アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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第4-13話 vsリリ

 満月の夜だった。

 月の光が地上を照らす。スキルやライトを使わなくてもお互いを十分視認できるほど明るい。

 それでも、戦闘や訓練となると昼間とは勝手が違う。自分と相手、自分とチャームの距離感さえ掴み切れず、動きが鈍る。仲間との連携が数倍難しい。

 普段よりスパルタな内容も相まって、受講生はへとへとだった。そそくさと寮に帰り、浴室から自室のベッドへと、華麗なコンボを決めるのもやむ無しである。

 一方、フミたちは自主訓練の為に再集合することになっていた。授業が夜間に振り替えになった為に普段行っている訓練ができず、かといって中止にするのももったいなく、話し合った結果、授業後の夜間に少々(1時間程)訓練を行うことになっていた。

 ユユ式のスパルタに慣れすぎて、フミたちは完全に感覚が麻痺していたのだった。

(……でも、リリさん、どこに行ったんでしょう?)

 フミはチャームを片手に周辺を散策していた。

 集合時間は21時。授業は20時半に終わったので、フミたち3人は一旦荷物を置きに自室に戻った。この時を境に、リリの姿が消えた。フミが荷物を置いてリリの部屋を訪ねると、リリは既に出掛けた後だった。

 楓のところに向かったのかと思ったが、楓は玄関に一人。

 シェンリンらを呼びに行ったか、はたまた先に一人で集合場所に向かったか。

――念のため、私が集合場所まで見に行ってまいりますわ。フミさんはシェンリンさんやしおりさんのお部屋を覗いていただけますか?――

――いえ、外を探すなら鷹の目を持つ私の方が良いですから。お互い、見つかり次第、連絡するようにしましょう――

 子供ではないのだから……。そうは思うのだが、夜になると妙に不安に駆られる。何でもない学院の敷地ですら余所余所しく、何でもない木々のざわめきすらおどろおどろしい。

 リリィが消える時はいきなりだと言う。

 小さい頃、リリィの失踪事件特集をテレビで見たことを思い出す。仲間が少し席を外した隙に、白い影がガバッと近付いてきて……悲鳴一つ残さず、リリィを連れ去ってしまう。

 チープな演出だが子供心には恐ろしく、それからしばらく寝る時に親の手を握っていた。今でも時折思い出しては、妙な不安に襲われる。原体験的な恐怖なのだった。

 ……まさか、リリさんの身に何か……。

 いつも真剣で直情的。純粋で無鉄砲。リリは、時折ふっと消えてなくなりそうな儚さを見せることがある。誰とでもすぐに仲良くなる純真さは、あまりに穢れを知らなさすぎる。

「……」

 フミは足を止めた。

 考えている内に集合場所に辿り着いてしまった。そこにリリはいなかった。満月が、誰もいない荒地を照らしている。

 満月。おとぎ話のように、月からやってきた無垢な女の子が、月に帰る日がやってきたのだろうか。

(……いえ、楓さんじゃないんですから……)

 そんなバカなことはあり得ない。リリは竹からなんて生まれていない。親がいて、家族がいて、きっと大切に育てられた。一人のリリィとして公的な官報にだって名前が載っている。仮に誰かがリリを連れ去ろうと言うのなら、フミはそれを全力で止めるつもりだった。

 ……もちろん、そんなことはあり得ない。あり得ないからこそ、今は、早くリリを見つけて安心したかった。

 一度楓と連絡を取るべきか、集合場所に居なかったことだけメールして、もう少し周辺を探すべきか。悩みつつ何気なく周囲を見回していると……チカチカと点滅する光が目に入った。

 マギの光だ。森の中から、不定期にマギの光が届く。

「リリさん……?」

 こんな時間に外出しているリリィなど他にいない。多分リリだ、いや間違いなくリリの筈だ。

 風が吹く、木々が襲い掛かるように揺れ動く。森は、夜の中で一層闇に覆われている。

 フミは意を決した。恐る恐る、森の中へ歩を進める。

 森の中ではざわめきがいよいよおどろおどろしく、どこからともなく何かに――ヒュージでもなく――化物に襲われそうな、嫌な感覚が纏わりついて離れない。

 思い出したくないのに、昔聞いた怪談話が頭をよぎる。ランプをゴールと見立てた肝試しの話。

 ……ある男は、迷いつつもようやくゴールの光を見つけホッとしていた。しかし光に近付くと、近付いた分だけすっと光も遠ざかる。おかしいと思いさらに歩み寄るも、その分だけ光は遠ざかる。友人が悪戯しているのだと、男は怒った。帰ってやろうと踵を返すと、すぐ近くにランプの光が見える。

 そこには既に全員が集合しており、皆が男のことを心配していた。ランプは一つしかなく、そもそもこの時間であの距離を戻ってくるなどあり得ない。周辺に他の人間はおらず、光を出す人工物も自然物も存在しない。

 あの光は一体何だったのか。あれについて行っていたら一体どうなっていたのか……。

 ……私、妙にナイーブになってますね……。

 フミはゆっくりと息を吐いた。

 あり得ない。あれはマギの光だ。――死んだはずのリリィの亡霊――、――未解明のマギの怪異――。……都市伝説だ。そんなことはあり得ない。

「リ、リリさん……?」

 自分でも驚くほど声が震えているのが分かった。光がどんどんと近付いてくる。(はや)るように、躊躇(ためら)うように、足が不安定に動く。早く正体を知りたいのと、決して正体を知らずに逃げ出したいのと、矛盾した気持ちがぐるぐると頭を巡る。

 その視界の先、木々の切れ目から小さく開けた森の広場が現れた。

 月の光を背に受け、グングニルを構えたリリィ。後姿でも見間違い様がない。リリだ。

 ようやく見つけた……やっぱりリリさんだった……。

(……あれ?)

 そんな安堵や自嘲が思い浮かぶと思っていた。しかし、フミは全く違う感情を抱いていた。

 心が落ち着かない。不安や恐怖ではなく、収まりが悪い時の気持ち。言うなれば不快感だった。

 リリは足音に気付いたように振り返った。その表情は月に照らされてはっきり分かる……いや、照らされずとも分かる。リリはフミと全く同じ表情をしていた。

 フミはチャームを起動した。理由は分からないが、そうするべきだと思ったからだ。

 2人は共にグングニルを構え相対する。同じチャーム、同じ補欠入学、同じ歳、同じスキラー数値、同じレギオン、同じ師匠、同じ訓練、同じ素人リリィ。同じものが多すぎる。それなのに、お姉さまも、実戦経験も、訓練の成果も、常に自分より一歩先を進んでいる。

 ……ずっと考えないようにしていた。そんなことはないと思い込もうとしていた。しかし、今、はっきりと分かってしまう。

 不快だった。不愉快だった。自分が目の前のリリィより劣っているなど、決して認められない。

「……」

「……」

 フミは何も口にしない。リリも何も口にしない。

 2人はまるで熟練のコンビのように。合図もなしに、同時に飛び出した。

 

-2-

 

 お互いにお互いのチャームが叩きつけられる。一撃一撃が重く、マギの光が何度も広場を照らす。練習の手合わせとは違う。本気で相手を叩き潰すための殴り合いだった。

 フミは奥歯を噛みしめた。このままでは埒が明かない。

 お互いに防御偏重の訓練を受けてきた。お互い、どうしても攻撃より防御が上手い。殴り合ったところで隙など生まれない。

 チャームを叩きつけ、反動で距離を取る。

 熱いくらいに身体が興奮している。ここなら丁度、木々が足場代わりに使える。今なら、できるかもしれない。

 鷹の目を使う。通るべきルートを組み立てる。息を整え、身体とマギを集中させる。

 飛びかかってくるリリを後目(しりめ)に、フミは横に跳んだ。チャームを変形させ、リリを狙撃する。実弾だ。リリは反射的にチャームで受け流す。フミは木の幹を蹴る、角度を変えて狙撃、リリはチャームで防ぐ。幹を蹴る、変形、斬撃。変形、幹を蹴る、狙撃。

 狙撃。狙撃。斬撃。狙撃。狙撃。斬撃。狙撃。斬撃。

 攻撃が加速する。リズムを刻むように攻撃が叩き込まれる。練習の時よりずっと身体が動き、練習の時より攻撃は鋭く正確に届く。リリは防御に遅れが生じた。

――決める!――

 フミは乱暴にチャームを振るった。チャームを吹き飛ばすつもりの全力の一撃、しかしそれは空を切った。

 避けられた。ただし、体勢は大きく崩れている。

 変形、幹を蹴る、狙撃、そのまま変形させもう一度飛びかかる。

 流れるような一連の動作、しかしその間にリリが殆ど動いていないことに気付き、フミは訝しんだ。チャームが動いていない。銃弾をどうやって捌いたのか?

 答えはすぐに分かった。刺突するようなフミの斬撃を、リリは身体を僅かに下げて凌いだ。

――回避……回避?!――

 驚くべき滑らかさだった。一体いつの間に身に着けたのか、動きに無駄が見えない。

 動揺を隠す、頭を切り替える。チャームを変形させる、幹を蹴る、狙撃する。狙撃。狙撃。斬撃。狙撃。斬撃。

 しかし、リリは体勢を崩さない。どんどん動きが小さくなる。より僅かな動きで攻撃を避ける。それどころか、タイミングを計っている。

 カウンターを狙っている。切り崩すどころか、むしろ調子を上げてさせてしまった。

(……このままでは……)

 楓が言った通りだった。単調な攻撃はカウンターの的になる。

 リリはリズムに乗っている。崩すんだ。リズムを崩させる。カウンターを狙っているなら、更にその裏をかく。

 フミは、動きを加速させた。そして、あえて直線的な動きをする。射撃し、幹を蹴った後、真っ直ぐリリに突っ込む。ただし、射撃モードのまま。迎撃に向かってきたリリに、照準を合わせる。

 斬撃ではなく、至近距離の射撃。

 リリはそれに気付く。が、対応する猶予はない。フミはトリガーを引いた。その瞬間、リリは無理やり身体を横に捻った。

「……っ!」

 避けた。しかし同時に体勢も崩れた!

(このまま横を通って、反転、連撃……)

 しかし、リリはまだカウンターを諦めていなかった。片手を地面に着き、マギで手足を固定してチャームを振り上げる。絶妙なタイミングでフミにチャームが迫る。

 フミは次の動作に意識が逸れ、反応が遅れた。咄嗟にチャームで受ける。しかし、受けきれない、受け流せない。全力の加速が衝撃となり、腕に大きな負荷がかかる。

「……たああ!」

 フミは、射撃モードのまま強引に腕を振り切った。そして弾き飛ばされる。減速し、放物線を描くように空中に放り出される。

 油断した。また油断した! ……いや、考えるのは後だ。

 滞空中、リリが地面に倒れたのが視界に入る。この隙に追撃したいが、照準が定まらない。衝撃で腕が震えて調整が利かない。

 チャームのダメージを確認する。変形はできる。こちらは体力もマギも限界が近い。リリは防御と回避で凌ぎ切り余裕がある。

 ここで決めなくては負ける。ここで、決める。

 着地と同時に、リリへ向けて突撃する。チャームは斬撃モード、ありったけのマギを込めて加速する。

 リリも起き上がる。フミの到着を待たず駆け出す。カウンターではない。全力でフミを迎え撃つ。

「はあああ!!」

「たあああ!!」

 2人のマギが広場を照らす。お互いに後を考えない全力の一撃。そして、お互いチャームを振り下ろそうとしたその時。

 前方にエアバッグのような衝撃を感じ、一瞬身体が止まった。その隙に、振り下ろそうとしたチャームが動かなくなった。何かに止められた。

 何が……?

 考える間もなく、背後から何者かに羽交い絞めにされる。雑音が響く。

「な! 放っ、放してください!」

 フミは叫んだ。しかし、暴れようとして、身体に力が入らなかった。思い出したかのように心臓が早鐘を打つ。耳がキンキンする。息が苦しい。全身が重い。

 高速斬撃は、マギも体力も大量に消費する。経験の浅いフミにとって、先程の動きは限界を超えたものだった。

「まだ決着が着いてないんです!! やらせてください!」

 リリが叫んだ。同じく抑えられている状態で、全力で暴れている。

 その姿に、フミも再び力を取り戻す。

「そうです! 決着を!」

 決着を付けなくちゃいけないんです!

「……ミさん。フミさん。そろそろ抑えるのも疲れてきたので、それを放してもらえますか?」

 唐突に、声が聞こえた。いや、聞こえていた音が、声であるとようやく分かった。

「シェンリンさん!? どうして」

 質問する間に、状況に気付いた。自分がシェンリンに抑えられていること、リリを抑えているのがユージアであること、フミとリリのチャームを抑えているのはしおりであること。少し奥に、楓とミリアムの姿も見えた。

 フミは急に戦意を喪失し、チャームを手放した。リリはそれでもしばらく暴れていた。

 シェンリンは、力の抜けたフミを無造作に抱えると、楓に向けてそれを放り投げた。予想外の行動に反応できず、楓は胸でフミを受けた。

「きゃっ! ……ちょっと、何をなさいますの!」

「そちらはお願いします。(わたくし)はこちらの困ったちゃんをなだめてまいります」

 シェンリンは悪びれずにリリの方に向かった。

 楓はため息を吐いて、受け止めたフミを観察した。息が荒い。大分消耗している。戦闘の模様は見えなかったが、高速斬撃を使ったのだと一目で分かった。しかし、この呼吸の荒さはそれだけでない。興奮状態にある。

 一体何があったのやら。

「色々と申し上げたいことはございますが……ひとまず、このおバカさんと申し上げておきますわ」

 フミは息を荒くして、何も答えなかった。

 一方、シェンリンは何気ない調子でリリに話しかけた。

「どうも。訓練内容を勝手に変更されたようで」

「…………」

 リリは抵抗の意志を見せつつも、暴れるのをやめた。

「ご存知でしょうか? 新人リリィの怪我の原因、1位は訓練ですが、2位は実戦ではなく校内暴力だそうですよ。要は喧嘩です。まぁ、百合ヶ丘でこのようなことが起こるのは一種の快挙ですね。しおりさんも何か思うところがあるようです」

 そう言って、身振りでしおりを促す。

 しおりは、静かな表情をしていた。

「私が教えた通り、マギも力も良く入った一撃でしたね。ですが、私は、その力を仲間に向けて振るうように教えたつもりはありませんよ」

 表情は変わらず、言葉も淡々としているのに、それはどこか悲しそうに見えた。

「どうして私たちが秩序を重んじるのか……何がリリィとヒュージを分けるのか。お二人にはご理解いただいていると思っておりましたので、今回のことは本当に悲しく思います」

 リリは何も答えられず、視線を地面に落とした。しおりもそれ以上は何も言わない。

 重い沈黙が、辺りにのしかかった。

 全く、こやつらは……。ミリアムは、その空気に閉口しつつ尋ねた。

「それで、先に手を出したのはどっちなのじゃ?」

 リリは答えに迷ってしばらく押し黙った。

「……どっちでも……ないです」

 なんじゃそれは……。

「お主ら、言い合いか何かで喧嘩になった訳ではないのか……?」

 リリは何と言うべきか分からず、黙っていた。フミも、ただ息を荒く呼吸を整えていた。

 楓が口を開いた。

「原因如何を問わず、リリィ同士が本気でチャームを向けあうなど許されませんわ。……ただ、お二人が何の意味もなくこんなことをなさるとも思えません」

「私も同意いたします。できれば事情を伺いたいところですが……」

 シェンリンは2人の顔を見比べた。どちらも、素直に口を開くようには見えない。

「みんな。今日は……お風呂に入って休もう? 落ち着いてから、2人も納得できるように話したい」

 ユージアが提案し、皆は無言で移動を始めた。誰も何も口にしなかった。

 そして寮に帰るまでの間、リリとフミは一度も目を合わせなかった。

 

-3-

 

 フミはいつもより早起きして、食堂で一人朝食を食べていた。そしてリリを視界の端に収めた途端、残りを強引にかき込み、席を立った。

 不機嫌であると、顔にありありと書いてある。それを見て、リリも不機嫌そうに顔を背けた。

 2人は喧嘩している。一目瞭然だった。そもそも、昨夜時点で目ざといリリィが不穏な空気で帰ってくる一同を目撃しており、夜の間に2人は噂になっている。フミとリリが思っている以上に、2人は渦中の人物なのだった。

 視線を避けるように、フミは人気の少ない場所へ向かう。目的地は自分でも分からない。

 フミは憂鬱だった。喧嘩した次の日だからといって、授業は休みになったりしない。同じ授業を選択しているのだから、リリとは否応にも顔を合わせなくてはならない。気まずい。休みたい。しかし、弱気な表情は見せたくない。

「フミさん、ちょっとよろしいですか」

 不意に話しかけられ、フミは相手も確認せず「何ですか!」と荒々しく振り返った。

「あっ、(シズ)さん……」

 そこに居たのは伊東(シズ)だった。リリのルームメイトでフミのリリィオタク仲間。フミの態度に、少々驚いた顔をしていた。

 それに気が緩みそうになるものの、憮然とした顔を作り直した。

「何ですか。シズさんには関係ないでしょう」

「まだ何も言っていないでしょう? ……まぁ、ご想像通りリリさんの件なのですけど」

 これもまた憂鬱なことだった。リリとの喧嘩が知られたら、絶対に周りからあれこれ言われることになる。そっとしてほしかった。もちろん、寮生活をしている以上、周囲も他人事では済ませられない。それは分かるのだが……それでもそっとしてほしかった。

「アナタたち、チャームを向けあったのね」

「……シズさんには関係ないじゃないですか」

 関係ない訳はない。仲間にチャームを向けるなど、リリィにあるまじき行為だ。咎められて然るべきだ。そんなことは、百も承知している。

「チャームはね、人の命を簡単に奪えるのよ」

 ドキッとする。もちろん、それも知っている。知ってはいるが、正直、自分のその力を実感したことはなかった。

「リリィ脅威論。どうして、一般人がリリィを恐れるのか。どうして税金が投入される公的な存在となっているのか。どうして、ガーデンと称してリリィと一般人を分け隔てるのか……。くどくどと言われたくないでしょうけど、アナタたちの犯したことはこの世界の秩序を揺るがすことです」

 フミは、何も言えなかった。

 分かっていると思っていた。分かっているつもりだった。しかし、事の重大さも、起こり得た惨事についても、全く想像できていなかった。

 ……それでも、フミは憮然とした表情を保ち続けた。

 シズは、そのあまりに強情な様子にため息を吐いた。

「リリさんの傷、見たでしょう? ちょっとずれていたら大変なことになっていたかもしれません。それでもアナタは……」

「ちょ、ちょっと待ってください! 傷? そんな筈は……だって避けていましたよ……?」

 シズは面を喰らった。

「ご存じないのですか……?」

 知らなかった。顔も見ないようにしていたから知りようもない。

 フミは取り繕うのも忘れてシズに詰め寄った。

「どこですか? どこに怪我をされたんですか?!」

「……顔です」

 フミは眩暈がした。

 直感する。あの時だ。フェイントで突撃しながら射撃を加えた時だ。そうだ、リリはうめき声をあげていた。あれは痛みに反応したんだ。

――ちょっとずれていたら――

 どうして……!? そんな、どうして……。

「どうしてですか!? 銃弾で傷なんて付かないでしょう!」

 フミは訳が分からず声を荒げた。

「現場を見ていないので分かりませんが……回避動作中にマギが薄くなる、あるいは意図的に防御分のマギを攻撃に割り振るリリィはいらっしゃいます。一部の『この世の理』使いがやりがちな危険な動きです。恐らく、リリさんは似たことを……」

「もういいです」

 話を聞いているのが嫌になって、シズから離れた。

 どこでそんな技を……? 私がリリさんを危険な目に……。

 嫉妬と後悔で混乱する。ここで立ち止まっていると醜態を晒しそうで、フミは早足で逃げ出した。

「待ってください! きちんとリリさんとお話を……」

「黙ってください!! リリさんなんて大っ嫌いです!!」

 フミは心にもないことを叫んだ。そして振り返らずに駆け出した。

 最悪だと思った。

 ……私、最悪です……リリさんにも、シズさんにも……顔向けできません……。

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