリリに伸びる。

「リリ!」

 ユユは異変に気付いたが、飛び出した身体は止められない。リリは体勢を整えチャームを構える。避けられないが……受けられる! 大丈夫、練習通りにすれば……!

 しかし、それがリリへと届く前に、風が吹いた。触手は千切れ飛び、ヒュージの断末魔の叫びが響く。

 何が起こったか分からず、リリは呆けた。

「全く。戦場で油断は命取りだ」

「え? あっ、タヅサさん!」

 そこにいたのは、クラスメイトの安藤タヅサだった。

 高速のチャーム捌きで、地中に潜んだミドル級を瞬く間に葬り去った。

 助けてもらった。それに気付いて……リリはタヅサに抱き着いた。

「ありがとう!! タヅサさん!」

「こ、こら。だから戦場だって……!」

 タヅサは憮然とした顔をした……つもりだったが、傍目に見ると顔を赤くして少し喜んでいるようにも見えた。

 ユユは、その様をホッとして見つめ、しかし顔を引き締め「リリ! 付いてきなさい」鋭く命令を発した。

「……ほら、行くぞリリ」

「うん! タヅサさん!」

 2人は並んで飛び出した。

 百合ヶ丘はヒュージ迎撃の最前線だ。戦いに休みなどない。しかし、その中で紡がれる友情や絆は他で代えがたい輝きを放っている。

 

-4-

 

 昼過ぎ一番の授業とはどうして眠くなるのだろう。ご飯を食べると眠たくなると言うが、実はご飯とは関係なしに動物の本能の所為だとも聞く。まぁ、昼過ぎ一番でもなく、授業中でもなく、今ここで寝転がりたくなるのは、今日が昼寝日和だからかもしれない。

「タヅサ。オマエはレギオンに入らないのかー?」

「……そっくりそのままお返ししますが? マイ様」

 木陰で寝ころびながら話しているリリィは、タヅサとマイの2人。どちらもレギオンに属さない一匹狼のリリィだった。

「何だよー。オマエ、リリんとこのレギオンに入りたいんじゃないのか?」

 マイの言葉に、タヅサはぷいと顔を背けた。

「別に……そういうのじゃないです」

 分かりやすい奴だなぁとマイは笑った。しかしその反応も気に入らないのか、タヅサは抗議の声を上げた。

「一柳とはただのクラスメイトです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「それにしては、戦場でいつも助けてるだろ?」

「それはアイツが新人で危なっかしいからです」

 それを聞いて、マイは静かに微笑んだ。

 タヅサは気付いていないが、この発言自体がタヅサの変化を表している。危なっかしい新人を助けるなど、以前のタヅサなら口にしたりしなかった。

「オマエ、リリと話して笑ってたぞ。最近は殺気も収まってる。猫たちと仲良くなってきた。なら、次のステップに進んでいいんじゃないか?」

 タヅサは体を起こした。顔に異議ありと書いてある。

「どうして猫と仲良くなったら次は人間なんですか。そもそも私は一人で居たくて居るんです。馴れ合いなんて、戦場では邪魔なだけです」

 マイは何も言わず、ただ愉快そうに笑った。マイに言わせれば、その発言は物言いだった。ここで出会って2か月……いや、初めて会った時から直感していた。タヅサは寂しがり屋だ。

 あり得ないのだ、一人で居たいだなんて。

 そして何より、クールな一匹狼は顔に出やすいのだった。

「笑わないでください……! それに、私がレギオンに入ったらマイ様はお一人じゃないですか」

 何と、自分のことを気に病んでいただけるとは思わなかった。

「そうです、マイ様こそどうしてレギオンに入らないのですか。マイ様ほどの使い手なら、引く手数多でしょうに」

 タヅサの追及に、「いんや、それが全然誘われてないんだな」とマイ。

 マイは初代アールヴヘイムでジョーカー(切り札)的な存在だった。縮地(高速移動)による倍速行動は単純に強力で、素の戦闘能力の高さも相まって、手合わせでマイに勝てるリリィなど一握りもいない。加えてノインヴェルト戦術にも明るい。デュエルもノインヴェルトもできる、現代のレギオンの在り方に非常にマッチした人材なのだ。

 ただ、あまりに有能な人材なので、各レギオン同士が牽制しあっていた。こうなると、どこかに所属されるよりはフリーとして、それこそ切り札的に使いたいというレギオンが多数なのだった。

「意外ですね。アールヴヘイムに誘われたりしないのですか?」

「いや、アイツらと組むのはもう十分だよ。人使いが荒いんだ」

 マイは冗談めかしてため息を吐いた。

 ……実を言うと、初代アールヴヘイムのメンバーとは物別れに終わっている。表立って対立はしないが、今更組もうとは思えないというのが本音だったりする。

「ま。精々、私はフリーのサブとしてやっていくさ」

 マイの言葉に、「それじゃあ私もフリーのサブとしてやっていきます」とタヅサ。

「バカ。マイはこれでも一流レギオンで鳴らしてたんだぞ? そういうのはレギオンで経験を積んでからするもんだ」

「私だってそれなりに場数を踏んでいます。マイ様にだって遅れはとりません」

 タヅサはそう宣言すると、立ち上がり、マイに向かってチャームを構えた。マイは、少し困った顔で上半身だけ起き上がった。

 ファンタズム(未来視)使いの強化リリィ。タヅサは単純な手合わせで考えると、ほとんど無敵だった。未来が見えるのだから、まず負けようがない。縮地使いが手合わせにおいて反則級なら、ファンタズム使いはその有り様が反則級だった。

「何だ? 私に勝ったらフリーでやらせろってことか?」

「そうです。勝ってマイ様に付いていきます」

 マイは半分冗談だったが、タヅサは真顔だった。オイオイ、そんな漫画みたいな……。

 ただ、タヅサとしてはマイと手合わせをしてみたかったというのもある。今まで頼んだことはあるが、それとなく断られていたのだ。

「それじゃ私が勝ったらレギオンに入るって約束してくれるか?」

「どうしてアイツのレギオンに……!」

「『アイツの』だなんて一言も言ってないだろー」

 タヅサは顔を赤くした。全く、素直になればいいのになー、とマイ。

「何でもいいですよ。どうせ負けませんから」

「言ったな? それじゃスタートだ。スキル有りの何でもありで行くぞ」

 ……と言うものの、マイは呑気に座っていた。チャームすら手に取っていない。そのまま1秒、2秒……。

 タヅサは困惑し、構えが緩んだ。

「あの」

 一瞬だった。(まばた)きをして目を開けたら、首元にチャームが突きつけられていた。

 目を閉じた隙を見計らい、チャームを手に取り立ち上がり近寄りチャームを突きつける。ここまで一瞬。文字通り瞬きする間の、縮地による超高速移動だった。

「はいマイの勝ち」

 マイはチャームを引き離すと、興味を失ったように寝転がった。

「あ! 先輩、ズルいですよ」

「戦場にズルいもクソもあるか。こーゆーのは勝ったもん勝ちなんだ」

「もう一回お願いします」

「やだよ。オマエ、もう絶対油断しないだろ? マイは本気のファンタズムとやり合うほど酔狂じゃないんだ」

 マイは身内(初代アールヴヘイム)にファンタズム使いが2人もいたので知っている。本気の彼女らは化物である。ファンタズムが負けるなど『例外』だけだった。

「それに、手合わせでもリリィ同士でガチでやり合うのは反対だ。この力はヒュージと戦うためのもんだろ?」

「それじゃあ指導をお願いしますよ、マイ先輩」

「だから、ファンタズム相手に手加減できるわけないだろ! ……ま、お互いレアスキルなしだったらやってもいいぞ」

 タヅサは憮然とした。

「それじゃあそれでお願いします」

 いや、やるのかよ……。

 仕方なく、伸びを一つしてチャームを手に取った。何となく知ってはいたが、タヅサは負けず嫌いなのだった。

 

-5-

 

「うぐぐ……ダメじゃああ!!」

 両手の工具を適当に放り投げ、頭を抱える。そのまま、ミリアムは背もたれにしなだれかかった。

 チャームの調整。トライ&エラー、スクラップ&ビルド。分かってはいるが、思い通りの成果が出ないとフラストレーションが溜まってしまう。

 しかし、こういう時はムキになっても仕方ない。休憩だ。頭と体を休めれば良い考えが浮かぶこともある。

 もゆ様とお茶でもするかの……。

 そう思い時計を確認すると、長針は3と4の間を差していた。仮眠にもおやつにも悪くない時間だった。

――待てよ、本当に昼の3時だったかの……?――

 ふと不安になり、記憶を手繰る。確か、徹夜をしたのは一昨日で……昨日はそれがたたって日付が変わった頃に寝てしもうたから……そうだ、今日は普通に起きて普通に作業をした。

 日中だ。念のため手元のデジタル時計で確認すると、15:48だった。

――わしは何をやっとるんじゃ……――

 一連の間抜けさに苦笑してしまった。全く、もゆ様でもあるまいに……。

「な~にニヤけてるの?」

 ビクッとして振り返る。

「も、もゆ様ぁ!?」

 まるで心の読んだようなタイミングで、隣室の先輩アーセナル(工廠科生)、真島百由(もゆ)が現れた。

「あっ! その驚きよう! さては"例のブツ"だな?! へっへっへ、嬢ちゃん、一つ譲ってくれよ……ハードでボイルドな男は、ママのミルクがないと眠れないのさ……」

 この先輩は何を言うておるのじゃ……。

 読心装置でも発明したかと焦ったが、考えてみればこの人が神出鬼没なのはいつものことだった。

「もゆ様はいつも全開じゃの……」

「だって朝だもの! 一日の計は早朝にあり! フルスロットルで崖に突っ込むのが真島家の教えなのだよ、グロピウス君」

「ホントに何を言うておるのじゃ……?」

 手元のデジタル時計を指差す。なぬ!? この灰色の脳細胞が私を裏切ったというのか……! とか何とか叫んでいた。

 ツッコミたかったが、自分も勘違いしていた手前、自重しておいた。

「……というかぐろっぴ。そんなに真剣にどうしたのよ。さっきからここに居たのに、集中してて全然気付かないし」

 そう言って、もゆは少しだけ真面目な顔をした。いつもふざけているような人だが、面倒見の良い一面もある。

 実を言うと、ミリアムが躍起になってチャームの調整を始めたのには訳がある。少し悩んだが、ミリアムは思い切って相談することにした。

「実は……自分の実力不足を感じての。レギオンももうすぐ発足しそうな雰囲気じゃから、それまでにチャームで何とかならぬものかと弄っておったのじゃ」

「実力不足って……ミリアムってそんなに実技(わる)かったっけ? そりゃ弥宙(ミソラ)さんみたいなバリッバリな感じじゃないけど」

 ちなみに弥宙とは、2代目アールヴヘイム所属の金箱弥宙だ。工廠科でありながらリリィとしての戦闘力も一流な『戦うアーセナル』の代表格である。戦闘に力を入れる新しいタイプのアーセナルで、戦えるアーセナルと言うより『リリィだけどチャームも弄れる』と言った方が良いくらいだったりする。

「いや、彼奴(あやつ)程とは言わんが……せめて、新人共に示しが付く程度には動けるようになりたくての」

 ほうほう? と、もゆは楽しそうに笑った。新人とは、言うまでもなくリリとフミのことだ。

「いいじゃない! ぐろっぴも青春してるわねぇ」

「何がいいものか。こっちは大真面目じゃぞ!」

「いいじゃないの! だってアナタ、これまで悩みと言えば、チャームと研究のことばかりだったじゃない。それが自分の実力のことを気にするなんて、これも一つの成長だと私は思うわよ?」

 そう言われ、ミリアムはぐっと詰まった。的確な上、客観的に評されると単純に気恥ずかしい。

「それは……その、わ、わしにも向上心があるということじゃ!」

「でも、ぐろっぴはアーセナルでしょ? チャームの整備や装備の開発とか、技術的な面で貢献してもいいんじゃない?」

 ミリアムは、悩むように唸り声をあげた。

「そういう方法も否定せんが……それだとサブメンバーのようじゃろ? 人数に余裕が生まれたらお役目御免というのはどうも嫌でな……」

 ……と口にしつつ。はて、自分はこれほどリリィであることに拘る人間だっただろうかと訝しんだ。

 4月までは、自分が戦場に出ることをあまり快く思っていなかった。レアスキルに覚醒したものの、自分はあくまでアーセナルである。戦う時間があるならチャームの研究でもしていたいと、そう思っていた。

 それが気付けば、『サブメンバーは嫌だ』などと口にしている。

「……まぁ、わしも心境の変化は認めるが……それ故にじゃ! このまま足手まといになるのは御免じゃからの。もゆ様にアドバイスを貰えればありがたいのじゃが……」

 ミリアムは伺うようにもゆを見上げた。

 もゆは何でも屋のアーセナルであるが、同時にリリィとしてもかなりの実力を持っている。もちろんレアスキルにも覚醒しており、進学時には学院側から普通科を勧められた程だ。ミリアムも口にはしないが、研究者としても、戦うアーセナルとしても、尊敬の念を持っていた。

 そしてそんなもゆから見ると、ミリアムは色々と『甘い』ようだった。

「まぁ、ぐろっぴは大味なのよねぇ。戦ってるところを見てても、戦略的っていうより目の前で精一杯って感じ。チャーム云々の小手先じゃなくて、もっと根本的なところを指導してあげようか?」

 もゆの提案に、ミリアムは表情を曇らせた。

「もゆ様、申し出はありがたいが……わしはアーセナルじゃ。リリィであると同時に研究者でもありたいと思うておる。妙なことを言っておるとは分かっておるのじゃが……何とか装備やチャームの調整で……アーセナルとして、リリィとしての不足を補えぬものかの」

 一見、傲慢にも思える発言だが、もゆにはその気持ちがよく分かった。

 かつて、『工廠科はリリィになれない人間の受け皿』だとアーセナルを見下すような風潮が全国のガーデンにはあった。もゆはそれにウンザリして普通科への進学を蹴ったのだ。

 アーセナルとしてのプライドは、簡単に売り渡して良いものではない。アーセナルは、アーセナルらしく強くなればいい。

「それじゃこうしましょう? アーセナルの知識を生かして、貴方の動きを研究するの」

 そういうと、どこに仕舞っていたのか、懐からヘッドギアのようなものを取り出した。

「それは……?」

「心拍数、呼吸、発汗、視線、マギや身体の動きまで、逐一記録してくれる装置よ。こうした記録を動きの改善に生かすのは、技術屋の真骨頂だと思わない?」

 ミリアムはぽかんと話を聞いていた。しかし話を理解するにつれ、徐々に熱いものが胸を上ってきた。

 アーセナルとしてリリィの強さを研究する。アーセナルとして自分自身の戦闘力を分析する。チャーム研究に負けず劣らず、大変興味深い。

「おお! 自分自身を研究とは……! 流石もゆ様、わしでは思いつかなかったぞ!」

「決まりね。早速、実験よ実験! アーセナルらしく、自分の動きを研究! 分析! 改善! PDCAだかPTSDだか知らないけど、全部ぐるぐる回しちゃえばいいのよ!」

 そして無邪気に喜ぶミリアムを見ながら。

 ふっふっふ、かかったわね……! もゆはニヤリと笑った。

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