アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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第4-12話 リリィ日和3

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 木々の切れ間から光が差し込み、世界を美しく彩る。

 百合ヶ丘の学院には緑が多い。少し歩くだけで、まるで人里離れた山奥に来たような解放感に包まれる。

 リリは木々に囲まれ、しかしお姉さまを探す気にも、フミのところに戻る気にもなれず、当てもなく彷徨っていた。

 ……あったかい。こうしていると、何もない平和な一日なのになぁ……。

 モヤモヤした気持ちを抱えながら、目的もなく歩く。太陽に当たって、自然の中を歩いたら少しはスッキリするんじゃないかと思った。そんなことはなかった。いつまでも頭の中がごちゃごちゃする。ゆっくり考えたい、でも、足を止めたら堪え切れず泣き出してしまうんじゃないか……。そんな訳の分からない観念に囚われ、止まることもできない。

 これからどうしよう……。俯きながらなおも歩いていると。

 急に視界が暗くなった。

「え? あれ?」

 頭の上から、何かが降ってきた。葉っぱ? にしてはちょっと大きいような?

 ……帽子?

 手に取って見ると、それは水兵帽に似た白いベレー帽だった。

「ちょっとそこの御方! その帽子をお返しくださいませ!」

 どこからともなく聞こえた声に、リリは周囲を見まわした。しかし声はすれど姿は見えず。

「どこをご覧になっているんですの! ここです! 上!」

「上……?」

 言われた通り、ぼーっと上を見上げる。するとそこには、木の幹にしがみつく(推定)お嬢様リリィがいた。

 ……いや、本当にお嬢様リリィだろうか。田舎者を自覚しているリリでも、木登りを趣味にはしていない。

「えっと、精が出ますね(?)」

「何を寝ぼけたことをおっしゃっているのです!」

 怒られてしまった。

「貴方は帽子泥棒なのですか? そうでなければ、それを早くお返しくださいまし!」

「は、はい!」

 ようやく、自分が落ちてきた帽子を持ったままであることに気付く。が。

「あ、ごめんなさい、帽子を……えっと、どうお返しすれば……?」

 彼女は地上4~5メートルとなかなか良い具合に(のぼ)っており、この高さまで、正確に帽子を投げ渡せる自信はリリにはなかった。

 そもそも、どうしてそんなところにいるのだろうか。降りられなくなった子猫を……あるいは地面に落ちた小鳥を……といったベタなシチュエーションだろうか。しかし辺りをキョロキョロ見渡すも、それらしき動物は見当たらない。

 ……まさか、『何となく懐かしくなって木登りをしたものの、チャームを忘れて降りれなくなった』といった間抜けな事情では決してないだろう。

 リリが困惑していると、

「貴方! そこのチャームをお投げなさい!」

 と木登りリリィ。

 チャーム? 木の根元まで目線を下げると……確かに一振りのチャームが地面に刺されている。

 手に持って見ると、どういった調整なのか、リリのチャームより一際重く感じた。なるほど、これを抱えたままでは木登りはしづらい。

「全く。のんびりした御方ですわね。早くそれをお投げなさい!」

「え? でも危なく……」「いいからお投げなさい!!」

 声にせかされ、慌ててチャームを投げる。「あ!」しかし、思いのほか力を込めすぎ、チャームは回転しながら勢い良く飛んでいった。

 チャームは金属の塊であり、マギを通さなくても凶器になり得る。リリは慌てて叫ぶ。

「避けてください!」

 しかし、そのリリィは木の幹を蹴って飛ぶと、驚くほど軽やかにチャームを受け止めた。そのまま、空中で1回転して地面に着地する。

 リリはぽかんとしてその様子を見つめていた。

 鮮やかな身体捌き。間違いなく、超一流のリリィの動きだった。

「ぼんやりした方かと思いましたが、なかなか情熱的なのですね?」

 暴投を揶揄する言葉に、リリは赤くなった。

「ご、ごめんなさい……」

 しかし彼女は気にした様子もなく、「受け止めていただきありがとうございます」と手を差し出した。

 リリも慌てて右手を伸ばす。そして、力強く握手を交わした。

「……ってなんで握手ですの!? 帽子! 帽子ですわ!」

「あ! そうですよね、あはは……」

 今度こそ帽子を差し出すと、少し怒った風に、しかし上品にそれを受け取った。

 力強い瞳。自信に溢れた雰囲気。そして華麗な立ち振る舞い……。見るものを魅了してしまう、華のあるリリィだった。

「えっと、あの、お名前を聞かせていただいても……?」

 リリの尊敬を含んだ眼差しに、しかしそのリリィは声を張り上げた。

(わたくし)をご存じない!? ローエングリン主将! 百合ヶ丘女学院きってのエースリリィ! 立原紗癒(サユ)とは私のことですわ!!」

「サユ……様ですか?」

「同級生ですわ!? ちょっと! 何度も顔を合わせているでしょう!」

 両手を振り上げ遺憾の意を表明するサユ。一方、頬をかきながら「そ、そうでしたっけ?」とリリ。

 一応、入学式やリリィ新聞を見に行った際などちょいちょい顔を合わせてはいる。ただ、クラスが違い授業で一緒になったこともなく、あまりピンと来ないのだった。

 今一つ反応が鈍いリリに、自称エースリリィはご立腹だった。

「覚えておきなさい! 私たちのレギオンは世界最強ですわ! 何を隠そう、主将の私はスキラー数値98を誇る超! 天才! つまりは私が世界で一番のリリィという証明なのですわ!!」

 サユは腕を組み、胸を反らせて言い放った。よくもまぁ大言(たいげん)を吐けるものである。一周回って、リリは感心してしまった。

 ……とはいえ、スキラー数値98は事実上の上限であり、現役・歴代含めた最高値である。先程の動きを見ても、世界一とはあながちバカにできない言葉ではある……のだが。

 リリは、何となく、薬師芽様(?)と楓さんを足して二で割ったみたいな人だなぁと思った。自信過剰というか、話を聞かないというか……。

「あ、でも1年生で主将ってことは、新しく作ったレギオンなの? もしかしてお姉さまの為……あっ」

 リリは慌てて口を閉じた。百合ヶ丘のリリィは複雑な経緯を持つ者が多い。お姉さまのことを、安易に聞いて良いのだろうか……?

 しかし、サユは顔をほころばせた。

「よく分かりましたわね! ローエングリンは私のお姉さま、千華(チハナ)様の為に作り上げた完璧で完全無欠のレギオンなのですわ!」

 サユは嬉しそうに微笑んだ。

 リリが気に病んだのが間抜けに思えるくらい、呑気だった。

 何だか色々悩んでいたことがバカバカしく思えて、リリは急に力が抜けてきた。そして姿勢を整えようとして……足腰に力が入らずへたれ込んでしまった。

「あ、あれ?」

 あまりにスッと座り込むので、サユは驚いた。しかし、それ以上にリリが驚いた。

「え! あれ? あの、私! だ、大丈夫です!」

「そんな訳ありませんでしょう! 怪我ですか? それとも体調不良です?」

――体調不良――

 リリは、気分が悪くなり、サユの質問に答えず俯いた。

 サユは困って、悩むように帽子を被り直した。

 それから、サユはリリの横に腰を下ろした。

「あの、スカートが汚れちゃいますよ……?」

「大丈夫ですわ。百合ヶ丘の制服は黒色ですから、多少の汚れは目立ちませんもの」

 ……そういう問題だろうか。でも、サユさんらしいなぁと、リリは思った。

 リリは何も言わなかった。サユも何も言わなかった。そのまま、しばらく何も言わずに2人で座り込んでいた。

「私、友達がいるんです」

 リリは唐突に口を開いた。

「私とおんなじくらいの身長で、おんなじくらいの初心者で、同じスキラー数値で、同じ補欠合格で、同じクラスで、同じレギオンで、同じ授業を受けて、同じ訓練をして、同じように頑張ってきて。……それなのに、いつの間にか私の知らないことを知っていて、いつの間にか私よりどんどん先に行ってて……」

 一度話し始めると、言葉は止まらなかった。スカートの裾を握りしめ、言葉を、思いを絞り出す。

「私、フミちゃんに嫉妬しちゃってるんです……。仲間なんだから、成長してるのを見て、おめでとうって言わなくちゃいけないのに……フミちゃんがどんどん先に行っちゃうみたいで……嬉しいって思えないんです。……あはは、ダメですよね。こんなんじゃ、お姉さまのシルト失格です……」

 リリは両膝を前に出し、両手で抱えた。三角座り。何となく、この姿勢は落ち着く気がする。不安になると、いつもこの姿勢になる。

「私、悩んでるんです。悩まないって決めたんですけど、やっぱりお姉さまに相応しいリリィになれるか……みんなに追いついて一緒に戦っていけるか……。サユさん。どうしたら、サユさんみたいな凄いリリィになれますか? いつも自信を持っていられますか?」

 サユは、スカートを払いながら立ち上がった。

「私は天才ですわ。しかもただの天才ではございません。超! 天才ですわ! ……ですから、リリさんに満足のいく答えができるかは分かりません」

 その才能ゆえ、自身を誰かと比べたりしない。その才能ゆえ、劣等感を覚えたことなどない。やればできてしまう天才。

「私、初等科では敵無しでしたわ。私を慕うリリィはたくさんおりました。私のことを褒めてくれる人間も同じくらいたくさん。……それゆえに、あの頃の私は天狗になっておりました」

 リリは何と返していいか分からず、俯いたまま静かに話を聞いていた。サユは、そんなリリの正面に立ちはだかる。そして問いかける。

「リリさん。並び立つライバルがいることって、そんなに悪いことでしょうか?」

「ライバル……?」

 リリは、顔を上げた。

「私、同級生に競い合う相手がおりませんでしたの。中等部・高等部に進んでようやく並び立つライバルに恵まれました。今思えば、初等科の私はリリィとして停滞していたのです。強くなるにはライバルが必要なのですわ!」

 サユは力強くチャームを掲げた。

「競い合う相手がいる、負けて悔しい相手がいる。結構ではございませんか! それに、そのお相手さんもリリさんに内緒で特訓なさっているご様子。リリさんに負けたくないのですわ。さぁリリさん! 貴方もこんなところでへたり込んでいる場合ではございませんわ! お立ちなさい、そして構えなさい!」

「は、はい!」

 ライバル……そうだったんだ、フミちゃんはライバルだったんだ。負けて悔しくなったり、だから負けないように頑張ったりする相手。友達だけど、仲間だけど、戦う相手。ライバル!

 サユの自信に溢れた言葉は、聞いているだけで心が温かくなる。気付けば、リリは立ち上がり、構えていた。

 そして構えてから、思った。あれ、何で構えるんだろう……? 見れば、サユもチャームを構えている。

「あの、お話ありがとうございます、その、私、元気に……」「落ち込んだ時は身体を動かすべきですわ!」

 そして無造作にチャームを振り上げ、「ええ!?」リリに向けて振り下ろした。

 咄嗟にガードするも、勢いよく吹っ飛ばされる。

 元々、反動を活かして飛び退くつもりだった。しかしそうするまでもなく、あまりの力に強引に飛ばされてしまった。

(な、なんでこんなことに……?)

 体勢を整えつつ、どうするべきか悩んでいると。

――右上!――

 気配を感じ、チャームを向ける。その瞬間、銃声が響いた。際どいタイミングだが、リリはそれを何とか捌く。

 リリは冷や汗をかいた。これ、実弾だ……! 気付くのが遅れていたら、直撃していたかもしれない。

 ……けど、撃ったのはサユさんじゃない……誰が……?

 リリは、サユと射撃のあった方向、その両方に警戒する。すると、木の上、その枝葉に隠れていたリリィがひょっこり姿を現した。

「迷子のお姫様を探してたら、面白いことになってるじゃない?」

 ツインテールの勝ち気なリリィ。サユのレギオンメンバー、妹島広夢(ひろむ)だ。やはりリリは覚えていないが、何度かすれ違っている。

「迷子ではございませんわ。ちょっと散歩をしてただけです」とサユ。

「いっつもそう言うんだから……。でも、戦いだったら私も混ぜさせてもらうわよ」とひろむ。

広夢(ひろむ)さん……いきなり撃っては危ないですからね?」とゆきよ。

「え~? でも防御してたし、大丈夫だったじゃない」とひろむ。

 リリは驚いた。もう一人居る。いつの間にか、会話に混ざっている。

 長髪で優し気なリリィ。同じくサユのレギオンメンバー、倉又雪陽(ゆきよ)。しかし警戒していた筈が、一体いつの間にそこに居たのか全く分からない。

雪陽(ゆきよ)さん。あれはリリさん、悩み多き若人ですわ。しかし多少の悩みなど、汗と共に流してしまえばよろしいのですわ!」

 サユは無茶苦茶なことを言っていた。

「はいはい。止めても無駄でしょうから……私も戦わせていただきましょう。どうぞお手山らかに、リリさん?」「は、はぁ……」

 ただ、物腰は丁寧ながらも、見るからに只者ではない。

 リリは、どこに視線を向けるべきか迷った。

 類まれな身体捌きと、軽く振るっただけでリリを吹き飛ばす力を持つサユ。容赦なく実弾を撃ちこみ、明らかに戦い慣れしている様子のひろむ。警戒していたリリの意識外から現れ、全く動きの読めない雪陽(ゆきよ)

 一人一人が一騎当千。それが三人もいる。三人が自分を狙っている。

 ……と言いますか……。……え? 3対1ですか……?

 

 

「もゆ様ああ!! ヒュージロイドとの戦闘なぞ聞いとらんぞ!!」

 ミリアムは叫びながら攻撃を避けた。相手はヒュージの姿を模した戦闘訓練ロボ、ヒュージロイドだ。

 しかもこのヒュージロイド、異様に強い。大きさはミドル級相当だが、チャームが震える程攻撃が重い。ミリアムにとって、1対1のデュエルで戦うにはやや荷が重かった。

『ぐろっぴ! 避けてばかりじゃ駄目よ! ちゃんと受けて! そしてデータにするの!』

「馬鹿者! こんな攻撃何度も受けられるか!!」

 というかデータってわしのデータか? それともヒュージロイドのデータか……?

『頑張れぐろっぴ! ガッツ!』

 そう言ってもゆはマイクを切った。

「あ! 他人事だと思ってからに……!」

 しかし、ボヤいている暇はない。嵌められた……! 都合の良い実験相手にさせられた!!

 そんな後悔は後にして、目の前の戦いに集中しなくてはならない。

 ……そんなミリアムの姿と、出力されたデータを確認しながら、もゆはこっそり呟いた。

「頑張るんだぞぐろっぴ。ちょっぴり強い相手との戦いが、リリィを成長させるんだぜ?」

 

 

-7-

 

 リリは迷った。誰から狙えばいい……?

 サユはダメだ。打ち合いに持ち込まれたら技術云々以前に捻じ伏せられる。ひろむは……。

 などと考えている間に、3人は同時に動いた。サユは真っ直ぐ、ひろむはリリの右手側に、雪陽(ゆきよ)は左手側に走る。

 サユさんの攻撃は受けられない……! 慌てて後方に下がろうとして、銃声に身を縮めた。リリの動きを読んでいたように、退路を断つようにひろむの銃撃が加えられた。

 しかし、それでも後方に下がるべきだった。サユは、目前に迫っている。受けられない。避けるしかない……!

 サユが振るうチャームを、右に左に(かわ)す。同時に、ひろむの位置を確認する。常にサユが盾になるよう避ける方向を調整する。サユと射線を重ねていれば、銃撃は飛んでこない。……逆に言えば、一瞬でも位置取りを間違えれば、容赦なく狙撃される。

 雪陽(ゆきよ)さんは?

 ハッと気付く。サユとひろむだけに注意を向けすぎた。雪陽(ゆきよ)を見失った。そこに、銃声が響く。

雪陽(ゆきよ)さん!? じゃなくて、あれ……?)

 リリには当たっていない、それどころか辺りに着弾していない。何が起こったか分からず、動きが止まってしまう。

 硬直するリリの目に、辛うじて、ひろむがチャームを空に向けているのが見えた。威嚇射撃……?

 陽動だ。そう気付く間もなく、死角から雪陽(ゆきよ)の銃弾が届く。銃声と共にリリのチャームは跳ね上げられ、良い位置に上がったそれを、サユが思いっ切り叩き飛ばした。

 チャームに引っ張られ、身体も大きく飛ばされる。しかし、リリはチャームだけは決して手放さなかった。

 ……まだ諦めない……だって、まだ、終わってない!

 しかし間髪を入れず、嫌な予感を覚える。慌てて体勢を整えると、轟音と共に銃撃が飛んでくる。ひろむの狙撃だ。

 次々と飛んでくる弾は、正確にリリを狙っていた。咄嗟にそれを受け流す。地上と同じだ、角度を付けてチャームで受ける。4発、5発、6発……全て受け流す。

 そして着地してすぐ、横に飛び退いた。木の幹に隠れる。射線が切れる。銃撃がやんだ。

 リリはため息を吐いた。……いや、休んでいる場合ではない。考えなくては。

 ……恐らく、ひろむさんは射撃系のスキル。空中で移動中のリリをここまで正確に狙えるのは……――ユージアさんと同じ――天の秤目?

 遠く離れた対象を、寸分の誤差なく把握するスキル。リリには、それくらいしか考えられない。

 もしそうであるなら、射撃は上手くとも、近接戦ならまだ分からない。ユージアのようにどちらもこなしてしまう可能性もあるが……それでも射撃の相手をするよりは、ずっと良い筈だ。

 何とかして、ひろむに近付いて一太刀入れる。作戦というほどの作戦ではないが、リリは方針を決めた。

 大きく息を吸い、呼吸を整える。相手は、リリの出方を待っていてはくれない。先手で動かないと、何もできない。それは、立ち合いでも戦場でも同じだ。

 大きく息を吐き、覚悟を決める。そして、上に跳んだ。木の上は枝や幹など遮蔽物が多い。木の上を移動し、射撃を凌ぎながら攻める。

 ひろむはリリに照準を合わせた。

 銃声が響く、しかしリリには当たらない。遮蔽物、特に複雑に揺れ動く木々の間を縫って当てるのは、ひろむは苦手だった。

「ダメだこりゃ」

 ひろむは狙撃を諦めた。

「どうする? 距離を取ってもいいけど」とひろむ。

「流石に消極的過ぎますわ。最初と同じく、私が突っ込んでお二人がサポートする形で参りましょう」とサユ。

「それでは、地上に落としておきますね」

 雪陽(ゆきよ)は、そう言って照準を合わせた。リリではない、そこから少しずれた、誰もいない木の枝。銃声が響くと同時、リリが跳んだ。(え!?)着地するはずだった枝が銃撃で吹き飛ばされる。

 リリは慌てて体勢を変え、木の幹を蹴った。その一瞬後、足元に銃弾が届く。ひろむだ。これでは上に戻れない。木々を蹴りながら、地上に突進する。

 そして木から木へと飛び移る僅かな間に、リリは3人の位置関係を確認した。少し手前にサユ、奥の左右にひろむ、雪陽(ゆきよ)

 ルートを決める。幹を蹴って加速する。サユ・ひろむが一直線に並ぶよう着地し、その勢いのままサユに突撃する。

 射撃はない。注意したが、雪陽(ゆきよ)は射撃を加えなかった。ひろむもサユ越しに射撃はしなかった。

 リリは飛ぶようにサユに向かう。サユは、リリを迎え撃つようにチャームを振るう。リリは避けない、防御もしない。足元にマギを込めて、更に前に加速した。

(なっ、甘すぎましたわ……!)

 肉薄されてしまった。この距離ではリリもチャームを振えない、しかし勢いよく身体を当てられれば体勢を崩されかねない。

 一瞬で判断し、サユは、マギを使って両足を踏ん張る。衝撃に備え身体に力を込める。

 そのサユの目の前から、リリが消えた。

 ……外から見ていた雪陽(ゆきよ)には、何が起きたか見えていた。リリは身体を回転させ、サユの脇を抜けた。

(まるでアメフトの選手みたいですね)

 雪陽(ゆきよ)は撃つこともできたが、止めておいた。その必要はないからだ。

 リリは、サユの後ろ、ひろむに向け飛び込んでいく。限界まで加速した勢いそのまま、ひろむに突っ込む。

 ひろむに近付いて一太刀入れる。作戦通り……と言うにはあまりにも危うかったが。それでも、狙い通り……いや、狙い以上だった。この勢いで全力で叩いて、隙ができない筈がない。

 ひろむは、チャームを斬撃モードに切り替えた。撃つとサユに当たる危険があるから、というだけではない。

 リリは、勢いを活かして、叩きつけるようにチャームを振るった。それをひろむは敢えて受けた。

 チャーム同士がぶち当たり、甲高い金属音が響く。

 リリは驚愕した。振り抜けない。チャームが止められている……? チャームと腕に力を込める、しかし動かない。岩壁でも殴っているように腕が重い。

 ひろむはその場から一歩も動かない。遂には、限界まで加速していたリリの身体まで、強制的に止められてしまった。

 愕然とするリリの前で、ひろむの顔に好戦的な笑みが浮かぶのが見えた。

「ふーん? 私に接近戦を挑むなんて、アナタ、命知らずなのね?」

 頭が働かない。もし回避されたら反転攻勢、防御されたら体勢を崩させて連撃のつもりだった。完全に受け止められるのは予想すらしていない。

 ……リリは大きく見誤っていた。ひろむは射撃タイプのリリィではない。ローエングリンのAZ(前衛)。ガチガチのインファイターだった。

 ひろむのチャームが振り抜かれ、リリは後ろに飛ばされる。体勢を整える暇もなく、ひろむが追撃に来る。咄嗟に、チャームを振るう。攻撃を合わせて、反動で距離を取れば……!

 しかし、それを見てひろむは加速した。

 リリは驚いた。先のリリのように、振り切る前に加速したのではない。振り切ったチャームめがけて加速した。当たる! チャームの軌道は変えられない!

 リリは何とか腕を捻ろうとして……振り切った後では動かなくて……。しかし、結果的にそれは不要だった。ひろむはわずかに頭を屈め、ごく自然にチャームを回避した。

(ええ!?)

 リリは再び驚いた。あのタイミングって避けられるの……!? というか、ちょっと(かす)ってて……?

 しかし驚いている場合ではなかった。攻撃後の無防備なリリに、ひろむは狙いを定めた。そしてその動きは、フィニッシュではない。

 スローモーションのように、ひろむの鋭い斬撃が、その軌道がはっきり見えた。狙いは急所ではなく、腹部。……腹部?

 頭の中で、危険信号が鳴り響く。チャームは振り切って動かない。身体は宙を浮いていて回避はできない。

 このままだとばっさり斬られ……? え……? 当たったら……死……。

 『敢えて受けて流して』……『防御と回避は同時にはできない』……『攻撃後だけは無防備』……。様々なフレーズが頭に浮かぶも、今は何の役にも立たない。

 え……? どうして……チャーム……間に合わない!

 頭を切り替える。

 マギを集中! 腹部を防御、マギを一点に集めれば、致命傷にはきっとならない……!

 歯を食いしばる、衝撃の瞬間に備える。そして……辺りに金属音が響いた。

 ひろむは、口をへの字に曲げた。

「……何よ、邪魔しなくてもいいじゃない」

「勝負ありでしょう? だったら、無暗に仲間を傷付けたくありませんわ」

「もう。ひろむさんはやりすぎるんですから」

 サユと雪陽(ゆきよ)だった。リリを庇うように、二人のチャームがひろむの斬撃を防いでいた。リリは安心して、へたれ込んでしまった。

 一方、ひろむは不満げだった。

「まだ分からなかったじゃない。ほら、みねうちにしてたわよ?」

 見ると、確かに向けられているのは刃側ではない。考えてみれば、手合わせで刃側を向ける訳がない。リリはそれに気付かず、ちょっと恥ずかしかった。

 ……いやいや、チャームは金属の塊でもある。思いっ切り殴られるだけでかなりのダメージがある。普通は無防備な身体に振り下ろしたりしない。

「女の子の身体ですよ? みねうちでも、意図的に打ち込むのは如何なものかと思います」

 雪陽(ゆきよ)はため息を吐いた。

「ひろむさんは、デュエルになると目の色が変わるのが玉に瑕です」

 ひろむはデュエル復古主義者で、手合わせに対する姿勢が他のリリィよりシビアだった。フィニッシュを決められる場面でも、手荒い攻撃を加えることがある。実戦で痛い目を見るくらいなら、手合わせで怪我をするくらい何でもないと思っているからだ。

「何にしても、新人相手にやりすぎはいけませんわ」とサユ。

「えー? でも防御は結構上手かったし、攻撃も悪くなかったわよ。もう前線には出てる感じでしょ?」

「それでもです。そもそも、射撃モードはハンデだったのではありません?」

 別に言明した訳でないが、サユは大振りのみ、ひろむは射撃モードのみ、雪陽(ゆきよ)は有効打のみという縛りを設けていた。本気で決めようと思えば、(最後にひろむがやったように)1対1でも簡単に決めてしまえるからだ。それに、よしんば斬撃モードを使ったのは良いとして、回避&斬撃の必殺の動きはやり過ぎである。

 普通に考えてそうなのだが、ひろむは悪びれなかった。

「だって痛い目も見とかないと危ないじゃない? サユを盾にしたり、狙撃手を狙ったり、アイディアは悪くないのだけど所々甘いのよ。それに雪陽(ゆきよ)の存在を忘れすぎ」

「それはそうですが、だからと言って3対1の中でその動きは……」

 気付けば、リリ抜きでやいやいと言い合いを始めてしまった。

 それをぼーっと聞いていそうになったが、ずっとへたり込んでいる訳にはいかない。お礼の1つくらい言うべきだろうと、立ち上がり声を上げた。

「あ、あの! サユさん、ひろむさん? と、ゆきよさん? お手合わせありがとうございました。それと助けてもらって……」

「本当にそうよ!」

 ひろむは割り込んだ。

「アナタ、これが実戦だったら死んでたわよ!」

「は、はい。ごめんなさい……」

 リリは素直に頭を下げた。……どうでもいいが、これはデュエル年代が良く使っていたセリフだったりする。

「希望的観測で動きすぎなのよ! 攻撃が決まるだろう、敵は撃ってこないだろう……ま、それは経験不足って感じね。それは精進なさい。……それより私が気になったのは、『回避』よ! アナタ、全然なってないんだから」

 ひろむはそう言うと、良いことを思い付いたかのように、一転して笑みを浮かべた。

「そうね。折角だから私が手ずから指導してあげるわ。こんなこと滅多にないんだから、感謝しなさいよ」

 雪陽(ゆきよ)は、その満面の笑みにそこはかとない不安を覚えるのだった。

 

 

「まずは基本的な型が崩れがちね。むしろある程度経験があるからこそ崩れちゃってるんだけど、矯正する訓練をしましょう。それから回避がちょっぴり下手ね。別にすれすれで避ける必要ないけど、回避と攻撃をセットで意識した方がいいわ。受け流す時は攻撃を意識してるのに、回避の時は避けるのに意識を割きすぎよ。これも徐々に練習しましょう」

 ミリアムは文句を言いたかったが、開口一番ガッツリと正確な分析をされ、文句を言うタイミングを失った。

「そうじゃな……もゆ様の言う通りじゃ。型の矯正、それと回避じゃな」

 回避。見た目の軽やかさに反し、高等技術である。

 しかし、防御をある程度身に着けているなら、その練習を始めても悪くない。特に、もゆはその教師として適任だった。

「いい? 『回避』っていうのは最高の防御よ。貴方たちは受け流しの訓練をしてたみたいだけど、私に言わせれば! 攻撃なんて全部避けちゃえばいいのよ!』

 レアスキル、『この世の理』――周囲のベクトルを感知する能力――。

 使い方次第で狙撃手にも司令塔にもなれるが、最も単純な使い方は『回避』である。もゆは『この世の理』使いとして期待されていた実力者で、回避が抜群に上手い。

「いや、それはもゆ様だからできることじゃろ……」

「そんなことないわ。だってスキルとは関係なしに回避が上手いリリィだっているじゃない」

「そんなものかのう……」

「そうよ、デュエル年代とかね? スキルとか関係なしに、強いリリィは強かったのよ」

 ……確かに、デュエル年代の先輩はスキル云々ではなく全員がデュエルの達人だった。

「そうじゃな……。わしも、もゆ様のように華麗な回避を……」

「あっ、それは真似しなくて大丈夫よ」

 出鼻を挫かれ、ミリアムは不満の声を上げた。

「なんじゃ、せっかくその気になっとるのに……!」

「ごめんごめん、そういう意味じゃなくて……回避の上手い人って、2パターンいるのよ」

 もゆは頭をかいた。

「1つは、危機感が強い人間。攻撃に敏感に反応して、攻撃が当たらないように慎重に立ち回るリリィ。これがぐろっぴが目指すべき姿ね。……そして、もう1つは危機感が薄い人間。攻撃を避けることが当たり前って感じで全然怖がらないの。私は……というか『この世の理』使いは後者のケがあるから、あんまり真似してほしくないかなぁ……なんて」

 リリィの中には、回避に失敗して致命傷を負った者も多い。もちろん、『この世の理』使いと言えど例外ではない。

「一つ忠告しておくわ。回避って危険なものなの。だから、攻撃を避ける時は常に危機感を持っておくこと! 恐怖を持つのよ。慣れちゃダメ。攻撃を怖がること」

 

 

-8-

 

「怖がらないでいいのよ」

 ひろむは左手をひらひらと揺らしてリリに近付いた。

 『この世の理』使い、回避のスペシャリスト。ひろむはSSSレギオンのAZ(前衛)を務める程の使い手だ。

 ひろむが見たところ、リリは回避がなっていなかった。確かに、リリがサユの強力な攻撃を受けずに避けたのは悪くない。しかし、ひろむに言わせれば、その動作は大きすぎて無駄だった。

「……アナタ、まずは防御って教えられた口でしょ? 防御は上手いのに回避は下手なのよ。私が、本物の回避って奴を教えてあげるわ」

「はい! お願いします!」

 リリは2つ返事で了解した。

「良い返事ですわ!」とサユ。

 サユは何の疑問も不安もない顔をしているが、雪陽(ゆきよ)は微妙な顔をした。

 先程、ひろむはリリに怪我を負わせるところだった。また、やりすぎはしないだろうか。まぁ、そうならないように自分が見張るしかないのだが……。

雪陽(ゆきよ)、あっちから撃って。実弾ね」

 案の定、不穏なオーダーが飛んできた。

 ……実は、ひろむは実弾を使っていたが、雪陽(ゆきよ)は一貫して訓練弾を使っていた。なお、リリが雪陽(ゆきよ)を無視したのは、それに気付いて訓練弾なら撃たれても大丈夫と踏んでのことだった。

 しかし、これはハンデ云々ではない。必要がないなら味方に実弾など飛ばしたくないという『常識』だった。

 まぁ、ローエングリンでその常識が通用しないことは、嫌になるくらい分かっていたが。雪陽(ゆきよ)は諦めたように、実弾を2つだけ装填する

「ちゃんと避けてくださいよ?」

 適当に距離を取り、ひろむに向けて銃口を向けた。一方、ひろむはチャームを下ろし、のんびり立っている。

 リリは困惑した。

「あ、あの、ひろむさん……?」

「いいから黙ってなさい」

 立ち位置を微調整し、合図を送る。

 予備動作なく銃声が響いた。弾丸が放たれる。ひろむの頬を掠め、後ろの木を貫通した。

 リリは銃口、ひろむ、(みき)に空いた穴を見比べ、絶句した。際どすぎる。確かに、当たっても大した怪我はしないかもしれない。しかし、――訓練で何度も当たったことがあるから知っているが――当たると滅茶苦茶痛い。悶絶するくらい痛い。防御するつもりで気を張って、何とか我慢できるくらいだ。それなのに、実弾が通り抜ける前で無防備に構えるなんて……。

 そう思っていると、「さぁ、アナタの番よ」とひろむに言われ、何のことか理解できなかった。

「大丈夫。雪陽(ゆきよ)は射撃が上手いから、寸分の狂いもなく、同じ場所に撃ってくれるわよ。私と全く同じ位置に立てば当たらないわ」

 そのあんまりなセリフに、雪陽(ゆきよ)は静かにため息を吐いた。

――そんなこと信用できる筈ないでしょうに……――

 雪陽(ゆきよ)のスキルは『ファンタズム』(未来視)である。上手いも下手もなく、『そうなる』。リリに当たることはまずあり得ない。しかし、そうと知らないリリにとっては相当恐ろしい筈だ。

 もちろん、ひろむはそういった恐怖心とは無縁だ。実際、一発目はファンタズムを使っていないのだが、それでもひろむは恐れなかった。恐れていては華麗な回避などできないからだ。

 回避の基本、恐れないこと。ひろむはリリの度胸を試しているのだった。

「…………」

 リリはちょっと考え込んだ。その姿に同情を禁じ得ない。 

 普通、射撃のルートが分かっていても、その射線上ギリギリに立つなどできない。何なら、射撃手がファンタズムと知っていても躊躇(ちゅうちょ)する。それを、『同じ場所に撃つ』と言われて、無邪気に信じる人間などどこにいると言うのだろうか……。

「へぇ~やっぱりそうなんですね! それなら安心ですね」

 リリの言葉に、雪陽(ゆきよ)はずっこけるかと思った。リリは何の躊躇もなく、射線上ギリギリまで顔を近付けていた。

「リリ、あと半ミリ……そうそう、ストップ」

「へぇ、ここまで近付いて大丈夫なんですね」

 あまりに無邪気な様子に、ゆきよの方が躊躇した。

「あの、リリさん。実弾は当たるとかなり痛いですよ?」

「え? でも当たらないんですよね?」

――だって痛い目も見とかないと危ないじゃない?――

 ひろむの言葉を思い出す。なるほど、その通りだったかもしれない。

 一柳リリさん。危なっかしい人とは聞いていたけど、ここまでとは……。

 半ば呆れつつ、トリガーに指を掛ける。未来を『視た』。絶対に当たらない。

 銃声が響き、リリに向けて弾丸が放たれる。リリの頬を掠め、後ろの木の穴をそっくりそのまま通り抜ける。

 雪陽(ゆきよ)にとっては当然だが、撃たれた側にとっては一安心。……の筈なのだが。

「わっ、(かす)ったよ!? あ! 本当に穴が1つしかない……! やっぱりサユさんのレギオンは世界一なんですね!」

 リリは非常に呑気だった。 

「へぇ、度胸はなかなかあるじゃない!」とひろむ。

「ほうほう。見所がありますわ」とサユ。

 不安を感じるのは私だけなんですね……と雪陽(ゆきよ)

 知っていたが、この2人は鈍いところはひたすら鈍い。まぁ、その無邪気さは人を惹きつける魅力でもあるのだが……。

 そんな雪陽(ゆきよ)の心など(つゆ)知らず、ひろむは有望な新人を見つけたとばかり、ニヤリと好戦的な笑いを浮かべた。

「ねぇ、リリ。この肌がひりつく感覚……ぞくぞくするでしょ?」

 ただ、それはリリにはちょっと良く分からなかった。「えっと……」と、口を濁すも、ひろむは口を挟ませない。

「回避って言うのはね、限界ギリギリまで敵の攻撃に近付くことなの。攻撃を避けた時、このひりつきを感じないようじゃダメ。それは回避じゃなくてビビりよ」

 ひろむは畳みかける。

「怖がっちゃダメ、力を入れちゃダメ、どうせ避けちゃうんだから、余計な力もマギも要らない。最小限で最大限の動きをするの。分かるでしょ?」

 リリは、ひろむの回避を思い出した。ほんの少し屈むだけ。最小限の回避。それゆえに、効果は最大限。姿勢も動作も全くブレなかった。

 限界ギリギリまで……ひりつきを感じないようじゃダメ……余計な力もマギも要らない……。

「最小限で最大限の動き……」

 リリは呟いてドキドキした。防御技術では受けきれない攻撃への対処法、回避。その真髄が、そこにあった。

「ひろむさんありがとうございます! あの、もう一度手合わせしてもらっても良いですか?」

「私と差しでやりあおうなんて、やるじゃない。いいわ、今度は徹底的に……」「あの、ひろむさん」

 戦う気満々のひろむを、雪陽(ゆきよ)が止めた。

「何よ、邪魔するっていうの?」

「ひろむさん、そもそも私たちがサユちゃんを探してたのって、遠征の会議があるからでしょう?」

 ひろむは目を点にした。

 ローエングリンも有力レギオンであり、遠征にもそれなりに出かけている。今日はその会議があったのだが。

「あれ、そうだったかしら」とひろむ。「そうでしたっけ?」とサユ。

 ……ひろむさんもですけど、どうして主将が忘れているんでしょうか……。いや、もう何も言うまい。雪陽(ゆきよ)は諦めた。

「リリさん」

「はい?」

「あなたからはセンスの良さを感じますが、回避は高等テクニックです。実戦では付け焼刃の技を決して、"決して"ですよ? 絶対に、ひろむさんの真似はなさらないで下さいね」

 ゆきよは念に念を押した。しかし。

「分かりました! 実戦でも使えるよう練習します!」

 ……いえ、できれば練習も控えて欲しいのですが……。

 ひろむの回避は、練習して真似できるようなものではない。天性の勘の良さと、レアスキルによる直感と、繰り返し回避してきた経験によって成り立っている。新人が憧れても火傷するだけだ。

 しかし。

「遠征から帰ってきたら徹底的に指導してあげるわ!」とひろむ。

「では、私も最先端の戦術を叩きこんで差し上げますわ!」とサユ。

「はい! お願いします師匠……!」とリリ。

「あら、良い響きじゃない」(ひろむ)「先に目を付けたのは私ですわ! 私のことは大師匠とお呼びなさい!」(サユ)「あ! ズルいわよ、サユ!」(ひろむ)「えっと……でしたら、回避の大師匠と戦術の大師匠とお呼びします!」(リリ)「ふーん? なかなか分かってるじゃないの」(ひろむ)「見込みがありますわ! やはりリリさんをローエングリンの名誉一番弟子に指名いたしましょう!」(サユ)「あはは、ありがとうございます(?)」(リリ)

 呑気なリーダー。呑気な突撃隊長。そして呑気な新人リリィ。呑気な3人組を前にして、雪陽(ゆきよ)はただただため息を吐いた。

 




Q.銃弾は掠るだけでも怪我をするのでは?
A.リリィなのでマギによって守られています。そのガードを下げない限り、掠っても(そもそも直撃しても)大した怪我はしません。

……という設定です。実際は味方の弾に当たっているシーンがないのでよく分かりません。
訓練弾を撃ち合っているので、こちらに関しては当たっても死にはしないのだと思います。そして訓練弾とはいえ味方に向けることに躊躇がないなら、実弾でも大した怪我はしないのではないかと思っております。
折角マギがあるので、ここは都合良く考えておきます。

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