六等星   作:希望光

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Birthdays
沙綾誕生日回:〜Far songs〜


 冬も終わりを告げ春の陽気が訪れ始めた3月初旬、柔らかな日差しを受けながら和希は都電早稲田駅に降り立った。

 

「んー、良い天気」

 

 普段とは違い黒のTシャツの上に赤を基調としたチェックのネルシャツを羽織り、明るい青地のデニムを見に纏った彼は駅を出るなり川沿いへと歩みを進めていった。

 

「穏やかなだな」

 

 優しげな川のせせらぎを聴きながら、人気のない神田川沿いを歩いていく和希。そうして辿り着いたのは江戸川公園。時間が時間のせいか、人の姿は無かった。

 

「今日は貸切日の気分……なんてね」

 

 1人で言葉を溢した和希は微笑すると、滑り台の上に登り腰を下ろすと空を見上げた。そのまましばらく澄み切った空を眺めていると、公園内に何者かの足音が響き始めた。

 

「——来たかな?」

 

 持っていたショルダーバックを背負い直した後に、視線を音の方へと向ける和希。その視線の先にいたのは、よく見知ったポニーテールの少女。

 

「お待たせ」

「俺が早く来すぎただけだから大丈夫だよ、沙綾」

 

 滑り台の上から降りた和希は沙綾の元へと歩みを進める。

 

「それで、今日出掛けたいっていう話できたけど……お店とかいいのか?」

「うん。その辺はお父さんがやってくれるって言ってたから」

「あー……なんか言ってる姿が想像できるな」

 

 沙綾の返答に苦笑した和希。そんな彼に釣られて、沙綾も笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、行こっか」

「ああ」

 

 頷いた2人はそのまま江戸川橋駅方面へと歩み始める。そんな2人の様子を、橋のそばから見守る少女の姿に2人は気付かなかった——

 

 

 

 

 

 江戸川橋から地下鉄に乗り込んだ2人は、乗り継ぎを行い上野公園を訪れていた。

 

「久々来たな……上野公園」

「私も小さい時に来た時以来かな」

 

 不忍池の縁を歩きながらたわいも無い会話を繰り広げる2人。都会のど真ん中に位置しているにも関わらず、池の縁はとても静かであった。

 

「夏場はここに大量のハスが浮かぶんだよね」

「へぇー……見てみたいなぁ」

「夏、もし時間が取れたら見にこようよ」

「うん!」

 

 外周を歩き終え2人は、公園の中心部へと移動していく。その最中、人もまばらな公園内を見渡した和希が、沙綾の方へと視線を戻し問いかけた。

 

「んで沙綾、ここにきて何をするんだ?」

「動物園行きたいんだけど……どう、かな?」

「了解」

「やった」

 

 和希の了承を得た沙綾は幼い子供の様な満面の笑みを浮かべる。それを見た和希はも優しい笑みを浮かべ彼女に手を差し伸べる。少し驚いた後、沙綾は彼の手を取ると揃って動物園の方へと進み始める。

 その2人の後ろを、怪しげな4人組が着けているとも知らずに——

 

 

 

 

 

 夕刻、動物園内を巡り終えた2人は西陽を浴びながら帰路につこうとしていた。

 

「楽しかったね」

「同じく。パンダも見れたしよかったよ」

「うん。パンダ可愛かったね」

 

 互いに感想を述べながら駅へと進んでいく。そんな中、和希が何かを思い出し鞄の中身を漁りはじめた。

 

「どうかしたの?」

「えーっとね……あったあった」

 

 鞄の中から1冊のノートを取り出した和希は、そのノートを沙綾へと手渡す。

 

「これは?」

「誕生日プレゼント。あまりいいものではないけど」

 

 苦笑する彼からノートを受け取った沙綾は、表紙を眺めた後に中身を開く。

 

「——『遠い音楽 〜ハートビート〜』?」

 

 大きく記された表題を呟いた後に、下に書かれた(うた)に目を通していく。

 

「——それは過去の記憶近く遠い 知らんぷりをしてたよみがえる日々」

 

 どこか懐かしいその詩を、沙綾は無意識の内に口ずさんでいた。同時に彼女の脳裏を駆けるこれまでの日々。

 初めて音楽に触れたあの日の出来事。音楽から離れていってしまった辛かった日の事。卓上で出会った見知らぬ女の子とのやりとり。高校生になって出会った目の前の彼のこと。見知らぬ女の子としっかりと友達になった事。そしてその子にバンドへ誘われた事。

 

「——ハートビート! “遠い音楽”が聞こえる 忘れ物を取り戻そうよ」

 

 サビの詩を読み終えたところで、沙綾は自身の頬を涙が伝っていることに気がつく。

 

「あれ……私、泣いてたみたい」

 

 涙を拭った彼女は微笑み、もう一度ノートの文字達へと視線を戻す。今一度それらを噛みしめた彼女は、知らずしらすのうちに歌詞へ己自身を重ねた。

 

「ねえ、和希君。この歌詞って、もしかして」

「沙綾のこと、イメージして作ってみた」

 

 気恥ずかしそうに答えた和希。その頬は夕陽の中でも認識できるほどに真っ赤に染まっていた。

 

「フフッ……そっか。私をイメージして、か」

 

 ノートを抱きしめた沙綾は、和希と正対すると彼のもとへと歩み寄る。

 

「——ありがとう」

 

 その言葉とともに、彼女は和希へと顔を寄せていく。そして、2人が触れ合うまさにその瞬間、2人の背後から大きな物音が鳴り響く。

 

「「ふぇ?」」

 

 驚いた2人は離れると、音のした方へと視線を向ける。そこには、地に倒れ伏すPoppin'Partyの4人の姿があった。

 

「な、何やってるんだ……?」

「え、えーっと……」

「ビコウだ!」

 

 和希の問いに香澄が悩んでいると、りみが嘘偽りなく答えるのであった。

 

「なんで答えるのよ!」

「はぇー、尾行ですか……ちなみにどこから?」

「りみ先輩は江戸川公園から、ジブン達は上野からっす!」

「あんたもよ!」

 

 ツッコミに徹する有咲を見ながら、呆れた様に溜息を吐く和希。そんな一同のやりとりを見ていた沙綾は1人笑みを零す。

 

「そっか……私、こんなに素敵なお友達に囲まれてたんだね」

「沙綾?」

「ううん、なんでもない」

 

 微笑んだ沙綾は一同の方へと向き直ると、謝意の言葉を述べるのであった。

 

「みんな、ありがとね!」

 

 音楽を通して出会った仲間達に囲まれたこの年の沙綾の誕生日は、彼女にとって掛け替えの無い誕生日になったのであった。

 その後、有咲の蔵で誕生日パーティーが行われることになるがそれはまた別のお話。

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