アサルトリリィ BOUQUET ~if~ 作:クロスカウンター
「うぅ~酷いですよ……楓さんもシェンリンさんもユージアさんも……」
「あはは……でも、おかげで度胸は付いた、かも?」
シェンリンらによる防御訓練が終わった後、リリとフミは2人で雑談していた。正確には、5人(とひっそりと合流してきたミリアムの6人)で入浴した後、長湯気味な楓を待って、脱衣所併設の休憩スペースで時間を潰していた。
「でも、やっぱりユージアさんって射撃が上手なんだね」とリリ。
フミもその点について異論はないのだが、先程、『初弾を受けて吹っ飛ばされたリリが地上に着くまでに残り9発の弾丸が叩きこまれる』という衝撃シーンを目撃した手前、手放しで褒めにくかった。
「まぁ、よくリリさんのチャームだけ狙って当てられるなとは思いますよ」
使用されたのが訓練弾とはいえ、ユージアの度胸も中々だった。
ちなみに、訓練弾なら滅多に怪我はしないとはいえ、普通に痛い。例えるなら強力ゴムパッチンくらい痛い。訓練中、常にゴムをくわえさせられているような絶妙な恐怖感があり、なかなか精神に来るのだった。
何も知らないミリアムが『何じゃ、面白そうなことをしておるの』と、明日から訓練参加を希望しているのを聞いて、内心フミはニヤニヤしていた。
ふっふっふ……ミリアムさんも一緒に苦しんでいただきますよ……。
ただし、訓練弾に慣れてきたフミたち2人には近日中に実弾での訓練が始まることを、この時フミは知らないのであった。
「何にしても! 早く皆さんに追いつくため! 頑張りたいものですね……ってリリさん?」
ふと目を向けると、リリがぼーっと壁の方……正確には、恐らく壁際に設置されている体重計に目線が釘付けになっているのが見えた。
「リリさん? もしかしてダイエットでもされているんですか?」
「え?! 違うよ? 別にそんなダイエットだなんて……!」
とは言うものの、その目線は右へ左へと泳ぎ回っていた。
「確かに49kgは高1リリィ平均より高めですが、別に気にする程の事でもないかと……」
フミの、そのフォローかどうか微妙なラインの言葉に「あ、やっぱり高めなんだ……」と気落ちしつつ……ふと気付く。
「……って、フミちゃん……? どうして私の体重を知ってるの……?」
リリは疑問、というより疑念と不信の目でフミを見た。
「ええ。体重は153cm、血液型はA型で誕生日は6月19日ですよね」
「だから何で知ってるの!?」
警察……通報……不法侵入……不正入手……。リリの頭に物騒な単語が踊るのが、傍目にもありありと見えた。
「いえ、まぁ、種明かしをしますと、この位の情報は官報やリリィネットワークで広く公開されているものなんですよ」
「ええ!? 私の体重が49kgってこと、世界中に公開されてるの!!?」
リリがあまりに大仰に驚くので、周囲の目線が2人に集まり、フミは少し恐縮した。
『まぁ。ダイエットですか』『女の子ねえ』『リリィなのですから気になさらなくてよろしいのに……』。周囲の目はその程度の意味しかないのだが、リリにとっては……。
『49kg?』『この身体で49? デブね……』『まぁ、肥えた豚がよくも恥ずかしげもなく百合ヶ丘に来られたものね』……「って! 誰が豚ですか!!」
「リリさん、落ち着いてください。そんなこと誰も言ってませんし思ってませんよ……」
と
基本的にリリィの体重は同年代平均より軽くなりがちだ。
マギの消費に多大なエネルギーを使う上、そもそもの運動量が大きい為、いくら食べても食べ足りない程なのである。三食に加えて夜食までしっかり摂るリリィもいるが、それでも太っているリリィはまず見かけない。その程度には、リリィは体重の悩みとは無縁の存在の筈だった。
実際、リリの153cm、49kgというのは適正体重よりやや痩せ気味程度。フミとしては、それは特別気にするような体重にはとても思えなかった。よって、
「……ちなみにだけど、フミちゃんの体重って……?」
と、おずおずとリリに尋ねられた時も、
「152cmで44kgですよ~」
と何気なく答えてしまったのだった。
ちなみに血液型は……と続けようとして、リリが口を大きく開けて絶句していることに気付いた。その段になってようやく、フミは事の重大さを察した。
しかし時既に遅し。リリはわなわなと震える口を開いた。
「よ……44kg……?」
「は、はい……そうですね……」
「私と……1cmしか違わないのに5kgも軽いの……?」
あ、これ地雷だったんですね……。「いえ、あの、リリさん」
「私のこと、『あぁ、1cmしか変わらないのに5kgも思い肉の塊だ』って思ってたの……!?」
「思ってないですよ……!」
「初めて会った時も『私より5kgも重いくせに』、クラスが一緒だった時も『私より5kgも重いくせに』、レギオンに入った時も『5kgも重いくせに』って、ずっと思ってたんだね!?」
いや、そんな性格悪くないですよ……。
「ちょっと貸して!」
と言うと、有無を言わせずフミが持っていた手帳をひったくり(かつてないほど強引ですねぇ)、目ざとく、レギオンメンバー(仮)の基本情報をまとめたページを見つけ出した。
フミは、何となく嫌な予感がした。恐らく、最もリリが気にするであろうユユ様の体重だが……フミの記憶によれば、確か50kgより小さかった気がするのだ。せめて49……せめて49kgで……と祈るような気持ちで見ていると、リリは…………「ほぇーー」と気の抜けた音と共に地面に崩れ落ちた。
フミは、手帳を拾い上げる。白井夢結、身長163cm、体重48kg。
あー、やっぱりそうでしたか……。
「わ、私より10cmも高いのに1kgも軽い……」
この世の終わりかというほど悲嘆にくれるリリ。どうしたものかと思ったが、このままにする訳にもいかない。一先ず宥めてみることにした。
「まぁまぁ。10cmも1kgも誤差みたいなものですよ」
しかし、リリは勢いよく顔を上げると、「フミちゃん! 乙女の1kgはペットボトルの1kgより重いんだよ!」と訳の分からないことを言い始めた。
「私より5kgも軽いからってバカにして……! この……裏切者ー! あんぽんたん! チーズみたいな人間性ー!」
「あぁ、トムとジェリーみたいなチーズですか……?」 ※穴あきチーズ
と言いますか、あんぽんたんって。久しぶりに聞きましたよ……。
そのワードチョイスはどっから来てるんですかね? と、半ば感心しつつ、さてどうしたものかと手を出しあぐねてしまった。
そこに、「あら、リリさん。
リリは、一直線に楓に近付いた。
「楓さん、身長と体重は何kgですか?!」
そしてフミが止める間もなく、「164cmの52kgです。誰もが認める完璧なプロモーションですわっ」と楓は自信満々に答えた。
リリは何やら指折り数えた後、
「楓さ~ん!」
楓の胸元に飛び込んだ。
「きゃっ! リリさん、こんな人が見ているところでなんて……大胆すぎますわっ」「楓さんだけが私の仲間だよ~」「あぁ……! リリさんがようやく私の魅力にお気付きになったのですね……! ささ、この続きは私の部屋で……」
「ちょっと、何
どうでもいいが、リリの指折りを見る限り、恐らく『3cm=1kg(端数切捨て)』算を採用しているものと思われた。多分、シェンリンさん(165cm、53kg)はセーフでユージアさん(163cm、50kg)はアウトなんだろうなぁと、よく分からないが、もののあわれな気持ちに襲われるフミであった。
「そんなことより聞いてくださいよ、楓さん」とフミ。
「ダメ! フミちゃんみたいなはんぺんの言うことなんて聞かないで!」とリリ。
「また妙なことを……! 楓さん! 聞いてください、リリさんの一大事なんですよ!」とフミ。
「ダメ! こんな薄っぺらな人間の言うことなんて聞いちゃダメだよ!」
この貶されるのか貶されていないのかよく分からない罵倒は、リリの優しさかもしれなかった。
一方、楓は視線を行き来させつつ2人の言葉を吟味していた。そして何かを決めたようにスッと目をつぶる。
……のは良いんですけど。これ、10:0で負けますね……とフミは思った。
「お黙りなさい、この練り物の手先が!」
案の定ですよ……!
「と言いますか、なんで楓さんまではんぺん呼ばわりなんです?」
「はいはい。アナタはコンビニのレジ横にお帰りなさいな」
「ですからおでんの具じゃないですって!」
「すり身の戯言なんて聞いてられませんわ。私たちは部屋の方でじっくり……ですよね、リリさん?」
「うん、私たち……一緒に頑張ろうね!」
「? はい! 頑張りましょう!」
「頑張って、4kg痩せようね!」
リリは笑顔で宣言し、楓は……。
「…………はい?」
笑顔のまま首を傾げた。
言わんこっちゃない。そう思ったが、はんぺんにはもう止める気力も残されていないのであった。