Over Your World   作:Satellite WE'RE

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第十話

 

 

「「超キョウリョクプレイでクリアしてやるぜ!」」

 

『はあ? ……増えたからってどうだって言うんだ。いけ、お前たち! 飲み込め、マグマ!』

 

「俺だって何もしてなかったわけじゃない。永夢、これでキメワザだ!」

 

 投げ込まれた三つのガシャット。それは、幻夢コーポレーションの秘蔵アイテム。エグゼイドはそれをなんとかキャッチ……出来なかった。

 

「サンキューパラド! ……持てない、させない、掴めない……」

 

「ああ、グローブで手塞がってるから……しゃーない、ほいっと」

 

『何おちゃらけて――〈〈キメワザ!〉〉!?』

 

〈ギャラクシアンクリティカルストライク!〉

 

〈ノックアウトクリティカルナックル!〉

 

 迫るマグマを顧みず飛び込んでくるエネミーをパラドクスが叩き落す。その衝撃でマグマの推進が弱まった。

 その隙に、エグゼイドのチャージは完了していた。

 拳から発射されるギャラクシュート。射線上のエネミーすべてが爆散していく。

 跡形もなく消え去った敵意。一方、発射されたエネルギーは止まらない。それは鐡の実態を伴って、船長の元に舞い戻る。

 往年のシューティングゲーム『ギャラクシアン』に登場するギャラクシップが投影された。

 

 マキシマムゲーマを踏み台に、二人が跳躍する。

 エグゼイドとパラドクスを乗せて地獄から飛びのくため、戦艦は上昇し始めた。

 

『ギャ、ギャラクシアン!? そん、なふざけたの、著作権侵害だろ!』

 

「全然問題ねえよ! 会社同じだからな!」

 

 天井を突き破り、一直線に上へと進み続ける。しばらくして、二人は比較的広い空間に浮上した。

 使い捨てられた建築データやオブジェクトが放棄され漂う、ダストシュートとされている空間。

 長居すれば自分たちまで捨てられたゴミだと勘違いされて処理される。〈挑発〉でマッピングされた道をたどるため、消え行くギャラクシップを乗り捨て、全速力で駆けだした。

 

『ぐっ……行かせるか!』

 

 この屠殺場から出すわけにはいかない。

 ボスは横から鉄壁を激突させんとシステムをフル稼働させる。

 同時に上からバグスターユニオンに酷似した大型エネミーを何体も降り落としていった。

 

 迫り来る障害を前に、一度目配せたエグゼイドとパラドクスが散開する。

 押し寄せる壁を蹴り、弧を描くような軌道で上昇し、あっという間にエネミーと相対した。

 

〈ノックアウトクリティカルキック!〉

 

 目前のエネミーの拳を、エグゼイドが空中で身を捩じり回避する。その勢いのまま、回転を止めず、エネミーに突撃。回し蹴りがユニオン体の土手っ腹を吹き飛ばす。

 エネミーは弾丸のごとく鉄壁に激突、迫りくる圧殺装置の勢いが減衰する。すかさずパラドクスがピクセル化して消えゆくユニオン体を足場に跳躍した。

 その頭上には〈挑発〉の道標が示す次のステージ。ダストシュートを後にすることに成功したのだ。

 

『そんなバカな!』

 

 一方エリアボスは挑戦者の軽業師のような身のこなしと迷いなき足取りに驚愕し、焦燥を募らせていた。

 自分のいる場が全システムの管理領域。膨大なトラップを制御している以上、どれだけ様相を改変しても、場所だけは変えられないことを見抜かれていると確信したからだ。

 悪態をつきながらもボスは次の用意を完了させていた。冷静に努めようと、無心で次の絡繰りを起動させる。

 

 パラドクスは着地した直後、真横から殺気を感じ取った。無数の眼の気配。即座に身を翻し、その視線上から自身の勘を信じ、飛び退く。

 次の瞬間、先ほどまで留まっていたスペースをはじめとした空間に、吹雪のごとく光線が降り注いだ。

 

 ――回避だけでは直撃する。

 危機を察知したパラドクスは大振りに拳を振りかざし、即座に割る勢いで地を叩き込んだ。

 その衝撃に耐えきれず削り取られる大地。岩礁が、混凝土が、パラドクスの四方を守るように舞い上がる。さらに、そのすべてが咲いた大輪のように燃え上がった。

 完成した炎のベールはパラドクスの護身を完璧に果たし、光線の吹雪が彼を削ぐことは終ぞなかった。

 

『くそくそくそくそッ! だったら、もう跡形もなく消えろォッ!」

 

 エリアボスが選択したのは自分が組み上げた成果を無に帰すオブジェクトの倒壊。

 骨組みを外されたかのように、パラドクスの天井が崩落していく。一撃で終わらせるため、その圧殺装置は結合し、最大まで質量をため込んでいった。

 その様子は、まるで隕石───もしくはベースボールのように。

 

〈巨大化!〉〈巨大化!〉〈キメワザ! ファミスタクリティカルストライク!〉

 

 世界崩壊の隕鉄を、一打席の道具にするためにパラドクスがその身を巨大に変容させる。

 そのウエイトに耐えきれず、足場すらも塵芥と化していくが関係ない。寧ろ溜めの時間に余裕を持てる。

 大きく振りかぶったパラドクス。その拳の根本から炎柱が噴き出している。バッターボックスに立つ者としては、これ以上なく様になっていた。

 

「うおおおおぉおおおッ──!!」

 

 応酬は一瞬のことだった。

 

 ……通常の打席とは違い、隕石は重力に従って迫って来た。だが、その軌道は今や遥か上空、真逆のベクトルに切り替わっている。

 やがて、そのホームランボールは空中で爆発四散した。

 栄光を身に受けた頃、パラドクスの身体は元のサイズに戻る。

 

「どうだ? 少しは童心が熱くなったか?」

 

『あ、ああ、ぁ……もううんざりだ。物量で体力を削り取る!』

 

「というか、やっぱりダンジョンは得意じゃないんだろ。せっかくシステムを張り巡らせたのに、お前は直接潰すことしか考えてない。だから俺一人しか捕捉してないんだ。──お前がホントにやりたいゲームは、サシの真剣勝負だろ」

 

『何を偉そうに!』

 

「もう一人、忘れてないかって言ってんだよ!」

 

 いや、わかっていた。そのはずだ。ミスじゃない。

 エネミーをパラドクスに向かわせながら、何か致命的な見落としをした可能性を脳裏から消し、エリアボスは思考を再開させた。

 確かにパラドクスの言う通り、タゲ集中に拘り一人狙いになっているのは事実だ。

 だが、だからといって今まで使い回した()()()()エネミーや、今も倒壊しつつあるパラドクスの立つ大地によって、下の層に取り残されたエグゼイドは既に息絶えたはずなのだ。

 そう、ボスは見て見ぬふりをしてしまった。

 

 ──その慢心こそがゲーマー最大の弱点だというのに。

 

〈〈キメワザ!〉〉

 

 先ほどから何度も己の領域を荒らし続けた、耳障りな音声が耳をつんざく。

 嫌悪の念を隠しきれずにモニターでパラドクスをチェックする。

 だが、エネミーを避け続ける中で、その動作を行った様子はなかった。

 

『そんな、まさか!』

 

 号音の発生源はパラドクスの遥か底。徐々に、ため込まれるエネルギーの交響が大きくなっていく。そして、何かが地を覗いた。

 

 大地を突き破って現れたのは巨大な球体。その黄色球はよく見ると可愛らしい顔がついているではないか。

 ──パックマンの敵は、ゴースト。

 エネミーがゴースト体だからといって、無茶苦茶な解釈でエサにされ、成長したというのか。

 意味不明な機転に頭が追い付かないエリアボス。そして数拍後、その表情は怯懦に染まっていた。

 

〈パッククリティカルストライク!〉

〈ノックアウト! クウゥゥゥウゥリィィィィィィティィィィカァァァァァアゥルゥ――――――波ァァァァァアァァァァァアアアア!!!!!!!〉

 

 ──その巨顔の大きく開いた口から、重厚膨大な気光線が発せられたからだ。

 圧巻のサイズの大口から放出されるそれは、もはや光の大噴火。

 残るすべてのエネミーと、パラドクスの立つステージ全域を消し飛ばした。

 

〈K.O.!〉

 

 必殺の残身を終え、投影されたパックマンがにこやかに消えていく。その中から、エグゼイドとサルベージされたパラドクスが辛うじて足場に出来る残骸に降り立った。

 彼らの数キロ先に、愕然とするエリアボスがいる。

 アーティファクトのほとんどが必殺の奔流で吹き飛び、もはや迷宮は崩壊寸前だった。それでも、最下の、この世界の基盤だけは決して消えない。

 ゴッドスピードが構築した更地が残っている以上、いつでもダンジョンは作り直せる。

 

 ボスはすぐさま隔壁を構築し、ライダーシステムの防御を突き破る希望を込め、バフを搭載したエネミーを投入する。

 

「! なんだこいつ! 触手!?」

 

「俺の中に戻れ! パラド!」

 

 触れるだけで死を招く、即死のエネミー。その姿は幽鬼の如く、不規則に揺らめき、動きを見極められない。

 その背から飛び出すのは大量の色を失った触手。危機を感じたエグゼイドがパラドクスを再び避難させる。

 雁字搦めにせんと駆け巡ってくる緯糸を前に、エグゼイドは託された最後の切り札を切る。

 

〈ゼビウスクリティカルストライク!〉

 

 死の平行線を迎え打つべく、エグゼイドはその拳から光線の如き衝撃波を無数に打ち込む。背後には燃え上がる闘志の如く、ソルバラウの影が投影されていた。

 しかし、その連撃は際限無き繊維には届かない。

 拮抗していたエグゼイドの死角から経糸が飛び出した。

 その一直線は寸分の狂いも無く、目標を滑らかに貫穿──出来なかった。

 

『い、いない!? 何で! 消滅したのか!? これで、勝ったのか──?』

 

 忽然と挑戦者の反応が途絶えた。

 ボスは訪れた静謐を前に、心の震えが収まっていくのを感じる。逆にその神経は研ぎ澄まされていった。

 だから、気付いた。

 捕らえていたはずのエサが影一つなく消え去っていたことに。

 

「──は?」

 

 理解が、追い付かない。

 有り得ない状況を脳が受け入れない。

 システムを放棄し、椅子にへたり込んでしまう。管理領域に気配が増えていた。

 

 ついに最後の優位性を失ったボスを尻目に、ガッツポーズを決める二人組がいる。

 

「遅くなって悪かったな、アドル。大丈夫か」

 

「はい、はい! 大丈夫です。信じてましたから」

 

「色々伝えたいことはあるんだが、今は一刻を争う。お前たちはすぐにゴッドスピードの下に迎え」

 

「パラド、それって……」

 

「ああ、そこでこっちをにらみつけてくるボスは、俺が引き受ける」

 

 方針を決定し、エグゼイドとアドルがエリアを離れていく。もはやボスはその後ろ姿を茫然と見ているしかなかった。

 しかし、このまま終わりにはさせない。

 何故かここに居座る、バグスターウイルスに聞くことが山ほどある。

 

「何故だ……何故あんな曲芸を思い付く!」

 

「最後に永夢が発動したゼビウスの力は何も散弾だけじゃない。──テレポートを利用した、緊急脱出装置が作動したからだ」

 

 パラドが明かした攻略法はボスの心を強く打つものだった。

 シューティングゲーム『ゼビウス』。そのガシャットに内蔵された力の一端、超意識体ガンプ。その技術力により、必殺技発動中に死の危険が迫るという類稀な機会において、緊急テレポートが作動したのだ。

 着地点はアドルの真後ろ。

 即死攻撃がいつか飛んでくることを読み、逆手にとるのが彼らの作戦だった。

 

「でも、お前は何が起こったのか、後からだけど、察してるみたいじゃないか。レジェンドゲームを見たあんたの目は……輝いてた。純粋に、ゲームが好きなヤツの目だ。しかも、本当にやりたいのは真剣勝負。自分に嘘をついてまで、何でそこまでダンジョンマスターなんかにこだわった」

 

 パラドは永夢の中に避難した際、挑戦前立てたボスの考察を把握した。

 その永夢が予想したものの中に、ボスが元々バトルロワイヤルやストテラジーのゲームマニアである、というものがあった。

 ただ人をいたぶることに悦を感じるのではなく、純粋に対人戦で勝利したいという思い。

 それが肥大化し、ゲームを自在に操れる力を手に入れて、歯止めが利かなくなったのではないかというものだ。

 

「……自分でもよくわかんないことを、お前は知ったように言うんだな。その口ぶりだと、僕が閉ざしていた空虚で恥ずかしい願望を察したらしい」

 

「随分素直になるじゃないか……で、お前は今、何をしたいんだ」

 

「……ただ、勝ちたかった。それが昔抱いてた殊勝な思いだったはずだ。でも全然勝てなくて、大会とかでも何度か結果は出て、それで必死に足掻いてたのに、気付けばプロになれる年齢じゃなくなってた」

 

 プロゲーマーの適正年齢は、数多の競技の中で最短の部類に入る。

 二十代後半に差し掛かった彼には、その機会が永久に失われたのだ。

 

「それで、仕事のストレスに飲まれて、嫌になったから、ここにたどり着いたってことか。……人々を巻き込んだことに同情は出来ない。でも、俺はお前みたいなやつを大勢見てきた」

 

 パラドはボスのような手合いを、永夢に寄生してゲーム大会に出ていた時に何人も見た。昔はその心の機微まではわからなかったが、今なら、少しだけは。

 

「頼む、はっきり言ってくれ。それで、終わりだ」

 

「……どうしようもないけど、何も出来ないわけじゃなかった。その熱量だけは他の実力者にも負けずとも劣らない。だからこそ、引き摺って、ここまで来てしまった」

 

「――、―――ははっ、さすがだ。やっぱりお前が天才ゲーマーだったんだな。何でもお見通しなわけだ。―――やっぱり、気に入らない。最後に、お前だけは倒してみせる」

 

「お前はどこかで、踏ん切りつけることが出来たはずの人間だ。だからこそ、俺の言い草も受け止められたんだ。何でお前が今こうなってるか、よくわかったよ」

 

「うおおおおぉぉぉ!」

 

 慣れ親しんだ銃器を武装して、最後の一騎打ちに挑むエリアボス。

 その威勢に応えるため、パラドは作に頼み込み、セキュリティを一部突破したギアデュアルを取り出す。

 

〈パーフェクトパズル〉

 

「変身」

 

〈デュアルアップ! Get the glory in the chain. PERFECT PUZZLE!〉

 

 パズルゲーマーレベル50。

 乱射しながら突っ込むボスの体力は曲がりなりにも膨大。

 ――一撃で片を付ける。

 

〈透明化!〉

 

 パズルゲーマーはエリアのアイテムを自在に操る。

 ボスの突撃は回避され、パラドクスの姿は掻き消える。だが、ボスは既にゾーンに入っていた。

 締まりのない体制だが、気配だけでパラドクスを狙い撃ち続ける。しかし、天才ゲーマーに何度も同じ手は通じない。

 

〈キメワザ!〉〈変身!〉〈幸運!〉

 

〈パーフェクトクリティカルコンボ!〉

 

 必殺発動と同時に、パラドクスがボスの背後に現れる。

 すかさずショットガンを向けるボスだが、その()()()した腕で弾き飛ばされる。

 

 〈変身〉で再現したのは、かつて彼が辛酸を舐めさせられたビルド・ゴリラモンドの右腕部、サドンデストロイヤー。その性能は完璧に再現されている。

 パラドクスは力任せに腕を打ち込んだ。

 

「ガァァアアアア……! …………、……これで、やっと……」

 

 ゴリラの鉄腕に込められた機能は、低確率の即死機能。

 仮面ライダービルドが使用した際は、その腕で砕かれたダイヤの雨を効果が出るまで喰らわされた。

 敗北から学んだパラドクスは、〈幸運〉によってその当たりを手繰り寄せたのだ。

 

「お前は周りを見れば良かったんだ。お前一人じゃないってことを実感し、証明することが出来たら、その心をずっと一人で抱え込むことはなかった。でも、それはまだ間に合うんだ」

 

「……そうか、あんたがそういうなら、そうだ、と良いな……」

 

 決着は付き、粒子となったボスが運営に回収される。

 パラドはそれを見届けると、粒子となって永夢を追いかけることにした。スナイプらがいるであろう、ファーストステージについては適者に任せる。

 

「永夢。お前はゲームに集中してくれ。今は、俺たちにとっては、もっと怖いものがある」

 

 多くのプレイヤーが跋扈している始まりの場所。

 そこで巻き起こっている混乱を思い浮かべ、表情を歪ませながらも、人類を守るためにパラドは駆け続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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