アサルトリリィ BOUQUET  ~if~   作:クロスカウンター

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第4.1話 vs特訓開始

 春風が優しく木々を揺らす。太陽が気持ちよく身も心も温めていく。百合ヶ丘女学院、本日も晴天なり。

 ……とか何とか言う前に。

「やっ……やっと終わりました……」

 フミは盛大にため息を吐いた。フミたちは、つい先程まで『新入生向け』の講義を受けていたのだが。

――何が『新入生向け』ですか……――

 フミやリリが目を回す程のスピードで、板書も授業も進行していた。初めはその教導官がたまたまそういう人なのかと思っていたが、どの授業、どの先生も大抵そうであると、この一週間で気付いてしまった。

 今日から二週目の講義が始まり、より一層加速する授業スピードに、フミは身も心も疲れ果てていた。

 しかし。

「何をおっしゃいますか。この程度で音を上げてしまうようでは、立派なリリィにはなれませんわ。ねぇ、リリさん?」

 その講義を一緒に受けていた筈の楓は、ピンピンした様子でリリに抱き着いている。

 ……何故でしょう……まさかリリさんパワーで無尽蔵のエネルギーを……?

「よし! 今日もレギオンメンバー探し、頑張らなくっちゃ!」

 視線を横に移すと、リリもまた、あの地獄の講義を終えた直後と思えないほど元気一杯なのだった。

 ……私もあやかれないものですかね~、とリリに手を伸ばすと、楓に威嚇されてしまった。

「いいじゃないですか! 減るもんじゃありませんよ!」

「いけませんわ! リリさんはアナタのような下賤の民が触れて良い御方ではありません!」

 酷い言い様だった。

「……と言いますか、どっちかというとリリさんも私側ですよ?」

「お黙りなさい、ちびっこ! 魂の貴賎ではリリさんの圧勝なのですわ!」

 魂の貴賎って何ですか……。そうツッコミたいのは山々だったが、あまり深追いすると講義のノートを見せてもらえなくなるので(フミ唯一の命綱)黙っておくことにした。

 それに、現状に文句を言うより、明日のレギオン結成の為に奔走する方が有意義と言うものだった。フミは頭を切り替え、いざ未来のレギオンメンバーを見つけに行かんと、力強い一歩を踏み出した!

「お待ちなさい、フミさん」

 そこに、真面目な顔の楓が立ちはだかっていた。

「え、何ですか?」

「リリさんもちょっとよろしいかしら」

「うん。でも、早くメンバーを集めないとユユ様に怒られますよ?」

 キョトンとする2人に、楓はため息を吐いた。そしてカッと目を見開き、ビシリとチャームを突きつけた。

「アナタたちは弛んでいますわ!」

 その決めポーズに、リリもフミもぽかんと口を開けた。

「いえ、その、弛んでいるも何も、講義に演習に自主練にレギオン作りまで、むしろバリッバリに引き絞られてい……ひぇっ!」

 急にチャームの切っ先を向けられ、フミは短く悲鳴を上げた。

「そのレギオン作りが問題なのですわ」

 楓はチャームを下ろし、再びため息を吐いた。(……何で私はチャームを向けられたんですかね……?)

「え? でももう7人も集まったよ?」とリリ。

「そうですよ。ですからあとふた……ひぇっ!」

 急にチャームの切っ先を向けられ、フミは短く悲鳴を上げた。

「ちょっと! 何で私だけチャームを向けられるんです!?」

 しかしフミの抗議は無視され、あくまでも真剣に、楓は口を開いた。

「あと2人揃えば、レギオンは発足してしまう。このことの意味がお分かりですか、フミさん?」

 フミはリリの陰に隠れつつ、記憶を手繰り寄せた。

「……えー、レギオンができますと、控室が与えられ、また独自の判断による出撃が広く認められ……一方で、学院からの出撃要請にも応える必要がでてきますね」

「へぇ、控室なんてあるんだ……」とリリ。

 まぁ控室はともかく、それがどうしたのだろうかと首を傾げていると、楓はピシリと、今度は指を突きつけてきた。

「それですそれ!」「控室ですか?」「違います! 出撃要請ですわ! レギオンが出来てしまうと、まず間違いなく哨戒任務には駆り出されます。アナタのような素人が前線に出たら、どうなってしまうとお思いなのですか!」

 胡乱げな表情だったフミは、そこでハッとした。

 楓に言われて初めて、フミは『レギオン作成』のその先のことを全く考えていなかったことに気付いたのだ。フミは、いつしかレギオン作りがゴールであるように思ってしまっていた。しかし、それはむしろ戦いのスタートでもあった。

「リリさんは(わたくし)がお守りします。しかし、それでも万が一、ということは起こり得ます」

 リリは、自身の左腕――入学式の出撃で負った傷――に触れた。『運が良かったのね』。ルームメイトの言葉は脅しでも何でもなく、言葉通り事実だった。

 リリは、その表情を引き締めた。

「……もっと強くならなきゃ、だね?」

「その通りですわ。レギオンメンバーがここまですんなり集まるとは、私も予想外でしたもの。ここは一旦足を止め、『戦場で最も大切な技術』を学び修めるとしましょう!」

 リリは「はい!」と元気に返事をした後「……はい?」と疑問の声を上げ、フミは「戦場で最も大切な技術?」と首を傾げた。

「そうですわ!」

 ビクッとしてリリの後ろに隠れたフミに向け、楓は再び指を突きつけた。

「アナタたちにはリリィの基礎、『防御技術』を会得していただきます!」

 

 

「初心者が戦場において最も大切にすべきことは何か。それは、自分の身は自分で守ることです。つまり、アナタたちは味方の邪魔にならず、無事に生き残るだけで100点なのですわ」

 楓の言葉は尤もだったが、それでは自分たちは足手まといだと言われているようで(事実そうなのだが)フミは苦い顔をした。

「でも、それでしたら戦場にいる意味なんてないんじゃないですか?」

 フミの疑問に、「何をおっしゃいますか」と楓。

「例えアナタのような初心者でも、ヒュージにとっては『自分に致命傷を与えうる存在』です。ただ生き残るだけでも、確実にプレッシャーになるのです。安全圏からちまちま撃たれるだけでも、ヒュージ側からしたら嫌なものですわ」

 自分がヒュージに『致命傷を与えうる存在』。その発想はフミの中にないものだった。

「ヒュージと言えど、乱戦の最中(さなか)、一々誰が攻撃してくるかなど判別できません。アナタの攻撃を防御したり、回避したり、あるいは迎撃に向かったり。敵にリソースを割かせることができるのです。分かりますか? つまり! 自衛のできる人間は、立派な『戦力』なのです!」

 フミは目からウロコが落ちる思いだった。

 自衛はリリィにとって最低限だと、それすらできない自分に引け目を感じていた。しかしそうではなく、その自衛こそが、今、目指すべき、自分の『100点』だったのだ!

「そのためには! 1に防御、2に防御! 3、4に防御で5に防御! ですわ!」

「はい! 私、防御技術をマスターして立派なリリィになります!!」

 と、フミは完全にその気にさせられていた。楓も、伊達にチームの司令塔としてその名を馳せてきた訳ではないのだった。

 しかし、リリは「うーん……」と悩むような表情をしていた。

「あれ、リリさんはあまり乗り気じゃないんですか?」とフミ。

「ううん、そうじゃないんだけど……。ユユ様や楓さんみたいに、もっとササって攻撃を回避できたらいいな、って思って」

 確かに自衛と言えば、防御だけでなく回避も重要な技術である。

 まずは防御をマスターしてその次に回避なのでしょうか? ……とフミが思っていると。楓が、ゆっくりとチャームを振り上げているのが見えた。

 咄嗟にチャームを起動し、後方に飛び退く。数瞬後、フミのいた場所にマギの乗った一撃が振り下ろされた。

 フミはヒヤリとした。

「ちょっ! 何をするんですか急に!」

 楓は、あら、防御するものと思ったのですがよく避けましたね、と心の中で呟いた。まぁ、フミとしては散々チャームを向けられたので咄嗟に身体が動いたのであるが。

「……フミさん。アナタ、今、チャームはどうされていますか?」

「いえ、どうもなにも……」

「下がっていますわね? つまり、無防備な状態です」

 言われてみれば、フミのチャームは無造作に構えられているだけで、防御の形になっていない。フミほど無防備でなくても、回避をすれば誰だって防御の型は崩れるだろう。

「防御と回避は同時にはできない。防御技術の基本ですわ」

 しかし、リリはなおも疑問を口にした。

「でも、お姉さまは回避しながら防御してヒュージに向かっていたよ?」

「確かに、一流のリリィは防御をしながら回避を行っているように見えることはあります。しかし、あれも一つ一つ場面を切り分ければ、ある時は『防御』、ある時は『回避』に専念しているのです」

 楓はチャームを戻し、2人に向き合った。

「そうなのですよ。どんな一流でも、場面ごとにどちらかに専念しなくてはなりません」

 そして難易度が高く、失敗のリスクも大きいのが回避だった。

「高等技術なのですよ、回避というものは。まずモノにすべきは確実な防御です。それに、どんな一流でも、防御を全くしないリリィはいませんから」

 しかし、少し逡巡するように間を開けて、こう付け加えた。「……クスミさんのような僅かな例外を除いて、ですが」

「え゛っ!」とリリ。

「あー。まぁ、ファンタズム(未来視)の申し子たる江川樟美(クスミ)さんは、『完全回避で防御をしない』と言われていますね~」

 なお、クスミは二代目アールヴヘイムの主力メンバーである。その圧倒的なファンタズムの力を活かし、あらゆる攻撃を回避する。他のファンタズム持ちでもここまで華麗な戦いはできない、百合ヶ丘屈指の才人である。

 そのクスミに対し、リリは、「私、ラムネをあげて抱きついちゃったりしたんだけど、大丈夫かな……?」かなりフランクに対応していた。

「いえ、まぁ、気にされていないと思いますよ」とフミ。

「でも……よくよく思い出したらちょっと嫌がってたかも!」

「大丈夫ですって! クスミさんは人見知りする(かた)で、恥ずかしがっていただけですよ!」

 と言いつつ、嫌がっていると思ったならその時点で止めるべきでは? と思わなくもなかった。まぁ、それがリリさんの魅力ですけども……。

「いえ! リリさんは人との距離が近すぎるんですわ!」

 それは間違いなかった。

 ……と、話が脱線しつつあるのを感じ、

「それで、防御技術は楓さんに教えていただけるんですか?」

 フミは軌道修正を図った。

「それでも()いのですが、防御技術はその道のプロフェッショナルに任せたいと思います」と楓。

「プロフェッショナル?」

 リリとフミは首を傾げた。

 

 

「で。その流れでどうして(わたくし)たちの処へ来たのですか?」

 シェンリンは、憮然としているのか澄ましているのか判然としない顔で問いかけてきた。

「シェンリンさんはジャストガードの習得者ですし、それにその道の『プロ』もいらっしゃいますから」

 そう言って、視線を横にスライドさせる。そこには……「わ、私……?」リリにクッキーを食べさせられている大人しそうな少女、ユージアがいた。

 ユージアはBZ(後衛)教育の名門、ヘイムスクリングラトレードゴード出身であり、そこのリリィは守りに定評があるのだった。

 そしてそんな名門校からやってきたユージアもまた、エリート中のエリートであり、決して、気軽にあーんをしたりさせたりしていい相手ではない筈である。

「といいますか、リリさんも何をやってるんです……?」

 まぁ、ユージアさんも満更でもなさそうですが……。

 しかし、もしかしたらそれが、ユージアの気に障ったのかもしれなかった。

「話は分かりました。しかし、私のユージアを貸し出すことは認められません」

 シェンリンは、きっぱりとフミらの申し出を断った。

「え~、そんなぁ……」とリリ。「残念です……」とフミ。

「いえ、それ以前に『私のユージア』って何なんです? いつからユージアさんはアナタの所有物になったのですか」

 楓のツッコミに、「あら、ご存じなかったのですか?」とシェンリン。

「実は先日、そのようになりまして」

「なりませんよ! そんなに取られたくないのでしたら、名前でも書いておいたら如何ですか?」

「書いていますよ。お見せしましょうか?」

 真顔で事も無げに言うので、本気か冗談か見分けが付かなかった。

 そんな緊張漂う最中、リリが、そっとユージアのシャツを捲り上げる。

「リリ!? 何してるの?!」(ユージア)

「え? 名前、書いてないかなって……」(リリ)

「冗談に決まってるではありませんか! ……ですわよね?」(楓)

 シェンリンは「うふふ……」と笑った。

「……ホント冗談ですよね……?」(フミ)

「まぁ、真面目な話、防御技術を磨いて損はありません」「露骨に話を変えましたね……」「ユージアさんも乗り気なようですし」「え? ……。うん……乗り気だよ!」

 『え?』って言ってましたよ『え?』って……。

 まぁ、引き受けてくれるなら何でもいいのであるが。フミがそう思っていると、シェンリンがちょいちょいとユージアを手招きした。

 ユージアと、それにつられたリリがシェンリンの方に向かうと、シェンリンはリリに手を突き出し『待て』をした。ピタッと止まったリリに、楓は口笛を吹き、ちょいちょいと手招きをした。

 のこのこと、シェンリンと楓の(もと)に向かうユージアとリリ。あなたたちはペットか何かですか……。

「さてユージアさん、お二人にはどのような訓練がよろしいでしょうね?」

 ユージアが自分の許に辿り着くと、シェンリンは妙に通る声で話し始めた。

「うん、そうだね……」「ところで話は変わりますが、リリさんにあーんされるのって嫌じゃありませんか?」

 え? とユージア。

「えっと……別に……」「嫌ですわよね」「……あの」「嫌ですね?」

「…………うん、嫌だったよ」

「ユージアさん!?」(リリ)

 何かが始まっていた。

「そうですか。リリさん、そういう訳ですから、今後はこのようなことは自重なさってください」

「あ、うん……ごめんね、ユージアさん」とリリ。

 明らかに言わせたじゃないですか……。フミはそう思ったが、下手なことを言うと自分に飛び火するのは目に見えていたので黙っていることにした。

「本当に名前も書いているんじゃありません?」と楓。「楓さん!しっ!」(フミ)

「さてユージアさん、お二人の訓練ですけど、初心者向けか、ちょっとレベルの高い上級者向けか、鬼も黙る地獄の特訓かで悩んでいるのですが、ユージアさんはどう思われますか?」

 地獄の特訓って何ですか……?

「えっと……やっぱり……」「地獄の特訓ですか」「……あの」「地獄の特訓ですね?」

「…………うん、地獄の特訓だね」

「ユージアさん!?」(フミ)

 何か恐ろしいことが始まろうとしていた。

「そうですか。リリさん、そういう訳ですから、私も心を鬼にして地獄の特訓に協力したいと思います」

「あ、うん……が、頑張るね?」とリリ。

「あの、私も必然的に地獄の特訓を受けるんですよね……?」とフミ。「ご愁傷様。当たって砕けてきなさいな」と楓。

 こ、この~他人事だと思って……!

「さて、」「まだあるんですか!?」(フミ)「いえいえ。後はユージアさんの心意気を確認しようと思っただけです。訓練ではもしかしたらリリさんやフミさんが傷付いたり、『不幸な事故』が起こるかもしれませんが」「ちょっと! 不穏すぎますよ!!」(フミ)

「…………うん、不幸な事故なら仕方ないよ!」

「「ユージアさん!?」」(リリ・フミ)

 戦場の狂気というものだろうか。あの優しかったユージアさんが、ここまで好戦的になるとは……。「いえ! ちょっと、シェンリンさん! ユージアさんに何言わせてるんですか?!」

「まぁまぁ。ああはおっしゃっておりますが、流石に危険な訓練をなさる(かた)ではありませんわ」と楓。

「それに、何かありましたら私がリリさんをお守りしますから!」

「……私のことは助けてくれないんですね……」とフミ。

 とはいえ、確かに『地獄の特訓』とは言え、滅多なことはしないだろう。

 そう思った10分後、1km離れた地点からユージアとシェンリンに狙撃されることになろうとは、少しも想像していないフミであった。

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