六等星   作:希望光

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本編
認識


 その年、花咲川高校には後に『星のカリスマ』と呼ばれる少女とその少女と仲間達と共に革命を起こす1人の少年が入学するのだった——

 

 

 

 

 

 通勤時間の賑わいを見せる鉄道路線の大塚駅に降り立った和希は、隣接するさくらトラムに乗り換える。

 そして、扉が閉まると同時にイヤホンで両耳を塞ぎ、音を流し込む。これが彼の登校風景だ。

 そんな彼は、今日もまたプレイヤーに入ったとある曲を再生する。ただ一つ、プレイヤーの中に入っている楽曲を。

 

 ——裏切りは暗いままfall down 崩れゆく世界は心引き剥がして熱を失った

 

 イヤホン越しに入り込んでくるその楽曲は、まるで自身を体現しているのでは無いか? 

 自問自答しつつも、とあるガールズバンドの楽曲を何度も何度も繰り返してるうちに、さくらトラムの終点で学校の最寄りでもある早稲田駅に到着する。

 降車口から人の波に乗り外へと出た彼は、そのまま通学路を通り何事もなく学校へと到着する。

 

「今日は日中……明日は夜か」

 

 教室に入り座席に腰を下ろした和希は徐に呟く。今日もまた、退屈な日々が始まる。夢を見ることのない。

 そんなこんなのうちに、担任の教師が現れHRが始まる。その際、何気なく隣の座席に視線を向けると普段いるはずの少女の姿が見えなかった。

 

(サボりかな……まあ、俺には関係ないか)

 

 一つ溜息をつくなり教科書を開く和希。授業という彼にとっては暇な時間を過ごしていく。

 そして、3時間目の授業に入るかどうかの時のことだった。今朝何気なく気に留めた隣の席の生徒が登校してきた。

 軽く彼女の方へ視線を向ける和希だが、すぐに目の前の教科書へと落とす。

 

(なんかに怯えてるような顔してるな……)

 

 再び授業が始まり教師が読み進める部分を目で追いながら心中で呟く和希。

 すると、現国の教師が自身の隣の席に座る生徒を指名する。

 

「それじゃあこの部分を戸山、読んでくれ」

 

 指名された隣の少女だったが、何かに熱中しているようで教師の指名に気づく気配がない。

 

「——戸山!」

 

 再び呼ばれようやく反応見せた少女。どうやら現実に引き戻された直後らしく、戸惑いの様子が見えた。

 

「戸山じゃないのか? ん?」

「……はい」

 

 座席表を片手に睨みつけるような表情の教師を前に、少女は力なく返事をし立ち上がる。

 

「ぼうっとしてるな、今のところ読んでみて」

「こ、恋はスタンプカードのようなものだ、と私は思う。このカードはいつか、かけがえのない何かと交換できる。そんな日がきっとくる。その日まで、私たちは小さな声で歌うのだ。絶対、最強——」

「ちょっと待て、スタンプカードってなんだ」

 

 教師が黒板を叩きながら少女の朗読を遮る。その直後、彼を除いたクラス全員からの笑いが巻き起こる。

 

「そこは来月やるところだぞ。もういい、座れ」

 

 教師に言われ着席した少女はそのまま俯いてしまう。その姿を横目で確認した和希が再び教科書に目を落とした直後、彼に指名が飛ぶ。

 

「神田、戸山の代わりに読んでみて」

「——はい」

 

 返事した和希は、教科書を手に取ると立ち上がるのだった——

 

 

 

 

 

 翌日の夕方、帰宅する人が多くなる時間帯に和希は大塚駅に降り立った。

 

「くぁー……寝過ぎた」

 

 昨日の授業後、バイトへ直行し21時まで働いた後、帰るなり徹夜で内職を行なっていた反動で正午過ぎまで眠っていた。

 そして彼は今から、定時制課程に出席するためにこの時間帯に大塚へとやってきた。

 

「そろそろ行くかぁ……」

 

 大きな欠伸をしながらさくらトラムに乗り込み、花咲川高校へと向かう。そして、到着した彼が教室に入ると1人の少女の姿を見つけた。

 

「あ、神田君。今日は早かったね」

「そう言う山吹も早いじゃないか」

 

 そう言って彼に声をかけてくるのはこの定時制課程で、彼の隣の座席に座る少女。

 彼女は山吹沙綾。彼が定時制課程で唯一会話する相手だ。

 

「うん。今日も少しやることがあってね」

 

 そう言って机に向き直る沙綾。そんな彼女の姿を和希は見つめ続ける。何かに情熱を注ぎ取り組むその姿に。

 暫く視線を送っていると、その視線に気付いた沙綾が和希へと問いかける。

 

「どうかしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 首を横に振りながら沙綾から視線を外す和希。何かに情熱を込められる。それが羨ましい、とは今の彼は到底言えなかった。

 

「そういえば、私の座ってる席に普段座ってる子ってどんな子なの?」

「……え?」

 

 突如として問いかけられた言葉に、困惑する和希。

 

「普段から、そこの席に座ってるんだよね?」

「うん……」

「それなら、知ってるよね?」

「知ってはいる……でも、話したことはない」

「そっか……」

 

 少し残念そうな表情をした沙綾は、再度机の方に視線を落とす。和希はそんな彼女の姿に、過去の自身を重ねるのだった。

 夢を見失った、あの日の自分に。

 

 

 

 

 

 ——まだ、空に星は見えない。

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