Over Your World 作:Satellite WE'RE
第一話
僕は宝生永夢。聖都大学付属病院のドクターとして、日々患者さんと向き合っている。僕が所属しているのは小児科で、たくさんの子供たちを診るのが仕事だ。
僕はゲームを通じて小児患者と交流することが多い。子供たちの中には長期的な闘病を強いられる子もいて、つらい思いをしてしまう子もいるから。
少しでも子供たちに笑顔になってもらいたいと思って、そんな向き合い方を大切にしている。
この前もゲーム好きの子が退院したとき、僕とのゲームが楽しかったと言ってくれた。それで、なんとその子の親御さんもゲーム好きだったのだ。
僕はついゲームについて語り合ってしまって、弓田さんに怒られてしまった。
最近、忙しくてゲーム出来てなかったから仕方ない。怒られちゃったけど、ゲームの話題はやはり楽しかった。しかも、今度新しく発売されるゲームについての情報も知ることが出来たのだ。
そのゲームの名前は『Over Your World』。VR技術では業界トップの実力を持つ、あの『マキナビジョン』が開発した新作ゲーム。世界でも数少ない、VRMMOの形式をとる新作だ。
その内容は和洋折衷のアドベンチャーゲーム。なんでも、形式は脱出ゲームっぽいらしい。
舞台は天守閣によく似たお城のようで、ツルのようなものが巻き付いて大樹にも見える不思議なビジュアルだ。外国の会社だけど、あのハリケーンニンジャを開発したところだ。きっと和モノの雰囲気とかいいんだろうなあ。
中には先行プレイしてる人もいるらしくて。ゲーマーはみんな羨ましがってるみたいだ。
まあ結構有名なのに仕事が忙しくて知らなかったんだけど。それに、僕の家にはVRMMOをプレイできる環境がない。でもプレイしたいなあ。誰かVRできる人いないかなあ。
それで僕の大切な人たちを思い浮かべてみたけど、全然力を借りられそうな人がいない。
まず、先輩の飛彩さん。言わずもがな、普段はゲームしない。
そもそも今は海外に渡っていて、凄い賞をもらうらしい。……凄い賞はすごい賞。僕もよくわからないぐらいにはすごいらしい。世界一のドクターにまた一歩近づいたのだといいな。
次に大我さん。最近ニコちゃんが共通の話題が欲しいと駄々をこねてゲームを激押ししてきたので、渋々ゲームを始めたらしい。
にしては割とハマってるし、シューティングゲームではハイスコアを叩き出してるようだ。今度対戦してみたいなあ。
でも流石にVR設備は整っていないだろう。ニコちゃんもアメリカに滞在中だ。
貴利矢さんは最近任された調査があるとか言って、全然連絡も取れてない。
監察医務院に復職しなかった貴利矢さんは、ますますミステリアスになってつかみどころのない人になっている。それでも、あの人が真摯に何かに取り組んでるんだから応援しておこう。
「ポッピーやパラドも無理だろうし……プレイしたかったなー」
「そりゃ俺は日銭は稼げないからn「ぅわーッ!」……そんな驚くなよ、永夢」
いきなり僕の身体にバグスターウイルスが侵入し、ほぼ同時に噴出。人型に形成されて、現れたのはパラドだ。
思わず驚いてすっ転んでしまった。
差し伸べてくれた腕をつかんで立ち上がる。
「びっくりしたあ……久しぶり。パラドはあの新作のこと知ってたんじゃない?教えてくれたらプレイに必要な準備を整えたのに」
僕達二人の心は繫がってる。僕の思考くらい察しているだろう。
僕はいままで考えていたことについて聞いてみた。
「大事の患者がいたんだろ。そこに業界激震のゲームの話なんて持ち込んだら、興奮して診療に手がつかなくなるかもしれないし。永夢の心にそれがチラつくとまずいと思ってな」
「なるほど、サンキューパラド。でもVR、やりたかったなー」
パラドが僕の気をつかってくれたのはわかったし、感謝しよう。でもこれでホントにお手上げだ。やっぱり世の中、都合のいい隠しルートはないものだ。
「……ふっふっふ。落胆するのはまだ早いぜ、永夢。俺達にはあるだろ、こんな時に頼りになるところが!」
「え?」
落ち込む僕を見たパラドが得意げに話す。この顔はワルいことを思いついてる時の顔だ。
一体どんな裏ワザがあるんだろう。少し考えて僕も思い至った。
「そうか! 幻夢VR!!」
「その通り。幻夢コーポレーションにはプレイできる環境が整っているハズだ。作に頼み込んでスペース貸してもらおうぜ」
僕達はワケあってゲーム会社の幻夢コーポレーションととても親密だ。もちろんそんな会社だからこそ、ゲームに最適な場所のハズ。普段は私利私欲で会ったりはしないんだけど…………今回はパラドの裏ワザにノっちゃおう。
早速、社長の作さんに連絡すると、快くスペース利用の許可をもらえた。
正直他社のゲームだし無理かと思ったんだけど、幻夢コーポレーションも注目してるらしいし、プレイした感想を参考にしたいからと逆にお願いされてしまった。
盗めるところは盗んでいこうの精神なんだろう。前々社長の黎斗さんが失踪した直後に残ったガシャットの設計データから新型を開発したぐらいだ。オマージュからのイノベーションが上手いのかもしれない。とにかく、ご好意に甘えることにした。
数日後、僕はついに『Over Your World』を店頭で予約。ネットではとっくに在庫がなくて、休日を一日使って予約できるお店を探し回ることになっちゃったけど。
パラドと手分けして探し、漸く漕ぎつけたのだ。
まだ見ぬゲームに心躍らせながらホクホク顔で帰宅している、そんなときだった。
突然、ゲームスコープからナースコールが鳴り響いた。
僕は近くにいるであろう、バグスターウイルスに感染した人を探し始める。まずいのは既存のゲーム病の反応じゃないことだ。
現在確認されているウイルスのワクチンはすでに完成していて、今やインフルエンザなどのように予防接種も可能になっている。だからそもそも発症する人も一握りになったのに、それも新型かもしれないなんて──!
焦燥感に駆られまいと冷静にしながら、患者を探す。
草むらを掻いたところで見つかった──もう発症してる!
コミュニケーションも取れない状態で、凄く苦しそうだ。速く対応しないと!
するとすぐに、別口で呼ばれたであろう救急車が到着した。
手短に救急隊員に患者の状態を説明。似た症状が出た人がいないか聞くと、どうやらもう一人、同じ種類であろうウイルスに感染した人が見つかったらしい。
その人は既に病院で対応されているハズ。今は目の前の患者に集中しないと。
「ゲーム病対応に明るいドクターがいて助かった。しかし、この症状は……」
「ええ。既存のモノとは違う。直接ウイルスを分離する必要があります。だから、僕に任せてください」
「……! じゃあ、あなたは!」
「ああ、
目を光らせ、啖呵を切り、ゲーマドライバーを腰に装着する。ポケットから非番時も緊急用として持っているマイティアクションXガシャットを取り出し、すかさずブレイングスターターを押し込んだ。
〈マイティアクションX!〉
ゲームエリアが展開、背後のホログラムモニタにマイティのタイトルロゴが投影、ゲームがスタートする。そしてドライバーの一つ目のスロットにガシャットを装填!
瞬間、周囲にライダーセレクト画面が出現。ルーレットの如く、回転し始めた。慣れた手つきでエグゼイドを選択し──
〈レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!? ……アイム ア カメンライダー!〉
ゆるっとボディのエグゼイドアクションゲーマーレベル1に変身だ!
久々のゲームで気合が入ってスイッチ押す前に
そう、俺はタダの小児科医じゃない。バグスターウイルスから人々を守る、CRにも所属する仮面ライダーだ。
ウイルスに感染してゲーム病を発症した患者の命を救い、運命を変える。ストレス増加で症状が重くなるから、ノーコンティニューでスピードクリアだぜ!
俺は患者にグローブ程に分厚い手をかざした。
「……ggギ、グルュァらあぁォオオオ!!」
レベル1は患者からウイルスを引き離す! 出てきたウイルスはユニオン体になって、けたたましい、声にならない奇声を発した。
まるでポッピーがパニくってるときみたいだな。とにかく、ここじゃ救急車に傷がついちまう。
俺はキメワザスロットホルダーのステージセレクトボタンを押した。これで安全な場所でゲームができるわけだが………せっかくだし、新しく実装された神社ステージを選択だ!
平和な雰囲気の神社にシフトする俺達。ウイルスは大腕を振り回しながら暴れ始めた。俺もマイティシリーズの醍醐味であるスーパーアクションで動き出す。
でっかいパンチをしゃがんで避けて、短足キックは股下を転がり抜く! 鮮やかすぎて紙一重に見える回避を繰り返し、隙を見つけて腰に手をかける。
雰囲気汲み取って静かになれよ、なんて冗談を吐きながらレバーを引いた。
〈レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!〉
鳴き声に負けじと大音量で発されるレベルアップ音声。等身大のレベル2完成だ!
ユニオンの大振りな攻撃は機動力自慢のレベル2には届かない! 上手く大腕をよけて、ガシャコンブレイカーブレードモードを取り出し、ウイルスの瞬間分解を狙う。これでフィニッシュだ!
「イイイイイイィイイイィイイィィィ…………」
「て、ホントにフィニッシュかよ!」〈ゲームクリア!〉
なんだ、全然手応えがないぞ! 普通のゲームでももっとプレイできるってのに。
そんな不完全燃焼な俺を差し置いてゲームクリアの音声が鳴り響いた。
どうやらマジで終わっちまったようだ。俺の性格が
「おつかれさまです、先生。患者の容態はすっかりよくなって……とはいかないようです」
「え、なんで? 確かにウイルスは切除して……まだ反応が残ってる!?」
スコープを覗くと微量だが、僅かに反応が残ってる。これは既存のバグスターウイルスには見られない、異常なものだ。
「本当に未知のウイルスだなんて…………先生」
「はい、至急CRまでお願いします。症状が出てない今なら患者さんをより精密に検査できます」
方針を決めてすぐに、隊員さんは患者さんを車に乗せた。僕はその間に患者さんの散乱した持ち物を回収しようとする。
草むらにカバンがひっくり返ってえらいことになっている。
「ってこれ、新作の!」
カバンからのぞくのは例のゲームのカセット。ということはこの人は数少ない『Over Your World』先行プレイヤーだ。
運営に直接選ばれた者がプレイする新作ゲーム。そんな人が発症した未知のゲーム病。
……二つの事象はなにか切っても切れないような気がして。言いようのない予感を覚えながら、僕も救急車に乗り込んだ。
感想、アドバイス等お待ちしております。