週明けの月曜日、和希は金曜日のことを引き摺りながら学校へと足を運んでいた。
「なんか、凄く……ショックだったな、うん」
質問しようと言葉を投げた瞬間に脱兎の如く走り去ってしまった少女のことを思い返しながら、学校への道を歩いていく。そして、そこから数分程経った後、彼は教室の自身の机に腰をかけていた。
「はぁ……」
大きく溜息を吐いた和希は鞄からノートを取り出し机の上で開く。そうして、ノートと睨めっこをしながらも先週末の少女のことを考えていた。あの曲はなんなのか。どうして自分はこんなにも気になるのか。そして——なんで逃げられたのか。それらを頭の中でぐるぐると考えていると不意に授業終わりの鐘が鳴り響きいつの間にか昼休みになっていた。
「……何か買いに行こ」
白紙のノートを閉じた和希は、何かに熱中し続ける隣の少女を横目に教室を後にし購買へと赴く。
辿り着いた購買は、昼時ということもあり混み合っていた。朝の通勤ラッシュの時間帯の在来線の様に。
そんな中で和希は人混みに沿い順番待ちの列に並び、順番が回ってくるとサンドイッチを2つ購入し早々にその場を後にした。
そして、教室へと歩みを進めている時のことだった。
「うう……お昼が……」
彼が泣きながら歩いている黒髪ショートで、何故か靴下を履いていない裸足の少女に出会ったのは。
(裸足……なんで?)
異様な光景に首を傾げている和希だったが、泣いている姿を見て思わず声を掛けた。
「えっと……食べる?」
視線を逸らしながらも、目の前の少女にサンドイッチを差し出す。すると、目の前の少女はパァッと明るい表情になった後、彼の手からサンドイッチを取る。
「御恩に着る! 我が盟主殿!」
そう言い残した少女は、サンドイッチ
「両方持っていかれた……」
1つ溜息を吐き、教室へと歩き始めるのだった——
その日の放課後、学校を後にした和希は地蔵通り商店街に足を運んでいた。平日の夕方故か、商店街は買い物客で溢れていた。
「混んでるな……」
人の波を一瞥した和希は、その波に従い商店街の中を進んでいく。すると、1軒の店に目が止まる。
「『ヤマブキパン』……?」
暫し硬直した後、彼は意を決して店の中へと足を運ぶ。
「いらっしゃ〜い。あ、神田君」
「山吹……」
カウンター越しに応じたのは、沙綾だった。
「ここってもしかしなくても」
「私の家だよ」
「なんとなくそんな気はしてたよ……」
苦笑しながら応答する和希。それと同時に彼の腹が空腹を告げる。
「アハハ。お腹空いてるの?」
「お昼食べ損ねて、ね……」
「そうだったんだ。なら、尚更ウチのパン食べていってよ」
「そうさせて貰おうかな。これも何かの縁だろうし」
並べられた様々なパンに視線を移す和希。すると、その中でも一際目立った商品に目が止まる。
「……これは?」
「それはこの店自慢のおすすめ商品『レッドホットドッグ』だよ」
「おすすめか……ならこれ貰おうかな」
トレーにのせたパンをレジに持っていく。
「わぁ、4つも食べるの?」
「いや、2つ。残りの2つは明日の朝にでも食べようかなぁと」
照れ臭そうに視線を外しながら答える和希と、満面の笑みを向ける沙綾。
「お代は丁度だね。はい、お品物になります」
「ありがとう」
短くお礼を述べ、パンの入った紙袋を受け取る。
「じゃあ、俺はこの辺でお暇させて貰うね」
「うん。また来てね〜」
手を振り見送ってくれる沙綾に、軽く手を振り返した和希は商店街を後にする。そして、新目白通りを横断し首都高速5号線の下を潜った後、新目白通りと目白通りのちょうど真ん中に位置する道を進んでいく。
暫くその道を直進したところで挟まった道へと入り込んで行く。そして和希が辿り着いたのは、江戸川公園の上部。滑り台に直結している通路であった。
「……いるかな?」
見下ろす形で公園を一望した和希は探していた人物と思しき人影を見つける。先週末同様にフード付きのパーカー姿でギターを奏でる少女を。
「……行ってみるか」
意を決した和希は階段を降り少女の元へと歩んでいく。そして目測5m程になった辺りで少女へと声をかける。
「あの……」
呼び掛けられた少女は、ギターの調を止め和希の方へと振り向く。そして、彼を認識するなり抱えていたギターを背負いその場を立ち去ろうとする。
「——待って!」
少女の行動を見た和希は、咄嗟に少女の手を掴んだ。それに驚きを隠せなかった少女は目を見開き和希を見つめる。その手前、和希は少女への問い掛けを続ける。
「その……少し……聞きたい事があるんだ……」
「ジブンに……ですか?」
力強く頷いた和希は、先程の問い掛けとは違い濁りない真っ直ぐとした瞳で少女を見据えた。
——眩い西陽の中を、一筋の流星が駆け抜けていった。