アサルトリリィ BOUQUET ~if~ 作:クロスカウンター
「人狼ゲーム……ですか?」
「はい! 知る人ぞ知るパーティゲームの風雲児! かつて一世を風靡した超人気推理ゲームですよ~」
机を囲む一同に、私は胸を張って説明する。
「ほぇ~」と梨璃さんは小首を傾げ、「ふぅん?」と楓さんは胡乱げにルールブック(私のお手製)を手繰った。
ふっふっふ、掴みは十分ですね……! と、私はガッツポーズを作った。
――人狼――
それは『人狼ゲーム』『汝は人狼なりや?』などの通称で知られる、殺人鬼(人狼)探しの推理ゲームだ。
プレイヤーはゲーム開始直後、村人陣営か人狼陣営に割り振られる。昼間は皆で会議を行い、多数決で怪しい人物を処刑する。夜は人狼がターゲットを決め殺害する。
これを続け、人狼を全て吊ることができれば村人の勝ち、逆に人狼を吊り切る前に村人の数が人狼以下になれば人狼の勝ちだ。
「随分と物騒な設定なのね」「こんな野蛮なゲームが、本当に持て囃されたのですか?」
と、夢結様と楓さん。
「二人は知らないのか? 梅は一度やったことあるぞー」「私も、名前くらいは知ってる」
これは梅様と鶴紗さん。
「私も何度か嗜んだことがあります。先程まで隣にいた仲間が、一人、また一人と消えていく……大変趣深いゲームでした」
「過酷な状況でも冷静に……。そんな訓練の為のゲーム、なんだね」
これは神琳さんと雨嘉さん。「……って、そんな殺伐としたゲームではないですけど……」
さて、皆さんが興味を持ったところでもう一押し……と思っていると、「『汝は人狼なりや?』、じゃな」とミリアムさん。
「わしも名前くらいは聞いたことがあるぞい。……ま、流行ったのは半世紀ほど前らしいがの」
その言葉に「ふぅん?」と楓さん。
「い、今でも巷で人気なんですよ~」
ミ、ミリアムさんは流石に詳しいですね……、と釈明に追われる私。
「と、とにかくです! 私たちはレギオン結成からまだ間もない存在です。お互いのことを知っているつもりでも、まだまだ隠された一面がある筈です」
それを炙り出すのが、この|深謀遠慮
「どうでしょう? リリさんの意外な一面が分かったり……?」
ピクリ、と若干二名が反応を示した。
「夢結様や梅様の戦術の一端が分かったりとか?」
ピクリ、と今度はミリアムさんと鶴紗さん。
「それに、シュッツエンゲルの絆が試される場面があったりして……!」
これはダメ押しのキラーフレーズだ。梨璃さんは、考えるように目を瞑った。
そしてほどなくしてニッコリと――私の予想通りに――笑った。
「私は人狼ゲーム、やってみたいと思います! ……もちろん皆さんがよろしければ、ですけど」
梨璃さんの賛成に、内心乗り気になっている皆が反対する理由もない。
……来ました、来ましたよ、と私は内心ニヤリと笑った。
ゲームはゴングが鳴る前に始まっている。いや、その半ば以上が決まっていると言って良い。
私はともすればニヤケそうになる顔を整え、平常を装った。
「それでは早速、今晩、地下のレクリエーション室に集合です~!」
-2-
「さぁ、みんな揃ったわね! それじゃあルールを説明するわ!」
「ルールヲ、セツメイスルヨ!」
一同の前、百由様と助手のロボットが当然のように宣言した。
「おい、脈絡なく出てくるな。そして出しゃばるな。そんでその機械は何だ」
そして梅様が一つ一つ丁寧にツッコんだ。
「あら~お目が高いわね! これはメカルンペルシュティルツヒェン君~人狼の姿~よ! 小型化に加えて搭載機能は当社比なんと1.5倍! そして値段据え置きのお買い得性能!」
答えたい質問だけ答えるなよ……と梅様。
まぁ確かに、以前見かけたメカヒュージより「メカルンペルシュティルツヒェン君ね!」……以前見かけたメカルンペルシュティルツヒェン君より、格段に小型化している。搭載機能が何かは分からないが、作り手の情熱は一応感じ取れる。
「へぇ~可愛いですね~」と梨璃さん。
「ア、アリガトウダナンテ、オモッテナインダカラネッ」
「つ、ツンデレ機能搭載!?」
何と言いますかこの方は相変わらずですね~、と思っているとちょんちょん、と肩を叩かれる。
鶴紗さんだ。
「おい二水。百由様がここにいるってことは……」
碌でもないことがあるんじゃないだろうな……? と鶴紗さんの心の声が聞こえた。
「違いますよ~。百由様は人狼ゲーム用のプログラムを提供してくれたんです!」
そう言ってタブレットのアプリを起動する。
もゆらぼ! という音声と共にポップなロゴが映し出され、続いてキャッチ―音楽とオープニングが流れてくる。
「結構細かいのぅ」
「あっ、このキャラ神琳に似てる」
「あら、こちらの可愛らしいのは鶴紗さんそっくりですよ」
「わぁ~本当ですね!」
「いや、あんまり似てないと思うが……」
音に釣られて、みんなが集まってくる。なるほど、ゲームへの期待感を高める良い演出だった。
「全く貴方は……。アーセナルの本分は研究と開発、じゃなかったのかしら?」
「いいえ、実は今回の一件も研究の一環なのよ。リリィの精神安定にゲームを活用するって話は良く挙がるけど、実際にどんなゲームがどれくらいの効果があるかなんて誰も実験してなかったの。私としては『真面目に遊ぶ』ものを作ったつもりよ!」
百由様に続いて、私が経緯を補足する。
「実は先日の取材の際、百由様がレクリエーションアプリを作りたいって仰ってたんです。それに乗っかる形で今回の企画を思い付いた訳なんですよ」
……まぁ、人狼ロボが登場するのは予想外だったが。
「安心して。最初はチュートリアルの為に私も参加するけど、途中からは隣の部屋で観戦するつもりよ。メカルンペル君のAIも突貫だから、専ら数合わせ用ね」
だから安心、安心よ、と『安心』を強調する百由様。
「本当に何にも裏がないということでよろしいですの……?」と楓さん。
「なんか怪しいんだよな……」と梅様。
「まぁ、仮に裏がったとして、私たちは楽しむ、百由様は研究の成果に繋がるでwin-winということで……」
完全に裏がある前提の私たちに、百由様は信用がないのぅ……とミリアムさんがぼやいた。
いえまぁ、協力いただいた手前、疑うのは申し訳ないのですけど……。どうも信用しきれないのが百由様なのだった。
「それで、このゲームの流れについてもう一度教えてもらえるかしら。一通り確認しているけれど、私も梨璃もあまり詳しくないわ」
「あー、それですけど……」
「夢結さんも梨璃さんも大丈夫よ! 初心者でも初心者なりに楽しめるわ。気軽に行きましょ?」
~~ゲームのルール~~
村人と人狼に分かれて、相手を全滅させることを目指す。
〇ゲームの流れ
昼 会議
誰を処刑するか決める⇒人数-1
夜 人狼・占い師のターン
占い師が誰を占うか決める
人狼が誰を殺害するか決める⇒人数-1
昼 会議
誰を処刑するか決める⇒人数-1
……
このように昼⇒夜⇒昼⇒……を繰り返し、
人狼が0になったら村人の勝ち。
村人が人狼の数と同数以下になったら人狼の勝ち。
tips
・死んだプレイヤーはそれ以降、一切の発言ができない。
⇒占い師が人狼に襲われたら、そのターンの占い結果を知らせることができない。
・会議には時間制限がある。設定時間の経過後、投票の時間に移る。
・誰を処刑するかは会議後の投票で決める。同数の場合決選投票が行われる。それでも同数ならランダム。なお、誰が誰に投票したかは分からない(設定変更可)。
・人狼が複数いる場合、襲撃先は多数決。(同数ならランダム)
・ゲーム終了時に死んでいても、所属陣営が勝利すれば勝利扱いとなる。
〇役職と能力
人狼……夜のターンに村人を殺すことができる。
占い師……村人陣営の主力。夜のターン毎に1人指定し、その人が人狼か否か確認できる。
狂人……村人ながら人狼に加担する裏切者。人数・占いの結果は村人陣営扱いだが、勝利条件は人狼の勝利。
tips
・狂人は、人狼としてカウントされる訳ではない。
⇒人狼2、狂人1、村人2の時でもゲームは終わらない。
・狂人は誰が人狼か分からない。人狼からも誰が狂人か分からない。
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「ちなみに確認ですが、占い師は死んだ者の白黒を確認できるのですか?」
「できません……よね? 百由様?」
「そうね、できないわ。……本当は霊媒師っていう職があるんだけど、今回は初心者が多いから省いているわ」
「自分の役職を公開することはできるのかしら」
「できるわ。ただし、それが本当である保証は示せないのだけど。逆に言えば、例えば狂人が占い師を騙ったりできるわ」
「それでは……」
意外と言うべきか、乗り気には見えなかった楓さんや夢結様がルールの仔細を尋ねていて少々驚いた。
「まぁ、1回やってみればいいんじゃないか?」
結局、鶴紗さんの言葉が契機となって、皆が席に着いた。
――思えば、この時の私は楽観的に過ぎたのかもしれない――
「それじゃあ、ゲームスタートね」
まさか、あんな恐ろしい事件が起こるなんて、私は――誰も――考えていなかった。
「さあ。設定はこんな感じね」
人狼……2
狂人……1
占い師……2
村人……5
ルンペル君……1(村人)
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初日の殺人……あり(ルンペル君)
初日の占い……あり
「良いのではないですか」
「と言っても」
「まぁ、どれがいいかなんて分からないけどなー」
そんな初心者組のボヤキを聞きながら。
これは実質的に初手犠牲者無しの10人村、オーソドックスなルールだ。
――初手に占い師が落ちる可能性がない、ということは村人有利な筈ですわ――
ええ、楓さんならそう考えるでしょう……。
(というのも、この形式なら吊りは最大4(PPなら3)、占いは初手COなら1+2=3回(初手被りなら2回)、占い師自身の白で2、と普通にすると10人中7~9人が吊られるor確白が出る。特に、被りなしで狂人か狼が吊られている場合は、占い・投票先が全て逸れるのを祈るしかない)
――しかし、それは初心者特有の『机上論』!――
このゲームは数学パズルではない。論理的な手順に沿っても必ずしも100%の答えは出ない。『~な気がする』『何となく怪しい』『この役職ならこう考える筈だ』。曖昧な情報を懸命に積み重ね、自分や他人を納得させる理屈を作りだすゲームだ。
ゲーム後に「え~あんな怪しいこと言ってたのに白なの!?」「信じてたのにぃ~」という光景は茶飯事。理屈は大前提として、それを"利用"するゲームなのだ。
――さぁ、皆さんはどれくらいご存知でしょうか?――
思考が冴えてくる。ドクンドクン、と心臓が心地よく高鳴る。
タブレットが手元に回ってくる。
ふみさん、貴方の役職は【人狼】です
来た……! 来ました……!
――勝負は始まる前に半ば終わっている――
オンライン人狼クラブ。
リリィファンクラブから派生したサイトで生まれた、チャット人狼。
二水は一時期、そこでバリバリ鳴らしていたことがある。
初心者をうまく引っ掛けるミスリードも、人狼が議論をかき回す手法も、全て二水の脳細胞に刻まれていた。
タブレットが中央に置かれる。皆の緊張した顔が、仄かな光源に照らされている。
それでは、議論を開始してください
さぁ、始めましょう。
――ただし、一方的な虐殺をね!――
「はい! 私、占い師です。二水ちゃんが狼です」
「……………………え?」
え? …………え?
え?
開始2秒。私の完璧なタクティクスは儚く崩れ去ったのでした。