アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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アニメ第4話と第5話の間にあったかもしれないお話。


第4.5話 タヅサの休日

 煉瓦で舗装された遊歩道を、安藤鶴紗(タヅサ)は1人歩いていた。

 誰もいない休日の学院。風もなく過ごしやすい5月の陽気。平穏そのものである。

 しかしタヅサは、そこに不穏な静けさを感じ取っていた。例えるなら、ネズミが逃げ出した後の船。空っぽの弾薬庫。その静けさは波乱の前触れだ。

 何か悪いことが起こる。そんな『予感』がタヅサを襲っていた。

 

 ……そうだ、思い出した。 

 友達は選ぶべきだと、親に言われたことがある。当時、仲の良かった友達は素行に問題があり、そんな『不良』とつるんでいるのが気に入らなかったらしい。当時は、人を表面的にしか判断できない母に反発したものだ。

 しかし、もしかすると母は間違ってなかったのかもしれない。塀の隙間に身体を突っ込み、下半身だけをこちらに突き出し、「ぐぬ、ぐぬぬ……! なぜじゃ! なぜ抜けんのじゃ……!」と叫んでいる同級生を見ていると、無性にそう思えてならないのだった。

 選べるもんなら選びたいものだな、と思いつつ、タヅサは震えるケツに声を掛けた。

「おい、なにしてんだチビ助」

「誰がチビ助じゃ! ……ってその声はタヅサか」

 声に反応して、ケツが上下する。

「何だ、芸の練習か?」

「違うわ! 見ての通り、塀に嵌ったのじゃ!」

「見ても分かんねぇよ……」

 そして何でオマエは偉そうなんだ。タヅサは嘆息した。

 このちびっこ(ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウス)は、変人揃いの百合ヶ丘の中でも、とびっきりの変人である。独特な語り口調で、チビで、自信家で、おまけにチャームマニアでもある。研究室に籠っては日がなチャームばかり弄っている変人中の変人だ。

――こいつと関わるとこっちまで変人だと思われちまう――

 さっさと立ち去ろう。

「ミリアム、悪いが」

 こっちも忙しくてな。そう言いかけたところで塀の向こうからにゃーという鳴き声が響き、「ね、ねこおおお!!??」

 タヅサは思わず叫んだ。

「そうなのじゃ! 実はこの黒猫を追って……ふふ、くすぐったいのぅ、そう舐めるでは……ふふふっ」

「く、黒猫だって……?」

 タヅサはくらくらと眩暈がした。

 安藤鶴紗は、無類の猫好きである。全ての猫を触りたい、撫でたい、食みたい、むしゃぶりつき侍らし独占したいという、生粋の猫フリークである。

 そんなタヅサが最近狙っているのが、学園に出没する黒猫のくー(命名:タヅサ)であった。その娘は全くタヅサに懐かず、ここ最近の猫缶作戦も失敗に終わっている。そんなくーが、ミリアムに懐き、あまつさえほっぺを舐めている……?

 タヅサは激情そのまま叫んだ。

「オイ、そっちはどうなってるんだ!!」

「いたた! これ、尻を叩くでない!」

「つーかオマエが邪魔で見えねぇ! 引っこ抜かせてもらう……!」

「ま、待った! それは望むところじゃが、ちょ、ちょっと待て!! ちょっと待ってはくれぬか?!」

 あまりに必死な懇願に、タヅサは不承ながら手を止めた。

「あ? 何だよちみっこ」

「いや、そのな……」

「何だよ、言いたいことあるならはっきり……」

 ミリアムの口から「あっ……」と吐息混じりに艶のある声が漏れ出た。

 

「あ、あの……や、優しくしてたもうれ?」

 

 タヅサは全力でミリアムを引き抜いた。

「痛ぁっ!!」

「おい! くーが逃げたじゃねーか!」

「いてて、じょーくの分からぬ奴じゃのう」

「うるせえ! オマエの所為でくーが逃げたんだ! 追いかけるぞ!!」

 塀を迂回するのももどかしいとばかり、タヅサはチャームを起動した。何でわしまで……と思いつつ、ミリアムもチャームを起動する。

 そんな2人の前に、間が悪く現れるリリィが1名。

「ミリアムさんとタヅサさん……? もしかしてヒュージですか?!」

 週刊リリィ新聞の二川フミその人であった。

 間の良いことに、そのレアスキルは鷹の目。探し物に便利である。

「……丁度いい。オマエも来い」

「え? 私、実戦経験はまだですが」

「いいから行くぞ!!」

 有無を言わぬ力で手を引かれ、「えええええ!!」フミは、タヅサと共に塀を飛び越えた。

 こいつも不憫な奴じゃの……。ミリアムは一歩遅れて塀を飛び越えつつ、心の中で合掌をした。

 

--

 

「鷹の目!」

 スキルの発動と共に、フミの視点が高く遠くに広がっていく。

 鷹の目。それは広範囲を見通すことのできるレアスキルである。

 索敵系スキルは、レギオンに一人は必須と言われている。敵の数、位置、地形の把握といった作戦立案に必須な情報を瞬時に把握できるためだ。また、味方との連携、遭難者や遺失物の捜索など活躍の幅も広く、部隊行動の潤滑剤として大いに役立つ。

「要はレギオンの便利係ってことじゃな」

「……私も猫探しにこのスキルを使うとは思いませんでしたよ……」

「どうせ暇だったじゃろうに」

「ネタ探しの最中でしたよぉ」

 と言いつつ、手持無沙汰であったのは図星だった。

「そうじゃ、このことを記事にするのはどうじゃ?」

「でも、リリィ新聞ですからねぇ……」

 と雑談しつつ、フミは横目でタヅサを見る。それにしても。タヅサさんってこんな感情豊かな方でしたっけ? 

 猫好きとは知っていたが、クールな一匹狼というイメージと目の前のタヅサがどうも一致しない。

「おい、くーはまだ見つからないのか!」

「は、はい! ……でも、学内は遮蔽物が多く猫は小さいので、俯瞰視野とは相性が悪いんですよ……」

 実際、学院は緑が多く、上空からの視界はあまり良くない。猫が動き回ってくれれば鷹の目で捉えられるかもしれないが、例えば木陰で休まれていたりすると、フミにはどうしようもない。

 一縷の望みをかけ周囲を一通り見まわした後、フミは一旦スキルを解除した。

「やっぱりダメです……」

「まぁ、しょうがないじゃろ。虱潰しに探すしかあるまい」

 しかし、タヅサは我慢の限界を迎えており、そんな悠長なことはとてもできなかった。

「仕方ない。あまり使いたくなかったが……」

 タヅサは目を瞑り、チャームを構える。そこから、集約されたマギの光が溢れ辺りを照らしていく。

 おお、これはまさか噂に聞くファンタズム……! いくつもの仮定の世界線を覗き見て欲しい結果に至る為の動きや条件を空間単位で瞬時に理解出来る希少レアスキルしかもその中でも花形中の花形、上手く使えば10倍の戦力差すらひっくり返すと言われていて実際10対3の組手で圧勝したという記録が」

「ファンタズ……おい、フミ、うるさいぞ!」

 フミの興奮が知らず口を突いていた。ついでに、鼻を突いて熱い血潮として噴き出していた。

「おや、タヅサが赤面するとは珍しいのう。なんじゃ、お主、褒められ慣れとらんのか?」

「う、うるさい! ちょっと黙ってろ!」

「え゛~だづさざんずごいずぎるも゛っでるのに゛!」

「オマエは鼻を拭え」

 タヅサはぶっきらぼうにハンカチをフミの鼻に当しつけ(わ、猫柄だ……!)、大きく息を吐き、息を整える。

 そして再びマギを集中させた。

「ファンタズム!」

 時が止まり、頭の中だけでいくつもの世界が動いているような感覚。――その中で不要な世界線を除外し、必要な情報だけを手繰り寄せる。望み通りの結果を導く世界線だけを残す――

「……そこか!」

 自身のチャームを、近くの木に投擲する。鋭い鳴き声と共に黒猫が落ちてくる。その時には既に鶴紗は間合いに入っていた。「速いです……!」

 猫は左右に飛び出そうとするが、タヅサはそれが分かっているように機先を制し、一瞬フェイントを入れた直後、「ここだあ!!!」猫に向かって飛びついた。

 

 

「ふへへ、捕まえたぞぉ……! くーこのぉ、にゃあ、ふふふ、にゃあにゃあ♪ どうした? ここがいいのか、ふへへ、け、毛繕いしてやろうか? 全身ふやけるまで嘗め回してやるぞ♪ ふふ、ふへへ」

 

 

「うわっ」

 端的に言って、フミはドン引きしていた。うわっ、タヅサさんってこんな(かた)だったんですね……。

 一瞬抱いた尊敬の念は、クールな一匹狼というイメージ諸共、粉々に崩れ去ってしまった。

「ところで、お主はどうして写真を撮っておるのじゃ……?」

「え? ああ、職業病ですのでお気になさらず」

 お気になさらずも何も、ハンカチ越しに止めどなく血潮を流しつつ、にやけた顔でファインダーを覗く様は異様である。

 嫌がる猫を舐めまわす少女と、それを怪しい表情でカメラに収める少女。

 ここは地獄か。

 ……やれやれ、この学園には変人しかいないのかのぅ……。

 唯一の常識人のつもりのミリアムは、やれやれとため息を吐いた。

 

--

 

「お主に足りぬのはしゃかいせーというものじゃ」

 腰に手を当て、荘厳そうにふんぞり返ってミリアムは言った。

「はあ」とフミ。「あ?」とタヅサ。

「……なんでお主まで気のない返事なのじゃ?」

「いやあ、確かにあれはアレでしたけど、あれは社会性とかじゃなくて……」

「社会性以前の問題があるような口ぶりだな」

 タヅサに睨まれ、首をブンブンと横に振る。

「いえいえ! あの、その! ミリアムさん、何かその黒猫と仲良くなるアイディアがあるんじゃないですか?」

 フミは全力で話を逸らした。

「……そうなのか?」とタヅサ。

 ミリアムは満面の笑みを浮かべた。

「もちろんじゃ! お主があのくーとかいう黒猫と懇意になれぬのも、お主にしゃかいせーが欠如しているからなのじゃ」

 タヅサは胡乱げな表情を浮かべた。

「社会性ね……。確かに私は人付き合いが悪いし、人当たりも良くない。だけど、それとくーの話は別じゃないのか?」

 ところが、ミリアムは声を大にして反論した。

「なーにを言っとるのじゃ、たわけが!」

「たわけって……」

 ビシッと人差し指を立て、有無を言わせず続ける。

「いいか、なべてあらゆる動物はしゃかいせーを有しておる。人間然り猫然りじゃ。当然、それぞれの動物にはその動物なりの『ルール』を持っておる。入っていい間合い、入ってはいけない間合いがあるのじゃよ。……それなのにお主ときたら……」

 ため息を吐き、片目だけで鶴紗を見た。

「な、なんだよ」

「嫌がる猫を抑え込み?」「うぐっ」「抵抗を封じて柔肌に触れ?」「うぐぐっ」「あまつさえ全身をしゃぶり尽くすなど言語道断! 悪即斬! 打ち首腹切り晒し首じゃあ!!!」「うわああああ!!」

 やはり社会性以前の問題では? という根本的疑問がフミの頭に浮かんだが、それは考えないことにした。

「で、でも私はアウトサイダーかもしれないが、アウトローではないぞ」

「そ、そうですよ! いくらタヅサさんでも、きっと人間相手にそんなことしないですよ」

 2対1。

「……ふらふら歩いていたフミ嬢を拐かしたのは誰だったかのう?」

「あー……」

 1対2。

「おい、フミ! 距離を取るな!」

「すみません、タヅサさん……ちょっとこれ以上擁護は……」

 フミは目線を逸らすことしかできなかった。

「ま、こういうことじゃ」とミリアム。

「しゃかいせーとは、相手へのリスペクトじゃ。猫と仲良くなりたいならば、猫を知り、猫になり、猫の生き方を尊重することと覚えよ!」

 ……まぁ、社会不適合者のレッテルは不満だったが、なるほど、言っていることは一理あった。

「と言ってもミリアムさん。猫と仲良くならないと猫のことは分からないんじゃないですか?」とフミ。

 フミ自身、猫は嫌いでないが、猫社会についてはあまり詳しくなかった。この件については、タヅサの力にはなれそうにない。

「そう、その通りじゃ。だからこそ、これの出番じゃ!」

 そう宣言すると、どこから取り出したのか、紙袋をタヅサに差し出した。

 なんだそれは……。タヅサは訝しみながらそれを受け取り、中身を確認して固まった。

「? 何が入っていたんですか?」

 横からひょっこりと覗き込んむフミ。袋の中には……猫耳、しっぽ、肉球グローブが入っていた。

 あー……なるほど……?

「…………ミリアムさん、そういう趣味がおありなんですね」

 何気なく手に取ろうとして、「……って重っ!」ずしりと、予想外の重みを手に感じた。

「何なんですこれ……?」

 ミリアムはよく聞いてくれたとばかり、胸を張って答えた。

「こいつはわしが開発した新型アーマー! の試作! 第……何号じゃったかのう? まぁよい。ともかく、新型猫型アーマーじゃ!」

 ばばーん。とSEを口ずさみ、演出に余念のないミリアム。一方、フミとタヅサは全く合点していなかった。

「結局何なんですこれ……?」

 しかし着ければ分かるの一言に押され、タヅサは猫型アーマーとやらを身に着けていく。

 数分後、そこに現れたのは、百合ヶ丘の制服に、猫耳、しっぽ、肉球グローブを着けた……正直、いかがわしい姿のタヅサであった。

「……おい、これで本当に猫と仲良くなれるのか?」

 と言いつつ、満更でもないタヅサ。グローブで招き猫の動きをしている辺り、かなり気に入った様子である。

「ああ、そうじゃ。……ところでタヅサよ。アーマーとのコンタクトはどうじゃ?」

「コンタクトって、この猫耳から入ってくる音? のことか?」

 タヅサの着けた猫耳からは、周囲の音が聞こえていた。それもただマイクで集音している訳ではなく、マギに乗って直接脳に届けられているような、不思議な感覚があった。

「実験は成功じゃな」とミリアム。

「それは聞き捨てならないが……要は聴覚補助機能付きってことか」

 ミリアムが持ってきたそれはヒュージから身を守るための防具の一種で、アーマー(リリィバトルクロス)と呼ばれている。

 百合ヶ丘の制服もある意味でアーマーと言えなくもないが、一般的には、よりマギを消費する『防御型チャームを着込む』ような、(フル防具の)アーマーのことを指すことが多い。

 フル防具と言わずとも、多少の武装をするだけで負傷率は大きく減少する……のだが、必然的に攻撃力は下がってしまうのであまり人気はない。

 むしろ、通信機能や視覚・聴覚補佐などの補助機能の方がクローズアップされることが多い。(ただそれもマギを使ってまですることなのか? 機械で十分でないか? と常に批判の的となっている)

「へぇ、これが噂に聞くバトルクロスですか! あまり見かけないので新鮮です~」

 と言いつつフミはパシャパシャとすごい勢いでカメラを光らせる。

「お、おい。あんまり写真を撮るな」

「何を言いますか! 新型バトルクロスのリーク情報ですよ!? こんなスクープ見逃せません!!」

 ミリアムもフミに同調した。

「お主が連れ出したせいでネタ探しに困っておるのじゃ。少しぐらい協力したらどうじゃ」

 そう言われるとタヅサも強く出にくく、大人しくされるがままに甘んじた。

 ……とは言え、「あ、両手を構えて」「四つん這いで!」「あ、目線お願いしまーす」とその立場をいかんなく使い倒すフミはどうかと思うし、満更でもない様子でそれに応えるタヅサもタヅサであった。

 そして撮影会が始まること10分。

「すみません、我を忘れてまして……」と反省するフミ。

「全くオマエは……」とやや怒った調子のタヅサ。

「満更でもなかった癖に……」と呆れた様子のミリアム。

 なお、黒猫のくーは『なにやってんだ』とばかり、すぐそばの広場で日向ぼっこしている。

「それでミリアムさん、この猫型アーマーの機能を教えていただけますか?」

 フミは取材モードになり、既に紙とペンも取り出していた。

 ちゃっかりした奴じゃのう……と思うミリアムだったが、自慢の発明品を紹介するのはやぶさかではなかった。

「こいつはな、周囲から集めた音信号をマギの振動に変える変換装置なのじゃ。それにより、周囲の音をまるでマギの流れを感じるように、自然に感じ取れるのじゃ!」

 単純な収音・増幅ではないのだなと、タヅサは素直に感心した。……ただ、これはこれで、慣れないと音の大きさや位置を特定するのは難しそうであったが。

「へぇ、いわゆるヒュージサーチャーとは違うんですね」

「ま。その機能も付けておるがの」

 なお、ヒュージサーチャーとは、その名の通り、ヒュージのマギを感知する装備である。カチューシャ型、タブレット型など種類があり、中には猫耳に見えるものもある。

「加えて、装着者のマギを用いて周囲に超音波を発する機能もある……エコーロケーションとは聞いたことがないかの?」

「えっと、クジラやコウモリが使うあれですか?」

「そうじゃ。超音波を発し、それが返ってくるまでの時間で相手の位置や距離を測るあれじゃ」

 中々高度そうな機能である。

「でも猫ってそんなことしてましたっけ……?」

「なんじゃ、お主は馬車の代替に馬型の機械を作るのか?」

 言われてみれば、猫耳型と言えど猫に寄せる必然性はなかった。

「……ということは! このしっぽや肉球にも何か特殊機能が……!?」

 目を輝かせ前のめりになるフミ。しかし、「…………まぁ、その」ミリアムは途端に口を濁らせた。

「何ですか、もったいぶらないで教えてくださいよ!」

「…………りじゃ」「はい?」「ただの飾りじゃ」

 …………。

「ミリアムさん、やっぱりそういう趣味なんですか?」

 ……一応、話を聞くとグローブの先に爪(チャームの刃)を着けたり、しっぽをムチかメイスのように使う案もあったそうだ。しかしマギの消費・分散との兼ね合い、そもそもそんな危険な戦い方(超接近戦オンリーの武装)は推奨されないと先輩に窘められたこともあり、ひとまず形だけ残すことにしたようだ。

 などと話し込んでいると、タヅサと戯れていたくーが弾かれたように立ち上がり走り去っていた。

「……おいミリアム。超音波を出したらくーが逃げたんだが……?」

 タヅサは憮然とした表情で抗議した。

「あー、猫って可聴域広いんでしたっけ?」とフミ。

「あと可聴域に加えて超音波も混じると、流石に気持ち悪くなってくる」

「あー、研究室には雑音がないからのぅ……。それは盲点じゃった」

 気落ちするミリアムを、「研究に失敗は付き物ですよ」と慰めるフミ。

「まぁ、失敗があるから改善点が見つかるからの。また色々弄ればよいだけじゃ」

「そうですね! 記事には『まだまだ課題が多いものの、鋭意改良中』と書いておきます」

「うむ! また改良したらフミに紹介するぞい!」

「はい! 是非ともお願いします!」

 失敗にくじけず、むしろ晴れ晴れとした表情をミリアムを見て、やはり職人気質の方なんですね~、とフミまで元気が湧いてくるのだった。自分も負けていられないと、フミは気持ちを新たにした。

 そして何となく一段落した雰囲気の2人だったが。

 

「おいオマエら、私のことを忘れてないか……?」

 

「ん? ああ、テストに協力してくれて感謝するぞタヅサ」とミリアム

「まだそれ着けてたんですか?」とフミ。

「オイ、マジで言ってるなら私は怒るぞ」

 仄かな怒気の噴出を感じ、ミリアムは慌てて取り繕う。

「ああ、分かっとる分かっとる。猫と仲良くなるという話じゃな?」

 ああ、そういう話でしたね、と心の中でフミ。

「いや、ほらどうじゃ! 猫の格好をすることで猫と心通わせ」「いやくーに逃げられたんだが?」「タヅサさん、今の恰好ならくーちゃんにも仲間扱いされ」「いやだからくーが逃げたんだが?!」「じゃがこれから猫のしゃかいせーを勉強すれば」「いやだからその為のくーが逃げたんだが?!!」

「オマエらくーを返せよ!!」

 タヅサの叫び声は、人気の少ない学院に溶けて消えていった。

 なお、その後、くー探しに付き合わされ(くーが逃げる際、フミが鷹の目で追っていたのでこれは簡単だった)、猫の集会所を発見し、タヅサが暴走するなど一悶着があったことを付記しておく。

 

 休み明け。

 タヅサは昨日あまりにテンションを上げすぎた反動で、今朝はいつも以上にムスッとしていた。

――アイツら、今度会ったら覚えてろよ――

 結局、くーとは仲良くなるどころか、危険人物として覚えられてしまった感がある。(なお、フミとミリアムも面白半分ではあったが、大部分は自業自得である)

 しかし、タヅサが気だるさを隠さず歩いているのに、「おはよう、タヅサちゃん」「タヅサさん、おはようございます」「近所に猫カフェができるそうですよ」など、妙に声を掛けられることに気付き、首を傾げた。

 タヅサは人付き合いがあまり良くない。クラスメートでさえ距離を置いている位だ。もしかしたら委員長(壱)辺りが気を回したのかもしれないが、はっきり言って迷惑ですらある。(ただし、猫カフェの誘いは受けた)

 群れるのは好きじゃないんだ。他人がいても戦いにくくなるだけだ。

 口出しは無用だと、壱に言っておくべきかもしれない。そんなことを考えつつ歩いていると、掲示板の前に、わらわらと人が群がっているのが目に映った。

 何の集まりかと思ったが、お目当ては週刊リリィ新聞であると察する。不思議と、フミの新聞は人気があるのだった。

 ……そういえば私の写真も撮られたな……まさかそれが原因で声を……?

 そのまま何気なく新聞に目を向け……「は?」

『新型バトルクロス 猫耳モードのたづさにゃん』『愛されボディでヒュージも悩殺にゃん』

 そこには、ばっちりポーズを決めた猫耳コスのタヅサや、上目遣いのタヅサの写真が、デカデカと、キャプション付きで掲載されていた。

 そしてご本人登場に気付いた一同が、小さく感嘆の声を上げ、タヅサを囲い込んだ。

 何やら声を掛けられているのは分かる。褒められている気がするし、楽しんでいるのも伝わってくる。

 しかし、歓声の上がる中、タヅサは無表情だった。

 感情を消し、静かに、とても静かに心に炎を灯した。

 

 放課後。

「よし、今日もレギオンメンバーを探さなくっちゃ!」とリリ

「って、ちびっこが1名いませんが?」(楓)「誰がちびっこじゃ!」(ミリアム)「誰も貴方とは言っていませんよ」(シェンリン)

「フミなら……校舎裏の方に連れていかれてた」とユージア。

「へー、告白かな?」とリリ。

 

 校舎裏。

「よぉ……。その節は記事にしてくれてありがとなあ……?!」

「ひいいい!!! 助けてください助けてください助けてくださああああい!!!」

 フミの悲鳴は、百合ヶ丘の喧騒に溶けて消えていった。

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